特許第5979367号(P5979367)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979367
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】膜モジュールの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/06 20060101AFI20160817BHJP
   C02F 3/12 20060101ALI20160817BHJP
【FI】
   B01D65/06
   C02F3/12 S
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-196405(P2012-196405)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2014-50789(P2014-50789A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年8月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構最先端研究開発支援プログラム(Mega−ton Water System)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100157185
【弁理士】
【氏名又は名称】吉野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
(72)【発明者】
【氏名】井手口 誠
(72)【発明者】
【氏名】川岸 朋樹
(72)【発明者】
【氏名】枡田 守弘
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−289856(JP,A)
【文献】 特開2009−247936(JP,A)
【文献】 特開2006−255567(JP,A)
【文献】 特開平04−131182(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102371123(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
C02F 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を含む被処理水を貯留する反応槽内に浸漬される浸漬型膜分離装置の膜モジュールの洗浄方法であって、
前記浸漬型膜分離装置は、被処理水を濾過するための濾過膜と、この濾過膜を覆う平型プレフィルタを有する外圧濾過式の膜モジュールと、
膜モジュールの濾過水側から被処理水側に向けて洗浄薬液を流す洗浄装置と、を備え、 当該浸漬型膜分離装置の洗浄方法は、
前記洗浄装置から前記膜モジュールに向けて洗浄薬液を流すステップを備え、この洗浄薬液を流すステップでは、前記洗浄装置から流れる洗浄薬液の量が前記膜モジュールの内部体積を越えないように調整する、洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄薬液は、次亜塩素酸塩の水溶液である、請求項1に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜モジュールの洗浄方法に関し、特に、活性汚泥を濾過するために用いられる浸漬型膜分離装置の膜モジュールの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、活性汚泥や、凝集汚泥を含む被処理水を濾過するための浸漬型膜分離装置が知られている。浸漬型膜分離装置は、中空糸膜又は管状膜からなる分離膜を備えた膜モジュールを複数個有しており、反応槽内の被処理水に浸漬させて使用される。浸漬型膜分離装置を使用するときには、膜モジュール内に負圧を作用させて、被処理水を、分離膜を通過させることで分離膜の表面に、被処理水中の汚泥等を付着させる。そして濾過された水は、濾過水として外部に排出される。
【0003】
このような浸漬型膜分離装置を用いることによって、汚泥を濃縮させるための濃縮槽を用いる必要がなくなり、設備全体のコンパクト化を実現することができ、さらに、浸漬型膜分離装置は、処理効率が高いため、浸漬型膜分離装置は様々な分野で多用されている。
【0004】
