(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、高画質なディスプレイの研究開発が進められている。次世代のディスプレイには低コストと色彩(CRT以上の精細さ)が求められる。色彩を得るディスプレイ技術は自発光型であり、エレクトロルミネセンス(EL)とカソードルミネセンス(CL、電子線により励起するカソードルミネッセンス、電界放出陰極形発光)方式が挙げられる。ELディスプレイは、低消費電力で非常に高い色彩が得られるが、発光体の寿命と大面積化において問題がある。一方、カソードルミネセンス(CL)については、FED(Field Emission Display、電界放出ディスプレイ)やSED(表面伝導型電子放出素子ディスプレイ)が挙げられ、低消費電力でブラウン管テレビ以上の高精細が得られる。CLは低消費電力であるが、粒子状蛍光体を使用するため色むらが発生し、また劣化が激しい等の問題がある。
【0003】
FEDは、電圧を加えると電子を放出する冷陰極を画素毎に多数並べ、該冷陰極を蛍光体と向い合わせた構造を有する。FEDは、冷陰極から放出される電子を真空中で加速して蛍光体を光らせるので、発光効率が高く低消費電力化が期待できる。FEDは、CRTと同じ発光原理で画像を得るものであり、陰極から電子を取り出して、陽極に塗布した蛍光体に衝突させて発光させる構造であり、陰極の構造が、CRTが点電子源を使うのに対して、FEDは面状の電子源を使う点で異なる。また、CRTは陰電極部分にフィラメント等の熱陰極を使用しているが、FEDは熱を加えることなく電子を放出することから冷陰極方式ともいわれる。FEDは、TFT−LCD(液晶ディスプレイ)と比べ、視野角(上下、左右160度)、応答速度(数μsec)等の利点がある。また、FEDは、CRTに比べ薄型でフラットなディスプレイが可能であるが、原理がCRTに似ているので、発色がよく画像も鮮明である。
【0004】
図8に、FED素子を示す(特許文献1参照)。FED素子は、微小電界放出陰極アレイと、該電界放出陰極と対面するように設けられる透明基板10と、その下面に積層されたアノード電極15と蛍光体層14とを備える。微小電界放出陰極アレイは、基板上に絶縁膜7が被着され、さらにゲート電極30が形成され、ゲート電極30と絶縁膜7にはコーン(円錐型エミッター)用空孔13が形成され、空孔底面に露出したカソード電極16の上にコーン(円錐型エミッター)12が垂直蒸着等により形成されている。アノード電極15は例えばITO(In
2O
3−SnO
2)等の透明導電膜で形成され、蛍光体層14は例えばZnO:Znからなる膜で形成されている。アレイ状のFED素子は、微小電界放出陰極アレイの基板と、蛍光体層を設けた基板10とを、1000μm程度の間隔をあけて対向配置して密封し、内部を高真空にして構成される。FED素子アレイの駆動制御は、アノード電極15に、制御回路200により選択された特定のカソード電極16のコーン12のみから電子を放出するようにして行われ、電子がゲート電極30により加速され、アノード電極15の上に形成された蛍光体層14に衝突して発光させる。
図8に矢印で示すように、発光は、基板10を透過して発光する。
【0005】
カソードルミネセンス(CL)に使用する電子励起用蛍光体のうち赤色蛍光体としては、硫化亜鉛(ZnS)やY
2O
2S:Eu等の粉末状の硫化物系蛍光体が用いられ、陰極線管(CRT)用赤色蛍光体として実際に用いられている。
【0006】
また、非特許文献1では、ペロブスカイト型チタン酸ストロンチウムを母体とし、プラセオジウム及びアルミニウムを含むことを特徴とする粉末状の赤色蛍光体によって、電子線励起で赤色発光が得られることが示されている。非特許文献2では、多結晶体Pr原子置換であるPr
y(Ca
xSr
1-x)
1-yTiO
3、但し0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05の領域で、紫外線励起の発光として、優れた赤色蛍光特性が得られたことが示されている。
【0007】
本発明者は、酸化物ペロブスカイト型蛍光体の研究開発を行ってきた。ぺロブスカイト型酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜Pr−(Ca,Sr)TiO
3を、パルスレーザー堆積法によって、片面研磨SrTiO
