【文献】
伊藤進 他,小児難治性てんかんに対するケトン食療法,BRAIN and NERVE,2011年,vol.63, no.4,p.393-400
【文献】
RANHOTRA G. S. et al.,Level of Medium-Chain Triglycerides and Their Energy Value,Cereal Chem.,1995年,vol.72, no.4,p.365-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
穀粉を実質的に含まない焼き菓子であって、40〜80質量%の脂質、1〜10質量%のタンパク質、5〜25質量%の糖質を含んでおり、前記脂質には、構成脂肪酸として炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールが前記油脂の50質量%以上含まれている、焼き菓子。
前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの構成脂肪酸が、炭素数8、10又は12の中鎖脂肪酸のみから構成されている、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の焼き菓子。
前記焼き菓子は、好ましくは、50〜70質量%の脂質、2〜8質量%のタンパク質、7〜25質量%の糖質を含んでおり、さらに好ましくは、55〜70質量%の脂質、3〜6質量%のタンパク質、10〜25質量%の糖質を含んでいる、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の焼き菓子。
前記焼き菓子100g当たりのエネルギーが、好ましくは、450〜750キロカロリーであり、より好ましくは、500〜730キロカロリーであり、さらに好ましくは、550〜710キロカロリーである、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の焼き菓子。
前記焼き菓子において、タンパク質(P)と糖質(C)の合計に対する脂質(F)の割合(「F/(P+C)」)が、好ましくは、1.8〜4.0であり、より好ましくは、2.5〜3.5であり、さらに好ましくは、3.0〜3.4である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の焼き菓子。
【背景技術】
【0002】
クッキー、ビスケット、ドーナツ、ケーキなどの焼き菓子は、穀粉、油脂、糖類を主原料とし、さらに必要に応じて、塩類、澱粉、乳製品、卵製品、イースト、酵素、膨張剤、食品添加物などを加えて生地を作り、これを成型しオーブン等に入れて焼成した菓子のことをいう。それぞれ固有の色合いや食感を有し、一般家庭でも容易に作れるので、世界中に広く普及している菓子の1つである。また、水分が少ないため保存性に富み、場合によっては、主食としても利用可能であるので、世界中で広く愛用されている菓子の1つでもある。
【0003】
近年、我々の食生活は、飽食といわれるほど豊かになるとともに、食の欧米化が進み、炭水化物(糖質)が中心のメニューに変わってきた。食事から摂取された炭水化物は、生体内で代謝されて糖質となり、糖質は血流に乗って体中の細胞でエネルギー源として利用される。しかし、利用されずに残った糖質はいずれ脂肪に変換されて体内に蓄積される。したがって、炭水化物(糖質)のとり過ぎは、肥満や糖尿病の原因になるといわれており、最近は、体重減少を目的とした低炭水化物ダイエットという、炭水化物(糖質)を制限した食事も盛んに研究されるようになってきている。もし糖質の少ない焼き菓子が得られれば、こうした食事にも適用でき、有用である。
【0004】
また、我々の細胞は、ある種の特殊な環境下におかれると、糖質だけでなく、アミノ酸、脂肪酸、ケトン体(アセト酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、アセトンの総称)などの有機化合物をエネルギー源として利用することできる。例えば、てんかん患者に対する治療食として、ケトン食が提案されている。この「ケトン食」とは、糖質及びタンパク質の量を減らし、脂質の量を増やして、生活に必要なエネルギーが摂取できるようにした食事である。これまで、ケトン食はてんかんによる発作の抑制のために利用されてきたが、最近では、老人性認知症やアルツハイマー型認知症の治療のためにも利用されるようになってきている。
【0005】
例えば、特許文献1では、タンパク質、脂質及び消化可能な炭水化物を含有する栄養組成物であって、乾燥質量100g当たり2520〜3080キロジュールのエネルギーを有し、かつ、タンパク質と消化可能な炭水化物の合計に対する脂質の重量が2.7〜3.4:1であり、前記脂質がリノレン酸などの多価不飽和脂肪酸を多く含む栄養組成物を、小児てんかんの発作を制御するために利用している。
