特許第5979117号(P5979117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5979117アルミニウム箔の製造方法およびアルミニウム箔
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979117
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】アルミニウム箔の製造方法およびアルミニウム箔
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20160817BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20160817BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20160817BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20160817BHJP
   H01G 9/055 20060101ALN20160817BHJP
【FI】
   C25D1/04
   H01G11/68
   C22C21/00 N
   H01M4/66 A
   !H01G9/04 346
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-224353(P2013-224353)
(22)【出願日】2013年10月29日
(62)【分割の表示】特願2011-520907(P2011-520907)の分割
【原出願日】2010年6月28日
(65)【公開番号】特開2014-51743(P2014-51743A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2013年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2009-153923(P2009-153923)
(32)【優先日】2009年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 篤志
(72)【発明者】
【氏名】星 裕之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 節夫
【審査官】 菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−104791(JP,A)
【文献】 特開2010−090414(JP,A)
【文献】 特開2002−184411(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/044305(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00− 9/12
C25D13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解法によって基材の表面にアルミニウム被膜を形成した後、当該被膜を基材から剥離することによるアルミニウム箔の製造方法であって、表面粗さRaが1〜10μmである基材の表面に形成されたアルミニウム被膜を基材から剥離することにより、アルミニウム箔の基材側に位置していた表面の表面粗さRaが、基材の表面粗さRaに対応した1〜10μmであり、加えて、基材側に位置していた表面からその反対側の表面に向かって結晶組織が幅広に成長した断面構造を有し、かつ、基材側に位置していた表面付近の組成とその反対側の表面付近の組成は異なり、前者においてSとClが濃化しているアルミニウム箔を得ることを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム箔のSとClの含量がともに1.5mass%以下であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム箔の製造方法。
【請求項3】
アルミニウム箔の厚みが1〜15μmであることを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム箔の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム箔のアルミニウムの含量が97.0〜99.9mass%、ビッカース硬度が40〜120Hvであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のアルミニウム箔の製造方法。
【請求項5】
電解法に用いるめっき液が、(1)ジアルキルスルホン、(2)アルミニウムハロゲン化物、および、(3)含窒素化合物を少なくとも含むめっき液であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のアルミニウム箔の製造方法。
【請求項6】
