(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
火力発電では、ガス化炉で生成されたガス化ガスを燃料ガスとして用いている。このような燃料ガスは、石炭、褐炭、コークス、重質油、石油精製残渣、バイオマスなど、様々な炭素系資源をガス化することにより得ることができる。
【0003】
高温(たとえば1500℃以上)でガス化された燃料ガスが配管やガス精製設備などを流通する過程で冷却されると、ガス状になった炭素が固体に戻ろうとする反応が優勢になり、ブドアール反応(2CO⇔CO
2+C)が起こり得る。ブドアール反応が起こると、燃料ガスが固体の炭素に戻り、配管やガス精製設備などで析出するという問題がある。
【0004】
たとえば、燃料ガス中の硫化物を除去する脱硫装置では、脱硫剤に含まれる鉄が炭素析出の触媒として作用し、脱硫剤試料に固体の炭素が析出するという問題が生じている。炭素が析出すると、脱硫剤の本来の脱硫作用が阻害され、装置の劣化及び損傷を生じる。
【0005】
このような炭素析出の抑制策として、二酸化炭素や水蒸気を燃料ガスに添加し、ブドアール反応の進行を抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、実際に炭素析出が起こるかどうかをより正確に判断するためには、ブドアール反応の速度が反応条件の影響を受けて大きく変わるため、実験的に検討しなければ分からない。反応条件としては、燃料ガスの組成、温度、圧力に加えて、燃料ガスが接触している固体の触媒作用や、接触時間も影響する。
【0007】
一般に燃料ガスからの炭素析出が問題となるのは、燃料ガスを精製する際に触媒や吸収剤を充填した反応器、たとえば、上述したような脱硫剤を充填した脱硫装置などに通ガスする時や、燃料ガスをガスタービンや燃料電池に供給して利用する時である。
【0008】
このような反応器を用いて、実際に炭素析出の評価実験を行う場合、通常は燃料ガスの温度、圧力、燃料ガスが接触している固体の触媒作用及び接触時間は、一定に保ちながら運用することができるが、燃料ガスの組成だけは一定に保つことができない。これは、燃料ガスが流通する過程で、ブドアール反応(2CO⇔CO
2+C)だけでなく、水性ガスシフト反応(CO+H
2O⇔CO
2+H
2)やメタン生成及び改質(CO+3H
2⇔CH
4+H
2O)が起こる可能性があり、燃料ガスの組成が経時的に変動し得るからである。また、これら諸反応の平衡がどちらに動くかによってもガス組成は変動する。
【0009】
このため、燃料ガスからの炭素析出状況を実験によって明らかにするためには、変動するガス組成の範囲を見積もると共に、その組成変動の範囲の中で条件を変えた必要回数の実験を行う必要があり、個々の実験では、ガス組成が変化しない様に工夫することが求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑み、実験による検証結果と合わせながら、燃料ガス中での炭素析出状況をガス組成から評価することができる炭素析出の評価方法及び炭素析出の判断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水蒸気を含む燃料ガス中での炭素の析出の有無を評価する炭素析出の評価方法であって、ブドアール反応に関与する一酸化炭素と二酸化炭素の第1分圧比と、水性ガスシフト反応に関与する一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水蒸気の第2分圧比に基づいて得られるガス組成の燃料ガスを特定し、特定された燃料ガスを試料に流通する前と流通した後で前記ガス組成を変動させずに前記燃料ガスを前記試料に流通させ、前記試料に炭素が析出するか否かを評価することにより、前記燃料ガス中での炭素の析出の有無を評価することを特徴とする炭素析出の評価方法にある。
【0013】
ここで言う分圧とは大気圧を含めた絶対圧のことであって、工業的に使用される大気圧を差し引いたゲージ圧とは異なる。圧力の単位は統一して用いればMPa、atm、barなどどれを用いてもよいが、使用する単位系によって分圧比の数値は異なるものとなる。本願発明では便宜的に圧力単位としてbarを用いることとした。
【0014】
かかる発明によれば、第1分圧比及び第2分圧比に基づいて特定された所望の燃料ガスのガス組成を変動させずに、燃料ガスと試料とを反応させるため、所望のガス組成の燃料ガス中での炭素析出状況を明らかにすることができる。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する炭素析出の評価方法において、異なる複数の前記第1分圧比と、一定の前記第2分圧比に基づいて得られるガス組成の燃料ガスを複数特定し、前記試料に炭素が析出するか否かを前記燃料ガス毎に評価し、前記評価の結果を用いて、前記燃料ガス中での炭素析出の有無の境界を特定することを特徴とする炭素析出の評価方法にある。
【0016】