3単結晶基板上にエピタキシャル成長させ、その蛍光特性を調べた。その結果、エピタキシャル薄膜で、紫外線励起の発光として赤色の蛍光特性が得られた(非特許文献3参照)。また、Pr
y(Ca
xSr
1-x)
1-yTiO
3、但し0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05の領域の組成の酸化物蛍光体エピタキシャル薄膜、典型的には、(Ca
0.6Sr
0.4)
0.998Pr
0.002TiO
3薄膜を用いて、赤色に発光する無機EL素子を開発した(特許文献3参照)。
【0008】
本願に関連した先行文献調査をしたところ、次のような特許文献があった。特許文献2には、ペロブスカイト型チタン酸カルシウム・ストロンチウムを母体とし、プラセオジウム及び亜鉛を含む赤色蛍光体が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
FEDに用いられる蛍光体には、FED素子の構造上及び消費電力の面から、低電圧加速(電子進入深さが数十〜数百nm)で十分な発光中心が存在すること、発光効率が高いこと、及び発光特性が安定であることが要求される。しかしながら、従来のCRT用蛍光体は、広範囲な粒径(数ミクロン〜数十ミクロン)の粒子が混在しているため、また、粒径が平均10ミクロン以上であるので、FEDに要求されている低電圧加速電子では発光中心を均一かつ一様に効率よく励起することができないという問題がある。
【0012】
従来、電子線励起用の赤色蛍光体として用いられている蛍光体は、粉末状の硫化物系蛍光体である。しかしながら、これら粉末の硫化物系赤色蛍光体は、電子線照射により、化学的に不安定のため分解してしまう等、特性劣化が顕著である。また、粒子径にある程度の分布があるために発光に色むらが生じ、その結果ディスプレイとして長期利用に耐えられない問題及び高精細が困難であるという問題がある。
【0013】
また、ペロブスカイト型酸化物を母体とする特許文献2の赤色蛍光体は、焼成物を粉砕して塗布する、と記載されているように、粉末状である。また、非特許文献1の赤色蛍光体も粉末状である。粉末状の蛍光体は既に述べたように、粒子径に分布が生じ、色むらが発生するという問題がある。
【0014】
従来、Pr−(Ca,Sr)TiO
3(以下、Pr−CSTOともいう。)蛍光体エピタキシャル薄膜においては、紫外線などの光を蛍光体に照射することによって発光する現象であるフォトルミネッセンス(PL)は知られている(非特許文献2、3参照)。また、Pr−CSTO蛍光体エピタキシャル薄膜においては、蛍光体に電界を印加することによって発光する現象(EL)は知られている(特許文献3参照)。一方、カソードルミネセンス(CL)は蛍光体に電子線を照射することによって発光を得るものである。PL、EL、CLは、それぞれ発光に起因する手法が外部からの光、電界、電子線とまったく異なった手法であるため、PL、EL、CLはそれぞれが独立しており、何ら因果関係はなく、いずれかで発光したとしても他の手法で発光するかは予測できないものと考えられている。PL、ELが知られているPr−CSTO蛍光体エピタキシャル薄膜において、CLは実現されていなかった。
【0015】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、本発明は、低電圧加速電子によって効率良く発光する発光素子を提供することを目的とする。また、本発明は、色むらがなく、高効率かつ長寿命な発光素子を提供することを目的とする。また、本発明は、本発明の発光素子をアレー状に複数個備える超高精細ディスプレイ等の発光装置を提供することを目的とする。また、電子線励起により赤色に発光する赤色蛍光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有するものである。
【0017】
本発明の発光素子は、基板と、該基板上の少なくともCa、Sr、Ti及びPrを含むペロブスカイト型酸化物薄膜からなる電子線励起用蛍光体と、該蛍光体に電子を照射する電子線源とを備えることを特徴とする。具体的には、前記基板が単結晶基板であることが好ましい。また、前記ペロブスカイト型酸化物薄膜がエピタキシャル膜であることが好ましい。
【0018】
