(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Geを2.0質量%以上3.5質量%以下含有し、Snを34.0質量%以上39.0質量%以下含有し、残部がAu及び不可避不純物からなることを特徴とする、請求項1に記載のSAWフィルター用若しくはMEMS用のAu−Ge−Sn系はんだ合金。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に有害な化学物質に対する規制がますます厳しくなってきており、この規制は電子部品などを基板に接合する目的で使用するはんだ材料に対しても例外ではない。はんだ材料には古くから鉛(Pb)が主成分として使われ続けてきたが、既にRohs指令などで鉛は規制対象物質になっている。このため、鉛を含まないはんだ(以降、鉛フリーはんだ又は無鉛はんだと称する)の開発が盛んに行われている。
【0003】
半導体素子を基板に接合する際に使用するはんだは、その使用限界温度によって高温用(約260℃〜400℃)と中低温用(約140℃〜230℃)とに大別され、そのうち中低温用はんだに関してはSnを主成分とするもので鉛フリーはんだが実用化されている。例えば、特許文献1にはSnを主成分とし、Agを1.0〜4.0重量%、Cuを2.0重量%以下、Niを0.5重量%以下、Pを0.2重量%以下含有する無鉛はんだ合金組成が記載されており、特許文献2にはAgを0.5〜3.5重量%、Cuを0.5〜2.0重量%含有し、残部がSnからなる合金組成の無鉛はんだが記載されている。
【0004】
一方、高温用のPbフリーはんだに関しても、さまざまな機関で研究開発が行われている。例えば、特許文献3には、Biを30〜80質量%含み、溶融温度が350〜500℃のBi/Agろう材が開示されている。また、特許文献4には、Biを含む共昌合金に2元共昌合金を加え、更に添加元素を加えたはんだ合金が開示されており、このはんだ合金は4元系以上の多元系はんだではあるものの、液相線温度の調整とばらつきの減少が可能となることが示されている。
【0005】
高価な高温用のPbフリーはんだ材料としては、既にAu−Sn合金やAu−Ge合金などが水晶デバイス、SAWフィルター、MEMS(微小電子機械システム)等で使用されている。例えば、特許文献5にはAu−Ge、Au−Sb又はAu−Siの板状低融点Au合金ろうを予加熱し、次に加熱保温部を設けたプレス金型にその材料を順次送って100℃〜350℃の温度範囲でプレス加工を行うことを特徴とする板状低融点Au合金ろうのプレス加工方法について記載されている。
【0006】
また、特許文献6には、半導体パッケージの外部リードのろう付けに用いられるろう材であって、Agを10〜35wt%、In、Ge及びGaのうち少なくとも1種類を合計で3〜15wt%、及び残部のAuからなるAu合金であり、且つエレクトロマイグレーションテストにおいて短絡するまでの時間が1.5時間以上であることを特徴とするエレクトロマイグレーション防止性ろう材について記載されている。
【0007】
更に特許文献7には、Au/Ge/Snを含む3元合金のロウ材であり、液相が発生し始める温度をTs、完全に液相になる温度をTlとした場合に、Tl−Ts<50度であることを特徴とするロウ材について記載されている。そして、この特許文献7によれば、Pbフリーを実現しつつ、リフロー温度で溶融せず、接合のための温度が高すぎて接着剤や部品自体に損傷を与えることがない、接合に好適なロウ材を提供できるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高温用のPbフリーはんだ材料に関しては、上記特許文献以外にも様々な報告ないし提案があるが、未だ低コストで汎用性のあるはんだ材料は見つかっていない。即ち、一般的に半導体素子や基板には熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの比較的耐熱温度の低い材料が多用されているため、接合時の作業温度を400℃未満に、望ましくは370℃以下にするという要望がある。しかしながら、例えば特許文献3に開示されているBi/Agろう材では、液相線温度が400〜700℃と高いため、接合時の作業温度も400〜700℃以上になると推測され、接合される半導体素子や基板の耐熱温度を超えてしまうことになる。
【0010】
また、高価なAu系はんだではAu−Sn系はんだやAu−Ge系はんだが実用化されているが、これらのAu系はんだは極めて高価なAuを多量に使用するため、汎用のPb系はんだやSn系はんだなどに比較して非常に高価である。そのため、主に水晶デバイス、SAWフィルター、MEMSなどの特に高い信頼性を必要とする箇所のはんだ付けに使用されているにすぎない。
