(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マルチビームを、マルチビーム形成領域を分割した複数の領域の領域毎に複数のビーム群に分け、各領域のビーム群の電流値を前記電流検出器を用いて測定する測定部と、
測定された各領域のビーム群の電流値の電流分布を作成する電流分布作成部と、
前回作成された電流分布と今回作成された電流分布との差が許容範囲内かどうかを判定する判定部と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、スループットを低下させずにマルチビームの各ビームの電流量を校正することが可能な描画装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、
試料を載置する、連続移動可能なステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の開口部を有し、複数の開口部全体が含まれる領域に荷電粒子ビームの照射を受け、複数の開口部を荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成するアパーチャ部材と、
アパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う複数の第1の偏向器と、
アパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームを試料へ到達させないようにまとめて偏向する第2の偏向器と、
複数の第1の偏向器によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽するブランキングアパーチャ部材と、
ブランキングアパーチャ部材に配置され、第2の偏向器によって偏向されたマルチビームのうちビームONの状態の全ビームの電流値を検出する電流検出器と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の他の態様のマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、
試料を載置する、連続移動可能なステージと、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
複数の開口部を有し、複数の開口部全体が含まれる領域に荷電粒子ビームの照射を受け、複数の開口部を荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成するアパーチャ部材と、
アパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う複数の偏向器と、
複数の偏向器によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽するブランキングアパーチャ部材と、
移動可能に配置され、移動することによって前記マルチビームのうちビームONの状態の全ビームを試料へ到達させないように遮蔽すると共に、ビームONの状態の全ビームの電流値を検出する電流検出器と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、マルチビームを、マルチビーム形成領域を分割した複数の領域の領域毎に複数のビーム群に分け、各領域のビーム群の電流値を電流検出器を用いて測定する測定部と、
測定された各領域のビーム群の電流値の電流分布を作成する電流分布作成部と、
前回作成された電流分布と今回作成された電流分布との差が許容範囲内かどうかを判定する判定部と、
をさらに備えた構成とすると好適である。
【0010】
また、本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、
荷電粒子ビームの照射を受けてマルチビームを形成する複数の開口部を有するアパーチャ部材の複数の開口部を通過したマルチビームを、マルチビーム形成領域を分割した複数の領域の領域毎に複数のビーム群に分け、各領域のビーム群の電流値を測定する工程と、
測定された各領域のビーム群の電流値の電流分布を作成する工程と、
前回作成された電流分布と今回作成された電流分布との差が許容範囲内かどうかを判定する工程と、
を備え、
前回の電流分布と今回の電流分布の差が許容範囲内でない場合に描画を中止し、前回の電流分布と今回の電流分布の差が許容範囲内である場合に、マルチビームを用いて試料にパターンを描画することを特徴とする。
【0011】
また、マルチビームの全ビーム電流を測定する工程と、
全ビーム電流をマルチビームのビーム数で割ることで、平均電流を算出する工程と、
マルチビームの各ビームの電流値をそれぞれ測定する工程と、
マルチビームのビーム毎に、当該ビームの電流値と平均電流とを用いて、描画を行う際に当該ビームの照射量を補正するための当該ビームの補正係数を算出する工程と、
をさらに備え、
試料の描画領域は複数のストライプ領域に分割され、ストライプ領域毎に描画処理が連続して行われ、ストライプ領域毎に次に描画されるストライプ領域の描画開始位置にビームが照射可能になるように前記試料は移動し、
各ビームの電流値は、試料の搬送時又は前記複数の描画単位領域間の移動時に測定されるように構成すると好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、スループットを低下させずにマルチビームの各ビームの電流量を測定できる。よって、スループットを低下させずにマルチビームの各ビームの電流量を校正できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0015】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、アパーチャ部材203、ブランキングプレート204、縮小レンズ205、偏向器212、制限アパーチャ部材206、対物レンズ207、及び偏向器208が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。また、制限アパーチャ部材206には、電流検出器214が配置される。
