特許第5979237号(P5979237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979237
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】導電性接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 163/00 20060101AFI20160817BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20160817BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20160817BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20160817BHJP
   C09J 161/04 20060101ALI20160817BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160817BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   C09J163/00
   C09J11/04
   C09J9/02
   C09J11/06
   C09J161/04
   H01B1/22 D
   H01B1/00 C
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-538675(P2014-538675)
(86)(22)【出願日】2013年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2013076599
(87)【国際公開番号】WO2014051149
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-217422(P2012-217422)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 政史
(72)【発明者】
【氏名】向井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小山 宏
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−277384(JP,A)
【文献】 特開昭63−152158(JP,A)
【文献】 特開2005−187694(JP,A)
【文献】 特開2001−233925(JP,A)
【文献】 特開平02−075676(JP,A)
【文献】 特開平01−108256(JP,A)
【文献】 特開2004−063445(JP,A)
【文献】 特開2004−359830(JP,A)
【文献】 特開昭63−260920(JP,A)
【文献】 特開平09−194575(JP,A)
【文献】 特開平06−322350(JP,A)
【文献】 特開2001−049086(JP,A)
【文献】 特開2011−064484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
H01B 1/00
H01B 1/22
H01b 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粉末を60質量%〜92質量%、120g/eq〜1000g/eqの範囲のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂を1質量%〜25質量%、数平均分子量1000〜5000の範囲にある熱可塑性フェノール樹脂を0.1質量%〜20質量%、硬化促進剤を0.01質量%〜5質量%、および、有機液体成分を2質量%〜35質量%含み、25℃における粘度が5Pa・S〜50Pa・Sの範囲にあり、硬化温度が100℃〜200℃の温度範囲にある、導電性接着剤。
【請求項2】
前記熱可塑性フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾール型フェノール樹脂、または、これらの混合物である、請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項3】
前記硬化促進剤が、40℃以下の温度範囲でエポキシ樹脂と熱可塑性フェノール樹脂との硬化反応を促進しない、潜在性硬化促進剤を含む、請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項4】
前記導電性粉末は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、銅から選択される少なくとも1種からなる、請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項5】
前記導電性粉末は、金、銀、白金、パラジウムから選択される少なくとも1種の金属成分により被覆されたニッケル粉末または銅粉末である、請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項6】
前記導電性粉末のタップ密度が2.8g/cm〜6.0g/cmである、請求項1に記載の導電性接着剤。
【請求項7】