かかる発明によれば、第2分圧比を一定とし、第1分圧比を変動させて燃料ガスを複数特定し、燃料ガス毎に評価を行うため、ブドアール反応に関与する第一分圧比と燃料ガス中での炭素析出の有無との関係を明らかにすることができる。これにより、燃料ガス中での炭素析出の有無の境界をブドアール反応の影響を考慮し特定することができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載する炭素析出の評価方法において、異なる複数の前記第1分圧比及び前記第2分圧比に基づいて得られるガス組成の燃料ガスを複数特定し、前記試料に炭素が析出するか否かを燃料ガス毎に評価し、前記評価の結果を用いて、前記燃料ガス中での炭素析出の有無の境界を特定することを特徴とする炭素析出の評価方法にある。
【0018】
かかる発明によれば、第1分圧比及び第2分圧比を共に変動させて燃料ガスを複数特定し、燃料ガス毎に評価を行うため、ブドアール反応に関与する第一分圧比及び水性ガスシフト反応に関与する第二分圧比と、燃料ガス中での炭素析出の有無との関係を明らかにすることができる。これにより、燃料ガス中での炭素析出の有無の境界をブドアール反応及び水性ガスシフト反応の双方の影響を考慮し特定することができる。
【0019】
本発明の第4の態様は、第1〜3のいずれか一つの態様に記載する炭素析出の評価方法において、前記試料に炭素が析出するか否かの評価は、前記燃料ガスが流通する管路と、前記燃料ガスと前記試料を反応させる反応検証室とを具備し、前記燃料ガスを前記試料に流通する前と流通した後で前記ガス組成を変動させずに、前記燃料ガスと前記試料とを反応させる反応検証装置で行うことを特徴とする炭素析出の評価方法にある。
【0020】
かかる発明によれば、ガス組成を変動させずに、燃料ガスと試料とを反応させる反応検証装置を用いることにより、ブドアール反応や水性ガスシフト反応が平衡及び非平衡のどちらの場合でも条件を一定に保ちながら試料に炭素が析出するか否かを検証することができる。これにより、所望のガス組成の燃料ガス中での炭素析出状況を明らかにすることができる。
【0021】
本発明の第5の態様は、第1〜4のいずれか一つの態様に記載する炭素析出の評価方法において、前記第1分圧比は、下記式1で定義されるK
Bであり、前記第2分圧比は、下記式2で定義されるK
Wであることを特徴とする炭素析出の評価方法にある。
[式1]
K
B=P
CO2/P
CO2
(P
CO2は二酸化炭素の分圧、P
COは一酸化炭素の分圧である。)
[式2]
K
W=P
CO2・P
H2/P
CO・P
H2O
(P
H2は水素の分圧、P
H2Oは水蒸気の分圧である。)
【0022】
かかる発明によれば、第1分圧比及び第2分圧比を明確にすることができる。これにより、ガス組成と燃料ガス中での炭素析出の有無との関係をより明らかにすることができる。
【0023】
本発明の第6の態様は、第1〜5のいずれか一つの態様に記載する炭素析出の評価方法において、前記燃料ガスとして、石炭ガス化炉で生成された石炭ガス化ガス若しくは該石炭ガス化ガスを模擬した模擬ガスを前記試料に流通させることを特徴とする炭素析出の評価方法にある。
【0024】
かかる発明によれば、第1分圧比及び第2分圧比に基づいて特定された石炭ガス化ガス若しくはその模擬ガスを試料に流通させることにより、所望のガス組成の石炭ガス化ガス中での炭素析出状況を明らかにすることができる。
【0025】
本発明の第7の態様は、第1〜6のいずれか一つの態様に記載する炭素析出の評価方法において、前記試料は、燃料ガス中の硫化物を除去する脱硫剤であることを特徴とする炭素析出の評価方法にある。
【0026】
かかる発明によれば、第1分圧比及び第2分圧比に基づいて特定された燃料ガスと脱硫剤を反応させることにより炭素析出が脱硫剤試料で起きるか否かを評価することができる。これにより、所望のガス組成の燃料ガスが脱硫剤を備えた脱硫装置を流通する際、炭素析出が脱硫剤試料で起きるか否かを明らかにすることができる。
【0027】
本発明の第8の態様は、一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水蒸気を含む燃料ガス中での炭素析出の有無を予め判断するための炭素析出の判断方法であって、ブドアール反応に関与する一酸化炭素及び二酸化炭素の第1分圧比及び水性ガスシフト反応に関与する一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水蒸気の第2分圧比に基づいて特定される前記燃料ガスと、当該燃料ガス中での炭素析出の有無との関係を表す判断図を用いて、炭素析出が未知の燃料ガスを前記第1分圧比及び前記第2分圧比に基づいて特定して、前記判断図上に表し、当該判断図上において、炭素析出の有無が既知の燃料ガスの前記第1分圧比及び前記第2分圧比と、炭素析出が未知の燃料ガスの前記第1分圧比及び前記第2分圧比とを比較することにより、炭素析出が未知の燃料ガス中での炭素析出の有無を予め判断することを特徴とする炭素析出の判断方法にある。
