(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被焼成体は、ハニカムフィルタ構造体を製造するためのグリーン成形体であり、且つ、アルミニウム源粉末と、チタニウム源粉末と、マグネシウム源粉末と、ケイ素源粉末とを含む、請求項4又は5に記載の焼成体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、DPF用のハニカムフィルタ構造体は多孔質の隔壁からなるセル構造を有する。ディーゼルエンジンの排気ガスが隔壁を通過することで排気ガスに含まれる粒子状物質が除去される。グリーン体は有機バインダや造孔剤などの有機成分を含有する。焼成によって造孔剤が消失することで多孔質の隔壁が形成される。
【0005】
グリーン体を焼成する際、炉内の酸素濃度が高いとグリーン体に含まれる有機成分が急激に燃焼するおそれがある。有機成分の急激な燃焼は、被焼成体の急激な温度上昇をもたらす。その結果、得られる焼成体はクラックが生じたものとなりやすい。このような不具合を解消する手段として、脱脂工程(被焼成体を加熱して有機成分を取り除く工程)において炉内の酸素濃度を1〜5体積%程度にまで低減することが考えられる。
【0006】
しかし、炉内の酸素濃度を低減すると上記不具合が改善される反面、グリーン体に含まれる有機成分が完全燃焼せず、タールの原因となるハイドロカーボン(HC)や一酸化炭素(CO)が炉内に発生する。バッチ式の焼成炉の場合、仮に炉内にタールが発生しても、その後の温度上昇によって大部分のタールは燃焼して消失する。これに対し、トンネルキルンは脱脂工程を実施する温度帯の領域にタールが蓄積しやすいという問題点がある。
【0007】
トンネルキルンは炉内の温度分布が予め設定されており、被焼成体を積載した台車が炉内における各温度帯を順次通過することで脱脂や焼結などのプロセスが進行する。脱脂工程が実施される領域はそれに適した温度(例えば100〜600℃)に維持され、通常の運転時にはタールが燃焼して消失するほどに温度が上昇することはない。このため、当該領域の内壁を構成する炉材(耐火レンガ、セラミックファイバーなどの断熱材料)にタールが付着し、炉材を汚染する。タールは炉材を劣化させるとともに、高温条件下において酸素濃度が高いガス(例えば空気)と触れると発火する危険性もある。炉材に付着又は侵入したタールは、その除去が困難であるため、炉材を定期的に取り換える必要がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、被焼成体に含まれる有機成分の脱脂工程において炉内にタールが発生しても、メンテナンスが容易であり且つ炉材の長寿命化を図ることができるトンネルキルン及びこれを用いた焼成体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るトンネルキルンは、有機成分を含む被焼成体の脱脂及び焼結がそれぞれ行われる脱脂ゾーン及び焼結ゾーンを有し、内壁が炉材によって構成されたトンネルキルン本体と、
脱脂ゾーンの酸素濃度を3体積%以下に低減可能な酸素濃度調整手段と、トンネルキルン本体の入口側から出口側に向けて被焼成体を搬送する搬送手段と、トンネルキルン本体の内壁のうち、少なくとも脱脂ゾーンの内壁を覆うように設けられたライニングとを備える。
【0010】
上記トンネルキルンによれば、脱脂ゾーンの内壁を覆うライニングによってタールが炉材に付着又は侵入するのを十分に防止できる。ライニングは緻密で遮蔽性を有する材料(例えばステンレス)で構成することができる。ライニングにタールが付着しても、炉材にタールが付着した場合と比較して容易に清掃できる。ライニングがタール等によって劣化した場合にはライニングのみを新しいものに取り換えればよい。
【0011】
上記トンネルキルンは、脱脂ゾーンの酸素濃度を
3体積%以下に低減
可能な酸素濃度調整手段を更に備え
る。脱脂ゾーンの酸素濃度が低くなるに従って有機成分が完全燃焼しにくくなるため、タールの発生量が多くなる。従って、炉内の酸素濃度を低くして運転する場合にはライニングの設置が特に有用である。また、被焼成体の有機成分の含有量が比較的多い場合、炉内の酸素濃度を低くして脱脂及び焼成を実施することで、焼成体にクラックが生じることを高度に抑制できるという利点がある。
【0012】