導電性粉末が60質量%〜92質量%、120g/eq〜1000g/eqの範囲のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂が1質量%〜25質量%、数平均分子量1000〜5000の熱可塑性フェノール樹脂が0.1質量%〜20質量%、硬化促進剤が0.01質量%〜5質量%および有機液体成分が2質量%〜35質量%となるように、それぞれの組成物の含有量を調整し、これらの組成物の温度を0℃〜40℃の温度範囲に制御し、0.2時間〜10時間、混練することにより、請求項1〜6のいずれかに記載の導電性接着剤を得る、導電性接着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子やチップ部品を、リードフレームなどの基板に接着する際、あるいは、配線を基板に形成する際に用いられる導電性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子、あるいは、チップ抵抗器、チップLEDなどのチップ部品を、リードフレーム、プリント配線基板(PWB)、フレキシブルプリント基板(FPC)などの基板に接着して、電気的または熱的導通を得ようとする場合、Au−Si系はんだまたはSn−Pb系はんだが一般的に使用されている。しかしながら、Au−Si系はんだには、金(Au)が高価であり、応力緩和性や耐熱特性に欠け、さらには、作業温度が比較的高温であるといった問題がある。一方、Sn−Pb系はんだには、鉛(Pb)が人体に有害であり、環境に対する影響を考慮して、その使用が制限されるという問題がある。このため、これらのはんだに代替して、導電性接着剤を使用することが主流になりつつある。
【0003】
また、基板上の配線を、銅箔板のエッチングにより形成することが一般的であるが、この方法では、微細な配線パターンの形成に限界があるため、ジャンパー用、スルーホール用、ビアホール用などの一部の用途における配線の形成(印刷)には、代替的に、導電性接着剤が用いられるようになってきている。
【0004】
半導体素子やチップ部品の小型化や高性能化に伴い、半導体素子やチップ部品自体の発熱量が大きくなっている。また、半導体素子やチップ部品の実装工程や基板上の配線の製造工程において、はんだ浴への浸漬やワイヤボンディングの際に、200℃〜300℃での熱処理が複数回にわたって繰り返される。このため、半導体素子やチップ部品の実装や配線の製造に使用される導電性接着剤には、はんだと同程度の熱伝導性と、200℃〜300℃の温度範囲における耐熱性が要求される。
【0005】
導電性接着剤は、導電性粉末(導電フィラー)、有機樹脂(有機バインダ)、溶剤、触媒などから構成される組成物である。導電性粉末としては、金、銀、銅、ニッケルの金属粉末や、カーボンやグラファイトなどの粉末が用いられる。また、有機樹脂としては、導電性粉末をバインドし、体積収縮により導電性粉末の接続を図ると同時に、被着体との接着および接続を図るためのエポキシ樹脂と、エポキシ樹脂の硬化剤として作用する、分子量100〜900のフェノール樹脂とが用いられる。しかしながら、この導電性接着剤には、耐熱性が十分ではなく、200℃〜300℃での熱処理により、有機樹脂の結合が破壊され、その接着性が極端に低下するという問題がある。
【0006】
このような問題に対して、本出願人は、特許第3975728号公報において、エポキシ樹脂に、耐熱性の高いビスアリルナジイミド樹脂を混合することを提案している。ビスアリルナジイミド樹脂を用いた導電性接着剤は、従来の導電性接着剤と比べて、200℃〜300℃の温度範囲での耐熱性に優れ、かつ、接着性、導電性および熱伝導性についても優れた特性を有する。しかしながら、ビスアリルナジイミド樹脂の硬化温度が200℃〜300℃程度であるため、この導電性接着剤の硬化温度も、一般的に配線基板として用いられる有機樹脂基板の耐熱温度(連続約200℃)よりも高温となるため、この導電性接着剤を配線基板への実装や配線基板の製造に適用することはできない。
【0007】
特開2007−51248号公報でも、有機樹脂として、グリシジルアミン型液状エポキシ樹脂100質量部と数平均分子量200〜10000のビスマレイミド基含有ポリイミド樹脂25質量部〜100質量部とを用いた、導電性接着剤が提案されている。この導電性接着剤は、特定のエポキシ樹脂と特定のポリイミド樹脂とが常温で相溶性を示し、150℃〜260℃の温度範囲で、優れた接着性が実現可能とされている。しかしながら、この導電性接着剤も、その硬化温度が有機樹脂基板の耐熱温度よりも高く、かつ、硬化反応後の硬化物が極めて剛直な構造を有し、力学的衝撃あるいは熱的衝撃を受けた際に、容易にクラックが生じてしまうように、硬化後の応力緩和性に劣ることから、配線基板への適用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3975728号公報
【特許文献2】特開2007−51248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑み、200℃〜300℃の温度範囲での熱処理に対する耐熱性を備え、硬化温度が一般的な有機樹脂基板の耐熱温度よりも低く、かつ、硬化反応後に硬化物にクラックが生じることのない、導電性接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の導電性接着剤は、導電性粉末を60質量%〜92質量%、エポキシ樹脂を1質量%〜25質量%、数平均分子量1000〜5000の熱可塑性フェノール樹脂を0.1質量%〜20質量%、硬化促進剤を0.01質量%〜5質量%、および、有機液体成分を2質量%〜35質量%含むことを特徴とする。
【0011】
前記熱可塑性フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂、クレゾール型フェノール樹脂、または、これらの混合物であることが好ましい。
【0012】