【0016】
図1の例では、制限アパーチャ部材206の制限開口とは異なる位置に別の開口が設けられ、かかる開口下に電流検出器214が配置されているが、これに限るものではない。制限アパーチャ部材206の制限開口とは異なる位置の制限アパーチャ部材206上に電流検出器214が載置されても好適である。
【0017】
制御部160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130,132、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプ134,136、アンプ138、ステージ位置測定部139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130,132、アンプ138、ステージ位置測定部139及び記憶装置140,142,144は、図示しないバスを介して互いに接続されている。記憶装置140(記憶部)には、描画データが外部から入力され、格納されている。
【0018】
制御計算機110内には、全ビーム電流測定部50、平均電流算出部52、ビーム群電流測定部54、分布作成部56、判定部58、個別ビーム電流測定部60、補正係数算出部62、更新部64、描画データ処理部66、描画時間算出部68、及び描画処理部70が配置されている。全ビーム電流測定部50、平均電流算出部52、ビーム群電流測定部54、分布作成部56、判定部58、個別ビーム電流測定部60、補正係数算出部62、更新部64、描画データ処理部66、描画時間算出部68、及び描画処理部70といった各機能は、電気回路等のハードウェアで構成されてもよいし、これらの機能を実行するプログラム等のソフトウェアで構成されてもよい。或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより構成されてもよい。全ビーム電流測定部50、平均電流算出部52、ビーム群電流測定部54、分布作成部56、判定部58、個別ビーム電流測定部60、補正係数算出部62、更新部64、描画データ処理部66、描画時間算出部68、及び描画処理部70に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0019】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0020】
図2は、実施の形態1におけるアパーチャ部材の構成を示す概念図である。
図2(a)において、アパーチャ部材203には、縦(y方向)m列×横(x方向)n列(m,n≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。
図2(a)では、例えば、512×8列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。ここでは、y方向の各列について、x方向にAからHまでの8つの穴22がそれぞれ形成される例が示されている。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、
図2(a)にように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。
図2(b)に示すように、例えば、縦方向(y方向)1段目の列と、2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)2段目の列と、3段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0021】
図3は、実施の形態1におけるブランキングプレートの構成を示す概念図である。ブランキングプレート204には、アパーチャ部材203の各穴22の配置位置に合わせて通過孔が形成され、各通過孔には、対となる2つの電極24,26の組(ブランカー:第1の偏向器)が、それぞれ配置される。各通過孔を通過する電子ビーム20は、それぞれ独立にかかる対となる2つの電極24,26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。このように、複数のブランカーが、アパーチャ部材203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0022】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直にアパーチャ部材203全体を照明する。アパーチャ部材203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴が含まれる領域を照明する。複数の穴の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかるアパーチャ部材203の複数の穴をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングプレート204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を偏向する(ブランキング偏向を行う)。そして、ブランキングプレート204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ部材206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向された電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材206によって遮蔽される。