一般的に、膜分離装置によって被処理水を濾過し続けると、被処理水中の汚泥が分離膜の表面に付着・堆積して分離膜の性能が低下する場合があるため、分離膜を定期的に洗浄する必要がある。膜モジュールの洗浄方法としては、例えば散気装置を用いた方法が知られている。この方法では、膜モジュールの下方に散気装置を設け、定期的に散気装置から空気を放出して槽内で気液混合流を作り出し、これにより膜モジュールの表面を物理的に洗浄する。
【0005】
また、散気装置を用いた物理的な洗浄の他に、膜モジュールの表面を化学的に洗浄する方法が知られている。膜モジュールの表面を化学的に洗浄する方法としては、例えば特許文献1及び2に記載されているように、膜モジュールの二次側(濾過水側)から一次側(被処理水側)に向けて洗浄薬液を流す、所謂、インライン洗浄が知られている。インライン洗浄で用いられる洗浄薬液は、被処理水中に含まれる汚泥の種類によって適宜選択され、被処理水中に大量の有機物が含まれている場合には、洗浄薬液として次亜塩素酸ナトリウム溶液などの酸化剤が用いられ、被処理水中に大量の無機物が含まれている場合には、洗浄薬液としてシュウ酸、クエン酸、塩酸などの酸溶液が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3290556号公報
【特許文献2】特開平11−33372号公報
【特許文献3】特開2001−224935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、インライン洗浄を行うと、二次側から膜モジュールに向けて流した洗浄薬液が被処理水中に漏れ出してしまう場合がある。この場合、洗浄薬液によって被処理水中の微生物活性が低下してしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、インライン洗浄を行ったとしても洗浄薬液によって反応槽内の活性汚泥中の微生物の活性が低下するのを抑制することができる膜モジュールの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明による膜モジュールの膜モジュールの洗浄方法は、微生物を含む被処理水を貯留する反応槽内に浸漬される浸漬型膜分離装置の膜モジュールの洗浄方法であって、浸漬型膜分離装置は、被処理水を濾過するための濾過膜と、この濾過膜を覆う平型プレフィルタを有する外圧濾過式の膜モジュールと、膜モジュールの濾過水側から被処理水側に向けて洗浄薬液を流す洗浄装置と、を備え、当該浸漬型膜分離装置の洗浄方法は、洗浄装置から膜モジュールに向けて洗浄薬液を流すステップを備え、この洗浄薬液を流すステップでは、洗浄装置から流れる洗浄薬液の量が前記膜モジュールの内部体積を越えないように調整する
【0010】
このように構成された本発明によれば、平型プレフィルタから洗浄薬液が漏れないように洗浄薬液の量を調整することによって、インライン洗浄を行うときに、洗浄薬液が平型プレフィルタを通過して反応槽に流れ込むのを防止することができる。これにより、洗浄薬液を平型プレフィルタ内部に溜めておくことができ、洗浄薬液が反応槽内の微生物活性を低下させるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明によれば、インライン洗浄を行ったとしても洗浄薬液によって反応槽内の微生物活性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態による膜モジュールを備える膜濾過装置を示す斜視図である。
図2】本発明の実施形態による膜モジュールを示す斜視図である。
図3図1のIII−III断面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による膜モジュールについて説明する。
図1は、膜モジュールを備える膜濾過装置を示す斜視図である。
【0014】
図1に示すように、膜濾過装置1は、複数の膜モジュール3と、膜モジュール3の下側に配置された散気板5と、を備えている。複数の膜モジュール3は、互いの面が向かい合うように所定の間隔をもって配列されている。そして膜モジュール3の下側には、外部のブロワーと接続された散気板5が配置されている。
【0015】
膜濾過装置1は、被処理水を浄化するための反応槽Tに貯留された活性汚泥を含む被処理水に浸漬されている。被処理水内には、被処理水内には、被処理水を処理する為に必要な微生物群が存在し、この微生物群を構成する微生物が被処理水中の窒素分、リン分、有機物等を分解または取り込むことで、被処理水を浄化することができる。
【0016】
