(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
超音波を送信し、被検体によって反射された超音波エコーを受信して、受信した超音波エコーに応じたアナログ受信信号を出力する超音波トランスデューサを、複数、有する超音波プローブと、
前記超音波トランスデューサが出力したアナログ受信信号をA/D変換して、デジタル受信信号とするAD変換手段と、
前記デジタル受信信号を記憶する記憶手段と、
前記AD変換手段が変換したデジタル受信信号、もしくは、前記記憶手段から読み出したデジタル受信信号を用いて、前記被検体内の複数点における音速を決定する音速決定手段と、
前記AD変換手段が変換したデジタル受信信号、もしくは、前記記憶手段から読み出したデジタル受信信号に、少なくとも受信フォーカス処理を施して、時間に対応する、もしくは、距離に対応する、前記被検体の輝度画像を生成する信号処理手段と、
前記信号処理手段が時間に対応する輝度画像を生成した場合に、前記信号処理手段が生成した時間に対応する輝度画像に対して、前記音速決定手段が決定した各画素の位置に対応する音速に基づいて時間−距離の座標変換を行い、前記座標変換を行った輝度画像の画素を補間することにより、座標変換前の輝度画像に対応する画素位置を有する補正画像を生成する座標変換手段とを有することを特徴とする超音波診断装置。
少なくとも1つの着目領域を設定する着目領域設定手段と、前記超音波プローブに、前記設定された着目領域に対応する超音波の送受信を行わせる送受信制御手段とを有し、
かつ、前記音速決定手段は、前記着目領域のデジタル受信信号を受信フォーカスするための設定音速を、複数、設定するための設定音速指定手段、および、前記設定音速毎に前記着目領域のデジタル受信信号を受信フォーカスして、前記着目領域における輝度画像のフォーカス指標を算出するフォーカス指標算出手段を有し、このフォーカス指標を用いて、前記着目領域の音速を決定するものである請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の超音波診断装置およびデータ処理方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0017】
図1に、本発明のデータ処理方法を実施する、本発明の超音波診断装置の一例を、ブロック図で概念的に示す。
【0018】
図1に示す超音波診断装置10は、通常の超音波診断装置と同様に、超音波プローブ12と、超音波プローブ12に接続される診断装置本体13とを有して構成される。
このような超音波診断装置10は、超音波プローブ12が、被検体に超音波ビームを送信すると共に、被検体によって反射された超音波エコーに応じた受信信号を診断装置本体13に出力し、診断装置本体13が、この受信信号を処理して、超音波画像を生成して表示する装置である。
【0019】
超音波プローブ12は、被検体に当接させて使用するものであり、通常の超音波診断装置に用いられる振動子アレイ42を有する。
振動子アレイ42は、1次元または2次元に配列された複数の超音波トランスデューサ(超音波送受信素子)を有する。超音波トランスデューサは、超音波画像の撮像の際に、それぞれ送信回路14から供給される駆動信号に従って超音波ビームを被検体に送信すると共に、被検体によって反射された超音波エコーに応じた受信信号を出力する。
【0020】
各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
【0021】
振動子の電極に、パルス状または連続波の電圧を印加すると、印加された電圧に応じて圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状または連続波の超音波が発生する。また、各振動子から発生した超音波は、各振動子の駆動の遅延に応じて合成されて(すなわち送信フォーカスされて)、超音波ビームが形成される。
また、振動子は、被検体内で反射された超音波エコーが入射することで伸縮し、この伸縮の大きさ応じた電気信号を発生する。この電気信号はアナログ受信信号として、装置本体13の受信回路16に出力される。
【0022】
一方、診断装置本体13(以下、装置本体13とする)は、送信回路14および受信回路16と、画像生成部18と、素子データメモリ22と、着目領域演算部24と、表示制御部32と、表示部34と、制御部36と、操作部38と、格納部40とを有する。
【0023】
送信回路14は、例えば、複数のパルサを有し、超音波プローブ12の振動子アレイ42の超音波トランスデューサに、駆動信号を供給する(駆動電圧を印加する)。
送信回路14は、制御部36が選択した送信遅延パターンに基づいて、複数の超音波トランスデューサが送信する超音波が、目的とする超音波ビームを形成するように、駆動信号の遅延量(駆動電圧の印加タイミング)を調節する送信フォーカスを行って、駆動信号を超音波トランスデューサに供給する。これにより、超音波プローブ12(振動子アレイ42)から被検体に、目的とする超音波ビームが送信される。