一方、ブランキングプレート204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20は、制限アパーチャ部材206の中心の穴を通過する。かかるブランカーのON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ部材206は、複数のブランカーによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ部材206を通過したビームにより1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ部材206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208によって、制限アパーチャ部材206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。また、例えばXYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように偏向器208によって制御される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的にはアパーチャ部材203の複数の穴の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。描画装置100は、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画動作を行い、所望のパターンを描画する際、パターンに応じて必要なビームがブランキング制御によりビームONに制御される。
【0023】
図4は、実施の形態1における描画動作を説明するための概念図である。
図4(a)に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。かかる各ストライプ領域32は、描画単位領域となる。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は所定の速度で例えば連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、
図4(b)に示すように、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向にむかって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、
図4(c)に示すように、アパーチャ部材203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、各穴22と同数の複数のショットパターン36が一度に形成される。例えば、アパーチャ部材203の1つの穴Aを通過したビームは、
図4(c)で示す「A」の位置に照射され、その位置にショットパターン36を形成する。同様に、例えば、アパーチャ部材203の1つの穴Bを通過したビームは、
図4(c)で示す「B」の位置に照射され、その位置にショットパターン36を形成する。以下、C〜Hについても同様である。そして、各ストライプ32を描画する際、x方向に向かってXYステージ105が移動する中、偏向器208によってy方向或いはx,y方向に各ショットが順に移動する(スキャンする)ように偏向し、ショットビームを連続して順に照射していくラスタースキャン方式で描画する。
【0024】
図5は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図5において、実施の形態1における描画方法は、全ビーム電流測定工程(S102)と、平均電流算出工程(S104)と、ビーム群電流測定工程(S106)と、電流分布作成工程(S108)と、判定工程(S110)と、描画工程(S111)と、個別ビーム電流測定工程(S112)と、補正係数算出工程(S114)と、判定工程(S116)と、個別ビーム電流測定工程(S120)と、補正係数算出工程(S122)と、判定工程(S124)と、更新工程(S130)と、いう一連の工程を実施する。
【0025】
全ビーム電流測定工程(S102)として、全ビーム電流(I)測定部50は、アパーチャ部材203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって形成された、すべての電子ビーム(マルチビーム)20a〜eのビーム電流値(全ビーム電流I)を測定する。具体的には、以下のように動作する。
【0026】
図6は、実施の形態1における全ビーム電流の測定方法を説明するための概念図である。アパーチャ部材203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって形成された、すべての電子ビーム(マルチビーム)20a〜eは、偏向器(第2の偏向器)によって、制限アパーチャ部材206に配置された電流検出器214上に、まとめて偏向される。これにより、全ビームを電流検出器214に照射することができる。よって、電流検出器214は、マルチビームのうちビームONの状態の全ビームの電流値を検出できる。よって、描画室103までビームが到達する前に遮蔽される。よって、ステージ105或いは試料101までビームが到達することはない。電流検出器214で測定された情報は、アンプ138でデジタル信号に変換され、全ビーム電流(I)測定部50に出力される。これにより、I測定部50は、全ビーム電流Iを測定できる。
【0027】
平均電流算出工程(S104)として、平均電流算出部52は、測定された全ビーム電流Iをビーム本数で除してビーム1本あたりの平均電流iMを算出する。