前記硬化促進剤は、40℃以下の温度範囲でエポキシ樹脂と熱可塑性フェノール樹脂との硬化反応を促進しない、潜在性硬化促進剤を含むものであることが好ましい。
【0013】
前記導電性粉末は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、銅から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。前記導電性粉末が、ニッケル粉末または銅粉末である場合には、ニッケル粉末または銅粉末が、金、銀、白金、パラジウムから選択される少なくとも1種の金属成分により被覆されていることが好ましい。
【0014】
前記導電性粉末のタップ密度は、2.8g/cm3〜6.0g/cm3であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の導電性接着剤の製造方法は、導電性粉末が60質量%〜92質量%、エポキシ樹脂が1質量%〜25質量%、数平均分子量1000〜5000の熱可塑性フェノール樹脂が0.1質量%〜20質量%、硬化促進剤が0.01質量%〜5質量%および有機液体成分が2質量%〜35質量%となるようにそれぞれ、0℃〜40℃の温度範囲で、0.2時間〜10時間、混練することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の導電性接着剤は、200℃〜300℃の温度範囲での耐熱性、一般的な有機樹脂基板の耐熱温度よりも低い硬化温度、および、硬化反応後の高い応力緩和性を兼ね備えた、導電性接着剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、導電性接着剤について鋭意検討を重ねた結果、硬化剤として、従来よりも数平均分子量が大きい、すなわち数平均分子量が1000〜5000の範囲にある熱可塑性フェノール樹脂を使用することにより、導電性、接着性、熱伝導性のみならず、耐熱性、低い硬化温度、反応硬化後の高い応力緩和性というすべての特性を備える導電性接着剤を得ることができるとの知見を得て、本発明を完成させるに至ったものである。以下、本発明について詳細に説明をする。
【0018】
1.導電性接着剤
本発明の導電性接着剤は、導電性粉末を60質量%〜92質量%、エポキシ樹脂を1質量%〜25質量%、数平均分子量1000〜5000の熱可塑性フェノール樹脂を0.1質量%〜20質量%、硬化促進剤を0.01質量%〜5質量%、および、有機液体成分を2質量%〜35質量%含むことを特徴とする。
【0019】
(1)組成物
最初に、本発明の導電性接着剤を構成する、それぞれの構成成分について説明する。
【0020】
(1−a)導電性粉末
導電性粉末(導電性フィラー)は、導電性接着剤中においてネットワークを形成し、導電性接着剤に導電性を付与する。
【0021】
本発明の導電性接着剤を構成する組成物において、導電性粉末の含有量は、60質量%〜92質量%、好ましくは65質量%〜90質量%、より好ましくは70質量%〜85質量%である。導電性粉末の含有量が60質量%未満では、十分な導電性および熱伝導性を得ることができない。一方、導電性粉末の含有量が92質量%を超えると、エポキシ樹脂などの他の成分の含有量が低下し、接着強度が低下するなどの問題が生じる。
【0022】
導電性粉末の導電性を十分に確保するためには、導電性粉末の体積抵抗率が1×10-3Ω・cm以下である必要がある。このような導電性粉末として、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、これらの合金、または、これらの混合物からなる金属粉末を使用することができる。なお、これらの金属粉末は、導電性ばかりでなく、熱伝導性にも優れているため、このような観点からも、本発明の導電性粉末として好適に使用することができる。
【0023】
これらの金属粉末のうち、銅粉末およびニッケル粉末については、空気中で、その表面が容易に酸化してしまうという問題がある。このため、これらの銅粉末やニッケル粉末を使用する場合には、その表面を、金、銀、白金、パラジウムなどの空気中で酸化しない金属成分によって被覆することが好ましい。このような被覆がなされていない銅粉末やニッケル粉末を導電性粉末として用いた場合、得られた導電性接着剤について還元雰囲気中で硬化させることが好ましい。
【0024】
導電性粉末の形状は、特に制限されることはなく、フレーク状、球状、針状またはこれらが混合したものを使用することができるが、導電性粉末によるネットワーク構造の構築のしやすさや導電性を考慮すると、フレーク状の導電性粉末を使用することが好ましい。
【0025】
また、導電性粉末の大きさも、特に制限されることはなく、目的とする用途に応じて適宜選択することができるが、印刷性などを考慮すると、導電性粉末の平均粒径が10μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。なお、本発明において、平均粒径とは、それぞれの粒径における粒子数を粒径が小さいほうから累積した場合に、その累積体積が全粒子の合計体積の50%となる粒径(D50)を意味する。平均粒径(D50)を求める方法は、特に限定されないが、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0026】
導電性粉末のタップ密度は、樹脂や溶剤と混練する際の混練のしやすさを考慮すると、好ましくは2.8g/cm3〜6.0g/cm3、より好ましくは3.0g/cm3〜5.5g/cm3、さらに好ましくは3.2g/cm3〜5.0g/cm3とする。タップ密度が2.8g/cm3未満では、導電性粉末が凝集し、粒径の大きな2次粒子が形成されてしまう場合がある。一方、タップ密度が6.0g/cm3を超えると、粒度分布が広くなってしまう場合がある。このため、いずれの場合も、導電性粉末の分散性が低下し、これに伴い、導電性接着剤の導電性や熱伝導性も低下してしまうおそれがある。なお、本発明において、タップ密度とは、JIS Z−2504に基づき、容器に採取した試料粉末を100回タッピングした後の嵩密度を意味する。
