【課題を解決するための手段】
【0008】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶引き上げ用の種結晶は、単結晶で引き上げられたインゴットから切り出されて製造される。
種結晶Tは、
図1に示すように、その概略形状が四角柱形状あるいは円柱形状とされ、後述するシードチャック5に取り付けるための取り付け拡径部T1と、シードチャック5に取り付けた状態において、この取り付け拡径部T1から下方に延在する柱状部T2と、この柱状部T2の取り付け拡径部T1と反対側である下側端部に位置する着液部T3とからなる。この着液部T3から引き上げる単結晶を成長させる。なお、図では、単結晶を成長させた状態として、ネック部Nも記載してある。
種結晶T表面は、引き上げ用にシードチャック5に取り付ける前に、付着した汚染物を落とすためにエッチングなどの表面洗浄処理を施している。
【0009】
もともと、φ300mm以上、φ450mm以上の大口径化対応で引き上げる単結晶が大重量になったときに、ネッキング工程で種結晶径を細くすると重量に耐えられない可能性があり、様々な検討がされ対策がなされてきた。例えば、ダッシュネックで対応できる重量以上の重量に対する結晶に対しては無転位着液法を実施することが考えられる。
【0010】
これまで荷重に対する強度上問題ない範囲の重量ではあっても破断が発生したことがあった。たとえば、ネック部Nで破壊する場合があり、事後の検査で附着した異物が原因で破断が発生したことが確認された。また、シードチャック5と種結晶Tとの接触部で応力がかかり、取り付け拡径部T1内部に入ったスリップが原因で破壊した例もあった。そして、単結晶引き上げを行う初段階で、種結晶をシリコンメルトに浸けて“なじませる”作業を実施するが、その作業が不十分な場合に、着液部T3に発生したスリップが原因で破断するケースがあった。これら3点については大重量でなくてもおこりうるケースで、予想もある程度できた。ところが、大重量化になってからネック部Nでない柱状部T2で破断するケースが発生した。
【0011】
そこで、本願発明者らは、破断が発生する位置が着液部T3よりもシードチャック5側、つまり、該当種結晶Tとして、加工・成形した柱状部T2で発生する破断の原因究明と、防止策を対応することとした。
【0012】
この種結晶のうち、引き上げ終了後の結晶取り出し工程において破断したものを分析したところ、その破断面はシェルパターンの脆性破壊型の破断面で起点は種結晶の断面中心側でなく、断面縁部の柱状側面側にあった。またシード(種結晶)はこの起点から単純に2分割に破壊されたのではなく3分割以上に複雑に破壊したとの知見が得られた。破断起点が柱状部T2表面付近だったことから、シード(種結晶)の母材中の欠陥からの破壊の可能性は低いと考えられる。
【0013】
また、このシードの母材と同ブロックから切り出された他のシードは複数の結晶成長炉で使用されたが、破断を起こしたものは他になかった。当該種結晶を切り出した母材となる単結晶に原因があれば、同様に切り出した他の種結晶でも破断が発生することが考えられるため、そうではないことからも、シード(種結晶)の母材中の欠陥からの破壊の可能性は低いと考えられる。
【0014】
上記の破壊パターンから、破断起点が柱状部T2表面付近の一点であることがわかったため、考えられる可能性として、シード(種結晶)表面に附着した融液の液はねか、表面付近に酸化物等の析出物があり、これらが破断起点となった場合を検討した。しかし、融液の液はねは発生した形跡がなく、また、析出酸化物も破断起点には検出されなかった。
【0015】
次に着液時の熱ショックが原因となって破断が発生した可能性について考察した。しかし、破断の起点は、シード(種結晶)の端面である着液面からスリップが入っている範囲である着液部T3より上側(シードチャック5側)にあり、熱ショックが原因となって破断が発生したとは考えにくい。また、破断起点は柱状部T2のシードチャック5側にあるため、もし、破断起点の付近に熱ショックによるスリップが存在したとしても、その密度はかなり低いと考えられる。このため、熱ショックが原因となって破断が発生するならその起点は着液部T3になり、今回対象とする柱状部T2での破断とは関係ないと判断した。
【0016】
また、検証のため、破断起点付近の縦切り面をX線で確認した。
その結果、破断となった起点部位付近には転位や析出物等の欠陥はなかった。これに対し、破断起点より上側となるシードチャック5との接触している取り付け拡径部T1には転位が発生していたものの、この転位は柱状部T2の破断部位までは伝搬していなかったため、シードチャック5接触による転位は今回の破断原因には繋がらないと考えられる。
【0017】
次に、シード表面のキズが原因となって破断が発生した可能性について考察した。
当該シードの加工表面を観察したが、綺麗な(鏡面)状態であり、目視でキズは確認できなかった。したがって、目視できるほどのキズが存在する可能性は低いと考えられる。また、破断起点はシードチャック5で保持するために拡径した取り付け拡径部T1ではなく、シードチャック5との接触によって生じたキズが原因ではない。