【0011】
加えて、Au系はんだは、非常に硬くて加工し難いため、例えば、シート形状に圧延加工する際に時間がかかったり、ロールに疵のつき難い特殊な材質のものを用いたりしなければならないため、余分なコストがかかる。また、プレス成形時にも、Au系はんだは硬くて脆い性質のため、クラックやバリが発生し易く、他のはんだに比較して収率が格段に低い。ワイヤ形状に加工する場合にも似たような深刻な問題があり、非常に圧力の高い押出機を使用しても、硬いため押出速度を速くできず、Pb系はんだの数100分の1程度の生産性しかない。
【0012】
以上のような問題を含め、さまざまなAu系はんだの問題に対処すべく、上記した特許文献5〜特許文献7に記載の技術が提案されている。しかしながら、上記特許文献5の技術には次のような問題がある。即ち、Au−Ge、Au−Sb、Au−Si等の板状(シート状)低融点Au合金ろうの素材特性は、室温においてガラス板のような脆性を示し、また方向性があるため、一般に長手方向に平行な面においては僅かな曲げに対しても破断し易く、亀裂の伝播が進み易いという欠点がある。
【0013】
そこで、従来からコンパウンド金型を用いてプレス加工を行ってきているが、このコンパウンド金型技術においても金型精度の問題や金型寿命の問題があるため、特許文献5には加熱保温部を設けたプレス金型に材料を順次送って100〜350℃の温度範囲でプレス加工する技術が開示されている。しかし、このような温間でのプレス加工でも課題は山積しているのである。
【0014】
即ち、温間プレスでは、はんだ合金の酸化が進行してしまう。そのため、Auを多く含有するはんだであっても、その他の金属、例えばGeやSb、又はSnなどを含んでいるAu系はんだは、これらの元素の酸化進行を防ぐことができず、常温より高い温度でプレスしたとき表面が酸化して濡れ性が大きく低下してしまう。更に、温度が高い状態であるから常温と比較してはんだが膨張し、工夫をしても常温でのプレスに比較して形状の精度が出せない。加えて、比較的柔らかくなったはんだは金型に張り付き易くなり、はんだが撓んだり歪んだりした状態でプレスすることになるため、バリや欠けが発生しやすくなる。
【0015】
また、上記特許文献6には、既に述べたようにAgを10〜35wt%、In、Ge及びGaの少なくとも1種類を合計で3〜15wt%含有し、残部がAuからなるAu合金のエレクトロマイグレーション防止性ろう材が記載されている。そして、これらの添加元素の効果として、Auを主成分とすることでエレクトロマイグレーションを防止でき、Agを10〜35wt%加えるのはろう付け強度を得るためであり、またIn、Ge及びGaのうち少なくとも1種類を合計で3〜15wt%加えるのは融点を下げるためであると記載されている。
【0016】
しかし、上記特許文献6に記載のAu合金は、Ag−28wt%CuやAg−15wt%CuのAg系ろう材との比較において、エレクトロマイグレーションの発生を防止でき、強固で安定したろう付け強度が得られるろう材として開発されたものである。そのため、Agの含有量が比較的多く、融点が下がって使い難いはんだ材料となり易いうえ、従来のAu−Ge合金などのAu系合金と比べて強度やエレクトロマイグレーション防止効果が十分であるとはいえない。
【0017】
更に、上記特許文献7には、Au/Ge/Snを含む3元合金のロウ材であり、液相が発生し始める温度をTs、完全に液相になる温度をTlとした場合に、Tl−Ts<50度であることを特徴とするロウ材について記載されており、これによって、Pbフリーを実現しつつ、リフロー温度に溶融せず、接合のための温度が高すぎて、例えば接着剤や部品自体に損傷を与えることがない電気・半導体素子の接合に好適なロウ材を提供できることが示されている。
【0018】
しかし、上記特許文献7に記載のAu/Ge/Snを含む3元合金のロウ材は、液相線温度と固相線温度の差が50℃未満という余りにも広い組成範囲であるが、このような広い組成範囲において同じ効果や特性を有するロウ材のみが得られることはない。最も分かり易い例として、上記組成範囲に属するAu−12.5質量%Ge合金(共晶点の組成)とAu−20質量%Sn合金(共晶点の組成)を比較した場合、その特性は明らかに異なる。
【0019】