【0027】
(1−b)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、熱可塑性フェノール樹脂ともに有機バインダを構成し、熱可塑性フェノール樹脂との反応により硬化し、導電性接着剤に接着性を付与する。
【0028】
本発明の導電性接着剤を構成する組成物において、エポキシ樹脂の含有量は、1質量%〜25質量%、好ましくは2質量%〜15質量%、より好ましくは5質量%〜12質量%とする。エポキシ樹脂の含有量が1質量%未満では、十分な接着性を得ることができない。一方、エポキシ樹脂の含有量が25質量%を超えると、他の構成成分との関係で導電性粉末の含有量が60質量%未満となり、導電性や熱伝導性が低下する。
【0029】
エポキシ樹脂としては、熱可塑性フェノール樹脂との関係で、得られる導電性接着剤の硬化温度を100℃〜200℃の温度範囲に制御することができる限り、特に制限されることはなく、公知のエポキシ樹脂を使用することができる。このようなエポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:170g/eq〜190g/eq、粘度(25℃):3500mPa・s〜25000mPa・s)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq〜220g/eq、軟化点:54℃〜100℃、溶融粘度(150℃):0.5dPa・s〜35.0dPa・s)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量:155g/eq〜180g/eq、粘度(25℃):1100mPa・s〜4500mPa・s)が挙げられる。より具体的には、電子材料の製造や接着に使用されているビスフェノ−ルAジグリシジルエ−テルをはじめとして、ノボラックグリシジルエ−テル、ビスフェノ−ルFジグリシジルエ−テル、エポキシ化大豆油、3,4エポキシ−6メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレ−ト、3,4エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレ−ト、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどを使用することができ、これらの中から2種以上を選択した混合物も使用することができる。
【0030】
ただし、本発明の導電性接着剤が電子材料に使用されることを考慮すると、エポキシ樹脂中における塩素イオンなどのハロゲンイオンの含有量は、800ppm以下に規制することが好ましく、500ppm以下に規制することがより好ましい。また、本発明による導電性接着剤が、導電性粉末、エポキシ樹脂、熱可塑性フェノール樹脂、硬化促進剤および有機液体成分を混練して得られることを考慮すれば、常温で液状のエポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0031】
なお、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは120g/eq〜1000g/eqの範囲、より好ましくは150g/eq〜300g/eqの範囲、さらに好ましくは170g/eq〜190g/eqの範囲である。ここで、エポキシ当量とは、1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量を意味し、(エポキシ樹脂の分子量)/(1分子中のエポキシ基数)によって表される値である。エポキシ当量が上記範囲にあれば、これを用いた導電性接着剤が、適正な粘度と十分な耐熱性を備えることができる。これに対して、エポキシ当量が120g/eq未満では、導電性接着剤の粘度が低くなり、作業性の低下する場合がある。一方、エポキシ当量が1000g/eqを超えると、分子鎖が長くなり、これを用いた導電性接着剤の耐熱性が低下する場合がある。
【0032】
(1−c)熱可塑性フェノール樹脂
熱可塑性フェノール樹脂は、エポキシ樹脂とともに有機バインダを構成し、エポキシ樹脂の硬化剤として機能する。エポキシ樹脂の硬化剤として、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノール系化合物などを広く用いられているが、本発明では、エポキシ樹脂との硬化反応後の硬化物内に、芳香族六員環を取り込ませることで、硬化物に適度に剛直な構造を付与する観点から、特定の熱可塑性フェノール樹脂を使用する必要がある。
【0033】
従来の導電性接着剤でも、エポキシ樹脂の硬化剤として熱可塑性フェノール樹脂が使用されることがあったが、この場合、数平均分子量が100〜900の範囲にある熱可塑性フェノール樹脂が一般的に使用されていた。
【0034】
これに対して、本発明では、熱可塑性フェノール樹脂として、数平均分子量が1000〜5000、好ましくは1500〜4500、より好ましくは2000〜4000の範囲にあるものと使用する点に特徴がある。熱可塑性樹脂の数平均分子量がこのような範囲にある場合、エポキシ樹脂との硬化反応後においても、熱可塑性樹脂の特性が維持されることとなる。すなわち、数平均分子量がこのような範囲にある場合には、熱可塑性フェノール樹脂1分子中に芳香族六員環が適度に密集して存在し、この構造が、エポキシ樹脂との硬化反応によって得られるエポキシ樹脂硬化体に取り込まれることとなる。この結果、硬化反応後の硬化物においても、芳香族六員環が適度に密集して存在することができるため、この硬化物が、適度に剛直な構造を備えたものとなり、耐熱性に優れるばかりでなく、クラックの発生を抑制することが可能となる。さらには、水などの他の分子の侵入が防止されるため、耐湿性や耐薬品性を向上させることも可能となる。