【0024】
受信回路16は、振動子アレイ42の各超音波トランスデューサが出力したアナログの受信信号(アナログの電気信号)を増幅し、さらに、A/D(アナログ/デジタル)変換して、デジタルの受信信号(RFデータ)を生成する。以下、受信回路16が生成した、このデジタルの受信信号を、素子データとも言う。
受信回路16は、生成した素子データを、画像生成部18および素子データメモリ22に供給する。
【0025】
ここで、前述のように、超音波の送信は、送信遅延パターンに応じて行われる。また、後述する信号処理部46での素子データ(受信信号)の処理すなわち超音波画像の形成は、後述する環境音速が決定されていない状態では、受信遅延パターンに応じて行われる。
送信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサから送信される超音波によって所望の方向に超音波ビームを形成するために駆動信号に与えられる遅延時間のパターンデータである。他方、受信遅延パターンとは、複数の超音波トランスデューサによって受信される超音波によって所望の方向からの超音波エコーを抽出するために素子データに与えられる遅延時間のパターンデータである。
複数の送信遅延パターンおよび受信遅延パターンが予め格納部40に格納されている。制御部36は、格納部40に格納されている複数の送信遅延パターンおよび受信遅延パターンの中から1つの送信遅延パターンおよび受信遅延パターンを選択し、選択した送信遅延パターンおよび受信遅延パターンに従って、送信回路14および信号処理部46に制御信号を出力して、超音波の送受信制御を行う。
【0026】
画像生成部18は、受信回路16から供給された素子データ(受信信号)から、超音波画像を生成するものである。
図1に示すように、画像生成部18は、信号処理部46、歪み補正部47、DSC48、画像処理部50、および、画像メモリ52を有する。
【0027】
各超音波トランスデューサと被検体内の超音波反射源との間の距離がそれぞれ異なるため、各超音波トランスデューサに超音波エコーが到達する時間が異なる。
信号処理部46は、制御部36から供給された受信遅延パターンに応じた制御信号、あるいは、後述する着目領域演算部24から供給される環境音速に基づいて、輝度画像の受信データにおける超音波エコーの到達時刻の差(遅延時間)を補正して受信フォーカス処理を行い、さらに所定の処理を行って、超音波画像(Bモード画像信号)を生成する。
本実施形態の場合、信号処理部46は、各超音波トランスデューサ毎の超音波エコーの到達時刻の差(遅延時間)に相当する分、各受信データを遅延し、遅延時間を与えた受信データを整合加算することによりデジタル的に受信フォーカス処理を行う。
【0028】
一例として、超音波診断装置10には、受信遅延パターンに応じた受信フォーカス処理と、環境音速に応じた受信フォーカス処理とが、例えばモード等によって選択可能(切り替え可能)に構成されている。
超音波診断装置10では、モードの選択等によって、環境音速に応じた受信フォーカス処理が選択された場合には、素子データメモリ22に素子データが記憶されたら、素子データメモリ22から素子データを読み出して環境音速を決定して(リアルタイムで環境音速を決定して)、この環境音速を用いて、後述する
図2に示す方法によって遅延時間の補正を行って、受信フォーカス処理を行う。環境音速の決定に関しては、後に詳述する。また、超音波診断装置10においては、環境音速に応じた受信フォーカス処理が選択された場合には、後述する環境音速を用いる座標変換による歪み補正も行う(歪み補正モード)。なお、本発明においては、環境音速に応じた受信フォーカス処理が選択された場合に、歪み補正を行うか否かも、モード等によって選択可能にしてもよい。
また、モードの選択等によって、受信遅延パターンに応じた受信フォーカス処理が選択された場合には、信号処理部46は、公知の超音波診断装置と同様に、受信遅延パターンに応じて受信フォーカス処理を行う。
ただし、本発明は、これに限定はされず、各種の態様が利用可能である。例えば、操作者が関心領域(ROI(Region of Interest))を設定するまでは、公知の超音波診断装置と同様に、受信遅延パターンに応じて受信フォーカス処理を行い、ROIが設定されたら、環境音速を決定して、以降は、後述する
図2に示す方法によって遅延時間の補正を行って、受信フォーカス処理を行うようにしてもよい。
なお、本発明において、環境音速に応じた受信フォーカス処理は、この方法に限定はさらない。例えば、制御部36が、環境音速に応じた受信遅延パターンを選択して、これに応じた制御信号を信号処理部46に供給してもよい。あるいは、制御部36が環境音速に応じて受信遅延パターンを補正して、補正した受信遅延パターンに応じた制御信号を信号処理部46に供給してもよい。あるいは、信号処理部46が、環境音速に応じて、制御部36から供給された制御信号を補正して、受信フォーカス処理を行ってもよい。