また、特許文献2では、ケトン食療法によって、哺乳動物の脳におけるタンパク質凝集を減少させ、アルツハイマー型認知症を治療している。
しかしながら、これまでの「ケトン食」は、タンパク質や糖質に比べて、脂質が相当多く含まれているため、非常に食べにくいという問題があった。そのため、需要者が自ら好んで食べられない、あるいは、ケトン食療法を継続したくても長続きしないという問題があった。そこで、「ケトン食」であっても、油っぽさを感じにくく、食べやすくて、しかも、必要なエネルギー量を取りやすくしたものが求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高油分とした場合であっても、油っぽくなく、また、しっとりとした食感とざらつきのない良好な口どけを有し、さらに、素材本来の風味がより一層感じられる、穀粉を実質的に含まない焼き菓子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ケトン食として利用できるような高脂質、低糖質である、焼き菓子について鋭意研究をしたところ、驚くべきことに、脂質として、中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールをできるだけ多く用いることによって、高油分とした場合であっても、油っぽくなく、また、しっとりとした食感とざらつきのない良好な口どけを有し、さらに、素材本来の風味がより一層感じられる焼き菓子が得られることを見出し、本発明を完成させた。さらに驚くべきことに、糖質の量を極力減らしていった結果、穀粉を実質的に含まなくても、焼き菓子原料の中にわずかに含まれている糖質とタンパク質により、十分な保形性や壊れにくさを有する焼き菓子が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の一態様によれば、穀粉を実質的に含まない焼き菓子であって、40〜80質量%の脂質、1〜10質量%のタンパク質、5〜25質量%の糖質を含んでおり、前記脂質には、構成脂肪酸として炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールが前記脂質の50質量%以上含まれている、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、前記脂質が、液状油、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング及び粉末油脂から選ばれる1種又は2種以上である、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの構成脂肪酸が、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸のみから構成されている、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、前記中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールの構成脂肪酸が、炭素数8、10又は12の中鎖脂肪酸のみから構成されている、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、前記タンパク質として、卵白又は全卵に由来するものを含んでいる、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、前記焼き菓子が、甘味料を含んでいる、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、前記焼き菓子が、好ましくは、50〜70質量%の脂質、2〜8質量%のタンパク質、7〜25質量%の糖質を含んでおり、さらに好ましくは、55〜70質量%の脂質、3〜6質量%のタンパク質、10〜25質量%の糖質を含んでいる、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、前記焼き菓子100g当たりのエネルギーが、好ましくは、450〜750キロカロリーであり、より好ましくは、500〜730キロカロリーであり、さらに好ましくは、550〜710キロカロリーである、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、前記焼き菓子において、タンパク質(P)と糖質(C)の合計に対する脂質(F)の割合(「F/(P+C)」)が、好ましくは、1.8〜4.0であり、より好ましくは、2.5〜3.5であり、さらに好ましくは、3.0〜3.4である、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、前記焼き菓子が、クッキー又は焼きドーナツである、焼き菓子を提供することができる。
