特許第5979006号(P5979006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5979006ビニル重合体粉体、硬化性樹脂組成物及び硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979006
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】ビニル重合体粉体、硬化性樹脂組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20160817BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20160817BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20160817BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20160817BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20160817BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   C08L101/12
   C08L63/00 A
   C08L33/06
   C08J3/12 ZCEY
   H01L23/30
【請求項の数】16
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2012-550239(P2012-550239)
(86)(22)【出願日】2012年10月29日
(86)【国際出願番号】JP2012077835
(87)【国際公開番号】WO2013062123
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2011-235751(P2011-235751)
(32)【優先日】2011年10月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】畑江 陽子
(72)【発明者】
【氏名】笠井 俊宏
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/090246(WO,A1)
【文献】 特開2010−167699(JP,A)
【文献】 特開2003−049050(JP,A)
【文献】 特開2010−090371(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/051803(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C08J 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位を50質量%以上含有するビニル重合体であって、ガラス転移温度が120℃以上で、質量平均分子量が10万以上のビニル重合体からなるビニル重合体粉体、及び硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物
【請求項2】
前記ビニル重合体が、単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位を50〜98質量%、その他の単量体単位を50〜2質量%含有するビニル重合体である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項3】
前記ビニル重合体が、単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位を70質量%以上含有するビニル重合体である請求項1に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項4】
前記単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位のモル体積が150cm/mol以上である請求項1〜3のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項5】
前記単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位が、脂環式(メタ)アクリレート単位、メタクリル酸単位、シアン化ビニル単量体単位及びスチレン誘導体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項6】
前記単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位が、脂環式(メタ)アクリレート単位である請求項5に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項7】
前記脂環式(メタ)アクリレート単位が、ジシクロペンタニルメタクリレート単位及びイソボルニルメタクリレート単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項6に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項8】
前記その他の単量体単位が、アルキル(メタ)アクリレート単位である請求項2〜7のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項9】
前記ビニル重合体粉体の体積平均一次粒子径が0.2μm以上8μm以下である請求項1〜8のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項10】
前記ビニル重合体粉体のアルカリ金属イオンの含有量が10ppm以下である請求項1〜9のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項11】
前記ビニル重合体粉体の酸価が50mgKOH/g以下である請求項1〜10のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項12】
前記ビニル重合体粉体の10μm以下の粒子径の粒子の占める割合が30体積%未満であって、周波数42kHz、出力40Wの超音波を5分間照射した後に10μm以下の粒子径の粒子の占める割合が30体積%以上となる請求項1〜11のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物
【請求項13】
前記硬化性樹脂がエポキシ樹脂である請求項1〜12のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかの一項に記載の硬化性樹脂組成物を用いた半導体封止材料。
【請求項16】
単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位を50質量%以上含有するビニル重合体であってガラス転移温度が120℃以上で、質量平均分子量が10万以上のビニル重合体からなるビニル重合体粉体からなる硬化性樹脂用プレゲル化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル重合体粉体、ビニル重合体粉体を含有する硬化性樹脂組成物及び硬化性樹脂組成物の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器、デジタル家電、通信機器、車載用電子機器等のIT関連技術の進歩に伴い、エレクトロニクス分野で使用される樹脂素材が重要視されている。例えば、耐熱性や絶縁性等に優れるエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル系硬化性樹脂、オキセタン系硬化性樹脂等の、熱硬化性樹脂又は活性エネルギー線硬化性樹脂に対する需要は急速に高まっている。
【0003】
特に、エポキシ樹脂は、機械的性質、電気的絶縁性、接着性に優れる素材であり、しかも、硬化時の収縮が少ない等の特徴を有するため、半導体封止材料や各種絶縁材料、接着剤等に広く使用されている。中でも、常温で液状のエポキシ樹脂は、常温で注型や塗布できることから各種のペースト状又はフィルム状の材料として使用されている。
【0004】
近年では、回路の高集積化に伴い、ディスペンサーによる精密な注入や塗布、スクリーン印刷による精密なパターン塗布、高い膜厚精度でのフィルム上へのコーティング等、精密加工への要求が高まっている。
【0005】
しかしながら、エポキシ樹脂組成物は粘度の温度依存性が高いため、硬化するまでの温度上昇により粘度が顕著に低下することから、高精度な塗布・パターン形成が困難な状況にある。特に、電子材料分野においては、年々高まる高精度加工の要求により、使用するエポキシ樹脂組成物には温度上昇しても粘度低下しないことや、早期に形状が安定化することへの要望が極めて強い。
【0006】
エポキシ樹脂組成物に上記のような特性を付与する方法として、加熱により速やかにエポキシ樹脂組成物をゲル状態とするために、エポキシ樹脂組成物に特定のビニル重合体を配合し、ゲル化性付与剤(以下、「プレゲル化剤」という。)として用いる方法がある。例えば、特許文献1では、特定のビニル重合体をプレゲル化剤として用いる方法が提案されている。
【0007】
さらに、近年では、電子材料の長期信頼性への要求が高まっており、硬化性樹脂組成物の耐クラック性の改良、冷熱サイクルによる亀裂破壊の抑制等が求められている。クラックの発生は、硬化性樹脂組成物と無機材料との線膨張係数の差、及び硬化物の弾性率が大きな要因であり、硬化物の線膨張係数、及び弾性率を低下させることで抑制できると考えられている。
【0008】
この要求に対応すべく、従来では、硬化性樹脂組成物に無機充填材を大量に添加することにより硬化物の線膨張係数を低下させる方法が用いられてきた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2010/090246号パンフレット
