特許第5976583号(P5976583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5976583ブレーキ装置及びブレーキ装置を備えたクレーン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5976583
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】ブレーキ装置及びブレーキ装置を備えたクレーン
(51)【国際特許分類】
   F16D 63/00 20060101AFI20160809BHJP
   B66C 9/18 20060101ALI20160809BHJP
   B61H 7/12 20060101ALI20160809BHJP
   F16D 65/22 20060101ALI20160809BHJP
   F16D 127/10 20120101ALN20160809BHJP
【FI】
   F16D63/00 L
   B66C9/18
   B61H7/12 B
   F16D65/22
   F16D127:10
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-67072(P2013-67072)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-190450(P2014-190450A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】堀江 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 正信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】井石 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】安部 達也
【審査官】 中尾 麗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−165886(JP,A)
【文献】 特開昭63−202589(JP,A)
【文献】 米国特許第03217367(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00−71/04
B61H 7/00− 7/12
B66C 9/18
F16D 127/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する移動体に設置されるブレーキ装置において、
前記ブレーキ装置が、前記移動体に固定された昇降機構と、前記昇降機構の下方に設置された受け部と、前記受け部の下方に懸吊部材を介して前記受け部と上下間隔をあけて懸吊されたブレーキシューと、を有しており、
前記ブレーキシューが斜部を備えたブレーキシュー上面を有し、前記受け部が記ブレーキシュー上面に対応する傾斜部を備えた受け部下面を有しており、
制動時に、前記昇降機構の作動により前記受け部及び前記ブレーキシューが降下し、前記ブレーキシューが接地し、前記移動体の移動により、前記受け部が前記ブレーキシュー上面に乗り上げる構成を有していることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
レール上を走行する移動体に設置されるブレーキ装置において、
前記ブレーキ装置が、前記移動体に固定された昇降機構と、前記昇降機構の下方に設置された受け部と、前記受け部の下方に懸吊部材を介して前記受け部と上下間隔をあけて懸吊されたブレーキシューと、を有しており、
前記ブレーキシューが斜部を備えたブレーキシュー上面を有し、前記受け部が記ブレーキシュー上面に対応する傾斜部を備えた受け部下面を有しており、
制動時に、前記昇降機構の作動により前記受け部及び前記ブレーキシューが降下し、前記ブレーキシューがレールに接触し、前記移動体の移動により、前記受け部が前記ブレーキシュー上面に乗り上げる構成を有していることを特徴とするブレーキ装置。
【請求項3】
前記懸吊部材が、前記移動体の走行方向を横断する方向となる前記受け部の側面と前記ブレーキシューの側面どうしを連結する平板状プレートであり、この平板状プレートの上下方向に延在する長穴を介して前記ブレーキシューが懸吊されている状態である請求項1または2に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記ブレーキシューが記移動体の走行方向における上り傾斜部及び下り傾斜部を備えた前記ブレーキシュー上面を有し、
前記受け部が記ブレーキシュー上面に対応する上り傾斜部及び下り傾斜部を備えた前記受け部下面を有している請求項1〜3のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記昇降機構が記移動体と前記受け部の間に屈伸部を有し、