【0029】
超音波反射源と異なる位置に別の超音波反射源がある場合には、別の超音波反射源からの受信信号は到達時刻が異なるので、信号処理部46で加算することにより、別の超音波反射源からの受信信号の位相が打ち消し合う。これにより、超音波反射源からの受信信号が最も大きくなり、フォーカスが合う。受信フォーカス処理によって、超音波エコーの焦点が絞り込まれた受信データ(音線信号)が生成される。
【0030】
前述のように、受信遅延パターンを用いた受信フォーカス処理は、公知の超音波診断装置を同様に行えばよい。
他方、環境音速に応じた受信フォーカス処理は、環境音速に応じて素子データ(受信信号)の遅延時間を補正して、行う。以下、信号処理部46による素子受信データの遅延時間の補正について説明する。
【0031】
図2は、環境音速に基づいて、素子データの遅延時間を補正する様子を表す概念図である。同図に示すように、超音波プローブ12が有する複数の超音波トランスデューサ(超音波送受信素子)が、同図中左右方向に一列に配列されている場合を考える。
【0032】
ここで、超音波トランスデューサの配列方向(方位方向)における各々の超音波トランスデューサの幅をLとすると、配列方向の中心の超音波トランスデューサから端部に向かってn番目の超音波トランスデューサまでの距離はnLとなる。
同図に示すように、超音波の反射点が、中心の超音波トランスデューサから配列方向に対して垂直な距離(深さ)dの位置にあるとすると、n番目の超音波トランスデューサと反射点との間の距離(長さ)d
nは、式(1)により算出される。
d
n=((nL)
2+d
2)
1/2 … (1)
従って、環境音速Vを用いて、超音波が反射点からn番目の超音波トランスデューサで受信されるまでの時間t
nは、式(2)により算出される。
t
n=d
n/V=((nL)
2+d
2)
1/2/V … (2)
【0033】
上記のように、各々の超音波トランスデューサと反射点との間の距離はそれぞれ異なるため、この例の場合、同図上部のグラフに示すように、配列方向の端部側の超音波トランスデューサになればなるほど、時間t
nは長くなる。
【0034】
つまり、n番目の超音波トランスデューサで受信される超音波は、超音波が反射点から中心の超音波トランスデューサで受信されるまでの時間をt
1とすると、中心の超音波トランスデューサで受信される超音波に対して、時間Δt=t
n−t
1だけ遅れる。信号処理部46は、各々の超音波トランスデューサに対応する受信データについて、上記時間Δtで表される遅延時間を補正する。この遅れた遅延時間Δtを受信遅延パターンと呼ぶ。以上のように、各々の受信データの遅延時間Δtは、反射点と超音波トランスデューサの幾何学的な配置から求めた距離と環境音速から算出される。
【0035】
なお、上記例は、超音波プローブ12がリニアプローブの場合であるが、コンベックスプローブの場合もプローブ形状が違うだけで考え方は同じである。
【0036】
また、信号処理部46は、受信フォーカス処理が行われた素子データに対し、所定のデータ処理を施す。
本実施形態の場合、信号処理部46は、超音波の反射位置の深度に応じて、距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像(Bモード画像信号=超音波エコーの振幅を点の明るさ(輝度)により表した輝度画像の画像信号)を生成する。
【0037】
歪み補正部47は、着目領域演算部24から供給された環境音速に応じて、信号処理部46が生成したBモード画像の歪み補正を行う部位である。
前述のように、信号処理部46は、環境音速を決定した後は、環境音速に応じた受信フォーカス処理を行って、Bモード画像を生成する。しかしながら、環境音速は、被検体の内部でも、場所によって異なる場合が多い(被検体内には、音速分布が有る)。すなわち、反射点から超音波トランスデューサまでの超音波エコーの到達時間は、被検体の位置毎の環境音速によって、変動する。
そのため、環境音速に応じた受信フォーカス処理を行っても、Bモード画像の各画素の位置は、被検体内の実際の位置とは異なる。すなわち、被検体内の音速分布によって、画像が歪んでしまう。
【0038】
これに対し、本発明においては、歪み補正部47において、この被検体内の環境音速に応じて、座標変換を行うことにより、歪みの無いBモード画像の生成を可能にしている。
歪み補正部47は、まず、着目領域演算部24が決定した被検体内の2点以上における環境音速(本実施形態においては、後述する着目領域の内の2つ以上の着目領域における環境音速)に応じて、信号処理部46が生成したBモード画像の座標変換(Bモード画像の画素の並び替え)を行う。次いで、歪み補正部47は、補間によって所定の画素位置の画素信号を生成し、歪み補正を行ったBモード画像を生成して、DSCに48供給する。
歪み補正部47に関しては、後に詳述する。
