特許第5976968号(P5976968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5976968
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】油脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/007 20060101AFI20160817BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20160817BHJP
【FI】
   A23D9/00 504
   A23L27/20 A
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-16806(P2016-16806)
(22)【出願日】2016年2月1日
【審査請求日】2016年2月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-197193(P2015-197193)
(32)【優先日】2015年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J−オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】徳地 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅博
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−053880(JP,A)
【文献】 特開2014−054207(JP,A)
【文献】 特開昭62−198352(JP,A)
【文献】 特開昭62−259542(JP,A)
【文献】 特開昭62−248452(JP,A)
【文献】 特開昭58−043755(JP,A)
【文献】 特開2002−069481(JP,A)
【文献】 特開2003−153665(JP,A)
【文献】 特開2014−068583(JP,A)
【文献】 特開2013−034461(JP,A)
【文献】 特開2009−291134(JP,A)
【文献】 特開2003−164258(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第01273263(GB,A)
【文献】 特開平09−094062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/007
A23L 27/20
A23C 1/00−23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FROSTI/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳脂を50質量%以上100質量%以下含む原料油脂組成物に、前記原料油脂組成物1kgあたり0.02〜2L/分となるように酸素を供給し、75℃以上150℃以下で、1時間以上72時間以下酸化し、過酸化物価が15〜150、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.15以上0.70以下である酸化油脂組成物を得る工程を含む、油脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記原料油脂組成物が乳脂を70質量%以上100質量%以下含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
前記原料油脂組成物の油脂含量が90質量%以上100質量%以下である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記乳脂が無水乳脂である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記過酸化物価が20〜120である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の製造方法で得られた油脂組成物を含む食品の製造方法
【請求項7】
前記食品に対し、前記油脂組成物を0.01ppm以上20000ppm以下含む請求項に記載の食品の製造方法
【請求項8】
前記食品の食用油脂含量が10質量%以上100質量%以下である請求項6又は7に記載の食品の製造方法
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載の製造方法で得られた油脂組成物を食品に添加することを特徴とする、食品に乳風味を付与する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バターは、独特の風味を有することで、食材として好まれている。そして、バター代替品として発展したマーガリンでは、バターを添加し、バター風味を付与した商品が販売されている。一方、バターは高価であり、日本のバター生産量は減少しつつあり、緊急輸入等の処置が実施される状況となっている。
【0003】
従来、高価なバターを有効に利用し、バター風味を付与する試みがなされている。特許文献1(特開平05−60337)では、所定の化合物を所定量含有するバター脂肪を添加するバター様フレーバーを付与した食品の製造法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2(特開平09−94062)では、乳脂肪を酵素で加水分解した後、紫外線照射して過酸化物価(POV)を1.5〜9.0の範囲で酸化させるバターフレーバーの製造法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記いずれのフレーバーも後述する比較例で示すように、乳感や乳風味が充分ではなく、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−60337号公報
