(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁路の中途で分割され、磁路に対し横断する端面を有する複数の圧粉磁心を組み合わせて構成される分割磁心用圧粉磁心のうちの少なくとも1つの分割磁心用圧粉磁心の成形方法であって、
圧粉磁心の前記端面に隣接する側面を形成する貫通孔を有する固定ダイと、
前記固定ダイの前記貫通孔に摺動自在に嵌合され、その側面と前記貫通孔とで型孔を構成するとともに、該側面が前記端面を形成する可動ダイと、
前記型孔に摺動自在に嵌合し、その上端面が圧粉磁心の下面を形成する下パンチと、
前記型孔に摺動自在に嵌合し、その下端面が圧粉磁心の上面を形成する上パンチと、からなる成形金型を用い、
前記型孔と前記下パンチの上端面から形成されるキャビティに、表面が絶縁被覆された軟磁性粉末を主原料とする原料粉末を充填し、
前記上パンチおよび前記下パンチにより充填された原料粉末を押圧して圧縮成形し、
前記下パンチと前記可動ダイを同期させて、前記固定ダイと相対的に上昇して圧縮成形された成形体を前記型孔から抜き出すことを特徴とする分割磁心用圧粉磁心の成形方法。
前記可動ダイと前記下パンチを一体化し、圧粉磁心の下面を形成する段部上面と、圧粉磁心の磁路に対し横断する前記端面を形成する角部側面を備えた段付き下パンチを用いることを特徴とする請求項1に記載の分割磁心用圧粉磁心の成形方法。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池車、電気自動車、ハイブリッド自動車等の低公害車の開発が進められている。特に、ハイブリッド自動車は、国内外で普及が進みつつある。このようなハイブリッド自動車等において、バッテリーの電圧から電装品用の電圧へ降圧する場合や、モータ等をインバータ制御する場合には、直流電流から高周波数の交流電源への変換がスイッチング電源などを介して行われる。
【0003】
上記のようなスイッチング電源の回路には、磁心と、その磁心の周囲に巻回されたコイルとからなるリアクトルが設けられる。リアクトルの性能としては、小型、低損失、低騒音であることに加え、幅広い直流電流領域で安定したインダクタンス特性を有すること、すなわち、直流重畳特性に優れることが求められる。そのため、リアクトル用磁心としては、低鉄損であるとともに、低磁場から高磁場まで微分透磁率が低下せず透磁率が安定している磁心、すなわち、恒透磁率性に優れる磁心が望ましい。
【0004】
一般に、リアクトル用磁心は、珪素鋼板により構成されているが、透磁率が高い材料であるため高磁場側では磁束密度が飽和し、磁化曲線の接線の傾きである微分透磁率が低下してしまう。このような恒透磁率性に劣る磁心をリアクトルに適用するためには、磁心を複数に分割した分割磁心とし、そのギャップにより磁束密度の飽和を抑制して恒透磁率となるよう調整している。
【0005】
しかしながら、珪素鋼板は、鉄を硬化させる珪素を含有することで渦電流損を向上させているため硬く、曲げ加工が困難である。このため、一般的な磁心の場合には、珪素鋼板を打ち抜き加工するとともに、打ち抜かれた珪素鋼板を積層することで作製せざるを得ず、造形性に乏しいものであった。このような加工性に乏しい珪素鋼板によりリアクトルを製造する場合は、珪素鋼板を芯材に巻き付けて巻き鉄心を作製するとともに、巻き付けた珪素鋼板を溶接等により接着し、次いでこれを切断して複数に分割し、切断面の調整や寸法の調整を行う微加工を行う等多大な工程を要する。また、珪素鋼板は透磁率が高いことから、磁路の途中でギャップを形成した分割磁心とする場合に、ギャップを厚くする必要があるが、そうすると、漏れ磁束の発生、損失の増加、騒音の増大やリアクトルの大型化を招くこととなる。
【0006】
