(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に積層され、親水性化合物およびキャリアを含有する促進輸送膜とを備える促進輸送型分離膜の前記促進輸送膜に存在する欠陥を検出する欠陥検出工程と、
検出した前記欠陥部分を加湿した後に、検出した前記欠陥部分に、前記促進輸送膜の材料と同じ材料を含む欠陥補修用塗布液を滴下する塗布液滴下工程と、
滴下した前記欠陥補修用塗布液を乾燥して欠陥を修復する乾燥工程と、を有する促進輸送型分離膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の促進輸送型分離膜の製造方法は、促進輸送膜に存在する欠陥を検出する欠陥検出工程と、検出した欠陥部分に、促進輸送膜の材料と同じ材料を含む欠陥補修用塗布液を滴下する塗布液滴下工程と、滴下した欠陥補修用塗布液を乾燥して欠陥を修復する乾燥工程とを有することを特徴とする。
本発明は、このような構成により、欠陥の無い適正な促進輸送膜を、高い生産性で安定して製造できる。
以下、本発明の促進輸送型分離膜の製造方法および促進輸送型分離膜について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0019】
[促進輸送型分離膜の製造方法]
図1に、本発明の促進輸送型分離膜の製造方法の一例を示すフローチャートを示し、
図2に、促進輸送型分離膜の一例を概念的に表す断面図を示す。
図1に示すように、本発明の製造方法は、欠陥検出工程S100と、塗布液滴下工程S102と、乾燥工程S104とを有する。本発明の製造方法は、多孔質支持体20上に促進輸送膜22を形成した状態の補修前促進輸送型分離膜32aに対して、欠陥検査工程S100において、促進輸送膜22の欠陥検出を行い、塗布液滴下工程S102において、検出した欠陥部分に欠陥補修用塗布液(以下、「補修液」ともいう)を滴下し、乾燥工程S104において、滴下した補修液を乾燥させて、欠陥を補修した補修後促進輸送型分離膜32bを作製する。
以下、まず、補修前促進輸送型分離膜32aについて説明を行い、その後、本発明の製造方法について説明を行う。
【0020】
〔補修前促進輸送型分離膜〕
図2に示すように、補修前促進輸送型分離膜(以下、「補修前分離膜」ともいう)32aは、多孔質支持体20上に促進輸送膜22が積層されたものである。
本発明の製造方法に供される補修前分離膜32aは、いわゆるロール・トゥ・ロール(以下、「RtoR」ともいう)で支持体上20に促進輸送膜22を形成されたものであってもよいし、枚葉式(シート状)で形成されたものであってもよい。
また、補修前分離膜32aは、支持体上20に促進輸送膜22を塗工して乾燥した直後のものであってもよいし、塗布乾燥後の分離膜をロール状に巻きとった後に、モジュール化のためにロールから巻き出したものであってもよいし、さらに、巻き出した後にモジュール化に適した大きさに切断された後のものであってもよい。
【0021】
<多孔質支持体>
多孔質支持体20(以下、「支持体20」とも言う)は、炭酸ガス等の酸性ガスの透過性を有し、かつ、促進輸送膜22を形成するための塗布組成物の塗布が可能(塗膜の支持が可能)であり、さらに、形成された促進輸送膜22を支持するものである。
支持体20の形成材料は、この機能を発現できる物であれば、公知の各種の物が利用可能である。
【0022】
ここで、本発明において、支持体20は、単層であってもよいが、多孔質膜と補助支持膜とからなる2層構成であるのが好ましい。このような2層構成を有することにより、支持体20は、上記の酸性ガス透過性、促進輸送膜22となる塗布組成物の塗布および促進輸送膜22の支持という機能を、より確実に発現する。
なお、支持体20が単層である場合には、形成材料としては、以下に多孔質膜および補助支持膜で例示する各種の材料が利用可能である。
【0023】
2層構成の支持体20では、多孔質膜が促進輸送膜22側となる。
多孔質膜は、耐熱性を有し、また加水分解性の少ない材料からなることが好ましい。このような多孔質膜としては、具体的には、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレンおよびセルロースなどのメンブレンフィルター膜、ポリアミドやポリイミドの界面重合薄膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や高分子量ポリエチレンの延伸多孔膜等が例示される。
中でも、PTFEや高分子量ポリエチレンの延伸多孔膜は、高い空隙率を有し、酸性ガス(特に炭酸ガス)の拡散阻害が小さく、さらに、強度、製造適性などの観点から好ましい。その中でも、耐熱性を有し、また加水分解性の少ない等の点で、PTFEの延伸多孔膜が、好適に利用される。
【0024】
多孔質膜は、使用環境下において、水分を含有した促進輸送膜22が多孔部分に浸み込み易くなり、かつ、膜厚分布や経時での性能劣化を引き起こさないために、疎水性であるのが好ましい。この点に関しては、支持体が一層構成である場合も同様である。
また、多孔質膜は、孔の最大孔径が1μm以下であるのが好ましい。
さらに、多孔質膜の孔の平均孔径は、0.001〜10μmが好ましく、0.002〜5μmがより好ましく、0.005〜1μmが特に好ましい。多孔質膜の平均孔径をこの範囲とすることにより、後述する接着剤の塗布領域は接着剤を十分に染み込ませ、かつ、多孔質膜が酸性ガスの通過の妨げとなることを好適に防止できる。
【0025】
補助支持膜は、多孔質膜の補強用に備えられるものである。
補助支持膜は、要求される強度、耐延伸性および気体透過性を満たすものであれば、各種の物が利用可能である。例えば、不織布、織布、ネット、および、平均孔径が0.001〜10μmのメッシュなどを、適宜、選択して用いることができる。