【特許文献2】特開平09−94062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来のバターフレーバーの製造方法では、充分な乳感や乳風味は得られなかった。そこで、本発明では、乳感や乳風味に優れた、油脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、50質量%以上100質量%以下の乳脂を含有し、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.15以上0.70以下である油脂組成物が乳感や乳風味に優れることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油脂組成物を用いることで、食品に乳感や乳風味を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、50質量%以上100質量%以下の乳脂を含有し、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.15以上0.70以下である油脂組成物である。
【0011】
さらに、前記油脂組成物の過酸化物価が15〜150であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記油脂組成物の油脂含量が90質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、50質量%以上100質量%以下の乳脂を含有し、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.15以上0.70以下である油脂組成物を含む食品である。
【0014】
さらに、前記食品に対し、前記油脂組成物を0.01ppm以上20000ppm以下含むことが好ましい。
【0015】
さらに、前記食品の食用油脂含量が10質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、乳脂を50質量%以上100質量%以下含む原料油脂組成物を、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.15以上0.70以下になるように酸化し、酸化油脂組成物を得る工程を含む、油脂組成物の製造方法である。
【0017】
さらに、前記原料油脂組成物が乳脂を70質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。
【0018】
さらに、前記酸化を75℃以上150℃以下でおこなうことが好ましい。
【0019】
さらに、前記原料油脂組成物の油脂含量が90質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0020】
さらに、前記乳脂が無水乳脂であることが好ましい。
【0021】
さらに、前記酸化油脂組成物の過酸化物価が15〜150であることが好ましく、20〜120であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明は、50質量%以上100質量%以下の乳脂を含有し、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.15以上0.70以下である油脂組成物を食品に添加することを特徴とする、食品に乳風味を付与する方法である。
【0023】
本発明の「180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)」は、油脂組成物を180℃に加温したときに揮発するペンタナールとヘキサナールの量の測定に基づいて、ペンタナールの量をヘキサナールの量で除して算出する。具体的には、本発明の油脂組成物0.5gをダイナミックヘッドスペース容器(スクリューネックバイアル、20ml、GERSTEL社製)中、180℃で加温(5分撹拌、3分間平衡化)し、ヘッドスペースにヘリウム(25ml/分、1分)をパージして揮発した成分をTenaxTA(TDU TenaxTAガラスチューブ、GERSTEL社製)にトラップし、250℃で脱着して、ペンタナールとヘキサナールを測定する。
【0024】
本発明の180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)は、0.15以上0.70以下であり、好ましくは0.20以上0.68以下であり、より好ましくは0.23以上0.65以下である。所定の範囲とすることで、より乳風味の高い油脂組成物とすることができる。また、本発明では、油脂組成物の前記ペンタナール/ヘキサナール(モル比)が所定の範囲となるように油脂組成物を加工する。その加工方法は特に問わないが、好ましくは油脂組成物を酸化する方法である。
【0025】
本発明における乳脂とは、生乳、牛乳又は特別牛乳から得られる油脂含量が95質量%以上100質量%以下のものをいう。例えば、無水乳脂、澄ましバター等が挙げられる。無水乳脂は、牛乳等から乳脂肪以外のほとんどすべての成分を除去したものをいい、AMF(Anhydrous Milk Fat、バターオイル)等と表記される場合もある。澄ましバターはバターの脂肪分を分取したものである。本発明で使用する乳脂は、好ましくは無水乳脂または澄ましバターであり、より好ましくは無水乳脂である。また、乳脂の油脂含量は、好ましくは98質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下である。