トンネルキルン本体の脱脂ゾーンは、被焼成体に含まれる有機成分がガス化する領域と、ガス化した有機成分が凝縮する領域とを有してもよい。例えば、上記ライニングは、表面の温度が部分的に低いコールドスポットを有してもよい。ライニングにコールドスポットを設けることで、ガス化した有機成分が当該スポットで冷やされて凝縮しやすくなる。これにより、タールがライニングの広い範囲に付着するのを抑制でき、メンテナンスをより一層効率化できる。
【0013】
トンネルキルン本体は、焼結ゾーンよりも出口側に焼成体の冷却が行われる冷却ゾーンを更に有してもよい。トンネルキルン本体に冷却ゾーンを設け、当該ゾーンを焼成体が移動して冷却されるようにすると、焼成後にトンネルキルン本体の全体の温度を下げなくても焼成体を取り出すことができる。これにより、上記トンネルキルンを連続式の焼成炉として使用できる。
【0014】
本発明は、内壁の一部を覆うライニングを有するトンネルキルンを使用した焼成体の製造方法を提供する。すなわち、この方法は、(A)内壁が炉材によって構成されたトンネルキルンの入口側から出口側に向けて、有機成分を含む被焼成体を搬送する工程と、(B)トンネルキルン内において
、酸素濃度が3体積%以下に低減された雰囲気下、被焼成体の脱脂を行う工程と、(C)工程(B)においてガス化した有機成分を、トンネルキルンの内壁の一部を覆うように設けられたライニングの表面に凝縮させる工程と、(D)脱脂後の被焼成体の焼結を行う工程とを備える。
【0015】
上記焼成体の製造方法によれば、脱脂ゾーンの内壁を覆うライニングによってタールが炉材に付着又は侵入するのを十分に防止できる。ライニングにタールが付着しても、炉材にタールが付着した場合と比較して容易に清掃できる。ライニングがタール等によって劣化した場合にはライニングのみを新しいものに取り換えればよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被焼成体に含まれる有機成分の脱脂工程において炉内にタールが発生しても、メンテナンスが容易であ
り且つ炉材の長寿命化を図ることができるトンネルキルン及びこれを用いた焼成体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ここでは、ハニカムフィルタ構造体を製造するためのグリーン成形体を例に挙げて説明する。このグリーン成形体は比較的多くの有機成分を含む被焼成体である。
【0019】
<グリーン成形体>
図1に示すグリーン成形体70は、原料組成物を押出成形することによって得られたものである。
図1の(a)に示すように、グリーン成形体70は多数の貫通孔70aが略平行に配置された円柱体である。貫通孔70aの断面形状は、
図1の(b)に示すように正方形である。これらの複数の貫通孔70aは、グリーン成形体70において、端面から見て、正方形配置、すなわち、貫通孔70aの中心軸が、正方形の頂点にそれぞれ位置するように配置されている。貫通孔70aの断面の正方形のサイズは、例えば、一辺0.8〜2.5mmとすることができる。貫通孔70aの一端を適宜封孔した後、グリーン成形体70を後述のトンネルキルン10を用いて焼成することによってハニカム構造体が製造される。
【0020】
グリーン成形体70の貫通孔70aが延びる方向の長さは特に限定されないが、例えば、40〜350mmとすることができる。また、グリーン成形体70の外径も特に限定されないが、例えば、100〜320mmとすることできる。
【0021】
グリーン成形体70をなす原料組成物は特に限定されないが、DPF用のハニカム構造体を製造する場合にあっては、セラミックス原料である無機化合物源粉末、及び、メチルセルロース等の有機バインダ、及び、必要に応じて添加される添加剤を含む。ハニカム構造体の高温耐性の観点から、好適なセラミックス材料として、アルミナ、シリカ、ムライト、コーディエライト、ガラス、チタン酸アルミニウム等の酸化物、シリコンカーバイド、窒化珪素等が挙げられる。なお、チタン酸アルミニウムは、更に、マグネシウム及び/又はケイ素を含むことができる。
【0022】
例えば、チタン酸アルミニウムのグリーン成形体を製造する場合、無機化合物源粉末は、αアルミナ粉等のアルミニウム源粉末、及び、アナターゼ型やルチル型のチタニア粉末等のチタニウム源粉末を含み、必要に応じて、更に、マグネシア粉末やマグネシアスピネル粉末等のマグネシウム源粉末及び/又は、酸化ケイ素粉末やガラスフリット等のケイ素源粉末を含むことができる。
【0023】
有機バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩が挙げられる。
【0024】
添加物としては、例えば、造孔剤、潤滑剤及び可塑剤、分散剤、溶媒が挙げられる。
