特許第5978840号(P5978840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5978840銀粉及びその製造方法、並びに銀ペースト
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5978840
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】銀粉及びその製造方法、並びに銀ペースト
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20160817BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20160817BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20160817BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20160817BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20160817BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160817BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   B22F1/00 K
   B22F9/24 E
   C22C5/06
   H01B5/00 F
   H01B1/00 F
   H01B1/22 A
   H01B13/00 501Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-172205(P2012-172205)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-31541(P2014-31541A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2014年11月28日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 俊昭
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−209421(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/023716(WO,A1)
【文献】 特開2009−209422(JP,A)
【文献】 特開2005−216508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀粒子表面にポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキシド及びポリビニルピロリドンから選択される少なくとも1種の水溶性高分子が吸着し、Sb、Bi、S、Se及びTeの含有量の合計が当該銀粉に対して7〜50質量ppmであることを特徴とする銀粉。
【請求項2】
上記Sb、Bi、S、Se及びTeの存在形態は、銀との化合物であることを特徴とする請求項記載の銀粉。
【請求項3】
Sb、Bi、S、Se及びTeの含有量の合計が銀に対して7〜500質量ppmである塩化銀、酸化銀及び硝酸銀からなる群から選択される少なくとも1種を溶解して得た銀錯体を含む溶液と、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキシド及びポリビニルピロリドンから選択される少なくとも1種の水溶性高分子が添加された還元剤溶液とを混合し、上記銀錯体を還元して銀粉を得ることを特徴とする銀粉の製造方法。
【請求項4】
上記銀錯体を含む溶液と上記還元剤溶液とを定量的かつ連続的に混合して銀粉を得ることを特徴とする請求項記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項記載の銀粉を含有することを特徴とする銀ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉及びその製造方法、並びに銀粉を含有する導電性ペーストに関し、より詳しくは電子機器の配線層、電極等の形成に利用される銀ペーストの主たる成分となる銀粉に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の配線層や電極等の形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペースト等の銀ペーストが広く使用されている。配線層や電極等の導電膜は、銀ペーストを塗布又は印刷した後、加熱硬化あるいは加熱焼成することで形成される。