【0028】
かかる発明によれば、第1分圧比及び第2分圧比に基づいて特定された燃料ガスと、当該燃料ガス中での炭素析出の有無との関係が表された判断図を用いることにより、第1分圧比及び第2分圧比に基づいて特定された所望のガス組成の燃料ガス中に炭素が析出するか否かを予め判断することができる。さらに、炭素析出の有無が未知の燃料ガスについては、第1分圧比及び第2分圧比でガス組成を特定しさえすれば、かかる燃料ガス中に炭素が析出するか否かを推測することができる。
【0029】
本発明の第9の態様は、第8の態様に記載の炭素析出の判断方法において、前記第1分圧比は、下記式3で定義されるK
Bであり、第2分圧比は、下記式4で定義されるK
Wであることを特徴とする炭素析出の判断方法にある。
[式3]
K
B=P
CO2/P
CO2
(P
CO2は二酸化炭素の分圧、P
COは一酸化炭素の分圧である。)
[式4]
K
W=P
CO2・P
H2/(P
CO・P
H2O)
(P
H2は水素の分圧、P
H2Oは水蒸気の分圧である。)
【0030】
かかる発明によれば、第1分圧比及び第2分圧比を明確にすることができる。これにより、第1分圧比及び第2分圧比に基づいて特定された所望のガス組成の燃料ガス中に炭素が析出するか否かをより正確に判断することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の炭素析出の評価方法によれば、ブドアール反応に関与する第1分圧比及び水性ガスシフト反応に関与する第2分圧比に基づいて特定された所望の燃料ガスのガス組成を変動させずに、燃料ガスと試料とを反応させるため、所望のガス組成の燃料ガス中での炭素析出状況を明らかにすることができる。また、燃料ガス中での炭素析出の有無の境界をブドアール反応及び水性ガスシフト反応の少なくとも一方の影響に基づき特定することができる。
【0032】
また、本発明の炭素析出の判断方法によれば、第1分圧比及び第2分圧比で特定された所望のガス組成の燃料ガス中に炭素が析出するか否かを予め判断または推測することができる。これにより、燃料ガス中に炭素が析出するのを未然に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(実施形態1)
本発明の炭素析出の評価方法とは、第1分圧比及び第2分圧比に基づいて特定された所望の燃料ガスのガス組成を変動させずに燃料ガスを試料に流通させて、燃料ガス中に炭素が析出するか否かを評価することにより、燃料ガス中での炭素の析出の有無を評価することをいう。
【0035】
燃料ガスとは、石炭、褐炭、コークス、重質油、石油精製残渣、バイオマスなど、様々な炭素系資源をガス化炉でガス化することにより生成されたもの、またはこれらの模擬ガスをいう。このような燃料ガスは、ガス化炉で生成されたままの状態で試料に流通させる形態であってもよいし、燃料ガスに二酸化炭素などのガスを別途添加させた上で試料に流通させる形態であってもよい。
【0036】
試料とは、燃料ガスと接触することで炭素が析出する可能性があるものをいう。たとえば、炭素析出の触媒となる鉄を含む脱硫剤や配管などを挙げることができる。本実施形態では、鉄を含む亜鉛フェライトからなる脱硫剤を用いている。
【0037】
第1分圧比とは式1で定義されるK
Bであり、下記式(a)に示すブドアール反応の平衡定数で表される。ブドアール反応は、一酸化炭素から二酸化炭素と炭素が生成する反応である。ブドアール反応が起こると燃料ガス中に固体の炭素が析出する。以下、第1分圧比をK
Bと言う。
【0038】
第2分圧比とは式2で定義されるK
Wであり、下記式(b)に示す水性ガスシフト反応の平衡定数で表される。水性ガスシフト反応は、一酸化炭素と水蒸気から二酸化炭素と水素が生成する反応である。以下、第2分圧比をK
Wと言う。
【0039】
本発明のガス組成とは、所定温度で燃料ガス中に含まれる各ガス成分の分圧のことを言う。
【0040】
燃料ガスのガス組成を特定するとは、燃料ガスに含まれるガス組成からK
B及びK
Wを算出して燃料ガスの分圧比を決定すること、または分圧比K
B及び分圧比K
Wを満たす燃料ガスに含まれるガス組成を決定することの双方を含む。ガス組成を任意に設定することができれば、分圧比K
B及び分圧比K
Wの値はそれぞれ独立に任意の値を設定できる。
【0041】
ここで、K
B及びK
Wに着目した理由について説明する。
【0042】
炭素析出と深く関わる反応としては、式(a)に示すブドアール反応と式(b)に示す水性ガスシフト反応を挙げることができる。
【0043】
ブドアール反応については、二酸化炭素の分圧を増大させれば、反応を反応物側(左側)に進めることができる。すなわち、K
Bを増大させれば、炭素析出を抑制する方向に進めることができる。
【0044】