膜濾過装置1は、下排水処理における固液分離、産業廃水処理(固液分離)、川水濾過、工業用水道水濾過、プール水濾過、食品工業等における用水濾過及び製品の清澄濾過、酒・ビール・ワイン等の濾過(特に生製品)、製薬・食品工業等におけるファーメンターからの菌体分離、染色工業における用水及び溶解染料の濾過、海水濾過、RO膜における純水製造プロセス(含、海水淡水化)における前処理濾過、イオン交換膜を用いたプロセスにおける前処理濾過、イオン交換樹脂を用いた純水製造プロセスにおける前処理濾過等に使用される。
【0017】
散気板5は、ブロワーから流れてきた空気が全ての膜モジュール3に当たるように、広範囲にわたって空気を放出するようになっている。散気板5から放出された空気は、隣接する膜モジュール3同士の間を通って膜モジュール3にあたり、膜モジュール3を物理的に洗浄する。
【0018】
図2は、膜濾過装置の膜モジュールを示す斜視図であり、図3は、図2のIII−III断面の断面図である。
膜モジュール3は、平行に配列された複数本の濾過膜7と、濾過膜7の両端に各々固定された一対のハウジング9とを備えている。
【0019】
濾過膜7は、例えばセルロース系、ポリオレフィン系、ポリビニルアルコール系、PMMA系、ポリスルフォン系の材料の中空糸膜を編地に加工したもので構成されている。編地への加工のしやすさなどを考えるとポリエチレン等の強伸度の高い材質のものが好ましい。尚、濾過膜として使用可能なものであれば、孔径、空孔率、膜厚、外径等には特に制限はない。また、濾過膜7としては、中空糸膜を例えば緯糸として用いて編地としたものを一枚、又は編地を数枚積層した積層体を使用するのが好適である。従来の円筒形モジュールの場合には、綛取りして収束した中空糸膜を円筒形の構造材内に収納するのに困難はなかった。一方、細長い矩形の開口部に対して綛取りした中空糸膜を収納するのは困難であるが、編地を用いれば容易に収納することができる。尚、ここでいう編地の積層には、編地を切断せずに適当な長さに折り畳み重ねたものをも包含する。編地の積層(折り畳み)枚数は、編地の厚さ、即ち中空糸膜の太さや編地を編成する際の中空糸膜の合糸本数によっても変化するが、通常は5枚程度までであり、前述した固定部材の矩形断面の短辺の長さの制限を満たすように構成するのが好ましい。また、矩形の長辺の長さについては特に限定はないが、余り短いと一つの中空糸膜モジュール内に配設できる中空糸膜の本数が減少するので好ましくなく、一方余り長いと製造が困難になるので好ましくない。通常長辺の長さは100〜2000mm程度とされる。
【0020】
ハウジング9は、複数本の濾過膜7の束を受け入れるための開口を備えており、開口内に固定用樹脂を充填し、固定用樹脂によって濾過膜7の束を固定する。この開口は、細長い長方形状に形成されており、その短辺方向の長さは30mm以下、好ましくは15mm以下とされる。濾過膜7の両端は開口しており、濾過膜7によって濾過した濾過水は、濾過膜7内を通ってハウジング9内に流れ込む。また、一対のハウジング9のうちの一方は、濾過した水を取り出すための取水口11を備えており、膜モジュール3で濾過された濾過水は、取水口11を通じて膜濾過装置1の外部に排出される。
【0021】
ハウジング9を構成する材料は、機械的強度及び耐久性を有するものであれば良く、例えばポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ABS樹脂、変成PPE樹脂等が例示される。使用後に焼却処理が必要な場合には、燃焼により有毒ガスを出さずに完全燃焼させる事のできる炭化水素系の樹脂を材質とするのが好ましい。
【0022】
また、固定用樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の液状樹脂を硬化させたものを使用するのが良い。
【0023】
ハウジング9の取水口11は、膜モジュール3内に洗浄薬液を流し込む洗浄装置13に接続されている。
【0024】
洗浄装置13は、ハウジング9の取水口11を通じて洗浄薬液を膜モジュール3内に流し込む。洗浄薬液は、被処理水中の汚泥の性質に応じて適宜選択され、被処理水中の汚泥が有機物を含む場合には、次亜塩素酸ナトリウム溶液などの酸化剤を用い、無機物を含む場合には、シュウ酸、クエン酸、塩酸などの酸溶液を用いる。そして洗浄装置13は、洗浄薬液を所定の圧力で膜モジュール3内に流し込み、これにより濾過膜7に付着した汚泥を化学的に洗浄すると共に、洗浄薬液の圧力によって物理的に洗浄する。また、洗浄装置13は、注入された洗浄薬液が、後述する平型プレフィルタから流出しないように、洗浄薬液量を調整できるように構成されている。
