特許第5979436号(P5979436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5979436
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月24日
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20160817BHJP
【FI】
   C08J5/24CER
   C08J5/24CEZ
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-238472(P2012-238472)
(22)【出願日】2012年10月30日
(65)【公開番号】特開2014-88487(P2014-88487A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柿本 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】高野 恒男
(72)【発明者】
【氏名】池田 和久
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−279753(JP,A)
【文献】 特開2007−146151(JP,A)
【文献】 特開平02−115236(JP,A)
【文献】 特開昭60−224530(JP,A)
【文献】 特開2009−138396(JP,A)
【文献】 特開2009−215766(JP,A)
【文献】 特開2010−018723(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/114592(WO,A1)
【文献】 特開昭63−247012(JP,A)
【文献】 米国特許第04990207(US,A)
【文献】 特開2014−087963(JP,A)
【文献】 特開2006−337343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含むプリプレグを、雄型と雌型との間にプリプレグを配置して、雄型と雌型を勘合させることにより、賦形させる成形品の製造方法において、
非線形解析ソフトを用いた賦形性シミュレーションによって算出される応力値(Von Mises Stress)が100.0MPa以上となるプリプレグの場所に、
切れ目作成手段によりプリプレグを切断する切れ目を作成し、
雄型と雌型との勘合によりプリプレグを賦形する成形品の製造方法。
【請求項2】
前記切れ目作成手段がレーザー照射装置を用いたものである請求項1に記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記切れ目を施した箇所の強化繊維の長さが、15〜30mmである請求項1または2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記切れ目を施した箇所が複数個所あって、それぞれの切れ目箇所の幅が、0.1〜0.4mmである請求項1〜3のいずれか一項に記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
前記雄型と雌型との勘合によるプリプレグを賦形する工程に先立って、プリプレグの中央部から外側へ伸ばしつつ、雄型に押し付ける工程を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、プリプレグを用いた繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastics)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックの成形体は、航空機の胴体や翼のような大型の成形体から、自転車のフレーム、テニスラケット、釣竿やゴルフシャフト等の小型の成形体まで幅広く利用されている。また、開断面を有する繊維強化プラスチックの成型体は、ヘルメットなどに幅広く利用されている。
【0003】
繊維強化プラスチックの製造方法としては、プリプレグの中央側から外側へ伸ばしつつ固定型に押し付けながら、雄型と雌型との勘合によりプリプレグを所望の形状に賦形させること(特許文献1)が知られている。
【0004】
しかしながら、外周コーナーのようなプリプレグが余るように賦形される箇所は、テンションを掛けることによりプリプレグをバイアス方向に伸ばしつつ固定型に押し付けることでシワを取り除くことは可能であるが、内周コーナーのようなプリプレグが不足するように賦形される箇所は、突っ張りが発生し賦形することが困難であった。
【0005】
そのため、特許文献2には、プリプレグを複数に分割して固定型に押し付けることによって、内周コーナーのような部分でも突っ張りを生じることなく賦形可能な技術が開示されている。しかしながら、このようなプリプレグを複数に分割して固定型に押し付ける方法では、分割部分で強度が低下する問題があり、強度低下回避のために積層層ごとに分割位置をずらす必要があり、作業効率が低下する問題があった。
【0006】
また、特許文献3には、プリプレグに切り込みを施す技術が記載されているが、賦形時に外周全てが固定されているため、所望の形状を得るためには、大部分の領域に切り込みを設ける必要があるため、得られた成形品は十分な物性を持つものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−110899号公報
【特許文献2】特開2009−119619号公報