【0026】
補助支持膜も、前述の多孔質膜と同様、耐熱性を有し、また加水分解性の少ない素材からなることが好ましい。
この点を考慮すると、不織布、織布、編布を構成する繊維としては、耐久性や耐熱性に優れる、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、アラミド(商品名)などの改質ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素含有樹脂などからなる繊維が好ましい。メッシュを構成する樹脂材料も同様の素材を用いるのが好ましい。これらの材料のうち、安価で力学的強度の強いPPからなる不織布は、特に好適に例示される。
支持体20が補助支持膜を有することにより、力学的強度を向上させることができる。
【0027】
支持体20は、薄すぎると強度に難がある。この点を考慮すると、多孔質膜の膜厚は5〜100μm、補助支持膜の膜厚は50〜300μmが好ましい。
また、支持体20を単層にする場合には、支持体20の厚さは、30〜500μmが好ましい。
【0028】
<促進輸送膜>
促進輸送膜22は、酸性ガスと反応するキャリア、キャリアを担持する親水性ポリマー等の親水性化合物および水等を含有し、原料ガスから酸性ガスを選択的に透過させる機能を有しているものである。
促進輸送型の分離モジュールは、高温かつ高湿での使用が必要条件である。従って、促進輸送膜22は、高温下(例えば、100〜200℃)でも、酸性ガスを選択的に透過させる機能を有する。また、原料ガスが水蒸気を含んでも、水蒸気を親水性化合物が吸湿して促進輸送膜22が水分を保持することで、さらにキャリアが酸性ガスを輸送し易くなるので、溶解拡散膜を用いる場合に比べて分離効率が高まる。
【0029】
促進輸送膜22の厚さは、組み込む分離モジュールの大きさや分離モジュールに要求される処理能力等に応じて、適宜、設定すればよい。具体的には、1〜200μmが好ましく、2〜175μmがより好ましい。
促進輸送膜22の厚さを、上記範囲にすることにより、十分なガス透過性と分離選択性とを実現できる。
【0030】
(親水性化合物)
親水性化合物はバインダとして機能するものであり、促進輸送膜22において、水分を保持して、キャリアによる二酸化炭素等のガスの分離機能を発揮させる。また、親水性化合物は、耐熱性の観点から、架橋構造を有するのが好ましい。
このような親水性化合物としては、親水性ポリマーが例示される。
【0031】
親水性化合物は、水に溶けて塗布液を形成できると共に、促進輸送膜22が高い親水性(保湿性)を有するのが好ましいという観点から、親水性が高いものが好ましい。
具体的には、親水性化合物は、生理食塩液の吸水量が0.5g/g以上の親水性を有することが好ましく、同1g/g以上の親水性を有することがより好ましく、同5g/g以上の親水性を有することがさらに好ましく、同10g/g以上の親水性を有することが特に好ましく、さらには、同20g/g以上の親水性を有することが最も好ましい。
【0032】
親水性化合物の重量平均分子量は、安定な膜を形成し得る範囲で、適宜、選択すればよい。具体的には、20,000〜2,000,000が好ましく、25,000〜2,000,000がより好ましく、30,000〜2,000,000が特に好ましい。
親水性化合物の重量平均分子量を20,000以上とすることで、安定して十分な膜強度を有する促進輸送膜22を得ることができる。
特に、親水性化合物が架橋可能基として−OHを有する場合には、親水性化合物は、重量平均分子量が30,000以上であるのが好ましい。この際には、重量平均分子量は更に好ましくは40,000以上であり、より好ましくは、50,000以上である。また、親水性化合物が架橋可能基として−OHを有する場合には、製造適性の観点から、重量平均分子量は、6,000,000以下であることが好ましい。
また、架橋可能基として−NH
2を有する場合には、親水性化合物は、重量平均分子量が10,000以上であるものが好ましい。この際には、親水性化合物の重量平均分子量は、15,000以上であるのがより好ましく、20,000以上であるのが特に好ましい。また、親水性化合物が、架橋可能基として−NH
2を有する場合には、製造適性の観点から、重量平均分子量は、1,000,000以下であるのが好ましい。
なお、親水性化合物の重量平均分子量は、例えば、親水性化合物としてPVAを用いる場合には、JIS K 6726に準じて測定した値を用いればよい。また、市販品を用いる場合には、カタログ、仕様書などで公称される分子量を用いればよい。
【0033】
親水性化合物を形成する架橋可能基としては、耐加水分解性の架橋構造を形成し得るものが、好ましく選択される。
具体的には、ヒドロキシ基(−OH)、アミノ基(−NH
2)、塩素原子(−Cl)、シアノ基(−CN)、カルボキシ基(−COOH)、および、エポキシ基等が例示される。これらの中でも、アミノ基およびヒドロキシ基が好ましく例示される。さらに、最も好ましくは、キャリアとの親和性およびキャリア担持効果の観点から、ヒドロキシ基が例示される。
【0034】
親水性化合物としては、具体的には、単一の架橋可能基を有するものとしては、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリオルニチン、ポリリジン、ポリエチレンオキサイド、水溶性セルロース、デンプン、アルギン酸、キチン、ポリスルホン酸、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ−N−ビニルアセトアミドなどが例示される。最も好ましくはポリビニルアルコールである。また、親水性化合物としては、これらの共重合体も例示される。
