(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976368
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】導電性金属ペースト
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20160809BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20160809BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20160809BHJP
H05K 3/12 20060101ALI20160809BHJP
B22F 1/00 20060101ALN20160809BHJP
B22F 1/02 20060101ALN20160809BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B1/00 E
H01B1/00 J
B22F9/00 B
H05K3/12 610G
!B22F1/00 K
!B22F1/00 L
!B22F1/00 M
!B22F1/00 R
!B22F1/02 B
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-86956(P2012-86956)
(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公開番号】特開2013-218831(P2013-218831A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】橋本 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】大澤 正人
(72)【発明者】
【氏名】林 義明
(72)【発明者】
【氏名】金澤 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】崎尾 進
【審査官】
高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第02/035554(WO,A1)
【文献】
国際公開第05/116152(WO,A1)
【文献】
特開2007−246897(JP,A)
【文献】
特開昭59−179651(JP,A)
【文献】
特開平02−155113(JP,A)
【文献】
特開2001−279192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/18−1/24
H01B 13/00
B22F 9/00−9/30
C09D 1/00−10/10
H05K 1/00
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低極性溶媒と、表面が炭素数6〜18の脂肪酸および脂肪酸部分の炭素数6〜18の脂肪族アミンのうち少なくとも何れか一方の分散剤で被覆された金属微粒子と、ポリイミドワニスとを含む導電性金属ペーストであって、
前記金属微粒子の平均粒子径が1nm〜50nmの範囲内であり、
レオロジーコントロール剤としてOH基及びアルキル基の少なくとも何れか一方を有するシリカを含むことを特徴とする導電性金属ペースト。
【請求項2】
前記ポリイミドワニスがイミド閉環したものであることを特徴とする請求項1記載の導電性金属ペースト。
【請求項3】
ポリアミドを更に含むことを特徴とする請求項1または2記載の導電性金属ペースト。
【請求項4】
前記低極性溶媒は、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シクロドデカン、シクロドデセン、オクチルベンゼン、ドデシルベンゼンから選ばれる少なくとも1種の液状炭化水素からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性金属ペースト。
【請求項5】
平均粒子径が1〜20μmである金属フィラーを更に含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性金属ペースト。
【請求項6】
前記金属フィラーと前記金属微粒子との総和を100重量%とした場合に、前記金属フィラーが50〜95重量%の範囲内であることを特徴とする請求項5記載の導電性金属ペースト。
【請求項7】