一方、水性ガスシフト反応については、水蒸気の分圧を増大させれば、反応を生成物側(右側)に進めることができ、二酸化炭素の分圧を増大させることができる。すなわち、水蒸気の分圧を増大させれば水蒸気改質反応を促進して、炭素析出を抑制する方向に進めることができる。また、水蒸気は炭素が析出する触媒活性点に吸着されその効果を減ずる特性を有するため、この点を考慮しても、水蒸気の分圧を増大させることは好ましい。
【0045】
しかしながら、K
Wは、水蒸気と二酸化炭素の分圧をそれぞれ分母と分子の項に含むため、炭素析出の抑制効果は、水蒸気についてはK
Wを減少させ、二酸化炭素についてはK
Wを増大させればよいことになる。
【0046】
このように、K
B及びK
Wは、ブドアール反応及び水性ガスシフト反応に関与する燃料ガスのガス組成(分圧)のバランスを表すものであり、炭素が析出し易い燃料ガスであるか、炭素が析出し難い燃料ガスであるかを判断する上で重要なパラメータとなる。
【0047】
なお、本発明で用いる燃料ガスは、石炭、褐炭、コークス、重質油、石油精製残渣、バイオマスなど、様々な炭素系資源をガス化したものであるため、ガス組成の変動要因としては、ブドアール反応及び水性ガスシフト反応だけでなく、メタンの生成及び改質反応(CO+3H
2⇔CH
4+H
2O)も起こり得る。これら諸反応が起こり易いか否かについては、ガス燃料の種類、温度や圧力などの反応条件、ガスが接する触媒や配管材料などの特性により異なるものである。
【0048】
しかしながら、たとえば、石炭ガス化ガス、褐炭、コークス、重質油及び石油精製残渣などのガス化ガスを燃料ガスとして用いる場合、適切なメタネーション触媒や改質触媒を導入しない限りはメタンの生成及び改質反応はほとんど起こらないので、ブドアール反応と水性ガスシフト反応を考慮に入れればよい。
【0049】
本発明は、このようなメタンの生成及び改質反応が起き難い燃料ガスを対象とするものであるため、ブドアール反応及び水性ガスシフト反応に関与するK
B及びK
Wを用いて燃料ガスを特定する。
【0050】
ブドアール反応
2CO⇔CO
2+C (a)
水性ガスシフト反応(WGS)
CO+H
2O⇔CO
2+H
2 (b)
【0051】
[式1]
K
B=P
CO2/P
CO2
(P
CO2は二酸化炭素の分圧、P
COは一酸化炭素の分圧である。)
[式2]
K
W=P
CO2・P
H2/(P
CO・P
H2O)
(P
H2は水素の分圧、P
H2Oは水蒸気の分圧である。)
【0052】
ここで、本発明の炭素析出の評価方法に用いる反応検証装置について説明する。
【0053】
図1に、反応検証装置の一実施形態を示す概略構成図を示す。
【0054】
反応検証装置とは、燃料ガスを試料に流通する際に、燃料ガスと試料が接触する前と接触した後とで、ガス組成の変化が殆ど無い状況で燃料ガスを試料に流通させ、試料が接触している燃料ガスの組成は常に一定に保たれている条件を作ることができる装置である。この装置を用いると、ブドアール反応や水性ガスシフト反応が平衡及び非平衡のどちらの場合でも条件を一定に保ちながら試料に炭素が析出するか否かを検証することが可能になる。
【0055】
ガス組成を変動させないとは、燃料ガスを試料に流通する前と流通した後で燃料ガスに含まれるガス組成が一定であることをいう。このような検証条件(ガス組成一定)は、所望のガス組成の燃料ガスの供給量を試料の量に対して多量とし、試料を極少量とすることで作り出すことができる。ここで、燃料ガスが多量及び試料が極少量とは、燃料ガスを試料に流通する前と流通した後で燃料ガスのガス組成が変化しない程度の量を言う。具体的には、燃料ガスと試料との反応時間(接触時間)を最短にすることができる燃料ガスの量及び試料の量を言う。このような多量の燃料ガスを極少量の試料に流通させることにより、燃料ガスと試料との反応によるガス組成の変化を無視できるほど小さくすることができる。
【0056】
燃料ガス中での炭素析出の有無の判断は、所望のガス組成の燃料ガスを連続的に脱硫剤に流通させ、脱硫剤試料に炭素が析出するか否かで行う。脱硫剤試料への炭素析出の判断は、脱硫剤試料に炭素(C)が析出したか否かで行うものとする。微量の炭素が析出した場合には視覚的にも重量変化などでも検出が困難であるため、炭素定量装置を用いた機器分析で炭素析出の有無を調べる必要がある。多量の炭素が析出すると脱硫剤試料はひび割れたり黒い炭素が堆積した集合体で覆われたりするため、炭素析出の判断は視覚的に容易に行うことができる。さらに炭素の析出量が多くなると黒い集合体の一部は脱硫剤試料から脱落する場合もある。
【0057】
図1に示すように、反応検証装置1は燃料ガスが流通する管路2を備える。管路2には、試料3と燃料ガスを反応させ、その反応を検証する反応検証室4が構成される。
【0058】
反応検証室4では、試料3に燃料ガスを流通させることが可能となるように、試料3が保持されている。
【0059】
燃料ガスは、K
B及びK
Wに基づいて特定された所望のガス組成を有するものであり、そのガス組成が試料3に流通する前と流通した後で、変動しないように流通される。
【0060】