本発明の発光素子は、基板と、該基板上の少なくともCa、Sr、Ti及びPrを含むペロブスカイト型酸化物薄膜からなる電子線励起用蛍光体と、該酸化物薄膜上の透明導電膜と、該蛍光体に電子を照射する電子線源とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の発光素子は、基板と、該基板上の電子線励起用蛍光体と、該蛍光体に電子を照射する電子線源とを備える発光素子であって、前記電子線励起用蛍光体は、透明導電体層を介して少なくともCa、Sr、Ti及びPrを含むペロブスカイト型酸化物薄膜が複数積層されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の発光装置は、本発明の発光素子をアレー状に複数個備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の電子線励起用蛍光体は、Pr
y(Ca
xSr
1−x)
1-3y/2TiO
3(但し、0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05)の組成を有するペロブスカイト型酸化物薄膜を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電子線励起用蛍光体としての層は、少なくともCa、Sr、Ti及びPrを含むペロブスカイト型酸化物の組成であって、かつ薄膜からなるので、従来の粉末を塗布した層とは異なり、色むらがない。薄膜蛍光体は高解像度FEDを実現できる可能性がある。従来の粉末の蛍光体は、粒子自体は結晶であるが、粒子の表面に結晶ではないあまり発光に寄与しない層が存在するので発光効率が悪くなってしまうと考えられる。これに対して、本発明の蛍光体薄膜は、発光効率が悪化する層が存在しないので、長寿命が期待できる。その結果、高効率で長寿命の超高精細ディスプレイの実現が期待できる。
【0023】
本発明によれば、少なくともCa、Sr、Ti及びPrを含むペロブスカイト型酸化物薄膜からなるので、結晶性が良く、電子線が照射された際にエッチングされにくいので長寿命が期待できる。
【0024】
本発明によれば、少なくともCa、Sr、Ti及びPrを含むペロブスカイト型酸化物薄膜を蛍光体としているので、特に電界放出型ディスプレイ(FED)用に好適な赤色蛍光体薄膜として機能する。
【0025】
本発明においては、前記ペロブスカイト型酸化物薄膜がエピタキシャル膜であるので、より結晶性が高く、透過率が高い。また、本発明によれば、電子線の加速電圧の増加に伴い発光輝度を増加させることができる。また、本発明によれば、電子線の照射電流に応じて発光輝度を増加させることができる。
【0026】
本発明のように、蛍光体薄膜に透明導電膜を設けたり、蛍光体薄膜を透明導電膜を介して設けたりすることにより、蛍光体薄膜に電気導電性を付与させることができ、その結果電子が流れやすくなるので、ペロブスカイト型酸化物薄膜がチャージアップすることなくカソードルミネッセンスが生じやすくなって、発光輝度が向上する。
【0027】
以上のように、本発明によれば、高輝度化の効果が大である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態について以下説明する。
本発明の電子線励起用蛍光体は、少なくともCa、Sr、Ti及びPrを含むペロブスカイト型酸化物薄膜からなる。本発明の電子線励起用蛍光体は、(Ca,Sr)TiO
3:Pr
3+で表され、(Ca,Sr)の一部をPrで置換している意味であり、Pr−CSTOとも記載される。本発明のペロブスカイト型酸化物は、Pr
y(Ca
xSr
1-x)
1-3y/2TiO
3(但し、0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05)であることが好ましい。
【0030】
本発明の実施の形態では、x=0.6、y=0.002の場合について、電子線励起による蛍光特性を調べた。少なくともCa、Sr、Ti及びPrを含むペロブスカイト型酸化物の赤色蛍光体の発光において、x=0.6、y=0.002を中心にした領域である、0.1≦x≦1.0、0.0005≦y≦0.05の領域が、優れた赤色蛍光が得られる範囲である。この範囲をはずれると、顕著な赤色蛍光がなくなる。
【0031】
本発明の実施の形態では、(Ca
0.6Sr
0.4)
0.997Pr
0.002TiO
3を例に説明する。(Ca
0.6Sr
0.4)
0.997の( )内の元素の価数は+2価、Prの価数は3価であり、ぺロブスカイト型酸化物の化学式はABO