前記分散剤で被覆された前記金属微粒子の表面にシランカップリング剤が吸着していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性金属ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属ペーストに関し、特に、スクリーン印刷法にて金属配線を形成するために利用されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの製造工程において金属配線や導電膜の形成に所謂スクリーン印刷法を用いることが従来から知られている。スクリーン印刷法では、ガラスやシリコン等からなる基板と対向させてスクリーン版を配置し、このスクリーン版に形成された開口パターンを介して基板表面に導電性金属ペーストを塗布することで、基板表面に開口パターンに対応した導電性金属ペーストが印刷される。そして、この印刷した導電性金属ペーストを焼成することで、導電性金属ペーストの金属微粒子表面を被覆する分散剤が脱離して金属微粒子同士が焼結して導電性を有する金属配線が得られる。
【0003】
ところで、近年では、電子デバイスの性能向上のため、金属配線の更なる低抵抗化が求められている。金属配線の更なる低抵抗化を図る方法は、例えば特許文献1で知られている。このものでは、金属固形分として金属微粒子と金属フィラーとの双方を含み、垂れや滲みを防止するワニス状樹脂を更に含む導電性金属ペーストを用い、この導電性金属ペーストを基板表面に、例えば1μm以上の厚さで塗布するようにしている。上記導電性金属ペーストを1μm以上の厚さで塗布するような場合、その基板表面状態によっては、例えば数μm程度の段差や溝のような微細な凹凸を有する場合には、垂れや滲みを完全に防止できない。このことから、上記ワニス状樹脂のような添加剤の添加量を増やすことが考えられる。
【0004】
ここで、一般に、高い粘度を有する極性溶媒を用い、添加剤の添加量を増やすと、導電性金属ペーストの粘度が高くなり、基板表面に導電性金属ペーストを均一に塗布できない。他方、金属固形分濃度を低くすれば、導電性金属ペーストの粘度を低くできるが、焼成後の金属配線の厚さが薄くなる。そこで、金属固形分濃度を高く維持したまま、添加剤の添加量を増やすためには、極性溶媒よりも粘度が低い低極性溶媒を用いることが効果的である。然し、上記ワニス状樹脂のような添加剤は、通常、極性を有するものが多く、このように極性を有する添加剤は低極性溶媒中に十分に溶解させることが困難である。このため、微細な凹凸を有する基板表面に導電性金属ペーストを厚く塗布したときに垂れや滲みの発生を確実に抑制することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2002/035554号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、微細な凹凸を有する基板表面に導電性金属ペーストを厚く塗布したときでも垂れや滲みの発生を確実に抑制できる導電性金属ペーストを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の導電性金属ペーストは、低極性溶媒と、表面が分散剤で被覆された金属微粒子と、ポリイミドワニスとを含む導電性金属ペーストにおいて、レオロジーコントロール剤として親水基及び疎水基の少なくとも何れか一方を有するシリカを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、溶媒として極性溶媒よりも粘度が低い低極性溶媒を用いるため、金属固形分たる金属微粒子の濃度を高く維持したままで、ポリイミドワニスの添加量を増やしても、導電性金属ペーストを均一に塗布できる。ここで、ポリイミドワニスは極性を有するため、ポリイミドワニスを低極性溶媒に十分に溶解させることが困難である。
【0009】
そこで、本発明の導電性金属ペーストには、レオロジーコントロール剤としてOH基及びアルキル基の少なくとも一方を有するシリカを更に含ませている。このシリカのアルキル基の一部は、シリカの酸素とアルコキシ基を形成し、空気中の水分と容易に反応してOH基となる。OH基を有するシリカ分子同士は、低極性溶媒中において、水素結合により網目状のネットワークを形成する。これにより、導電性金属ペーストにチキソトロピック性が付与されると共に、金属微粒子の沈降が防止される(金属微粒子の高い分散安定性が得られる)。このようにネットワークを形成したシリカ分子の間に、極性を有するポリイミドワニスが入り込む。低極性溶媒にシリカ分子のネットワークを形成しておけば、ポリイミドワニスを十分に溶解させることができるため、微細な凹凸を有する基板表面に導電性金属ペーストを厚く塗布しても、垂れや滲みの発生を確実に抑制することができる。そして、上記の如く金属微粒子の濃度を高く維持できるという効果と相俟って厚膜の金属配線を形成でき、金属配線の低抵抗化を実現できる。
【0010】
尚、金属微粒子としては、その平均粒子径が1nm〜50nmの範囲内であるものを用いることができる。平均粒子径が1nm未満になると、比表面積が増大することに伴い、金属微粒子表面を被覆する分散剤の量が増大するため、焼成時に分散剤の脱離が不十分になり、金属配線の抵抗値が高くなるという不具合が生じる。一方、平均粒子径が50nmを超えると、導電性金属ペースト中の金属微粒子の分散性が低下するという不具合がある。