【0003】
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤等からなり、この樹脂型銀ペーストを導電体回路パターン又は端子上に印刷した後、100℃〜200℃で加熱硬化させ導電膜とすることにより、配線層や電極等を形成することができる。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤等からなり、この焼結型銀ペーストを導電体回路パターン又は端子上に印刷した後、600℃〜800℃に加熱焼成させて導電膜とすることにより、配線層や電極等を形成することができる。銀ペーストを加熱して形成されたこれらの配線層や電極等の導電性は、銀粉の焼結性が関係する。
【0004】
銀粉は、出発原料に塩化銀、酸化銀又は硝酸銀を用い、この塩化銀、酸化銀又は硝酸銀を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して得られた銀粒子を洗浄、乾燥することによって製造できる。
【0005】
銀粉の焼結性は表面エネルギーや粒界に大きく影響されることが知られている。そのため、良好な焼結性を得るために、粒子径を小さくして比表面積を大きくしたり、例えば特許文献1に記載されるように銀粉の結晶子径を10nm以下とするといった手法がある。また、不純物成分の濃度を低減させて焼結性を向上させる手法がある。不純物成分が存在すると粒子間の銀の拡散が阻害され、結果として焼結反応を阻害する。特に、銀は塩素等のハロゲン元素と銀塩を生成しやすく、銀粉の焼結性を良好なものとするためには、原料からのハロゲン元素を十分に除去する必要がある。ハロゲン元素との銀塩は、水への溶解性を有することから、銀粉の製造時には洗浄によるハロゲン元素の低減が行われている。しかしながら、ハロゲン元素以外の不純物成分の濃度を徒に低減させることは、製造工程が煩雑になりコストアップを招くため実用的ではないと言える。
【0006】
近年、焼成温度の低温化など厳しい条件下でも、銀粉に対して十分な焼結性を示すことが求められている。しかしながら、上記のような状況において、現状の銀粉は、十分に焼結性が安定しているとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−048236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みて提案されたものであり、良好な焼結性を安定して示す銀粉及びその製造方法、並びにその銀粉を用いた銀ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、銀錯体を還元して銀粉を製造する過程において、原料中のSb、Bi、S、Se及びTeの合計の濃度を一定濃度以下に抑え、さらに銀粉中のSb、Bi、S、Se及びTeの合計の濃度を一定濃度以下に制御することにより、優れた低温焼結性を安定して示す銀粉が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
上述した目的を達成する本発明に係る銀粉は、銀粒子表面にポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキシド及びポリビニルピロリドンから選択される少なくとも1種の水溶性高分子が吸着し、Sb、Bi、S、Se及びTeの含有量の合計が当該銀粉に対して7〜50質量ppmであることを特徴とする。
【0011】
また、上述した目的を達成する本発明に係る銀粉の製造方法は、Sb、Bi、S、Se及びTeの含有量の合計が銀に対して7〜500質量ppmである塩化銀、酸化銀及び硝酸銀からなる群から選択される少なくとも1種を溶解して得た銀錯体を含む溶液と、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキシド及びポリビニルピロリドンから選択される少なくとも1種の水溶性高分子が添加された還元剤溶液とを混合し、上記銀錯体を還元して銀粉を得ることを特徴とする。
【0012】
また、上述した目的を達成する本発明に係る銀ペーストは、上述の銀粉を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、良好な焼結性を安定して示す銀粉であり、この銀粉を用いた銀ペーストも焼結性に優れたものにすることができる。また、本発明では、銀ペーストで配線層や電極等を形成することで、配線層や電極等を安定した優れた導電性を示すものにでき、工業的価値が極めて大きいものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を適用した銀粉及びその製造方法、並びに銀ペーストについて詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0015】