3で酸素の数を丁度3.0にして電気的中性条件を満たすため、Prが0.002として、酸素量が3.0としている。( )内総置換価数2価×0.003=0.006、Prの総置換価数3価×0.002=0.006となるので、置換前後の価数変化がなく、電気的中性条件が満たされている。
【0032】
本発明の蛍光体に電子を照射する電子線源は、公知の電子線励起の電子線源の構造をとることができる。例えば
図8のFED素子のエミッターである。また、
図8の構造では、透明基板の上に(アノード電極としての)透明電極層を設けてからその上に蛍光体層を設けているが、本発明では、アノード電極層を蛍光体層のエミッター側に配置する構造とするとよい。
【0033】
本発明の基板は、単結晶基板であり、例えばSrTiO
3単結晶基板である。透明でかつペロブスカイト型酸化物薄膜がエピタキシャル成長可能な基板であればよい。単結晶基板の両面を研磨した基板の片面上にエピタキシャル膜を成膜する。両面研磨基板を用いることにより、基板の透明性が向上するので、電子線励起による発光を反対側に引き出すことができる。
【0034】
本発明のエピタキシャル膜は、パルス堆積法、CVD、スパッタリング、スピンコート法により作製することができる。パルス堆積法を用いることにより結晶性に優れ高い輝度を得ることができる。本発明のエピタキシャル膜を作製するにあたり、600℃以上800℃以下の温度で成膜し、その後酸素中又は大気中で900℃以上1200℃以下で熱処理することにより、結晶性がよくなり蛍光特性が向上する。
【0035】
本発明のペロブスカイト型酸化物蛍光体のエピタキシャル膜は、300nm以上2000nm以下の膜厚を有することが好ましい。300nmより薄いと高い輝度が得られず、2000nmより厚いと薄膜の透明性が減少し、電子線励起発光の反対側への光の引き出し効率が下がる。
【0036】
本発明において、酸化物薄膜上に設ける透明導電膜は、透明で導電性がある材料であれば使用できるが、例えば、ATO(Sb置換−SnO
2)、ITO(酸化インジウム・スズ)、酸化亜鉛等が好ましい。本発明において、電子線励起用蛍光体中に中間層として設けられる透明導電体層についても、透明で導電性がある材料であれば使用できるが、例えば、ATO(Sb置換−SnO
2)、ITO(酸化インジウム・スズ)、酸化亜鉛等が好ましい。
【0037】
本発明の発光素子において、Pr−CSTO薄膜付き基板、又は透明導電膜をさらに付加したPr−CSTO薄膜付き基板が、透過率60%以上であることが好ましい。
【0038】
本発明の発光装置は、発光素子をアレー状に複数個備える構造を有し、例えば、FED素子、FED素子を利用した照明装置、あるいはそれを利用したFEDディスプレイである。
【0039】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態の発光素子について、図を参照して以下説明する。
図1に、本実施の形態の発光素子の概略構造と、発光素子の輝度特性を計測するための輝度計4と波長スペクトルを計測するための分光蛍光光度計5を示す。本実施の形態の発光素子は、少なくとも、電子線源となるエミッター3と、ペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜2と、薄膜2を形成するための単結晶基板1とからなる。エミッターから出射される電子を太い矢印で示す。電子線源となるエミッターは、例えば、
図8に示すFED素子のエミッターと同様な構造をとることができ、又は、その他公知の電子線励起の電子線源の構造をとることができる。電子線をペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜2に入射し、電子線によって励起された発光を、基板1の、蛍光体薄膜2の付着面とは反対側の面から取り出す。
【0040】
単結晶基板1は、両面研磨したSrTiO
3単結晶基板(厚さ0.5mm)を用いた。ペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜2は、組成が(Ca
0.6Sr
0.4)
0.997Pr
0.002TiO
3で、厚さ500nmであった。
【0041】
本実施の形態の発光素子の製造方法について以下説明する。ペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜の作製にはパルスレーザー堆積法(PLD)を用いた。両面研磨SrTiO