【0035】
熱可塑性フェノール樹脂の数平均分子量が1000未満では、芳香族六員環が密集して存在することができないため、硬化反応後の硬化物が適度に剛直な構造を採ることができず、耐熱性が劣ったものとなる。一方、熱可塑性フェノール樹脂の数平均分子量が5000を超えると、芳香族六員環が極めて密集して存在することとなるため、硬化反応後の硬化物が極めて剛直な構造を採ることになる。この結果、反応硬化後の硬化物は、耐熱性に優れるものの、硬く脆いものとなり、力学的衝撃や熱的衝撃などを受けた場合に、クラックの発生を抑制するこができなくなる。言い換えれば、本発明の導電性接着剤は、上記範囲の数平均分子量を有する熱可塑性フェノール樹脂を用いることにより、エポキシ樹脂の柔軟性と、熱可塑性フェノール樹脂の適度に剛直な構造とのバランスを図り、耐熱性に優れるばかりでなく、クラックの発生を抑制することを可能としている。
【0036】
本発明の熱可塑性フェノール樹脂としては、数平均分子量が上記範囲にある限り、特に制限されることはないが、高い耐湿性や導電性を確保する観点から、ノボラック型フェノール樹脂(水酸基当量:100g/eq〜110g/eq、軟化点:75℃〜125℃)、クレゾール型フェノール樹脂(水酸基当量:110g/eq〜120g/eq、軟化点:80℃〜130℃)、またはこれらの混合物を使用することが好ましい。
【0037】
本発明の導電性接着剤を構成する組成物中、熱可塑性フェノール樹脂の含有量は、0.1質量%〜20質量%とすることが必要である。熱可塑性フェノール樹脂の含有量が0.1質量%未満では、十分な接着強度を得ることができない。一方、熱可塑性フェノール樹脂の含有量が20質量%を超えると、他の組成物との関係で導電性粉末の含有量が60質量%未満となり、導電性や熱伝導性が低下する。なお、熱可塑性フェノール樹脂の含有量は、室温での接着強度や耐熱強度をさらに向上させる観点から、1質量%〜15質量%とすることが好ましく、3質量%〜10質量%とすることがより好ましい。
【0038】
なお、エポキシ樹脂として、エポキシ当量が120g/eq〜1000g/eqの範囲にあるものを使用する場合、熱可塑性フェノール樹脂の水酸基当量(OH当量)は、溶剤の状態で、好ましくは100g/eq〜200g/eqの範囲、より好ましくは100g/eq〜160g/eqの範囲、さらに好ましくは100g/eq〜120g/eqにあるものを使用する。ここで、OH当量とは、1当量のOH基を含む熱可塑性フェノール樹脂の質量を意味し、(熱可塑性フェノール樹脂の分子量)/(1分子中のOH基数)によって表される値である。
【0039】
(1−d)硬化促進剤
硬化促進剤は、高温で反応が開始しないものほど安定した保存性を発揮できるため、硬化反応を促進する温度範囲が高温であるものを使用することが好ましい。
【0040】
このような硬化促進剤としては、好ましくは40℃以下の温度範囲、より好ましくは60℃以下の温度範囲、さらに好ましくは70℃以下の温度範囲で、エポキシ樹脂と熱可塑性フェノール樹脂との硬化反応を促進しない、硬化促進剤(以下、「潜在性硬化促進剤」という)を好適に使用することができる。このような潜在性硬化促進剤を使用することにより、本発明では、数平均分子量が1000〜5000の熱可塑性フェノール樹脂を使用した場合であっても、導電性粉末をはじめとする組成物を均一に混練することが容易となる。この結果、硬化反応後の硬化物全体にわたって、導電性粉末によるネットワーク構造を構築することができ、導電性接着剤の導電性および熱伝導性をより優れたものとすることができる。一方、硬化促進剤として、0℃〜40℃の温度範囲でエポキシ樹脂と熱可塑性フェノール樹脂との硬化反応を促進するものを使用する場合には、導電性接着剤を構成する組成物を均一に混練することが困難となる。
【0041】
潜在性硬化促進剤としては、たとえば、トリフェニルホスフィンやイミダゾール類の2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾ−ル、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾ−ル、2−ヘプタデシルイミダゾ−ルなどが挙げられる。
【0042】
本発明の導電性接着剤を構成する組成物中、硬化促進剤の含有量は、0.01質量%〜5質量%とすることが必要である。硬化促進剤の含有量が0.01質量%未満では、十分な接着強度を得ることができない。一方、硬化促進剤の含有量が5質量%を超えると、硬化時間が短くなるため、本発明による導電性接着剤を得るための混練時間が不足する。なお、硬化促進剤の含有量は、室温での接着強度や耐熱強度をさらに向上させる観点から、0.2質量%〜3.0質量%とすることが好ましい。
【0043】
(1−e)有機液体成分
有機液体成分は、導電性接着剤の粘度調整剤として使用されるものである。また、固体状のエポキシ樹脂や固体状の熱可塑性フェノール樹脂を使用する場合には、これらの溶剤として使用されるものである。
【0044】
本発明の導電性接着剤を構成する組成物中、有機液体成分の含有量は、2質量%〜35質量%、好ましくは3質量%〜30質量%、より好ましくは4質量%〜20質量%とする。有機液体成分の含有量が2質量%未満では、(1―a)〜(1−d)の組成物を均一に混練することが困難となる。一方、有機液体成分の含有量が35質量%を超えると、得られる導電性接着剤の粘度が低くなりすぎるため、この導電性接着剤を均一に塗布または印刷することができなくなる。