【0028】
ビーム群電流測定工程(S106)として、ビーム群電流測定部54(測定部)は、マルチビームを、マルチビーム形成領域を分割した複数の領域の領域毎に複数のビーム群に分け、各領域のビーム群の電流値iBを、電流検出器214を用いて測定する。例えば、アパーチャ部材203の複数の穴22が形成された領域10をメッシュ状に複数のメッシュ領域に分割する。例えば、ビーム本数が10×10本ずつのメッシュ領域に分割すると好適である。上述した
図2の例では、512段×8列のマトリクス状の穴22が形成された例を示したが、例えば、512×512本のマトリクス状の穴22が形成されてもよい。或いは、もっと多くの本数のマルチビームが形成されるようにしてもよい。或いは、もっと少ない本数のマルチビームが形成されるようにしてもよい。そして、ここでは、測定対象のメッシュ領域内のビーム群(例えば10×10本)だけビームONとなり、他のビームはビームOFFになるようにブランキングプレート204内のブランカーにて偏向する。そして、偏向器212は、ビームONのビーム群(例えば10×10本)だけが電流検出器214に照射される偏向量で、すべてのビームをまとめて偏向すればよい。これにより、対象メッシュ領域のビーム群だけを電流検出器214に照射することができる。よって、電流検出器214は、マルチビームのうちビームONの状態の全ビームの電流値を検出できる。残りのビームは、制限アパーチャ部材206にて遮蔽される。よって、描画室103までビームが到達する前に遮蔽される。よって、ステージ105或いは試料101までビームが到達することはない。電流検出器214で測定された情報は、アンプ138でデジタル信号に変換され、ビーム群電流測定部54に出力される。これにより、iB測定部54は、対象メッシュ領域のビーム群の電流iBを測定できる。かかる動作をすべてのメッシュ領域について実施する。これにより、ビーム群毎(メッシュ領域毎)のビーム群電流iBを測定できる。
【0029】
電流分布作成工程(S108)として、分布作成部56(電流分布作成部)は、測定された各領域(メッシュ領域)のビーム群の電流値iBの電流分布を作成する。作成された電流分布は記憶装置144に格納される。
【0030】
図7は、実施の形態1における電流分布の一例を示す図である。各ビーム群領域(メッシュ領域)のビーム群電流iBを等高線表示することで、例えば、
図7に示すような電流分布10を作成できる。
【0031】
判定工程(S110)として、判定部58は、前回作成された電流分布と今回作成された電流分布との差が許容範囲内かどうかを判定する。電流分布10の形状が異なっている(許容範囲から外れる)場合には、電子銃201内のカソードの状態が変化したことがわかる。カソードの状態が変化した場合には、個々のビーム電流も変化している可能性が高い。よって、そのまま描画処理を行うことは困難である。よって、前回作成された電流分布と今回作成された電流分布との差が許容範囲からはずれている場合には、描画処理を行わずに中止し、個別ビーム電流測定工程(S120)へと進む。一方、前回作成された電流分布と今回作成された電流分布との差が許容範囲内である場合には、描画工程(S111)へと進む。前回と今回の電流分布10の差が許容範囲内である場合に、マルチビーム20を用いて試料101にパターンを描画する。
【0032】
描画工程(S111)として、描画処理部70は、マルチビーム20を用いて、試料101にパターンを描画するように描画処理を制御する。具体的には、以下のように描画処理が行われる。描画処理部70によって制御された描画データ処理部66は、かかるストライプ領域32毎に、記憶装置140から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を行って、装置固有のショットデータを生成する。その際、記憶装置142に記憶された補正係数ckを用いて、描画時間算出部68は、各ビームの照射量を補正する。照射量Dはビームの照射時間tkによって調整される。具体的には、描画時間算出部68は、tk=D/(iM×ck/Δ)で算出される。Δはビーム面積を示す。
【0033】
また、描画処理部70は、データ処理と並行して、図示しない搬送経路を通って試料101を描画室103内のステージ105へと搬送する。そして、偏向制御回路130は、ショットデータに沿って、各回のそれぞれのブランカーが行うショットのブランキング制御用の信号を生成し、DACアンプ134で増幅の上、デジタル信号をアナログ信号に変換の上、各ブランカーに出力する。
【0034】
また、偏向制御回路132は、ショット毎のx,y方向への偏向量を演算し、偏向用の信号を生成し、DACアンプ136で増幅の上、デジタル信号をアナログ信号に変換の上、偏向器208に出力する。
【0035】
描画部150は、マルチビーム20を用いて、試料101の各ストライプ領域32上にパターンを描画する。そして、上述したように、ストライプ領域32毎に描画処理が連続して行われる。そのため、対象ストライプ領域32の描画処理が完了する毎に次に描画されるストライプ領域の描画開始位置にビームが照射可能になるように試料を載置したステージ105が移動する。
【0036】
個別ビーム電流測定工程(S112)として、個別ビーム電流測定部60は、マルチビームの各ビームの電流値ikをそれぞれ測定する。具体的には、以下のように動作する。
【0037】