一方の表面の表面粗さRaが1〜10μmであり、前記の表面粗さである側の表面からその反対側の表面に向かって結晶組織が幅広に成長した断面構造を有してなり、表面粗さRaが1〜10μmである側の表面付近の組成とその反対側の表面付近の組成は異なり、前者においてSとClが濃化しており、アルミニウムの含量が97.0〜99.9mass%、ビッカース硬度が40〜120Hvであることを特徴とするアルミニウム箔
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム箔の製造方法に関する。より詳細には、リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシター(電気二重層キャパシター、レドックスキャパシター、リチウムイオンキャパシターなど)といった蓄電デバイスの正極集電体などとして用いることができるアルミニウム箔の電解法による製造方法に関する。また、本発明は、延性に富む高純度のアルミニウム箔に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコンなどのモバイルツールの電源に、大きなエネルギー密度を持ち、かつ、放電容量の著しい減少が無いリチウムイオン二次電池が用いられていることは周知の事実であるが、近年、モバイルツールの小型化に伴い、そこに装着されるリチウムイオン二次電池にも小型化の要請がなされている。また、地球温暖化防止対策などの観点からのハイブリッド自動車や太陽光発電などの技術の進展に伴い、電気二重層キャパシター、レドックスキャパシター、リチウムイオンキャパシターなどの大きなエネルギー密度を持つスーパーキャパシターの新しい用途展開が加速しつつあり、これらのさらなる高エネルギー密度化が要求されている。
リチウムイオン二次電池やスーパーキャパシターといった蓄電デバイスは、例えば、電解質としてLiPFやNR・BF(Rはアルキル基)などの含フッ素化合物を含んだ有機電解液中に、正極と負極がポリオレフィンなどからなるセパレータを介して配された構造を持つ。正極はLiCoO(コバルト酸リチウム)や活性炭などの正極活物質と正極集電体からなるとともに、負極はグラファイトや活性炭などの負極活物質と負極集電体からなり、それぞれの形状は集電体の表面に活物質を塗布してシート状に成型したものが一般的である。各電極とも、大きな電圧がかかることに加え、腐食性が高い含フッ素化合物を含んだ有機電解液に浸漬されることから、特に、正極集電体の材料は、電気伝導性に優れるとともに、耐腐食性に優れることが求められる。このような事情から、現在、正極集電体の材料としては、ほぼ100%に、電気良導体であり、かつ、表面に不働態膜を形成することで優れた耐腐食性を有するアルミニウムが採用されている(負極集電体の材料としては銅やニッケルなどが挙げられる)。
【0003】
蓄電デバイスの小型化や高エネルギー密度化のための方法の一つとして、シート状に成型された電極を構成する集電体の薄膜化がある。現在のところ、正極集電体には、圧延法によって製造された厚みが15〜20μm程度のアルミニウム箔が用いられるのが一般的であるので、このアルミニウム箔の厚みをより薄くすることで目的を達成することができる。しかしながら圧延法では、工業的製造規模でこれ以上、箔の厚みを薄くすることは困難である。
そこで圧延法にかわるアルミニウム箔の製造方法として、アルミニウム箔を電解法によって製造する方法が考えられる。電解法による金属箔の製造は、例えば、ステンレス板などの基材の表面に電気めっきで金属被膜を形成した後、当該被膜を基材から剥離することによって行われるものであり、例えば銅箔の製造方法としてはよく知られているものである。しかしながら、アルミニウムは電気化学的に卑な金属であるため電気めっきが非常に難しいこともあり、アルミニウム箔を電解法によって製造することは容易なことではない。特許文献1には、アルミニウム箔を電解法によって製造する方法として、塩化アルミニウム50〜75モル%とアルキルピリジニウムクロリド25〜50モル%とからなる電解浴またはこの浴に有機溶媒を添加した電解浴を用いる方法が開示されているが、この方法は、めっき液の塩素濃度が非常に高い。そのため、めっき液に含まれる塩素がめっき処理中に大気中の水分と反応することで塩化水素ガスが発生し、設備の腐食を引き起こすといった問題があるので、塩化水素ガスの発生を防ぐための対策や発生した塩化水素ガスで設備が腐食することを防ぐための対策を講じる必要がある。また、特許文献1に記載の方法には、印加できる電流密度が最大でも2A/dm程度であるため、成膜速度が遅いといった問題もある(印加電流密度をこれ以上高くするとめっき液の分解などが起こることによって安定にめっき処理を行うことができなくなる)。