本発明の好ましい一態様によれば、上記焼き菓子を含む食品を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼き菓子の製造において、脂質の50質量%以上が、構成脂肪酸として炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールである脂質を用いることにより、高油分とした場合であっても、油っぽくなく、また、しっとりとした食感とざらつきのない良好な口どけを有し、さらに、素材本来の風味がより一層感じられる、穀粉を実質的に含まない焼き菓子を簡便に製造することができる。本発明の焼き菓子は、従来のものよりも油っぽくなく食べやすいので、これまでのケトン食では満足できなかった人々の需要に応えることができる。
また、栄養補給や持久力の向上に寄与する中鎖脂肪酸を、おいしくかつ大量に摂取することができるようになるため、ケトン食療法において、本発明の焼き菓子を用いることにより、1日に必要なエネルギーを簡便にとることができる。
さらに、本発明の焼き菓子は、高油分であるにもかかわらず、通常の焼き菓子と同程度に保形性と壊れにくさを有するため、消費者の手に届くまでに割れたりすることが少なく、見た目にも美しい焼き菓子を得ることができ、商品価値は高いものとなる。
加えて、穀粉を実質的に含まないため、穀粉に対するアレルギー(例えば、小麦粉アレルギー等)を有する需要者に対して、安心・安全な焼き菓子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の焼き菓子について順を追って記述する。
本発明において「焼き菓子」とは、穀粉を実質的に含まない焼き菓子であって、脂質、タンパク質、糖質をそれぞれ所定量含み、前記脂質の50質量%以上が炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールであれば、特に制限されない。具体的な製品形態としては、例えば、クッキー(ロータリーモールドクッキー、ワイヤーカットクッキー、絞りクッキー等)、ドーナツ、焼きドーナツ、ビスケット、クラッカー、サブレ、パイ、ウエハース、スナック菓子、スポンジケーキ、カステラ、ホットケーキ、フィナンシェ、ガトーショコラ等が挙げられる。その中でも、脂質を多く含むことができる、例えば、クッキー、焼きドーナツなどが好ましい。
【0012】
本発明における「焼き菓子」は、40〜80質量%の脂質、1〜10質量%のタンパク質、5〜25質量%の糖質を含むことが好ましく、また、50〜70質量%の脂質、2〜8質量%のタンパク質、7〜25質量%の糖質を含むことがより好ましく、55〜70質量%の脂質、3〜6質量%のタンパク質、10〜25質量%の糖質を含むことがさらに好ましい。これに加えて、当該「焼き菓子」は、栄養障害を避けるために、十分なミネラルやビタミンなどを含むこともできる。なお、これらの質量%は、焼き菓子(最終製品)を100質量%として計算される。
【0013】
本発明の「焼き菓子」は、必要なエネルギーを一度に大量に摂取できるように、比較的高いエネルギーを有していることが好ましい。具体的には、焼き菓子100g当たり450〜750キロカロリーのエネルギーを有する。好ましくは、焼き菓子100g当たり500〜730キロカロリーを有する。さらに好ましくは、焼き菓子100g当たり550〜710キロカロリーを有する。
【0014】
本発明の「焼き菓子」は、ケトン体をたくさん体内に生成できるように、タンパク質(P)と糖質(C)の合計に対する脂質(F)の割合(以下、「F/(P+C)」のことを「第1ケトン比」という。)が高いことが好ましい。具体的には、第1ケトン比が1.8〜4.0であり、より好ましくは、2.5〜3.5であり、さらに好ましくは、3.0〜3.4であることが好ましい。
また、脂質が多く、糖質が少ない場合に、ケトン体はエネルギーとして消費されるので、脂質を向ケトン物質(K)、反対に、糖質を反ケトン物質(AK)ということがある(丸山博ほか著、「ケトン食の本」、第一出版株式会社、2010年、4頁)。そして、脂質(脂肪)は90%のKと10%のAKを含んでおり、タンパク質は46%のKと58%のAKを含んでいる(同文献)。
したがって、ケトン比が、向ケトン物質(K)に対する反ケトン物質(AK)の割合(以下、「第2ケトン比」という。)によって、以下の式により計算されることがある(同文献)。