このため、近年、鉄などの軟磁性金属粉末を圧縮成形して作製した圧粉磁心の適用が進んでいる。圧粉磁心は、珪素鋼板などによる積層磁心と比較して、作製時の材料歩留まりが良く、材料コストを低減することができる。また、形状自由度が高く、磁心形状の最適設計を行うことにより特性向上を図ることが可能である。さらに、有機樹脂や無機粉末などの電気絶縁物質と金属粉末を混合したり、金属粉末の表面に電気絶縁被膜を被覆したりして金属粉末間の電気絶縁性を向上させることにより、磁心の渦電流損を大幅に低減することができ、特に高周波域において優れた磁気特性が得られる。これらの特徴から、リアクトル用磁心として圧粉磁心が注目されている(特許文献1,2等)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の圧粉磁心を磁路の途中でギャップを形成しない一般の磁心として用いる場合は、金属粉末表面に形成された電気絶縁被膜が有効に機能し、磁心の渦電流損W
eを大幅に低減して鉄損Wを低く抑制することができるが、磁路の途中でギャップを形成した分割磁心を構成すると渦電流損W
eが増大し、鉄損Wが増加するという現象が生じた。
【0009】
鉄損Wは渦電流損W
eとヒステリシス損W
hの和であり、渦電流損W
eは下記数1、ヒステリシス損W
hは下記数2のように示されるから鉄損Wは下記数3のように示される。ここで、fは周波数、B
mは励磁磁束密度、ρは固有抵抗値、tは材料の厚み、k
1,k
2は係数である。
【0010】
【数1】
【0011】
【数2】
【0012】
【数3】
【0013】
これら数1〜3から明らかなように、渦電流損W
eは周波数fの二乗に比例して大きくなり、特に、リアクトルは高周波領域において使用されるため、このような用途向けとした場合、鉄損Wを低減するためには渦電流損W
eの抑制が不可欠である。
【0014】
よって、本発明は、磁路の途中で分割された分割磁心を圧粉磁心で構成するに際し、渦電流損W
eを低減して、鉄損Wを抑制した分割磁心を提供するとともに、分割磁心用として好適な圧粉磁心の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の分割磁心は、磁路の中途で分割され、磁路に対し横断する端面を有する複数の圧粉磁心を組み合わせて構成される分割磁心において、個々の圧粉磁心は、表面が絶縁被覆された軟磁性粉末を主原料とする原料粉末をダイの型孔に充填し、上下一対のパンチで圧縮成形した後、得られた成形体をダイの型孔から抜き出すことにより成形されるとともに、前記端面をダイの型孔と擦過することなしにダイの型孔から抜き出した圧粉磁心により構成されていることを特徴とする。なお、本発明における「擦過」とは、部材どうしが互いに擦れ合うことで痕が残ることを言う。また、以下の説明で使用する「摺動」とは、部材どうしが互いに擦れ合うが痕が残らないことを言う。
【0016】
また、本発明の分割磁心用圧粉磁心の成形方法は、磁路の中途で分割され、磁路に対し横断する端面を有する複数の圧粉磁心を組み合わせて構成される分割磁心用圧粉磁心のうちの少なくとも1つの分割磁心用圧粉磁心の成形方法であって、圧粉磁心の端面に隣接する側面を形成する貫通孔を有する固定ダイと、固定ダイの貫通孔に摺動自在に嵌合され、その側面と固定ダイの貫通孔とで型孔を構成するとともに、側面が前記端面を形成する可動ダイと、型孔に摺動自在に嵌合し、その上端面が圧粉磁心の下面を形成する下パンチと、型孔に摺動自在に嵌合し、その下端面が圧粉磁心の上面を形成する上パンチと、からなる成形金型を用い、型孔と下パンチの上端面から形成されるキャビティに、表面が絶縁被覆された軟磁性粉末を主原料とする原料粉末を充填し、上パンチおよび下パンチにより充填された原料粉末を押圧して圧縮成形し、下パンチと可動ダイを同期させて、固定ダイと相対的に上昇して圧縮成形された成形体を型孔から抜き出すことを特徴とする。
【0017】
