(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978072
(24)【登録日】2016年7月29日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】絶縁膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20160817BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20160817BHJP
H01L 21/316 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C14/08
H01L21/316 Y
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-191679(P2012-191679)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-47398(P2014-47398A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100102875
【弁理士】
【氏名又は名称】石島 茂男
(74)【代理人】
【識別番号】100106666
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 英樹
(72)【発明者】
【氏名】菊地 幸男
(72)【発明者】
【氏名】今北 健一
【審査官】
塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−176780(JP,A)
【文献】
特開2009−211781(JP,A)
【文献】
特開平08−081771(JP,A)
【文献】
特開2009−249710(JP,A)
【文献】
特開2003−183825(JP,A)
【文献】
特開平05−065643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内を真空排気しながら、前記真空槽内に希ガスの雰囲気を形成し、絶縁性の金属化合物から成る絶縁物ターゲットをスパッタして、第一、第二の処理基板の表面に前記金属化合物から成る絶縁膜を形成する第一、第二の絶縁膜成膜工程を有する絶縁膜の形成方法であって、
前記第一の絶縁膜成膜工程の後、前記真空槽内に配置された防着板の少なくとも一部は前記絶縁膜で覆われておらず露出しており、
前記第一の絶縁膜成膜工程の後、前記第二の絶縁膜成膜工程の前に、前記真空槽内を真空排気しながら、前記真空槽内に、前記第一、第二の絶縁膜成膜工程での前記希ガスの雰囲気の圧力より高い圧力の前記希ガスの雰囲気を形成し、前記金属化合物が含有する金属と同じ金属から成る金属ターゲットをスパッタし、前記防着板の表面に形成された前記絶縁膜と前記防着板の露出された部分とに、前記金属から成り、前記防着板に電気的に接続され、前記防着板と同電位になる金属膜を形成する金属膜被覆工程を行う絶縁膜の形成方法。
【請求項2】
前記金属膜被覆工程の後、前記第二の絶縁膜成膜工程の前に、前記金属ターゲットに、前記金属膜被覆工程で前記金属ターゲットに供給する電力の1/5〜1/10の電力を供給して、前記希ガスのプラズマを維持するプラズマ維持工程をさらに行う請求項1記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項3】
前記プラズマ維持工程では、前記希ガスの雰囲気の圧力を、前記第一、第二の絶縁膜成膜工程での前記希ガスの雰囲気の圧力より高くする請求項2記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項4】
前記第一の絶縁膜成膜工程の後、前記第二の絶縁膜成膜工程の前に、前記金属膜被覆工程と前記プラズマ維持工程とを順に複数回繰り返す請求項2又は請求項3のいずれか1項記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項5】