即ち、Geが半金属であるために、Au−12.5質量%Ge合金はAu−20質量%Sn合金に比較して明らかに加工性に劣る。例えば、圧延加工する際に、クラック等の発生により収率はAu−12.5質量%Geの方が低くなる。当然、これらに少量の第三元素が含有させた場合、第三元素が固溶して特性が大きく変わらない組成範囲は存在するため、例えばAu−12.5質量%Ge−Sn合金とAu−20質量%Sn−Ge合金の特性は大きく異なる。
【0020】
更に、Ge−Sn合金について考えた場合、固相線温度が231℃であり、高温用はんだとしては融点が低すぎる。当然、Ge−Sn合金に少量のAuが固溶した場合でも、上記特許文献7の特許請求の範囲に規定された液相線温度と固相線温度の差が50℃未満の領域は存在するが、高温用はんだとしては融点が低すぎることに変わりはない。
【0021】
本発明は、上記した従来の事情に鑑みてなされたものであり、加工性や濡れ性、応力緩和性等の各種の特性に優れ、水晶デバイス、SAWフィルター、MEMS等の非常に高い信頼性を要求される接合においても十分に使用することができ、しかもAuを主成分としながら安価であって、Pbフリーで高温用のAu−Ge−Sn系はんだ合金を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本発明が提供するAu−Ge−Sn系はんだ合金は、
SAWフィルター用若しくはMEMS用のAu−Ge−Sn系はんだ合金であって、Geを0.01質量%以上10.0質量以下含有し、Snを32.0質量%以上40.0質量%以下含有し、残部がAu及び不可避不純物からな
り、液相線温度と固相線温度との差が50℃未満であることを特徴とする。
【0023】
上記本発明の
SAWフィルター用若しくはMEMS用のAu−Ge−Sn系はんだ合金は、Geを2.0質量%以上3.5質量%以下含有し、Snを34.0質量%以上39.0質量%以下含有し、残部がAu及び不可避不純物からなることが好ましい。
【0024】
また、上記本発明の
SAWフィルター用若しくはMEMS用のAu−Ge−Sn系はんだ合金は、上記したGe、Sn
及びAuに加えて、
これらGe、Sn及びAuの合計100質量%に対してPを0.500質量%以下含有することができ
る。
【0025】
更に、本発明は、上記した本願発明のAu−Ge−Sn系はんだ合金を用いて封止した水晶デバイス及びSAWフィルターを提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、鉛を含有せず、従来のAu系はんだと同等の濡れ性を有し、加工性や応力緩和性等の各種の特性に優れ、しかもAu含有量が少ないため安価であって、水晶デバイス、SAWフィルター、MEMSなどの非常に高い信頼性を要求される箇所にも使用することが可能な、Pbフリーで高温用のAu−Ge−Sn系はんだ合金を提供することができる。しかも、本発明のAu−Ge−Sn系はんだ合金は、加工性に優れるため、生産性の向上を図ることができ、より一層の低コスト化を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のAu−Ge−Sn系はんだ合金の組成は、基本的に、0.01質量%以上10.0質量%以下のGeと、32.0質量%以上40.0質量%以下のSnと、残部のAu及び不可避不純物からなり、更にPを含有してもよく、その場合のPの含有量は0.500質量%以下である。
【0029】
本発明のAu−Ge−Sn系はんだ合金は、非常に高コストであるAu−Ge系はんだやAu−Sn系はんだのコストを下げると共に、優れた加工性を持たせるために、主成分であるAuにSnとGeを添加含有させている。即ち、Au、Sn、Geの3元系合金において、共晶点付近の組成を基本とすることにより、優れた加工性と応力緩和性、ひいては高い接合信頼性を実現し、且つ、SnとGeの含有量が多いためAu含有量を下げることが可能となり、以って低コストな高温用でPbフリーのはんだ材料として提供できる。
【0030】
以下、本発明のAu−Ge−Sn系はんだ合金に必須の元素、及び必要に応じて含有する任意の元素について、更に詳しく説明する。
【0031】
<Au>
Auは本発明のはんだ合金の主成分であり、必須の元素である。Auは非常に酸化し難いため、高い信頼性が要求される半導体素子類の接合用や封止用のはんだとして特性面では最も適している。そのため、水晶デバイスやSAWフィルターの封止用としてAu系はんだが多用されており、本発明のはんだ合金もAuを基本とし、上記技術分野での使用に好適なはんだを提供する。
【0032】
ただし、Auは非常に高価な金属であるため、コストの点からは使用しないことが望ましく、従って汎用品にはほとんど使用されていない。一方、本発明のはんだ合金はAuを主成分としながら、接合性や信頼性などの特性面ではAu−20質量%SnやAu−12.5質量%Geはんだ合金と同等であって、同時にAuの含有量を減らしてコストを下げるべく、後述するようにAuにSnとGeを同時に含有させている。