本発明の分割磁心用圧粉磁心の成形方法においては、可動ダイと下パンチを一体化し、圧粉磁心の下面を形成する段部上面と、圧粉磁心の磁路に対し横断する端面を形成する角部側面を備えた段付き下パンチを用いてもよく、成形金型が、圧粉磁心の内周側面を形成するコアロッドを備えていてもよい。また、可動ダイは、圧粉磁心の磁路に対し横断する2つの端面を形成する2つの側面を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の分割磁心用圧粉磁心の成形方法では、磁路に対し横断する端面をダイの型孔と擦過させることなく圧粉磁心をダイの型孔から抜き出すことができる。したがって、磁路に対し横断する端面に塑性流動が生じておらず、絶縁被覆が維持された良好な状態で成形を行うことができ、
渦電流損Weが抑制され鉄損Wの低い分割磁心とすることができるので、分割磁心を構成する圧粉磁心の成形に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】サイドコアを成形する一般的な成形金型を示す概略図である。
【
図3】
図2に示す一般的な成形金型を用いた場合の成形工程を説明する概略図であり、(a)は充填段階、(b)は圧縮段階、(c)は抜き出し段階、(d)は抜き出された成形体の側面部表面の組織を示す模式図、(e)は抜き出された成形体の側面部表面のSEM写真である。
【
図4】本発明の第1実施形態で用いる成形金型を示す概略図であり、(a)は、固定ダイ、可動ダイ、下パンチ、および上パンチの各々の斜視図、(b)は、固定ダイと可動ダイを組み合わせた際の、(a)における破線で破断した断面斜視図、(c)はその平面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態の成形方法を説明するための
図4(c)のA−A’線断面における各部の動作状態を説明する概略図であり、(a)は充填段階、(b)は圧縮段階、(c)は抜き出し段階を示す図である。
【
図6】本発明の分割磁心用圧粉磁心の成形方法により成形された圧粉磁心の磁路に対し横断する端面の表面を示すSEM写真である。
【
図7】本発明の第2実施形態で用いる成形金型を示す概略図であり、(a)は、固定ダイ、段付き下パンチ、および上パンチの各々の斜視図、(b)は、固定ダイと段付き下パンチを組み合わせた際の、(a)における破線で破断した断面斜視図、(c)は固定ダイの平面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態の成形方法を説明するための
図7(c)のA−A’線断面における各部の動作状態を説明する概略図であり、(a)は充填段階程、(b)は圧縮段階、(c)は抜き出し段階を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態の変形例であり、固定ダイ10の平面図である。
【
図10】本発明の実施形態の他の変形例であり、(a)は分割磁心の平面図、(b)は分割磁心を構成する磁心の斜視図、(c)は(b)の磁心を成形する成形金型の平面図である。
【
図11】分割磁心を構成するミドルコアの成形に本発明の実施形態を適用した例であり、(a)は
図1に示すミドルコアの斜視図、(b)は(a)の磁心を成形する成形金型の平面図、(c)〜(e)は(b)のB−B’線断面における成形金型の断面図である。
【
図12】分割磁心を構成するミドルコアの形状およびミドルコアを成形する成形金型を説明するための概略図であり、(a)は
図1に示すミドルコアの斜視図、(b)はミドルコアを成形するための成形金型を構成するダイ、下パンチ、および上パンチの各々の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。
