【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的ゼロエミッション石炭ガス化発電プロジェクト/革新的ガス化技術に関する基盤研究事業/CO2回収型次世代IGCC技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水蒸気を含む燃料ガスを生成するガス化炉と、前記ガス化炉で生成された燃料ガスが供給されるガス反応設備とを備える火力発電プラントの運転方法であって、
下記式1に示すブドアール反応に関与する一酸化炭素及び二酸化炭素の第1分圧比と、下記式2に示す水性ガスシフト反応に関与する一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水蒸気の第2分圧比とで特定される燃料ガス中の炭素が析出するか否かを予め測定し、
前記ガス化炉で生成された燃料ガスの第1分圧比及び第2分圧比が、前記測定により得られた炭素が析出する第1分圧比及び第2分圧比である場合、炭素が析出しない第1分圧比及び第2分圧比となるように前記燃料ガスのガス組成を調整することを特徴とする火力発電プラントの運転方法。
[式1]
KB=PCO2/PCO2
(PCO2は二酸化炭素の分圧、PCOは一酸化炭素の分圧である。)
[式2]
KW=PCO2・PH2/(PCO・PH2O)
(PH2は水素の分圧、PH2Oは水蒸気の分圧である。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑み、燃料ガスがガス反応設備を流通する過程において、燃料ガス中の炭素が析出することを確実に防止できる火力発電プラントの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水蒸気を含む燃料ガスを生成するガス化炉と、前記ガス化炉で生成された燃料ガスが供給されるガス反応設備とを備える火力発電プラントの運転方法であって、下記式1に示すブドアール反応に関与する一酸化炭素及び二酸化炭素の第1分圧比と、下記式2に示す水性ガスシフト反応に関与する一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水蒸気の第2分圧比とで特定される燃料ガス中の炭素が析出するか否かを予め測定し、前記ガス化炉で生成された燃料ガスの第1分圧比及び第2分圧比が、前記測定により得られた炭素が析出する第1分圧比及び第2分圧比である場合、炭素が析出しない第1分圧比及び第2分圧比となるように前記燃料ガスのガス組成を調整することを特徴とする火力発電プラントの運転方法にある。
[式1]
K
B=P
CO2/P
CO2
(P
CO2は二酸化炭素の分圧、P
COは一酸化炭素の分圧である。)
[式2]
K
W=P
CO2・P
H2/(P
CO・P
H2O)
(P
H2は水素の分圧、P
H2Oは水蒸気の分圧である。)
【0010】
ここでいう分圧とは、大気圧を含めた絶対圧のことであって、工業的に使用される大気圧を差し引いたゲージ圧とは異なる。圧力の単位は統一して用いればMPa、atm、barなどどれを用いてもよいが、使用する単位系によって分圧比の数値は異なるものとなる。本願発明では便宜的に圧力単位としてbarを用いることとした。
【0011】
かかる態様では、第1分圧比及び第2分圧比で特定される燃料ガス中の炭素が析出するか否かを予め測定した結果に基づき、炭素が析出しない第1分圧比及び第2分圧比となるように、燃料ガスのガス組成を調整する。これにより、ガス反応設備での炭素析出を確実に防止することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する火力発電プラントの運転方法において、前記ガス化炉で生成された燃料ガスの第1分圧比及び第2分圧比が、前記測定により得られた炭素が析出する第1分圧比及び第2分圧比である場合、ブドアール反応を抑制する流体を前記燃料ガスに添加することにより、炭素が析出しない第1分圧比及び第2分圧比となるように前記燃料ガスのガス組成を調整することを特徴とする火力発電プラントの運転方法にある。
【0013】
かかる態様では、ブドアール反応を抑制する流体を添加することにより、燃料ガスのガス組成を調整する。これにより、ブドアール反応を抑制でき、ガス反応設備での炭素析出を確実に防止することができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載する火力発電プラントの運転方法において、前記ブドアール反応を抑制する流体は、二酸化炭素及び水蒸気の少なくとも一方であることを特徴とする火力発電プラントの運転方法にある。
【0015】