前記屈伸部の屈伸により、前記受け部及び前記ブレーキシューを昇降させる構成を有している請求項1〜4のいずれかに記載のブレーキ装置。
【請求項6】
レールに沿って移動するように構成されたクレーンにおいて、
請求項2〜5のいずれか記載のブレーキ装置を備えたことを特徴とするクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レール上を走行するクレーン等のブレーキ装置、及びブレーキ装置を備えたクレーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、通常の荷役時や突風が発生する可能性のある天候等の際に、岸壁クレーンや門型クレーンの逸走を防止するために、レールブレーキ等のブレーキ装置が用いられている。従来のブレーキ装置として、主に押し付け型のブレーキ装置(例えば特許文献1参照)と、挟み込み型のブレーキ装置(例えば特許文献2参照)が開示されている。
【0003】
まず、特許文献1に記載の押し付け型のブレーキ装置について説明する。押し付け型のブレーキ装置は、重ねられた複数枚の皿バネと、皿バネの下端部に固定されたブレーキシューと、皿バネを圧縮するための油圧シリンダと、を有している。
【0004】
このブレーキ装置は、クレーンが走行等する際の通常時には、油圧シリンダにより皿バネを圧縮し、ブレーキシューがレールに接触しないように構成されている。また、制動時には、皿バネを解放し、皿バネの復元力でブレーキシューをレールに押し付けるように構成されている。この構成により、ブレーキシューは、レールの上面との間に摩擦力を生じさせ、クレーンの逸走を防止することができる。
【0005】
しかし、上記の押し付け型のブレーキ装置は、いくつかの問題点を有している。第1に、ブレーキ装置のブレーキ力を向上する際、ブレーキ装置の製造コストが大幅に増加してしまうという問題を有している。これは、ブレーキ力の向上のためには、皿バネ及び油圧シリンダを大型化する必要があり、そのコストが増加してしまうからである。
【0006】
第2に、ブレーキ装置の小型化が困難であるという問題を有している。これは、レールに対するブレーキシューのストロークを確保する際、1つ当たりの変形量の小さい皿バネは、枚数を増加させなくてはならないからである。具体的には、レールは、鉛直方向に±10〜30mm程度のたわみを有している。そのため、ブレーキシューは、40mm程度のストロークが必要となる。ここで、1つ当たりの皿バネの変形量は、1〜2mm程度であるため、皿バネは少なくとも20〜40枚重ねる必要があり、ブレーキ装置が大型となってしまう。
【0007】
第3に、ブレーキ装置の信頼性の向上が困難であるという問題を有している。これは、皿バネが割れる可能性があり、皿バネの破損によりブレーキ力が大きく低下するからである。このブレーキ装置は、クレーンの走行、停止の度にオン、オフを頻繁に繰り返し使用頻度が高いため、内蔵している皿バネの割れる可能性は高い。
【0008】
次に、特許文献2に記載の挟み込み型のブレーキ装置について説明する。挟み込み型のブレーキ装置は、レールを両側から挟み込むように構成されたブレーキシューと、ブレーキシューをレールに押し付けるためのカムを設置されたモータと、を有している。この構成により、ブレーキシューは、レールの側面との間に摩擦力を生じさせ、クレーンの逸走を防止することができる。
【0009】
しかし、上記の挟み込み型のブレーキ装置は、いくつかの問題点を有している。第1に、ブレーキ装置のブレーキ力を向上する際、ブレーキ装置の製造コストが大幅に増加してしまうという問題を有している。これは、ブレーキ力の向上のためには、モータの大型化が必要であり、そのコストが増加してしまうからである。
【0010】
第2に、クレーンの逸走中にブレーキ装置を起動した場合、ブレーキが効かない可能性があるという問題を有している。これは、挟み込み型のブレーキ装置は、ブレーキ装置の本体に設置されている上下位置調整機構の作動により、ブレーキ装置の本体が上方にはじかれ、レールを把持できない可能性があるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−247944号公報