K/AK=(0.9F+0.46P)/(C+0.1F+058P)
なお、この式を「Woodyattの式」という。
本発明において、具体的には、第2ケトン比が1.6〜2.8であり、より好ましくは、2.0〜2.6であり、さらに好ましくは、2.3〜2.6であることが好ましい。一般的には、第2ケトン比が2よりも大きい場合に体内にケトン体が生成されると考えられている。
【0015】
本発明のおける「穀粉」とは、強力粉、中力粉、薄力粉、小麦全粒粉、玄米粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、及び米粉等のことをいう。ここで、「穀粉を実質的に含まない」とは、穀粉を含むことで、ケトン食対応としての適性を損なわない程度に十分少ないことを意味する。したがって、本発明の「焼き菓子」では、穀粉それ自体を原料として使用することはないが、他の原料に由来する、わずかに混入し得る程度の穀粉が含まれることは許容される。例えば、澱粉や増粘剤が小麦粉等を原料として調製されるものである場合、当該澱粉及び増粘剤とともに通常混入し得る程度の量の小麦粉であれば、本発明の「焼き菓子」から除外されない。一例として、本発明の「穀粉を実質的に含まない焼き菓子」とは、穀粉の含有量が、焼き菓子の原料を基準として、3質量%未満、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満であることをいう。
【0016】
本発明における「しっとりとした食感とざらつきのない良好な口どけ」とは、例えば、焼き菓子がクッキーである場合、通常のもの(油分が少ないもの)と同程度にしっとりとした食感があることであり、また、食べたときに口の中でダマにならず、ザラつきを感じないことをいう。高脂質かつ低糖質である場合、通常は、生地が軟らかくなり、焼成後もソフトさが際立った焼き菓子となり、口の中でダマになり、ザラつきを感じやすいが、意外にも、中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを用いることにより、適度な硬さや噛み応えを有する焼き菓子が得られたことは、本発明における重要な特徴の1つである。
また、本発明における「素材本来の風味がより一層感じられる」とは、例えば、ココアパウダーを用いた焼き菓子である場合、ココア本来の風味が際立って感じられることをいう。中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを用いることにより、素材本来の風味が引き立たされることは、本発明における重要な特徴の1つである。
【0017】
本発明の「タンパク質」としては、8アミノ酸よりも大きなペプチドを含有するものであれば特に制限されない。例えば、コーングルテン、小麦グルテン、大豆タンパク質、小麦タンパク質、乳タンパク質、乳清タンパク質、食肉又は魚肉から得られる動物性タンパク質(コラーゲンを含む)、卵白、卵黄などが挙げられる。
焼き菓子中のタンパク質の量は、好ましくは1〜10質量%であり、より好ましくは2〜8質量%であり、さらに好ましくは3〜6質量%である。
【0018】
本発明の「糖質」としては、例えば、グルコース、デキストリン、ラクトース、スクロース、ガラクトース、リボース、トレハロース、でんぷん、加工でんぷん、水飴、粉末水飴等が挙げられる。
焼き菓子中の糖質の量は、好ましくは5〜25質量%であり、より好ましくは7〜25質量%であり、さらに好ましくは10〜25質量%である。
【0019】
本発明の「脂質」としては、油脂が好ましい。油脂としては、液状油、マーガリン、ファットスプレッド、ショートニング、粉末油脂が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
焼き菓子中の脂質の量は、40〜80質量%であることが好ましく、50〜70質量%であることがより好ましく、55〜70質量%であることがさらに好ましい。
そして、高油分でもしっとりとした食感とざらつきのない良好な口どけを有し、さらに、素材本来の風味がより一層感じられるようにするためには、当該焼き菓子原料中の脂質の50質量%以上が、構成脂肪酸として炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールでなくてはならない。また、上記焼き菓子の脂質に対して、上記トリアシルグリセロールが70質量%以上であることが好ましく、また80質量%以上であることがより好ましく、さらに90質量%以上であることがより好ましい。また、本発明の焼き菓子に含まれる脂質のすべて(100質量%)が、上記トリアシルグリセロールであることが最も好ましい。