【特許文献2】特開2004−172443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1で提案されている方法では、エポキシ樹脂組成物にゲル化性を付与できるが、プレゲル化剤を複合化したエポキシ樹脂組成物の硬化物は線膨張係数が高くなるため、耐クラック性の改良には効果がなかった。
【0011】
一方、特許文献2で提案されている方法では、耐クラック性に優れる硬化性樹脂組成物は得られるが、硬化するまでの温度上昇により粘度が顕著に低下することから、高精度な塗布・パターン形成が困難であった。
【0012】
従って、硬化性樹脂組成物のゲル化性付与及び硬化物の耐クラック性を満足する材料は、従来まで提案されていないのが実状であった。
【0013】
本発明の目的は、硬化性樹脂組成物への分散性に優れ、所定の温度で短時間の加熱によって速やかに硬化性樹脂組成物をゲル状態とし、さらに得られる硬化物の線膨張係数を低く、耐クラック性を良好なものとすることができるビニル重合体粉体、そのビニル重合体粉体を含有する硬化性樹脂組成物、その硬化物及びその硬化物を用いた半導体封止材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の事項により特定される。
【0015】
(1)ガラス転移温度が120℃以上で、質量平均分子量が10万以上のビニル重合体からなるビニル重合体粉体。
【0016】
(2)単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位を50質量%以上含有する(1)に記載のビニル重合体粉体。
【0017】
(3)単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位を50〜98質量%、その他の単量体単位を50〜2質量%含有する(1)に記載のビニル重合体粉体。
【0018】
(4)単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位を70質量%以上含有する(2)又は(3)に記載のビニル重合体粉体。
【0019】
(5)単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位のモル体積が150cm/mol以上である(2)〜(4)の何れかに記載のビニル重合体粉体。
【0020】
(6)単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位が、脂環式(メタ)アクリレート単位、メタクリル酸単位、シアン化ビニル単量体単位及びスチレン誘導体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である(2)〜(5)の何れかに記載のビニル重合体粉体。
【0021】
(7)単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体単位が、脂環式(メタ)アクリレート単位である請求項(6)に記載のビニル重合体粉体。
【0022】
(8)脂環式(メタ)アクリレート単位が、ジシクロペンタニルメタクリレート単位及びイソボルニルメタクリレート単位からなる群より選ばれる少なくとも1種である(7)に記載のビニル重合体粉体。
【0023】
(9)その他の単量体単位が、アルキル(メタ)アクリレート単位である(3)〜(8)の何れかに記載のビニル重合体粉体。
【0024】
(10)体積平均一次粒子径が0.2μm以上8μm以下である(1)〜(9)の何れかに記載のビニル重合体粉体。
【0025】
(11)アルカリ金属イオンの含有量が10ppm以下である(1)〜(10)の何れかに記載のビニル重合体粉体。
【0026】
(12)酸価が50mgKOH/g以下である(1)〜(11)の何れかに記載のビニル重合体粉体。
【0027】
(13)ビニル重合体粉体の10μm以下の粒子径の粒子の占める割合が30体積%未満であって、周波数42kHz、出力40Wの超音波を5分間照射した後に10μm以下の粒子径の粒子の占める割合が30体積%以上となる(1)〜(12)の何れかに記載のビニル重合体粉体。
【0028】
(14)(1)〜(13)に記載のビニル重合体粉体からなる硬化性樹脂用プレゲル化剤。
【0029】
(15)(1)〜(13)に記載のビニル重合体粉体及び硬化性樹脂を含有する硬化性樹脂組成物。
【0030】
(16)硬化性樹脂がエポキシ樹脂である(15)に記載の硬化性樹脂組成物。
【0031】
(17)(15)又は(16)に記載の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【0032】
(18)(15)又は(16)に記載の硬化性樹脂組成物を用いた半導体封止材料。
【発明の効果】
【0033】
本発明のビニル重合体粉体は、硬化性樹脂組成物への分散性に優れ、所定の温度で短時間の加熱によって速やかに硬化性樹脂組成物をゲル状態とし、さらに得られる硬化物の線膨張係数を低く、耐クラック性を良好なものとすることができる。また、本発明の硬化性樹脂組成物は所定の温度で短時間の加熱によって高いゲル化が可能である。また、本発明の硬化物は線膨張係数が低く、電気特性に優れる。このため、本発明のビニル重合体粉体は硬化性樹脂用プレゲル化剤に好適であり、さらに本発明の硬化性樹脂組成物及び本発明の硬化物は、半導体封止材料に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明のビニル重合体粉体は、ガラス転移温度が120℃以上で、質量平均分子量が10万以上のビニル重合体からなる。
【0035】
<ガラス転移温度>
ビニル重合体のガラス転移温度が120℃以上であれば、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の線膨張係数を低下させることができる。また、ビニル重合体のガラス転移温度は、線膨張係数を低下させる観点から、140℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることがさらに好ましい。さらに、ビニル重合体のガラス転移温度は、一定温度で効率的にゲル状態にできることから、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることが特に好ましい。
【0036】
本発明においてビニル重合体のガラス転移温度は、後述するガラス転移温度の測定法により得られたものをいう。
【0037】
ビニル重合体のガラス転移温度は、通常用いられる方法によって適宜制御することができる。例えば、重合に用いる単量体成分の種類、重合体を構成する単量体成分の構成比率、重合体の分子量等を適宜選択することで、ビニル重合体のガラス転移温度を所望の範囲に制御することができる。
【0038】
ガラス転移温度が120℃以上となるビニル重合体を得るためには、単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体を含む単量体混合物を重合すれば良い。単独重合体のガラス転移温度は、高分子学会編「高分子データハンドブック」等に記載されている標準的な分析値を採用することができる。また、単量体として、各原料メーカー市販品を使用する場合は、そのメーカーのカタログ等に開示されている単独重合体のガラス転移温度を採用することができる。
【0039】
<質量平均分子量>
ビニル重合体の質量平均分子量は10万以上である。ビニル重合体の質量平均分子量が10万以上であれば、少ない添加量で高いゲル化性を付与でき、高温においても硬化性樹脂の流動が抑制される。また、硬化性樹脂への溶解性が低下することがなく、短時間で充分なゲル状態にできることから、ビニル重合体の質量平均分子量は2000万以下であることが好ましい。
【0040】
ビニル重合体の質量平均分子量は、硬化性樹脂の粘度が極めて低い場合でも高いゲル化性を付与できることから、40万以上が好ましく、60万以上がより好ましく、80万以上がさらに好ましい。また、一定温度で効率的にゲル状態にできることから、1000万以下がより好ましく、500万以下が特に好ましく、200万以下が最も好ましい。
【0041】
質量平均分子量は、重合開始剤の種類、重合開始剤の量、重合温度、連鎖移動剤の量を変更することで、適宜調整することができる。
【0042】
本発明においてゲル状態は、後述する測定法により得られたゲル化温度及びゲル化性能で評価することができる。
【0043】
本発明において、質量平均分子量は後述する質量平均分子量の測定法により得られたものをいう。ビニル重合体粉体に不溶分がある場合は、後述する方法にてアセトン可溶分を得て、そのアセトン可溶分の質量平均分子量をビニル重合体の質量平均分子量とする。
【0044】
<体積平均粒子径>
本発明のビニル重合体粉体の体積平均一次粒子径(Dv)は0.2μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。体積平均一次粒子径(Dv)が0.2μm以上であれば、粒子が持つ総表面積を充分に小さくできるため、硬化性樹脂組成物の粘度が上昇しにくいという利点を持つ。
【0045】
また、ファインピッチ化や薄膜化への対応が可能であることから、ビニル重合体粉体の体積平均一次粒子径(Dv)は、8μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1.5μm以下が特に好ましい。
【0046】
体積平均一次粒子径(Dv)は、重合方法によって適宜調整することができ、例えば、乳化重合では〜0.25μm、ソープフリー乳化重合では〜1μm、微細懸濁重合では〜10μmとすることができる。乳化重合法で重合する場合には、乳化剤の量を変更することで、さらに調整することができる。
【0047】
本発明のビニル重合体粉体は、粉体としての性状や構造は問わない。例えば、重合で得られた一次粒子が多数集合して凝集粉体(二次粒子)を形成していてもよく、それ以上の高次構造を形成していても良い。但し、このような凝集粉体の場合、一次粒子同士が強固に結合せず、緩く凝集している状態が好ましい。これにより、硬化性樹脂中で一次粒子が微細、且つ均一に分散される。
【0048】
また、ビニル重合体粉体は、硬化性樹脂中での分散性が良好となることから、体積平均一次粒子径(Dv)の小さな粒子が少ないものが好ましく、単分散性の良好なものが好ましい。
【0049】