図1は実施形態の分割磁心100を示す図である。この図に示す分割磁心100は、外周面(側面)112と内周面(側面)113を有する略U字状の一対のサイドコア110間に、略矩形のミドルコア120を複数配置して構成されている。ここで、ミドルコア120の端面121(斜線部)は、サイドコア110の端面111(斜線部)または隣合うミドルコア120の端面121に対向配置され閉回路を構成している。磁路は各々の磁心の端面111,121を貫いて閉磁路を構成する。このため、サイドコア110の端面111およびミドルコア120の端面121は、磁路に対して横断する端面となる。
【0021】
このような分割磁心100のサイドコア110およびミドルコア120を圧粉磁心で構成する方法について、以下、サイドコア110を例として説明する。
【0022】
サイドコア110を構成する圧粉磁心は、一般に、
図2に示す成形金型を用いて成形される。
図2(a)は成形金型の一部であるダイ10の平面図であり、
図2(b)はダイ10、下パンチ30および上パンチ40の斜視図である。この成形金型は、サイドコア110の外形形状(外周面112、内周面113および磁路に対して横断する端面111)を形成する貫通孔(型孔)11を有するダイ10と、サイドコア110の下端面を形成する上端面31を有する下パンチ30と、サイドコア110の上端面を形成する下端面41を有する上パンチ40とからなる。
【0023】
このような成形金型を用いて成形された圧粉磁心をサイドコア110として用いた分割磁心においては、渦電流損が増大することが判明している。その原因について本発明者等が検討を行ったところ、次のような知見を得た。
【0024】
すなわち、サイドコア110を構成する圧粉磁心は、上記の成形金型を用いて、
図3に示すように、ダイ10の貫通孔11と、下パンチ30の上端面31とから形成されるキャビティに、表面が絶縁被覆された軟磁性粉末を主原料とする原料粉末Pを充填し(
図3(a))、上パンチ40および下パンチ30により充填された原料粉末Pを押圧して圧縮成形した後(
図3(b))、成形体Cをダイ10の貫通孔11から抜き出して取り出すことで成形される(
図3(c))。
【0025】
このような成形工程において、原料粉末Pは、
図3(b)に示すように、圧縮成形時において、上パンチ40および下パンチ30の圧力を受けて圧縮成形されるが、この圧力により成形体Cの内部では貫通孔11の内周面側に膨張しようとする圧力が生じる。このように、貫通孔11の内周面側に膨張しようとする圧力が生じた成形体Cを、
図3(c)に示すように、ダイ10の貫通孔11から抜き出す際には、成形体Cの外周はこの膨張の圧力により摩擦を受ける。その結果、
図3(d)に示すように、成形体Cの内部は、軟磁性粉末MPの表面に形成した絶縁被覆Iが維持され電気的絶縁性が確保されているが、成形体Cの表面は塑性流動して軟磁性粉末MPの表面に形成した絶縁被覆Iが剥がれて、軟磁性粉末MPどうしが接続した状態となる。
【0026】
上記のようにして成形した圧粉磁心Cの外周表面のSEM写真が
図3(e)である。この写真に示すように、圧粉磁心Cの外周表面には、ダイ10の貫通孔11との擦過痕が形成されており、軟磁性粉末MPどうしが塑性流動して互いに接続されている状態が判る。このように、軟磁性粉末MPどうしが塑性流動して接続されると、リアクトルとして使用した際に、接続された部分で大きな渦電流が発生し、渦電流損W
eが増大するものと考えられる。
【0027】
しかしながら、 磁路の途中でギャップを形成しない磁心に圧粉磁心を適用した場合、例えばリング状の圧粉磁心においても、上記と同様に外周部に塑性流動が発生するが、分割磁心に圧粉磁心を適用した場合のような渦電流損Weの増加は生じない。両者を比較すると、リング状の圧粉磁心においては磁路に対して横断する端面が存在しないことに対し、分割磁心においては磁路に対して横断する端面が存在する点が異なる。このことから、磁路に対して横断する端面の絶縁被覆が剥がれて電気的絶縁性が失われたことが渦電流損W