【0025】
造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物材料;氷;及びドライアイス等などが挙げられる。
【0026】
潤滑剤及び可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸Alなどのステアリン酸金属塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0027】
分散剤としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウムなどの界面活性剤などが挙げられる。
【0028】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;及び水などを用いることができる。
【0029】
グリーン成形体70に含まれる有機成分の合計量は、グリーン成形体70の質量100質量部に対して10〜25質量部であることが好ましく、15〜20質量部であることがより好ましい。有機成分の量が10質量部未満であると、グリーン成形体70の成形性が不十分となったり焼成後の気孔率が小さくなりやすい。他方、有機成分の量が25質量部を超えると脱脂工程におけるタールの発生量が増大しやすく、また焼成体にクラックが生じやすい。
【0030】
<トンネルキルン>
図2を参照しながら、本実施形態に係るトンネルキルンについて説明する。
図2に示すとおり、トンネルキルン10は、内壁1aが炉材によって構成されたトンネルキルン本体1と、トンネルキルン本体1の入口に設けられた置換室Rと、トンネルキルン本体1の入口側から出口側(
図2では左側から右側)に向けて、複数のグリーン成形体70を同時に搬送する台車(搬送手段)5を備える。
【0031】
置換室Rは、トンネルキルン本体1内への台車5の搬入に伴って炉内の酸素濃度が上昇しないようにするためのものである。置換室Rは、入口側の扉D
1と、出口側のD
2と、置換室R内に窒素ガスを供給するための窒素源N
2及び配管L1と、置換室R内の酸素濃度を測定するセンサ3とを有する。台車5を置換室Rに入れる際には、出口側の扉D
2(トンネルキルン本体の入口の扉)を閉じた状態で入口側の扉D
1を開ける。台車5を置換室Rに入れた後、扉D
1を閉じる。その後、置換室R内に窒素ガスを供給して置換室R内の酸素濃度を低下させる。置換室R内の酸素濃度が十分に低下させた後、扉D
2を開けて台車5をトンネルキルン本体1内に入れる。なお、酸素濃度を低下させるためのガスとして、コストの点から窒素ガスが好ましいが、窒素ガスの代わりにヘリウムガス、アルゴンガス又はこれらの混合ガス等を使用してもよい。
【0032】
置換室Rからトンネルキルン本体1に台車5を入れる際には、置換室R内の酸素濃度をトンネルキルン本体1の酸素濃度よりも低くした状態とすることが好ましい。例えば、トンネルキルン本体1(後述の脱脂ゾーンZ1)内において酸素濃度2体積%以下で脱脂処理を行う場合、置換室Rの酸素濃度は2体積%未満(より好ましくは1体積%以下)にまで低下させることが好ましい。酸素濃度1体積%以下で脱脂処理を行う場合、置換室Rの酸素濃度は1体積%未満(より好ましくは0.5体積%以下)にまで低下させることが好ましい。
【0033】
トンネルキルン本体1は、台車5に積載されたグリーン成形体70が入口側から出口側に移動することでグリーン成形体70の焼成体を得るためのものである。トンネルキルン本体1の内壁1aは、耐火レンガ、セラミックファイバー、ガラスファイバーなどの断熱材料(炉材)からなる。トンネルキルン本体1の内部は、温度条件によって脱脂ゾーンZ1、焼結ゾーンZ2及び冷却ゾーンZ3に分かれている。トンネルキルン本体1の全長は100mにも及ぶ場合もある。全長は各ゾーンの温度設定やグリーン成形体70の組成等に依存する。
【0034】
脱脂ゾーンZ1は、グリーン成形体70を加熱してこれに含まれる有機成分を取り除く工程(脱脂工程)を実施するためのゾーンである。脱脂ゾーンZ1の範囲は、グリーン成形体70に含まれる有機成分がガス化又は燃焼する温度条件の範囲とすることができる。グリーン成形体70に含まれる有機成分にもよるが、脱脂ゾーンZ1の入口側温度(下限温度)は好ましくは120℃以下であり、より好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは80℃以下である。他方、脱脂ゾーンZ1の出口側温度(上限温度)は好ましくは600℃以上であり、より好ましくは700℃以上であり、更に好ましくは800℃以上である。脱脂ゾーンZ1の入口側温度が120℃を超えると、グリーン成形体70が脱脂ゾーンZ1に到達する前に脱脂が始まるおそれがある。脱脂ゾーンZ1の出口側温度が600℃未満であると、脱脂ゾーンZ1内においてグリーン成形体70の脱脂処理が十分に完了しないおそれがある。