成膜速度はめっき液にベンゼンやトルエンなどの有機溶媒を添加することで改善を期待することができるが、これらの有機溶媒は毒性が高く、また、引火性が高いといった危険性があるため、廃液処理の容易性や安全性の点からは、めっき液にこれらの有機溶媒を添加することには問題があると言わざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−104791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、塩素濃度が低いめっき液を用いた電解法によって、速い成膜速度で延性に富む高純度のアルミニウム箔を製造する方法を提供するとともに、延性に富む高純度のアルミニウム箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これまでアルミニウムの電気めっき技術について精力的に研究を行ってきているが、その研究成果として、ジアルキルスルホンにアルミニウムハロゲン化物を溶解して調製しためっき液を用いる方法を開発している(特開2008−31551号公報)。そこで本発明者らは、このめっき液を用いた電解法によるアルミニウム箔の製造を試みたところ、このめっき液は、特許文献1に記載の方法で用いられるめっき液よりも塩素濃度が格段に低いため、めっき処理中に塩化水素ガスが発生しにくいといった利点や、8A/dm以上の電流密度を印加しても安定なめっき処理が可能なため、成膜速度が速いといった利点があるものの、基材の表面に形成されるアルミニウム被膜は硬く延性に乏しいため、当該被膜を基材から剥離する際に破れてしまうといった現象が起こることがわかった。そこでこの問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、めっき液に所定の含窒素化合物を添加することで、より速い成膜速度で延性に富む高純度のアルミニウム箔を製造できることを見出した。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明のアルミニウム箔の製造方法は、請求項1記載の通り、電解法によって基材の表面にアルミニウム被膜を形成した後、当該被膜を基材から剥離することによるアルミニウム箔の製造方法であって、表面粗さRaが1〜10μmである基材の表面に形成されたアルミニウム被膜を基材から剥離することにより、アルミニウム箔の基材側に位置していた表面の表面粗さRaが、基材の表面粗さRaに対応した1〜10μmであり、加えて、基材側に位置していた表面からその反対側の表面に向かって結晶組織が幅広に成長した断面構造を有し、かつ、基材側に位置していた表面付近の組成とその反対側の表面付近の組成は異なり、前者においてSとClが濃化しているアルミニウム箔を得ることを特徴とする。
また、請求項2記載のアルミニウム箔の製造方法は、請求項1記載のアルミニウム箔の製造方法において、アルミニウム箔のSとClの含量がともに1.5mass%以下であることを特徴とする。
また、請求項3記載のアルミニウム箔の製造方法は、請求項1または2記載のアルミニウム箔の製造方法において、アルミニウム箔の厚みが1〜15μmであることを特徴とする。
また、請求項4記載のアルミニウム箔の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載のアルミニウム箔の製造方法において、アルミニウム箔のアルミニウムの含量が97.0〜99.9mass%、ビッカース硬度が40〜120Hvであることを特徴とする。
また、請求項5記載のアルミニウム箔の製造方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載のアルミニウム箔の製造方法において、電解法に用いるめっき液が、(1)ジアルキルスルホン、(2)アルミニウムハロゲン化物、および、(3)含窒素化合物を少なくとも含むめっき液であることを特徴とする。
また、本発明のアルミニウム箔は、請求項6記載の通り、一方の表面の表面粗さRaが1〜10μmであり、前記の表面粗さである側の表面からその反対側の表面に向かって結晶組織が幅広に成長した断面構造を有してなり、表面粗さRaが1〜10μmである側の表面付近の組成とその反対側の表面付近の組成は異なり、前者においてSとClが濃化しており、アルミニウムの含量が97.0〜99.9mass%、ビッカース硬度が40〜120Hvであることを特徴とする
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塩素濃度が低いめっき液を用いた電解法によって、速い成膜速度で延性に富む高純度のアルミニウム箔を製造する方法を提供することができるとともに、延性に富む高純度のアルミニウム箔を提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実験例4における本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔の断面写真である。
図2】同、圧延法によって製造されたアルミニウム箔の断面写真である。
図3】応用例1における本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔を試験極とした場合のサイクリックボルタモグラムである。