【0025】
洗浄装置13によって取り扱う、洗浄薬液として用いる薬剤には特に制限はなく、界面活性剤、酸、アルカリ、酸化剤等、中空糸膜又は管状膜の薬液洗浄に一般的に使用される薬剤を用いることができるが、本発明では濾過体の目詰まりの原因物質は有機物であることから、有機物の除去に有効であり、且つ、洗浄廃液の処理が容易なアルカリ(pH9〜12程度)や酸化剤、特に次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸や次亜塩素酸塩、或いは、オゾン等の酸化剤を好適に用いることができる。また、アルカリと酸化剤はそれぞれ単独で用いることもできるが、pH9〜12に調整した酸化剤溶液を用いれば、アルカリと酸化剤の相乗効果によって洗浄効果を更に向上させることができる。
【0026】
また、複数本の濾過膜7の周囲には、濾過膜7のインターファイバークロッギングを防止するための平型プレフィルタ15が設けられている。平型プレフィルタ15は、一つの膜モジュール3の全ての濾過膜7を完全に覆うように設けられたフィルタであり、膜表面にSSや有機物が堆積するのを防止して、濾過膜7のインターファイバークロッギングを防止する。
【0027】
平型プレフィルタ15は、例えば0.1〜100μmの多数の微小孔を有するフィルタであり、セルロース系、アクリル系、ポリオレフィン系の材料によって構成されている。また、コスト面や膜面にケーキ層が形成されケーキ濾過が行われる点等を考慮し、不織布等をベースとしたデプスフィルタによって平型プレフィルタ15を構成してもよい。
【0028】
そして平型プレフィルタ15を配置することにより、濾過膜7の一次側(処理水側)は、完全に平型プレフィルタ15によって覆われる。また、上述したように中空糸膜をシート状に配列することにより、平型プレフィルタ15の容積効率をアップさせることができる。
【0029】
また、平型プレフィルタ15は、インライン洗浄時に流れてきた洗浄薬液を内部に保持し、反応槽T内に流出させないように構成されている。
【0030】
次に、膜濾過装置1の動作について詳述する。
膜濾過装置1によって被処理水を濾過する場合、先ず、被処理水が貯まっている反応槽T内に膜濾過装置1を浸漬させる。そして、膜モジュール3の取水口11に接続されたポンプを作動させることにより、膜モジュール3内に負圧を作用させる。これにより、膜モジュール3の周囲にある被処理水が、まず、平型プレフィルタ15で濾過される。これにより、被処理水中のSSや有機物の一部が平型プレフィルタ15の表面に付着する。平型プレフィルタ15を通過した被処理水は、濾過膜7の被処理水側(一次側)から濾過水側(二次側)に向けて流れて濾過膜7内を通過する。これにより、被処理水は濾過され、濾過水は、ハウジング9内を通って取水口11から膜濾過装置1外部に排出される。
【0031】
また膜濾過装置1は、散気板5から濾過膜7に向けて空気を放出する曝気又はエアレーション、及び洗浄装置13を作動させるインライン洗浄により、定期的に濾過膜7を洗浄する。
【0032】
洗浄装置13によって濾過膜7を洗浄する場合、洗浄装置13を作動させて洗浄薬液を、取水口11を通して膜モジュール3内に流し込む。これにより、洗浄薬液は、ケーシング9内から濾過膜7の内部に流入し、濾過膜7の濾過水側(二次側)から被処理水側(一次側)に向けて流れる。これにより、濾過膜7の表面に付着した汚泥を化学的に洗浄する。このとき、濾過膜7の被処理水側に流れた洗浄薬液は、濾過膜7を完全に覆っている平型プレフィルタ15内に流れ込む。そしてこのとき、洗浄薬液の量を調整し、洗浄薬液が平型プレフィルタ15から流出しない量とすることにより、洗浄薬液が平型プレフィタ15内部に保持される。平型プレフィルタ15によって、次亜塩素酸ナトリウム溶液等の洗浄薬液を保持する時間としては、1〜3時間が好ましい。保持時間が1時間以上であれば、洗浄薬液によって、濾過膜7の表面を十分に洗浄することができる。また、保持時間が3時間以内であれば、必要以上の時間をかけることがなくインライン洗浄を行える。
【0033】
以下、実施例により本発明の実施方法を更に詳細に説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1(薬液を浸出させない洗浄)
膜モジュールの製作