【0035】
また、複数の架橋可能基を有する親水性化合物としては、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体が例示される。ポリビニルアルコール−ポリアクリル塩共重合体は、吸水能が高い上に、高吸水時においてもハイドロゲルの強度が大きいため好ましい。
ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体におけるポリアクリル酸の含有率は、例えば1〜95モル%、好ましくは2〜70モル%、より好ましくは3〜60モル%、特に好ましくは5〜50モル%である。
なお、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体において、ポリアクリル酸は、塩であってもよい。この際におけるポリアクリル酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩の他、アンモニウム塩や有機アンモニウム塩等が例示される。
【0036】
ポリビニルアルコールは市販品としても入手可能である。具体的には、PVA117(クラレ社製)、ポバール(クラレ製)、ポリビニルアルコール(アルドリッチ社製)、J−ポバール(日本酢ビ・ポバール社製)等が例示される。分子量のグレードは種々存在するが、重量平均分子量が130,000〜300,000のものが好ましい。
ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体(ナトリウム塩)も、市販品として入手可能である。例えば、クラストマーAP20(クラレ社製)が例示される。
なお、親水性化合物は、2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
促進輸送膜22における親水性化合物の含有量は、促進輸送膜22を形成するためのバインダとして機能し、かつ、水分を十分に保持できる量を、親水性組成物やキャリアの種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
具体的には、0.5〜50質量%が好ましく、0.75〜30質量%がより好ましく、1〜15質量%が特に好ましい。親水性化合物の含有量を、この範囲とすることにより、上述のバインダとしての機能および水分保持機能を、安定して、好適に発現できる。
【0038】
親水性化合物における架橋構造は、熱架橋、紫外線架橋、電子線架橋、放射線架橋、光架橋等、従来公知の手法により形成できる。
好ましくは光架橋もしくは熱架橋であり、最も好ましくは熱架橋である。
【0039】
架橋剤としては、親水性化合物と反応し、熱架橋や光架橋等の架橋をし得る官能基を2以上有する架橋剤を含むものが選択される。また、形成された架橋構造は、耐加水分解性の架橋構造となるのが好ましい。
このような観点から、促進輸送膜22の形成に利用される架橋剤としては、エポキシ架橋剤、多価グリシジルエーテル、多価アルコール、多価イソシアネート、多価アジリジン、ハロエポキシ化合物、多価アルデヒド、多価アミン、有機金属系架橋剤などが好適に例示される。より好ましくは多価アルデヒド、有機金属系架橋剤およびエポキシ架橋剤であり、中でも、アルデヒド基を2以上有するグルタルアルデヒドやホルムアルデヒドなどの多価アルデヒドが好ましい。
【0040】
エポキシ架橋剤としては、エポキシ基を2以上有する化合物であり、4以上有する化合物も好ましい。エポキシ架橋剤は市販品としても入手可能であり、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(共栄社化学株式会社製、エポライト100MF等)、ナガセケムテックス社製EX−411、EX−313、EX−614B、EX−810、EX−811、EX−821、EX−830、日油株式会社製エピオールE400などが例示される。
また、エポキシ架橋剤に類似する化合物として、環状エーテルを有するオキセタン化合物も、また、好ましく使用される。オキセタン化合物としては、官能基を2以上有する多価グリシジルエーテルが好ましく、市販品としては、例えばナガセケムテックス社製EX−411、EX−313、EX−614B、EX−810、EX−811、EX−821、EX−830、などが例示される。
【0041】
多価グリシジルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が例示される。
【0042】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリオキシプロピル、オキシエチエンオキシプロピレンブロック共重合体、ペンタエリスリトール、ソビトール等が例示される。
【0043】
多価イソシアネートとしては、例えば、2,4−トルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が例示される。
多価アジリジンとしては、例えば、2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アシリジニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサメチレンジエチレンウレア、ジフェニルメタン−ビス−4,4’−N,N’−ジエチレンウレア等が例示される。
【0044】
ハロエポキシ化合物としては、例えば、エピクロルヒドリン、α−メチルクロルヒドリン等が例示される。
多価アルデヒドとしては、例えば、グルタルアルデヒド、グリオキサール等が例示される。
多価アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミン等が例示される。