本発明において、ビニル重合体粉体の単分散性は、ビニル重合体粉体の体積平均一次粒子径(Dv)と個数平均一次粒子径(Dn)との比(Dv/Dn)で示される。ビニル重合体粉体のDv/Dnとしては3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましく、1.5以下が特に好ましい。ビニル重合体粉体の単分散性が高い(Dv/Dnが1に近い)ほど、硬化性樹脂組成物のゲル化が短時間で急速に進行し、硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性との両立がし易くなる傾向にある。
【0050】
<アルカリ金属イオン>
本発明のビニル重合体粉体中のアルカリ金属イオンの含有量は10ppm以下であることが好ましい。ビニル重合体粉体中のアルカリ金属イオンの含有量が10ppm以下であれば、硬化物の絶縁特性が優れたものとなる。ビニル重合体粉体中のアルカリ金属イオンの含有量は5ppm以下がより好ましく、1ppm以下が特に好ましい。
【0051】
硬化性樹脂組成物は様々な用途に用いられるが、半導体ウェハーに直接触れる用途では、特に高い電気特性が要求される。また電子機器の薄型化に伴い、僅かなイオン性不純物の存在が絶縁不良を生じる場合もある。従って、アルカリ金属イオンの含有量が上記の範囲内であれば、幅広い用途に使用できる。また、プレゲル化剤を多量に必要とする用途でも使用できる。
【0052】
本発明において、ビニル重合体粉体のアルカリ金属イオンの含有量は、Naイオン及びKイオンの合計量であり、後述するアルカリ金属イオンの含有量の測定法により得られたものをいう。
【0053】
<酸価>
本発明のビニル重合体粉体の酸価は50mgKOH/g以下であることが好ましく、40mgKOH/g以下であることがより好ましく、30mgKOH/g以下であることが特に好ましい。ビニル重合体粉体の酸価が50mgKOH/g以下であれば、硬化物の絶縁特性が優れたものとなる。
【0054】
本発明において、ビニル重合体粉体の酸価は、後述する酸価測定法により得られたものをいう。
【0055】
<硫酸イオン>
本発明のビニル重合体粉体中の硫酸イオン(SO2−)の含有量は20ppm以下であることが好ましい。電子材料に用いる硬化性樹脂組成物は、銅やアルミニウム等の金属製のワイヤーや回路配線等と接触する環境で用いられることから、硫酸イオンが残存すると金属腐食を引き起こし、導通不良や誤動作の原因となる場合がある。ビニル重合体粉体中の硫酸イオンの含有量が20ppm以下であれば、幅広い用途に使用できる。
【0056】
本発明のビニル重合体を得るため、乳化重合法や懸濁重合法でビニル単量体を重合する場合、硫酸塩以外に、硫酸エステルやスルホン酸化合物等を用いることがある。これらの化合物に含まれる、スルホン酸イオン、スルフィン酸イオン、硫酸エステルイオンも、金属腐食を引き起こす場合がある。
【0057】
従って、ビニル単量体の重合時には、硫酸エステルやスルホン酸化合物等の使用量を減らすことが好ましい。
【0058】
<アセトン可溶分量>
本発明のビニル重合体粉体のアセトン可溶分量は特に限定されないが、30質量%以上であることが好ましい。ビニル重合体粉体のアセトン可溶分が30質量%以上であれば、硬化性樹脂組成物により充分なゲル化性を付与することができ、高温においても硬化性樹脂組成物の流動が抑制される。
【0059】
ビニル重合体粉体のアセトン可溶分は、硬化性樹脂の粘度が極めて低い場合でも高いゲル化性を付与できることから、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上が特に好ましく、80質量%以上が最も好ましい。特に、低粘度で使用される用途では、少ない添加量で高いゲル化性を付与できることが要求されるため、アセトン可溶分が多いほど幅広い用途に使用できる。
【0060】
本発明において、アセトン可溶分は、後述するアセトン可溶分の測定法により得られたものをいう。
【0061】
<重合>
本発明のビニル重合体粉体は、例えば、ラジカル重合可能なビニル重合体を重合し、得られた重合体のエマルションを粉体として回収することにより製造される。
【0062】
ビニル重合体の重合方法としては、真球状粒子を得やすいこと、及び粒子モルフォロジーを制御しやすいことから、乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、膨潤重合法、ミニエマルション重合法、分散重合法及び微細懸濁重合法が好ましい。この中でも、分散性に優れ、ファインピッチ化にも対応した粒子径を持つ重合体が得られることから、ソープフリー乳化重合法、微細懸濁重合法がより好ましく、ソープフリー乳化重合法が特に好ましい。
【0063】
本発明のビニル重合体は、硬化性樹脂組成物の粘度が上昇せず流動性に優れることから、真球状の粒子が好ましい。
【0064】
ビニル重合体(一次粒子)の内部モルフォロジーについては特に限定されるものではなく、重合体組成、分子量、ガラス転移温度、溶解度パラメーター等の各種因子が均一であっても、コアシェル構造やグラディエント構造等、一般的に認識されている様々な粒子モルフォロジーを有していてもよい。
【0065】
ビニル重合体の内部モルフォロジーを制御する方法としては、例えば、粒子の内側と外側で溶解度パラメーターや分子量の異なる多層構造粒子にする方法が挙げられる。この方法は、硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性(ポットライフ)とゲル化速度とを両立し易くなることから好ましい。
【0066】
ビニル重合体の内部モルフォロジーを制御するための、工業的に実用性の高い手法としては、例えば、異なる組成のビニル単量体混合物を多段階で、逐次的に滴下重合する方法が挙げられる。
【0067】
ビニル重合体がコアシェル構造を有しているかどうかの判定方法としては、例えば、重合過程でサンプリングされる重合体粒子の粒子径が確実に成長していること、及び重合過程でサンプリングされる重合体粒子の最低造膜温度(MFT)や各種溶剤への溶解度が変化していることを、同時に満足することを確認することが挙げられる。また、透過型電子顕微鏡(TEM)によりビニル重合体の切片を観察して、同心円状の構造の有無を確認する方法、又は凍結破断されたビニル重合体の切片を走査型電子顕微鏡(クライオSEM)で観察して、同心円状の構造の有無を確認する方法が挙げられる。
【0068】
<単独重合体のガラス転移温度が120℃以上の単量体>
ビニル重合体としては、ラジカル重合可能なビニル単量体を用いる。ガラス転移温度が120℃以上となるビニル重合体粉体を得るためには、単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体を含む単量体混合物を重合すれば良い。このとき、単独重合体のガラス転移温度が300℃以下の単量体を用いることが好ましく、250℃以下の単量体を用いることがより好ましい。単独重合体のガラス転移温度が300℃以下のものを用いることで、一定温度で効率的にゲル状態にできる。
【0069】
単独重合体のガラス転移温度が120℃以上であるビニル単量体としては、例えば、ジシクロペンテニルアクリレート(Tg:120℃)、ジシクロペンテニルメタクリレート(Tg:175℃)、ジシクロペンタニルアクリレート(Tg:120℃)、ジシクロペンタニルメタクリレート(Tg:175℃)、イソボルニルメタクリレート(Tg:150℃)等の脂環式(メタ)アクリレート;メタクリル酸(Tg:228℃);アクリロニトリル(Tg:125℃)、メタクリロニトリル(Tg:120℃)等のシアン化ビニル単量体;2−メチルスチレン(Tg:136℃)、t−ブチルスチレン(Tg:149℃)、4−tert−ブチルスチレン(Tg:131℃)等のスチレン誘導体が挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0070】
さらに、これらの単量体中でも、単量体単位のモル体積が150cm/mol以上であるビニル単量体を用いることが好ましい。本発明において、単量体単位のモル体積は、Jozef.Bicerano(文献:J.Bicerano,Prediction of Polymer Properties,3rd,Marcel Dekker(2002))の方法で求めることができる。
【0071】
単量体単位のモル体積が150cm/mol以上であるビニル単量体としては、例えば、ジシクロペンテニルメタクリレート(205cm/mol)、イソボルニルメタクリレート(205cm/mol)等が挙げられる。
【0072】
これらの単量体の中でも、ラジカル重合が容易であり且つ乳化重合、微細懸濁重合が容易であることから、脂環式(メタ)アクリレートが好ましい。さらに、これらの単量体の中でも、単独重合体のガラス転移温度が高く、硬化物の線膨張係数低下効果に優れることから、ジシクロペンタニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレートが好ましい。
【0073】
尚、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を示す。
【0074】
単量体混合物中の、単独重合体のガラス転移温度が120℃以上であるビニル単量体の含有量(即ち粉体を構成するビニル重合体中の当該単量体単位の含有量)は、硬化物の線膨張係数低下効果の観点から、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が特に好ましく、88質量%以上が最も好ましい。また、以下に説明するその他の単量体を使用する場合、単独重合体のガラス転移温度が120℃以上であるビニル単量体の含有量は、50〜98質量%が好ましい。
【0075】
<その他の単量体>
単量体混合物は、ビニル重合体粉体のガラス転移温度が120℃以上となる範囲であれば、必要に応じて、単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体以外のその他の単量体を含んでもいてもよい。
【0076】
その他の単量体としては、ラジカル重合可能なビニル単量体であれば特に限定されない。
【0077】