【0039】
なお、後に詳述するが、本実施形態においては、環境音速は、後述する着目領域が設定された後に、決定される。
従って、信号処理部46は、前述のように、着目領域の設定前すなわち環境音速の決定前は、環境音速を用いず、受信遅延パターンに応じた制御信号に基づいて、受信フォーカス処理を行う。また、後述する歪み補正部47は、着目領域の設定前すなわち環境音速の決定前は、Bモード画像(超音波画像)の歪み補正を行わない。
【0040】
信号処理部46によって生成され、歪み補正部47によって歪み補正を行われたBモード画像は、通常のテレビジョン信号の走査方式とは異なる走査方式によって得られたものである。
このため、DSC(digital scan converter)48は、制御部36の制御の下で、信号処理部46で生成されたBモード画像信号を通常の画像信号、例えば、テレビジョン信号の走査方式(例えば、NTSC方式)に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
【0041】
画像処理部50は、DSC48から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、画像処理後のBモード画像信号を画像メモリ52に格納すると共に、表示制御部32に出力する。
【0042】
表示制御部32は、画像処理部50によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、表示部34に超音波診断画像を表示させる。
表示部34は、例えば、LCD等のディスプレイ装置であり、表示制御部32の制御の下で、超音波診断画像(動画/静止画)および各種の設定画面等を表示する。
【0043】
素子データメモリ22は、受信回路16から供給される素子データ(デジタルの受信信号)を、順次、格納する。また、素子データメモリ22は、制御部36から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を、上記の素子データに関連付けて格納する。
素子データメモリ22に格納された素子データおよびフレームレートに関する情報は、信号処理部46および着目領域演算部24に供給される。
【0044】
着目領域演算部24は、素子データを解析して、被検体内の2点以上(好ましくは後述する着目領域の2つ以上)において、環境音速を算出する。
後述するが、本実施形態では、着目領域演算部24は、少なくとも1つの着目領域を設定して、素子データメモリ22から、設定した着目領域の素子データ(デジタルの受信信号)を読み出し、この素子データを受信フォーカス処理してフォーカス指標を算出し、このフォーカス指標を用いて、着目領域の環境音速を決定する。
着目領域演算部24は、算出した環境音速を信号処理部46および歪み補正部47に出力する。
なお、本発明においては、この着目領域ではなく、予め設定された複数の位置(領域)や、操作者が任意に入力した複数の位置等に対して、後述する着目領域と同様な処理を行ってもよい。
【0045】
ここで、着目領域演算部24は、2以上の着目領域を設定するのが好ましく、深度方向(超音波の送受信方向)に2以上、および/または、方位方向(アジマス方向)に2以上で、着目領域を設定するのが、より好ましい。
また、着目領域演算部24は、設定した着目領域の内の少なくとも2つの着目領域で音速を決定するのが好ましく、深度方向に2つ以上、および/または、方位方向に2つ以上の着目領域で音速を決定するのが、より好ましく、全ての着目領域で音速を決定するのが、さらに好ましく、環境音速の決定を、Bモード画像の全画素に対応して行うのが、特に好ましい。
【0046】
制御部36は、医師などの操作者により操作部38から入力された指示に基づいて超音波診断装置10各部の制御を行う。また、制御部36は、前述のように、格納部40に記憶されている送信遅延パターンおよび受信遅延パターンの選択を行い、選択したパターンに応じた制御信号を、送信回路14および信号処理部46に制御信号を出力して、超音波の送受信制御を行う。
操作部38は、操作者からの指示入力を受け付ける入力デバイスであり、例えば、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネルを用いることができる。
【0047】
格納部40は、制御部36が超音波診断装置10の各部の制御を実行するための動作プログラム、送信遅延パターンおよび受信遅延パターン等を格納するもので、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM等の記録媒体を用いることができる。
なお、信号処理部46、DSC48、画像処理部50、表示制御部32および着目領域演算部24は、CPU(コンピュータ)と、CPUに各種の処理を実行させるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。
【0048】