銀粉は、硬化剤、樹脂、溶剤等から構成される樹脂型銀ペーストやガラス、溶剤等から構成される焼成型銀ペーストに含有されている。銀粉が含有された樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストは、配線層や電極等の形成に用いられる。配線層や電極等の導電性は、銀粉の焼結性が重要となる。
【0016】
銀粉の焼結性を阻む不純物としては、塩化ナトリウム、ハロゲン化銀などが知られているが、発明者は微量のSb、Bi、S、Se及びTeが焼結性に影響することを見出した。銀粉中におけるSb、Bi、S、Se及びTeの含有量を少なくすることで、銀粉の焼結性を良好にすることができる。本実施の形態に係る銀粉は、Sb、Bi、S、Se及びTeの含有量の合計が、銀粉に対して2〜100質量ppmであり、焼結を阻害せず、焼結に影響を与えない範囲である。
【0017】
低温であっても優れた焼結性を有する銀粉を得るためには、Sb、Bi、S、Se及びTe(以下、これらを特定不純物ともいう。)の含有量の合計が銀粉に対して100質量ppm以下、好ましくは50質量ppm以下とすることが必要である。
【0018】
例えば、Teは、銀と容易に化合物を形成してテルル化銀となり銀粉中に存在する。一方、銀粒子の焼結反応は、加熱により銀粒子表面が活性化され、粒子同士の接触点に向かって銀が拡散することで発現する。テルル化銀は、本来、銀焼結反応を生じる温度において焼結しないため、特に粒子表面に存在した場合には銀粒子同士が接していても前述のような焼結反応が大きく阻害される。このような反応は、銀アンチモン化合物、銀ビスマス化合物、硫化銀、セレン化銀でも生じる。
【0019】
しかしながら、特定不純物の含有量が微量、すなわち、特定不純物の含有量の合計が銀粉にして100質量ppm以下、好ましくは50質量ppm以下になると、銀が接近して存在するために、その銀が焼結反応を補い反応阻害を抑えることができる。
【0020】
ここで、特定不純物の含有量は、焼結性の観点からすると少ないほどよいが、コスト面で大きな不利となる。特定不純物量を2質量ppm未満とした場合には、純度が99.9998質量%以上の高純度銀粉となるが、高純度銀粉は高コストで大量の供給には不向きであるばかりでなく、特定不純物量が2質量ppm程度の銀粉と焼結性に大きな差はない。したがって、焼結性と工業的なコストの優位性を両立させるためには、銀粉に含まれる特定不純物量の下限値を2質量ppm、好ましくは5質量ppmとすることが現実的である。
【0021】
以上のような銀粉の製造方法は、特定不純物の含有量の合計が銀に対して2〜1000質量ppmである塩化銀、酸化銀及び硝酸銀からなる群から選択される少なくとも1種を溶解して得た銀錯体を含む溶液と還元剤溶液とを混合し、該銀錯体を還元して銀粉を得るものである。
【0022】
塩化銀、酸化銀及び硝酸銀は、例えば銅鉱石とスクラップ原料とを溶媒中に溶解させ、電解法によって銅を取り除いた残渣を精製して得られた塩化銀、または得られた銀を利用して生成した硝酸銀や酸化銀を用いることができる。Sb、Bi、S、Se及びTeの混入経路としては、鉱石や精鉱といった鉱物資源だけではなく、近年取引が旺盛な電子部品のスクラップ原料から混入することがある。これは、電子部品には部品に特性を持たすために、Sb、Bi、S、Se、Teという元素が微量から高濃度まで添加させていることによるものである。
【0023】
塩化銀等は、錯形成剤を含む溶媒に溶解することにより銀錯体溶液となるが、特定不純物元素も溶存態となって共存する。銀錯体溶液を還元すると、これらの特定不純物元素も還元され、あるいは直接的に銀との化合物を生成し、銀粉の中に一部が取り込まれ、不純物元素と銀の化合物が焼結反応を阻害することになる。
【0024】
ナトリウムやハロゲン等の不純物は、アルカリ水溶液や水による洗浄工程により低減することが可能である。しかしながら、Sb、Bi、S、Se及びTeは、銀と化合物を形成すると洗浄では除去しにくい形態となりやすいため、洗浄では十分に除去することができない。
【0025】
したがって、銀粉に含まれる特定不純物元素の含有量を低減する方法としては、出発原料に含まれる特定不純物元素の濃度を抑制する方法か、還元時に銀粉に含まれる特定不純物元素の濃度を低減させる方法がある。しかしながら、還元時に含有量を低減させることは困難である。そのため、出発原料である、塩化銀、酸化銀又は硝酸銀に含まれる特定不純物を抑制することが有効であり、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計が銀にして2〜1000質量ppm、好ましくは2〜500質量ppmである塩化銀、酸化銀又は硝酸銀を用いる。銀原料の形態や還元条件により、銀粉に取り込まれる特定不純物量は変化するが、特定不純物量を上記の範囲とすることで、銀粉に含有される特定不純物量を十分に抑制することができる。