その他の単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の官能基含有(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド;ビニルピリジン、ビニルアルコール、ビニルイミダゾール、ビニルピロリドン、酢酸ビニル、1−ビニルイミダゾール等のビニル単量体;モノメチルイタコネート、モノエチルイタコネート等のイタコン酸エステル;モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、モノプロピルフマレート、モノブチルフマレート等のフマル酸エステル;及びモノメチルマレート、モノエチルマレート、モノプロピルマレート、モノブチルマレート等のマレイン酸エステルが挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0078】
これらの単量体の中では、アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。また、ラジカル重合が容易であり、且つ乳化重合、微細懸濁重合が容易であることから、アルキル(メタ)アクリレート、官能基含有(メタ)アクリレートが好ましい。さらに、重合安定性に優れることから、炭素数1〜4のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ビニル重合体粉体のガラス転移温度の低下が小さいことから、炭素数1〜4のアルキルメタクリレートがより好ましい。
【0079】
単量体混合物は、必要に応じて、架橋性単量体を含んでもよい。架橋性単量体としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン、多官能(メタ)アクリル基変性シリコーンが挙げられる。これらの架橋性単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
尚、塩化ビニルや塩化ビニリデンのようなハロゲン原子を含有する単量体は、金属腐食を引き起こす場合があることから、用いないことが好ましい。
【0081】
単量体混合物中の、単独重合体のガラス転移温度が120℃以上である単量体以外のその他の単量体の含有量(即ち粉体を構成するビニル重合体中のその他の単量体単位の含有量)は、硬化物の線膨張係数低下効果の観点から、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、12質量%以下が最も好ましい。また、重合安定性、粒子径制御の観点から、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。
【0082】
<その他の成分>
本単量体を重合する際には、重合開始剤、乳化剤、分散安定剤、連鎖移動剤を用いることができる。
【0083】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス−(2−メチルプロピオネート)等の油溶性アゾ化合物;4,4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(2−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]又はその塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]又はその塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]又はその塩、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}又はその塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)又はその塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)又はその塩、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]又はその塩等の水溶性アゾ化合物;及び過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、ラウロイルパーオキサイド、プロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パーメンタハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート等の有機過酸化物が挙げられる。重合開始剤は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0084】
これらの中では、アルカリ金属イオンを含有しない重合開始剤が好ましく、過硫酸アンモニウム及びアゾ化合物がより好ましい。また、塩化物イオンを含有しないアゾ化合物を過硫酸アンモニウムと併用することが、ビニル重合体粉体中の硫酸イオン(SO2−)の含有量を低減できることからさらに好ましい。
【0085】
また、本発明の目的を逸脱しない範囲で、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、L−アスコルビン酸、フルクトース、デキストロース、ソルボース、イノシトール等の還元剤と、硫酸第一鉄、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、過酸化物を組み合わせたレドックス系開始剤を用いることができる。
【0086】
乳化剤としては、例えば、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、ベタイン系乳化剤、高分子乳化剤及び反応性乳化剤が挙げられる。
【0087】
アニオン系乳化剤としては、例えば、アルキルスルホン酸ナトリウム等のアルキルスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルリン酸カリウム等のアルキルリン酸エステル塩;アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸アンモニウム等のジアルキルスルホコハク酸塩が挙げられる。
【0088】
カチオン系乳化剤としては、例えば、ステアリルアミン酢酸塩、ココナットアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、オクタデシルアミン酢酸塩等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルメチルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0089】
ノニオン系乳化剤としては、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノミリステート、ソルビタンモノベヘネート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリイソステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート等のポリオキシエチレンアルキルエステル;ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等のポリオキシアルキレン誘導体が挙げられる。
【0090】
ベタイン系乳化剤としては、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン等のアルキルベタイン;ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアルキルアミンオキサイドが挙げられる。
【0091】
高分子乳化剤としては、例えば、高分子カルボン酸ナトリウム塩、高分子ポリカルボン酸アンモニウム塩、高分子ポリカルボン酸が挙げられる。
【0092】
反応性乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシアルキレンアルケニルエーテルが挙げられる。
【0093】
これらの乳化剤は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0094】
これらの中では、アルカリ金属イオンを含有しない乳化剤が好ましく、ジアルキルスルホコハク酸塩及びポリオキシアルキレン誘導体がより好ましい。また、ジアルキルスルホコハク酸塩とポリオキシアルキレン誘導体を併用することが、スルホン酸化合物等の使用量を低減できることからさらに好ましい。
【0095】
分散安定剤としては、例えば、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、澱粉末シリカ等の水難溶性無機塩;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、セルロース誘導体等のノニオン系高分子化合物;及びポリアクリル酸又はその塩、ポリメタクリル酸又はその塩、メタクリル酸エステルとメタクリル酸又はその塩との共重合体等のアニオン系高分子化合物が挙げられる。これらの中では、電気特性に優れることからノニオン系高分子化合物が好ましい。また、重合安定性との両立の観点から目的に応じて2種以上の分散安定剤を併用することができる。
【0096】
本発明のビニル重合体を得る重合の際に、必要に応じて連鎖移動剤を用いてもよい。
【0097】
連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン等のメルカプタン;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;及びα−メチルスチレンダイマーが挙げられる。
【0098】
これらの連鎖移動剤は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0099】
<粉体回収>
本発明のビニル重合体粉体は、例えば、得られたビニル重合体のエマルションを粉体として回収することにより製造される。
【0100】
ビニル重合体のエマルションを粉体化する方法としては、公知の粉体化方法を用いることができる。例えば、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、凝固法が挙げられる。これらの粉体化方法の中でも、樹脂中でのビニル重合体の分散性に優れることから、噴霧乾燥法が好ましい。