さらに、有機金属系架橋剤としては、例えば、有機チタン架橋剤、有機ジルコニア架橋剤等が例示される。
【0045】
例えば、親水性化合物として、重量平均分子量が130,000以上のポリビニルアルコールを用いる場合には、この親水性化合物と反応性が良好で、加水分解耐性も優れている架橋構造が形成可能である点から,エポキシ架橋剤やグルタルアルデヒドが好ましく利用される。
また、親水性化合物として、ポリビニールアルコール−ポリアクリル酸共重合体を用いる場合は、エポキシ架橋剤やグルタルアルデヒドが好ましく利用される。
また、親水性化合物として、重量平均分子量が10,000以上のポリアリルアミンを用いる場合には、この親水性化合物と反応性が良好で、加水分解耐性も優れている架橋構造が形成可能である点から、エポキシ架橋剤、グルタルアルデヒド、および、有機金属架橋剤が好ましく利用される。
さらに、親水性化合物として、ポリエチレンイミンやポリアリルアミンを用いる場合には、エポキシ架橋剤が好ましく利用される。
【0046】
架橋剤の量は、促進輸送膜22の形成に使用する親水性化合物や架橋剤の種類に応じて、適宜、設定すればよい。
具体的には、親水性化合物が有する架橋可能基量100質量部に対して0.001〜80質量部が好ましく、0.01〜60質量部がより好ましく、0.1〜50質量部が特に好ましい。架橋剤の含有量を上記範囲とすることにより、架橋構造の形成性が良好であり、かつ、形状維持性に優れる促進輸送膜を得ることができる。
また、親水性化合物が有する架橋可能基に着目すれば、架橋構造は、親水性化合物が有する架橋可能基100molに対し、架橋剤0.001〜80molを反応させて形成されたものであるのが好ましい。
【0047】
(キャリア)
キャリアは、酸性ガス(例えば、炭酸ガス)と親和性を有し、かつ、塩基性を示す各種の水溶性の化合物である。具体的には、アルカリ金属化合物、窒素含有化合物および硫黄酸化物等が例示される。
なお、キャリアは、間接的に酸性ガスと反応するものでも、キャリア自体が、直接、酸性ガスと反応するものでもよい。
前者は、供給ガス中に含まれる他のガスと反応し、塩基性を示し、その塩基性化合物と酸性ガスが反応するものなどが例示される。より具体的には、スチーム(水分)と反応してOH
-を放出し、そのOH
-がCO
2と反応することで、促進輸送膜22中に選択的にCO
2を取り込むことができる化合物であり、例えば、アルカリ金属化合物である。
後者は、キャリア自体が塩基性であるようなもので、例えば、窒素含有化合物や硫黄酸化物である。
【0048】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、および、アルカリ金属水酸化物等が例示される。ここで、アルカリ金属としては、セシウム、ルビジウム、カリウム、リチウム、および、ナトリウムから選ばれたアルカリ金属元素が好ましく用いられる。なお、本発明において、アルカリ金属化合物とは、アルカリ金属そのもののほか、その塩およびそのイオンも含む。
【0049】
アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、および、炭酸セシウム等が例示される。
アルカリ金属重炭酸塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、および、炭酸水素セシウム等が例示される。
さらに、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、および、水酸化セシウム等が例示される。
これらの中でも、アルカリ金属炭酸塩が好ましく、また、酸性ガスとの親和性が良いという観点から、水に対する溶解度の高いカリウム、ルビジウム、および、セシウムを含む化合物が好ましい。
【0050】
また、キャリアとしてアルカリ金属化合物を用いる際には、2種以上のキャリアを併用してもよい。
促進輸送膜22中に2種以上のキャリアが存在することにより、膜中で異なるキャリアを距離的に離間させることができる。これにより、複数のキャリアの潮解性の違いによって、促進輸送膜22の吸湿性に起因して、製造時等に促進輸送膜22同士や、促進輸送膜22と他の部材とが貼着すること(ブロッキング)を、好適に抑制できる。
また、ブロッキングの抑制効果を、より好適に得られる等の点で、2種以上のアルカリ金属化合物をキャリアとして用いる場合には、潮解性を有する第1化合物と、第1化合物よりも潮解性が低く比重が小さい第2化合物を含むのが好ましい。一例として、第1化合物としては炭酸セシウムが、第2化合物としては炭酸カリウムが、例示される。
【0051】
窒素含有化合物としては、グリシン、アラニン、セリン、プロリン、ヒスチジン、タウリン、ジアミノプロピオン酸などのアミノ酸類、ピリジン、ヒスチジン、ピペラジン、イミダゾール、トリアジンなどのヘテロ化合物類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンなどのアルカノールアミン類、クリプタンド[2.1]、クリプタンド[2.2]などの環状ポリエーテルアミン類、クリプタンド[2.2.1]、クリプタンド[2.2.2]などの双環式ポリエーテルアミン類,ポルフィリン、フタロシアニン、エチレンジアミン四酢酸等が例示される。
さらに、硫黄化合物としては、シスチン、システインなどのアミノ酸類、ポリチオフェン、ドデシルチオール等が例示される。
【0052】
促進輸送膜22におけるキャリアの含有量は、キャリアや親水性化合物の種類等に応じて、適宜、設定すればよい。具体的には、0.3〜30質量%が好ましく、0.5〜25質量%がより好ましく、1〜20質量%が特に好ましい。