【0020】
本発明では、配合する油脂以外の含油原料に由来する油脂を脂質含量に含めて計算する。例えば、ココアパウダーを焼き菓子に配合する場合、ココアパウダーに含まれる脂質含量が約22質量%であるため、これに相当する脂質が焼き菓子に含まれることになる。アーモンドパウダーを焼き菓子に配合する場合、アーモンドパウダーに含まれる脂質含量が約54質量%であるため、これに相当する脂質が焼き菓子に含まれることになる。
【0021】
上述のとおり、本発明の焼き菓子に含まれる脂質中には、構成脂肪酸として炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールが含まれるが、このトリアシルグリセロールは、構成脂肪酸を炭素数6〜12の中鎖脂肪酸のみとするトリアシルグリセロールであってもよいし、構成脂肪酸として炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を含む混酸基トリアシルグリセロールであってもよい。ここで、各々の中鎖脂肪酸のグリセリンへの結合位置は、特に限定されない。また、混酸基トリアシルグリセロールである場合には、構成脂肪酸の一部に炭素数6〜12以外の脂肪酸を含んでいてもよく、例えば、長鎖脂肪酸を含んでいてもよい。
また、本発明において用いられる脂質は、例えば、トリオクタノイルグリセロールとトリデカノイルグリセロールとの混合物等、複数の異なる分子種の油脂が混ざり合った混合物であってもよい。ここで、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸は、直鎖状の飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0022】
別の定義によれば、本発明においては、トリアシルグリセロールに含まれる3つの脂肪酸のうち、少なくとも1つが炭素数6〜12の中鎖脂肪酸であるトリアシルグリセロールが、脂質の50質量%以上含まれればよいから、脂質を構成する油脂に含まれる中鎖脂肪酸の合計量は、脂肪酸換算値で、10質量%〜100質量%であることが好ましく、25〜100質量%であることがより好ましく、40〜100質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明の焼き菓子に含まれる中鎖脂肪酸を含むトリアシルグリセロールとしては、構成脂肪酸が炭素数6〜12の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロール(以下「MCT」とも表す。)が好ましく、さらに、構成脂肪酸が炭素数8、10又は12の中鎖脂肪酸のみからなるMCTがより好ましい。
本発明の焼き菓子の脂質中に含まれるMCTは、従来公知の方法で製造できる。例えば、炭素数6〜12の脂肪酸とグリセロールとを、触媒下、好ましくは無触媒下で、また、好ましくは減圧下で、120〜180℃に加熱し、脱水縮合させることにより製造できる。
【0024】
本発明の焼き菓子は、焼き菓子中の脂質含量および炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を含むトリアシルグリセロール含量が上記特定の範囲を満たしている限り、どのような液状油を併用してもよい。例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂、ココアバター等やこれらの混合油、これらの水素添加油、分別油、及びエステル交換油等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。これらの中でも、ラウリン酸(C12:0)を多く含む、ヤシ油(ココナッツ油)は、本発明の脂質として好適に用いられる。
【0025】
本発明の焼き菓子には、脂質として、液状油だけでなくマーガリンも用いられる。マーガリンは、精製した油脂に発酵乳や食塩、ビタミン類(水相)を加えて乳化し、練り合わせて得られる加工食品であり、油脂の外に水や調味料等を含んでいるため、本発明におけるマーガリンの脂質含量は、マーガリンに含まれる水や発酵乳、調味料、乳化剤等の副材料を除いて計算される。原料油脂は、常温で固体化するように、通常はその製造工程において水素添加されるが、バターとの違いは、バターの主原料が牛乳であるのに対し、マーガリンの主原料が植物性あるいは動物性の油脂であることである。日本のJAS規格によれば、油脂含有率が80%を超えるものがマーガリンであり、80%未満のものがファットスプレッドである。マーガリン又はファットスプレッドには、油相成分として水添植物油脂やエステル交換油脂が良く使用されているが、構成脂肪酸として炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を含むトリアシルグリセロールを含有させたものが好適に使用できる。例えば、そのようなものとして、日清オイリオグループ(株)製の商品:リセッタソフトが挙げられる。