【0011】
本発明において、前記ポリイミドワニスとしてイミド閉環したものを用いれば、低極性溶媒に対するポリイミドワニスの溶解性を更に高めることができてよい。
【0012】
本発明において、ポリアミドを更に含ませることが好ましい。これによれば、ポリアミドが金属微粒子に架橋して、チキソトロピック性を一層高めることができる。導電性金属ペーストを高速で塗布する場合でも、垂れや滲みを防止することができる。
【0013】
尚、金属微粒子表面を被覆する分散剤として、炭素数6〜18の脂肪酸および脂肪酸部分の炭素数6〜18の脂肪族アミンのうち少なくとも何れか一方を用いることが好ましい。炭素数6未満の脂肪酸や脂肪酸部分の炭素数6未満の脂肪族アミンでは、導電性金属ペースト中での金属微粒子の分散性が低下するという不具合が生じる。一方、炭素数19以上の脂肪酸や脂肪酸部分の炭素数19以上の脂肪族アミンでは、焼成時に金属微粒子表面からの脂肪酸や脂肪族アミンの脱離が不十分となり、焼成後の金属配線の抵抗が高くなる(導電性が低下する)という不具合が生じる。
【0014】
本発明において、低極性溶媒としては、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シクロドデカン、シクロドデセン、オクチルベンゼン、ドデシルベンゼンから選ばれる少なくとも1種の液状炭化水素を単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明において、平均粒子径が1〜20μmである金属フィラーを更に含ませてもよい。この場合、金属フィラーと金属微粒子との総和を100重量%とすると、金属フィラーの比率を50〜95重量%の範囲内とすることが好ましい。金属フィラーの比率が50重量%未満では、スクリーン印刷により得られる金属配線の膜厚を厚くすることが困難となるという不具合、さらには、金属配線の膜厚を厚くすることができても、焼成時に金属微粒子表面からの分散剤の脱離が不十分となり、焼成後の金属配線の抵抗が高くなるという不具合が生じる。一方、金属フィラーの比率が95重量%を超えると、金属微粒子を介した金属フィラー同士の焼結が不十分となり、焼成後の金属配線の抵抗が高くなるという不具合が生じる。
【0016】
本発明において、
前記分散剤で被覆された金属微粒子の表面にシランカップリング剤を吸着させることが好ましい。シランカップリング剤としては、アミノアルキルトリアルコキシシランを用いることができる。これによれば、焼成後の金属配線と基板表面との間の密着性を更に向上させることができる。
【0017】
本発明において用いられる金属は、Ag、Au、Cu、Ni、Pd、In、Sn、Rh、Ru、Pt、In及びSnから選択された少なくとも1種の金属又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金であり、目的・用途に応じて適宜選択することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の導電性金属ペーストについて、Agペーストを例に説明する。本実施形態のAgペーストは、低極性溶媒と、表面が分散剤で被覆されたAg微粒子と、垂れや滲み防止用の添加剤としてのポリイミドワニスと、レオロジーコントロール剤としてのOH基及びアルキル基の少なくとも何れか一方を有するシリカとを含む。
【0019】
Ag微粒子としては、その平均粒子径が1nm〜50nmの範囲内であるものを用いることができる。市販の製品の商品名としては、例えば、Ag1T(株式会社アルバック製)を挙げることができる。平均粒子径が1nm未満になると、比表面積が増大してAg微粒子表面を被覆する分散剤の量が増大するため、焼成時に分散剤の脱離が不十分になり、Ag配線の抵抗値が高くなるという不具合が生じる。一方、平均粒子径が50nmを超えると、Agペースト中のAg微粒子の分散性が低下するという不具合が生じる。
【0020】
Ag微粒子表面を被覆する分散剤としては、炭素数6〜18の脂肪酸および脂肪酸部分の炭素数6〜18の脂肪族アミンの少なくともいずれか一方を用いることが好ましい。炭素数6未満の脂肪酸や脂肪酸部分の炭素数6未満の脂肪族アミンでは、Agペースト中でのAg微粒子の分散性が低下するという不具合が生じる。一方、炭素数19以上の脂肪酸や脂肪酸部分の炭素数19以上の脂肪族アミンでは、焼成時にAg微粒子表面からの脂肪酸や脂肪族アミンの脱離が不十分となり、Ag配線膜の抵抗値が高くなるという不具合が生じる。
【0021】