【0035】
脱脂ゾーンZ1は、
図2に示すように、脱脂ゾーンZ1に窒素ガスを供給するための窒素源N
2及び配管L2を有することが好ましい。脱脂ゾーンZ1にも置換室Rと同様、酸素濃度を測定するセンサを設置してもよい。脱脂ゾーンZ1の酸素濃度は、好ましくは5体積%以下であり、より好ましくは3体積%以下であり、更に好ましくは1体積%以下である。脱脂ゾーンZ1の酸素濃度が5体積%を超えると焼成体にクラックが生じるやすくなる。脱脂ゾーンZ1の酸素濃度の下限値は、特に制限されないが好ましくは0.1体積%であり、より好ましくは0.3体積%であり、更に好ましくは0.5体積%である。脱脂ゾーンZ1の酸素濃度を0.1体積%未満に維持するには脱脂ゾーンZ1の気密性を十分に高める必要がある。脱脂ゾーンZ1の途中で酸素濃度を上昇させ、有機物の燃焼を、発熱しない程度に調整してもよい。
【0036】
焼結ゾーンZ1の温度及び酸素濃度を調整するには、例えば燃焼室7から燃焼ガスを供給すればよい(
図2参照)。燃焼室7には燃料及び空気を供給する配管(図示せず)が接続されており、燃焼室7内において燃料を燃焼させるとともに、燃焼ガスの温度及び酸素濃度を調整できるようになっている。
【0037】
トンネルキルン本体1の内壁1aは上記のような断熱材料からなるが、内壁1aの全体のうち少なくとも脱脂ゾーンZ1の内壁1aを覆うようにメタルケース(ライニング)1bが設けられている。メタルケース1bは、脱脂処理によって炉内に発生したタールが内壁1aに付着又は侵入するのを防止する。メタルケース1bは少なくとも脱脂ゾーンZ1に設ければよいが、タールは温度が低い箇所に凝縮するため、脱脂ゾーンZ1の入口側の境界を越えて延在するように設けてもよい。例えば、置換室Rの扉D
2の直後からメタルケース1bで内壁1aを覆ってもよい。この場合、脱脂ゾーンZ1は、有機成分がガス化する領域と、ガス化した有機成分が凝縮する領域とを有するものとなる。
【0038】
メタルケース1bの材質は、脱脂処理の温度及び雰囲気に耐え得る金属であれば特に限定されず、例えば、ステンレス鋼などが挙げられる。なお、内壁1aを覆うライニングは、メタル製のものに限らず、例えばセラミクス材料等からなるものであってもよい。ただし、メンテナンスの容易性の観点から、緻密性を有し且つ平坦な内面を有するメタルケースが好ましい。なお、空気を包含する炉材をメタルケース1bで覆うことで、脱脂ゾーンZ1の酸素濃度を低減しやすいという利点もある。
【0039】
メタルケース1bは、表面の温度が部分的に低いコールドスポット1cを有してもよい(
図3参照)。メタルケース1bの内面にコールドスポット1cを設けることで、ガス化した有機成分がコールドスポット1cで冷やされて凝縮しやすくなる。これにより、タールがメタルケース1bの広い範囲に付着するのを抑制でき、メンテナンスをより一層効率化できる。コールドスポット1cは、
図3に示すようにメタルケース1bの一部を二重管1dにしてその中に冷媒(例えば水)Cを流すことによって形成してもよいし、メタルケース1bの外側に冷却用のジャケットを配置することによって形成してもよい。
【0040】
焼結ゾーンZ2は、脱脂後のグリーン成形体70の焼成を実施するためのゾーンである。焼結ゾーンZ2の範囲は、グリーン成形体70の脱脂処理が完了する温度から、焼成のための保持温度までとすることができる。被焼成体の昇温時にクラック等の欠陥が生じるのを防止する観点から、昇温レートは好ましくは100〜20℃/hrであり、より好ましくは80〜40℃/hrである。昇温レートは焼結ゾーンZ2の温度分布又は台車5の速度を調整することによって設定できる。グリーン成形体70の組成等にもよるが、焼成温度(焼成のための保持温度)は好ましくは1400℃以上であり、より好ましくは1450℃以上であり、更に好ましくは1500℃以上である。
【0041】
焼結ゾーンZ2の酸素濃度は特に制御する必要はなく、燃料の燃焼量と空気使用量の比により決定される。温度によって異なるが、通常酸素濃度は5〜15体積%程度である。
【0042】
冷却ゾーンZ3は、焼成体を徐々に冷却するためのゾーンである。冷却ゾーンZ3の範囲は、焼成のための保持温度から、焼成体を扉D