【0026】
具体的に銀粉の製造方法について説明する。銀粉の製造方法は、特定不純物の含有量が2〜1000質量ppmの塩化銀、酸化銀又は硝酸銀を錯形成剤を含む溶媒に溶解し、銀錯体を含む銀錯体溶液を調製する。錯形成剤としては、特に限定されるものではないが、塩化銀、酸化銀及び硝酸銀と錯体を形成しやすく且つ不純物として残留する成分が含まれていないアンモニア水を用いることが好ましい。
【0027】
次に、銀錯体溶液と混合する還元剤溶液を調製する。還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリン、アスコルビン酸等を用いることができる。アスコルビン酸は、還元作用が緩やかであるため、銀粒子中の結晶粒が成長しやすく特に好ましい。反応の均一性や反応速度を制御するためには、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いてもよい。
【0028】
還元剤溶液には、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキシド及びポリビニルピロリドンから選択される少なくとも1種の水溶性高分子を添加することが好ましい。水溶性高分子を添加することによって、還元により発生した核や核が成長した銀粒子の凝集を抑え、分散性の良いものとすることができる。なお、過剰に添加した場合は、銀粒子表面に残留する水溶性高分子の量が多くなり過ぎ、ペースト化して作製した配線層や電極の導電性が低下してしまう。水溶性高分子の添加量は、水溶性高分子の種類及び得ようとする銀粉の粒径により適宜決めればよいが、銀錯体溶液中に含有される銀に対して0.1〜20質量%の範囲とすることが好ましく、1〜20質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0029】
水溶性高分子は、銀錯体溶液に混合しておくことも可能であるが、銀錯体溶液と混合する前の還元剤溶液に混合しておく方が分散性の良い銀粉が得られるため好ましい。このことは、実験的に確認された結果であるが、還元剤溶液と水溶性高分子を混合しておくことで核発生又は核成長の場に水溶性高分子が存在し、生成した核又は銀粒子の表面に迅速に水溶性高分子が吸着するためと考えられる。
【0030】
水溶性高分子を添加した場合には、還元反応時に発泡することがあるため、銀錯体溶液又は還元剤混合液に消泡剤を添加してもよい。消泡剤は、特に限定されるものではなく、通常還元時に用いられているものでよい。ただし、還元反応を阻害させないため、消泡剤の添加量は消泡効果が得られる最小限程度にしておくことが好ましい。
【0031】
なお、銀錯体溶液及び還元剤溶液を調製する際に用いる水については、不純物の混入を防止するため、不純物が除去された水を用いることが好ましく、純水を用いることが特に好ましい。
【0032】
次に、上述したように調製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させる。この還元反応は、バッチ法でもよく、チューブリアクター法やオーバーフロー法のような連続還元法を用いて行ってもよい。均一な粒径を有する銀粒子を得るためには、粒成長時間の制御が容易なチューブリアクター法を用いることが好ましい。銀錯体溶液と還元剤溶液とを定量的かつ連続的に混合することで、安定的に銀粉を析出させることができる。また、銀粒子の粒径は、銀錯体溶液と還元剤溶液の混合速度や銀錯体の還元速度で制御することが可能であり、目的とする粒径に容易に制御することができる。銀粒子は、一次粒子径が0.1μm〜1.5μm程度であり、形成する配線の太さや電極の厚さによって適宜調整する。
【0033】
次に、得られた銀粒子に対して表面処理を行うことが好ましい。この表面処理は、上述した水溶性高分子が吸着した銀粒子をアルカリ性溶液や水で洗浄する前に行うことが好ましい。アルカリ性溶液や水で洗浄すると、銀粒子の表面に吸着した水溶性高分子が容易に除去されてしまうため、水溶性高分子が除去された部分で銀粒子の凝集が起こる。このため、洗浄した後に表面処理を行うと、凝集した銀粒子の表面に表面処理を行うことになり、乾燥後の解砕により表面処理ができていない面が現われて、表面処理が不均一になるため好ましくない。したがって、洗浄前に表面処理を行うことが好ましい。
【0034】
表面処理は、洗浄する前の銀粒子に界面活性剤で表面処理を行うか、より好ましくは界面活性剤と分散剤で表面処理を行う。表面処理は、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン系界面活性剤は、pHの影響を受けることなく正イオンに電離するため、銀粉への吸着性の改善効果が得られる。銀粒子に対して表面処理を行った場合には、塩化銀、酸化銀又は硝酸銀から得た銀錯体を還元して得た銀粒子の表面に、例えば電離状態で少なくとも正イオンとなり得るカチオン系界面活性剤が吸着しているか、又は銀粒子表面に吸着している界面活性剤に更に分散剤が吸着している。