【0101】
噴霧乾燥法は、ラテックスを微小液滴状に噴霧し、これに熱風を当てて乾燥するものである。微小液滴を発生させる方法としては、例えば、回転ディスク式、加圧ノズル式、二流体ノズル式、加圧二流体ノズル式が挙げられる。乾燥機容量は、特に制限はなく、実験室で用いるような小規模なスケールから、工業的に用いるような大規模なスケールまで、いずれも用いることができる。乾燥機における乾燥用加熱ガスの供給部である入口部、乾燥用加熱ガス及び乾燥粉末の排出口である出口部の位置も、特に制限はなく、通常用いる噴霧乾燥装置と同様でよい。装置内に導入する熱風の温度(入口温度)、即ちビニル重合体に接触し得る熱風の最高温度は、得られる硬化性樹脂組成物中のビニル重合体粉体の分散性に優れることから、100〜200℃であることが好ましく、120〜180℃であることがより好ましい。
【0102】
噴霧乾燥の際のビニル重合体のラテックスは、1種を単独で用いても、複数のラテックスを混合して用いてもよい。また、噴霧乾燥時のブロッキング、嵩比重等の粉体特性を向上させるために、シリカ、タルク、炭酸カルシウム等の無機質充填剤や、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等を添加してもよい。
【0103】
また、必要に応じて、酸化防止剤や添加剤等を加えて噴霧乾燥してもよい。
【0104】
<粉体解砕性>
本発明のビニル重合体粉体は、10μm以下の粒子径の粒子の占める割合が30体積%未満であることが好ましく、ハンドリング性の観点から、20体積%以下であることが好ましい。ここで、ビニル重合体粉体の粒子径とは、噴霧乾燥法や湿式凝固法等によって得られた凝集体の粒子径を意味する。このとき、ビニル重合体粉体の一次粒子同士は多数集合して凝集体を形成している。
【0105】
本発明のビニル重合体粉体は一次粒子同士が強固に結合せず、緩く凝集している状態を有していることが好ましく、周波数42kHz、出力40wの超音波を5分間照射した後に、10μm以下の粒子径の粒子の占める割合が30体積%以上となることが好ましい。さらに、10μm以下の粒子径の粒子の占める割合は、超音波照射前より超音波照射後が10体積%以上増加することが好ましい。
【0106】
上記の超音波の照射は、得られたビニル重合体粉体をイオン交換水で希釈して行うものであり、例えばレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(島津製作所社製、「SALD−7100」)を用いて、3分間超音波を照射後、粒子径10μm以下の粒子の割合を体積基準で測定する。
【0107】
ビニル重合体粉体の試料濃度は、装置に付属の散乱光強度モニターにおいて適正範囲となるよう適宜調整した。
【0108】
<硬化性樹脂>
本発明のビニル重合体粉体は、例えば、硬化性樹脂に添加して使用することができる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂及び活性エネルギー線硬化性樹脂が挙げられる。
【0109】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、オキセタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂及びポリイミド樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0110】
活性エネルギー線硬化性樹脂としては、紫外線や電子線等の照射により硬化する樹脂が挙げられ、例えば、活性エネルギー線硬化性アクリル樹脂、活性エネルギー線硬化性エポキシ樹脂及び活性エネルギー線硬化性オキセタン樹脂が挙げられる。
【0111】
また、本発明においては、硬化性樹脂として、目的に応じて熱硬化と活性エネルギー線硬化のハイブリッド硬化(デュアルキュア)タイプのものを使用することができる。
【0112】
これらの中で硬化性樹脂としては、絶縁性が高く電気特性に優れ電子材料分野に好適であることから、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂及びオキセタン樹脂が好ましい。
【0113】
エポキシ樹脂としては、例えば、JER827、JER828、JER834(三菱化学(株)製)、RE−310S(日本化薬(株)製)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂;JER806L(三菱化学(株)製)、RE303S−L(日本化薬(株)製)等のビスフェノールF型エポキシ樹脂;HP−4032、HP−4032D(大日本インキ化学(株)製)等のナフタレン型エポキシ樹脂;NC−3000(日本化薬(株)製)、YX4000(三菱化学(株)製)等のビフェニル型エポキシ樹脂;YDC−1312、YSLV−80XY、YSLV−120TE(東都化成(株)製)等の結晶性エポキシ樹脂;YX8000(三菱化学(株)製)等の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、CEL2021P(ダイセル化学工業(株)製)等の脂環式エポキシ樹脂;EPPN−501H、EPPN−501HY、EPPN−502H(日本化薬(株)製)等の耐熱性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0114】
その他にも、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0115】
また、エポキシ樹脂としては、上記エポキシ樹脂のプレポリマーや、ポリエーテル変性エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂のような前記エポキシ樹脂と他の重合体との共重合体及びエポキシ樹脂の一部がエポキシ基を有する反応性希釈剤で置換されたものも挙げられる。
【0116】
反応性希釈剤としては、例えば、レゾルシングリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、1−(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3,3−ペンタメチルシロキサン、N−グリシジル−N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン等のモノグリシジル化合物;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等のジグリシジル化合物;及び2−(3,4)−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のモノ脂環式エポキシ化合物が挙げられる。
【0117】
これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0118】
本発明においては、エポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂組成物にゲル化性を付与する点で、常温で液体のエポキシ樹脂か、又は常温で固体であるが加熱時に硬化が充分に進行する前に液体化するエポキシ樹脂を主成分とするものが好ましい。
【0119】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物を液状封止材として使用する場合は、好適なエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタンジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、4,4’−ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、1,6−ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化クレゾールノボラック型エポキシ樹脂及びビスフェノールD型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0120】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、前述のビニル重合体粉体及び硬化性樹脂を含有するものである。
【0121】
硬化性樹脂組成物中のビニル重合体粉体の配合量としては1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が特に好ましく、10質量%以上が最も好ましい。ビニル重合体粉体の配合量が1質量%以上で充分なゲル状態を実現することができ、用途・加工方法による染み出しやパターン乱れ等が生じる可能性を抑制することができる。また、ビニル重合体粉体の配合量としては50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。ビニル重合体粉体の配合量が50質量%以下で硬化性樹脂組成物のペースト粘度が上昇するのを抑制し、用途によって加工性・作業性が低下する可能性を抑制することができる。
【0122】
また、所望のゲル化性を発現させるために、ゲル化温度の異なる複数のビニル重合体粉体を併用してもよい。
【0123】
本発明の硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、各種添加剤を配合することができる。
【0124】
添加剤として、例えば、銀粉、金粉、ニッケル粉、銅粉等の導電性フィラー;窒化アルミニウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ等の絶縁フィラー;チキソ付与剤、流動性向上剤、難燃剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、イオン吸着体、カップリング剤、離型剤及び応力緩和剤が挙げられる。
【0125】
難燃剤は、本発明の目的を逸脱しない範囲であれば、リン系、ハロゲン系、無機系難燃剤等、公知のものを用いればよい。
【0126】