親水化ポリエチレン多孔質中空糸膜EX540VS(三菱レイヨン(株)製、内径:350μm、外径:540μm、材質:ポリエチレン)を用い、固定部材として2液硬化型ウレタン樹脂C4403/N4224(日本ポリウレタン社製)を使用してハウジングに固定した。さらに、中空糸膜部分とハウジングを覆うように不織布を設置し、図1に示す平型プレフィルタ付き中空糸膜モジュール(以下、膜モジュールとする)を製造した。なお、平型プレフィルタの有効膜面積は0.22m2、中空糸膜の平均有効長は200mm、中空糸膜面積は5m2とした。
【0035】
膜フラックスの確認
同ロットの膜フラックスを測定すると、28m/hr/MPaであった。
【0036】
膜フラックス測定
膜フラックスとは、一次側の水圧1MPaの時、膜1m2当たりを1時間に流れる水量として示す。すなわち、中空糸1本からなるモジュールを作製し、膜の一次側から水圧100kPaで水道水を流し、二次側に透過する水量を測定し、一次側の水圧1MPaで膜1m2当たり1時間に流れる水量に換算した値を使用する。膜の閉塞が見られず、濾過性が良好であれば、膜フラックスは大きな値を示す。また、例えば膜が閉塞し、閉塞を引き起こす物質が除去されないと、濾過性が低下し、膜フラックスは小さな値を示す。
【0037】
膜モジュール内部の体積測定
この膜モジュールのプレフィルタに直径10mmの穴を開け、チューブフィッティングを設置した。膜モジュール全体を水道水に沈め、膜モジュール内の空気を追い出した後、このチューブフィッティング部分から流量5L/minで空気を吹き込んだところ、通気開始2分後にプレフィルタ表面から空気が噴出し始めたため、この膜モジュールの内部体積は10Lであることがわかった。
【0038】
固液分離操作
反応槽の代わりに、有効容量0.35m3(深さ80cm、幅40cm、長さ110cm)の曝気槽を用い、この膜モジュールを、固形分濃度SSが5000mg/Lの活性汚泥中に配設すると共に、膜モジュールの下方に配置した散気装置から20m3/m2・hrの強度で散気を行いながら、ポンプで被処理水を吸引して濾過を行った。濾過水流量は0.43m3/dayであるため、プレフィルタのフラックスは2.0m3/m2/dayとなる。このとき、濾過開始時の吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaであり、曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、22mL/5minであった。
【0039】
濾紙濾過量測定
濾紙濾過量とは、ひだ折りにした5C、185mmの濾紙にサンプル50mlを流し込んでから5分後の濾過量の測定値である(「浸漬型分離活性汚泥法における汚泥の濾過性に関する研究」(第32回水環境学会:2−A−11−1)に記載されている方法に準拠)。活性汚泥の生育が正常であり、濾過性が良好であれば、濾紙濾過量は大きな値を示す。また、例えば薬剤への暴露や激しい水温変化などにより活性汚泥の生育に異常が見られ、汚泥の解体などが起こると、濾過性が低下し、濾紙濾過量は小さな値を示す。
【0040】
インライン洗浄操作
この条件で1週間濾過を行ったところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力が−30kPaに達したため、濾過と曝気を停止した。その後、膜モジュールに0.3%(w/w)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をインライン洗浄流量0.7L/minで14分間通液し、通液終了後2時間静置した。
【0041】
インライン洗浄後の運転状況確認
静置後、濾過と曝気を再開したところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaまで回復していた。このとき、活性汚泥の発泡は殆ど見られず、吸引圧力は運転再開後5日間安定していた。運転開始から3時間後に曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、24mL/5minであった。
【0042】
洗浄効果の確認
静置後、運転を再開する前に中空糸を採取し、膜フラックスを測定すると26m/hr/MPaであった。
【0043】
比較例1(薬液を浸出させる洗浄)
膜モジュールの製作
実施例1と同ロットの中空糸膜を用い、同様の膜モジュールを製作した。
【0044】
固液分離操作
実施例1と同じ曝気槽を使い、同じ条件で吸引濾過を行った。このとき、濾過開始時の吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaであり、曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、20mL/5minであった。