【特許文献2】特開平6−72690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、クレーンの逸走等を防止するブレーキ装置において、製造コストが低コストで、小型であり、且つ十分なブレーキ力を得られるブレーキ装置を提供することである。また、上記のブレーキ装置を備えたクレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための本発明に係るブレーキ装置は、走行する移動体に設置されるブレーキ装置において、前記ブレーキ装置が、前記移動体に固定された昇降機構と、前記昇降機構の下方に設置された受け部と、前記受け部の下方に懸吊部材を介して前記受け部と上下間隔をあけて懸吊されたブレーキシューと、を有しており、前記ブレーキシューが斜部を備えたブレーキシュー上面を有し、前記受け部が記ブレーキシュー上面に対応する傾斜部を備えた受け部下面を有しており、制動時に、前記昇降機構の作動により前記受け部及び前記ブレーキシューが降下し、前記ブレーキシューが接地し、前記移動体の移動により、前記受け部が前記ブレーキシュー上面に乗り上げる構成を有していることを特徴とする。
【0014】
この構成により、ブレーキ装置は、ブレーキ力を著しく向上することができる。移動体の重量に比例したブレーキ力を得ることができるからである。また、ブレーキ装置は、低コストで高いブレーキ力を得ることができる。ブレーキ装置に必要な動力が、ブレーキ力に関係しないからである。更に、ブレーキ装置を容易に小型化することができる。大量の皿バネ、大型シリンダや大型モータが不要だからである。
【0015】
上記の目的を達成するための本発明に係るブレーキ装置は、レール上を走行する移動体に設置されるブレーキ装置において、前記ブレーキ装置が、前記移動体に固定された昇降機構と、前記昇降機構の下方に設置された受け部と、前記受け部の下方に懸吊部材を介して前記受け部と上下間隔をあけて懸吊されたブレーキシューと、を有しており、前記ブレーキシューが斜部を備えたブレーキシュー上面を有し、前記受け部が記ブレーキシュー上面に対応する傾斜部を備えた受け部下面を有しており、制動時に、前記昇降機構の作動により前記受け部及び前記ブレーキシューが降下し、前記ブレーキシューがレールに接触し、前記移動体の移動により、前記受け部が前記ブレーキシュー上面に乗り上げる構成を有していることを特徴とする。この構成により、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0016】
上記のブレーキ装置において、前記ブレーキシューが、前記移動体の走行方向における上り傾斜部及び下り傾斜部を備えたブレーキシュー上面を有し、前記受け部が、前記ブレーキシュー上面に対応する上り傾斜部及び下り傾斜部を備えた受け部下面を有していることを特徴とする。この構成により、ブレーキ装置は、移動体がいずれの方向に逸走したとしても、ブレーキ力を著しく向上することができる。
【0017】
上記のブレーキ装置において、前記昇降機構が、前記移動体と前記受け部の間に屈伸部を有し、前記屈伸部の屈伸により、前記受け部及び前記ブレーキシューを昇降させる構成を有していることを特徴とする。
【0018】
この構成により、ブレーキ装置は、容易に小型化を実現することができる。特に、ブレーキシューのストロークを確保するための設計が、容易となる。また、ブレーキ装置の復旧作業の作業性を向上することができる。これは、屈伸部の屈曲により、ブレーキシュー及び受け部のかみ合い状態を容易に解除することができるからである。
【0019】
上記の目的を達成するための本発明に係るクレーンは、レールに沿って移動するように構成されたクレーンにおいて、前述のいずれかに記載のブレーキ装置を備えたことを特徴とする。この構成により、クレーンのブレーキ力を著しく向上することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るブレーキ装置によれば、製造コストが低コストで、小型であり、且つ十分なブレーキ力を得られるブレーキ装置を提供することができる。また、上記のブレーキ装置を備えたクレーンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る実施の形態のブレーキ装置を備えたクレーンの概略図である。
図2】本発明に係る実施の形態のブレーキ装置の通常時の概略図である。
図3】本発明に係る実施の形態のブレーキ装置の制動開始時の概略図である。
図4】本発明に係る実施の形態のブレーキ装置の制動時の概略図である。
図5】本発明に係る異なる実施の形態のブレーキ装置の概略図である。
図6】本発明に係る異なる実施の形態のブレーキ装置を備えたクレーンの概略図である。
図7】本発明に係る異なる実施の形態のブレーキ装置の通常時の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態のブレーキ装置及びブレーキ装置を備えた移動体について、図面を参照しながら説明する。図1に本発明の実施の形態のクレーン(移動体)1の概略図を示す。岸壁クレーン又は門型クレーン等のクレーン1は、走行装置3を有している。走行装置3は、走行装置3の下面の中央部からレール5に向かって設置されたブレーキ装置2と、レール5に沿って回転する車輪4を有している。ここで、yはクレーン1の走行方向(レールの長手方向)を示し、zは鉛直方向を示す。
【0023】