3から外部に取り出すことができる程度の温度までとすることができる。焼成体の冷却時にクラック等の欠陥が生じるのを防止する観点から、降温レートは好ましくは50〜150℃/hrであり、より好ましくは80〜100℃/hrである。降温レートは冷却ゾーンZ3の温度分布又は台車5の速度を調整することによって設定できる。
【0043】
冷却ゾーンZ3の酸素濃度は、特に制限はなく、脱脂ゾーンZ1のように高度にコントロールする必要はない。なお、焼結ゾーンZ2における処理が終了した時点で焼結ゾーンZ2の温度を下げて焼成体を取り出すようにすれば、冷却ゾーンZ3は必ずしも必要ではないが、冷却ゾーンZ3を設けることで、このような降温作業が不要となり、トンネルキルン10を連続式の焼成炉として使用できる。
【0044】
トンネルキルン10を用いてグリーン成形体70を焼成してハニカムフィルタ構造体(焼成体)を得る工程を備える焼成体の製造方法について説明する。本実施形態に係る方法は、以下の工程(1)〜工程(9)を備える。
(1)無機化合物源粉末(無機化合物)、有機バインダ、添加剤及び溶媒を含有する原料組成物を調製する工程。
(2)原料組成物を成形してグリーン成形体70を得る工程。
(3)一つ又は複数のグリーン成形体70を台車5に積載する工程。
(4)台車5を置換室R内に入れた後、置換室R内の酸素濃度を低下させる工程。
(5)置換室Rからトンネルキルン本体1に台車5を入れた後、トンネルキルン本体1の入口側から出口側に向けて台車5を搬送する工程。
(6)脱脂ゾーンZ1においてグリーン成形体70の脱脂を行う工程。
(7)工程(6)においてガス化した有機成分を、メタルケース1bの表面に凝縮させる工程。
(8)焼結ゾーンZ2において脱脂後の被焼成体の焼結を行う工程。
(9)冷却ゾーンZ3において焼成体を冷却する工程。
【0045】
上記焼成体の製造方法によれば、脱脂ゾーンZ1においてタールが発生してもタールが炉材に付着又は侵入するのをメタルケース1bが防止する。メタルケース1bの内面にタールが付着しても、炉材にタールが付着した場合と比較して容易に清掃できる。メタルケース1bがタール等によって劣化した場合にはメタルケース1bのみを新しいものに取り換えればよい。また、
図3に示すようなコールドスポット1cをメタルケース1bに設けた場合、ガス状の有機成分がコールドスポット1cに接触することで当該箇所にタールを集中的に凝縮させることができる。これにより、タールがメタルケース1bの広い範囲に付着するのを抑制でき、メンテナンスをより一層効率化できる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、ハニカムフィルタ構造体を製造するためのグリーン成形体70を焼成する場合を例示したが、本発明のトンネルキルンで焼成可能な被焼成体は有機成分を含むものであれば、これに限定されない。
【0047】
上記実施形態においては、トンネルキルン本体1内の酸素濃度を低下させる場合を例示したが、焼結性に優れた材料からなるグリーン体を焼成するような場合は、必ずしもトンネルキルン本体1内の酸素濃度を低下させなくてもよい。この場合、置換室Rも必ずしも必要ではない。
【0048】
上記実施形態においては、円柱体のグリーン成形体70を例示したが、成形体の形状や構造はこれに限定されない。グリーン成形体70の外形形状は、例えば、四角柱等の角柱や楕円柱でもよい。また、貫通孔70aの配置も、正方形配置でなくてもよく、例えば、略三角配置、略六角配置等でも構わない。更に、貫通孔70aの形状も、正方形でなくてもよく、例えば、略三角形、略六角形、略八角形、略円形であってもよい。
【0049】
<脱脂工程においてガス化する有機成分の測定>
図1に示す形状のグリーン成形体を準備し、
図4に示す温度及び酸素濃度の条件でグリーン成形体を焼成した。表1に本試験で準備したグリーン成形体の原料組成を示す。なお、表中のPOAAEはポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、ユニルーブ(登録商標、日油株式会社製)を使用した。グリーン成形体の脱脂工程において炉内のHC濃度及び一酸化炭素濃度を測定した。
図5に結果を示す。なお、炉内の温度が400℃に到達した時点(昇温開始から約28時間後)で炉内の酸素濃度を1体積%から4体積%にした。HC濃度はSIEMENS社製のFIDMAT6(商品名)を使用して測定した。CO濃度はSIEMENS社製のULTRAMAT23(商品名)を使用して測定した。