図4】同、圧延法によって製造されたアルミニウム箔を試験極とした場合のサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のアルミニウム箔の製造方法は、(1)ジアルキルスルホン、(2)アルミニウムハロゲン化物、および、(3)ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:RN・X(R〜Rは同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つの含窒素化合物を少なくとも含むめっき液を用いた電解法によって基材の表面にアルミニウム被膜を形成した後、当該被膜を基材から剥離することを特徴とするものである。
【0011】
本発明のアルミニウム箔の製造方法において用いるめっき液に含ませるジアルキルスルホンとしては、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、ジヘキシルスルホン、メチルエチルスルホンなどのアルキル基の炭素数が1〜6のもの(直鎖状でも分岐状でもよい)を例示することができるが、良好な電気伝導性や入手の容易性などの観点からはジメチルスルホンを好適に採用することができる。
【0012】
アルミニウムハロゲン化物としては、塩化アルミニウムや臭化アルミニウムなどを例示することができるが、アルミニウムの析出を阻害する要因となるめっき液に含まれる水分の量を可能な限り少なくするという観点から、用いるアルミニウムハロゲン化物は無水物であることが望ましい。
【0013】
含窒素化合物として採用することができるハロゲン化アンモニウムとしては、塩化アンモニウムや臭化アンモニウムなどを例示することができる。また、第一アミン〜第三アミンとしては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ヘキシルアミン、メチルエチルアミンなどのアルキル基の炭素数が1〜6のもの(直鎖状でも分岐状でもよい)を例示することができる。ハロゲン化水素としては、塩化水素や臭化水素などを例示することができる。一般式:RN・X(R〜Rは同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩におけるR〜Rで示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基などの炭素数が1〜6のもの(直鎖状でも分岐状でもよい)を例示することができる。Xとしては塩素イオンや臭素イオンやヨウ素イオンなどのハロゲン化物イオンの他、BFやPFなどを例示することができる。具体的な化合物としては、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、四フッ化ホウ素テトラエチルアンモニウムなどを例示することができる。好適な含窒素化合物としては、速い成膜速度で延性に富む高純度のアルミニウム箔の製造を容易にする点において第三アミンの塩酸塩、例えばトリメチルアミン塩酸塩を挙げることができる。
【0014】
ジアルキルスルホン、アルミニウムハロゲン化物、含窒素化合物の配合割合は、例えば、ジアルキルスルホン10モルに対し、アルミニウムハロゲン化物は1.5〜4.0モルが望ましく、2.0〜3.5モルがより望ましい。含窒素化合物は0.01〜2.0モルが望ましく、0.05〜1.5モルがより望ましい。アルミニウムハロゲン化物の配合量がジアルキルスルホン10モルに対し1.5モルを下回ると形成されるアルミニウム被膜が黒ずんでしまう現象(焼けと呼ばれる現象)が発生する恐れや成膜効率が低下する恐れがある一方、4.0モルを越えるとめっき液の液抵抗が高くなりすぎることでめっき液が発熱して分解する恐れがある。また、含窒素化合物の配合量がジアルキルスルホン10モルに対し0.01モルを下回ると配合することの効果、即ち、めっき液の電気伝導性の改善に基づく高電流密度印加でのめっき処理の実現による成膜速度の向上、アルミニウム箔の高純度化や延性の向上などの効果が得られにくくなる恐れがある一方、2.0モルを越えるとめっき液の組成が本質的に変わってしまうことでアルミニウムが析出しなくなってしまう恐れがある。
【0015】
電気めっき条件としては、例えば、めっき液の温度が80〜110℃、印加電流密度が2〜15A/dmを挙げることができる。めっき液の温度の下限はめっき液の融点を考慮して決定されるべきものであり、望ましくは85℃、より望ましくは95℃である(めっき液の融点を下回るとめっき液が固化するのでめっき処理がもはや行えなくなる)。一方、めっき液の温度が110℃を越えると基材の表面に形成されたアルミニウム被膜とめっき液との間での反応が活発化し、アルミニウム被膜中に不純物が多く取り込まれることでその純度が低下する恐れがある。また、印加電流密度が2A/dmを下回ると成膜効率が低下する恐れがある一方、15A/dmを超えると含窒素化合物の分解などが原因で安定なめっき処理が行えなくなったり延性に富む高純度のアルミニウム箔が得られなくなったりする恐れがある。印加電流密度は3〜12A/dmが望ましい。本発明のアルミニウム箔の製造方法において用いるめっき液の特筆すべき利点は、10A/dm以上の電流密度を印加しても安定なめっき処理が可能なため、成膜速度の向上を図ることができる点にある。なお、めっき処理の時間は、アルミニウム箔の所望する厚み、めっき液の温度や印加電流密度などにも依存するが、通常、1〜30分間である。めっき処理の環境は、めっき液の劣化を防いでその寿命の延長を図る観点から、乾燥雰囲気にすることが望ましい。