脂肪酸としては、例えば、カルボン酸を用いることができる。具体的には、炭素数6のヘキサン酸、ネオヘキサン酸、2−エチル酪酸;炭素数7のヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸;炭素数8のオクタン酸、ネオオクタン酸;炭素数9のノナン酸;炭素数10のデカン酸、ネオデカン酸;炭素数11のウンデカン酸;炭素数12のドデカン酸;炭素数14のテトラデカン酸;炭素数16のパルミチン酸;及び炭素数18のステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸から選択された少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0022】
脂肪族アミンとしては、炭素数6のヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン;炭素数7のヘプチルアミン;炭素数8のオクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン;炭素数9のノニルアミン;炭素数10のデシルアミン;炭素数12のドデシルアミン;及び炭素数14のテトラドデシルアミンから選択された少なくとも1種を好ましく用いることができる。
【0023】
ポリイミドワニスとしては、イミド閉環したもの(例えば閉環率が40%以上のもの)を用いることが好ましい。これによれば、低極性溶媒に対するポリイミドワニスの溶解性を更に高めることができる。また、ポリイミドワニスは、耐熱性に優れるため、塗布したAgペーストを例えば200℃以上の温度で焼成しても劣化しない。
【0024】
シリカとしては、例えばOH基を有する親水性シリカ、アルキル基を有する疎水性シリカ、OH基とアルキル基の双方を有するシリカから選択された少なくとも1種を単独でまたは組み合わせて用いることができる。尚、シリカのアルキル基の一部は、シリカの酸素とアルコキシ基を形成し、空気中の水分と容易に反応してOH基となる。OH基を有するシリカ分子同士は、低極性溶媒中において、後述の如く水素結合により網目状のネットワークを形成し、導電性金属ペーストにチキソトロピック性を付与する。
【0025】
また、Ag微粒子の表面にシランカップリング剤を吸着させることが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノプロピルトリエトキシシランのようなアミノ基及びアルコキシ基を有するものを用いることができる。これによれば、塗布したAgペーストを焼成する際に、アルコキシ基が加水分解してOH基となり、このOH基の脱水縮合により基板表面に対する優れた密着性が得られる一方で、アミノ基は金属表面と強く結合する。その結果、焼成後の金属配線と基板表面との間で優れた密着性が得られる。更に、このようにアミノ基が金属表面と強く結合することで、ポリイミドワニスによる作用と相俟って、Agペーストの垂れや滲みを効果的に防止できる。
【0026】
低極性溶媒としては、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シクロドデカン、シクロドデセン、オクチルベンゼン、ドデシルベンゼンから選ばれる少なくとも1種の液状炭化水素を用いることができる。
【0027】
本実施形態のAgペーストは、平均粒子径が1μm〜20μmの範囲内であるAgフィラーを更に含むことができる。この場合、Ag微粒子とAgフィラーとの総和を100重量%とすると、Agフィラーの比率を50〜95重量%の範囲内とすることが好ましい。Agフィラーの比率が50重量%未満(Ag微粒子の比率が50重量%以上)では、スクリーン印刷により得られるAg配線の膜厚を例えば10μm以上に厚くすることが困難となる場合がある。また、Ag配線の膜厚を厚くすることができたとしても、焼成時にAg微粒子表面からの分散剤の脱離が不十分となり、焼成後のAg配線の抵抗が高くなる場合がある。一方、Agフィラーの比率が95重量%を超えると(Ag微粒子の比率が5重量%以下では)、Ag微粒子を介したAgフィラー同士の焼結が不十分となり、焼成後のAg配線の抵抗が高くなるという不具合が生じる。
【0028】
本実施形態のAgペーストに、ポリアミドを更に含ませることができる。このポリアミドがAg微粒子に架橋することで、Agペーストにチキソトロピック性が付与されるため、上記シリカの作用と相俟って、Agペーストのチキソトロピック性を高めることができる。ポリアミドとしては、例えば、二塩基酸とジアミンとの重縮合、二塩基酸誘導体またはダイマー酸とジアミンとの重縮合、ラクタムの開環重合等の公知の方法で合成される少なくとも1種のポリアミドワックスを単独でまたは組み合わせて用いることができる。市販の製品の商品名としては、例えば、DISPARLON 3900EF(楠本化成株式会社製)を挙げることができる。
【0029】