【0045】
有機液体成分としては、混練時に溶解が必要な導電性接着材の組成物、具体的には、エポキシ樹脂や熱可塑性フェノール樹脂などと溶解性があるものを用いる。このような有機液体成分としては、たとえば、エポキシ樹脂および硬化剤と反応しない、2,2,4−トリメチル3−ヒドロキシジペンタンイソブチレ−ト、2,2,4−トリメチルペンタン1,3−イソブチレ−ト、イソブチルブチレ−ト、ジエチレングリコールモノブチルエ−テル、エチレングリコールモノブチルエ−テルなどを使用することができる。また、加熱時に、エポキシ樹脂および熱可塑性フェノール樹脂などと反応する、フェニルグリシジルエ−テル、エチレングリコールジグリシジルエ−テル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、エチルヘキシルグリシジルエ−テルや、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなども使用することができる。
【0046】
(1−f)その他
本発明の導電性接着剤は、上述した(1―a)〜(1−e)の組成物を必須のものとするが、その用途に応じて、他の組成物を適宜添加することもできる。たとえば、導電性接着剤の粘度を調整するために、液体以外の有機物からなる粘度調整剤や、細かいセラミック粉末を添加することができる。このような粘度調整剤としては、たとえば、脂肪酸アマイド類や酸化ポリオレフィン類などの有機系物質、比表面積が10m2/g〜500m2/gの範囲にあるシリカ粉末やカーボン粉末などのセラミック粉末を挙げることができる。また、導電性を向上させること、すなわち、低い抵抗値を有する導電性接着剤を得ることを目的として、有機酸類やホルムアルデヒドなどの液状添加剤を添加することもできる。さらに、導電性粉末として、ニッケル粉末または銅粉末を使用する場合には、これらの酸化を防止するために、オレイン酸などの酸化防止剤を添加することもできる。
【0047】
このほか、本発明の導電性接着剤では、上述したエポキシ樹脂の柔軟性と熱可塑性フェノール樹脂の適度に剛直な構造とのバランスを崩さない範囲で、エポキシ樹脂の硬化剤として、上述した熱可塑性フェノール樹脂以外の硬化剤を、熱可塑性フェノール樹脂と混合して使用することもできる。このような硬化剤としては、ジシアンジアミド、酸無水物系硬化剤、エポキシアミンダクト化合物などを挙げることができる。この場合、熱可塑性フェノール樹脂と熱可塑性フェノール樹脂以外の硬化剤との比率を、10:0.1〜3.0程度とすることが好ましい。
【0048】
ただし、これらの成分を添加する場合には、その含有量は3質量%未満、好ましくは1質量%未満とする。これらの添加成分の含有量が3質量%を超えると、(1―a)〜(1−e)の組成物との関係で、本発明の目的を達成することができなくなる場合がある。
【0049】
(2)導電性接着剤の特性
本発明の導電性接着剤は、上述したように、(1−a)〜(1−e)または(1−a)〜(1−f)の組成物の含有量が適切に制御され、かつ、これらの組成物が均一に分散しているため、従来の導電性接着剤と同等またはそれ以上の接着性、導電性および熱伝導性を備えている。
【0050】
また、硬化反応後において、適度に剛直な構造を備えているため、優れた耐熱性および耐クラック性を有する。さらに、このような構造は、水などの他の分子が侵入することを効果的に防止することができるので、耐湿性や耐薬品性にも優れているということができる。
【0051】
加えて、本発明では、特定のエポキシ樹脂と熱可塑性フェノール樹脂、または、これらと硬化促進剤との組み合わせにより、得られる導電性接着剤の硬化温度を100℃〜200℃、好ましくは100℃〜180℃、より好ましくは100℃〜150℃とすることができる。すなわち、本発明の導電性接着剤の硬化温度は、一般的な有機樹脂基板の耐熱温度(200℃程度)よりも低温となるため、これらの有機樹脂基板に対しても好適に使用することができる。なお、導電性接着剤の硬化温度とは、導電性接着剤が加熱されることにより反応し、3次元構造または網状構造となり硬化する温度をいう。硬化反応後においては、導電性接着剤の各種特性は安定するため、熱分析装置などを用いて加熱温度と加熱時間を変えながら硬化反応を進行させ、各条件における導電性接着剤の各種特性を測定することで、硬化温度を求めることができる。
【0052】
また、本発明の導電性接着剤では、その硬化時間を、好ましくは1分〜180分、より好ましくは1分〜60分とすることができる。硬化時間が1分未満では、導電性接着剤の保存安定性が劣る場合がある。一方、180分を超えると、導電性接着剤を塗布または印刷してから硬化するまでの時間が長すぎるため、生産性が悪化してしまう。
【0053】
さらに、本発明の導電性接着剤は、室温(25℃)における粘度が、5Pa・s〜50Pa・sに調整されることが好ましく、10Pa・s〜40Pa・sに調整されることがより好ましい。導電性接着剤の粘度が上記範囲から外れると、基板上に均一な厚さで、導電性接着剤を塗布(印刷)することができなくなるおそれがある。なお、導電性接着剤の粘度は、HBT型回転粘度計により測定することができる。
【0054】
2.導電性接着剤の製造方法
次に、本発明の導電性接着剤の製造方法について説明をする。なお、本発明の導電性接着剤の製造方法は、基本的には従来技術の導電性接着剤の製造方法と同様であるため、以下では、本発明の特徴的部分について説明をする。
【0055】