eの増加の原因と考えられる。そこで、上記のように成形して作製した圧粉磁心の磁路に対して横断する端面111,121のみをエッチングして、表層の塑性流動し接続した軟磁性粉末MPを除去して分割磁心を構成したところ、渦電流損W
eの増加が生じないことが確認された。
【0028】
以上より、分割磁心に圧粉磁心を適用する場合、磁路に対し横断する端面111,121をダイ10の貫通孔11と擦過することなしにダイ10の貫通孔11から抜き出した圧粉磁心により構成すれば、各圧粉磁心の磁路に対し横断する端面111,121にはダイ10の貫通孔11の擦過痕が形成されず、絶縁被覆が維持された端面となり、渦電流損W
eを低減して、鉄損Wを抑制した分割磁心を提供することができることが判った。
【0029】
上記のように磁路に対し横断する端面をダイの貫通孔と擦過することなしにダイの貫通孔から抜き出すことができる本発明の第一の実施形態の成形金型を
図4に示す。
図4において(a)は成形金型を構成する固定ダイ10、可動ダイ20、下パンチ30および上パンチ40の斜視図、(b)は、固定ダイ10と可動ダイ20を組み合わせた際の(a)における破線で破断した断面斜視図、(c)はその平面図である。
【0030】
固定ダイ10には、上面から下面に亘る貫通孔11が形成されている。貫通孔11は、サイドコア110の形状を有する圧粉磁心の磁路に対し横断する端面111を除く外形形状、すなわち外周面112および内周面113を形成するものであり、サイドコア110の形状に対応して略U字状をなしている。また、貫通孔11には、
図2に示した一般的な成形金型におけるダイ10と異なり、サイドコア110の形状を有する圧粉磁心の磁路に対し横断する端面111に相当する箇所に、可動ダイ20を収容するための空間が余剰に設けられている。
【0031】
可動ダイ20は、サイドコア110の形状を有する圧粉磁心の磁路に対し横断する端面を形成する側面21を有しており、上記の固定ダイ10の貫通孔11に設けられた余剰の空間に、上下方向へ摺動自在に嵌合されている。このような固定ダイ10と可動ダイ20を組み合わせることにより、固定ダイ10の貫通孔11と可動ダイ20の側面21とでサイドコア110の形状を有する圧粉磁心の外形形状を成形する型孔を構成する。なお、サイドコア110の磁路を横断する端面111は2箇所有り、これらを形成する側面21を別々の2本の可動ダイ20で構成してもよく、
図4に示すように、下部で一体化して構成してもよい。
【0032】
下パンチ30および上パンチ40は、固定ダイ10の貫通孔11と可動ダイ20の側面21とにより形成される型孔にそれぞれ摺動自在に嵌合され、下パンチ30の上端面31でサイドコア110の形状を有する圧粉磁心の下端面を形成し、上パンチ40の下端面41でサイドコア110の形状を有する圧粉磁心の上端面をそれぞれ成形する。なお、下パンチ30および上パンチ40の形状は、
図2に示した一般的な金型装置のものと同一である。
【0033】
上記の固定ダイ10、可動ダイ20、下パンチ30、および上パンチ40からなる成形金型を用いた成形方法を
図5を参照して説明する。
図5は、
図4(c)に示す成形金型のA−A’線断面図である。まず、
図5(a)に示すように、固定ダイ10の貫通孔11に可動ダイ20を嵌合し、固定ダイの貫通孔11と可動ダイ20の側面21とにより型孔を形成するとともに、この型孔に下パンチ30を嵌合する。この状態で、固定ダイの貫通孔11と、可動ダイ20の側面21と、下パンチ30の上端面31とにより形成されたキャビティに、表面が絶縁被覆された軟磁性粉末を主原料とする原料粉末Pを充填する。
【0034】
次いで、
図5(b)に示すように、上パンチ40を降下させるとともに、固定ダイ10を降下させることにより下パンチ30を固定ダイ10に対して相対的に上昇させ、上パンチ40の下端面41と下パンチ30の上端面31によりキャビティに充填された原料粉末Pを押圧して圧縮成形する。このとき、可動ダイ20は、流体圧シリンダやサーボモータ等の可動ダイ駆動手段22により固定ダイ10の降下と連動して降下するよう駆動される。