前記第一、第二の絶縁膜成膜工程では、前記真空槽内に配置された基板ステージの載置面に前記第一、第二の処理基板を配置しておき、
前記金属膜被覆工程では、前記基板ステージの前記載置面に前記第一、第二の処理基板の代わりにダミー基板を配置しておく請求項1記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項6】
前記第一、第二の絶縁膜成膜工程では、前記真空槽内に配置された基板ステージの載置面に前記第一、第二の処理基板を配置しておき、
前記金属膜被覆工程と前記プラズマ維持工程では、前記基板ステージの前記載置面に前記第一、第二の処理基板の代わりにダミー基板を配置しておく請求項2乃至請求項4のいずれか1項記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項7】
前記金属化合物は、金属酸化物と、金属窒化物と、金属酸窒化物のうちいずれか一種類の金属化合物である請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の絶縁膜の形成方法。
【請求項8】
前記金属は、Mgと、Alと、Siと、Cuと、Tiのうちいずれか一種類の金属又は二種類以上の金属である請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の絶縁膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁膜の形成方法に係り、特に絶縁性の金属化合物から成る絶縁物ターゲットをスパッタして絶縁膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、磁気トンネル接合(MTJ)素子を用いた磁気抵抗メモリ(MRAM)は次世代メモリとして注目されている。磁気トンネル接合素子は、固定層(磁性層)と絶縁膜と自由層(磁性層)とが順に積層された構造を有している。
絶縁膜の形成には、絶縁膜の抵抗値の膜面方向のばらつきをできるだけ小さくするために、希ガスの雰囲気中で酸化物、窒化物等の絶縁物ターゲットをスパッタする方法が採用されている。
【0003】
従来、絶縁物ターゲットは、金属ターゲットとは区別されて、それぞれ別々のスパッタ室に設置されている(例えば、特許文献1(段落0008)参照。特許文献1では、金属ターゲットとTiO
xターゲットとが同一の真空チャンバ内に配置されているものの、シャッターで遮断され、実質的に互いに異なる空間に配置されている。)。
【0004】
図4は従来の絶縁膜の成膜方法に用いるスパッタリング装置100の内部構成図である。真空槽111内で絶縁物ターゲット121
1、121
2をスパッタすると、処理基板130の表面に絶縁膜が形成される。絶縁膜の成膜に伴って、防着板115の表面は絶縁物で覆われる。
【0005】
防着板115の表面の絶縁物被膜が厚くなると、防着板115の表面の電位に変化が生じて、絶縁物ターゲット121
1、121
2と防着板115との間の放電が不安定になり、放電時にプラズマの偏りが発生して、処理基板130に形成される絶縁膜の成膜レートや膜厚分布に時間的な変化が生じたり、異常放電が発生するという問題があった。さらに、プラズマが真空槽111内のアース(接地)電位を探し求めて移動し始めるという問題があった。
また、絶縁物の密着性が悪い場合には、絶縁物が防着板115から剥離して、ダスト、パーティクルの原因となり、処理基板130の汚染を引き起こすという問題があった。
【0006】
特許文献2には、窒素ガスを流しながらAlターゲットを反応性スパッタした後、窒素ガスを停止して、窒化アルミ膜の上にアルミ膜を形成し、窒化アルミ膜の剥離を防ぐ方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−240110号公報
【特許文献2】特開2001−316812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、絶縁物ターゲットをスパッタする場合に、防着板に付着した絶縁物による放電の不安定性やパーティクル、ダストの発生を抑え、安定した成膜を長時間行うことができる絶縁膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽内を真空排気しながら、前記真空槽内に希ガスの雰囲気を形成し、絶縁性の金属化合物から成る絶縁物ターゲットをスパッタして、第一、第二の処理基板の表面に前記金属化合物から成る絶縁膜を形成する第一、第二の絶縁膜成膜工程を有する絶縁膜の形成方法であって、