【特許文献3】特開2008−279753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プリプレグの中央側から外側へ伸ばしつつ固定型に押し付けながら、雄型と雌型との勘合によりプリプレグを所望の形状に賦形させる成形方法において、成形品の物性を維持できる成形方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、強化繊維と熱硬化性樹脂組成物とを含むプリプレグを、雄型と雌型との勘合によりプリプレグを賦形させる成形品の製造方法において、非線形解析ソフトを用いた賦形性シミュレーションによって算出される応力値(Von Mises Stress)が100MPa以上となるプリプレグの場所に、切れ目作成手段により切れ目を施してから、雄型と雌型との勘合によりプリプレグを賦形する成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、プリプレグが不足するように賦形される箇所であっても、賦形の際に突っ張りの発生を防止でき、また、強度低下回避のために積層層ごとに分割位置をずらす必要がなく、それゆえ、作業性が良く、さらに、切れ目が必要な箇所を最低限に抑止できるため、成形品の物性を維持できる製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の成形品の製造方法に用いることができる雌型の一例である。
図2】本発明の成形品の製造方法に用いることができる雄型の一例である。
図3】本発明の成形品の製造方法において、雄型に押し付ける工程を含む場合の製造方法の一例である。
図4】本発明の成形品の製造方法において、切れ目作成手段により切れ目を施す場合の製造方法の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(プリプレグ)
本発明の成形品の製造方法に用いることができる強化繊維としては、特には限定されないが、炭素繊維が好ましく用いられる。望ましくはPAN系炭素繊維である。炭素繊維は、同じプリプレグについて1種類のものを使用しても良いし、複数種類のものを規則的に、または不規則に並べて使用してもかまわない。通常、特定方向に比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には単一方向プリプレグが最も適しているが、あらかじめ長繊維マットや織物などのシート形態に加工したものを使用することも可能である。
【0013】
本発明の成形品の製造方法に用いることができる熱硬化性樹脂組成物は、特には限定されないが、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂、アセチレン末端を有する樹脂、ビニル末端を有する樹脂、シアン酸エステル末端を有する樹脂等を含む樹脂組成物が挙げられる。望ましくはエポキシ樹脂を含む樹脂組成物である。
【0014】
(成形品の製造方法)
本発明の成形品の製造方法では、プリプレグを、プリプレグの中央部から外側へ伸ばしつつ、雄型と雌型とを有する一対の型に押し付けることが、プリプレグの切れ目部分を延伸させる点で必要である。プリプレグの中央部から外側へ伸ばす際の張力としては、10.00N〜50.00Nの範囲であることが好ましい。
【0015】
また、プリプレグの中央部から外側へ伸ばす際に、予めプリプレグを加熱することで、プリプレグ中の樹脂組成物を軟化させておくことが好ましい。
【0016】
本発明の成形品の製造方法では、前記型にプリプレグを押し付ける工程に引き続き、雄型と雌型との勘合によりプリプレグを賦形させることが必要である。プリプレグを賦形する際の温度については、40〜80℃であることが好ましく、さらに50〜70℃であることが好ましい。プリプレグを賦形する際の温度を40℃以上にすれば、所定の形状に容易に賦形でき、80℃以下にすれば、熱硬化性樹脂組成物の硬化を防ぐことができるので好ましい。
【0017】
またプリプレグを賦形する際の圧力については、0.01〜0.1MPaであることが好ましい。圧力を0.01MPa以上にすれば、所定の形状に容易に賦形でき、0.1MPa以下であれば、賦形するための装置を簡易することができるので好ましい。
【0018】
(切れ目)
本発明の成形品の製造方法では、非線形解析ソフト(Livermore Software Technology Corporation社製、製品名:LS−DYNA)による賦形性シミュレーションによって算出された応力値(Von Mises Stress)が100MPa以上となった箇所に、切れ目作成手段により切れ目を施してから、雄型と雌型との勘合によりプリプレグを賦形することが必要である。
本発明の成形品の製造方法で用いる賦形性シミュレーションは、賦形させたい3次元CADデータに対して、非線形解析ソフト(Livermore Software Technology Corporation社製、製品名:LS−DYNA)を用いた賦形性シミュレーションを行い、当該シミュレーションによって算出される応力値(Von Mises Stress)が100MPa以上となる箇所を特定した。
また、当該シミュレーションを行うにあたり、プリプレグの特性を定義するために使用した入力値を表1に記載する。入力値の算出方法に関しては、以下に記載する。
【0019】
(弾性率とポアソン比)
一方向プリプレグシート(三菱レイヨン社製、製品名:TR391E125S)を同一方向に10枚積層してプリプレグ積層体を得た後、その積層体を測定したい繊維方向が長手方向となるよう、カッターにて幅20mm×長さ200mmに切り出した。その切り出し品を万能試験機(インストロン社製)にて、引張方向に荷重を負荷し、それぞれの方向での弾性率とポアソン比を求めた。
【0020】
(せん断弾性率)
一方向プリプレグシート(三菱レイヨン社製、製品名:TR391E125S)を45°、−45°方向に交互に10枚積層してプリプレグ積層体を得た後、その積層体をカッターにて幅20mm×長さ200mmに切り出した。万能試験機(インストロン社製)を用いて、引張方向に荷重を負荷し、切り出し品のせん断弾性率を求めた。
【0021】