次に、着目領域演算部24の詳細について説明する。
図3は、
図1に示す着目領域演算部の構成を表すブロック図である。
図3に示すように、着目領域演算部24は、着目領域設定部60、送信フォーカス制御部62、設定音速指定部64、フォーカス指標算出部66および環境音速決定部68を有する。
【0049】
着目領域設定部60は、制御部36からの指示に応じて、Bモード画像上(超音波画像上)において着目領域を設定するものである。
本実施形態において、着目領域設定部60は、Bモード画像の画面全体を格子状に分割して、その個々を着目領域とする。この分割の数(格子の数)は、予めデフォルトで設定されていても良く、操作者が方位方向および/または深度方向で任意に設定できるようにしてもよい。また、分割数がデフォルトで設定されている場合には、画像サイズ毎や観察部位毎に、異なる設定を有してもよい。さらに、予め複数の分割数を設定しておき、操作者が選択できるようにしてもよい。
あるいは、画面全体ではなく、予め設定された、もしくは、複数の選択肢から選択された、画面の一部分について格子状に分割して、その個々を着目領域としてもよい。また、画面全体ではなく、操作者が設定したROIに対応して、着目領域を設定してもよい。なお、画面の一部分やROI内で着目領域を設定する場合にも、分割は、前記画面全体と同様に行えばよい。また、画面全体での着目領域の設定と、ROI内での着目領域の設定とを、操作者が選択できるようにしてもよい。
また、分割する形状は格子状に限らず、例えば、コンベックスプローブによる超音波画像のような扇形のBモード画像であれば、分割する形状もこれに合わせて扇形にしても良い。この場合も着目領域は1つに限らず、複数設定するのが好ましい。
いずれにしても、2以上の着目領域を設定するのが好ましく、深度方向に2以上および/または方位方向に2以上、着目領域を設定するのがより好ましいのは、前述のとおりである。
なお、着目領域は、画像が大きく変動した場合(画像特徴量の変動値が閾値を超えた場合など)、観察倍率の変更や観察深度の変更などの観察条件の変更が行われた場合等に、変更あるいは更新してもよく、着目領域の変更あるいは更新を、操作者が指示できるようにしてもよい。
【0050】
送信フォーカス制御部62は、設定された着目領域に対して送信回路14が送信フォーカスを実行するように制御部36に送信フォーカス指示を行うものである。
【0051】
設定音速指定部64は、制御部36の制御に基づき、環境音速の決定において、受信データに対して受信フォーカスを実行するための設定音速を指定するものである。
【0052】
フォーカス指標算出部66は、素子データメモリ22から着目領域の受信データを読み出し、設定音速指定部64が指定した複数の設定音速毎に受信データに対して受信フォーカスして、受信データのフォーカス指標を算出するものである。
【0053】
環境音速決定部68は、複数の設定音速毎のフォーカス指標に基づき、着目領域の環境音速を決定するものである。
ここで、前述のように、本発明においては、設定した着目領域の内の少なくとも2つの着目領域で音速を決定するのが好ましく、深度方向に2つ以上および/または方位方向に2つ以上の着目領域で音速を決定するのが、より好ましい。本実施形態においては、特に好ましい態様として、設定した全ての着目領域において、環境音速を決定する。
【0054】
次に、
図4のフローチャートを参照して、着目領域演算部24の動作を説明する。
図4は、
図3に示す着目領域演算部24の処理の流れを示すフローチャートである。
【0055】
図4に示すように、着目領域演算部24では、制御部36からの指示に応じて、着目領域設定部60が、着目領域を設定する(ステップS10)。
この着目領域の設定に応じて、送信フォーカス制御部62は、設定された着目領域に対して送信回路14が送信フォーカスを実行するように、制御部36に送信フォーカス指示を行う。
【0056】
次に、着目領域演算部24では、設定音速指定部64にて、設定音速Vの開始音速Vstと終了音速Vendを設定(ステップS20)し、設定音速Vに開始音速Vstをセットする(ステップS30)。
開始音速Vstおよび終了音速Vendを含む設定音速は、予めデフォルトで設定されていてもよく、あるいは、開始音速Vstおよび終了音速Vendのみを操作者が任意に入力して、間の刻み幅(所定ステップ音速量ΔV)のみがデフォルトで設定されていてもよく、あるいは、操作者が任意に入力するようにしてもよい。また、設定音速や、その刻み幅がデフォルトで設定される場合には、観察部位や性別等に応じて、複数種類の設定音速が設定され、操作者が、適宜、選択できるようにしてもよい。
本例においては、一例として、開始音速Vstとして1410m/secが、終了音速Vendとして1570m/secが設定され、それに応じて、所定の刻み幅として、40m/secの間隔で設定音速が設定されたとする。
【0057】