促進輸送膜22におけるキャリアの含有量を、上記範囲とすることにより、促進輸送膜22を形成するための組成物(塗料)において、塗布前の塩析を好適に防ぐことができ、さらに、促進輸送膜22が、酸性ガスの分離機能を確実に発揮できる。
【0053】
促進輸送膜22(促進輸送膜22を形成するための組成物)は、このような親水性化合物、架橋剤およびキャリアに加え、必要に応じて、各種の成分を含有してもよい。
【0054】
このような成分としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等の酸化防止剤、炭素数3〜20のアルキル基または炭素数3〜20のフッ化アルキル基と親水性基とを有する化合物やシロキサン構造を有する化合物等の特定化合物、オクタン酸ナトリウムや1−ヘキサスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤、ポリオレフィン粒子やポリメタクリル酸メチル粒子等のポリマー粒子等が例示される。
その他、必要に応じて、触媒、保湿(吸湿)剤、補助溶剤、膜強度調整剤、欠陥検出剤等を用いてもよい。
【0055】
<補修前分離膜の作製>
このような補修前分離膜32aは、促進輸送膜22となる成分を含む液体状の塗布組成物(塗料/塗布液)を調製して、多孔質支持体20に塗布して、乾燥する、いわゆる塗布法で作製できる。
すなわち、まず、親水性化合物、キャリア、および、必要に応じて添加するその他の成分を、それぞれ適量で水(常温水または加温水)に添加して十分することで、促進輸送膜22となる塗布組成物を調製する。
この組成物の調製では、必要に応じて、攪拌しつつ加熱することで、各成分の溶解を促進させてもよい。また、親水性化合物を水に加えて溶解した後、キャリアを徐々に加えて攪拌することで、親水性化合物の析出(塩析)を効果的に防ぐことができる。
【0056】
この組成物を多孔質支持体20に塗布して、乾燥することで、酸性ガス分離層20を作製する。
ここで、組成物の塗布および乾燥は、所定のサイズに切断されたカットシート状の多孔質支持体20に行う、いわゆる枚葉式で行ってもよい。
好ましくは、いわゆるロール・トゥ・ロール(以下、RtoRとも言う)によって行う。すなわち、長尺な多孔質支持体20を巻回してなる送り出しロールから、多孔質支持体20を送り出して、長手方向に搬送しつつ、調製した塗布組成物を塗布し、次いで、塗布した塗布組成物(塗膜)を乾燥して、多孔質支持体20bの表面に促進輸送膜22を形成してなる補修前分離膜32aを作製する。
【0057】
RtoRにおける多孔質支持体20の搬送速度は、多孔質支持体20の種類や塗布液の粘度等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、多孔質支持体20の搬送速度が速すぎると、塗布組成物の塗膜の膜厚均一性が低下するおそれがあり、遅過ぎると生産性が低下する。この点を考慮すると、多孔質支持体20の搬送速度は、0.5m/分以上が好ましく、0.75〜200m/分がより好ましく、1〜200m/分が特に好ましい。
【0058】
塗布組成物の塗布方法は、公知の方法が、各種、利用可能である。
具体的には、カーテンフローコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等が例示される。
【0059】
塗布組成物の塗膜の乾燥も、公知の方法で行えばよい。一例として、温風による乾燥が例示される。
温風の風速は、ゲル膜反を迅速に乾燥させることができるともにゲル膜反が崩れない速度を、適宜、設定すればよい。具体的には、0.5〜200m/分が好ましく、0.75〜200m/分がより好ましく、1〜200m/分が特に好ましい。
温風の温度は、多孔質支持体20の変形などが生じず、かつ、ゲル膜反を迅速に乾燥させることができる温度を、適宜、設定すればよい。具体的には、膜面温度で、1〜120℃が好ましく、2〜115℃がより好ましく、3〜110℃が特に好ましい。
また、塗膜の乾燥には、必要に応じて、多孔質支持体20の加熱を併用してもよい。
【0060】
次に、上記のような補修前分離膜32aに対して、欠陥を検出し補修して補修後促進輸送型分離膜32bを作製する本発明の製造方法について
図1および
図3を用いて説明する。
図3(A)〜(D)は、本発明の製造方法を説明するための促進輸送型分離膜を概念的に示す断面図である。
【0061】
〔欠陥検出工程〕
欠陥検出工程S100は、補修前分離膜32aの促進輸送膜22の欠陥を検出する工程である。欠陥検出工程S100では、
図3(A)に示すような、促進輸送膜22の膜厚方向に連通する孔を欠陥として検出する。
前述のとおり、補修前分離膜32aは、製造過程において種々の原因により欠陥が生じることがある。例えば、塗布乾燥後のパスロールとの擦れで促進輸送膜22が変形して欠陥を発生する場合がある。また、塗布乾燥後の補修前分離膜32aをロール状に巻きとった際の促進輸送膜22の表面と支持体20の裏面との擦れで促進輸送膜22が変形して欠陥を発生する場合がある。また、モジュール化等のためにロールから巻き出した際に、促進輸送膜22の表面と支持体20の裏面とが貼りついて促進輸送膜22に膜剥がれが起きて欠陥を発生する場合がある。
【0062】
欠陥検出工程S100における欠陥の検出方法には特に限定はなく、ガス分離膜における種々の公知の欠陥検出方法が利用可能である。
具体的には、欠陥検出方法としては、例えば、膜面に光を当てて反対側の面から観察して欠陥を検出する方法、膜面を撮影して画像解析を行って欠陥を検出する方法、顕微鏡で観察する方法等が利用可能である。
【0063】
なお、促進輸送型分離膜においては、原料ガスや酸性ガスが連通する大きさの孔を欠陥とみなすことができるので、より小さな欠陥を検出できることが好ましい。