たとえば、一酸化炭素の組成がα%の燃料ガスを試料3に流通させた場合、試料3を流通させた後の一酸化炭素の組成もα%に保たれる。このような検証条件により、所望のガス組成の燃料ガス中に炭素が析出するか否か、すなわち、燃料ガス中での炭素析出状況は、所望のK
B及びK
Wでの燃料ガスを流通させた結果であることが保証できる。
【0061】
次に、本発明の炭素析出の評価方法について、
図2を参照しながら説明する。
【0062】
図2に、実施形態1に係る炭素析出の評価方法に適用される燃料ガス中での炭素析出の有無を判断するための判断図を示す。横軸はK
B、縦軸はK
Wであり、各プロットは、このK
B及びK
Wの燃料ガスの炭素析出状況を記号化して表している。
【0063】
本実施形態では、燃料ガスが脱硫装置を流通する際、脱硫剤試料に炭素が析出するか否かを評価し、評価対象のガス反応設備を脱硫装置とする。よって、脱硫装置の実際のプラントでの処理温度(たとえば450℃)と圧力(たとえば9.81bar)を一定にして評価する必要がある。
【0064】
本実施形態では、温度については脱硫装置の処理温度(450℃)で炭素析出の評価を行い、圧力については、実際のプラントでの運転圧力(9.81bar)を設定して評価する。
【0065】
このような温度及び圧力条件は、評価したいガス反応設備の実際の処理温度及び圧力または圧力を補償した実験室装置の運転圧力に合わせて作成すればよい。ガス反応設備としては、たとえば、ハロゲンや水銀を除去する不純物除去装置やガスタービンや燃料電池などを挙げることができる。
【0066】
また、実際の運転圧力が、たとえば27.51barと実験室装置の運転圧力と異なる場合には、分圧調整法により実験室装置の運転圧力(9.81bar)に補償し、実験室装置の運転圧力で作成することもできる。
【0067】
本発明の炭素析出の評価方法は、第1及び第2の手順から構成される。
【0068】
第1の手順は、ブドアール反応に関与する一酸化炭素と二酸化炭素のK
Bと、水性ガスシフト反応に関与する一酸化炭素、二酸化炭素、水素及びの水蒸気のK
Wに基づいて、所望の燃料ガスのガス組成を特定する。
【0069】
第1の手順に従い、K
BとK
Wに基づいて特定された燃料ガスを表すと、
図2中の各プロットのようになる。
【0070】
ここで、脱硫装置の処理温度(450℃)において、K
Wを一定とし、K
Bを変動させることにより特定された燃料ガスを
図2に表すと直線A上のプロットとなる。K
Wを一定とするため、直線A上の各プロットは水性ガスシフト反応が平衡状態のときの燃料ガスの状態を表すものである。
【0071】
また、K
W及びK
Bを変動させることにより特定された燃料ガスはブドアール反応及び水性ガスシフト反応の双方が非平衡状態のときの燃料ガスの状態を表すものである。
【0072】
このようにK
B及びK
Wで特定された燃料ガスは、ブドアール反応及び水性ガスシフト反応が平衡状態及び非平衡状態のどちらであってもK
B及びK
Wで表すことができる。これにより、複数の異なるK
B及びK
Wで所望のガス組成の燃料ガスを複数特定することができる。
【0073】
第2の手順は、燃料ガスを試料に流通する前と流通した後でガス組成を変動させずに燃料ガスを試料に流通させ、試料に炭素が析出するか否かを評価することにより、燃料ガス中での炭素の析出の有無を評価する。
【0074】
試料に炭素が析出するか否かの評価は、上述した反応検証装置を用いて実施する。反応検証装置を用いることで、ガス組成を変動させずに燃料ガスを試料に流通させることができる。
【0075】
本実施形態では、試料として脱硫剤を用いているため、燃料ガス中に炭素が析出したか否かの判断は、脱硫剤試料に炭素が析出したか否かで行う。
【0076】
図2は、上述した脱硫装置の処理温度(450℃)及び実験室装置の運転圧力(9.81bar)でK
B及びK
Wに基づいて特定された燃料ガスを試料に流通させ、試料に炭素の析出が認められなかった場合を「○」で表し、炭素の析出が認められた場合を「■」で表している。
【0077】
直線A上の各プロットは、上述したように、脱硫装置の処理温度(450℃)において、水性ガスシフト反応が平衡状態のときの燃料ガスを表す。ブドアール反応(2CO⇔CO
2+C)については、二酸化炭素の分圧を増大させる、すなわち、K
Bを増大させれば、炭素析出を抑制する方向に進めることができるため、直線Aについては、K
Wを一定とし、K
Bを増大させていくと、炭素の析出が認められる領域から炭素の析出が認められない領域へと移行していき、これらの領域の境界B1を得ることができる。このように、K
Wを一定とし、K
Bを変動させることにより、判断図上でブドアール反応の影響を考慮した炭素析出の有無の境界B1を得ることができる。
【0078】
一方、K
W及びK
Bを変動させることにより特定された燃料ガスはブドアール反応及び水性ガスシフト反応(CO+H
2O⇔CO
2+H
2)の双方が非平衡状態のときの燃料ガスの状態を表すものである。
【0079】