【0026】
本発明の油脂組成物の乳脂含量は、50質量%以上100質量%以下であり、60質量%以上100質量%以下であることが好ましく、65質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、100質量%(すなわち、乳脂単独)であることが最も好ましい。
【0027】
また、前記油脂組成物は、乳脂以外の食用油脂を含んでいてもよい。前記油脂組成物の油脂含量は、90質量%以上100質量%以下が好ましく、95質量%以上100質量%以下がより好ましく、98質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。前記食用油脂は、特に限定されないが、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油及びパーム分別油のいずれか一種または二種以上が好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリドおよび/または大豆油がより好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリドがさらに好ましい。所定の食用油脂とすることで、より良い風味を得ることができる。
【0028】
また、本発明では、前記油脂組成物の過酸化物価(以下、「POV」ともいう)は15〜150であることが好ましく、20〜120であることがより好ましく、30〜115であることがさらに好ましい。前記油脂組成物は酸化をすることで、所定範囲のPOVとすることができるが、酸化の方法は特に限定されない。酸化をする温度は75℃以上150℃以下が好ましく、80℃以上140℃以下がより好ましく、95℃以上140℃以下がさらに好ましい。また、酸化をする時間は、特に限定されないが、好ましくは1時間以上72時間以下である。
【0029】
また、酸化をする際には、原料油脂組成物に酸素を供給し、酸化をすることが好ましい。酸素の供給源としては、酸素単独でもかまわないし、空気等の酸素を含むものでも良く、好ましくは空気である。酸素の供給量が、原料油脂組成物1kgあたり0.02〜2L/分となるようにすることが好ましい。例えば、空気の場合は、原料油脂組成物1kgあたり0.1〜10L/分であることが好ましく、0.3〜5L/分であることがより好ましい。また、酸化をする場合には、原料油脂組成物を撹拌することが好ましい。
【0030】
前記原料油脂組成物の乳脂含量は、50質量%以上100質量%以下であり、60質量%以上100質量%以下であることが好ましく、65質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、100質量%(すなわち、乳脂単独)であることが最も好ましい。
【0031】
また、前記原料油脂組成物は、乳脂以外の食用油脂を含んでいてもよい。前記原料油脂組成物の油脂含量は、90質量%以上100質量%以下が好ましく、95質量%以上100質量%以下がより好ましく、98質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。前記食用油脂は、特に限定されないが、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油及びパーム分別油のいずれか一種または二種以上が好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリドおよび/または大豆油がより好ましく、中鎖脂肪酸トリグリセリドがさらに好ましい。所定の食用油脂とすることで、より良い風味とすることができる。
【0032】
本発明の油脂組成物は、特に、食用油脂を含有する食品への添加が好ましい。例えば、マーガリン、ホイップクリーム、コーヒーホワイトナー等の乳化物、ショートニング等の油脂製品、クリーミングパウダー等の油脂含有粉末製品、チョコレート等の菓子類等である。前記食品の食用油脂含量は、10質量%以上100質量%以下であることが好ましく、30質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
また、本発明の油脂組成物の食品での含有量は、その効果に応じて調整すればよいが、食品に対し、好ましくは0.01ppm以上20000ppm以下であり、より好ましくは0.01ppm以上10000ppm以下であり、さらに好ましくは0.05ppm以上10000ppm以下であり、最も好ましくは0.1ppm以上5000ppm以下である。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の実施例および比較例を示すが、本発明の主旨はこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施に際しては、以下のものを使用した。
【0036】
無水乳脂(製品名:バターオイルCML、丸和油脂株式会社製、油脂含量:99.8質量%)
【0037】
(乳脂の酸化)
無水乳脂200gをステンレスビーカーに入れ、100℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。0、3、4.5、5、5.5、5.8、6.5時間後にサンプリングし、油脂組成物を得た(調製例1〜7)。
【0038】
(特開平05−60337 実施例3相当の調製)
無水乳脂200g、10%食塩水(クエン酸・クエン酸ナトリウムでpH4に調整)40gをフラスコ内で混合し、70℃、16時間撹拌保温した。保温後、遠心分離し、油相を回収し、油脂組成物を得た(調製例8)。
【0039】