【0016】
アルミニウム被膜を形成するための基材(陰極)としては、ステンレス板、チタン板、アルミニウム板、ニッケル板などを例示することができる。通常、基材からのアルミニウム被膜の剥離を容易ならしめるためには、基材の表面は鏡面加工が施されるなどすることによって可能な限り平滑であることが望ましいが、本発明において基材の表面に形成されたアルミニウム被膜は、基材に対してこのような加工を施さなくても剥離が容易であるという特徴を有する(その理由は必ずしも明らかではないが基材の表面にアルミニウム被膜が形成される際に基材に接する側のアルミニウム被膜の表面付近にめっき液に由来するSとClが濃化することが関係しているものと推察される)。なお、陽極の材質としては、例えばアルミニウムを例示することができる。基材からのアルミニウム被膜の剥離はバッチ的に行うことができる他、陰極ドラムを用いてアルミニウム被膜の形成と剥離を連続的に行うこともできる(例えば特開平6−93490号公報)。
【0017】
本発明のアルミニウム箔の製造方法によれば、現在のところ、圧延法では製造が非常に困難である厚みが15μm以下のアルミニウム箔、さらには圧延法では製造が不可能といっても過言ではない厚みが10μm以下のアルミニウム箔を、塩素濃度が低いめっき液を用いた電解法によって速い成膜速度で製造することができる。しかも、得られるアルミニウム箔は延性に富むことに加え、高純度である。具体的には、本発明によれば、例えば、アルミニウムの含量が97.0〜99.9mass%、SとClの含量がともに1.5mass%以下であり(標準的には0.01〜0.5mass%)、ビッカース硬度が40〜120Hvであって、厚みが1〜15μmであるアルミニウム箔(大気中からの混入不可避のCやOを微量含むこともある)を、基材の表面粗さに似通った表面粗さ(例えば基材のRaが1〜10μmであればアルミニウム箔のRaも概ねその程度である)で容易に製造することができる。製造されたアルミニウム箔は、蓄電デバイスの小型化や高エネルギー密度化のための薄膜化された正極集電体などとして用いることができる。基材のRaに対応してRaが1〜10μm程度のアルミニウム箔が得られることは、この程度の表面粗さを有することが求められる正極集電体を得るためには非常に好都合である。また、本発明において用いるめっき液は、成膜速度を速めるためにベンゼンやトルエンなどの有機溶媒を添加するといった必要がないので、その水洗が可能であり廃液処理を容易に行うことができるという利点を有する。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0019】
実施例1:
ジメチルスルホン、無水塩化アルミニウム、トリメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.1の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。陽極に純度99.99%のアルミニウム板、陰極(アルミニウム被膜を形成するための基材)に表面粗さ(Ra)が5μmのステンレス板を用い、3A/dmの印加電流密度で、めっき液を95℃に保って攪拌しながら電気めっき処理を10分間行った。10分後、表面にアルミニウム被膜が形成されたステンレス板をめっき液から取り出し、水洗を行ってから乾燥した後、その端部からアルミニウム被膜とステンレス板の間に介入させたピンセットをステンレス板に沿って滑らせるように移動させると、アルミニウム被膜はステンレス板から容易に剥離し、アルミニウム箔が得られた。得られたアルミニウム箔は、厚みが5μmで表面粗さ(Ra)が5μmであり、アルミニウムの純度が高く(アルミニウムの含量:99.9mass%、SとClの含量:ともに0.04mass%)、ビッカース硬度は50Hv(荷重:0.05kg)であって、圧延法によって製造されるアルミニウム箔と同様、延性に富むものであった。なお、アルミニウム箔の厚みは断面を走査型電子顕微鏡(S−800:日立製作所社製)で観察することによって測定した(以下同じ)。陰極として用いたステンレス板とアルミニウム箔の表面粗さ(Ra)は超深度形状測定顕微鏡(VK−8510:キーエンス社製)を用いて測定した。アルミニウム箔の純度はその両面を水洗した後に硫黄分析装置(EMIA−820W:堀場製作所社製)を用いてSの含量を測定するとともに波長分散蛍光X線分析装置(RIX−2100:リガク社製)を用いてClの含量を測定し、その残りをアルミニウムの含量とした(以下同じ)。アルミニウム箔のビッカース硬度は微小硬度計(MVK−E:明石製作所社製)を用いて測定した(以下同じ)。
【0020】
実施例2:
ジメチルスルホン、無水塩化アルミニウム、トリメチルアミン塩酸塩、塩化テトラメチルアンモニウムをモル比で10:3:0.1:1の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。実施例1と同様の陽極と陰極を用い、12A/dmの印加電流密度で、めっき液を95℃に保って攪拌しながら電気めっき処理を行った。なお、めっき液の攪拌は、実施例1で行った攪拌よりもより高速に行い、陰極付近におけるアルミニウムイオン濃度の低下を防ぐようにした。その結果、塩化テトラメチルアンモニウムを含むめっき液を高速に攪拌することで、実施例1の印加電流密度よりも高い印加電流密度で安定な電気めっき処理が可能となり、実施例1よりもより短時間で厚みが5μmのアルミニウム箔を得ることができた。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様、アルミニウムの純度が高く(アルミニウムの含量:99.9mass%、SとClの含量:ともに0.04mass%)、ビッカース硬度は80Hv(荷重:0.05kg)であって、延性に富むものであった。
【0021】
実施例3:
トリメチルアミン塩酸塩のかわりに塩化アンモニウムを用いること以外は実施例1と同様にしてアルミニウム箔を得た。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様の特性を有していた。
【0022】
実施例4:
トリメチルアミン塩酸塩のかわりにジメチルアミン塩酸塩を用いること以外は実施例1と同様にしてアルミニウム箔を得た。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様の特性を有していた。
【0023】
実施例5:
トリメチルアミン塩酸塩のかわりに塩化テトラメチルアンモニウムを用いること以外は実施例1と同様にしてアルミニウム箔を得た。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様の特性を有していた。
【0024】
実施例6:
トリメチルアミン塩酸塩のかわりに四フッ化ホウ素テトラエチルアンモニウムを用いること以外は実施例1と同様にしてアルミニウム箔を得た。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様の特性を有していた。
【0025】
実験例1:電解アルミニウムめっき液へのトリメチルアミン塩酸塩の配合量とアルミニウム箔の純度との関係
ジメチルスルホン、無水塩化アルミニウム、トリメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.01または0.03の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製すること以外は実施例1と同様にして得られたアルミニウム箔の純度を測定し、実施例1で得られたアルミニウム箔の純度とあわせて電解アルミニウムめっき液へのトリメチルアミン塩酸塩の配合量とアルミニウム箔の純度との関係を調べた。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1から明らかなように、電解アルミニウムめっき液へのトリメチルアミン塩酸塩の配合量が増えるにつれて、得られるアルミニウム箔の純度が高まることがわかった。
【0028】
実験例2:電解アルミニウムめっき液へのジメチルアミン塩酸塩の配合量とアルミニウム箔の純度との関係
ジメチルスルホン、無水塩化アルミニウム、ジメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.01または0.03の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製すること以外は実施例4と同様にして得られたアルミニウム箔の純度を測定し、実施例4で得られたアルミニウム箔の純度とあわせて電解アルミニウムめっき液へのジメチルアミン塩酸塩の配合量とアルミニウム箔の純度との関係を調べた。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2から明らかなように、電解アルミニウムめっき液へのジメチルアミン塩酸塩の配合量が増えるにつれて、得られるアルミニウム箔の純度が高まることがわかった。
【0031】
実験例3:本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔の強度
印加電流密度を5A/dm、めっき処理時間を10、15、20分間とすること以外は実施例1と同様にして厚みがそれぞれ10、15、20μmのアルミニウム箔を得た(アルミニウムの含量はいずれも99.9mass%)。得られたアルミニウム箔の引っ張り強度をオートグラフ(EZ−Test:島津製作所社製)を用いてJIS Z2241に従って測定した。結果を表3に示す。また、表3には圧延法によって製造された厚みが20μmの市販のアルミニウム箔(日本製箔社製)の引っ張り強度の測定結果を併せて示す。
【0032】
【表3】
【0033】