図5に示すように、点反射からの受信データに対しては受信フォーカスを実施した際に強度やシャープネスを解析することのできる受信データを取得できる。しかしながら、
図6に示すように、スペックル領域の無数の散乱点に対してはピーク値と方位方向の空間周波数が干渉によって崩れてしまい、受信フォーカスを実施した際に強度やシャープネスを解析することのできる受信データを取得することが困難となる。
【0058】
そこで、着目領域演算部24は、
図7に示すように、スペックル領域の無数の散乱点に対して送信フォーカスを掛けることによって擬似的な点反射を形成し、取得した受信素子位置の受信データに対し受信フォーカスを実施し強度やシャープネスを解析する点反射と同様な方法によってスペックル領域においても環境音速を求める。
【0059】
すなわち、着目領域演算部24は、送信フォーカス制御部62にて設定された着目領域に送信回路14が送信フォーカスを実行するように制御部36に送信フォーカス指示を行い、送信フォーカス位置を擬似的な点反射とする(ステップS40)。
【0060】
そして、着目領域演算部24は、フォーカス指標算出部66にて、素子データメモリ22から環境音速を決定する位置(注目点)に対応する素子データを読み出し、設定音速指定部64が指定した複数の設定音速毎に素子データに対して受信フォーカスして、素子データのフォーカス指標を算出する(ステップS50)。
なお、このフォーカス指針の算出は、少なくとも一部の素子データを、受信回路16から、直接、取得して行ってもよい。
【0061】
ここで、
図5の点反射の素子データの場合、
図8に示すように、ピーク値と方位方向の空間周波数に設定音速による変化傾向が見られるが、
図6に示すように、送信フォーカスを掛けることによって擬似的な点反射を形成した時の素子データの場合も、
図8に示す傾向が見られる。
そのため、着目領域演算部24は、フォーカス指標算出部66にて積分値、2乗積分値、ピーク値、コントラスト、半値幅、周波数スペクトル積分、最大値や直流成分で規格化された周波数スペクトル積分値や2乗積分値、自己相関値等をフォーカス指標として算出する(
図8の場合、設定音速=Amp1490m/secのときのフォーカス指標が最大となる)。
【0062】
次に着目領域演算部24は、設定音速指定部64にて、設定音速Vが終了音速Vendに達したかどうか判定し(ステップS60)、設定音速Vが終了音速Vend未満ならば(ステップS60で“No”)、所定ステップ音速量ΔV、すなわち本例では40m/secを設定音速Vに加算して(ステップ70)ステップS40に戻る。
このルーチンを繰り返し、設定音速Vが終了音速Vendに達したと判定すると(ステップS60で“Yes”)ステップS80に進む。
【0063】
そして、着目領域演算部24は、ステップS80において、環境音速決定部68にて、複数の設定音速毎のフォーカス指標に基づき、例えば、最も高いフォーカス指標の設定音速を着目領域の環境音速とするなどして、着目領域の環境音速を決定し、決定した環境音速を信号処理部46および歪み補正部47に出力する(
図7の場合、最も高いフォーカス指標の設定音速=Amp1490m/secが環境音速となる)。
すなわち、環境音速とは、超音波プローブ12(振動子アレイ42(超音波トランスデューサ))から、或る注目点までの音速が一定であると仮定した際の、超音波プローブ12と注目点との間の領域の平均的な音速である。
前述のように、着目領域演算部24は、設定した全ての着目領域において、このような環境音速の決定を行う。
【0064】
このように、超音波診断装置10では、スペックル領域の無数の散乱点に対して送信フォーカスを掛け擬似的な点反射とし、複数の設定音速毎のフォーカス指標を生成し、複数の設定音速毎のフォーカス指標に基づき、着目領域の環境音速を決定するので、スペックル領域を含む着目領域の環境音速を点反射レベルにて適正に決定することが可能となり、高精度の超音波画像を構築することができる。
なお、環境音速の決定方法は、上記方法に限定はされず、公知の各種の方法が利用可能である。
【0065】
次に、超音波診断装置10の動作を説明することにより、歪み補正部47ならびに本発明の超音波診断装置およびデータ処理方法に関して、詳細に説明する。
【0066】
超音波診断装置10は、ライブモードと素子データメモリ再生モードという2つの動作モードを有する。
【0067】
まず、
図9に示すフローチャートを参照して、ライブモード時における超音波診断装置10の動作を説明する。
図9は、
図1に示す超音波診断装置のライブモード時の処理の流れを示すフローチャートである。
ライブモードは、被検体に超音波プローブ12を当接させて超音波の送受信を行うことによって得られた超音波画像(動画)の表示を行うモードである。
【0068】
ライブモードでは、超音波プローブ12が被検体に当接され、操作者による操作部38からの指示入力により超音波診断が開始される。
【0069】