本発明の導電性接着剤の製造方法は、上述したように硬化剤として、従来のものよりも数平均分子量が大きい熱可塑性フェノール樹脂を使用することを特徴とする。具体的には、導電性粉末が60質量%〜92質量%、エポキシ樹脂が1質量%〜25質量%、数平均分子量1000〜5000の熱可塑性フェノール樹脂が0.1質量%〜20質量%、硬化促進剤が0.01質量%〜5質量%および有機液体成分が2質量%〜35質量%となるように、それぞれの組成物の含有量を調整して、これらの組成物の温度を0℃〜40℃の温度範囲に制御し、0.2時間〜10時間程度、混練することを特徴とする。なお、上記組成物に加えて、粘度調整剤や酸化防止剤などを添加する場合には、その含有量が3質量%以下となるように調整することが必要となる。これにより、上述した特性を有する導電性接着剤を容易に得ることができる。
【0056】
混練時において、組成物の温度は0℃〜40℃、好ましくは10℃〜30℃、より好ましくは15℃〜30℃の温度範囲に制御することが必要である。組成物の温度が0℃未満では、混練時の粘度が高くなりすぎるため、組成物が均一に分散させることができない。一方、組成物の温度が40℃を超えると、液体成分の揮発量が増加し、混練中に粘度を一定に保つことが困難となる。
【0057】
混練時間は、組成物中の各成分が均一に分散される限り、特に制限されることはないが、概ね0.2時間〜10時間程度、好ましくは0.2時間〜4時間程度、混練すれば十分である。
【0058】
また、本発明の導電性接着剤の製造方法において、これを構成する組成物の混練手段は、特に限定されることなく公知の手段を採用することができる。具体的には、遠心撹拌ミキサ、プラネタリミキサ、三本ロール型混練機などを採用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0060】
(実施例1〜16、比較例1〜10)
導電性接着剤の組成物として、表1に記載される導電性粉末、エポキシ樹脂、熱可塑性フェノール樹脂、硬化促進剤、有機液体成分、添加材およびセラミック粉末を用意した。表2に記載されるように、それぞれの組成物の含有量を調整し、三本ロール型混練機(株式会社井上製作所)を用いて混練することにより、導電性接着剤を得た。このときの組成物の温度および混練時間は表2に示す通りであった。なお、実施例7および8では、導電性粉末として使用したニッケル粉末または銀被覆ニッケル粉末の酸化防止を目的としてオレイン酸を、実施例9では導電性接着剤の粘度調整を目的としてセラミック粉末(シリカ粉末)をさらに添加した。
【0061】
このようにして得られた導電性接着剤の粘度を、HBT型粘度計(ブルックフィールド社製)を用いて測定した。また、硬化温度および硬化時間を、オーブン炉とストップウォッチを用いて測定した。これらの結果を表3に示す。
【0062】
[導電性試験]
アルミナ基板上の2mm離れた電極間に、この電極に重ねて、2mm×5mmの長方形状に導電性接着剤を印刷し、これを150℃のオ−ブン中に60分間放置し、導電性接着剤を硬化させた後、室温まで冷却することによりサンプルを得た。このサンプルの電極間の面積抵抗値R(mΩ)を、デジタルマルチメータ(株式会社アドバンテスト)を用いて測定した。次に、アルミナ基板上に印刷した導電性接着剤の膜厚t(μm)を測定した。そして、これらの値を、ρ=R×t×10-8に代入することにより、体積抵抗率ρ(Ω・cm)を求め、導電性の評価を行った。
【0063】
[接着強度試験]
銀メッキを施した2.5cm×2.5cmの銅基板上に、導電性接着剤を滴下し、その上に1.5mm角のシリコンチップを20個載せた。これを150℃のオ−ブン中に60分間放置し、導電性接着剤を硬化させ、シリコンチップが固定されたことを確認した後、室温まで冷却することによりサンプルを得た。このサンプルの表面のシリコンチップに対して水平方向から力を加え、このシリコンチップが銅基板から剥離したときの力(以下、「接着強度」という)を、接着強度試験機(株式会社イマダ製)を用いて測定した。20個のサンプルに対して同様の試験を行い、それぞれについて接着強度を測定し、これらの平均値を接着強度Fとして求め、室温における接着性の評価を行った。
【0064】
[耐熱強度試験]
接着強度試験と同様にして得られたサンプルを、280℃に加熱したホットプレートの上に20秒間放置した後、加熱状態のまま、サンプルの表面のシリコンチップに対して水平方向から力を加え、このシリコンチップが銅基板から剥離したときの力(以下、「耐熱強度」という)を、ハンディフォースゲージを用いて測定した。20個のサンプルに対して同様の試験を行い、それぞれについて耐熱強度を測定し、これらの平均値を第一耐熱強度F280として求め、280℃における耐熱性の評価を行った。また、前記ホットプレートの加熱温度を350℃としたこと以外は同様にして試験を行い、このときの耐熱強度の平均値を第二耐熱強度F350として求め、350℃における耐熱性の評価を行った。
【0065】
[耐湿性試験]
サンプルとして、厚さ100μm、1cm×1cmの正方形状の導電性接着剤の膜を10個作製し、乾燥質量(W1)を測定した。次に、このサンプルを、温度85℃、湿度85%に保持した高温槽に120時間放置して、槽内の水分を吸湿させた。所定時間経過後、サンプルを高温槽から取り出し、吸湿後の質量(W2)を測定した。これらの値から、次式の吸湿率Wを求め、耐湿性の評価を行った。
吸湿率(%):W=(W2−W1)/W1×100
【0066】
[ヒートサイクル試験]