特定した領域の外周部分に相当する座標をテキストファイルにて出力し、当該ファイルをエクセルファイルに変換した後、3次元CADソフト(Siemens PLM Software社製、製品名:NX)へ入力させて、賦形させたい3次元CADデータへ反映させる。
【0022】
前記反映された3次元CADデータを、賦形性解析ソフト(Vistagy社製、製品名:FiberSim)を用いて賦形時に使用する2次元パターンへ展開させ、切れ目を設ける箇所を特定した。
【0023】
(切れ目作成手段)
本発明の成形品の製造方法で用いることができる切れ目作成手段としては、カッターを用いての手作業や裁断機により切れ目を入れる方法、あるいはプリプレグの製造工程において所定の位置に刃を配置した回転ローラーを連続的に押し当てたり、多層にプリプレグを重ねて所定の位置に刃を配置した型で押し切ったりするなどの方法、さらにカッター等の刃物に替えて、レーザー照射装置を用いる方法があり、必要に応じていずれの手段を用いても良いが、なかでも、切れ目作成手段にレーザー照射を用いた場合には、レーザー照射位置を移動させることで、切れ目形状を複雑な形状とすることが可能となり、さらに、刃物の磨耗による切れ目が不均一になる問題や、刃物の破片の混入等の問題が生じないことから、特に好ましい。
【0024】
本発明の成形品の製造方法で用いることができるレーザー照射装置としては、例えば炭酸ガスレーザーやエキシマレーザーなどの気体レーザー、YAGレーザーやYVO4レーザーなどの固体レーザー及びファイバーレーザーなどが使用できるが、短時間の照射で帯状物を良好に切断できる点では、YAGレーザー及びYVO4レーザーなどの固体レーザー及びファイバーレーザーが好ましい。また、レーザー出力、発振モード、走査する速度、パルス幅、パルス周波数などをプリプレグの材質、厚み、供給される速度、厚み方向の切断の度合いに応じて設定することが好ましい。
【0025】
本発明の成形品の製造方法で用いることができるプリプレグには、切れ目があることが必要である。ここでいう、切れ目とは、プリプレグを部分的に切断する部分のことをいい、切れ目により、プリプレグを構成する強化繊維が切断されていることで、成形中の変形が容易になる。切れ目を入れる際には、前記切れ目を施した箇所の強化繊維の長さが、15〜30mmとなるように切れ目を入れることが成形品の強度と賦形性の点で好ましい。さらに好ましくは、20〜25mmである。
【0026】
本発明の成形品の製造方法で用いることができるプリプレグに切れ目を入れる際には、それぞれの切れ目箇所の幅が、0.1〜0.4mmとなるように切れ目を入れることが成形品の強度と賦形性の点で好ましい。さらに好ましくは、0.2〜0.3mmである。
【実施例】
【0027】
一方向に引き揃えた炭素繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸したプリプレグシート(三菱レイヨン社製、製品名:TR391E125S)4枚を用いて、1枚ずつ所望の形状に裁断した。
裁断後の各プリプレグシートに対して、非線形解析ソフト(Livermore Software Technology Corporation社製、製品名:LS−DYNA)による賦形性シミュレーションによって算出された応力値(Von Mises Stress)が100.0MPa以上となった箇所に、レーザーマーカー(パナソニック電工サンクス社製、製品名:LPS−500)を用いて、強化繊維の長さが25mm、切れ目箇所の幅が0.2mm、切れ目箇所のどうしの間隔が0.4mmとなるようにレーザーを照射して、プリプレグに切れ目を設けた。
切れ目を設けた4枚のプリプレグを、0/90/90/0となるように積層して、プリプレグ積層体を得た。
【0028】
前記プリプレグ積層体を下型にセットし、プリプレグ積層体の外周部4箇所を引張バネ(初期加重12.75N、バネ定数0.79N/mm)を配置したクランプでチャックすることで、バイアス方向にテンションを付与した。テンション付与後のプリプレグ積層体を赤外線ヒーターを用いて、所定時間加熱し、プリプレグ積層体を軟化させた。
プリプレグ積層体を軟化させた後、上型を下降させたところ、切れ目部分が延伸されたことで、所望の形状に賦形させたプリプレグが得られた。
賦形させた後にプリプレグの余剰部分をトリミングした後、賦形品を圧縮成形用の下型にセットして、加熱加圧成形を実施し、最終成形品を得た。得られた成形品の物性は良好であった。
【0029】
賦形させたい3次元CADデータに対して、非線形解析ソフト(製品名:LS−DYNA)による賦形性シミュレーションを行い、当該シミュレーションによって応力値(Von Mises Stress)が100.0MPa以上となる箇所を求めた。その際、プリプレグの特性を定義するために使用した入力値を表1に記載する。
特定した領域の外周部分に相当する座標をテキストファイルにて出力し、当該ファイルをエクセルファイルに変換した後、3次元CADソフト(Siemens PLM Software社製、製品名:NX)へ入力し、賦形させたい3次元CADデータへ反映させる。 3次元CADデータを、賦形性解析ソフト(Vistagy社製、製品名:Fiber Sim)を用いて賦形時に使用する2次元パターンへ展開させ、切れ目を設ける箇所の情報を得た。
【0030】
(比較例1)
プリプレグに切れ目を設けないこと以外は、実施例と同様にプリプレグを賦形した。その結果、プリプレグの突っ張りが発生し、所望の形状へ賦形することができなかった。
【0031】
(比較例2)
プリプレグ全面に実施例と同様の方法で切れ目を設けたこと以外は、実施例と同様にプリプレグを賦形した。その結果、所望の形状に賦形されたプリプレグが得られた。
この賦形品を実施例と同様の方法で加熱加圧成形し、最終成形品を得た。得られた成形品は物性に劣るものであった。
【0032】
【表1】
【符号の説明】
【0033】
1・・・下型、
2・・・上型、
3・・・プリプレグ
4・・・レーザー照射装置
5・・・クランプ
6・・・切れ目
図1
図2
図3
図4