図2に示すように、炭素の析出が認められなかったことを示す「○」、及び炭素の析出が認められたことを示す「■」はそれぞれ炭素が析出しない領域C及び炭素が析出する領域Dとしてまとめることができる。そして、それぞれまとめられた領域C及び領域Dの境界として、燃料ガス中での炭素析出の有無の境界となる境界Bを特定することができる。
【0080】
このように、炭素析出に直接関わるK
Bだけでなく、炭素析出に間接的に関わるK
Wを用いることにより、判断図上でブドアール反応の影響だけでは説明できない炭素析出の境界Bを表すことができる。
【0081】
本発明の炭素析出の評価方法によれば、K
B及びK
Wに基づいて特定された任意の燃料ガスのガス組成における炭素析出状況を明らかにすることができる。
【0082】
また、K
B及びK
Wを共に変動させて燃料ガスを複数特定し、燃料ガス毎に評価を行うため、燃料ガス中での炭素析出の有無の境界Bをブドアール反応及び水性ガスシフト反応の双方の影響を考慮して特定することができる。
【0083】
また、K
Wを一定としてK
Bを変動させて燃料ガスを複数特定し、燃料ガス毎に評価を行うことによりブドアール反応の影響を考慮した、炭素析出の有無の境界B1を得ることができる。
【0084】
また、ブドアール反応及び水性ガスシフト反応が平衡状態及び非平衡状態のいずれであっても複数の異なるK
B及びK
Wに基づき所望のガス組成の燃料ガスを特定でき、特定された燃料ガス毎に炭素析出の評価を行うため、
図2のように、所望のガス組成の燃料ガス中での炭素析出状況を明らかにすることができる。
【0085】
さらに、燃料ガス中での炭素析出の有無の境界Bと、所望のK
B及びK
Wとを比較することにより、所望のK
B及びK
Wに基づいて特定されたガス組成の燃料ガス中に炭素が析出するか否かを予め判断することができる。さらに、炭素析出の有無が未知の燃料ガスについては、K
B及びK
Wでガス組成を特定しさえすれば、炭素析出の有無が未知の燃料ガス中に炭素が析出するか否かを推測することができる。
【0086】
次に、本発明の炭素析出の判断方法について説明する。
【0087】
本発明の炭素析出の判断方法とは、K
B及びK
Wに基づいて特定される燃料ガスと、燃料ガス中での炭素析出の有無との関係を表す
図2の判断図を用いて、炭素析出が未知の燃料ガスをK
B及びK
Wに基づいて特定して判断図上に表し、かかる判断図上において、炭素析出の有無が既知の燃料ガスのK
B及びK
Wと、炭素析出が未知の燃料ガスのK
B及びK
Wとを比較することにより、炭素析出が未知の燃料ガス中での炭素析出の有無を予め判断する方法をいう。
【0088】
たとえば、
図2中で炭素析出の有無が未知の燃料ガスのK
B及びK
Wに基づいて特定された燃料ガスD1があるとする。この特定された燃料ガスD1は、炭素が析出する領域Dに属する。このため、炭素析出が未知の燃料ガスD1については、炭素が析出するガスであると予め判断することができる。なお、燃料ガスD1を炭素が析出する領域Dと析出しない領域Cとの境界Bと比較してもよい。
【0089】
本発明の炭素析出の判断方法によれば、K
B及びK
Wに基づいて特定された燃料ガスと、燃料ガス中での炭素析出の有無との関係が表された判断図を用いることにより、K
B及びK
Wに基づいて特定された所望のガス組成の燃料ガス中に炭素が析出するか否かを予め判断することができる。さらに、炭素析出の有無が未知の燃料ガスについては、K
B及びK
Wでガス組成を特定しさえすれば、かかる燃料ガス中に炭素が析出するか否かを推測することができる。
【0090】
(実施形態2)
以下、実施形態2に係る炭素析出の評価方法を石炭ガス化複合発電設備に適用した場合について説明する。
【0091】
図3に、石炭ガス化複合発電設備(IGCC)の一部概略構成図を示す。
【0092】
IGCC10は、石炭ガス化炉11を備えている。石炭ガス化炉11で生成された石炭ガス化ガス(燃料ガス)は図示しない除塵手段により除塵されて蒸気加熱器12で脱硫装置14の処理温度(450℃)に調整され、ガス精製設備13に送られる。
【0093】
ガス精製設備13は、石炭ガス化ガス中の不純物を除去するものである。本実施形態では、ガス精製設備13として石炭ガス化ガス中の硫化物を除去する脱硫装置14を備えている。
【0094】
脱硫装置14は、石炭ガス化ガスに含まれる硫黄化合物と化学反応する金属酸化物系脱硫剤を備えている。金属酸化物系脱硫剤としては、たとえば、酸化鉄を主成分とする脱硫剤、亜鉛フェライトを主成分とする脱硫剤などを挙げることができる。本実施形態では、脱硫剤として亜鉛フェライトを主成分とする脱硫剤(試料)を用いている。
【0095】
また、蒸気加熱器12の下流側且つガス精製設備13の上流側には、詳細は後述するが、系内の循環排ガスX、水蒸気Y及び二酸化炭素Zを抽出し、これらの少なくとも1以上を石炭ガス化ガスに添加する流体添加手段15が設けられている。
【0096】
流体添加手段15は、ガス化ガスに循環排ガスX、水蒸気Y及び二酸化炭素Zの少なくとも1以上のガスを添加できるものであればよく、本実施形態では、蒸気加熱器12とガス精製設備13とを接続する配管に接続されている。なお、流体添加手段15は、添加量を自在に制御できるように流量調節弁や流量計などを備えている。
