(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979419
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】パイル布帛
(51)【国際特許分類】
D04B 21/04 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
D04B21/04
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-116903(P2012-116903)
(22)【出願日】2012年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-241715(P2013-241715A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野原 透雄
(72)【発明者】
【氏名】大坪 正博
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−209825(JP,A)
【文献】
特開平06−209824(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/007728(WO,A1)
【文献】
特開平08−035147(JP,A)
【文献】
特開昭56−079736(JP,A)
【文献】
特開昭54−042468(JP,A)
【文献】
特開2001−271252(JP,A)
【文献】
特開2007−009390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00〜27/18
D04B 1/00〜 1/28
21/00〜21/20
D02G 1/00〜 3/48
D02J 1/00〜13/00
D01F 1/00〜 6/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立毛部を構成する繊維全体に対して、導電性アクリル繊維を立毛部に3〜30質量%含み、前記導電性アクリル繊維の導電成分が、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫および/または酸化亜鉛で表面を被覆した酸化チタンであり、温度22℃、湿度65%環境下で、照射距離30cmとして300Wのアイランプの光を10分間照射した時のパイルの表面温度が50℃以上である衣料用途向けパイル布帛。
【請求項2】
立毛部を構成する繊維全体に対して、導電性アクリル繊維を立毛部に3〜30質量%含み、前記導電性アクリル繊維の導電成分が、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫および/または酸化亜鉛で表面を被覆した酸化チタン、カーボンブラックであり、温度22℃、湿度65%環境下で、照射距離30cmとして300Wのアイランプの光を10分間照射した時のパイルの表面温度が50℃以上である衣料用途向けパイル布帛。
【請求項3】
導電性アクリル繊維が、印加電圧1000V下での単繊維電気抵抗平値が1.3×105M・Ω以下である請求項1または2に記載の衣料用途向けパイル布帛。
【請求項4】
温度20℃、相対湿度40%RHの雰囲気において、JIS−L−1094−1980に定められている摩擦耐電圧測定法に基づいて測定した摩擦耐電圧が2000V以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の衣料用途向けパイル布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射により発熱性能を有する導電性アクリル繊維を含むパイル布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、天然毛皮の特徴を有するパイル布帛が種々検討されている。その多くが、アミノ変性シリコーンを付与してより獣毛に近い柔らかな風合いを求めるものであり(特許文献1)、消費者が使いやすいという目線に立ったものは開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−45789公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光照射により発熱性能を有する導電性アクリル繊維を用いて、冬場の静電気を抑制すると共に、外出時には太陽光により温かくなるパイル布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は、立毛部を構成する繊維全体に対して、導電性アクリル繊維を3〜30質量%含むパイル布帛にある。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るパイル布帛によれば、冬場の静電気を抑制すると共に、外出時には太陽光により温かくなるパイル布帛を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明を詳細に説明する。
