【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施に際しては、以下のものを使用した。
【0036】
無水乳脂(製品名:バターオイルCML、丸和油脂株式会社製、油脂含量:99.8質量%)
【0037】
(乳脂の酸化)
無水乳脂200gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。0、3、4.5、5、5.5、5.8、6.5時間後にサンプリングし、油脂組成物を得た(調製例1〜7)。
【0038】
(特開平05−60337 実施例3相当の調製)
無水乳脂200g、10%食塩水(クエン酸・クエン酸ナトリウムでpH4に調整)40gをフラスコ内で混合し、70℃、16時間撹拌保温した。保温後、遠心分離し、油相を回収し、油脂組成物を得た(調製例8)。
【0039】
得られた酸化乳脂の過酸化物価(POV)を「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」に準じて、測定した。また、以下の条件で測定した結果に基づいて、油脂組成物の180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)を算出した。その値を表1に示す。
【0040】
<ガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC/MS)の条件>
装置:GC Agilent7890A/MS 5975B、GERSTELHS/TDU/CIS/ODP
カラム:phenomen ZB-WAXplus 長さ60m×内径0.25mm×膜厚0.25μm
捕集:
(1)ダイナミックヘッドスペース(DHS)容器(スクリューネックバイアル、20ml、GERSTEL社製)内で、試料である油脂組成物0.5gを180℃加温(5分攪拌、3分間平衡化)
(2)ヘリウム下 25ml/min×1min でパージし、揮発した成分をTenaxTA(TDU TenaxTAガラスチューブ、GERSTEL社製)にトラップ
加熱脱着:
(1)トラップした成分を250℃にてヘリウム50ml/min×3minにて、加熱脱着してCIS(Cooled Injection System)内のTenaxTA(TDU TenaxTAガラスチューブ、GERSTEL社製)にトラップ(-50℃)
(2)CIS内を250℃まで加熱、揮発した成分をGC/MSへ導入、分析
注入口:温度250℃、スプリットレス
オーブン:40℃(10min)→2℃/min→100℃→5℃/min→210℃(10min)
分析時間:72min
イオン化法:EI法(70eV)
イオン源:230℃
四重極:150℃
測定モード:SCAN
ODP/MSスプリット比:2/1
【0041】
<ペンタナール/ヘキサナール(モル比)の算出>
上記試料に、所定量のペンタナールまたはヘキサナールを含む中鎖脂肪酸トリグリセリドを使用し、同様に処理し、分析をおこなった。得られたピーク面積を基準として、試料中のペンタナールおよびヘキサナールを定量した。得られた定量値からペンタナールの量(モル)をヘキサナールの量(モル)で除して、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)を算出した。
なお、ペンタナール(製品名:バレルアルデヒド、Alfa Aesar社製)、ヘキサナール(製品名:ヘキサナール、和光純薬工業株式会社製)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(製品名:MCT アクターM-107FR、理研ビタミン株式会社製)を使用した。
【0042】
【表1】
【0043】
(マーガリンでの評価)
市販のマーガリン(ラーマ バターの風味、株式会社J−オイルミルズ社製)を30℃に保温し、柔らかくしたマーガリン30gに、菜種油(コントロール)もしくは調製例1〜8の油脂組成物0.03gを添加し、撹拌、冷蔵庫にて冷却した。得られたマーガリンを食し、乳感・後味、劣化臭の強さを以下のように評価をした。
<乳感・後味>
○:乳感とその後味がコントロールと比べて強く感じられる
△:乳感とその後味がコントロールと比べてやや強く感じられる
×:コントロールと差なし
<劣化臭の強さ>
○:劣化臭なし
△:劣化臭やや感じられる
×:劣化臭感じられる
【0044】
【表2】
【0045】
実施例2−1〜5に示したように、ペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.62〜0.65である油脂組成物は、マーガリンの乳感・後味が強く感じられた。また、POVが21.9〜114.6である調製例3〜7の油脂組成物では、マーガリンの乳感・後味が強く感じられた。特にPOVが37.8以上であるとその効果は強かった。
一方、ペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.87、0.75、0.94である比較例2−1〜3では、マーガリンの乳感・後味はコントロールと同等であり、ペンタナール/ヘキサナール(モル比)が所定の範囲であることが、効果を得るために必要であることがわかった。なお、特開平05−60337の実施例3相当である比較例2−3では、原料である無水乳脂を加工することで、ペンタナール/ヘキサナール(モル比)が、0.87から0.94へと増加した。
【0046】
(クリーミングパウダーでの評価)
パーム核極硬油、コーンシロップ及び乳化剤を、表3に示す割合で配合し得られた組成物100質量部に対し、調製例4〜6の油脂組成物を0.0005質量部添加し、粉末油脂用組成物を得た。この粉末油脂用組成物50質量部に、水50質量部を添加し、常法に従い、乳化・噴霧し、クリーミングパウダーを調製した。
【0047】
【表3】
【0048】
得られたクリーミングパウダー10gをお湯90gに溶解(調製例の油脂組成物を約0.5ppm含有する)し、食して以下の評価基準で評価をした。その結果を表4に示す。
<乳風味>