耐熱安定剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は、それぞれ単独で使用できるが、フェノール系/イオウ系、又はフェノール系/リン系のように2種以上を併用することが好ましい。
【0127】
本発明の硬化性樹脂組成物を調製する際には、公知の混練装置を用いることができる。硬化性樹脂組成物を得るための混練装置としては、例えば、らいかい機、アトライタ、プラネタリミキサ、ディゾルバー、三本ロール、ボールミル及びビーズミルが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0128】
本発明の硬化性樹脂組成物に添加剤等を配合する場合、配合する順番は特に問わないが、本発明の効果を充分に発揮するために、ビニル重合体粉体はできるだけ最後に混練することが好ましい。また、混練による剪断発熱等で系内の温度が上がるような場合には、混練中に温度を上げない工夫をすることが好ましい。
【0129】
本発明の硬化性樹脂組成物は、一次実装用アンダーフィル材、二次実装用アンダーフィル材、ワイヤーボンドにおけるグラブトップ材等の液状封止材;基板上の各種チップ類を一括で封止する封止用シート;プレディスペンス型のアンダーフィル材;ウエハーレベルで一括封止する封止シート;3層銅張積層板用の接着層;ダイボンドフィルム、ダイアタッチフィルム、層間絶縁フィルム、カバーレイフィルム等の接着層;ダイボンドペースト、層間絶縁ペースト、導電ペースト、異方導電ペースト等の接着性ペースト;発光ダイオードの封止材;光学接着剤;液晶、有機EL等の各種フラットパネルディスプレイのシーリング材等の各種用途に使用することができる。
【0130】
<硬化物>
本発明においては、硬化性樹脂組成物中の硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を使用する場合、例えば、酸無水物、アミン化合物、フェノール化合物等の硬化剤を使用して硬化させることができる。硬化剤を使用することによりエポキシ樹脂の硬化性及び硬化物特性を調整することができ、特に、硬化剤として酸無水物を使用する場合、本硬化物の耐熱性や耐薬品性を向上させることができ、好ましい。
【0131】
酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルハイミック酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、ドデセニル無水コハク酸、ポリアゼライン酸無水物及びポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物が挙げられる。これらの中で、耐候性、耐光性、耐熱性等が求められる用途ではメチルヘキサヒドロ無水フタル酸及びヘキサヒドロ無水フタル酸が好ましい。
【0132】
アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、m−キシレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン等の脂肪族ポリアミン;イソホロジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、メチレンビスシクロヘキサナミン、ノルボルネンジアミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、2,5(2,6)−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン等の脂環族ポリアミン;ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジアミノフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジエチルトルエン等の芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0133】
耐候性、耐光性、耐熱性等が求められる用途では2,5(2,6)−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン及びイソホロンジアミンが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0134】
フェノール化合物としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD及びこれらビスフェノール類のジアリル化物の誘導体が挙げられる。これらの中で、機械強度及び硬化性に優れることからビスフェノールAが好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0135】
硬化剤の使用量としては、硬化物の耐熱性及び硬化性に優れることからエポキシ樹脂100質量部に対して20〜120質量部が好ましく、60〜110質量部がより好ましい。硬化剤の使用量としては、当量比としては、エポキシ基1当量あたり、酸無水物の場合には、酸無水物基が好ましくは0.7〜1.3当量、より好ましくは0.8〜1.1当量程度であり、アミン系化合物の場合には、活性水素が好ましくは0.3〜1.4当量、より好ましくは0.4〜1.2当量程度、フェノール化合物の場合には、活性水素が好ましくは0.3〜0.7当量、より好ましくは0.4〜0.6当量程度である。
【0136】
本発明においては、エポキシ樹脂を硬化させる際に、必要に応じて硬化促進剤、潜在性硬化剤等を使用することができる。
【0137】
硬化促進剤としては、エポキシ樹脂の熱硬化触媒として用いられている公知のものを使用することができ、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;イミダゾール化合物とエポキシ樹脂のアダクト;トリフェニルホスフィン等の有機リン化合物;テトラフェニルホスフィンテトラフェニルボレート等のボレート類;及びジアザビシクロウンデセン(DBU)が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0138】
硬化促進剤が使用される場合、硬化促進剤は、通常、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1〜8質量部、好ましくは0.5〜6質量部が添加される。
【0139】
潜在性硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、カルボヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジヒドラジド、ヘキサデカンジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド、4,4’−ビスベンゼンジヒドラジド、1,4−ナフトエ酸ジヒドラジド、アミキュアVDH及びアミキュアUDH(いずれも商品名、味の素(株)製)、クエン酸トリヒドラジド等の有機酸ヒドラジド及び各種のアミンアダクト系化合物が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0140】
本発明においては、硬化性樹脂組成物中の硬化性樹脂としてオキセタン樹脂を使用する場合、例えば、酸無水物等の硬化剤、又は、熱によりオキセタン環の開環及び重合を開始させることができる硬化触媒を配合して硬化させることができる。オキセタン樹脂としては、例えば、EHO、OXBP、OXMA、OXTP(宇部興産(株)製)が挙げられる。
【0141】
硬化剤又は硬化触媒の使用量は、エポキシ樹脂の場合と同様である。また、オキセタン樹脂にエポキシ樹脂を併用してもよい。
【0142】
本発明の硬化物は硬化性樹脂組成物を硬化して得られるものである。
【0143】
硬化性樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合、硬化条件としては、例えば、80〜180℃で10分〜5時間程度である。
【0144】
また、硬化性樹脂として活性エネルギー線硬化性樹脂を使用する場合、使用する活性エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線、ガンマ線及び赤外線が挙げられる。また、活性エネルギー線の硬化条件としては、紫外線で硬化させる場合、高圧水銀灯、エキシマランプ、メタルハライドランプ等を備えた公知の紫外線照射装置を使用することができる。
【0145】
紫外線照射量としては50〜1,000mJ/cm程度である。電子線で硬化させる場合、公知の電子線照射装置を使用することができ、電子線照射量としては10〜100kGy程度である。
【実施例】
【0146】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において、「部」は「質量部」を示す。
【0147】
本実施例における各評価項目は、以下の方法により実施した。
【0148】
(1)エマルション粒子径及び単分散性
ビニル重合体エマルションをイオン交換水で希釈し、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(島津製作所社製、「SALD−7100」)を用い、エマルション粒子径として体積平均一次粒子径(Dv)及び個数平均一次粒子径(Dn)を測定した。
【0149】
屈折率は仕込みモノマー組成から算出される屈折率を用いた。
【0150】
いずれも平均径としてはメジアン径を用いた。また、Dv及びDnの値より単分散性(Dv/Dn)を求めた。
【0151】
ビニル重合体エマルションの試料濃度は、装置に付属の散乱光強度モニターにおいて適正範囲となるよう適宜調整した。
【0152】
(2)アセトン可溶分
ビニル重合体粉体1gをアセトン50gに溶解させ、70℃で6時間還流及び抽出した後、遠心分離装置((株)日立製作所製、「CRG SERIES」)を用いて、4℃にて14,000rpmで30分間遠心分離した。分離したアセトン可溶分をデカンテーションで取り除き、アセトン不溶分を真空乾燥機にて50℃で24時間乾燥させて質量を測定した。アセトン可溶分(質量%)は以下の式にて算出した。
(アセトン可溶分)=(1−アセトン不溶分の質量)×100
【0153】