3(001)単結晶基板上に、化学量論組成で合成した(Ca
0.6Sr
0.4)
0.997Pr
0.002TiO
3(以下Pr−CSTO)をセラミックターゲットとし、基板温度600℃、酸素圧50Paで成長を行った。その後、大気中、1000℃で5時間熱処理を行った。
【0042】
X線回折(XRD)及び反射高速電子線回折(RHEED)によって、作製した薄膜が(001)エピタキシャル薄膜であることを確認した。
図2は、上記600℃で成長した薄膜のX線回折パターンを示す図である。
図2は10度から80度までのX線回折パターンであり、(001)薄膜が形成されていることが示されていることからエピタキシャル成長した薄膜であることが分かる。
【0043】
図3に、両面研磨SrTiO
3(001)基板とPr−CSTO薄膜付き両面研磨SrTiO
3(001)基板の波長300〜800nm範囲の透過率を測定した結果を示す。本実施の形態では、電子線によって励起された発光を膜の付着面とは反対側から取り出すため約70%(波長500nmでの透過率)の透明性を有する両面研磨基板を用いた。Pr−CSTO薄膜付き両面研磨SrTiO
3(001)基板としては、Pr−CSTO薄膜を成膜後に1000℃で熱処理した薄膜付き基板について測定した。
【0044】
図3によれば、薄膜を含めた基板の透過率は66%(波長500nmでの透過率、膜厚500nm)であり、基板のみの場合と比較して透過率は若干の低下が見られたが、膜自体の透過率は90%以上で高いことが分かった。なお、基板のみの透過率が約70%であるので、Pr−CSTO薄膜自体の透過率は好適には80%以上であることが望ましい。
なお、
図3に図示していないが、熱処理しないPr−CSTO薄膜付き両面研磨SrTiO
3(001)基板の場合は、透過率68%程度であった。
【0045】
電子源にはゲート電極付きフィールドエミッターを用いて、本実施の形態の発光素子の計測を行った。
図1に示すように、電子はエミッター3から放出され、蛍光体薄膜2に照射されてカソードルミネセンスを生じ、その発光を、透明基板1を透過した発光として取り出し、輝度及び波長スペクトルを計測した。
【0046】
作製した蛍光体薄膜に電子線を照射したところ波長615nm近傍にピークを確認した。
図4に、計測結果の波長スペクトルを示す。図中、横軸は波長、縦軸は発光強度を示す。波長615nm近傍のピークは、Pr
3+イオンの
1D
2→
3H
4であり、赤色に相当する。その他に、490nmと700nm近傍に小さなピークが確認され、それぞれPr
3+イオンの
3P
0→
3H
4、
1D
2→
3H
5に相当するエネルギー遷移であることが分かった。
【0047】
図5に、照射電流4μAで一定とした場合の、発光輝度の、電子線の加速電圧依存性を示す。図中、横軸は印加電圧(kV)、縦軸は輝度(cd/m
2)を示す。印加電圧の増加に伴い輝度は線形に増加していることが分かり、5kVで輝度60cd/m
2を確認した。
【0048】
図6に、加速電圧4kVで一定とした場合の、発光輝度の、電子線の照射電流依存性を示す。図中、横軸は印加電圧(kV)、縦軸は輝度(cd/m
2)を示す。照射電流の増加に伴い輝度は線形に増加していることが分かり、6μAで輝度60cd/m
2を確認した。
【0049】
以上の計測結果から、ぺロブスカイト型酸化物蛍光体薄膜でカソードルミネッセンスが得られることが示された。本実施の形態の発光素子を用いて、高効率・長寿命が期待できる超高精彩ディスプレイを提供できる。
【0050】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態の発光素子について、
図7を参照して以下説明する。第2の実施の形態の発光素子は、第1の実施の形態の発光素子に透明導電膜を付加したことを特徴とする。
図7は、本実施の形態の発光素子の電子線源を省略した概略構造である。本実施の形態の発光素子は、ペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜2と、薄膜2を形成するための単結晶基板1と、ペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜2上に設けられた透明導電膜6とからなる。
【0051】