前記第一の絶縁膜成膜工程の後、前記真空槽内に配置された防着板の少なくとも一部は前記絶縁膜で覆われておらず露出しており、前記第一の絶縁膜成膜工程の後、前記第二の絶縁膜成膜工程の前に、前記真空槽内を真空排気しながら、前記真空槽内に
、前記第一、第二の絶縁膜成膜工程での前記希ガスの雰囲気の圧力より高い圧力の前記希ガスの雰囲気を形成し、前記金属化合物が含有する金属と同じ金属から成る金属ターゲットをスパッタし、
前記防着板の表面
に形成された前記絶縁膜と前記防着板の露出された部分とに
、前記金属から成
り、前記防着板に電気的に接続され、前記防着板と同電位になる金属膜を形成する金属膜被覆工程を行う絶縁膜の形成方法である。
本発明は絶縁膜の形成方法であって、前記金属膜被覆工程の後、前記第二の絶縁膜成膜工程の前に、前記金属ターゲットに、前記金属膜被覆工程で前記金属ターゲットに供給する電力
の1/5〜1/10の電力を供給して、前記希ガスのプラズマを維持するプラズマ維持工程を
さらに行う絶縁膜の形成方法である。
本発明は絶縁膜の形成方法であって、前記プラズマ維持工程では、前記希ガスの雰囲気の圧力を、前記第一、第二の絶縁膜成膜工程での前記希ガスの雰囲気の圧力より高くする絶縁膜の形成方法である。
本発明は絶縁膜の形成方法であって、前記第一の絶縁膜成膜工程の後、前記第二の絶縁膜成膜工程の前に、前記金属膜被覆工程と前記プラズマ維持工程とを順に複数回繰り返す絶縁膜の形成方法である。
本発明は絶縁膜の形成方法であって、前記第一、第二の絶縁膜成膜工程では、前記真空槽内に配置された基板ステージの載置面に前記第一、第二の処理基板を配置しておき、前記金属膜被覆工程では、前記基板ステージの前記載置面に前記第一、第二の処理基板の代わりにダミー基板を配置しておく絶縁膜の形成方法である。
本発明は絶縁膜の形成方法であって、前記第一、第二の絶縁膜成膜工程では、前記真空槽内に配置された基板ステージの載置面に前記第一、第二の処理基板を配置しておき、前記金属膜被覆工程と前記プラズマ維持工程では、前記基板ステージの前記載置面に前記第一、第二の処理基板の代わりにダミー基板を配置しておく絶縁膜の形成方法である。
本発明は絶縁膜の形成方法であって、前記金属化合物は、金属酸化物と、金属窒化物と、金属酸窒化物のうちいずれか一種類の金属化合物である絶縁膜の形成方法である。
本発明は絶縁膜の形成方法であって、前記金属は、Mgと、Alと、Siと、Cuと、Tiのうちいずれか一種類の金属又は二種類以上の金属である絶縁膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0010】
防着板の表面が防着板と同電位の金属膜で被覆されるので、防着板に付着した絶縁物の影響による放電の不安定性の発生を抑えることができ、絶縁膜の成膜レートが安定し、かつ安定した成膜を長時間行うことが可能となる。
防着板の表面が金属膜で被覆されるので、絶縁物の密着性が悪い場合でも、防着板からのダスト発生を抑えることができ、防着板を長寿命化できる。
金属ターゲットの金属は絶縁物ターゲットに含まれる金属と同じなので、真空槽内が異種金属で汚染されることはない。
防着板の表面には防着板と同電位の金属膜が露出しており、絶縁物ターゲットと防着板との間で安定した放電が発生し、安定した成膜レートで絶縁膜が成膜される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の絶縁膜の形成方法に用いるスパッタリング装置の一例の内部構成図
【
図3】金属膜被覆工程とプラズマ維持工程を説明するための図
【
図4】従来の絶縁膜の形成方法に用いるスパッタリング装置の内部構成図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の絶縁膜の形成方法を説明する。