【0018】
しかし、シリコンは脆性材料で、目に見えないキズでも破壊の起点になる可能性はある。したがって、シード(種結晶)製造時に柱状側面に導入される目視できない程度の微細な表面加工キズや研削ダメージが破断発生の原因のひとつとして考えられる。種結晶Tをシードチャック(ホルダー)5に装着する前に、目視ではカケ・割れ等を確認しているが、微細なキズ等が確認できないためにそのまま装着され、破壊の起点になった可能性があると判断した。
したがって、それらが残存することがないようシード(種結晶)を準備することが重要であるとの見解に達した。
【0019】
このような知見から、シード(種結晶)製造時に柱状側面に導入される加工キズや研削により発生する加工ダメージ層を定量化し、その情報に基づきダメージ層を除去・低減することで、破断発生を回避することを目的として、本願発明を完成した。
【0020】
本発明のシリコン種結晶の製造方法は、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶を製造する際に
シードチャックに取り付けて用いるシリコン種結晶の製造方法であって、
シリコンの単結晶から切り出して柱状のシリコン種結晶とする加工工程と、
前記シリコン種結晶の
下側端部に位置する着液部よりも前記シードチャック側となる柱状部の柱状側面において
、残存する表面のキズおよび表面加工ダメージ層をなくすことで引き上げるシリコン単結晶の重量を保持可能な強度を維持するための、表面加工ダメージ層除去工程と、
前記シリコン種結晶側面において、加工表面のキズあるいは表面加工ダメージ層が除去されているかを測定する測定工程と、
を有することにより上記課題を解決した。
本発明において、前記ダメージ層除去工程が、エッチング処理を含むことがより好ましい。
本発明の前記ダメージ層除去工程が、エッチング処理の前に、研削条件の異なる2以上の研削処理を含むことが可能である。
また、本発明において、前記研削処理における異なる研削条件として、研削砥石の粗さが異なる手段か、研削砥石の押圧条件(削り量)が異なる手段を採用することもできる。
また、本発明においては、前記測定工程において、角度研摩処理およびライトエッチング処理を含むことが望ましい。
さらに、前記測定工程において、
波長0.001nm〜0.25nmのX線とされる高エネルギー放射光(白色X線トポグラフ)による測定処理を含むことが可能である。
また、引き上げるシリコン単結晶がφ300mm以上であるか、または、引き上げ時の原料チャージ量が300kg以上とされるシリコン種結晶とされてなることがある。
本発明において、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶を製造する際にシードチャックに取り付けて用いるシリコン種結晶の製造方法であって、
シリコンの単結晶から切り出して柱状のシリコン種結晶とする加工工程と、
前記シリコン種結晶の下側端部に位置する着液部よりも前記シードチャック側となる柱状部の柱状側面において、残存する表面のキズおよび表面加工ダメージ層をなくすことで引き上げるシリコン単結晶の重量を保持可能な強度を維持するための、表面加工ダメージ層除去工程と、
を有することができる。
本発明のシリコン単結晶の製造方法においては、上記のいずれか記載の製造方法によって製造されたシリコン単結晶製造用種結晶を用いてシリコン単結晶を引き上げることが好ましい。
本発明のシリコン単結晶の製造方法においては、前記測定工程で測定した結果からダメージ層が除去されて必要な強度を有しているかどうかを判断するダメージ層除去判断工程と、
上記のいずれか記載の製造方法によって製造されたシリコン単結晶製造用種結晶を用いてシリコン単結晶の引き上げをおこなう引き上げ工程と、
を有し、
前記ダメージ層除去判断工程において、前記表面加工ダメージ層が除去されていると判断した場合には、前記引き上げ工程としてシリコン単結晶の引き上げをおこなうとともに、前記表面加工ダメージ層が除去されていないと判断した場合には、前記表面加工ダメージ層除去工程に戻ることができる。
【0021】
本発明のシリコン種結晶の製造方法は、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶を製造する際に用いるシリコン種結晶の製造方法であって、
シリコンの単結晶から切り出して柱状のシリコン種結晶とする加工工程と、
前記シリコン種結晶の柱状側面において残存する表面のキズおよび表面加工ダメージ層をなくすことで引き上げるシリコン単結晶の重量を保持可能な強度を維持するための、ダメージ層除去工程と、
前記シリコン種結晶側面において、加工表面のキズあるいは表面加工ダメージ層が除去されているかを測定する測定工程と、
を有することにより、加工キズおよび加工ダメージ層を除去して、破断起点となる可能性がある微細なキズを完全に取り除いて、種結晶の破断を防止して、引き上げるシリコン単結晶の重量を保持可能な強度を維持する種結晶を製造することができる。
【0022】