得られた酸化乳脂の過酸化物価(POV)を「基準油脂分析試験法 2.5.2 過酸化物価」に準じて、測定した。また、以下の条件で測定した結果に基づいて、油脂組成物の180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)を算出した。その値を表1に示す。
【0040】
<ガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC/MS)の条件>
装置:GC Agilent7890A/MS 5975B、GERSTELHS/TDU/CIS/ODP
カラム:phenomen ZB-WAXplus 長さ60m×内径0.25mm×膜厚0.25μm
捕集:
(1)ダイナミックヘッドスペース(DHS)容器(スクリューネックバイアル、20ml、GERSTEL社製)内で、試料である油脂組成物0.5gを180℃加温(5分攪拌、3分間平衡化)
(2)ヘリウム下 25ml/min×1min でパージし、揮発した成分をTenaxTA(TDU TenaxTAガラスチューブ、GERSTEL社製)にトラップ
加熱脱着:
(1)トラップした成分を250℃にてヘリウム50ml/min×3minにて、加熱脱着してCIS(Cooled Injection System)内のTenaxTA(TDU TenaxTAガラスチューブ、GERSTEL社製)にトラップ(-50℃)
(2)CIS内を250℃まで加熱、揮発した成分をGC/MSへ導入、分析

注入口:温度250℃、スプリットレス
オーブン:40℃(10min)→2℃/min→100℃→5℃/min→210℃(10min)
分析時間:72min
イオン化法:EI法(70eV)
イオン源:230℃
四重極:150℃
測定モード:SCAN
ODP/MSスプリット比:2/1
【0041】
<ペンタナール/ヘキサナール(モル比)の算出>
上記試料に、所定量のペンタナールまたはヘキサナールを含む中鎖脂肪酸トリグリセリドを使用し、同様に処理し、分析をおこなった。得られたピーク面積を基準として、試料中のペンタナールおよびヘキサナールを定量した。得られた定量値からペンタナールの量(モル)をヘキサナールの量(モル)で除して、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)を算出した。
なお、ペンタナール(製品名:バレルアルデヒド、Alfa Aesar社製)、ヘキサナール(製品名:ヘキサナール、和光純薬工業株式会社製)、中鎖脂肪酸トリグリセリド(製品名:MCT アクターM-107FR、理研ビタミン株式会社製)を使用した。
【0042】
【表1】
【0043】
(マーガリンでの評価)
市販のマーガリン(ラーマ バターの風味、株式会社J−オイルミルズ社製)を30℃に保温し、柔らかくしたマーガリン30gに、菜種油(コントロール)もしくは調製例1〜8の油脂組成物0.03gを添加し、撹拌、冷蔵庫にて冷却した。得られたマーガリンを食し、乳感・後味、劣化臭の強さを以下のように評価をした。

<乳感・後味>
○:乳感とその後味がコントロールと比べて強く感じられる
△:乳感とその後味がコントロールと比べてやや強く感じられる
×:コントロールと差なし

<劣化臭の強さ>
○:劣化臭なし
△:劣化臭やや感じられる
×:劣化臭感じられる
【0044】
【表2】
【0045】
実施例2−1〜5に示したように、ペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.62〜0.65である油脂組成物は、マーガリンの乳感・後味が強く感じられた。また、POVが21.9〜114.6である調製例3〜7の油脂組成物では、マーガリンの乳感・後味が強く感じられた。特にPOVが37.8以上であるとその効果は強かった。
一方、ペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.87、0.75、0.94である比較例2−1〜3では、マーガリンの乳感・後味はコントロールと同等であり、ペンタナール/ヘキサナール(モル比)が所定の範囲であることが、効果を得るために必要であることがわかった。なお、特開平05−60337の実施例3相当である比較例2−3では、原料である無水乳脂を加工することで、ペンタナール/ヘキサナール(モル比)が、0.87から0.94へと増加した。
【0046】
(クリーミングパウダーでの評価)
パーム核極硬油、コーンシロップ及び乳化剤を、表3に示す割合で配合し得られた組成物100質量部に対し、調製例4〜6の油脂組成物を0.0005質量部添加し、粉末油脂用組成物を得た。この粉末油脂用組成物50質量部に、水50質量部を添加し、常法に従い、乳化・噴霧し、クリーミングパウダーを調製した。
【0047】
【表3】
【0048】
得られたクリーミングパウダー10gをお湯90gに溶解(調製例の油脂組成物を約0.5ppm含有する)し、食して以下の評価基準で評価をした。その結果を表4に示す。

<乳風味>
◎:非常に強い
○:強い
△:やや強い
×:弱い

<後味の厚み>
◎:非常に強い
○:強い
△:やや強い
×:弱い
【0049】
【表4】
【0050】
実施例4−1〜3に示したように、本発明の油脂組成物は、僅か5ppm程度の含有量にもかかわらず、いずれも乳風味を得ることができた。また、効果の低い調製例4においても、添加量を増やすことで、乳風味が強く、後味の厚みのあるクリーミングパウダーを得られると考えられる。
【0051】
(酸化条件の検討)
無水乳脂200gをステンレスビーカーに入れ、120℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。4時間後に、80℃にし、さらに10時間保温し、油脂組成物を得た(調製例9)。