【0035】
界面活性剤と分散剤とによって表面処理を行った場合には、銀粒子の表面に界面活性剤を強固に吸着させることができ、その界面活性剤を介して分散剤を強固に吸着させることができる。表面処理が施された銀粉は、界面活性剤と分散剤の効果により銀粉の凝集が抑制され、有機溶媒を用いた銀ペースト中でも界面活性剤及び分散剤が剥離しにくく凝集が抑制されて、銀ペースト中において良好な分散性が得られる。
【0036】
分散剤としては、例えば脂肪酸、有機金属、ゼラチン等の保護コロイドを用いることができるが、不純物混入のおそれや界面活性剤との吸着性を考慮すると、脂肪酸又はその塩を用いることが好ましい。また、その分散剤としては、脂肪酸又はその塩を界面活性剤でエマルション化したものを用いることが好ましく、分散剤による表面処理によって銀粒子の表面に脂肪酸と界面活性剤とを結合させることができ、より一層分散性を向上させることができる。
【0037】
分散剤の添加量は、銀粒子量に対して0.01〜1.00質量%の範囲が好ましい。分散剤は上述の有機化合物と同様にその種類により銀粒子への吸着量は異なるが、添加量が0.01質量%未満になると、銀粒子の凝集抑制や分散剤の吸着性改善の効果が十分に得られる量が銀粉に吸着されないことがある。一方、分散剤の添加量が1.00質量%を超えると、銀粒子に吸着される量が多くなり過ぎ、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極等の導電性が十分に得られないことがある。
【0038】
界面活性剤としては、特に限定されるものではないが、カチオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤の添加量としては、銀粒子量に対して0.002〜1.000質量%の範囲が好ましい。界面活性剤は、上記範囲の添加量により銀粒子表面に十分な量の界面活性剤を吸着させることができる。界面活性剤の添加量が0.002質量%未満になると、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着性改善の効果が得られないことがある。一方で、添加量が1.000質量%を超えると、吸着量が多くなり過ぎ、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が低下する可能性があるため好ましくない。銀粒子に界面活性剤を吸着させることで、銀ペースト中での分散性を向上させ、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極において良好な導電性が達成される。
【0039】
次に、表面処理をした銀粒子を洗浄する。銀粒子は、表面に不純物、過剰の水溶性高分子が吸着している。したがって、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極等の導電性を十分なものとするためには、得られた銀粒子スラリーを洗浄し、銀粒子に付着した不純物や過剰に付着した水溶性高分子を除去する必要がある。不純物や水溶性高分子を除去しても表面処理層が残るため、銀粒子の凝集抑制と配線層や電極等の高い導電性を両立させることができる。
【0040】
洗浄方法としては、銀粒子スラリーから固液分離した銀粒子を洗浄液に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、再び固液分離して銀粒子を回収する方法が一般的に用いられる。また、表面吸着物を十分に除去するためには、洗浄液に銀粒子を投入して撹拌洗浄し、固液分離を行う操作を数回繰り返して行うことが好ましい。
【0041】
洗浄液は、銀粒子の表面に吸着されている水溶性高分子や不純物を効率よく除去するために、アルカリ性溶液又は水を用いる。アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水のいずれか1つ、またはこれらを混合して用いることが好ましい。その他に、無機化合物又は有機化合物からなるアルカリ性溶液を用いても問題はない。洗浄液に用いる水は、銀粒子に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水が好ましい。
【0042】
アルカリ性溶液の濃度は、0.01質量%〜20質量%が好ましい。0.01質量%未満では、洗浄効果が不十分であり、20質量%を超える場合では、銀粒子にアルカリ金属塩が許容以上に残留することがある。したがって、高濃度のアルカリ性溶液を用いた場合は、洗浄後に十分な純水洗浄を行い、アルカリ金属塩の残留を抑制する必要がある。