<導電性アクリル繊維>
本発明のパイル布帛の立毛部に含まれる導電性アクリル繊維に用いる重合体は、通常のアクリル繊維の製造に用いられるアクリロニトリル共重合体であればよく、特に限定しない。ただし、そのモノマーの構成は、少なくとも50質量%のアクリロニトリルを含有していることが必要である。これによりアクリル繊維本来の特性を発現することができる。アクリロニトリルと共重合するモノマーとしては、通常のアクリロニトリル共重合体を構成するモノマーであれば特に限定しないが、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなどに代表されるアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピルなどに代表されるメタクリル酸エステル類、さらにアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。また、アクリロニトリル系ポリマーにp−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸、及びこれらのアルカリ塩を共重合することは、染色性の改良のために好ましい。
【0008】
また、本発明の導電性アクリル繊維の導電成分としては、主に衣料用途向けであるため、白度の高い金属酸化物であることが好ましく、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫および/または酸化亜鉛で表面を被覆した酸化チタンが挙げられる。また、カーボンブラックなでを用いても良いが、前述の通り繊維が黒色化することにより使用用途が制限される。更に導電性を高める添加剤を併用する方法として、酸化錫、酸化インジウムに対して酸化アンチモンを、酸化亜鉛に対してアルミニウム、カリウム、イソジウム、ゲルマニウム、錫などの金属酸化物を併用する方法が挙げられる。
【0009】
また、それら導電成分を繊維に導入する手法としては、均一ブレンドや芯鞘型など任意の手法でよいが、導電性アクリル繊維の性能が印加電圧1000V下での単繊維電気抵抗平値が1.3×10
5 M・Ω以下が必要であり、1.0×10
5 M・Ω以下であることがより好ましい。印加電圧1000V下での単繊維電気抵抗平値が1.3×10
5 M・Ω以下とすることで、導電性アクリル系繊維を繊維製品に少量混合するだけで十分な制電性能を付与することができる。1.3×10
5 M・Ωを越える場合であっても、繊維製品に制電性を付与することは可能であるが、その場合、繊維製品中の導電性アクリル繊維の混合率を高める必要があり、繊維製品の色調や風合いに悪影響を与える場合があり好ましくない。
【0010】
さらに、当該導電性アクリル繊維に、酸化チタン、銀などの無機物、または機能性高分子などを加えて、機能性等を高めることも可能である。また、その繊度は特に限定はないが、パイル用途に用いる場合には、1.0dtex以上30dtex以下が好ましく、2.2dtex以上11.0dtex以下がさらに好ましい。
【0011】
<導電性アクリル繊維の割合>
また、本パイル布帛に含まれる導電性アクリル繊維の割合は、立毛部に3〜30質量%含有することが望ましい。これにより主に冬場に発生する静電気の発生を抑制することができると共に、太陽光などの光照射下で優れた発熱性を有することができる。より好ましくは10〜20質量%である。
【0012】
<パイル布帛の製造方法> 次に本発明のパイル布帛の製造方法を説明する。まず、本発明の導電性アクリル繊維及び/またはその他合成繊維、天然繊維などを含有する紡績糸に染色を行う。染色は各素材に適合した染料を選定し実施する。また、場合によってはこの染色工程を省略して使うことも可能である。また、染色処理と同時に柔軟処理等の機能性処理を行うこともできる。尚、各合成繊維の収縮素材を混合することも可能であり、その場合は染色工程の前に蒸気を紡績糸に付与し、プレバルキー処理をすることで均一に収縮させることが可能である。次に、フライスボア編機にてパイル布帛を編成するとともにパイルのループを切断し立毛部とし、その後裏面の糊付けを行う。そして、繊維を切り揃えるシャーリングを行い、紡績糸の撚りを解除するブラッシングを行う。その後、繊維のクリンプを除去し毛伸び性を高めるためのポリッシング、シャーリング、ブラッシングを適宜実施し求めるパイル布帛を得る。また、フライスボア編機のみでなく、マイヤー編機にてパイル布帛を製造することも可能である。また、紡績糸ではなく、トップを用いてスライバー編機にて製造することも可能である。