【0035】
成形が完了したら、
図5(c)に示すように、上パンチ40を上昇させて退避させるとともに、固定ダイ10をさらに降下させることにより下パンチ30を固定ダイ10に対して相対的にさらに上昇させて、固定ダイ10の貫通孔11から成形された成形の抜き出しを行う。このとき、可動ダイ20は下パンチ30と同期して固定ダイ10に対して相対的に上昇させる。なお、
図5(b)に示す状態において、下パンチ30は不動で固定ダイ10が降下することにより、固定ダイ10に対して相対的に下パンチ30が上昇するため、可動ダイ20も下パンチ30と同様に不動とすれば、可動ダイ20は下パンチ30と同期して固定ダイ10に対して相対的に上昇する。このようにして抜き出されたサイドコア111の形状を有する成形体(圧粉磁心)Cは、磁路を横断する端面111が可動ダイ20の側面21により成形されるとともに、抜き出し時に磁路を横断する端面111が可動ダイ20の側面21と擦過することなく成形体Cが抜き出される。このため、磁路を横断する端面111には、従来のような塑性流動が生じず、
図6に示すように、絶縁被覆が維持された良好な状態となる。
【0036】
なお、上記の成形金型の動作状況は、粉末冶金法で一般的なウイズドロアル法によるものであるが、固定ダイ10を不動として、下パンチ30および可動ダイ20を駆動してもよい。また、上記においては、成形段階で
図5(b)に示すように、可動ダイ20を固定ダイ10の降下と連動して降下させたが、可動ダイ20と下パンチの30を完全に同期、すなわち、
図5(b)において不動としてもよい。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態を実施するための成形金型を
図7に示す。
図7において(a)は成形金型を構成する固定ダイ10、下パンチ32および上パンチ40のそれぞれの斜視図、(b)は固定ダイ10と下パンチ32を組み合わせた際の(a)における破線で破断した断面斜視図、(c)はその平面図である。本発明の第2の実施形態の成形金型は、本発明の第1の実施形態の成形金型における可動ダイ20と下パンチ30を一体化して、段付き下パンチ32としたものである。なお、第2の実施形態において、固定ダイ10および上パンチ40は第1の実施形態と同じものである。
【0038】
この段付き下パンチ32は、第1の実施形態の下パンチ30の上端面31に相当する段部上面33を有する。また、第1の実施形態の可動パンチ20に相当する角(ツノ)部34を有しており、角部34は固定ダイ10の貫通孔11に設けられた余剰の空間に、摺動自在に嵌合されている。この角部34の側面35が第1の実施形態の可動パンチ20の側面21に相当し、磁路を横断する端面111を形成する。
【0039】
この第2の実施形態の成形金型を用いた成形方法を
図8を参照して説明する。
図8は、
図7(c)に示す成形金型のA−A’線断面図である。まず、
図8(a)に示すように、固定ダイ10の貫通孔11に段付き下パンチ32を嵌合して、固定ダイ10の貫通孔11と、下パンチ32の角部34の側面35と、段付き下パンチ32の段部上面33によりキャビティを形成し、このキャビティに表面が絶縁被覆された軟磁性粉末を主原料とする原料粉末Pを充填する。
【0040】
次いで、
図8(b)に示すように、上パンチ40を降下させるとともに、固定ダイ10を降下させることにより段付き下パンチ32を固定ダイ10に対して相対的に上昇させ、上パンチ40の下端面41と段付き下パンチ32の段部上面33によりキャビティに充填された原料粉末Pを押圧して圧縮成形する。これにより、サイドコア110の形状を有する圧粉磁心の外周面112および内周面113を固定ダイ10の貫通孔11で、該圧粉磁心の磁路を横断する端面111を段付き下パンチ32の角部34の側面35で、該圧粉磁心の下端面を段付き下パンチ32の段部上面33で、該圧粉磁心の上端面を上パンチ40の下端面41で成形する。