【0043】
洗浄を行った後は、固液分離して銀粒子を回収する。固液分離に用いられる装置は、通常用いられるものでよく、例えば遠心機、吸引濾過機、フィルタープレス等を用いることができる。
【0044】
次に、分離した銀粒子は、乾燥工程において水分を蒸発させて乾燥させる。乾燥方法としては、例えば、洗浄及び表面処理の終了後に回収した銀粉をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機などの市販の乾燥装置を用いて、40℃〜80℃の温度で加熱すればよい。
【0045】
次に、乾燥後の銀粒子に対して、弱い解砕を行い、乾燥時に生じた凝集体をほぐす。なお、解砕は、乾燥後の銀粒子において、凝集体をほぐす必要があれば行うようにしてもよい。解砕を行う際には、弱い力で解砕することができる。これは、表面処理により銀粒子の凝集が抑えられているからである。解砕する際の力は、小さい振動、例えば銀粒子をジャイロシフターにて篩いにかけた際の振動程度でもよい。
【0046】
上述した解砕処理後、分級処理を行うことによって所望とする粒度分布を有する銀粉を得ることができる。分級処理に際して使用する分級装置としては、特に限定されるものではなく、気流式分級機、篩い等を用いることができる。
【0047】
以上のような銀粉の製造方法では、原料にSb、Bi、S、Se及びTeの含有量の合計が、銀粉に対して2〜1000質量ppm、好ましくは2〜500質量ppmである塩化銀、酸化銀又は硝酸銀を用いることによって、生成される銀粉に含まれるSb、Bi、S、Se及びTeの含有量の合計を銀粉に対して2〜100質量ppm、更に好ましくは2〜50質量ppmとすることができ、特定不純物の含有量が少ない銀粉を製造することができる。得られた銀粉は、特定不純物の含有量が少ないため、良好で安定な焼結性を示し、焼結温度が低くても同様に良好で安定な焼結性を示すものとなる。
【0048】
また、このような特定不純物の含有量が少ない銀粉と、ガラス、溶剤等とを混合することで銀ペーストを作製することができる。なお、銀ペーストの製造方法は、銀ペーストの一般的に製造方法と同様である。銀ペーストは、特定不純物の含有量が少ない銀粉を用いることによって、銀粉が良好で安定な焼結性を有しているので、導電性が良好な配線層や電極等を形成することができる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
実施例1では、37℃の温浴中で液温36℃に保持した25質量%アンモニア水40Lに、塩化銀2900g(住友金属鉱山株式会社製、純度99.8質量% Sb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計は銀に対して15質量ppm)を撹拌しながら投入して銀錯体溶液を作製し、得られた銀錯体溶液を温浴中で36℃に保持した。
【0051】
一方、還元剤のアスコルビン酸1100g(関東化学株式会社製、試薬)を、36℃の純水14Lに溶解して還元剤溶液を作製した。
【0052】
次に、水溶性高分子であるポリビニルアルコール100g(株式会社クラレ製、PVA205)を36℃の純水550mlに溶解した後、還元剤溶液に混合した。
【0053】
作製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを、ポンプ(兵神装備株式会社製)を使用し、銀錯体溶液2.7L/min、還元剤溶液0.9L/minで混合管内に送液して、銀錯体を還元した。なお、混合管には内径25mm及び長さ725mmの塩ビ製パイプを使用した。銀錯体の還元により得られた銀粒子を含むスラリーは撹拌しながら受槽に入れた。
【0054】
その後、還元により得られた銀粒子スラリーへ、分散剤としてステアリン酸エマルジョン19g(中京油脂株式会社製、セロゾール920)を投入し、60分間撹拌して表面処理を行った。表面処理後、銀粒子スラリーをフィルタープレスを使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。
【0055】
引き続き、回収した銀粒子が乾燥する前に、銀粒子を40℃に保持した0.2質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液23L中に投入し、15分間撹拌して洗浄した後、フィルタープレスで濾過し、銀粒子を回収した。
【0056】
次に、回収した銀粒子を、40℃に保持した23Lの純水中に投入し、撹拌及び濾過した後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥した。続いて、乾燥した銀粒子を、5Lの高速攪拌機(日本コークス工業株式会社製、FM5C)を用いて、解砕を行った。解砕処理後、銀粒子を気流式分級機(日本鉱業株式会社製、EJ−3)を用い、分級点7μmとして粗大粒子を除去し、銀粒子を得た。得られた銀粉について、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度を分析したところ、これらすべての濃度の合計は銀粉に対して7質量ppmであった。