(スパッタリング装置の構造)
図1は、本発明の絶縁膜の形成方法に用いるスパッタリング装置10の一例の内部構成図である。
【0013】
このスパッタリング装置10は、真空槽11と、真空槽11内に配置され、載置面に処理基板が配置される基板ステージ16と、基板ステージ16の載置面と対向してそれぞれ配置された絶縁物ターゲット21aと金属ターゲット21bとを有している。
【0014】
絶縁物ターゲット21aは、絶縁性の金属化合物から成り、ここでは金属酸化物と、金属窒化物と、金属酸窒化物のうちいずれか一種類の金属化合物から成る。
金属ターゲット21bは、絶縁物ターゲット21aの金属化合物が含有する金属と同じ金属から成り、ここではMgと、Alと、Siと、Cuと、Tiのうちいずれか一種類の金属又は二種類以上の金属から成る。
【0015】
例えば、絶縁物ターゲット21aはMgOであり、金属ターゲット21bはMgであってもよいし、絶縁物ターゲット21aはAl
2O
3であり、金属ターゲット21bはAlであってもよいし、絶縁物ターゲット21aはSiO
2であり、金属ターゲット21bはSiであってもよいし、絶縁物ターゲット21aはCuNであり、金属ターゲット21bはCuであってもよいし、絶縁物ターゲット21aはTiO
2であり、金属ターゲット21bはTiであってもよいし、絶縁物ターゲット21aはMgAlO
2であり、金属ターゲット21bはMg又はAlのうちいずれか一方の金属又は両方の合金であってもよい。
【0016】
絶縁物ターゲット21a、金属ターゲット21bの基板ステージ16に向けられたスパッタ面と、基板ステージ16の載置面との間の成膜空間19の外側には、成膜空間19を取り囲んで環状に防着板15が配置され、真空槽11の内壁面は防着板15で遮蔽されて成膜空間19に露出しないようされている。
【0017】
真空槽11と防着板15とはそれぞれ接地電位に置かれている。
絶縁物ターゲット21a、金属ターゲット21bのスパッタ面とは逆の裏面には第一、第二のカソード電極22a、22bが裏面に密着して設けられ、第一、第二のカソード電極22a、22bにはそれぞれ第一、第二の電源装置23a、23bが電気的に接続されている。第一、第二の電源装置23a、23bは第一、第二のカソード電極22a、22bにそれぞれ別個に電圧を印加できるようになっている。
【0018】
本実施形態では、基板ステージ16には回転装置17が接続されている。回転装置17はここではモーターであり、基板ステージ16に動力を伝達して、基板ステージ16を載置面に対して直角な回転軸線Lを中心に回転できるように構成されている。
【0019】
真空槽11には、真空槽11内を真空排気する真空排気部12と、真空槽11内にスパッタガスである希ガスを供給するスパッタガス供給部13とがそれぞれ接続されている。
【0020】
(第一の絶縁膜成膜工程)
真空排気部12により真空槽11内を真空排気し、真空雰囲気を形成する。以後、真空排気を継続して、真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
【0021】
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、
図2を参照し、処理基板30(第一の処理基板)を真空槽11内に搬入し、基板ステージ16の載置面に配置する。
図2の図面上では、基板ステージ16の載置面に処理基板30を一枚だけ配置しているが、載置面に二枚以上の処理基板30を互いに重ならないように配置してもよい。
【0022】
回転装置17により基板ステージ16を処理基板30と一緒に回転軸線Lを中心に回転させる。以後、基板ステージ16と処理基板30の回転軸線Lを中心とする回転を継続する。
【0023】
金属ターゲット21bのスパッタ面を不図示のシャッターで覆っておく。
スパッタガス供給部13から真空槽11内への希ガス(ここではArガス)の供給を開始し、真空槽11内に希ガスの雰囲気を形成する。
【0024】
第一の電源装置23aから第一のカソード電極22aに交流電圧(例えば13.56MHzの周波数)を印加すると、絶縁物ターゲット21aと接地電位に置かれた防着板15との間で放電が発生して、希ガスのプラズマが生成される。