なお、ブレーキ装置2を設置する場所は、上記に限られず、例えばクレーン1を構成する脚構造物の下面等、クレーン1とレール5の間であれば、いずれの位置でも設置することができる。
【0024】
図2に、ブレーキ装置2の通常時(走行時)の概略を示す。ブレーキ装置2は、クレーン(移動体)1の走行装置3等に固定された昇降機構23と、昇降機構23の下方に固定された受け部22と、受け部22の下方に例えばワイヤ等の懸吊部材27により懸吊されたブレーキシュー21と、を有している。ブレーキシュー21は、傾斜部を有するブレーキシュー上面24と、レール5との間の摩擦係数が高くなるように構成されたブレーキシュー下面25と、を有している。このブレーキシュー上面24は、クレーン1の走行方向(レール5の長手方向)yにおける上り傾斜部及び下り傾斜部を有するように形成されており、例えば凸型となるように形成されている。
【0025】
また、受け部22は、ブレーキシュー上面24に対応する(同一方向に傾斜する)受け部下面26を有している。この受け部下面26は、クレーン1の走行方向(レール5の長手方向)yにおける上り傾斜部及び下り傾斜部を有するように形成されており、例えば凹型に形成されている。ここで、ブレーキシュー上面24と受け部下面26の傾斜部は、同一の角度を有していてもよく、異なる角度を有していてもよい。
【0026】
更に、昇降機構23は、走行装置3等に固定されたクレーン側固定具30と、クレーン側固定具30に傾動自在に設置された第1アーム31と、第1アーム31に屈伸部32を介して傾動自在に連結された第2アーム33と、第2アーム33に傾動自在に設置された受け部側固定具34と、を有している。この受け部側固定具34は、受け部22に固定されている。この受け部側固定具34により、受け部22はクレーン1の走行方向(レール5の長手方向)yに沿って傾動することができる。また、昇降機構23は、屈伸部32の屈曲(傾動)及び伸長を固定又は解除するための制御機構35を有している。この制御機構35は、例えば油圧シリンダ、クラッチ機構、又はモータ等で構成することができる。
【0027】
次に、ブレーキ装置2の作動について説明する。このブレーキシュー21は、クレーン1が走行等を行う通常時には、ブレーキシュー下面25がレール5から離間するように、昇降機構23により受け部22を介して支持されている。
【0028】
図3に、制動開始時のブレーキ装置2の概略を示す。クレーンの荷役中突風が発生したときや、クレーンの走行モータや走行ブレーキの能力を超える風によってクレーンが逸走しているときや、クレーンの走行が停止しているときや、停電のとき等、クレーン1のブレーキが必要となった際、ブレーキ装置2は、まず、昇降機構23により受け部22及びブレーキシュー21を降下させ、ブレーキシュー21をレール5上に落下させる(白抜き矢印参照)。具体的には、昇降機構23は、例えば制御機構35を構成する油圧シリンダの油圧を解放し、屈伸部32の固定を解除し、屈伸部32を受け部22の自重等で受動的に伸長させる。また、油圧シリンダの代わりにクラッチ機構等を採用した場合も、上記と同様に、屈伸部32を受動的に伸ばすことができる。更に、制御機構35をモータ等で構成し、このモータ等の回転により、屈伸部32を能動的に伸ばすように構成してもよい。このとき、昇降機構23は、屈伸部32及びその他の各支点を固定された状態となる。
【0029】
ここで、24uはブレーキシュー上面24の上り傾斜部24uを示し、24dは下り傾斜部24dを示す。また、26uは受け部下面26の上り傾斜部26uを示し、26dは下り傾斜部26dを示す。
【0030】
図4に、制動時のブレーキ装置2の概略を示す。クレーン1がレール5に沿って逸走した場合、受け部22がクレーン1の走行装置3と共に例えば図4左方に移動する。このとき、ブレーキシュー21は、例えばワイヤ等の懸吊部材27のたるみ等により、レール5に対する相対位置を基本的には維持する。また、受け部下面26の下り傾斜部26dが、ブレーキシュー上面24の下り傾斜部24dに乗り上げる。つまり、ブレーキシュー21の上に、クレーン1が乗り上げ、制動された状態となる。このとき、昇降機構23は、クレーン1とレール5の間に生じる垂直荷重を支持するように構成されている。具体的には、屈伸部32を油圧やクラッチ等で伸びた状態で固定し、垂直荷重を支持する。特に、屈伸部32が、予め定めた範囲を超えて伸長した場合に、機械的にクラッチがかかるように構成することが望ましい。この構成により、屈伸部32を固定する電力等が不要となるためである。
【0031】
ここで、ブレーキシュー上面24に受け部下面26が乗り上げるとは、受け部22の鉛直方向の高さが変化するほど乗り上げる場合もあれば、実質的には高さが変化せず、クレーン1の重量によりブレーキシュー21をレール5に押し付けている状態も含む。
【0032】
