【0015】
電気めっき条件としては、例えば、めっき液の温度が80〜110℃、印加電流密度が2〜15A/dm
2を挙げることができる。めっき液の温度の下限はめっき液の融点を考慮して決定されるべきものであり、望ましくは85℃、より望ましくは95℃である(めっき液の融点を下回るとめっき液が固化するのでめっき処理がもはや行えなくなる)。一方、めっき液の温度が110℃を越えると基材の表面に形成されたアルミニウム被膜とめっき液との間での反応が活発化し、アルミニウム被膜中に不純物が多く取り込まれることでその純度が低下する恐れがある。また、印加電流密度が2A/dm
2を下回ると成膜効率が低下する恐れがある一方、15A/dm
2を超えると含窒素化合物の分解などが原因で安定なめっき処理が行えなくなったり延性に富む高純度のアルミニウム箔が得られなくなったりする恐れがある。印加電流密度は3〜12A/dm
2が望ましい。本発明のアルミニウム箔の製造方法において用いるめっき液の特筆すべき利点は、10A/dm
2以上の電流密度を印加しても安定なめっき処理が可能なため、成膜速度の向上を図ることができる点にある。なお、めっき処理の時間は、アルミニウム箔の所望する厚み、めっき液の温度や印加電流密度などにも依存するが、通常、1〜30分間である。めっき処理の環境は、めっき液の劣化を防いでその寿命の延長を図る観点から、乾燥雰囲気にすることが望ましい。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0019】
実施例1:
ジメチルスルホン、無水塩化アルミニウム、トリメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.1の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。陽極に純度99.99%のアルミニウム板、陰極(アルミニウム被膜を形成するための基材)に表面粗さ(Ra)が5μmのステンレス板を用い、3A/dm
2の印加電流密度で、めっき液を95℃に保って攪拌しながら電気めっき処理を10分間行った。10分後、表面にアルミニウム被膜が形成されたステンレス板をめっき液から取り出し、水洗を行ってから乾燥した後、その端部からアルミニウム被膜とステンレス板の間に介入させたピンセットをステンレス板に沿って滑らせるように移動させると、アルミニウム被膜はステンレス板から容易に剥離し、アルミニウム箔が得られた。得られたアルミニウム箔は、厚みが5μmで表面粗さ(Ra)が5μmであり、アルミニウムの純度が高く(アルミニウムの含量:99.9mass%、SとClの含量:ともに0.04mass%)、ビッカース硬度は50Hv(荷重:0.05kg)であって、圧延法によって製造されるアルミニウム箔と同様、延性に富むものであった。なお、アルミニウム箔の厚みは断面を走査型電子顕微鏡(S−800:日立製作所社製)で観察することによって測定した(以下同じ)。陰極として用いたステンレス板とアルミニウム箔の表面粗さ(Ra)は超深度形状測定顕微鏡(VK−8510:キーエンス社製)を用いて測定した。アルミニウム箔の純度はその両面を水洗した後に硫黄分析装置(EMIA−820W:堀場製作所社製)を用いてSの含量を測定するとともに波長分散蛍光X線分析装置(RIX−2100:リガク社製)を用いてClの含量を測定し、その残りをアルミニウムの含量とした(以下同じ)。アルミニウム箔のビッカース硬度は微小硬度計(MVK−E:明石製作所社製)を用いて測定した(以下同じ)。
【0020】
実施例2:
ジメチルスルホン、無水塩化アルミニウム、トリメチルアミン塩酸塩、塩化テトラメチルアンモニウムをモル比で10:3:0.1:1の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製した。実施例1と同様の陽極と陰極を用い、12A/dm
2の印加電流密度で、めっき液を95℃に保って攪拌しながら電気めっき処理を行った。なお、めっき液の攪拌は、実施例1で行った攪拌よりもより高速に行い、陰極付近におけるアルミニウムイオン濃度の低下を防ぐようにした。その結果、塩化テトラメチルアンモニウムを含むめっき液を高速に攪拌することで、実施例1の印加電流密度よりも高い印加電流密度で安定な電気めっき処理が可能となり、実施例1よりもより短時間で厚みが5μmのアルミニウム箔を得ることができた。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様、アルミニウムの純度が高く(アルミニウムの含量:99.9mass%、SとClの含量:ともに0.04mass%)、ビッカース硬度は80Hv(荷重:0.05kg)であって、延性に富むものであった。
【0021】
実施例3:
トリメチルアミン塩酸塩のかわりに塩化アンモニウムを用いること以外は実施例1と同様にしてアルミニウム箔を得た。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様の特性を有していた。
【0022】
実施例4:
トリメチルアミン塩酸塩のかわりにジメチルアミン塩酸塩を用いること以外は実施例1と同様にしてアルミニウム箔を得た。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様の特性を有していた。
【0023】
実施例5:
トリメチルアミン塩酸塩のかわりに塩化テトラメチルアンモニウムを用いること以外は実施例1と同様にしてアルミニウム箔を得た。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様の特性を有していた。
【0024】
実施例6:
トリメチルアミン塩酸塩のかわりに四フッ化ホウ素テトラエチルアンモニウムを用いること以外は実施例1と同様にしてアルミニウム箔を得た。得られたアルミニウム箔は、実施例1で得られたアルミニウム箔と同様の特性を有していた。
【0025】
実験例1:電解アルミニウムめっき液へのトリメチルアミン塩酸塩の配合量とアルミニウム箔の純度との関係
ジメチルスルホン、無水塩化アルミニウム、トリメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.01または0.03の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製すること以外は実施例1と同様にして得られたアルミニウム箔の純度を測定し、実施例1で得られたアルミニウム箔の純度とあわせて電解アルミニウムめっき液へのトリメチルアミン塩酸塩の配合量とアルミニウム箔の純度との関係を調べた。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