【0025】
プラズマ中の電子はイオンよりも移動度が大きく、防着板15に到達した電子はアースに流れるが、絶縁物ターゲット21aに到達した電子は逃げ場がなく、絶縁物ターゲット21aのスパッタ面上で電子の密度が高くなり、その結果、スパッタ面は接地電位に対して負の電位にバイアスされ、プラズマ中のイオンはスパッタ面に入射して、スパッタし、絶縁物ターゲット21aのスパッタ面から成膜空間19に絶縁物の粒子が放出される。
【0026】
成膜空間19には、処理基板30の表面と、処理基板30の外側に露出する基板ステージ16の載置面と、防着板15の表面とがそれぞれ露出しており、成膜空間19に放出された絶縁物の粒子は、成膜空間19に露出するこれらの面に到達して、付着する。なお、金属ターゲット21bのスパッタ面は不図示のシャッターで覆われており、金属ターゲット21bのスパッタ面には絶縁物の粒子は付着しない。
処理基板30は回転軸線Lを中心に回転されており、処理基板30の表面には、面内で均一な厚みの絶縁膜が形成される。
【0027】
処理基板30の表面に所望の厚みの絶縁膜を形成した後、第一のカソード電極22aへの電力供給を停止して、絶縁物ターゲット21a上のプラズマを消失させる。基板ステージ16の回転を停止し、成膜済みの処理基板30を真空槽11の外側に搬出する。
【0028】
上述の絶縁膜成膜工程を複数回繰り返し行い、複数枚の処理基板30に絶縁膜を成膜する。絶縁膜成膜工程を繰り返すにつれて、防着板15の表面や基板ステージ16の載置面に付着した絶縁物の量が増える。
【0029】
防着板15の表面が絶縁物で覆われるにつれ、防着板15の表面の電位が変化し、絶縁物ターゲット21aと防着板15との間での放電が不安定になりやすくなる。また、絶縁物がMgOなどの密着性が悪い粉状体の場合には、付着した絶縁物の量が増えるにつれ、防着板15の表面や基板ステージ16の載置面から絶縁物が剥離しやすくなる。
【0030】
絶縁物の影響で放電が不安定化したり、絶縁物の剥離が発生するときの絶縁膜成膜工程の連続回数を予め試験やシミュレーションにより求めておき、絶縁膜成膜工程の繰り返し回数が予め求めておいた連続回数に達する前に、以下の金属膜被覆工程を行う。
【0031】
(金属膜被覆工程)
真空槽11内から処理基板30を搬出した後、
図3を参照し、処理基板30と同じ形状のダミー基板40を真空槽11内に搬入し、基板ステージ16の載置面のうち、処理基板30が配置されていた位置と同じ位置に、処理基板30の代わりに配置する。
【0032】
回転装置17により基板ステージ16をダミー基板40と一緒に回転軸線Lを中心に回転させる。以後、基板ステージ16とダミー基板40の回転軸線Lを中心とする回転を継続する。
絶縁物ターゲット21aのスパッタ面を不図示のシャッターで覆っておく。金属ターゲット21bのシャッターを外して、金属ターゲット21bのスパッタ面を成膜空間19に露出させる。
【0033】
真空槽11内を真空排気しながら、スパッタガス供給部13から真空槽11内に希ガス(ここではArガス)を供給し、真空槽11内に希ガスの雰囲気を形成する。ここでは希ガスの圧力を、絶縁膜成膜工程での希ガスの圧力より高くする。
【0034】
第二の電源装置23bから第二のカソード電極22bを介して金属ターゲット21bに交流電圧を印加すると、金属ターゲット21bと接地電位に置かれた防着板15との間で放電が発生して、希ガスのプラズマが生成される。
【0035】
金属ターゲット21bが接地電位に対して負の電位に置かれているときに、プラズマ中のイオンは金属ターゲット21bのスパッタ面に入射して、スパッタし、金属ターゲット21bのスパッタ面から成膜空間19に金属の粒子が放出される。
【0036】
金属ターゲット21bは絶縁物ターゲット21aに含まれる金属と同じ金属から成り、金属ターゲット21bをスパッタしても、真空槽11内が絶縁物ターゲット21aに含まれる金属とは異なる金属により汚染されることはない。
【0037】
なお、絶縁膜成膜工程では金属ターゲット21bのスパッタ面はシャッターで覆われて絶縁物は付着しておらず、金属膜被覆工程で金属ターゲット21bをスパッタしてもスパッタ面から絶縁物の粒子が放出されることはない。