かかる態様では、ブドアール反応の抑制効果を有する二酸化炭素及び水蒸気の少なくとも一方を添加することで、燃料ガスのガス組成を調整する。これにより、ブドアール反応を効果的に抑制でき、ガス反応設備での炭素析出をより確実に防止することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第2又は第3の態様に記載する火力発電プラントの運転方法において、前記ブドアール反応を抑制する流体は、前記火力発電プラントの系内から回収されたものであることを特徴とする火力発電プラントの運転方法にある。
【0017】
かかる態様では、系内から回収された二酸化炭素及び水蒸気の少なくとも一方を有効利用しながら、ガス反応設備での炭素析出を確実に防止することができる。
【0018】
本発明の第5の態様は、第2〜第4の態様の何れか一の態様に記載する火力発電プラントの運転方法において、前記ガス化炉から前記ガス反応設備の間において、前記ブドアール反応を抑制する流体を前記燃料ガスに添加することを特徴とする火力発電プラントの運転方法にある。
【0019】
かかる態様では、ブドアール反応を抑制する流体を燃料ガスに添加してから、ガス反応設備に流通させるため、ガス反応設備での炭素析出を効果的に防止することができる。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の態様の何れか一の態様に記載する火力発電プラントの運転方法において、前記ガス反応設備は、ガス化炉で生成された燃料ガスを精製するガス精製設備であることを特徴とする火力発電プラントの運転方法にある。
【0021】
かかる態様では、ガス精製設備での炭素析出を防止することができる。これにより、ガス精製設備を劣化及び損傷させることなく、継続的に燃料ガスを精製することができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載する火力発電プラントの運転方法において、前記ガス精製設備は燃料ガス中の硫化物を除去する脱硫装置を備えることを特徴とする火力発電プラントの運転方法にある。
【0023】
かかる態様では、脱硫装置内の脱硫剤内部への炭素析出を防止することができる。これにより、脱硫装置を劣化及び損傷させることなく、燃料ガスを精製することができ、且つ脱硫剤の機能を阻害することなく長期に亘り使用することができる。
【0024】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載する火力発電プラントの運転方法において、前記脱硫装置は亜鉛フェライトを成分に含む脱硫剤を用いて燃料ガス中の硫化物を除去することを特徴とする火力発電プラントの運転方法にある。
【0025】
かかる態様では、脱硫装置内の亜鉛フェライト脱硫剤内部への炭素析出を確実に防止することができる。これにより、亜鉛フェライトを成分に含む脱硫剤を用いて、脱硫装置を劣化及び損傷させることなく、燃料ガスを精製することができ、且つ脱硫剤の機能を阻害することなく長期に亘り使用することができる。
【0026】
本発明の第9の態様は、第1〜第8の態様の何れか一の態様に記載する火力発電プラントの運転方法において、前記測定から、前記第1分圧比及び前記第2分圧比で特定される燃料ガスと、該燃料ガス中の炭素が析出するか否かとの関係を表す判断図を作成し、前記判断図を用いて、前記ガス化炉で生成された燃料ガスの第1分圧比及び第2分圧比が、前記判断図上に表された炭素が析出する第1分圧比及び第2分圧比である場合、炭素が析出しない第1分圧比及び第2分圧比となるように前記燃料ガスのガス組成を調整することを特徴とする火力発電プラントの運転方法にある。
【0027】
かかる態様では、第1分圧比及び第2分圧比で特定される燃料ガスと、該燃料ガス中の炭素が析出するか否かとの関係を表す判断図に基づき、炭素が析出しない第1分圧比及び第2分圧比となるように燃料ガスのガス組成を調整することができ、調整後の燃料ガスを流通させることにより、ガス反応設備での炭素析出を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の火力発電プラントの運転方法によれば、ブドアール反応に関与する第1分圧比及び水性ガスシフト反応に関与する第2分圧比で特定される燃料ガス中の炭素が析出するか否かを予め測定した結果に基づき、炭素が析出しない第1分圧比及び第2分圧比となるように燃料ガスのガス組成を調整する。調整後の燃料ガスを流通させることにより、各種のガス反応設備での炭素析出を確実に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(実施形態1)
図1に、実施形態1に係る火力発電プラントの運転方法に適用される火力発電プラントの一例である石炭ガス化複合発電設備(IGCC)の一部概略構成図を示す。
【0031】
石炭ガス化複合発電設備(以下「IGCC」と示す)100は、石炭ガス化炉11を備えている。石炭ガス化炉11は、石炭をガス化し燃料ガスを生成するものである。石炭ガス化炉11には、系内からの二酸化炭素が供給され、酸化剤(酸素、空気)の反応により燃料ガスが生成される。