このブレーキシュー21は、例えば自重1300tの岸壁クレーン1に2つのブレーキ装置2を設置した場合は、最大で650tの重量によりレール5に押し付けられる。そのため、ブレーキシュー21の走行方向yに働く摩擦力は、レール5とブレーキシュー下面25の間の摩擦係数μと、クレーン1の重量の積となる。
【0033】
なお、ブレーキシュー上面24及び受け部下面26は、摩擦係数μが小さくなるように構成されている。また、ブレーキシュー下面25は、摩擦係数μがブレーキシュー上面24及び受け部下面26よりも大きくなるように構成されている。
【0034】
更に、クレーン1が図4の右方に逸走した場合は、ブレーキシュー上面24の上り傾斜部24u上に、受け部下面26の上り傾斜部26uが乗り上げ、制動する(図3及び4参照)。
【0035】
次に、ブレーキ装置2の復旧時の作動について説明する。復旧時には、ブレーキシュー21と受け部22のかみ合い状態を解除させ、復旧作業を完了する。かみ合い状態の解除の具体的な方法としては、昇降機構23の伸長した屈伸部32の固定を解除し、屈伸部32を屈曲させる。このとき、制御機構35の動力等を利用してもよい。この屈伸部32の屈曲により、受け部22は上方に引き上げられ、ブレーキシュー21とのかみ合い状態が解除される。その後、ブレーキシュー21は、受け部22に連結されたワイヤ等の懸吊部材27により懸吊され、レール5との接触が解除される。
【0036】
上記の構成により、クレーン1は以下の作用効果を得ることができる。第1に、ブレーキ装置2は、ブレーキ力を著しく向上することができる。これは、ブレーキシュー21をレール5に押し付ける力を、クレーン1の重量に比例した莫大なものとすることができるからである。
【0037】
第2に、ブレーキ装置は、低コストで高いブレーキ力を得ることができる。これは、ブレーキ装置2に必要な動力が、屈伸部32の屈伸を制御する制御機構35に供給されるもののみとなるからである。特に、屈伸部32の屈曲状態を制御機構35の油圧等で維持し、油圧の解放により屈伸部32を伸長させ、機械的なクラッチ機構により屈伸部32の伸長状態を維持するように構成した場合は、ブレーキ装置2は、油圧解放のためのバルブ操作ができる程度の動力があればよい。これに対して、例えば、従来のブレーキ装置で本発明のブレーキ装置2と同等のブレーキ力を得ようとした場合、皿バネはクレーンの自重に相当する力で、ブレーキシューをレールに押し付ける必要があり、このような皿バネを収縮させることのできるシリンダは大型且つ高コストとなる。
【0038】
第3に、ブレーキ装置2は、容易に小型化を実現することができる。これは、大量の皿バネ、大型シリンダや大型モータ等が不要だからである。特に、ブレーキシュー21のストロークを確保する際、ブレーキシュー21及び受け部22の鉛直方向zの大きさや、昇降機構23のストロークを調整するのみで実現することができる。
【0039】
第4に、ブレーキ装置2の信頼性を向上することができる。これは、ブレーキ装置2は、皿バネ等破壊される可能性の高い部材を使用する必要がないからである。このブレーキ装置2は、ブレーキシュー21、受け部22及び昇降機構23が、破壊されない限り、十分な機能を発揮することが可能である。また、ブレーキ装置2は、ブレーキシュー下面25の摩耗量によって、ブレーキ力が低下しないからである。加えて、ブレーキ装置2は、クレーンの逸走中に起動した場合であっても、十分なブレーキ力を得られ、クレーンの逸走を停止することができる。
【0040】
第5に、ブレーキ装置2の復旧作業の作業性を向上することができる。これは、ブレーキシュー21と受け部22のかみ合い状態の解除が、伸長した状態の昇降機構23の固定を解除し、屈伸部32を屈曲させ、受け部22を上方に引き上げるのみで可能となるからである。
【0041】
なお、昇降機構23は、制御機構35を油圧シリンダで構成し、この油圧シリンダの油圧バルブの解放により、屈伸部32の屈曲状態を解除する構成とすることが望ましい。この構成により、例えば、突風の発生と共に停電が発生した場合であっても、停電時に油圧バルブを解放し、確実にブレーキ装置2を作動できるからである。
【0042】
また、懸吊部材27は、前述のワイヤに限られない。懸吊部材27は、受け部22の上下動に追従してブレーキシュー21が移動し、且つ、受け部22とブレーキシュー21の走行方向yにおける相対移動を許容する構成を有していればよい。
【0043】
更に、ブレーキ装置2は、少なくとも海側及び陸側の走行装置(又は脚構造物等)に各1台設置することが望ましい。しかし、クレーン1の規模や要求されるブレーキ力に応じて、ブレーキ装置2の設置数は任意に決定することができる。
【0044】
図5に、本発明の異なる実施の形態のブレーキ装置2Aの通常時の概略図を示す。このブレーキ装置2Aは、ブレーキシュー及び受け部が、傾斜部の方向ごとにそれぞれ2つに分割されている。具体的には、一方のブレーキ装置には、上り傾斜部24uを有するブレーキシュー21Aと、上り傾斜部26uを有する受け部22Aが設置されており、他方は、下り傾斜部24dを有するブレーキシュー21Aと、下り傾斜部26dを有する受け部22Aが設置されている。また、昇降機構23Aが、鉛直方向に伸縮するシリンダで構成されている。