【0097】
硫黄化合物が除去された石炭ガス化ガスは燃焼器16に送られる。燃焼器16での燃焼により生じた燃焼ガスは、ガスタービン17に送られて膨張され発電動力が得られる。
【0098】
ガスタービン17で仕事を終えた排気ガスの一部は再生熱交換器20及び排熱回収ボイラ18で熱回収され、熱回収された排気ガスは圧縮機19aで圧縮される。
【0099】
本実施形態では、圧縮機19aで圧縮された排気ガスの一部、すなわち、循環排ガスXを蒸気加熱器12の下流側且つガス精製設備13の上流側に設けられた流体添加手段15により石炭ガス化ガスに添加する。
【0100】
また、排熱回収ボイラ18で製造された水蒸気の一部、すなわち、水蒸気Yを流体添加手段15により石炭ガス化ガスに添加してもよい。
【0101】
圧縮機19aで圧縮された排気ガスは再生熱交換器20で昇温されて燃焼器16に投入される。排熱回収ボイラ18で発生した蒸気は蒸気タービン21に送られ、蒸気タービン21で膨張され、動力が得られる。本実施形態では、ガスタービン17と蒸気タービン21とは、直列に接続され、ガスタービン17と蒸気タービン21の動力により発電機が駆動され、ガスタービン17と蒸気タービン21による複合発電が行われる。
【0102】
蒸気タービン21で仕事を終えた排気蒸気は復水器22で復水されて、図示しない給水ポンプにより給水加熱器23に送られる。給水加熱器23には排熱回収ボイラ18で熱回収された排気ガスの一部が送られ、その回収された熱により復水器22で凝縮された復水が加熱され、排熱回収ボイラ18に供給される。
【0103】
排熱回収ボイラ18で熱回収された排気ガスの一部は、二酸化炭素回収系により二酸化炭素が回収される。すなわち、排気ガスは、給水加熱器23で冷却された後、スクラバー(冷却器)24で水分が分離され、水分が分離された排気ガスは圧縮機19bで所定圧力に加圧された後、さらに、汽水分離器(冷却器)25で冷却される。冷却されて水分が除去された排気ガス、すなわち、二酸化炭素は圧縮機19cで所定圧力に加圧されて石炭ガス化炉11に送られる。余剰の二酸化炭素は圧縮機19dで加圧して液化する等により回収される。なお、圧縮機19cで加圧された二酸化炭素の一部、すなわち、二酸化炭素Zを流体添加手段15により石炭ガス化ガスに添加してもよい。
【0104】
ここで、流体添加手段15について説明する。
【0105】
流体添加手段15は、ブドアール反応を抑制する流体を石炭ガス化ガスに添加するものである。ブドアール反応を抑制する流体としては、二酸化炭素や水蒸気などを挙げることができる。本実施形態では、上述したようにガスタービン17で仕事を終え、排熱回収ボイラ18で熱回収された循環排ガスXを蒸気加熱器12の下流側且つガス精製設備13の上流側に設けられた流体添加手段15により石炭ガス化ガスに添加している。なお、上述したように系内から抽出した水蒸気Yまたは二酸化炭素Zまたはこれらの混合ガスを添加してもよい。
【0106】
ブドアール反応を抑制する流体の添加量は自在に変更することが可能となっている。このような流体添加手段を設けることで、石炭ガス化炉で生成された石炭ガス化ガスのガス組成を自在に変更することができる。すなわち、脱硫装置14の上流側において、K
B及びK
Wに基づいて特定される所望のガス組成の石炭ガス化ガスとすることができる。あらかじめ作成した炭素析出の有無を判断するための判断図に基づいて、炭素析出が無いと判断されるK
B及びK
Wとなるようにブドアール反応を抑制する流体の添加量を調整することができるので、脱硫装置内での炭素析出を防止しながら石炭ガス化複合発電設備10を運転することができる。
【0107】
図4に、本発明の炭素析出の評価方法を石炭ガス化複合発電設備に適用した場合における燃料ガス中での炭素析出の有無を判断するための判断図を示す。
【0108】
図4中の曲線E
0の各プロット「▲」は、矢印の方向に、石炭ガス化炉で生成された約900℃の石炭ガス化ガスが水性ガスシフト反応を平衡状態に保ったまま、且つ循環排ガスXを添加せずに450℃の脱硫装置まで降温しながら流通していく過程を表すものである。
【0109】
実際のプラントでは、石炭ガス化炉で生成された石炭ガス化ガスが脱硫装置まで流通する過程で、水性ガスシフト反応が平衡に至る前に停止しているので曲線E
0の各プロットの通りの組成とはなっていない。曲線E
0の各プロットはあくまでも計算上の水性ガスシフト反応による変化を表しているものである。
【0110】
本実施形態では、実際のプラントにおいて、石炭ガス化ガスに先の石炭ガス化複合発電設備10において循環排ガスXを体積比で3%、5%、10%、15%添加した場合の炭素析出の有無を判断するための判断図の適用例を例示する。
【0111】
石炭ガス化炉で生成する石炭ガス化ガスは、ガス化炉出口でも900℃以上の高温にあるため、