表1から明らかなように、電解アルミニウムめっき液へのトリメチルアミン塩酸塩の配合量が増えるにつれて、得られるアルミニウム箔の純度が高まることがわかった。
【0028】
実験例2:電解アルミニウムめっき液へのジメチルアミン塩酸塩の配合量とアルミニウム箔の純度との関係
ジメチルスルホン、無水塩化アルミニウム、ジメチルアミン塩酸塩をモル比で10:3:0.01または0.03の割合で混合し、110℃で溶解させて電解アルミニウムめっき液を調製すること以外は実施例4と同様にして得られたアルミニウム箔の純度を測定し、実施例4で得られたアルミニウム箔の純度とあわせて電解アルミニウムめっき液へのジメチルアミン塩酸塩の配合量とアルミニウム箔の純度との関係を調べた。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2から明らかなように、電解アルミニウムめっき液へのジメチルアミン塩酸塩の配合量が増えるにつれて、得られるアルミニウム箔の純度が高まることがわかった。
【0031】
実験例3:本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔の強度
印加電流密度を5A/dm
2、めっき処理時間を10、15、20分間とすること以外は実施例1と同様にして厚みがそれぞれ10、15、20μmのアルミニウム箔を得た(アルミニウムの含量はいずれも99.9mass%)。得られたアルミニウム箔の引っ張り強度をオートグラフ(EZ−Test:島津製作所社製)を用いてJIS Z2241に従って測定した。結果を表3に示す。また、表3には圧延法によって製造された厚みが20μmの市販のアルミニウム箔(日本製箔社製)の引っ張り強度の測定結果を併せて示す。
【0032】
【表3】
【0033】
表3から明らかなように、本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔の強度は、圧延法によって製造されたアルミニウム箔の強度と同等以上であり、同じ厚さの場合には、前者の強度は後者の強度よりも優れていることがわかった。
【0034】
実験例4:本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔と圧延法によって製造されたアルミニウム箔の組織構造の比較
印加電流密度を5A/dm
2、めっき処理時間を25分間とすること以外は実施例1と同様にして得た厚みが25μmのアルミニウム箔(アルミニウムの含量は99.9mass%)の断面構造と、圧延法によって製造された厚みが20μmの市販のアルミニウム箔(日本製箔社製)の断面構造を、走査型電子顕微鏡(S−4300:日立製作所社製)を用いて観察した。結果をそれぞれ
図1と
図2に示す。
図1から明らかなように、本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔の断面構造は、基材側に位置していた表面からその反対側の表面に向かって結晶組織が幅広(末広がり)に成長したものであるのに対し、
図2から明らかなように、圧延法によって製造されたアルミニウム箔の断面構造は、結晶組織が圧延方向に引き伸ばされて横長になったものであり、両者の断面構造は全く異なることがわかった。
【0035】
実験例5:基材の表面に形成されたアルミニウム被膜の剥離の容易性
実施例1においてアルミニウム被膜をステンレス板から剥離させて得たアルミニウム箔の両面の表面付近の組成をX線光電子分析装置(ESCA−850M:島津製作所社製)を用いて測定した。その結果、基材側に位置していた表面付近の組成とその反対側の表面付近の組成は異なり、前者においては後者には認められないSとClの濃化が認められた。電気めっき処理を開始する前に無通電時間を設けた場合、その時間が長いほど基材に接する側のアルミニウム被膜の表面付近にめっき液に由来するSとClが濃化し、その程度が高いと基材からのアルミニウム被膜の剥離が容易であることを本発明者らは別途の実験によって確認している。従って、本発明において基材の表面に形成されたアルミニウム被膜が基材から容易に剥離することができる理由には、基材に接する側のその表面付近におけるSとClの濃化が関係しているものと推察された。なお、アルミニウム箔の基材側に位置していた表面付近におけるSとClの濃化は、水洗やアセトンを用いた洗浄を行うことで消失することから、アルミニウム箔の最終的な品質に悪影響を及ぼすものではない(アルミニウム被膜の基材からの剥離に寄与した後に洗浄によって除去することができるという利点があることを意味する)。
【0036】
応用例1:本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔の蓄電デバイス用正極集電体としての利用
印加電流密度を5A/dm
2、めっき処理時間を15分間とすること以外は実施例1と同様にして得た厚みが15μmのアルミニウム箔(アルミニウムの含量は99.9mass%)を試験極、リチウム箔を対極および参照極とし、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶媒(体積比は1:1)にLiPF
6を溶解した溶液を電解液として、3極式の電気化学評価セルを作製した。この電気化学評価セルを用い、試験極の電位を1mV/秒の走査速度で1〜6Vの範囲で走査させ、サイクリックボルタンメトリーによってその特性を電気化学的に評価した。結果を
図3に示す。また、圧延法によって製造された厚みが20μmの市販のアルミニウム箔(日本製箔社製)を試験極として同様の評価を行った結果を
図4に示す。
図3と
図4から明らかなように、本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔を試験極とした場合も、圧延法によって製造されたアルミニウム箔を試験極とした場合と同様、電流−電位曲線が2サイクル目以降安定化した。よって、本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔は、蓄電デバイス用正極集電体として利用できることがわかった。
【0037】
応用例2:本発明の製造方法によって製造されたアルミニウム箔を蓄電デバイス用正極集電体として利用した蓄電デバイスの作製
実施例1で得たアルミニウム箔を正極集電体として利用し、その表面に正極活物質を塗布したものを正極として、自体公知の構成を有する蓄電デバイスを作製した。