欠陥検出工程S100において欠陥を検出された補修前分離膜32aは、塗布液滴下工程S102に供される。
【0064】
〔塗布液滴下工程〕
塗布液滴下工程S102は、欠陥検出工程S100において検出した欠陥部分に欠陥補修用塗布液R(以下、「補修液R」ともいう)を滴下する工程である。
塗布液滴下工程S102において滴下する補修液Rは、促進輸送膜20と同じ材料を含む塗布液であり、乾燥して膜を形成した際に、補修前の促進輸送膜20と同様の膜を形成するものである。
塗布液滴下工程S102における補修液Rの滴下方法には特に限定はなく、種々の公知の滴下方法(塗布方法)が利用可能である。例えば、マイクロピペットを用いて、滴下する方法が利用可能である。
【0065】
ここで、塗布液滴下工程S102においては、
図3(B)に示すように、補修液Rを滴下する前に、欠陥部分(欠陥およびその周辺部分)を加湿・加熱して、その後、欠陥に補修液Rを滴下する(
図3(C))のが好ましい。
欠陥部分を加湿・加熱することにより、欠陥周辺部分を膨潤させ膜の流動性を上げることができる。欠陥周辺部分の流動性を上げて補修液Rを滴下することで、滴下した補修液Rと周辺の膜とを混合させることができるので、元の膜と補修した膜との間に界面が生じることを防止できる。
なお、図示例では、加湿および加熱する構成としたが、これに限定はされず、加湿のみを行う構成であってもよいし、加熱のみを行う構成であってもよい。
【0066】
また、加熱の温度、時間には特に限定はなく、塗布組成物の組成に応じて適宜決定すればよい。例えば、加熱温度、加熱時間はそれぞれ、50〜130℃、5〜60分間とするのが好ましい。
また、加湿の時間にも特に限定はなく、塗布組成物の組成に応じて適宜決定すればよい。例えば、加湿時間は、5〜60分間とするのが好ましい。
【0067】
滴下する補修液Rの量は、欠陥ごとに、欠陥を補修するために適当な量を滴下すればよい。欠陥部分の体積よりも多い量の補修液Rを滴下することが好ましい。これにより、確実に欠陥を補修することができる。また、その場合、
図3(D)に示すように、欠陥を補修した位置の膜は、隆起した状態に形成される。
塗布液滴下工程S102において補修液を滴下された補修前分離膜32aは、乾燥工程S104に供される。
【0068】
<欠陥補修用塗布液>
ここで、欠陥補修用塗布液Rについて説明する。
欠陥補修用塗布液Rは、促進輸送膜20と同じ材料を含む液であり、乾燥して膜を形成した際に、補修前の促進輸送膜20と同様(同質)の膜を形成するものであればよい。
具体的には、補修前分離膜32aの促進輸送膜20を形成するために調製した塗布組成物と同じ塗布液を補修液Rとしてもよい。すなわち、補修液Rは、上述した酸性ガスと反応するキャリア、キャリアを担持する親水性ポリマー等の親水性化合物および水等を含有する。
【0069】
なお、欠陥へ浸透しやすくするために、溶剤(水)の量を増やしたものを補修液Rとしてもよい。また、キャリアや親水性化合物等の含有物の組成比を適宜変更してもよい。
さらに、補修液Rには、必要に応じて、添加物を加えてもよい。例えば、界面活性剤を添加して濡れ性をアップすることで、微小な欠陥へ浸透しやすくすることができる。
なお、補修液Rは、促進輸送膜20と同じ材料(組成物)を10質量%以上含むことが好ましい。
【0070】
補修液Rの粘度は、20〜2000cPであることが好ましい。補修液Rの粘度をこの範囲とすることにより、欠陥へ浸透しやすくすることができる点で好ましい。
また、補修液Rの比重は、1.01〜1.08であることが好ましい。補修液Rの比重をこの範囲とすることにより、欠陥への浸透をより迅速に行える点で好ましい。
また、補修液Rの表面張力は、10〜71mN/mであることが好ましい。補修液Rの表面張力をこの範囲とすることにより、欠陥への浸透をより迅速に行える点で好ましい。
【0071】
また、補修液R中の親水性化合物は、架橋されていることが好ましい。架橋された補修液Rを滴下して補修することにより、補修前後で補修液Rは化学変化を起こすことなく膜を形成するので、補修前分離膜32aの促進輸送膜20と同質の膜を形成することができる。
【0072】
〔乾燥工程〕
乾燥工程S104は、塗布液滴下工程S102において欠陥部分に滴下した補修液Rを乾燥する工程である。
乾燥工程S104における補修液の乾燥は、前述の塗布組成物の乾燥と同様の方法で行えばよい。一例として、温風による乾燥が例示される。
温風の風速および温度は、先と同様に、ゲル膜や支持体に変形が生じず、迅速に乾燥させることができる風速および温度を適宜、設定すればよい。
乾燥工程S104で補修液Rを乾燥させることで、欠陥が補修された補修後促進輸送型分離膜32b(以下、「補修後分離膜32b」ともいう)が作製される。
【0073】
[補修後促進輸送型分離膜]
本発明の製造方法で作製された補修後分離膜32bは、
図2に示すように、補修前分離膜32aと同様に支持体20と促進輸送膜22とが積層されたものである。また、
図3(D)に示すように、補修後分離膜32bでは、促進輸送膜22の欠陥が補修された状態である。
【0074】
ここで、分離膜の欠陥を膜の材料とは異なる材料や、テープ等で補修した場合には、分離膜としての機能を果たす膜の面積が減少してしまうという問題がある。また、異なる材料で補修した場合には、補修した部分と元の膜の部分との間に界面が生じるため強度が低下したり、補修した部分が剥離するおそれがある。また、補修した部分と元の膜の部分との熱収縮の差によっても剥離するおそれがある。
また、膜を形成する際に、塗布組成物を塗布した後に、塗布膜に熱などを加え化学反応させて膜を形成する分離膜の場合には、この膜の欠陥を補修するために、膜を形成するための塗布液と同じ材料を補修液として用いたとしても、補修した部分が、元の分離膜と同じ状態の膜に形成されないおそれがある。また、補修した部分と元の膜の部分との間に界面が生じるおそれもある。