超音波診断が開始されると、制御部36は、操作者による操作部38からの指示入力に応じて、送信条件等の設定を行う。すなわち、超音波トランスデューサごとの超音波ビームの送信方向と超音波エコーの受信方向の設定、超音波ビームの送信方向に応じて送信遅延パターンの選択、超音波エコーの受信方向に応じて受信遅延パターンの選択等を行う(ステップS100)。
また、制御部36は、環境音速に応じた受信フォーカス処理(歪み補正モード)と、受信遅延パターンに応じた受信フォーカス処理が選択されたかの確認を行う(ステップS200)。環境音速に応じた受信フォーカス処理が選択(Y)された場合には、制御部36は、設定した送信条件を着目領域演算部24の着目領域設定部60に送る。着目領域設定部60は、この送信条件(超音波ビームの送信間隔や送信を行う超音波トランスデューサの数など)に応じて、前述のように、生成するBモード画像全体を格子状に分割して着目領域を設定して、かつ、着目領域の送信フォーカスを行うように送信フォーカス制御部62に指示を出す(ステップS110)。
送信フォーカス制御部62は、これに応じて、制御部36に、設定された着目領域に対して送信回路14が送信フォーカスを実行するように制御部36に送信フォーカス指示を行う。
制御部36は、選択した送信遅延パターンおよび受信遅延パターン、ならびに、設定された着目領域に従って、送信回路14および信号処理部46に制御信号を出力して超音波の送受信制御を行う。
なお、受信遅延パターンに応じた受信フォーカス処理が選択(N)された場合には、制御部36は、通常のBモード画像の生成と同様に、選択した送信遅延パターンに応じた送信フォーカス処理および受信遅延パターンに応じた受信フォーカス処理を行って、Bモード画像を生成する。従って、この際には、環境音速の決定および歪み補正部47での歪み補正は行わない(ステップS210)。
【0070】
これに応じて、送信回路14では、選択された送信遅延パターンおよび着目領域に基づいて、各超音波トランスデューサの駆動信号の送信フォーカスを行って、複数の超音波トランスデューサから被検体へ超音波ビームが送信される(ステップS120)。
そして、被検体からの超音波エコーが複数の超音波トランスデューサに入射する。超音波トランスデューサは、入射した超音波エコーに応じたアナログの受信信号(電気信号)を、受信回路16に出力する。受信回路16は、各超音波トランスデューサから供給されたアナログの受信信号を増幅して、A/D変換して、素子データ(デジタルの受信信号)を生成する(ステップS130)。
素子データは、画像生成部18の信号処理部46および素子データメモリ22に供給される。
【0071】
素子データメモリ22は、供給された素子データと、制御部36から入力されるフレームレートに関する情報とを、関連付けして記憶する。
【0072】
他方、超音波ビームの送信開始と並行して、着目領域を設定した着目領域演算部24では、前述のように、制御部36からの指示に応じて、設定音速指定部64が、VstおよびVendを設定する。さらに、素子データが素子データメモリ22に記憶されると、フォーカス指標算出部66は、素子データメモリ22から着目領域の素子データを読み出してフォーカス指標を算出し、このフォーカス指標を用いて、環境音速決定部68が、環境音速を決定する(ステップS140)。
環境音速決定部68は、決定した環境音速を、信号処理部46および歪み補正部47に供給する。
【0073】
ここで、本発明においては、設定した着目領域の内の少なくとも2つで音速を決定するのが好ましく、深度方向に2つ以上、方位方向に2つ以上の着目領域で音速を決定するのが、より好ましい。
前述のように、本実施形態においては、特に好ましい態様として、この環境音速の決定は、設定した着目領域の全てで行う。
本発明においては、素子データメモリ22に素子データを記憶することによって、実際の被検体からの超音波エコーの受信信号である素子データを用いて、このような多数点での環境音速の決定を、可能にしている。
【0074】
なお、この環境音速の決定は、着目領域が設定(変更)されたら1回だけ行ってもよく、あるいは、画像が大きく変動した場合(画像特徴量の変動値が閾値を超えた場合など)に環境音速を更新してもよく、あるいは、適宜決定した所定フレーム数毎に、環境音速の更新を行うようにしてもよい。
【0075】
環境音速が決定され(ステップS140)、信号処理部46に供給されると、信号処理部46は、
図2に示す、環境音速を用いた受信フォーカス処理を行い、環境音速補正を施した受信フォーカスを行ったBモード画像を生成して、歪み補正部47に送る(ステップS150)。
【0076】
歪み補正部47は、供給されたBモード画像に、供給された環境音速に応じた歪み補正を行う(ステップS160)。
【0077】
例えば、
図11(A)に概念的に示すようなBモード画像において、深度方向の1つのラインIの素子データは、
図11(B)に概念的に示すように、時間t
1、t
2…に対応するデータである。
信号処理部46では、この時間t