(3)分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用いて、下記の条件でビニル重合体の質量平均分子量(Mw)を測定した。また、併せて数平均分子量(Mn)も測定した。
装置 :東ソー(株)製HLC8220
カラム:東ソー(株)製TSKgel SuperHZM−M(内径4.6mm×長さ15cm)、本数;4本、排除限界;4×10
温度 :40℃
キャリアー液:テトラヒドロフラン
流量 :0.35ml/分
サンプル濃度 :0.1質量%
サンプル注入量:10μl
標準 :ポリスチレン。
【0154】
(4)アルカリ金属イオンの含有量
ビニル重合体粉体20gをガラス製耐圧容器に量り取り、これにメスシリンダーを用いてイオン交換水200mlを加え、蓋をして強く振り混ぜて均一に分散させ、ビニル重合体粉体の分散液を得た。この後、得られた分散液を95℃のギヤーオーブン内に20時間静置してビニル重合体粉体中のイオン分の抽出を行なった。
【0155】
次いで、ガラス容器をオーブンから取り出して冷却した後、分散液を0.2μmセルロース混合エステル製メンブレンフィルター(アドバンテック東洋(株)製、型番:A020A025A)で濾過し、濾液100mlを用いてビニル重合体粉体中のアルカリ金属イオンを下記の条件で測定した。尚、アルカリ金属イオンの含有量はNaイオン及びKイオンの合計量を測定した。
ICP発光分析装置:Thermo社製、IRIS「Intrepid II XSP」
定量法:濃度既知試料(0ppm、0.1ppm、1ppm及び10ppmの4点)による絶対検量線法
測定波長:Na;589.5nm及びK;766.4nm。
【0156】
(5)ガラス転移温度(Tg)
JIS−K7121に準じて、PERKIN−ELMER社製、「Diamond−DSC」を用いて、ビニル重合体のガラス転移温度(Tg)を測定した。2nd−run(昇温)において中間点ガラス転移温度の数値をTgとして用いた。
試料量:10mg
昇温速度:5℃/分
温度範囲:0〜200℃ (昇温、冷却、昇温)
環境条件:窒素気流下。
【0157】
(6)酸価
ビニル重合体粉体1gを、溶剤100ml(アセトン/エタノール=50/50体積%)に溶解させた。これを0.2規定の水酸化カリウム(KOH)−エタノール溶液で滴定し、ビニル重合体粉体1gを中和するのに必要なKOHのmg数(酸価)を下記式(1)より算出した。
【0158】
酸価(mgKOH/g)=A×0.2×f×56.1/ビニル重合体粉体質量(g)・・・(1)
ただし、Aを滴定量(ml)、fを水酸化カリウム溶液の力価とする。
【0159】
(7)粉体解砕性
ビニル重合体粉体をイオン交換水で希釈し、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(島津製作所社製、「SALD−7100」)を用いて、超音波照射(周波数42kHz、出力40W、3分間照射)前後の10μm以下の粒子の割合を体積基準で測定した。
【0160】
(8)分散性
エポキシ樹脂組成物中のビニル重合体粉体の分散状態を、粒ゲージを用いてJIS K−5600に準拠して測定し、下記の基準で分散性を評価した。
◎:2μm以下
○:2μmを超え、10μm以下
エポキシ樹脂組成物中でのビニル重合体粉体の分散状態が10μm以下であれば、ファインピッチ化や薄膜化への対応が可能である。
【0161】
(9)ゲル化温度
エポキシ樹脂組成物を動的粘弾性測定装置(ユービーエム(株)製、「Rheosol
G−3000」、パラレルプレート直径40mm、ギャップ0.4mm、周波数1Hz、捻り角度1度)を用い、開始温度40℃、終了温度200℃及び昇温速度4℃/分の条件で粘弾性の温度依存性を測定した。
【0162】
また、測定開始時に10以上である、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”との比(G”/G’=tanδ)がある温度にて、10を下回るようになった場合にゲル化が進行したと判断し、tanδ=10となる温度をもってゲル化温度とした。
【0163】
(10)ゲル化性能
上記のエポキシ樹脂組成物のゲル化温度の測定において、ゲル化温度−20℃での貯蔵弾性率G’をG’、ゲル化温度+20℃での貯蔵弾性率G’をG’(到達弾性率)とし、その比率(G’/G’)を求めて、下記の基準でゲル化性能を評価した。
○:G’/G’が100以上
△:G’/G’が100未満。
【0164】
G’/G’が100以上であれば、高温においても硬化性樹脂の流動が抑制される。
【0165】
(11)線膨張係数
エポキシ樹脂組成物の硬化物の試験片(長さ7mm、幅7mm及び厚さ3mm)を180℃で6時間アニールした後、温度23℃及び湿度50%下にて24時間以上調湿した後、TMA/SS6100(セイコーインスツル(株)製)を用いて、昇温速度2℃/分、荷重10mNの条件で測定した線膨張曲線の屈曲点から、ガラス転移温度を求めた。
【0166】
また、ガラス転移温度以下での線膨張曲線の傾きと、ガラス転移温度以上での線膨張曲線の傾きから、それぞれ平均線膨張係数(以下、前者をα1、後者をα2という。)を求めた。
【0167】
(12)比誘電率
エポキシ樹脂組成物の硬化物の試験片(長さ30mm、幅30mm及び厚さ3mm)を180℃で6時間アニールした後、温度23℃及び湿度50%下にて24時間以上調湿した後、誘電率測定装置(アジレント・テクノロジー(株)製、「4291B RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ」)、誘電率測定用電極(アジレント・テクノロジー(株)製、「16453A」)、マイクロメータ((株)ミツトヨ製)を用いて、周波数1GHzにおける比誘電率の値を測定し、以下の指標で評価した。
○:2.9以下
△:2.9を超え、3.0以下
×:3.0を超える
比誘電率が3.0以下であれば、絶縁性に優れ、電子材料分野に好適である。
【0168】
(13)誘電正接
エポキシ樹脂組成物の硬化物の試験片(長さ30mm、幅30mm及び厚さ3mm)を180℃で6時間アニールした後、温度23℃及び湿度50%下にて24時間以上調湿した後、誘電率測定装置誘電率測定装置(アジレント・テクノロジー(株)製、「4291B RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ」)、誘電率測定用電極(アジレント・テクノロジー(株)製、「16453A」)、マイクロメータ((株)ミツトヨ製)を用いて、周波数1GHzにおける誘電正接の値を測定し、以下の指標で評価した。
○:0.010以下
×:0.010を超える
[ビニル重合体(1)〜(7)の調製]
下記の実施例1〜5、比較例1、2に従い、ビニル重合体粉体(1)〜(7)を製造した。実施例1〜5、比較例1、2では下記の原料を使用した。
【0169】
メチルメタクリレート:三菱レイヨン(株)製、商品名「アクリエステルM」
n−ブチルメタクリレート:三菱レイヨン(株)製、商品名「アクリエステルB」
ジシクロペンタニルメタクリレート:日立化成工業(株)製、商品名「FA−513M」
イソボルニルメタクリレート:三菱レイヨン(株)製、商品名「アクリエステルIBX」
メタクリル酸:三菱レイヨン(株)製、商品名「アクリエステルMAA」
ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸アンモニウム:東邦化学工業(株)製、商品名「リカコールM−300」
1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート:日本油脂(株)製、商品名「パーオクタO」
【0170】
<実施例1>
ビニル重合体粉体(1)の製造
マックスブレンド攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたセパラブルフラスコにイオン交換水78.00部、メチルメタクリレート2.80部、及びn−ブチルメタクリレート2.20部を投入し、120rpmで攪拌しながら窒素ガスのバブリングを30分間行なった。
【0171】
その後、窒素雰囲気下で80℃に昇温し、予め調製した過硫酸アンモニウム0.04部及びイオン交換水2.00部の水溶液を一括投入して60分間保持し、シード粒子を形成させた。
【0172】
上記のシード粒子が形成されたフラスコ内に、ジシクロペンタニルメタクリレート65.30部、及びメチルメタクリレート29.70部、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸アンモニウム0.30部及びイオン交換水50.00部をホモジェナイザー(IKA社製、「ウルトラタラックスT−25」、25000rpm)で乳化処理して得られた混合物を300分かけて滴下して、その後1時間保持し、重合を終了した。得られたビニル重合体エマルションのエマルション粒子径の評価結果を表1に示す。
【0173】
得られたビニル重合体エマルションを、大川原化工機(株)製、L−8型スプレードライヤーを用い、下記条件で噴霧乾燥処理してビニル重合体粉体(1)を得た。得られたビニル重合体粉体のアセトン可溶分、分子量(Mw、Mn)、アルカリ金属イオンの含有量、ガラス転移温度(Tg)、酸価及び粉体解砕性の評価結果を表1に示す。
[噴霧乾燥処理条件]
噴霧方式:回転ディスク式
ディスク回転数:25,000rpm
熱風温度
入口温度:145℃
出口温度:65℃
<実施例2〜4、比較例1及び2>
ビニル重合体粉体(2)、(3)、(4)、(6)及び(7)の製造
表1に示す原料組成とする以外は、実施例1と同様にしてビニル重合体粉体(2)、(3)、(4)、(6)及び(7)を得た。得られた重合体エマルションのエマルション粒子径の評価結果を表1に示す。得られたビニル重合体粉体のアセトン可溶分、分子量(Mw、Mn)、アルカリ金属イオンの含有量、ガラス転移温度(Tg)、酸価及び粉体解砕性の評価結果を表1に示す。
【0174】
<実施例5>
ビニル重合体粉体(5)の製造
マックスブレンド攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、滴下ポンプ及び窒素導入管を備えたセパラブルフラスコにイオン交換水140.00部を投入し、120rpmで攪拌しながら窒素ガスのバブリングを30分間行なった後、窒素雰囲気下で80℃に昇温した。