【実施例】
【0013】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は何等これらに限定されるものではない。尚、実施例においての各数値、評価項目は次の方法によって測定した。
【0014】
(繊度測定)
繊度は、オートバイブロ式繊度測定器Denior ComputerDC−11(サ
ーチ制御電気製)を使用して測定し、サンプル数n=25の平均値を使用した。
【0015】
(編地の発熱性能評価)
得られたパイル布帛を15×15cm角の測定試料とする。その試料に、温度22℃、湿度65%環境下で、照射距離30cmとして300Wのアイランプの光を10分間照射し、表面温度を測定した。
【0016】
(摩擦耐電圧評価)
得られたパイル布帛を用いて、JIS−L−1094−1980に定められている摩擦帯電圧測定法に基づいて、温度20℃、相対湿度40RH%の雰囲気にて摩擦帯電圧の測定を行った。
【0017】
(実施例1)
(導電性アクリル繊維の作製)
水系懸濁重合法によりアクリロニトリル単位94質量%、酢酸ビニル単位5質量%、メタリルスルホン酸ナトリウム単位1質量%からなるアクリロニトリル共重合体を得た。このアクリロニトリル共重合体をジメチルアセトアミドに溶解し、ポリマー濃度25%の紡糸原液を調製し、鞘部の原液とした。また、芯部の原液として、アクリロニトリル単位93質量%、酢酸ビニル単位7質量%からなるアクリロニトリル共重合体と、導電性酸化チタン微粒子(石原産業株式会社製ET−500W:球状の酸化チタンを核としてSnO
2/Sb導電層を被覆したもの、粒径0.2〜0.3μm、導電率0.4S/cm)と、ジメチルアセトアミドとを固形分濃度55質量%、導電性酸化チタン微粒子とアクリロニトリル共重合体との質量比が87/13になるように調製した。鞘成分の紡糸原液と芯成分の紡糸原液とを、孔数が5,000、孔径φが0.07mmの芯鞘型紡糸口金により、導電性アクリル繊維中の導電性酸化チタン微粒子の含有量を12質量%となるようにそれぞれ芯部と鞘部の比率を設定し、ジメチルアセトアミド濃度50質量%の水溶液中に吐出し、沸水中で溶剤を洗浄しながら5.0倍延伸を施し、続いて油剤を付着させ150℃の熱ローラーで乾燥し、300kPaの加圧スチーム中で緩和処理を行い、100mm程度にカットし、単繊維繊度が3.3dtexの導電性成分を含有するアクリル繊維を得た。
【0018】
(紡績糸の作製)
前記の導電性アクリル繊維10質量%と市販のアクリル繊維A(三菱レイヨン社製H155BRE3.3TVCL)50質量%および市販のアクリル繊維B(三菱レイヨン社製V37BHH3.3TVCL)40質量%を計量したのち混綿した。その後、打綿機に投入しラップを作成した。ラップをローラーカードに投入し、スライバーを作成した。次に、練条工程を2回通したのち、粗紡工程を経て、粗糸を作成した。このときの粗糸撚り数の設定は0.4回/インチとした。次に、粗糸をリング精紡機に通しメートル番手32番手の紡績糸を作成した。この時の撚り数は、360回/mであった。次に、ワインダー工程で、紡績糸の欠点除去を行った後、コーンに巻き取り、合糸工程、撚糸工程を経て、32番双糸を作成した。尚、撚糸工程の撚り数は220回/mであった。
【0019】
(パイル布帛の作製)
紡績糸をカセ染め機で黒色に染色した。染色した紡績糸と165デシテックス48フィラメントのポリエステルフィラメントとをフライスボア編機での編み工程を通し、編み立てと同時にパイルのループを切断し立毛部とし、立毛部が紡績糸からなりグランド部がポリエステルフィラメントからなるバイル布帛を作製した。次に、パイル裏面にアクリル酸エステル系接着剤でバックコーティングを行い、毛抜けを防ぎ、ブラッシングを2〜10回通し毛先部分の撚りを解除した。そして、170℃のポリッシング、続いてブラッシングを行い、更に170℃、150℃、130℃、90℃でポリッシングとシャーリングを組み合わせ(各工程2回ずつ)、立毛表層部のクリンプを除去し、毛伸び性を高めることでパイル長が15mmのパイル布帛を作製した。作製後、上記記載のパイル布帛の評価を実施した。
【0020】
(実施例2〜4、比較例1、2)
表1に示すように各繊維の構成比率を変更した以外は、実施例1と同様の手法にてパイル布帛を作成し評価した。また、これらパイル布帛の評価結果を表1に併せて示した。
【0021】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係るパイル布帛は、冬季の乾燥した環境下における静電気を抑制すると共に、外出時には太陽光により温かくなる効果を有する。