◎:非常に強い
○:強い
△:やや強い
×:弱い
<後味の厚み>
◎:非常に強い
○:強い
△:やや強い
×:弱い
【0049】
【表4】
【0050】
実施例4−1〜3に示したように、本発明の油脂組成物は、僅か5ppm程度の含有量にもかかわらず、いずれも乳風味を得ることができた。また、効果の低い調製例4においても、添加量を増やすことで、乳風味が強く、後味の厚みのあるクリーミングパウダーを得られると考えられる。
【0051】
(酸化条件の検討)
無水乳脂200gをステンレスビーカーに入れ、120℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。4時間後に、80℃にし、さらに10時間保温し、油脂組成物を得た(調製例9)。
【0052】
得られた油脂組成物は調製例1の油脂組成物と同様に分析をおこなった。その結果を表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
調製例1の油脂組成物に代えて調製例9の油脂組成物を用いたことを除き、比較例2−1と同様に市販のマーガリンに添加して評価をおこなった。その結果を表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
実施例6−1に示したように、加熱温度を途中で120℃から80℃に変更しても充分な効果のある油脂組成物が得られた。
【0057】
(乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む油脂組成物での評価1)
無水乳脂140gに中鎖脂肪酸トリグリセリド(製品名:MCT アクターM-107FR、理研ビタミン株式会社製)60gを混合し、乳脂を70質量%含む油脂組成物を調製した。調製した油脂組成物200gをステンレスビーカーに入れ、120℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。13時間反応し油脂組成物を得た(調製例10)。
【0058】
得られた油脂組成物(調製例10)は調製例1の油脂組成物と同様に分析をおこなった。その結果、POVは58.7、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)は0.27であった。
【0059】
調製例1の油脂組成物に代えて調製例10の油脂組成物を用いたことを除き、比較例2−1と同様に市販のマーガリンに添加して評価をおこなった。その結果を表7に示す。
【0060】
【表7】
【0061】
実施例7−1に示したように、乳脂を70質量%含む油脂組成物においても充分な効果を得ることができた。
【0062】
(乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む油脂組成物での評価2)
調製例10において中鎖脂肪酸トリグリセリドに代えて、大豆油(株式会社J−オイルミルズ社製)を用いたこと以外、同様に処理し、油脂組成物を得た(調製例11)。
【0063】
得られた油脂組成物(調製例11)は調製例1の油脂組成物と同様に分析をおこなった。その結果、POVは44.6、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)は0.23であった。
【0064】
調製例1の油脂組成物に代えて調製例11の油脂組成物を用いたことを除き、比較例2−1と同様に市販のマーガリンに添加して評価をおこなった。その結果を表8に示す。
【0065】
【表8】
【0066】
実施例8−1に示したように、乳脂を70質量%含む油脂組成物においても充分な効果を得ることができた。また、乳脂以外の食用油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油いずれを用いても、本発明の効果を得ることができたが、劣化臭の強さの観点から、中鎖脂肪酸トリグリセリドが好ましいことがわかった。
【0067】
(チョコレートでの評価)
市販のチョコレート(ミルクチョコレート、株式会社明治社製)を50〜60℃で溶解した。溶解したチョコレート30gに菜種油(コントロール)もしくは調製例5、10、11の油脂組成物 0.03gをそれぞれ添加した後、撹拌後、冷蔵庫で冷却した。得られたチョコレートを食し、乳感・後味、劣化臭の強さを以下のように評価した。その結果を表9に示す。
<乳感・後味>
○:乳感とその後味がコントロールと比べて強く感じられる
△:乳感とその後味がコントロールと比べてやや強く感じられる
×:コントロールと差なし
<劣化臭の強さ>
○:劣化臭なし
△:劣化臭やや感じられる
×:劣化臭感じられる
【0068】
【表9】
【0069】
実施例9−1〜3に示したように、乳脂を100質量%もしくは乳脂を70質量%含む油脂から得られた本発明の油脂組成物をチョコレートに添加した場合に、乳感・後味の増強されたチョコレートを得ることができた。
【0070】
(澄ましバターを用いたときの評価)
バター(製品名:北海道よつ葉バター 食塩不使用、よつ葉乳業株式会社製)を60℃で熱し分離した油相を分画して澄ましバターを得た(油脂含量 99.5質量%)。澄ましバター200gをステンレスビーカーに入れ、120℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。6時間反応し油脂組成物を得た(調製例12)。
【0071】
得られた油脂組成物(調製例12)は調製例1の油脂組成物と同様に分析をおこなった。その結果、POVは58.2、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)は0.59であった。
【0072】
調製例1の油脂組成物に代えて調製例12の油脂組成物を用いたことを除き、比較例2−1と同様に市販のマーガリンに添加して評価をおこなった。その結果を表10に示す。
【0073】
【表10】
【0074】
実施例10−1に示したように、バターから分画した乳脂を用いても充分な効果を得ることができた。