1、t
2…に対応して、環境音速Vを考慮した受信フォーカス処理を施して、Bモード画像を生成する。ここで、素子データの位置的な単位は時間であるため、信号処理部46では、環境音速Vを用いて、
図11(C)に概念的に示すように、Vt
1/2、Vt
2/2…のように、距離(位置)に変換して、Bモード画像を生成する。
【0078】
ここで、被検体内(それぞれの着目領域)における環境音速は、場所によって異なる場合も多い。すなわち、被検体内には、環境音速の分布が有る。例えば、血管の観察を行う場合には、血管前壁よりも深度が浅い組織(超音波プローブ側)と、血管前壁内部と、血管内腔とでは、環境音速が異なる。
従って、反射点から超音波トランスデューサまでの超音波エコーの到達時間は、被検体の位置毎の環境音速によって、変動する。
しかしながら、従来の超音波診断装置では、1つの環境音速Vのみを用いてBモード画像を生成しているので、実際の被検体に対して、歪んだ画像になってしまっている。
【0079】
これに対して、本発明の超音波診断装置10は、画像生成部18が、歪み補正部47を有し、此処で、環境音速に応じた座標変換を行って、音速分布に起因するBモード画像の歪みを補正する。
すなわち、歪み補正部47では、まず、
図10(A)に概念的に示す、信号処理部46が生成したBモード画像の各画素の時間t
1、t
2…に対応して、各画素(各サンプリング点)が位置する着目領域の環境音速V
1、V
2…を用いて座標変換を行う。例えば、
図10(B)に概念的に示すように、V
1t
1/2、V
2t
2/2…のように、時間tを距離に変換して、輝度画像を生成する。
【0080】
ここで、被検体内には、環境音速の分布が有るので、生成した輝度画像の各画素(サンプリング点)は、
図10(B)に示すように、間隔が異なる。
これに応じて、歪み補正部47は、補間を行って、
図10(C)に概念的に示すように、画素の間隔が一定の歪み補正済のBモード画像を生成する。
【0081】
従って、本発明によれば、被検体内の環境温度の分布に起因する歪みが無い、高画質な超音波画像を生成することができ、従って、超音波画像を用いた、より正確な診断を行うことが可能となる。
【0082】
なお、歪み補正部47で行う補間の方法には、特に限定はなく、線型補間やスプライン補間などの公知の補間方法が、各種、利用可能である。
また、信号処理部46が生成したBモード画像の全ての画素に対応する環境音速が無い場合には、周辺画素(周辺の着目領域)の環境音速を補間することにより、画素(サンプリング点)の環境音速を決定すればよい。この補間による環境音速の決定は、着目領域演算部24で行っても、歪み補正部47で行ってもよい。
【0083】
また、本発明の超音波診断装置は、このような歪み補正部47の機能を、Bモード画像を生成する信号処理部46が内蔵してもよい。
すなわち、信号処理部46に環境音速が供給された後は、信号処理部46でのBモード画像の生成の際における時間−距離変換の際に、各画素(サンプリング点)が対応する環境音速を用いて距離を計算して輝度画像を生成し、Bモード画像の画素に応じた補間を行って、Bモード画像を生成するようにしてもよい。
【0084】
歪み補正部47は、環境音速に応じた歪み補正を行ったBモード画像を、DSC48に供給する。
DSC48は、Bモード画像をテレビジョン方式の画像信号に変換して画像処理部50に供給し、画像処理部50は、Bモード画像に所定の処理を施す。
画像処理部50が処理したBモード画像は、画像メモリ52に記憶され、また、表示制御部32による制御の下、表示部34に表示される。これにより、歪み補正を行われたBモード画像が、表示部34に表示される(ステップS170)。
【0085】
また、このようなライブモードのBモード画像(動画)の表示中に、フリーズボタンが押下されると、フリーズボタン押下時に表示されているBモード画像が、表示部34に静止画として表示される。
これにより、操作者は、静止画によってBモード画像を詳細に観察することができる。
【0086】
次に、素子データメモリ再生モード時における超音波診断装置10の動作を説明する。
素子データメモリ再生モードは、素子データメモリ22に格納されている受信データに基づいて、超音波画像の表示を行うモードである。
【0087】
操作部38からの指示入力により、制御部36は、超音波診断装置10の動作モードを素子データメモリ再生モードに切り替える。
素子データメモリ再生モードの場合、制御部36は、素子データメモリ22から受信データを読み出して、画像生成部18の信号処理部46に送信する。これ以後の動作はライブモードの場合と同様である。これにより、素子データメモリ22に格納された受信データに基づく超音波画像(動画または静止画)が表示部34に表示される。
【0088】
以上、本発明の超音波診断装置およびデータ処理方法について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。