金属としては、上記Agの他に、例えば、Au、Cu、Ni、Pd、Rh、Ru、Pt、In及びSnから選択された少なくとも1種の金属又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金を、目的や用途に応じて適宜選択することができる。以下、導電性金属ペーストの製造方法について、Agペーストを製造する場合を例に説明する。
【0030】
先ず、平均粒子径が1nm〜50nmのAg微粒子の分散液をガラス製容器に収容し、エバポレータを用いてトルエン等の溶媒を除去する。これにより、表面が上記脂肪酸部分の炭素数6〜18の脂肪酸および炭素数6〜18の脂肪族アミンの少なくともいずれか一方で被覆されたAg微粒子を得る。
【0031】
なお、Ag微粒子表面にシランカップリング剤を吸着させる場合には、平均粒子径が1nm〜50nmのAg微粒子に、シランカップリング剤を加えて攪拌する。そして、この攪拌したものにアセトン等の極性溶媒を加えてAg微粒子を沈降させ、その上澄み液をデカンテーションなどにより流出させる(以降、この作業を「洗浄工程」という)。この洗浄工程を複数回繰り返し、溶媒を除去して、シランカップリング剤が表面に吸着したAg微粒子を得る。
【0032】
次に、上記Ag微粒子と、OH基又はアルキル基を有するシリカと、イミド閉環したポリイミドワニスと、炭化水素からなる低極性溶媒とを所定の割合で配合する。この場合、Ag微粒子の割合は60〜90重量%、シリカの割合は0.2〜1重量%、ポリイミドワニスの割合は0.5〜3重量%、低極性溶媒の割合は5〜30重量%の範囲内とすることが好ましい。そして、上記配合したものを3本ロールミルにより混練することで、Agペーストが得られる。
【0033】
尚、Ag固形分として、上記Ag微粒子と共に平均粒子径1〜20μmのAgフィラーを配合してもよい。この場合、AgフィラーとAg微粒子との総和を100重量%とすると、Agフィラーの割合は50〜95重量%の範囲内とすることが好ましい。また、ポリアミドを0.3〜4重量%の割合で配合して、Agペーストのチキソトロピック性を更に高めるようにしてもよい。
【0034】
以上説明した実施形態のAgペーストは、溶媒として極性溶媒よりも粘度が低い低極性溶媒を用いるため、Ag固形分濃度(Ag微粒子及びAgフィラーの濃度)を高く維持したまま、ポリイミドワニスの添加量を増やしても、Agペーストの印刷性が低下することがない。ここで、ポリイミドワニスは極性を有するため、微細な凹凸を有する基板表面に厚く塗布したときに十分な滲み防止効果が得られる量のポリイミドワニスを低極性溶媒に溶解させることが難しい。
【0035】
そこで、本実施形態のAgペーストには、レオロジーコントロール剤としてOH基及びアルキル基の少なくとも一方を有するシリカを更に含ませている。シリカのアルキル基の一部は、シリカの酸素とアルコキシ基を形成し、空気中の水分と容易に反応してOH基となる。OH基を有するシリカ分子同士は、低極性溶媒中において、水素結合により網目状のネットワークを形成する。これにより、Agペーストにチキソトロピック性が付与されると共に、Ag微粒子の沈降が防止される(Ag微粒子の分散安定性が高い)。ポリイミドワニスは極性を有するため、低極性溶媒中に孤立して存在するのではなく、網目状のネットワークを形成したシリカ分子の間に入り込む。低極性溶媒に十分な量のシリカ分子のネットワークを形成しておけば(シリカ分子間の空間を確保しておけば)、低極性溶媒に対するポリイミドワニスの添加量を増やすことができるため、微細な凹凸を有する基板表面に導電性金属ペーストを厚く塗布しても、垂れや滲みの発生を抑制することができる。そして、上記Ag固形分濃度を高く維持したままポリイミドワニスの添加量を増やすことができるという効果と相俟って、焼成後のAg配線の厚さを厚くでき、配線幅の細いAg配線の低抵抗化を実現することができる。
【0036】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
平均粒子径4nmのAg微粒子(株式会社アルバック製の商品名「Agナノメタルインク」)100gに、アミノアルキルトリアルコキシシラン10gを加え、25℃にて12時間撹拌した。これにアセトン500gを加えてAg微粒子を沈降させ、上澄み液をデカンテーションなどにより流出させる「洗浄工程」を複数回繰り返し、アミノアルキルトリアルコキシシランが表面に吸着したAg微粒子(以下「Ag微粒子1」という)を得た。Ag微粒子1を10重量部、平均粒子径3μmのAgフィラー(福田金属箔粉工業製の商品名「シルコート」)を90重量部、アルキル基を有する疎水性シリカ(日本アエロジル製の商品名「AEROSIL R972」)を0.4重量部、イミド閉環したポリイミドワニス(荒川化学製の商品名「コンポセラン H802」)を2.66重量部、及びドデシルベンゼンを17重量部配合した。そして、この配合したものを3本ロールミルにより混練してAgペーストを得た。得られたAgペーストをスクリーン印刷法により微細な凹凸のある(数μm程度の段差や溝を有する)ガラス基板表面に線幅100μmで塗布して印刷し、230℃で30分焼成した。印刷されたAgペーストには垂れや滲みが見られなかった。焼成後のAg配線について碁盤の目テープ剥離試験を行った結果、Ag配線の剥離は全く見られず、ガラス基板に対して優れた密着性が得られることが確認された。焼成後のAg配線の膜厚は24.6μm、線幅は124μm、比抵抗は7.9μΩ・cmであった。これによれば、Ag配線の低抵抗化を実現できることが確認された。