【0075】
これに対して、本発明の製造方法では、前述のとおり、促進輸送膜22の材料と同じ材料を含む補修液Rを用いて、また、滴下して乾燥させるのみで、促進輸送膜22の欠陥を補修する。そのため、補修後分離膜32bにおいては、補修した部分は促進輸送膜22と同質の膜となり促進輸送膜として機能するので、膜面積が減少のない(少ない)分離膜となる。また、補修後分離膜32bは、補修部分と同質の膜が形成されるので、補修部分と元の膜との間で熱収縮の差がなく、界面も形成されないので、膜の強度低下や剥離のおそれもない分離膜となる。本発明で用いられる促進輸送膜の場合は、高温高湿環境下で使用されるが、塗布組成物と同じ材料の補修液Rを用いることで、上記のような界面の問題や剥離の問題を考慮する必要がない。
【0076】
本発明の製造方法は、このように欠陥の無い好適な促進輸送型分離膜を、欠陥に補修液を滴下して乾燥させるのみで作製することができるので、高い生産性で安定して製造することができる。
【0077】
作製された補修後分離膜32bは、スパイラル型分離膜モジュール等に利用される。
なお、本発明の製造方法は、補修前分離膜32aの作製直後に行ってもよいし、モジュール化の直前に行ってもよいが、モジュール化した際に好適に性能を発現するためにモジュール化の直前に行うのが好適である。
【0078】
以上、本発明の促進輸送型分離膜の製造方法および促進輸送型分離膜について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明の促進輸送型分離膜の製造方法および促進輸送型分離膜について、より詳細に説明する。
【0080】
[実施例1]
下記に示す補修前分離膜32aに補修液Rを滴下・乾燥して補修後分離膜32bを作製した。
【0081】
〔補修前分離膜〕
補修前分離膜32aは、下記に示す塗布組成物Aを下記に示す多孔質支持体20に塗布・乾燥させて作製した。補修前分離膜32aの塗布・乾燥後、ロール状に巻き取った。
【0082】
<塗布組成物A>
ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体(クラレ社製 クラストマーAP-20)を2.4質量%、架橋剤(和光純薬社製 25質量%グルタルアルデヒド水溶液)を0.01質量%、含む水溶液を調製した。この水溶液に、1M塩酸をpH1.7になるまで添加して、架橋させた。
架橋後、キャリアとしての、40%炭酸セシウム水溶液(稀産金属社製)を炭酸セシウム濃度が6.0重量%になるように添加した。すなわち、本例では、炭酸セシウムが促進輸送膜22のキャリアとなる。
さらに、界面活性剤(日油社製 1質量%ラピゾールA−90)を0.003質量%、添加して、塗布組成物Aを調製した。
【0083】
<多孔質支持体>
多孔質支持体20は、PP不織布の表面に多孔質のPTFEを積層してなる積層体(GE社製)で、大きさ100m×500mmで、厚さ250μmとした。
【0084】
補修前分離膜32aの作製後、巻き取りから50時間以上経過した後に、補修前分離膜32aを巻き出して欠陥検出および欠陥の補修を行った。
【0085】
〔欠陥検出工程〕
欠陥検出工程S100として、顕微鏡によって観察する方法で、補修前分離膜32aの欠陥検出を行った。検出の結果、0.05個/m
2の欠陥を検出した。
【0086】
〔塗布液滴下工程〕
次に、塗布液滴下工程S102として、欠陥検出工程S100で検出した各欠陥部分に補修液Rを適量、滴下し、その後、乾燥させて(乾燥工程S104)、補修後分離膜32bを作製した。
<補修液R>
なお、補修液Rは、塗布組成物Aと同じとした。補修液Rの粘度は1200cP(1.2Pa・s)、比重は1.065、表面張力は58.4mN/m、であった。
【0087】
〔性能評価〕
作製した補修後分離膜のガス分離性能について、以下のように評価した。
作製した補修後分離膜32bを直径47mmに切り取り、PTFEメンブレンフィルターで挟んで透過試験サンプルを作製した。テストガスとしてH
2:CO
2=9:1の混合ガス(流量500mL/min)を相対湿度70%、温度130℃、全圧301.3kPaで、サンプル(有効面積2.40cm
2)に供給し、透過側にArガス(流量90mL/min)をフローさせた。透過してきたガスをガスクロマトグラフで分析し、CO
2透過速度(P(CO
2))とCO
2/H
2分離係数(α)を算出した。
【0088】
[実施例2]
塗布液滴下工程において以下の補修液R2を用いた以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0089】
<補修液R2>
塗布組成物Aを水で希釈し、粘度20cP(0.02Pa・s)の補修液R2を作成した。補修液R2の比重は1.014、表面張力は65.5mN/mであった。
【0090】
[実施例3]
塗布液滴下工程において以下の補修液R3を用いた以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0091】
<補修液R3>
塗布組成物Aに、界面活性剤水溶液(日油社製 1質量%ラピゾールA−90)を0.01質量%となるように添加して水で希釈し、粘度200cP(0.2Pa・s)の補修液R3を作成した。補修液R3の比重は1.03、表面張力は14.5mN/mであった。
【0092】
[実施例4]
塗布液滴下工程において、欠陥箇所を80℃で、60分間、加熱してから補修液Rの滴下を行った以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0093】
[実施例5]