表3から明らかなように、本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔の強度は、圧延法によって製造されたアルミニウム箔の強度と同等以上であり、同じ厚さの場合には、前者の強度は後者の強度よりも優れていることがわかった。
【0034】
実験例4:本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔と圧延法によって製造されたアルミニウム箔の組織構造の比較
印加電流密度を5A/dm、めっき処理時間を25分間とすること以外は実施例1と同様にして得た厚みが25μmのアルミニウム箔(アルミニウムの含量は99.9mass%)の断面構造と、圧延法によって製造された厚みが20μmの市販のアルミニウム箔(日本製箔社製)の断面構造を、走査型電子顕微鏡(S−4300:日立製作所社製)を用いて観察した。結果をそれぞれ図1図2に示す。図1から明らかなように、本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔の断面構造は、基材側に位置していた表面からその反対側の表面に向かって結晶組織が幅広(末広がり)に成長したものであるのに対し、図2から明らかなように、圧延法によって製造されたアルミニウム箔の断面構造は、結晶組織が圧延方向に引き伸ばされて横長になったものであり、両者の断面構造は全く異なることがわかった。
【0035】
実験例5:基材の表面に形成されたアルミニウム被膜の剥離の容易性
実施例1においてアルミニウム被膜をステンレス板から剥離させて得たアルミニウム箔の両面の表面付近の組成をX線光電子分析装置(ESCA−850M:島津製作所社製)を用いて測定した。その結果、基材側に位置していた表面付近の組成とその反対側の表面付近の組成は異なり、前者においては後者には認められないSとClの濃化が認められた。電気めっき処理を開始する前に無通電時間を設けた場合、その時間が長いほど基材に接する側のアルミニウム被膜の表面付近にめっき液に由来するSとClが濃化し、その程度が高いと基材からのアルミニウム被膜の剥離が容易であることを本発明者らは別途の実験によって確認している。従って、本発明において基材の表面に形成されたアルミニウム被膜が基材から容易に剥離することができる理由には、基材に接する側のその表面付近におけるSとClの濃化が関係しているものと推察された。なお、アルミニウム箔の基材側に位置していた表面付近におけるSとClの濃化は、水洗やアセトンを用いた洗浄を行うことで消失することから、アルミニウム箔の最終的な品質に悪影響を及ぼすものではない(アルミニウム被膜の基材からの剥離に寄与した後に洗浄によって除去することができるという利点があることを意味する)。
【0036】
応用例1:本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔の蓄電デバイス用正極集電体としての利用
印加電流密度を5A/dm、めっき処理時間を15分間とすること以外は実施例1と同様にして得た厚みが15μmのアルミニウム箔(アルミニウムの含量は99.9mass%)を試験極、リチウム箔を対極および参照極とし、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比は1:1)にLiPFを溶解した溶液を電解液として、3極式の電気化学評価セルを作製した。この電気化学評価セルを用い、試験極の電位を1mV/秒の走査速度で1〜6Vの範囲で走査させ、サイクリックボルタンメトリーによってその特性を電気化学的に評価した。結果を図3に示す。また、圧延法によって製造された厚みが20μmの市販のアルミニウム箔(日本製箔社製)を試験極として同様の評価を行った結果を図4に示す。図3図4から明らかなように、本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔を試験極とした場合も、圧延法によって製造されたアルミニウム箔を試験極とした場合と同様、電流−電位曲線が2サイクル目以降安定化した。よって、本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔は、蓄電デバイス用正極集電体として利用できることがわかった。
【0037】
応用例2:本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔を蓄電デバイス用正極集電体として利用した蓄電デバイスの作製
実施例1で得たアルミニウム箔を正極集電体として利用し、その表面に正極活物質を塗布したものを正極として、自体公知の構成を有する蓄電デバイスを作製した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、塩素濃度が低いめっき液を用いた電解法によって、速い成膜速度で延性に富む高純度のアルミニウム箔を製造する方法を提供することができるとともに、延性に富む高純度のアルミニウム箔を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4