【0033】
<Ge>
Geは本発明のはんだ合金において必須の元素である。GeはAuと共晶合金を作り、固相線温度を280℃と低くできるため、従来からAu−12.5質量%Geはんだとして実用的に使われている。しかし、Auを90質量%近く含有するため非常に高価である。このAu含有量を下げるべく、Au−Ge−Sn系合金の3元系において共晶点付近の組成としたものが本発明のはんだ合金である。
【0034】
Au−Ge−Snの3元系において、共晶点の組成は、Au=47原子%、Ge=6原子%、Sn=47原子%付近である。即ち、質量%では、Au=60.6質量%、Ge=2.8質量%、Sn=36.5質量%付近となる。Au−Ge−Sn系状態図を示す
図1から分かるように、この共晶点付近の組成とすることによって、加工性や応力緩和性などの諸特性に優れたはんだ合金となる。加えて融点を410℃程度まで下げることが可能となるため、はんだとして非常に使い易くなる。
【0035】
具体的なGeの含有量は0.01質量%以上10.0質量%以下である。Geの含有量が0.01質量%未満では、Ge量が少なすぎるためGeを含有させた効果が実質的に現れない。一方、10.0質量%を超えると、液相線温度が高くなりすぎるため、溶融させることが困難になってしまう。また、Snを本発明の組成範囲で含有する場合においてGeの含有量が10.0質量%を超えると、はんだ合金が酸化し易くなってしまい、Au系はんだの特徴である高い信頼性を有する良好な接合ができなくなる。
【0036】
特に好ましいGeの含有量は、2.0質量%以上3.5質量%以下であり、この範囲であると共晶点の組成に近く、加工性に優れ、柔軟性も有しているため、より一層良好な接合が可能となる。
【0037】
<Sn>
Snは本発明のはんだ合金において必須の元素であって、3元系の共晶点付近の組成とするために欠かせない元素である。
【0038】
Au−Ge合金やAu−Sn合金の代表的なはんだであるAu−12.5質量%GeはんだやAu−20質量%Snはんだは、共晶点の組成であり、このため結晶が微細化し、比較的柔軟である。しかし、共晶合金と言っても、Geは半金属であり、しかもAu−20質量%Snの場合は金属間化合物から構成されるため、一般的なPb系はんだやSn系はんだに比べると遥かに硬くて脆い。
【0039】
そのため、加工が難しく、例えば圧延によってシート状に加工する場合には、少しずつしか薄くしていくことができないため生産性が悪く、多数のクラックが入って収率が低下しやすい。また、ボール状に加工する場合には、例えばアトマイズ法でボール状にする際にノズル先端が詰まりやすく、ボールの粒度分布が広くなってしまい収率が低い。特に油中アトマイズの場合には、油の発火や劣化を防ぐためアトマイズ時の温度をAu−Ge合金の固相線温度(356℃)より十分高い温度に上げることができず、このためノズル先端に合金が偏析しやすくなり、ノズルの詰まりが起きやすくなって収率の低下を招きやすい。
【0040】
SnをGeと同時にAuに含有させることによって、上記した加工性や生産性の問題、更には信頼性等の問題を解決することが可能となる。即ち、SnとGeを同時に含有させることにより、Au−Sn金属間化合物とGe固溶体の共晶組成とすることが可能となり、結晶が微細化し、加工性、生産性、応力緩和性、更には信頼性に優れたはんだ材料となる。当然、SnとGeを合計で約30〜50質量%含有させることにより、代表的なAu−12.5質量%やAu−20質量%Snよりも大幅にコストを低減することができる。
【0041】
具体的なSnの含有量は、32.0質量%以上40.0質量%以下である。Snの含有量が32.0質量%未満では、柔軟性向上等の効果が十分に発揮されず、また液相線温度と固相線温度の差が大きくなり溶け別れ現象を起こしてしまう。一方、Snの含有量が40.0質量%を超えると、やはり溶け別れ現象が発生し易くなると共に、Auに比較して酸化しやすいSn含有量が多くなりすぎるため濡れ性の低下を招いてしまう可能性が高い。
【0042】
特に好ましいSnの含有量は34.0質量%以上39.0質量%以下であり、この範囲であれば共晶点の組成に近く、上記したSnの効果が十分に発揮される。
【0043】
<P>
Pは本発明のはんだ合金において必要に応じて含有してよい任意の元素であり、その効果は濡れ性の向上にある。Pが濡れ性を向上させるメカニズムは、還元性が強く、自ら酸化することによって、はんだ合金表面の酸化を抑制すると共に基板面を還元し、濡れ性を向上させることにある。