塗布液滴下工程において、欠陥箇所を加湿蒸気で、60分間、加湿してから補修液Rの滴下を行った以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0094】
[実施例6]
塗布液滴下工程において、欠陥箇所を、5分間、80℃で加熱しつつ、加湿蒸気で加湿してから補修液Rの滴下を行った以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0095】
[実施例7]
塗布液滴下工程において以下の補修液R4を用いた以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0096】
<補修液R4>
塗布組成物Aにカルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル社製)0.5wt%水溶液を添加し増粘し、粘度2200cPの補修液R4を作成した。補修液R7の比重は1.065、表面張力は58.4mN/mであった。
【0097】
[実施例8]
塗布液滴下工程において以下の補修液R5を用いた以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0098】
<補修液R5>
塗布組成物Aを水酸化カリウム水溶液(和光純薬社製)で希釈し、粘度18cPの補修液R5を作成した。補修液R5の比重は1.065、表面張力は58.4mN/mであった。
【0099】
[実施例9]
塗布液滴下工程において以下の補修液R6を用いた以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0100】
<補修液R6>
塗布組成物Aを1wt%のカルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル社製)水溶液で希釈・増粘し、比重1.009の補修液R6を作成した。補修液R6の粘度は1200cP、表面張力は58.4mN/mであった。
【0101】
[実施例10]
塗布液滴下工程において以下の補修液R7を用いた以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0102】
<補修液R7>
塗布組成物Aをカルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル社製)と水酸化カリウム水溶液(和光純薬)で調整し、比重1.09の補修液R7を作成した。補修液R7の粘度は1200cP、表面張力は58.4mN/mであった。
【0103】
[実施例11]
塗布液滴下工程において以下の補修液R8を用いた以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0104】
<補修液R8>
塗布組成物Aを水酸化カリウム水溶液(和光純薬)と界面活性剤水溶液(日油社製 1質量%ラピゾールA−90)で調整し、表面張力8mN/mの補修液R8を作成した。補修液R8の粘度は1200cP、比重1.065はであった。
【0105】
[実施例12]
塗布液滴下工程において以下の補修液R9を用いた以外は、実施例1と同様にして補修後分離膜32bを作製し、性能評価を行った。
【0106】
<補修液R9>
塗布組成物Aを水酸化カリウム水溶液(和光純薬)とカルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル社製)で調整し、表面張力72mN/mの補修液R9を作成した。補修液R9の粘度は1200cP、比重1.065はであった。
【0107】
[比較例1]
塗布液滴下工程を行わない以外は実施例1と同じ、すなわち、実施例1における補修前分離膜32aを比較例1として、性能評価を行った。
【0108】
[比較例2]
塗布液滴下工程において以下の補修液R10を用いた以外は、実施例1と同様にして分離膜を作製し、性能評価を行った。
【0109】
<補修液R10>
水を99.99質量%、カルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル社製)を0.01質量%含む水溶液を調整し補修液R10とした。補修液R10の粘度は、3cP、比重は1.004、表面張力は73mN/mであった。
【0110】
[比較例3]
塗布液滴下工程に代えて、カプトンテープ(日東電工社製)を用いて欠陥を補修した以外は、実施例1と同様にして分離膜を作製し、性能評価を行った。
【0111】
【表1】
【0112】
表1に示す結果から、促進輸送膜22の欠陥検出を行い、検出した欠陥部分に補修液を滴下し、乾燥させて、欠陥を補修する本発明の製造方法で作製した実施例1〜12の促進輸送型分離膜は、比較例1〜3の促進輸送型分離膜に対して、ガスの分離性能が高いことがわかる。また、比較例では、透過速度が高く、分離係数が低いことから、密閉性が低いことがわかる。
また、実施例1と実施例4〜6との比較から、補修液を滴下する際に、加熱または加湿することにより、分離係数が高くなることがわかる。
また、実施例1〜3と実施例7、8との比較から、粘度が高すぎると補修液が欠陥に入りにくくなり、また、粘度が低すぎると欠陥をふさぎにくくなるため、補修液の粘度を20〜2000cPの範囲とすることにより、分離係数が大きくなり好ましいことがわかる。
また、実施例1〜3と実施例9、10との比較から、補修液の比重を1.01〜1.08の範囲とすることにより、分離係数が大きくなり好ましいことがわかる。
また、実施例1〜3と実施例11、12との比較から、補修液の表面張力を10〜71mN/mの範囲とすることにより、分離係数が大きくなり好ましいことがわかる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。