【0045】
インライン洗浄操作
この条件で1週間濾過を行ったところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力が−30kPaに達したため、濾過と曝気を停止した。その後、膜モジュールに0.3(w/w)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をインライン洗浄流量0.7L/minで16分間通液し、通液終了後2時間静置した。
【0046】
インライン洗浄後の運転状況確認
静置後、濾過と曝気を再開したところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaまで回復していた。このとき、曝気再開直後から活性汚泥が激しく発泡し、吸引圧力は運転再開後1日目で上昇を開始した。運転開始から3時間後に曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、5mL/5minであった。
【0047】
洗浄効果の確認
静置後、運転を再開する前に中空糸を採取し、膜フラックスを測定すると25m/hr/MPaであった。
【0048】
実施例1と比較例1で測定した濾紙濾過量を表1に示す。比較例1のインライン洗浄後で濾紙濾過量が有意に低下しているが、これは次の理由が考えられる。即ち、比較例1のインライン洗浄操作に於いて、インライン洗浄流量0.7L/minで16分間、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を通液している為、通液量は11.2Lとなるが、膜モジュールの内部体積は10Lであることから、膜モジュール外に1.2L浸出していることになる。この浸出した次亜塩素酸ナトリウム水溶液の殺菌力により、活性汚泥を構成する微生物の一部が死滅し、濾紙濾過量の低下や活性汚泥の発泡を引き起こしたものと考えられる。
【0049】
【表1】
【0050】
比較例2(平型フィルタで覆わない膜モジュールの洗浄)
膜モジュールの製作
実施例1と同ロットの中空糸膜を用い、同様の膜モジュールを製作した。但し、中空糸膜部分とハウジングを覆う不織布は設置しなかった。
【0051】
固液分離操作
実施例1と同じ曝気槽を使い、同じ条件で吸引濾過を行った。このとき、濾過開始時の吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaであり、曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、20L/5minであった。
【0052】
インライン洗浄操作
この条件で3日間濾過を行ったところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力が−30kPaに達したため、濾過と曝気を停止した。その後、膜モジュールに0.3%(w/w)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をインライン洗浄流量0.7L/minで3.5分間通液し、通液終了後2時間静置した。
【0053】
インライン洗浄後の運転状況確認
静置後、濾過と曝気を再開したところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力は10kPaまで回復していた。このとき、曝気再開直後から活性汚泥が激しく発泡し、吸引圧力は運転再開後1日目で上昇を開始した。運転開始から6時間後に曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、4L/5minであった。
【0054】
洗浄効果の確認
静置後、運転を再開する前に中空糸を採取し、膜フラックスを測定すると18m/hr/MPaであった。
【0055】
実施例1、比較例1、比較例2で測定したフラックスを表2に示す。比較例2のインライン洗浄後でフラックスが十分回復していないことが判るが、これは次の理由が考えられる。即ち、比較例2のインライン洗浄に於いて、静置時には中空糸膜表面から薬液が活性汚泥中に徐々に拡散し、中空糸膜表面の薬液濃度が低下する。その結果、静置時には中空糸膜全体が薬液に浸される実施例1、比較例1と比較して、特に中空糸膜表面の洗浄性が低下すると考えられる。
【0056】
【表2】
【符号の説明】
【0057】
1 膜濾過装置
3 膜モジュール
7 濾過膜
13 洗浄装置
15 平型プレフィルタ
T 反応槽
図1
図2
図3