銀めっきを施した2.5cm×2.5cmの銅基板上に、厚さ100μm、1cm×1cmの正方形状に導電性接着剤を印刷し、これを150℃のオ−ブン中に60分間放置し、導電性接着剤を硬化させた後、室温まで冷却することによりサンプルを得た。このサンプルに対して、−40℃の環境下に30分間放置した後、150℃の環境下に30分間放置するサイクルを、500サイクル繰り返すヒートサイクル試験を行った。ヒートサイクル試験の終了後、電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6510)を用いて、クラックや剥離の有無を観察し、耐クラック性の評価を行った。
【0067】
[総合評価]
上述の6つの評価項目(ρ、F、F280、F350、W、耐クラック性)に対して、体積抵抗率ρが1×10-3Ω・cm以下、接着強度Fが35N以上、第一耐熱強度F280が25N以上、第二耐熱強度F350が15N以上、吸湿率Wが0.2%以下という要件を満たすとともに、クラックや剥離が発見されず、かつ、工業的に利用することができると判断したものを「良(○)」と評価した。一方、上述の要件を1つでも満たさないもの、クラックや剥離が発見されたもの、あるいは、上記要件を満たしており、クラックや剥離が発見されないものであっても、硬化時間が1分〜180分の範囲になく、工業的に利用することができないと判断したものを「不良(×)」と評価した。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
(評価)
表3から、本発明の技術的範囲に属する実施例1〜16の導電性接着剤は、導電性(熱伝導性)、接着性、耐熱性、耐湿性、耐クラック性のいずれについても優れた特性を示すことが確認された。ただし、実施例14は、実施例1〜13および16に比べてエポキシ樹脂の含有量が多く、導電性粉末(銀粉末a)の含有量が少ないため、総合評価では「良」であるものの、体積抵抗率ρが高い値となっていた。また、実施例15は、実施例1〜13および16に比べて導電性粉末(銀粉末b)の含有量が多く、エポキシ樹脂の含有量が少ないため、接着強度Fが低い値となっていた。
【0072】
なお、実施例1〜16の導電性樹脂の硬化温度は、いずれも120℃〜180℃の温度範囲にあり、一般的な有機樹脂基板の耐熱温度よりも低温であることが確認された。また、その硬化時間も適切な範囲にあることが確認された。したがって、本発明の導電性接着剤は、一般的な有機樹脂基板に対しても使用可能であり、かつ、工業的に利用可能であるということができる。
【0073】
これに対して、比較例1〜10の導電性接着剤は、導電性、接着性、耐熱性、耐湿性、耐クラック性の少なくとも1つにおいて、目的とする特性を達成することができなかった。
【0074】
比較例1〜5は、熱可塑性フェノール樹脂の数平均分子量が本発明に規定する範囲から外れる例である。比較例1〜3では、数平均分子量が1000未満の熱可塑性フェノール樹脂eを使用したため、第一耐熱強度F280および第二耐熱強度F350のいずれもが低い値となり、吸湿率Wも0.2%を超えてしまった。なお、比較例3の導電性接着剤では、第一耐熱強度F280が25Nを超えているが、これはエポキシ樹脂aとエポキシ樹脂bとの組み合わせにより、第一耐熱強度F280が若干向上したためと考えられる。一方、第ニ耐熱強度F350はいずれも15N未満となっており、このことから、熱可塑性フェノール樹脂eを使用した場合には、高温域での耐熱性を十分に向上させることができないことが分かる。比較例4では、同様に、数平均分子量が1000未満の熱可塑性フェノール樹脂fを使用したため、第一耐熱強度F280および第二耐熱強度F350のいずれもが低い値となっている。比較例5では、数平均分子量が5000を超える熱可塑性フェノール樹脂gを使用したため、十分に混練することができず、接着強度Fが低い値となった。また、硬化反応後のエポキシ樹脂硬化体が極めて剛直な構造となり、硬く脆すぎたため、クラックの発生が認められた。
【0075】
比較例6および7は、導電性粉末の含有量が本発明に規定する範囲から外れる例である。比較例6は、導電性粉末(銀粉末a)の含有量が少なすぎたため、接着強度Fは十分であるものの、体積抵抗率ρが高い値を示した。また、第1耐熱強度F280および第2耐熱強度F350も低い値となった。一方、比較例7は、導電性粉末(銀粉末b)の含有量が多すぎたため、相対的にエポキシ樹脂aと熱可塑性フェノール樹脂aの含有量が少なくなり、接着強度F、第一耐熱強度F280および第二耐熱強度F350が低い値となった。なお、比較例7では、導電性粉末の含有量が多いにも関わらず、体積抵抗率ρが比較的高い値を示している。これは、導電性粉末の含有量に対して、エポキシ樹脂aおよび熱可塑性フェノール樹脂aの含有量が少なすぎたため、組成物が均一に混練されず、導電性粉末によるネットワークが十分に構築されなかったためと考えられる。
【0076】
比較例8および9は、硬化促進剤の含有量が本発明に規定する範囲から外れる例である。比較例8では、体積抵抗率ρ、接着強度F、第一耐熱強度F280、第二耐熱強度F350および吸湿率Wのすべてが上記基準値を満たしており、クラックも発見されなかった。しかしながら、硬化促進剤の含有量が5.0質量%を超えていたため、硬化時間が短く、この導電性接着剤を所定の位置に塗布する前に硬化が進行してしまった。また、保管も困難であり、工業的に利用することができないことが確認された。比較例9では、硬化促進剤を含有しなかったため、エポキシ樹脂aと熱可塑性フェノール樹脂aとの硬化反応が促進されず、接着強度Fが低い値となった。また、加熱により軟化してしまったため、第一耐熱強度F280および第二耐熱強度F350の値が0となった。さらに、吸湿率Wも高い値となった。
【0077】
比較例10は、製造条件が本発明に規定する範囲から外れる例である。比較例10では、混練時の組成物の温度が40℃を超えていたため、混練中に液体成分の揮発量が多く、粘度が高くなってしまった。