図8は、実施の形態1における個別ビーム電流の測定方法を説明するための概念図である。ここでは、測定対象のビームだけビームONとなり、他のビームはビームOFFになるようにブランキングプレート204内のブランカーにて偏向する。そして、偏向器212は、ビームONのビームだけが電流検出器214に照射される偏向量で、すべてのビームをまとめて偏向すればよい。これにより、対象ビーム20dだけを電流検出器214に照射することができる。よって、電流検出器214は、マルチビームのうちビームONの状態の全ビーム(ここでは1本のビーム)の電流値を検出できる。残りのビームは、制限アパーチャ部材206にて遮蔽される。よって、描画室103までビームが到達する前に遮蔽される。よって、ステージ105或いは試料101までビームが到達することはない。電流検出器214で測定された情報は、アンプ138でデジタル信号に変換され、個別ビーム電流測定部60に出力される。これにより、ik電流測定部60は、対象ビームの電流ikを測定できる。かかる動作をすべてのビームについて実施する。これにより、ビーム毎のビーム電流ikを測定できる。但し、各ビームの電流値ikは、試料101の搬送時又は複数のストライプ領域32間の移動時に測定される。よって、一度期に全ての個別ビーム電流値ikを測定するのではなく、描画処理を行いながら、試料搬送時やストライプ間の移動時等の実際にビームを試料に照射しない時期を使って、順に各ビームの個別ビーム電流値ikを測定する。これにより、かかる試料搬送時やストライプ間の移動時等にかかる時間と、個別ビーム電流値ikの測定時間を重ねることができ、スループットの低下を防止できる。
【0038】
実施の形態1では、ビーム電流を測定する際には、描画室103までビームが到達する前にビームが遮蔽されるので、ステージ等への搬送やステージ移動が自由に実施できる。よって、これにより、ステージへの搬送や試料101の高さ分布測定といったステージ上での処理中の時間やステージ移動を伴う動作中の時間についても、個別ビーム電流値ikの測定時間を重ねることができ、スループットの低下をさらに防止できる。
【0039】
補正係数算出工程(S114)として、補正係数算出部62は、マルチビームのビーム毎に、当該ビームの電流値ikと平均電流iMとを用いて、描画を行う際に当該ビームの照射量Dを補正するための当該ビームの補正係数ckを算出する。具体的には、ck=ik/iMで算出できる。
【0040】
かかる個別ビーム電流測定工程(S112)と補正係数算出工程(S114)とは、描画処理中に、可能な範囲で繰り返し行われる。
【0041】
判定工程(S116)として、描画処理部70は、描画処理の終了時に、すべての個別ビーム電流ikの測定が完了したかどうかを判定する。判定の結果、まだ、測定していない個別ビーム電流ikがある場合には、次の描画処理の際に行うために、全ビーム電流測定工程(S102)に戻る。例えば、数枚の試料への描画といった数回の描画処理を実施して、すべての個別ビーム電流ikの測定が完了した場合には、更新工程(S130)とへと進む。
【0042】
更新工程(S130)として、更新部64は、新たに算出された各ビームの補正係数ckを記憶装置142に出力し、既に記憶されたデータから更新する。よって、更新後に行われる描画工程(S111)では、各ビームの照射時間tkは、最新の補正係数ckによって補正できる。
【0043】
一方、判定工程(S110)において、電流分布10の形状が異なっている(許容範囲から外れる)と判定された場合には、そのまま描画処理を行うことは困難である。よって、描画処理を行わずに中止し、個別ビームの補正係数ckをまず描画前に調整し直すことが必要となる。そこで、以下のように工程が進む。
【0044】
個別ビーム電流測定工程(S120)として、個別ビーム電流測定部60は、描画処理を中止した状態で、個別ビーム電流ikを測定する。測定手法は上述した個別ビーム電流測定工程(S112)と同様で構わない。
【0045】
補正係数算出工程(S122)として、補正係数算出部62は、各ビームの補正係数ckを算出する。算出手法は補正係数算出工程(S114)と同様である。
【0046】
判定工程(S124)として、描画処理部70は、すべての個別ビーム電流ikの測定が完了したかどうかを判定する。判定の結果、まだ、測定していない個別ビーム電流ikがある場合には、個別ビーム電流測定工程(S120)に戻る。そして、すべての個別ビーム電流ikの測定が完了するまで、個別ビーム電流測定工程(S120)から判定工程(S124)までの各工程を繰り返す。補正係数ckを更新するまでは高精度な描画処理が実施できないので、ここでは、一度期にすべての個別ビーム電流ikの測定を実施するとよい。そして、更新工程(S130)において、新たに算出された各ビームの補正係数ckを記憶装置142に出力し、既に記憶されたデータから更新する。
【0047】
以上のように、実施の形態1によれば、スループットを低下させずにマルチビームの各ビームの電流量を測定できる。よって、スループットを低下させずにマルチビームの各ビームの電流量を校正できる。
【0048】
実施の形態2.
実施の形態1では、偏向器212を用いて、マルチビーム全体を偏向して対象となるビーム(全ビーム、ビーム群、或いは個別ビーム)の電流値を測定していたが、これに限るのではない。実施の形態2では、電流検出器を移動させて対象となるビーム(全ビーム、ビーム群、或いは個別ビーム)の電流値を測定する構成について説明する。
【0049】
図9は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。
図9において、制限アパーチャ部材206とは別に、移動部材216が配置され、移動部材216に電流検出器214が配置された点、移動部材216をスライド移動させる駆動機構218が配置された点、および、駆動機構218を制御する駆動部137が配置された点、以外は、
図1と同様である。電流検出器214は、縮小レンズ205と制限アパーチャ部材206の間、或いは制限アパーチャ部材206と試料101の間に配置されると好適である。より好ましくは、制限アパーチャ部材206の直上、或いは、直下に配置されるとなお好適である。