【0037】
(実施例2)
上記実施例1で得たAg微粒子1を10重量部、平均粒子径3μmのAgフィラー(福田金属箔粉工業製の商品名「シルコート」)を90重量部、少なくともアルキル基を有する疎水性シリカ(日本アエロジル製の商品名「AEROSIL R976」)を0.4重量部、イミド閉環したポリイミドワニス(荒川化学製の商品名「コンポセラン H802」)を2.66重量部、及びドデシルベンゼンを17重量部配合した。そして、上記実施例1と同様に、配合したものを3本ロールミルにより混練してAgペーストを得て、このAgペーストをスクリーン印刷法により微細な凹凸のあるガラス基板表面に線幅100μmで塗布して印刷し、230℃で30分焼成した。印刷されたAgペーストには垂れや滲みが見られなかった。焼成後のAg配線は、ガラス基板に対して優れた密着性を持ち、膜厚は23.2μm、線幅は128μm、比抵抗は7.9μΩ・cmであり、Ag配線の低抵抗化を実現できることが確認された。
【0038】
(実施例3)
上記実施例1で得たAg微粒子1を10重量部、平均粒子径3μmのAgフィラー(福田金属箔粉工業製の商品名「シルコート」)を90重量部、少なくともOH基を有する親水性シリカ(日本アエロジル製の商品名「AEROSIL 200」)を0.4重量部、イミド閉環したポリイミドワニス(荒川化学製コンポセラン H802)を2.66重量部、及びドデシルベンゼンを17重量部配合した。そして、上記実施例1と同様に、配合したものを3本ロールミルにより混練してAgペーストを得て、このAgペーストをスクリーン印刷法により微細な凹凸のあるガラス基板表面に線幅100μmで塗布して印刷し、230℃で30分焼成した。印刷されたAgペーストには垂れや滲みが見られなかった。焼成後のAg配線は、ガラス基板に対して優れた密着性を持ち、膜厚は21.0μm、線幅は130μm、比抵抗は8.3μΩ・cmであり、Ag配線の低抵抗化を実現できることが確認された。
【0039】
(実施例4)
上記実施例1で得たAg微粒子1を10重量部、平均粒子径3μmのAgフィラー(福田金属箔粉工業製の商品名「シルコート」)を90重量部、アルキル基を有する疎水性シリカ(日本アエロジル製の商品名「AEROSIL R976」)を0.4重量部、OH基を有する親水性シリカ(日本アエロジル製の商品名「AEROSIL 200」)を0.4重量部、イミド閉環したポリイミドワニス(荒川化学製の商品名「コンポセラン H802」)を2.66重量部、及びドデシルベンゼンを17重量部配合した。そして、上記実施例1と同様に、配合したものを3本ロールミルにより混練してAgペーストを得て、このAgペーストをスクリーン印刷法により微細な凹凸のあるガラス基板表面に線幅100μmで塗布して印刷し、230℃で30分焼成した。印刷されたAgペーストには垂れや滲みが見られなかった。焼成後のAg配線は、ガラス基板に対して優れた密着性を持ち、膜厚は20.0μm、線幅は129μm、比抵抗は13.3μΩ・cmであり、配線幅の細いAg配線の低抵抗化を実現できることが確認された。
【0040】
次に、上記実施例に対する比較例について説明する。
(比較例1)
平均粒子径4nmのAg微粒子(アルバック製の商品名「Agナノメタルインク」)100gに、アセトン500gを加えてAg微粒子を沈降させ、上澄み液をデカンテーションなどにより流出させる「洗浄工程」を複数回繰り返し、Ag微粒子(以下「Ag微粒子2」という)を得た。Ag微粒子2を10重量部、平均粒子径3μmのAgフィラー(福田金属箔粉工業製の商品名「シルコート」)を90重量部、及びドデシルベンゼンを19重量部配合した。そして、この配合したものを3本ロールミルにより混練してAgペーストを得た。得られたAgペーストを用いてスクリーン印刷法により微細な凹凸のあるガラス基板表面に線幅100μmで塗布して印刷し、230℃で30分焼成した。上記実施例とは異なり、印刷されたAgペーストは垂れや滲みが顕著に発生していた。焼成後のAg配線について碁盤の目テープ剥離試験を行ったところ、Ag配線の全面が剥離した。また、焼成後のAg配線の膜厚は11μm、線幅は180μm、比抵抗は23μΩ・cmであった。これによれば、上記実施例に比べてAg配線の比抵抗が大幅に増大して低抵抗化を実現できないことが判った。