【0057】
また、ステンレス製の小皿に得られた銀粉9.2gと、エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製JER819)とターピネオールとの重量比が1:7のビヒクル0.8gを秤量し、金属性のヘラを用いて混合した後に、自公転型混練機(株式会社シンキー製ARE−250型)を用いて2000rpm(遠心力として420G)で5分間混練し、均一な銀ペーストを作製した。さらに、アルミナ基盤上にスクリーン印刷機(ミナミ株式会社製MODEL−2300)を用いて銀ペーストで配線を印刷し、配線が印刷されたアルミナ基盤を大気中200℃で60分間の熱処理を施した。
【0058】
そして、熱処理を施した銀ペーストで印刷された配線の体積抵抗率を抵抗率計(三菱化学アリナテック製 ロレスタGP)を用いて測定した。その結果、銀ペーストの体積抵抗率は7.2μΩ・cmであり、そのペーストは優れた導電性を有することがわかった。これにより、銀ペーストに含有させた銀粉の焼結性が良好であることがわかる。
【0059】
[実施例2]
実施例2では、塩化銀の純度が99.7質量%で、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計が銀に対して180質量ppmである以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。得られた銀粉について、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計が銀粉に対して12質量ppmであった。
【0060】
実施例2の銀粉を用いて実施例1と同様に銀ペーストを作製して評価した結果、銀ペーストの体積抵抗率は7.5μΩ・cmであり、その銀ペーストは優れた導電性を有することがわかった。これにより、銀ペーストに含有させた銀粉の焼結性が良好であることがわかる。
【0061】
参考例
参考例では、塩化銀の純度が99.7質量%で、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計が銀に対して590質量ppmである以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。得られた銀粉について、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計が銀粉に対して77質量ppmであった。
【0062】
参考例の銀粉を用いて実施例1と同様に銀ペーストを作製して評価した結果、銀ペーストの体積抵抗率は12.1μΩ・cmであり、その銀ペーストは導電性を有することがわかった。これにより、銀ペースに含有させた銀粉の焼結性が良好であることがわかる。しかしながら、参考例では、原料の塩化銀に含まれるSb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計及び銀粉に含まれるSb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計が実施例1及び実施例2によりも多いため、実施例1及び2と比較すると導電性が劣ることがわかった。
【0063】
[比較例1]
比較例1では、塩化銀の純度が99.5質量%で、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計が1600質量ppmである以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。得られた銀粉について、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計が230ppmであった。
【0064】
比較例1の銀粉を用いて実施例1と同様に評価した結果、銀ペーストの体積抵抗率は75.3μΩ・cmであり、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度の合計が100質量ppmのサンプル1〜3と比べて銀ペーストの導電性は劣ることが分かった。
【0065】
以上より、Sb、Bi、S、Se、Teの濃度が銀に対して2〜1000質量ppmである原料を用いることで、得られた銀粉ではSb、Bi、S、Se、Teの濃度が銀粉全体に対して2〜100質量ppmと少なくなり、良好で安定な焼結性を有する銀粉を得ることができ、この銀粉を含む銀ペーストを用いることで優れた導電性を有する配線を形成できることがわかる。