【0050】
なお、実施の形態2における描画方法は
図6と同様である。また、以下、特に説明しない点は、実施の形態1と同様である。
【0051】
図10は、実施の形態2における全ビーム電流の測定方法を説明するための概念図である。全ビーム電流測定工程(S102)において、描画処理部70によって制御された駆動部137は、駆動機構218を駆動させて、電流検出器214が制限アパーチャ部材206の制限開口上に位置するように移動させる。なお、電流検出器214が制限アパーチャ部材206の下流側に配置されている場合には、電流検出器214が制限アパーチャ部材206の制限開口下に位置するように移動させることは言うまでもない。
【0052】
アパーチャ部材203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって形成された、すべての電子ビーム(マルチビーム)20a〜eは、すべてビームONの状態で、制限アパーチャ部材206の制限開口に向かって進む。これにより、全ビームを電流検出器214に照射することができる。よって、電流検出器214は、マルチビームのうちビームONの状態の全ビームの電流値を検出できる。よって、描画室103までビームが到達する前に遮蔽される。よって、ステージ105或いは試料101までビームが到達することはない。電流検出器214で測定された情報は、アンプ138でデジタル信号に変換され、全ビーム電流(I)測定部50に出力される。これにより、I測定部50は、全ビーム電流Iを測定できる。
【0053】
ビーム群電流測定工程(S106)では、同様に、描画処理部70によって制御された駆動部137は、駆動機構218を駆動させて、電流検出器214が制限アパーチャ部材106の制限開口上に位置するように移動させる。そして、測定対象のメッシュ領域内のビーム群(例えば10×10本)だけビームONとなり、他のビームはビームOFFになるようにブランキングプレート204内のブランカーにて偏向する。よって、ビームONの状態の対象ビーム群は、制限アパーチャ部材106の制限開口に向かって進む。これにより、対象ビーム群を電流検出器214に照射することができる。これにより、対象メッシュ領域のビーム群だけを電流検出器214に照射することができる。よって、電流検出器214は、マルチビームのうちビームONの状態の全ビームの電流値を検出できる。残りのビームは、制限アパーチャ部材206或いは移動部材216にて遮蔽される。よって、描画室103までビームが到達する前に遮蔽される。よって、ステージ105或いは試料101までビームが到達することはない。電流検出器214で測定された情報は、アンプ138でデジタル信号に変換され、ビーム群電流測定部54に出力される。これにより、iB測定部54は、対象メッシュ領域のビーム群の電流iBを測定できる。かかる動作をすべてのメッシュ領域について実施する。これにより、ビーム群毎(メッシュ領域毎)のビーム群電流iBを測定できる。
【0054】
図11は、実施の形態2における個別ビーム電流の測定方法を説明するための概念図である。個別ビーム電流測定工程(S112)では、同様に、描画処理部70によって制御された駆動部137は、駆動機構218を駆動させて、電流検出器214が制限アパーチャ部材106の制限開口上に位置するように移動させる。そして、測定対象のビームだけビームONとなり、他のビームはビームOFFになるようにブランキングプレート204内のブランカーにて偏向する。よって、ビームONの状態の対象ビームは、制限アパーチャ部材106の制限開口に向かって進む。これにより、対象ビーム20dだけを電流検出器214に照射することができる。よって、電流検出器214は、マルチビームのうちビームONの状態の全ビーム(ここでは1本のビーム)の電流値を検出できる。残りのビームは、制限アパーチャ部材206或いは移動部材216にて遮蔽される。よって、描画室103までビームが到達する前に遮蔽される。よって、ステージ105或いは試料101までビームが到達することはない。電流検出器214で測定された情報は、アンプ138でデジタル信号に変換され、個別ビーム電流測定部60に出力される。これにより、ik電流測定部60は、対象ビームの電流ikを測定できる。かかる動作をすべてのビームについて実施する。これにより、ビーム毎のビーム電流ikを測定できる。但し、各ビームの電流値ikは、試料101の搬送時又は複数のストライプ領域32間の移動時に測定される。よって、一度期に全ての個別ビーム電流値ikを測定するのではなく、描画処理を行いながら、試料搬送時やストライプ間の移動時等の実際にビームを試料に照射しない時期を使って、順に各ビームの個別ビーム電流値ikを測定する。これにより、かかる試料搬送時やストライプ間の移動時等にかかる時間と、個別ビーム電流値ikの測定時間を重ねることができ、スループットの低下を防止できる。
【0055】
以上のように、実施の形態2によれば、電流検出器214を移動させることで、ステージ105或いは試料101までビームが到達する前にビーム電流を測定できる。かかる構成でも、実施の形態1と同様、スループットを低下させずにマルチビームの各ビームの電流量を測定できる。よって、スループットを低下させずにマルチビームの各ビームの電流量を校正できる。
【0056】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。上述したラスタースキャン動作は一例であって、マルチビームを用いたラスタースキャン動作その他の動作方法であってもよい。
【0057】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0058】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画装置及び方法は、本発明の範囲に包含される。