本発明において、前記ダメージ層除去工程が、エッチング処理を含むことにより、ダメージ層除去工程の最終段階で、あらたな加工ダメージ層を発生させずに種結晶表面に存在する加工キズおよび加工ダメージ層を除去することができる。
【0023】
本発明の前記ダメージ層除去工程が、エッチング処理の前に、研削条件の異なる2以上の研削処理を含むことにより、加工ダメージ層の除去を短時間で処理することができるとともに、研削処理の最終段階で加工ダメージ層の発生を減少するように研削条件を変化させて、必要な加工ダメージ層を完全に除去するための後工程であるエッチング処理の処理時間の短縮を図ることが可能となる。つまり、シード成形加工における研削条件において砥石番手を変更することにより研削ダメージを低減させ、その分研削後のエッチング量低減を測ることができる。具体的には、エッチング処理前に存在する加工ダメージ層厚さを、50μm以下、好ましくは、10μm以下とすることができる。
【0024】
また、本発明において、前記研削処理における異なる研削条件として、研削砥石の粗さが異なる手段か、研削砥石の押圧条件(削り量)が異なる手段を採用することにより、研削処理の開始側の研削処理条件としては、研削処理により除去できる厚みを優先して多少加工ダメージ層の発生することを許容する条件とし、研削処理の終了側では、新たな加工ダメージ層の発生を少なくするような条件とすることができる。このため、研削砥石と石の粗さを処理開始から終了側に対して大きくなるよう変化させる手段、あるいは、研削砥石の押圧条件(削り量)処理開始から終了側に対して小さくなるよう変化させる手段が可能である。具体的には、2つの研削条件を設定する際に、砥石の番手を#140で開始し#800で終了するように設定することや、砥石の押圧条件(削り量)を、5mmで開始し0.05mmで終了するように設定することが可能である。
【0025】
また、本発明においては、前記シリコン種結晶側面において、加工表面のキズあるいは表面加工ダメージ層が除去されているかを測定する測定工程を有することで、シード表層状態の評価をおこなうことができる。
【0026】
本発明においては、前記測定工程において、角度研摩処理およびライトエッチング処理を含むことが望ましく、ウェーハの評価で行われている角度研摩+ライトエッチングの評価方法をシード表層の評価としておこなう。
ここで、試料の準備は、
図2(a)に示すように、測定対象であるシードから軸方向に延在するように柱状部T2の表層部分を切り出して、
図2(b)(c)に示すように、切り出した試料片を角度研摩する。このとき、研磨角度は5°44’に設定することができる。その後2HF:2CH
3COOH:1HNO
3:1CrO
3[400g/l]水溶液によるライトエッチングを2μm程度おこなって、加工ダメージ層の部分を強調させる。この強調された加工ダメージ層の部分を光学顕微鏡で観察し、ダメージが存在する範囲を計測することで加工ダメージ層の深さを評価するものである。
【0027】
さらに、前記測定工程において、大型放射光施設(SPring−8)などでの高エネルギー放射光(白色X線トポグラフ)による測定処理を含むことが可能であり、これにより、100μmオーダーの大きなひずみの有無を明らかにすることができる。
このときの測定用高エネルギー放射光としては、白色X線による白色X線トポグラフィを用いることが好ましく、特に、白色X線としては、連続的なスペクトルをもつ30keV〜1MeV、40〜100keV程度、50〜60keV程度、あるいは、波長0.001nm〜0.25nm程度のX線とされ、光源からの距離44mの位置で、1mm×1mmのスリットを通して得られる光子数が
図1に示すような分布を有するものとされる。
図3(a)は、本発明における高エネルギー放射光の一例とされるX線の状態を示すもので、X線のエネルギーに対する光子数の分布を示すものであり、
図3(a)は、本発明における高エネルギー放射光の一例とされるX線を示すもので、波長に対する光子数の分布を示すものである。
【0028】
また、引き上げるシリコン単結晶がφ300mm以上であるか、または、引き上げ時の原料チャージ量が300kg以上とされるシリコン種結晶とされてなることで、この程度の大荷重が印加されても、柱状部T2から破断しない種結晶とすることができる。
【0029】
さらに、本発明においては測定工程で蓄積された測定データに基づき十分なダメージ除去がなされていると判断される場合は、測定工程を省略し、
シリコンの単結晶から切り出して柱状のシリコン種結晶とする加工工程と、
シリコン種結晶の柱状側面において残存する表面のキズおよび表面加工ダメージ層をなくすことで引き上げるシリコン単結晶の重量を保持可能な強度を維持するための、ダメージ層除去工程と、
を有することにより、加工キズおよび加工ダメージ層を除去して、破断起点となる可能性がある微細なキズを完全に取り除いて、種結晶の破断を防止して、引き上げるシリコン単結晶の重量を保持可能な強度を維持する種結晶を製造することができる。
【0030】
本発明のシリコン単結晶の製造方法においては、上記のいずれか記載の製造方法によって製造されたシリコン単結晶製造用種結晶を用いてシリコン単結晶を引き上げることで、種結晶の破断による結晶落下の発生を防止することが可能となる。