図4のFに位置するガス組成となっている。この石炭ガス化ガスに循環排ガスXが添加されると、K
Bは増大する。これにより、循環排ガスXを添加した石炭ガス化ガスの状態は、K
Bが増大する方向に移行し、
図4中の点線の領域Gで表す領域にプロットされる。
【0112】
一方、循環排ガスXが添加された石炭ガス化ガスは水性ガスシフト反応が脱硫装置の運転温度における平衡状態まで移行すると考えると、循環排ガスXを添加した石炭ガス化ガスの状態は水性ガスシフト反応が平衡状態となる直線Aまで変化する。
【0113】
よって、石炭ガス化ガスに二酸化炭素が3%、5%、10%、15%添加された後、石炭ガス化ガスが水性ガスシフト反応の平衡状態まで移行する過程はそれぞれ曲線E
3、曲線E
5、曲線E
10、曲線E
15で表すことができる。
【0114】
曲線E
3、曲線E
5、曲線E
10、曲線E
15上において、K
B及びK
Wに基づいて特定された複数の石炭ガス化ガスについては、実際のプラントでの循環排ガスXの添加効果と比較するため、かかる石炭ガス化ガスまたはその模擬ガス(以下、単に「石炭ガス化ガス」という)毎に脱硫剤を保持した反応検証装置に流通させ、脱硫剤試料に炭素が析出するか否かを評価し、検証結果と照らし合わせる必要がある。
図4に検証結果を示す。
【0115】
図4に示すように、「○」は炭素の析出が認められなかったことを示し、「■」は炭素の析出が認められたことを示す。
【0116】
ここで、実際のプラントでは、石炭ガス化ガスに循環排ガスXを添加しない場合は曲線E
0の全域で炭素析出することが検証された(プロット「▲」)。また、循環排ガスXを3〜10%添加した場合は、水性ガスシフト反応が平衡に至る前に停止して領域Gにとどまっている間は炭素析出が抑制されるが、万一ガス化炉から脱硫装置までの流通過程で水性ガスシフト反応が進んで、曲線E
3、曲線E
5、曲線E
10に沿って変化すると炭素が析出する可能性が残されていることが判る。さらに、二酸化炭素を15%添加した場合には、たとえガス化炉から脱硫装置までの流通過程で水性ガスシフト反応が進んで曲線E
15上に沿ってガス組成が変化したとしても、炭素析出が認められないことが判断される。以上の判断から、
図4の判断図で表された本発明の評価結果によって実際のプラントでの炭素析出の有無を十分予測できることが確認できた。
【0117】
本発明の炭素析出の評価方法によれば、水性ガスシフト反応が平衡状態及び非平衡状態のいずれの状態であってもK
B及びK
Wに基づいて燃料ガスを複数特定し、燃料ガス毎に、所望のガス組成を変動させずに燃料ガスと試料を反応させることができる。これにより、K
B及びK
Wと燃料ガス中での炭素析出の有無との関係を明らかにでき、所望のガス組成の燃料ガス中での炭素析出状況を明らかにすることができる。また、燃料ガス中での炭素析出の有無をブドアール反応及び水性ガスシフト反応の少なくとも一方の影響を考慮して評価することができる。
【0118】
また、K
B及びK
Wに基づいて特定された燃料ガスと、燃料ガス中での炭素析出の有無との関係が表された判断図を用いることにより、K
B及びK
Wに基づいて特定された所望のガス組成の燃料ガス中に炭素が析出するか否かを予め判断することができる。さらに、炭素析出の有無が未知の燃料ガスについては、K
B及びK
Wでガス組成を特定しさえすれば、かかる燃料ガス中に炭素が析出するか否かを推測することができる。
【0119】
具体的に、K
B及びK
Wに基づいて特定された所望のガス組成の燃料ガスが、
図4のような判断図において炭素が析出しない領域のK
BとK
Wを満たす場合、このようなガス組成の石炭ガス化ガスを流通させれば、脱硫装置で炭素が析出するのを未然に防止することができる。
【0120】
また、炭素が析出する領域のK
BとK
Wを満たす場合、既知のガス組成を有する流体、すなわち本実施形態では、循環排ガスXを流体添加手段から添加し、炭素が析出しない領域のK
BとK
Wの石炭ガス化ガスとしてから、脱硫装置に流通させることにより、脱硫装置で炭素が析出するのを未然に防止することができる。さらに、循環排ガスXはIGCCの系内から抽出したものを用いているため、ブドアール反応を抑制する流体を系外から導入することなく、系内の循環排ガスXを有効利用することができる。
【0121】
また、脱硫装置での炭素析出を防止できれば、脱硫剤の機能を阻害することなく、石炭ガス化ガスから硫黄化合物を除去して高カロリーの燃料ガスを生成することができる。また、脱硫装置の劣化、損傷を抑制することができ、脱硫剤を長期に亘り使用することができる。
【0122】
なお、石炭ガス化ガスが降温しながら流通する過程では、K
Bの僅かな変化に対してK
Wは急激に変化することがわかる。このため、炭素が析出しない領域がK
BとK
Wのいずれも小さい領域では、石炭ガス化ガスの降温過程でK
Wが急激に変化し、炭素が析出する領域に移行する可能性がある。よって、K
BとK
Wを共に増大させるように石炭ガス化ガスのガス組成を調整することで炭素析出抑制効果を高めることができる。