【0026】
本発明の焼き菓子には、脂質として、ショートニングも用いられる。焼き菓子に配合するショートニングは、大豆油、とうもろこし油等の植物油脂や動物油脂を原料とした練り込み用の常温で半固形(クリーム状)の油脂であり、マーガリンやバターなどの乳化製品と異なり、一般的には、白色の無味無臭のものであって、水や乳成分を含まず、ほぼ100%が油脂成分である。
【0027】
本発明の焼き菓子には、脂質として、粉末油脂も用いられる。粉末油脂は、噴霧式、粉砕式、コーティング式のいずれかの方式で製造されるものであり、加熱乾燥、冷却固化、凍結乾燥、マイクロカプセル化などの工程により製造される。例えば、融点が低い液体油であれば、水相と油相を混合し、得られたO/W型の乳化物を噴霧乾燥して、粉末油脂を製造することができる。このようにして得られた粉末油脂は、賦形剤として糖質やタンパク質を含んでいるため、これらの糖質及びタンパク質含量は、脂質含量とは分けて計算されなければならない。なお、本発明における好ましい粉末油脂として、例えば、日清オイリオグループ(株)製の商品:日清MCTパウダーが挙げられる。
【0028】
本発明の焼き菓子に用いられる「その他の原料」としては、通常、焼き菓子に配合されるものであれば、特段排除されない。例えば、アーモンドパウダー、ココアパウダー、チョコレート、チョコチップ、キャラメル、チーズ、ナッツ類、アーモンドパウダー、及びはちみつ並びにこれらの加工品、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリド及び有機酸モノグリセリド等の乳化剤、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンE及びビタミンC等のビタミン類、全脂粉乳、脱脂粉乳、乳パウダー、クリーミングパウダーなどの乳製品、鉄分、カルシウムなどのミネラル類、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、カラギーナン、セルロースなどの食物繊維、エリスリトールなどの糖アルコール類、スクラロース、ソーマチン、ネオテームなどの甘味料、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸などの有機酸、食塩、重曹等の各種調味料、重曹、ベーキングパウダー等の膨張剤、その他の香料や着色料、水、牛乳、豆乳、果汁、及び野菜汁等を配合することができる。
【0029】
さらに本発明には、本発明の焼き菓子を含む食品も含まれる。例えば、クリーム、ジャム、マシュマロ、餡などを焼き菓子で包むもしくは挟み込んだ食品が挙げられる。そして、焼き菓子の表面又は裏面に、チョコレート、砂糖、卵白、醤油、油脂等を塗布もしくは被覆して味のコンビネーションを持たせた食品が挙げられる。
【0030】
本発明の焼き菓子を製造する方法は、常法であればよく、特に制限されないが、例えば、オーブン等による焼成調理、電子レンジ等によるマイクロ波調理、過熱水蒸気調理等が挙げられる。また、本発明の焼き菓子は、従来公知の方法に、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを含む脂質を配合することにより製造することができる。具体的には、まず、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを含有する脂質に、その他の原料を添加し、適宜の手段で混合し、生地を調製する。続いて、得られた生地を成形し、焼成して焼き菓子を製造する。
【実施例】
【0031】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
また、脂質、タンパク質、糖質の含量は、焼き菓子100質量%に対する質量%として計算されている。また、エネルギーは、焼き菓子100g当たりキロカロリーとして計算されている。さらに、「ケトン比」は、焼き菓子に含まれる脂質、タンパク質、糖質の含量に基づき、「脂質/(タンパク質+糖質)」(第1ケトン比)、又は、Woodyattの式(第2ケトン比)として計算されている。
【0032】
<分析方法>
トリアシルグリセロール含量は、AOCS Ce5−86に準じて測定した。
各脂肪酸含量は、AOCS Ce1f−96に準じて測定した。
【0033】
