【実施例】
【0034】
実施例1(薬液を浸出させない洗浄)
膜モジュールの製作
親水化ポリエチレン多孔質中空糸膜EX540VS(三菱レイヨン(株)製、内径:350μm、外径:540μm、材質:ポリエチレン)を用い、固定部材として2液硬化型ウレタン樹脂C4403/N4224(日本ポリウレタン社製)を使用してハウジングに固定した。さらに、中空糸膜部分とハウジングを覆うように不織布を設置し、
図1に示す平型プレフィルタ付き中空糸膜モジュール(以下、膜モジュールとする)を製造した。なお、平型プレフィルタの有効膜面積は0.22m
2、中空糸膜の平均有効長は200mm、中空糸膜面積は5m
2とした。
【0035】
膜フラックスの確認
同ロットの膜フラックスを測定すると、28m/hr/MPaであった。
【0036】
膜フラックス測定
膜フラックスとは、一次側の水圧1MPaの時、膜1m
2当たりを1時間に流れる水量として示す。すなわち、中空糸1本からなるモジュールを作製し、膜の一次側から水圧100kPaで水道水を流し、二次側に透過する水量を測定し、一次側の水圧1MPaで膜1m
2当たり1時間に流れる水量に換算した値を使用する。膜の閉塞が見られず、濾過性が良好であれば、膜フラックスは大きな値を示す。また、例えば膜が閉塞し、閉塞を引き起こす物質が除去されないと、濾過性が低下し、膜フラックスは小さな値を示す。
【0037】
膜モジュール内部の体積測定
この膜モジュールのプレフィルタに直径10mmの穴を開け、チューブフィッティングを設置した。膜モジュール全体を水道水に沈め、膜モジュール内の空気を追い出した後、このチューブフィッティング部分から流量5L/minで空気を吹き込んだところ、通気開始2分後にプレフィルタ表面から空気が噴出し始めたため、この膜モジュールの内部体積は10Lであることがわかった。
【0038】
固液分離操作
反応槽の代わりに、有効容量0.35m
3(深さ80cm、幅40cm、長さ110cm)の曝気槽を用い、この膜モジュールを、固形分濃度SSが5000mg/Lの活性汚泥中に配設すると共に、膜モジュールの下方に配置した散気装置から20m
3/m
2・hrの強度で散気を行いながら、ポンプで被処理水を吸引して濾過を行った。濾過水流量は0.43m
3/dayであるため、プレフィルタのフラックスは2.0m
3/m
2/dayとなる。このとき、濾過開始時の吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaであり、曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、22mL/5minであった。
【0039】
濾紙濾過量測定
濾紙濾過量とは、ひだ折りにした5C、185mmの濾紙にサンプル50mlを流し込んでから5分後の濾過量の測定値である(「浸漬型分離活性汚泥法における汚泥の濾過性に関する研究」(第32回水環境学会:2−A−11−1)に記載されている方法に準拠)。活性汚泥の生育が正常であり、濾過性が良好であれば、濾紙濾過量は大きな値を示す。また、例えば薬剤への暴露や激しい水温変化などにより活性汚泥の生育に異常が見られ、汚泥の解体などが起こると、濾過性が低下し、濾紙濾過量は小さな値を示す。
【0040】
インライン洗浄操作
この条件で1週間濾過を行ったところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力が−30kPaに達したため、濾過と曝気を停止した。その後、膜モジュールに0.3%(w/w)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をインライン洗浄流量0.7L/minで14分間通液し、通液終了後2時間静置した。
【0041】
インライン洗浄後の運転状況確認
静置後、濾過と曝気を再開したところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaまで回復していた。このとき、活性汚泥の発泡は殆ど見られず、吸引圧力は運転再開後5日間安定していた。運転開始から3時間後に曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、24mL/5minであった。
【0042】
洗浄効果の確認
静置後、運転を再開する前に中空糸を採取し、膜フラックスを測定すると26m/hr/MPaであった。
【0043】
比較例1(薬液を浸出させる洗浄)
膜モジュールの製作
実施例1と同ロットの中空糸膜を用い、同様の膜モジュールを製作した。
【0044】
固液分離操作
実施例1と同じ曝気槽を使い、同じ条件で吸引濾過を行った。このとき、濾過開始時の吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaであり、曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、20mL/5minであった。
【0045】
インライン洗浄操作
この条件で1週間濾過を行ったところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力が−30kPaに達したため、濾過と曝気を停止した。その後、膜モジュールに0.3(w/w)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をインライン洗浄流量0.7L/minで16分間通液し、通液終了後2時間静置した。
【0046】
インライン洗浄後の運転状況確認
静置後、濾過と曝気を再開したところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaまで回復していた。このとき、曝気再開直後から活性汚泥が激しく発泡し、吸引圧力は運転再開後1日目で上昇を開始した。運転開始から3時間後に曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、5mL/5minであった。
【0047】
洗浄効果の確認
静置後、運転を再開する前に中空糸を採取し、膜フラックスを測定すると25m/hr/MPaであった。
【0048】
実施例1と比較例1で測定した濾紙濾過量を表1に示す。比較例1のインライン洗浄後で濾紙濾過量が有意に低下しているが、これは次の理由が考えられる。即ち、比較例1のインライン洗浄操作に於いて、インライン洗浄流量0.7L/minで16分間、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を通液している為、通液量は11.2Lとなるが、膜モジュールの内部体積は10Lであることから、膜モジュール外に1.2L浸出していることになる。この浸出した次亜塩素酸ナトリウム水溶液の殺菌力により、活性汚泥を構成する微生物の一部が死滅し、濾紙濾過量の低下や活性汚泥の発泡を引き起こしたものと考えられる。
【0049】
【表1】
【0050】
比較例2(平型フィルタで覆わない膜モジュールの洗浄)
膜モジュールの製作
実施例1と同ロットの中空糸膜を用い、同様の膜モジュールを製作した。但し、中空糸膜部分とハウジングを覆う不織布は設置しなかった。
【0051】
固液分離操作
実施例1と同じ曝気槽を使い、同じ条件で吸引濾過を行った。このとき、濾過開始時の吸引濾過ポンプの吸引圧力は6kPaであり、曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、20L/5minであった。
【0052】
インライン洗浄操作
この条件で3日間濾過を行ったところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力が−30kPaに達したため、濾過と曝気を停止した。その後、膜モジュールに0.3%(w/w)の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をインライン洗浄流量0.7L/minで3.5分間通液し、通液終了後2時間静置した。
【0053】
インライン洗浄後の運転状況確認
静置後、濾過と曝気を再開したところ、吸引濾過ポンプの吸引圧力は10kPaまで回復していた。このとき、曝気再開直後から活性汚泥が激しく発泡し、吸引圧力は運転再開後1日目で上昇を開始した。運転開始から6時間後に曝気槽から活性汚泥を採取し、濾紙濾過量を測定したところ、4L/5minであった。
【0054】
洗浄効果の確認
静置後、運転を再開する前に中空糸を採取し、膜フラックスを測定すると18m/hr/MPaであった。
【0055】
実施例1、比較例1、比較例2で測定したフラックスを表2に示す。比較例2のインライン洗浄後でフラックスが十分回復していないことが判るが、これは次の理由が考えられる。即ち、比較例2のインライン洗浄に於いて、静置時には中空糸膜表面から薬液が活性汚泥中に徐々に拡散し、中空糸膜表面の薬液濃度が低下する。その結果、静置時には中空糸膜全体が薬液に浸される実施例1、比較例1と比較して、特に中空糸膜表面の洗浄性が低下すると考えられる。
【0056】
【表2】