本実施の形態の発光素子を作製して電子線励起による発光を調べた。第1の実施の形態と同様に、パルスレーザー堆積法を用いてペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜2を成膜し、熱処理を施した後、蛍光体薄膜の上に透明導電膜ATO(Sb置換SnO
2)をパルスレーザー堆積法により10nm成膜した。単結晶基板1は、両面研磨したSrTiO
3単結晶基板(厚さ0.5mm)を用いた。ペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜2は、組成が(Ca
0.6Sr
0.4)
0.997Pr
0.002TiO
3で、厚さ500nmで、基板と膜(酸化物膜と透明導電膜)を含めた透過率が66%であった。透明導電膜自体は透過率95%以上を有していた。
【0052】
図1と同様に、電子線を透明導電膜6を介してペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜2に入射し、電子線によって励起された発光を、基板1の蛍光体薄膜2の付着面とは反対側の面から取り出し、輝度を計測した。加速電圧4kV、照射電流20μAで、最高輝度120cd/m
2を確認した。透明導電膜を積層することによって、蛍光体に電気伝導性が付与され、高い輝度が得られた。
【0053】
本実施の形態の電気伝導性はATO(Sb置換SnO
2)のみに限定されず、ITO(酸化インジウム・スズ)や酸化亜鉛などでも同様の結果が得られる。
【0054】
透明導電膜の厚さの異なる発光素子を複数作製して計測したところ、厚さ100nmのATO(Sb置換SnO
2)を形成した場合には、目視でも発光は得られなかった。これは電気伝導性を付与し過ぎた結果である。膜厚50nmで発光を確認したことから、透明導電膜の膜厚は50nm以下であることが好ましい。
【0055】
透明導電膜による作用効果については次のように考えられる。(Ca
0.6Sr
0.4)
0.997Pr
0.002TiO
3等のPr−CSTO蛍光体薄膜は絶縁体であるため、電子線励起によってチャージアップが生じる。そのため、電気伝導性を付与させ電子が流れやすくさせる必要がある。例えば、薄膜作製では、低圧酸素の雰囲気下で成膜させて酸素欠損を生じさせ、電気伝導性を付与する手法がある。このような手法により、チャージアップせずにカソードルミネセンスが生じることが可能になる。本実施の形態では、蛍光体薄膜に電気伝導性を付与させることによってさらにカソードルミネセンスが生じやすくするものである。本実施の形態では、(Ca
0.6Sr
0.4)
0.997Pr
0.002TiO
3薄膜の上部で、エミッター側となる面に透明導電膜を形成して、電気伝導性を付与することによって、さらに強い発光を得ることが可能となったと考えられる。
【0056】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態の発光素子は、第2の実施の形態で得た結果を基にした変形構造である。本実施の形態の発光素子は、ペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜と透明導電膜の積層構造と、ペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜を形成するための単結晶基板とからなる。積層構造は、単結晶基板の上に第1のペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜を形成し、その上に第1の透明導電膜を介して第2のペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜を形成して発光素子とする。さらに第2の透明導電膜を形成して発光素子としてもよい。また、第2の透明導電膜を介して第3のペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜を形成して発光素子としてもよい。ペロブスカイト型酸化物Pr−CSTO蛍光体薄膜の膜厚は300nm以上2000nm以下、透明導電膜の膜厚は50nm以下、積層構造全体の膜厚は300nm以上2050nm以下であることが好ましい。この範囲をはずれると、上記実験結果から電子線励起による発光が見られないおそれがある。
【0057】
なお、上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。