【0175】
次いで、ジシクロペンタニルメタクリレート100.00部、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸アンモニウム0.30部、「パーオクタO」0.20部、イオン交換水50.00部を、ホモジェナイザー(IKA社製「ウルトラタラックスT−25」、25000rpm)で乳化処理して得られた混合物を、反応容器に一括投入して300分間保持し、ビニル重合体エマルションを得た。得られたビニル重合体エマルションの粒子径の評価結果を表1に示す。
【0176】
得られたビニル重合体エマルションは、実施例1と同様に噴霧乾燥処理して、ビニル重合体粉体(5)を得た。得られたビニル重合体粉体のアセトン可溶分、分子量(Mw、Mn)、アルカリ金属イオンの含有量、ガラス転移温度(Tg)、酸価及び粉体解砕性の評価結果を表1に示す。
【0177】
【表1】
【0178】
表中の略号は以下の化合物を示す。
・「MMA」:メチルメタクリレート(単独重合体のTg:105℃)
・「n−BMA」:n−ブチルメタクリレート(単独重合体のTg:20℃)
・「FA−513M」:ジシクロペンタニルメタクリレート(単独重合体のTg:175℃)
・「IBXMA」:イソボルニルメタクリレート(単独重合体のTg:150℃)
・「MAA」:メタクリル酸(単独重合体のTg:228℃)。
【0179】
<実施例6>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、「JER828」)を100部、及びビニル重合体粉体(1)20部を計量し、遊星運動式真空ミキサー(シンキー社製、商品名「泡取り練太郎ARV−310LED」)を使用して、大気圧下で回転数1200rpmの条件で3分間混練を行い、混練物を得た。得られた混練物を、3本ロールミル(EXAKT社製、「M−80E」)を使用し、ロール回転数200rpm、ロール間隔20μm・10μmで1パス、10μm・5μmで1パス、5μm・5μmで1パス処理した。
【0180】
その後、再び遊星運動式真空ミキサー(シンキー社製、商品名「泡取り練太郎ARV−310LED」)を使用して、3KPaの減圧下で回転数1200rpmの条件で2分間混練・脱泡を行い、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物について分散性、ゲル化温度、ゲル化性能の評価を実施した。評価結果を表2に示す。
【0181】
<実施例7〜10、比較例4及び5>
ビニル重合体粉体(1)の代わりに、表2に示すビニル重合体粉体(2)〜(7)を用いた以外は、実施例6と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物の分散性、ゲル化温度、ゲル化性能の評価を実施した。評価結果を表2に示す。
【0182】
<比較例3>
ビニル重合体粉体を用いなかった以外は、実施例6と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物のゲル化温度、ゲル化性能の評価を実施した。評価結果を表2に示す。
【0183】
【表2】
【0184】
<実施例11>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、「JER828」) を100部、及びビニル重合体粉体(1)20部を計量し、遊星運動式真空ミキサー(シンキー社製、商品名「泡取り練太郎ARV−310LED」)を使用して、大気圧下で回転数1200rpmの条件で3分間混練を行い、混練物を得た。得られた混練物を3本ロールミル(EXAKT社製、「M−80E」)を使用し、ロール回転数200rpm、ロール間隔20μm・10μmで1パス、10μm・5μmで1パス、5μm・5μmで1パス処理した。
【0185】
その後、エポキシ樹脂用硬化剤として、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化工業社製、「リカシッドMH−700」)を85部、硬化促進剤として、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業(株)製)を1部加え、再び遊星運動式真空ミキサー(シンキー社製、商品名「泡取り練太郎ARV−310LED」)を使用して、3KPaの減圧下で回転数1200rpmの条件で2分間混練・脱泡を行い、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0186】
長さ300mm×幅300mm×厚さ5mmの強化ガラス板2枚の、それぞれの強化ガラス板の片面にPETフィルム(東洋紡(株)製、商品名:TN200)を貼り、PETフィルム面が向き合うように並べ、強化ガラス板の間に厚み3mmのテフロン(登録商標)製のスペーサーを挟んで型を作製した。この型の中に上記のエポキシ樹脂組成物を流し込み、クランプで固定し100℃で3時間予備硬化を行なった後、120℃で4時間硬化を行い、型から取り出して厚さ3mmの硬化物を作製した。
【0187】
得られた硬化物から試験片を切り出し、ガラス転移温度、線膨張係数、比誘電率、誘電正接の評価を実施した。評価結果を表3に示す。
【0188】
<実施例12〜15、比較例7及び8>
ビニル重合体粉体(1)の代わりに、表3に示すビニル重合体粉体(2)〜(7)を用いた以外は、実施例11と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度、線膨張係数、誘電率、誘電正接の評価を実施した。評価結果を表3に示す。
【0189】
<比較例6>
ビニル重合体粉体を用いなかった以外は、実施例11と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度、線膨張係数、誘電率、誘電正接の評価を実施した。評価結果を表3に示す。
【0190】
【表3】
【0191】
<実施例16>
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の代わりに、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製、「YX−8000」)を100部、エポキシ樹脂用硬化剤として、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(新日本理化工業社製、「リカシッドMH−700」)を77部、硬化促進剤として、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業(株)製)を1部用いた以外は、実施例11と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度、線膨張係数、誘電率、誘電正接の評価を実施した。評価結果を表4に示す。
【0192】
<実施例17〜20、比較例10及び11>
ビニル重合体粉体(1)の代わりに、表4に示すビニル重合体粉体(2)〜(7)を用いた以外は、実施例16と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度、線膨張係数、誘電率、誘電正接の評価を実施した。評価結果を表4に示す。
【0193】
<比較例9>
ビニル重合体粉体を用いなかった以外は、実施例16と同様にしてエポキシ樹脂硬化物を得た。得られたエポキシ樹脂硬化物のガラス転移温度、線膨張係数、誘電率、誘電正接の評価を実施した。評価結果を表4に示す。
【0194】
【表4】
【0195】
<評価>
表2から明らかなように、本発明のビニル重合体粉体(1)〜(5)は、エポキシ樹脂中での分散性に優れ、ビニル重合体粉体(1)〜(5)を添加したエポキシ樹脂組成物は高いゲル化性能を有した(実施例6〜10)。一方で、本発明のビニル重合体粉体を添加していない比較例3のエポキシ樹脂組成物は、ゲル化性能が見られなかった(比較例3)。
【0196】
表3及び4から明らかなように、本発明のビニル重合体粉体(1)〜(5)を添加したエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、線膨張係数の増加抑制の効果が認められた(実施例11〜20)。有機材料はガラス転移温度以上の領域において、線膨張係数が増加するが、本発明のビニル重合体粉体(1)〜(5)を添加した硬化物は、ガラス転移温度以上での線膨張係数の増加が抑制されている。本結果より、エポキシ樹脂組成物の耐クラック性の改良、冷熱サイクルによる亀裂破壊の抑制等が期待できる。
【0197】
さらに、本発明のビニル重合体粉体(1)〜(5)を添加したエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、比誘電率、誘電正接が低く、電気特性に優れる。
【0198】
一方で、ガラス転移温度が120℃未満であり、本発明の範囲外であるビニル重合体粉体(6)、(7)を添加したエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物は、ビニル重合体粉体を添加していないものと比較して、線膨張係数が増加していた。また、電気特性も低位であった(比較例7、8、10及び11)。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明のビニル重合体粉体は、硬化性樹脂、特にエポキシ樹脂中での分散性に優れ、所定の温度で短時間の加熱によって速やかに硬化性樹脂組成物をゲル状態とし、優れた電気特性を発現させるための電子材料用のプレゲル剤として利用することができる。
【0200】
さらに、一次実装用アンダーフィル材、二次実装用アンダーフィル材、ワイヤーボンドにおけるグラブトップ材等の液状封止材、基板上の各種チップ類を一括で封止する封止用シート、プレディスペンス型のアンダーフィル材、ウエハーレベルで一括封止する封止シート、3層銅張積層板用の接着層、ダイボンドフィルム、ダイアタッチフィルム、層間絶縁フィルム、カバーレイフィルム等の接着層、ダイボンドペースト、層間絶縁ペースト、導電ペースト、異方導電ペースト等の接着性ペースト、発光ダイオードの封止材、光学接着剤、液晶、有機EL等の各種フラットパネルディスプレイのシーリング材等の各種用途に使用することができる。