【0038】
成膜空間19には、ダミー基板40の表面と、ダミー基板40の外側に露出する基板ステージ16の載置面と、防着板15の表面とがそれぞれ露出しており、成膜空間19に放出された金属の粒子は、成膜空間19に露出するこれらの面に到達して、付着し、これらの面に金属から成る金属膜が形成される。
防着板15の表面と基板ステージ16の載置面には、絶縁膜成膜工程で既に絶縁物が付着しており、金属膜は絶縁物上に積層される。
【0039】
ここでは希ガスの圧力は絶縁膜成膜工程での希ガスの圧力より高くされており、成膜空間19に放出された金属の粒子は希ガスの分子と衝突して散乱されやすく、金属膜の付き回り性が向上している。
【0040】
防着板15の表面の少なくとも一部は絶縁物で覆われておらず、成膜空間19に露出しており、金属膜は防着板15の表面の露出した部分にも密着して形成され、防着板15と電気的に接続され、金属膜全体が防着板15と同電位になる。
【0041】
また、絶縁物がMgOなどの密着性が悪い粉状の場合でも、金属膜が絶縁物上に積層されることにより、金属膜の密着力により、絶縁物は防着板15の表面や基板ステージ16の載置面から剥離しづらくなる。
【0042】
(プラズマ維持工程)
防着板15の表面や基板ステージ16の載置面に所望の厚みの金属膜を形成した後、金属ターゲット21bに、金属膜被覆工程で金属ターゲット21bに供給した電力より小さい電力を供給して、希ガスのプラズマを維持する。
ここでは金属ターゲット21bに供給する電力を、金属膜被覆工程で金属ターゲット21bに供給した電力の1/5〜1/10にする。
【0043】
金属ターゲット21bのスパッタ量は金属膜被覆工程でのスパッタ量に比べて低減し、防着板15の表面や基板ステージ16の載置面への金属膜の着膜が抑制される。
防着板15の表面や基板ステージ16の載置面に形成された金属膜には希ガスのプラズマからエネルギーが付与され、金属膜は活性化し、金属膜と絶縁物との間の密着性が向上し、絶縁物は防着板15の表面や基板ステージ16の載置面からより剥離しづらくなる。
【0044】
上述の金属膜被覆工程とプラズマ維持工程とを順に複数回繰り返すと、防着板15の表面から絶縁物が剥離するおそれはさらに低減し、防着板15の交換周期を1.2倍〜1.5倍に長くすることが可能となる。
【0045】
(第二の絶縁膜成膜工程)
次いで、基板ステージ16の回転を停止し、真空槽11内からダミー基板40を搬出した後、
図2を参照し、未成膜の処理基板30(第二の処理基板)を真空槽11内に搬入し、第一の絶縁膜成膜工程と同じ工程で絶縁膜の成膜を行う。
【0046】
防着板15の表面には防着板15と同電位の金属膜が露出しており、第一のカソード電極22aに交流電圧を印加すると、絶縁物ターゲット21aと防着板15との間で安定した放電が発生し、安定した成膜レートで絶縁膜が成膜される。
【0047】
また、防着板15の表面や基板ステージ16の載置面に付着した絶縁物は金属膜に密着しており、防着板15の表面や基板ステージ16の載置面から絶縁物が剥離してダスト、パーティクル源となることはない。
このようにして、絶縁膜の安定した成膜を長時間行うことができる。
【0048】
なお、絶縁物がAl
2O
3、SiO
2、CuN、TiO
2、MgAlO
2などの防着板15の表面や基板ステージ16の載置面に対して密着性を有する金属化合物の場合には、上述のプラズマ維持工程を省略してもよい。
【0049】
また、
図1の図面上では、真空槽11内には、互いに同じ金属を含有する絶縁物ターゲット21aと金属ターゲット21bとから成るターゲット組が一組だけ配置されているが、二組以上配置されていてもよい。二組以上配置されている場合には、ターゲット組間で汚染の問題がなければ、一のターゲット組が含有する金属と他のターゲット組が含有する金属とが異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
11……真空槽
15……防着板
16……基板ステージ
21a……絶縁物ターゲット
21b……金属ターゲット
30……処理基板(第一、第二の処理基板)
40……ダミー基板