【0045】
この構成により、1つあたりのブレーキ装置2Aの大きさを小型にすることができるため、クレーン1A等に設置する際の自由度を向上することができる。具体的には、図6に示すように、走行装置3の複数のボギー6に、それぞれブレーキ装置2Aを設置することができる。ブレーキ装置2Aの小型化が実現できるため、特に、岸壁クレーンに比べて、大きさの小さい門型クレーン等に設置する際、特に有利である。
【0046】
なお、昇降機構23Aを構成するシリンダは、例えば油圧シリンダやボールシリンダ等で構成することができる。つまり、昇降機構23、23Aは、受け部22を上下動させる機能と、昇降機能の固定によりクレーン等の移動体の重量を支持できる構成を有していればよい。
【0047】
図7に、本発明の異なる実施の形態のブレーキ装置2Bの通常時の概略図を示す。このブレーキ装置2Bのブレーキシュー上面24Bは、クレーン1の走行方向(レール5の長手方向)yにおける下り傾斜部及び上り傾斜部を有する凹型に形成されている。また、受け部下面26Bは、クレーン1の走行方向yにおける下り傾斜部及び上り傾斜部を有する凸型に形成されている。更に、ブレーキシュー21Bは、長穴を有する平板状プレートで構成された懸吊部材27Bにより、受け部22Bから懸吊されている。
【0048】
上記の構成により、前述と同様の作用効果に加えて、懸吊されたブレーキシュー21Bをレール5に落下させる際の安定性を向上することができる。これは、平板状プレートにより、ブレーキシュー21Bが、レール5に直交する方向(クレーンの横行方向)にずれる(移動する)事故を防止することができるからである。
【0049】
なお、ブレーキシュー21、21A、21B及び受け部22、22A、22Bの傾斜部
は、クレーン等の移動体がいずれの方向に逸走した場合であっても、受け部22がブレーキシュー21に乗り上げる構成を有していることが望ましい。また、ブレーキシュー上面24及び受け部下面26の傾斜部は、平面状の斜面に限らず、受け部22がブレーキシュー21に乗り上げる構成を有していれば、湾曲面等であってもよい。更に、ブレーキシュー及び受け部の一方を、凸状の円錐台形に形成し、他方をこれに対応する凹状に形成し、クレーンの走行方向のみならず、横行方向等の他の方向に対してもブレーキ力が発生するように構成してもよい。この構成を有するブレーキ装置は、例えば走行装置を旋回させ進行方向を変更できる門型クレーン等に設置する場合、特に有利となる。
【0050】
加えて、上記の昇降機構23も、停電時には、ブレーキシュー21Bがレール5上に落下するように構成されることが望ましい。具体的には、通常時は、制御機構35を構成する油圧シリンダのバルブを励磁して閉塞させ、この油圧により屈伸部32の屈曲状態を維持し、ブレーキシュー21Bをレール5から離間させる。停電時には、電源の消失とともにバルブが解放され、屈伸部32の拘束が解除され、ブレーキシュー21B及び受け部22Bが自重で落下するように構成することができる。これは、制御機構35をモータ等で構成した場合も同様である。通常時にモータ等を励磁して回転を拘束し、停電時には電源の消失とともにモータ等が自由に回転するように構成することができる。
【0051】
以上、本発明のブレーキ装置及びブレーキ装置を備えたクレーンについて説明したが、このブレーキ装置は、レール上を走行するクレーン以外の移動体にも利用することができる。例えば、レール上を走行する列車等にも利用することができる。特に、このブレーキ装置を列車等に採用する場合等、逸走を防止すべき方向が1つに決まっている場合は、ブレーキシュー及び受け部は、上り傾斜部又は下り傾斜部の一方のみを有するように構成してもよい。
【0052】
また、ゴムタイヤ等の走行タイヤを有する門型クレーンや、トレーラ等にも利用することができる。この場合、ブレーキシューは、レール上ではなく路面や地表面との間に摩擦を発生させる。これらの移動体に利用する場合には、突風の発生等の際の逸走防止の他に、車止めに代わるものとして利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1、1A クレーン
2、2A、2B ブレーキ装置
5 レール
21、21A、21B ブレーキシュー
22、22A、22B 受け部
23 昇降機構
24 ブレーキシュー上面
24u 上り傾斜部
24d 下り傾斜部
25 ブレーキシュー下面
26 受け部下面
26u 上り傾斜部
26d 下り傾斜部
27、27B 懸吊部材
32 屈伸部
35 制御機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7