【0044】
一般にAu系はんだが酸化し難く、濡れ性に優れていると言っても、接合面の酸化物を除去することはできない。ところが、Pは、はんだ表面の酸化膜の除去だけでなく、基板などの接合面の酸化膜も除去することが可能である。このはんだ表面と接合面の酸化膜除去の効果により、酸化膜によって形成される隙間(ボイド)も低減することができる。このPの効果によって、接合性や信頼性等が更に向上する。
【0045】
尚、Pは、はんだ合金や基板を還元して酸化物になると同時に気化し、雰囲気ガスに流されるため、はんだや基板等に残らない。このため、Pの残渣が信頼性等に悪影響を及ぼす可能性はなく、この点からもPは優れた元素と言える。
【0046】
本発明のはんだ合金がPを含有する場合、Pの含有量は0.500質量%以下が好ましい。Pは非常に還元性が強いため、微量を含有させれば濡れ性向上の効果が得られるが、0.500質量%を超えて含有しても濡れ性向上の効果はあまり変わらず、過剰な含有によってPやP酸化物の気体が多量に発生し、ボイド率を上げてしまったり、Pが脆弱な相を形成して偏析し、はんだ接合部を脆化して信頼性を低下させたりする恐れがある。
【実施例】
【0047】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
まず、原料として、それぞれ純度99.99質量%以上のAu、Ge、Sn及びPを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく、均一になるように留意しながら切断、粉砕等を行い、3mm以下の大きさに細かくした。これらの原料から所定量を秤量して、高周波溶解炉用グラファイトるつぼに入れた。
【0049】
尚、Pを含有させる場合には、Sn−P合金を用いて溶解すると、気化し易いPが初めから合金化されているため、はんだに含有させやすくなるので、原料としてSn−P合金を用いることができる。
【0050】
次に、原料の入ったグラファイトるつぼを高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7l/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融し始めたら混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかにるつぼを取り出して、るつぼ内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型には、液中アトマイズ用に直径24mmの円筒形状のものを使用した。
【0051】
このようにして試料1のはんだ母合金を作製した。また、原料の混合比率を変えた以外は上記試料1と同様にして、試料2〜22のはんだ母合金を作製した。これらの試料1〜22の各はんだ母合金について、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて組成分析を行った。得られた分析結果を下記表1に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
上記試料1〜22の各はんだ母合金を、下記の方法により液中アトマイズ装置を用いてボール状に加工した。その際の液体としては、はんだの酸化抑制効果が大きい油を用いた。得られた各試料のボールは、下記の方法により所定の粒径に分級して収率を調べ、加工性を評価した。得られたボール収率(加工性評価)を下記表2に示した。
【0054】
<ボールの製造方法>
準備した試料1〜22の各はんだ母合金(直径24mm)を液中アトマイズ装置のノズルに投入し、このノズルを390℃に加熱した油の入った石英管の上部(高周波溶解コイルの中)にセットした。ノズル中の母合金を高周波により650℃まで加熱して5分保持した後、不活性ガスによりノズルに圧力を加えてアトマイズを行い、ボール状のはんだ合金とした。尚、ボール直径は設定値を0.30mmとし、予めノズル先端の直径を調整した。
【0055】
<加工性の評価(ボール収率)>
はんだ合金の加工性を評価するため、2軸分級器を用いて上記の方法により得られたボールを直径0.30±0.015mmの範囲で分級し、分級によって得られたボールの収率を下記計算式1により算出した。
【0056】
[計算式1]
ボール収率(%)=直径0.30±0.015mmのボール重量÷分級投入ボール重量×100
【0057】