【0041】
成形が完了したら、
図8(c)に示すように、上パンチ40を上昇させて退避させるとともに、固定ダイ10をさらに降下させることにより段付き下パンチ32を固定ダイ10に対して相対的にさらに上昇させて、固定ダイ10の貫通孔11から成形された成形体(圧粉磁心)Cの抜き出しを行う。このようにして抜き出されたサイドコア110の形状を有する成形体Cは、磁路を横断する端面111が段付き下パンチ32の角部34の側面35により成形されるとともに、抜き出し時に磁路を横断する端面111が該側面35と擦過することなく抜き出される。このため、磁路を横断する端面111には、従来のような塑性流動が生じず、絶縁被覆が維持された良好な状態となる。
【0042】
サイドコア110の形状を有する圧粉磁心を成形する本発明の成形金型の変形例を
図9に示す。
図9(a)は、
図4に示す可動ダイ20(もしくは
図7に示す段付き下パンチ32の角部34)の形状を変更し、可動ダイ20の側面21(もしくは段付き下パンチ32の角部34の側面35)でサイドコア110の形状を有する圧粉磁心の磁路を横断する端面111とともに、内周面113を形成するようにした例である。
【0043】
図9(b)は、2箇所あるサイドコア110の磁路を横断する端面111を、一体化した可動ダイ20(もしくは段付き下パンチ32の角部34)の側面21(もしくは段付き下パンチ32の角部34の側面35)で形成するように変形するとともに、サイドコア110の内周面113をコアロッド50を配置してコアロッド50の外周面51で形成するようにした例である。
【0044】
以上は、分割磁心用圧粉磁心として、
図1に示すサイドコア110の形状を例として説明したが、本発明の分割磁心用圧粉磁心の成形方法はこの形状に限定されず、他の形状にも適用可能である。このような圧粉磁心の形状を変えた例を
図10に示す。
図10(a)は分割磁心の構成を示す平面図である。この分割磁心においては、ミドルコア120は
図8の分割磁心と同じであるが、
図1に示すサイドコア110に替えて、これを2つに分割したサイドコア130としたものである。このサイドコア130は、
図10(b)に示すように、磁路を横断する2つの端面131が互いに略直角をなして配置される。
【0045】
このようなサイドコア130の形状を有する圧粉磁心を成形する成形金型の一例を
図10(c)に示す。固定ダイ10は、サイドコア130の形状を有する圧粉磁心の外周面132および内周面133を形成するとともに、可動ダイ20(もしくは段付き下パンチ32の角部34)を収容する余剰の空間が形成された貫通孔11を有する。可動ダイ20(もしくは段付き下パンチ32の角部34)はこの余剰の空間に摺動自在に嵌合させられ、可動ダイ20(もしくは段付き下パンチ32の角部34)の側面21(もしくは段付き下パンチ32の角部34の側面35)によりサイドコア130の形状を有する圧粉磁心の磁路を横断する端面131を形成する。このような成形金型を用いて、上記のように成形を行うと、磁路を横断する端面131が固定ダイ10と擦過することなく固定ダイ10の貫通孔11より抜き出すことができ、磁路を横断する端面131において従来のような塑性流動が生じず、絶縁被覆が維持された良好な状態とすることができる。
【0046】
ここで、ミドルコア120の形状を有する圧粉磁心を成形する場合に、
図10(c)において、可動ダイ20(もしくは段付き下パンチ32の角部34)を互いに向かい合わせて配置し、向かい合った面で圧粉磁心の磁路を横断する端面121を形成してもよい。すなわち、
図11(a)に示すように、ミドルコア120の圧粉磁心の磁路を横断する端面121は、互いに反対側を向き、この端面121を固定ダイ10と擦過することなく抜き出すため、
図11(b)に示すように、可動ダイ20(もしくは段付き下パンチ32の角部34)は互いに対向して配置される。この場合、