以下、炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールを「MTG」と省略する。また、そのうち、構成脂肪酸が炭素数6〜12の中鎖脂肪酸のみからなるトリアシルグリセロールを「MCT」と省略する。
<使用油脂>
〔MCT1〕:トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸がn−オクタン酸(炭素数8)とn−デカン酸(炭素数10)であり、その質量比が30:70であるMCT(日清オイリオグループ株式会社社内製:C10R)をMCT1とした。
〔MCT2〕:トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸がn−オクタン酸(炭素数8)とn−デカン酸(炭素数10)であり、その質量比が75:25であるMCT(日清オイリオグループ株式会社社内製:O.D.O.)をMCT2とした。
〔植物油脂1〕:ヤシ硬化油(日清オイリオグループ株式会社製、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の中鎖脂肪酸含量12.3質量%(内訳:n−オクタン酸含量8.0質量%、n−デカン酸含量4.3質量%)、MTG含量53.2質量%、MCT含量0質量%)を植物油脂1とした。
〔植物油脂2〕:ハイエルシン菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製、MTG含量0質量%)を植物油脂2とした。
〔植物油脂3〕:菜種油(日清オイリオグループ株式会社製、MTG含量0質量%、飽和脂肪酸6質量%、モノ不飽和脂肪酸62質量%、多価不飽和脂肪酸30質量%、オレイン酸60質量%、リノレン酸10質量%)を植物油脂3とした。
〔植物油脂4〕:パーム中融点画分(日清オイリオグループ株式会社製、MTG含量0質量%)を植物油脂4とした。
〔エステル交換油1〕:パームステアリン極度硬化油50質量部とパーム核オレイン極度硬化油50質量部との混合油を化学的エステル交換したエステル交換油(トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の中鎖脂肪酸含量3.2質量%(内訳:n−オクタン酸2.0質量%、n−デカン酸含量1.2質量%)、MTG含量13.2質量%、MCT含量0質量%)をエステル交換油1とした。
〔エステル交換油2〕:パームオレインを化学的エステル交換したエステル交換油(MTG含量0質量%)をエステル交換油2とした。
【0034】
<マーガリンの調製>
表1の配合に従って、油相と水相とを調製し、常法に従って、コンビネーターにより急冷可塑化することにより、中鎖マーガリンと長鎖マーガリンを調製した。脂質中のMTG含量について表1に示した。
【0035】
【表1】
【0036】
<粉末油脂の製造>
下記表2の配合に従って、粉末油脂を、常法に従って製造した。具体的には、まず、下記の配合に示されたMCT2又は植物油脂3を油相とし、これを加工でんぷん及びデキストリンに水を加えた水相とを良く混合し、O/W型の乳化物を作製した。そして、この乳化物をスプレードライ法にて熱風乾燥し粉末油脂を得た。なお、MCT2の粉末油脂を「MCTパウダー」といい、植物油脂3(菜種油)の粉末油脂を「LCTパウダー」という。
【0037】
【表2】
【0038】
[実施例1]
<アーモンドクッキーの製造>
下記表3の配合に従って、実施例1、比較例1のアーモンドクッキーを、常法に従って製造した。具体的には、まず、下記に示された配合の中鎖又は長鎖マーガリンに、MCTパウダー又はLCTパウダー、甘味料シュガーカット(登録商標、株式会社浅田飴)、アーモンドパウダー、卵白、重曹を加えてよく混合し、クッキー生地を得た。3mm厚に延ばして、3cmの丸型で型抜きし、150℃のオーブンで15分間焼成し、クッキーを製造した。
【0039】
【表3】
【0040】
[実施例2]
<ココアクッキーの製造>
下記表4の配合に従って、実施例2、比較例2のココアクッキーを、常法に従って製造した。具体的には、まず、下記に示された配合の中鎖又は長鎖マーガリンに、MCTパウダー又はLCTパウダー、甘味料シュガーカット(登録商標、株式会社浅田飴)、ココア、卵白、重曹を加えてよく混合し、クッキー生地を得た。3mm厚に延ばして、3cmの丸型で型抜きし、150℃のオーブンで15分間焼成し、クッキーを製造した。
【0041】
【表4】
【0042】
[実施例3]
<ガトーショコラ風ミニ焼きドーナツの製造>