次に、上記した試料1〜22のボール状の各はんだ合金を用い、基板との接合試験を行った後、接合されたはんだのアスペクトを測定して濡れ性の評価とし、ボイド率を測定して接合性の評価とした。更に、上記接合試験で得られた基板とはんだの接合体を用いて、ヒートサイクル試験による信頼性評価を行った。得られたアスペクト比(濡れ性評価)、ボイド率(接合性評価)、及びヒートサイクル試験(信頼性評価)の結果を下記表2に示した。
【0058】
<濡れ性の評価(アスペクト比の測定)>
濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を起動し、加熱するヒーター部分に2重のカバーをしてヒーター部の周囲4箇所から窒素ガスを12l/粉の流量で流した。その後、ヒーター設定温度を融点より50℃高い温度にして加熱した。
【0059】
ヒーター温度が設定値で安定した後、Niめっき(膜厚:3.0μm)したCu基板(板厚:0.3mm)をヒーター部にセッティングして25秒加熱し、次にボール状のはんだ合金をCu基板上に載せて25秒加熱した。加熱が完了した後、Cu基板をヒーター部から取り上げ、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却し、十分に冷却した後大気中に取り出した。
【0060】
得られた接合体、即ち
図2に示すようにCu基板1のNi層2にはんだ合金3が接合された接合体について、はんだ合金3のアスペクト比を求めた。具体的には、
図3に示す最大はんだ高さYと、
図4に示す最大はんだ濡れ広がり長さX1及び最小はんだ濡れ広がり長さX2を測定し、下記計算式2によりアスペクト比を算出した。アスペクト比が高いほど、接合されたはんだ厚さが薄く且つ面積が広くなっていることになり、濡れ性がよいと判断できる。
【0061】
[計算式2]
アスペクト比=[(X1+X2)÷2]÷Y
【0062】
<接合性の評価(ボイド率の測定)>
上記濡れ性の評価の際と同様にして得られた
図2に示す接合体について、はんだ合金3が接合されたCu基板1のボイド率をX線透過装置(株式会社東芝製、TOSMICRON−6125)を用いて測定した。具体的には、はんだ合金3とCu基板1の接合面を上部から垂直にX線を透過し、下記計算式3を用いてボイド率を算出した。
【0063】
[計算式3]
ボイド率(%)=ボイド面積÷(ボイド面積+はんだ合金とCu基板の接合面積)×100
【0064】
<信頼性の評価(ヒートサイクル試験)>
上記濡れ性の評価の際と同様にして得られた
図2に示す接合体に対し、−40℃の冷却と250℃の加熱を1サイクルとして、所定のサイクル数だけ繰り返した。その後、はんだ合金が接合されたCu基板(接合体)を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(日立製作所製 S−4800)により接合面を観察した。接合面に剥がれがある場合又ははんだ合金にクラックが入っていた場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。
【0065】
【表2】
【0066】
上記表2から分かるように、本発明による試料1〜11の各はんだ合金は、各評価項目において良好な特性を示している。即ち、加工性の評価であるボール収率は高く、比較例である試料21のAu−12.5質量%Ge及び試料22のAu−20質量%Snと比較しても高収率であることが分かる。また、アスペクト比は全て6以上であって、はんだが薄く且つ広く濡れ広がっており、良好な濡れ性を有していた。ボイド率は最も高いものでも0.3%であり、良好な接合性を示した。そして、信頼性に関する試験であるヒートサイクル試験においては、500サイクル経過後も不良が現れず、良好な結果が得られた。
【0067】
一方、比較例である試料12〜22の各はんだ合金は、少なくともいずれかの特性において好ましくない結果となった。即ち、ボール収率は高くても46%と本発明の全試料よりも低く、ボイド率も0.7〜7.5%と本発明の全試料よりも明らかに悪かった。また、アスペクト比は試料17、21及び22を除いて4以下であり、ヒートサイクル試験においては試料21及び22を除いて500回までに全ての試料で不良が発生した。
【0068】
尚、上記実施例における試料1〜11の本発明のはんだ合金は、上記各特性の評価において良好な結果であるだけに留まらず、Au含有量が最高でも64.0質量%と少ない。このAu含有量はAu−Ge系はんだ合金において最も一般的な共晶組成である試料21のAu−12.5質量%Geや試料22のAu−20質量%Snよりも少なく、このことからも本発明のAu−Ge−Sn系はんだ合金は低コストであることが分かる。