図11(c)のように、ミドルコア120の互いに反対側を向く端面121を両方とも可動ダイ20の側面21で成形してもよい。また、
図11(d)に示すように、ミドルコア120の一方の端面121を可動ダイ20の側面21で成形するとともに、もう一方の端面121を段付き下パンチ32の角部34の側面35で成形するようにしてもよい。さらに、
図11(e)に示すように、段付き下パンチ32に角部34を対向させて2本形成し、これらの対向する角部34の側面35にてミドルコア120の端面121を成形してもよい。これらの態様において、ミドルコア120の圧粉磁心の磁路を横断する端面121は、可動ダイ20もしくは段付き下パンチ32の角部34により保護された状態で抜き出されるため、成形体抜き出し時の大きな塑性流動は防止される。ただし、ダイ10から抜き出された成形体は、対向する可動ダイ20および/または段付き下パンチ32の角部34に挟持されているため。これを取り出す際に、ごく僅かではあるが擦過が生じる虞がある。
【0047】
このような僅かな擦過をも防止してミドルコア120の形状を有する圧粉磁心を成形する場合には、一般的な成形金型を用い、ミドルコア120の磁路を横断する端面121をパンチ面として成形すればよい。すなわち、
図1のミドルコア120は、平行に配置された磁路を横断する端面121を有する直方体の形状を呈しており、
図12(a)に示すように、一対の平行に配置される磁路を横断する端面121と、これら一対の磁路を横断する端面121に隣接して一対の上面(122)および下面(123)、並びに一対の側面(124)の6面から構成される。ここで、
図12(b)に示すように、ダイ10の貫通孔(型孔)11の形状を、磁路を横断する端面121に隣接する上面、下面および一対の側面から構成される矩形とし、これらの面をダイ10の貫通孔11により形成するとともに、ミドルコア120の磁路を横断する端面121を上パンチ40の下端面41および下パンチ30の上端面31により成形して直方体の圧粉磁心を成形する。このとき、磁路を横断する端面121に隣接する上面、下面および一対の側面は、抜き出し時に摩擦を受け塑性流動が生じるが、上パンチおよび下パンチで形成された、対向する磁路を横断する端面121は、抜き出し時に摩擦を受けないことから、塑性流動が生じず、絶縁被覆が維持された良好な状態となる。
【0048】
以上より、磁路の中途で分割され、磁路に対し横断する端面を有する複数の圧粉磁心を組み合わせて構成される分割磁心が、全て磁路を横断する端面が平行かつ対向して配置されていない分割磁心用圧粉磁心で構成されている場合(例えばミドルコア120を有さない場合等)には、全ての分割磁心用圧粉磁心を上記の成形金型を用いた本発明の成形方法により成形することができ、全ての分割磁心用圧粉磁心において、対向する磁路を横断する端面121は、抜き出し時に摩擦を受けないことから、塑性流動が生じず、絶縁被覆が維持された良好な状態とできるので、渦電流損W
eを低減して、鉄損Wを抑制した分割磁心とすることができる。
【0049】
また、磁路の中途で分割され、磁路に対し横断する端面を有する複数の圧粉磁心を組み合わせて構成される分割磁心が、磁路を横断する端面が平行かつ対向して配置された分割磁心用圧粉磁心を含む場合には、それ以外の分割磁心用圧粉磁心、すなわち磁路を横断する端面が平行かつ対向して配置されていない分割磁心用圧粉磁心を上記の成形金型を用いた本発明の成形方法により成形するとともに、磁路を横断する端面が平行かつ対向して配置された分割磁心用圧粉磁心については、磁路を横断する端面をパンチ面として成形すれば、この場合も対向する磁路を横断する端面121は、抜き出し時に摩擦を受けないことから、塑性流動が生じず、絶縁被覆が維持された良好な状態とできるので、渦電流損W
eを低減して、鉄損Wを抑制した分割磁心とすることができる。