【0052】
得られた油脂組成物は調製例1の油脂組成物と同様に分析をおこなった。その結果を表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
調製例1の油脂組成物に代えて調製例9の油脂組成物を用いたことを除き、比較例2−1と同様に市販のマーガリンに添加して評価をおこなった。その結果を表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
実施例6−1に示したように、加熱温度を途中で120℃から80℃に変更しても充分な効果のある油脂組成物が得られた。
【0057】
(乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む油脂組成物での評価1)
無水乳脂140gに中鎖脂肪酸トリグリセリド(製品名:MCT アクターM-107FR、理研ビタミン株式会社製)60gを混合し、乳脂を70質量%含む油脂組成物を調製した。調製した油脂組成物200gをステンレスビーカーに入れ、120℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。13時間反応し油脂組成物を得た(調製例10)。
【0058】
得られた油脂組成物(調製例10)は調製例1の油脂組成物と同様に分析をおこなった。その結果、POVは58.7、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)は0.27であった。
【0059】
調製例1の油脂組成物に代えて調製例10の油脂組成物を用いたことを除き、比較例2−1と同様に市販のマーガリンに添加して評価をおこなった。その結果を表7に示す。
【0060】
【表7】
【0061】
実施例7−1に示したように、乳脂を70質量%含む油脂組成物においても充分な効果を得ることができた。
【0062】
(乳脂および乳脂以外の食用油脂を含む油脂組成物での評価2)
調製例10において中鎖脂肪酸トリグリセリドに代えて、大豆油(株式会社J−オイルミルズ社製)を用いたこと以外、同様に処理し、油脂組成物を得た(調製例11)。
【0063】
得られた油脂組成物(調製例11)は調製例1の油脂組成物と同様に分析をおこなった。その結果、POVは44.6、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)は0.23であった。
【0064】
調製例1の油脂組成物に代えて調製例11の油脂組成物を用いたことを除き、比較例2−1と同様に市販のマーガリンに添加して評価をおこなった。その結果を表8に示す。
【0065】
【表8】
【0066】
実施例8−1に示したように、乳脂を70質量%含む油脂組成物においても充分な効果を得ることができた。また、乳脂以外の食用油脂として、中鎖脂肪酸トリグリセリド、大豆油いずれを用いても、本発明の効果を得ることができたが、劣化臭の強さの観点から、中鎖脂肪酸トリグリセリドが好ましいことがわかった。
【0067】
(チョコレートでの評価)
市販のチョコレート(ミルクチョコレート、株式会社明治社製)を50〜60℃で溶解した。溶解したチョコレート30gに菜種油(コントロール)もしくは調製例5、10、11の油脂組成物 0.03gをそれぞれ添加した後、撹拌後、冷蔵庫で冷却した。得られたチョコレートを食し、乳感・後味、劣化臭の強さを以下のように評価した。その結果を表9に示す。

<乳感・後味>
○:乳感とその後味がコントロールと比べて強く感じられる
△:乳感とその後味がコントロールと比べてやや強く感じられる
×:コントロールと差なし

<劣化臭の強さ>
○:劣化臭なし
△:劣化臭やや感じられる
×:劣化臭感じられる
【0068】
【表9】
【0069】
実施例9−1〜3に示したように、乳脂を100質量%もしくは乳脂を70質量%含む油脂から得られた本発明の油脂組成物をチョコレートに添加した場合に、乳感・後味の増強されたチョコレートを得ることができた。
【0070】
(澄ましバターを用いたときの評価)
バター(製品名:北海道よつ葉バター 食塩不使用、よつ葉乳業株式会社製)を60℃で熱し分離した油相を分画して澄ましバターを得た(油脂含量 99.5質量%)。澄ましバター200gをステンレスビーカーに入れ、120℃に保温しながら、撹拌し、空気(200ml/分)を供給した。6時間反応し油脂組成物を得た(調製例12)。
【0071】
得られた油脂組成物(調製例12)は調製例1の油脂組成物と同様に分析をおこなった。その結果、POVは58.2、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)は0.59であった。
【0072】
調製例1の油脂組成物に代えて調製例12の油脂組成物を用いたことを除き、比較例2−1と同様に市販のマーガリンに添加して評価をおこなった。その結果を表10に示す。
【0073】
【表10】
【0074】
実施例10−1に示したように、バターから分画した乳脂を用いても充分な効果を得ることができた。
【要約】
【課題】
乳感や乳風味に優れた、油脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
50質量%以上100質量%以下の乳脂を含有し、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.15以上0.70以下である油脂組成物である。また、乳脂を50質量%以上100質量%以下含む原料油脂組成物を、180℃での揮発成分に基づくペンタナール/ヘキサナール(モル比)が0.15以上0.70以下になるように酸化し、酸化油脂組成物を得る工程を含む、油脂組成物の製造方法である。
【選択図】なし