下記表5の配合に従って、実施例3、比較例3の焼きドーナツを、常法に従って製造した。具体的には、まず、下記に示された配合のパウダー、マーガリン、重曹を混合し、これに全卵を加え、さらにココアパウダーを混合して、ドーナツ生地を得た。リング形の型に生地を3.5gを絞り、150℃のオーブンで17分間焼成し、下記の焼きドーナツを製造した。
【0043】
【表5】
【0044】
[実施例4]
<フィナンシェ風パフクッキーの製造>
下記表6の配合に従って、実施例4、比較例4のフィナンシェ風パフクッキーを、常法に従って製造した。具体的には、まず、下記に示された配合のパウダー、マーガリンを混合し、これに卵白を加え、さらにアーモンドパウダーを混合して、生地を得た。ハート形の型に生地4gを絞り、150℃のオーブンで30分間焼成し、下記のフィナンシェ風パフクッキーを製造した。
【0045】
【表6】
【0046】
[実施例5]
<改良型アーモンドクッキーの製造>
下記表7の配合に従って、実施例5、比較例5の改良型アーモンドクッキーを作製した。ケトン比を向上させるため、下記表7の配合においては、上記[実施例1]の上記表3の配合の甘味料であるシュガーカット(登録商標)に代えて、ミラスィー(登録商標、DSP五協フード&ケミカル株式会社)を使用した。この変更に合わせて、他の成分を調整した。その他は、実施例1と同様に行った。
【0047】
【表7】
【0048】
[実施例6]
<ココアクッキーの製造>
下記表8の配合に従って、実施例6、比較例6の改良型ココアクッキーを作製した。ケトン比を向上させるため、下記表8の配合においては、上記[実施例2]の上記表4の配合の甘味料であるシュガーカット(登録商標)に代えて、ミラスィー(登録商標、DSP五協フード&ケミカル株式会社)を使用した。この変更に合わせて、他の成分を調整した。その他は実施例2と同様に行った。
【0049】
【表8】
【0050】
[実施例7]
<ガトーショコラ風ミニ焼きドーナツの製造>
下記表9の配合に従って、実施例7、比較例7の改良型ガトーショコラ風ミニ焼きドーナツを作製した。ケトン比を向上させるため、下記表9の配合においては、上記[実施例3]の上記表5の配合の甘味料であるシュガーカット(登録商標)に代えて、ミラスィー(登録商標、DSP五協フード&ケミカル株式会社)を使用した。この変更に合わせて、他の成分を調整した。その他は実施例3と同様に行った。
【0051】
【表9】
【0052】
[実施例8]
<フィナンシェ風パフクッキーの製造>
下記表10の配合に従って、実施例8、比較例8の改良型フィナンシェ風パフクッキーを作製した。ケトン比を向上させるため、下記表10の配合においては、上記[実施例4]の上記表6の配合の甘味料であるシュガーカット(登録商標)に代えて、ミラスィー(登録商標、DSP五協フード&ケミカル株式会社)を使用した。この変更に合わせて、他の成分を調整した。して、香料を使用した。その他は実施例4と同様に行った。
【0053】
【表10】
【0054】
<焼き菓子の評価>
上記で製造した、実施例及び比較例の焼き菓子の食感等について、以下の評価方法に従って評価した。
【0055】
<焼き菓子の評価方法>
(1)油っぽさの評価方法
以下の基準に従って、熟練した10名のパネラーにより、総合的に評価した。
◎:油っぽくない
○:わずかに油っぽい
△:少し油っぽい
×:油っぽい
(2)食感の評価方法
以下の基準に従って、熟練した10名のパネラーにより、総合的に評価した。
◎:しっとりとした食感があり良好
○:しっとりとした食感はややあるが、十分でない
△:しっとりとした食感がほとんどない
×:しっとりとした食感がなく、不良である
(3)口どけの評価方法
以下の基準に従って、熟練した10名のパネラーにより、総合的に評価した
◎:口の中でダマにならず、なめらかな食感
○:口の中でダマになりにくく、まあまあなめらかな食感
△:口の中で少しダマになり、ややザラつきを感じる
×:口の中でダマになり、ザラつきを感じる
(4)風味の評価方法
以下の基準に従って、熟練した10名のパネラーにより、総合的に評価した
◎:素材本来の風味が強く感じられる
○:素材本来の風味がまあまあ感じられる
△:素材本来の風味がやや感じられる
×:素材本来の風味が感じられない
【0056】
表3ないし10から明らかであるように、構成脂肪酸として炭素数6〜12の中鎖脂肪酸を有するトリアシルグリセロールが、全脂質の50質量%以上を占めているような脂質を用いることにより、高油分とした場合であっても、油っぽくなく、また、しっとりとした食感とざらつきのない良好な口どけを有し、さらに、素材本来の風味がより一層感じられる、穀粉を実質的に含まない焼き菓子を製造することができた。特に、実施例4ないし8の改良型では、ケトン比が十分に高く、良好なケトン体の生成を期待できるものであり、ケトン食対応として好ましく使用できる。