【0032】
燃料ガスには、一酸化炭素や水素ガスなどの可燃成分が含まれ、また、水溶性不純物、凝縮性不純物、粒子状不純物及びガス状不純物が含まれている。燃料ガスは、図示しない除塵手段により除塵されて、蒸気加熱器12で所定温度に調整される。
【0033】
所定温度に調整された燃料ガスは、ガス反応設備の一例であるガス精製設備13に送られる。ここで、ガス反応設備とは、燃料ガスを触媒や吸着剤などと反応させて燃料ガスを改質したり、他の流体や固体と反応させて新たな組成のガスを生成したり、燃料ガスや燃料ガスの燃焼により生成された燃焼ガス及びこれらの熱を発電に利用する設備をいう。
【0034】
また、IGCC100は、燃料ガスの不純物を除去するガス精製設備13と、燃料ガスを燃焼させる燃焼器16と、燃焼器16で生成された燃焼ガスを膨張して発電動力を得るガスタービン17と、排気ガスの熱を回収する排熱回収ボイラ18とを備えている。ガス精製設備13は、燃料ガスに含まれる硫黄化合物を除去する脱硫装置14を備えている。本実施形態では、ガス精製設備13、燃焼器16、ガスタービン17、排熱回収ボイラ18及び脱硫装置14が請求項に記載するガス反応設備に該当する。
【0035】
脱硫装置14には、硫黄化合物と化学反応する脱硫剤が保持される。脱硫剤としては、金属酸化物脱硫剤が好ましく、たとえば、酸化鉄を主成分とする脱硫剤、亜鉛フェライトを主成分とする脱硫剤、酸化亜鉛を主成分とする脱硫剤を挙げることができる。
【0036】
脱硫装置14には、後述する流体添加手段15により流体が添加された燃料ガスが供給される。燃料ガスは、脱硫装置14で硫黄化合物が除去されて精製され、燃焼器16に送られる。燃焼器16には、高濃度の酸素と燃焼温度調整のための燃焼ガスが送られ、燃料ガスと酸素との燃焼反応により燃焼ガスが生成される。
【0037】
燃焼器16で生成された燃焼ガスは、ガスタービン17に送られて膨張され、発電動力が得られる。ガスタービン17で仕事を終えた排気ガス(二酸化炭素と水蒸気を主成分とする流体)は再生熱交換器20を経て、排熱回収ボイラ(HRSG)18で熱回収され、熱回収された排気ガスは圧縮機19aで圧縮される。圧縮機19aで圧縮された排気ガスは再生熱交換器20で昇温されて燃焼器16に投入される。
【0038】
排熱回収ボイラ18で発生した蒸気は蒸気タービン21に送られ、蒸気タービン21で膨張され、動力が得られる。本実施形態では、ガスタービン17と蒸気タービン21とは、直列に接続され、ガスタービン17と蒸気タービン21の動力により発電機が駆動され、ガスタービン17と蒸気タービン21による複合発電が行われる。
【0039】
蒸気タービン21で仕事を終えた排気蒸気は復水器22で復水されて、図示しない給水ポンプにより給水加熱器23に送られる。給水加熱器23には排熱回収ボイラ18で熱回収された排気ガスの一部が送られている。その回収された熱により復水器22で凝縮された復水が加熱され、排熱回収ボイラ18に供給される。
【0040】
排熱回収ボイラ18で熱回収された排気ガスの一部は、二酸化炭素回収系により二酸化炭素が回収される。すなわち、排気ガスは、給水加熱器23で冷却された後、スクラバー24で水洗浄されて冷却されるとともに水溶性の不純物が分離され、水溶性の不純物が分離された排気ガスは圧縮機19bで所定圧力に加圧された後、さらに、汽水分離器25で冷却され水分が分離される。冷却されて水分が除去された排気ガス、すなわち、二酸化炭素は圧縮機19cで所定圧力に加圧されて石炭ガス化炉11に送られる。余剰の二酸化炭素は圧縮機19dで加圧して液化する等により回収される。
【0041】
ここで、流体添加手段15について説明する。本実施形態では、脱硫装置14の脱硫剤や配管での炭素の析出を未然に防止するため、石炭ガス化炉11からガス精製設備13までの間、具体的には、蒸気加熱器12から脱硫装置14までの間に系内から抽出した循環排ガスXを燃料ガスに添加する流体添加手段15が設けられている。
【0042】
流体添加手段15は、炭素の析出を抑制する流体として、ブドアール反応を抑制する流体を燃料ガスに添加するものである。ブドアール反応を抑制する流体としては、二酸化炭素、水蒸気、排気ガス及びこれらの混合流体などを挙げることができる。本実施形態では、ガスタービン17で仕事を終え、排熱回収ボイラ18で熱回収された排気ガスの一部を循環排ガスXとして、燃料ガスに添加している。燃料ガスに添加される循環排ガスXの圧力は、燃料ガスの圧力と同等以上にする必要があるため、なるべく高い圧力で得られることが好ましく、圧縮機19aで圧縮されたものを用いている。なお、循環排ガスXは、圧縮機19aにより圧縮されたものに限定されず、循環排ガスXの圧力が燃料ガスの圧力以下であるならば、別途圧縮機を用いるなどして燃料ガスより高い圧力にすることによって供給するようにしてもよい。
【0043】
このような流体添加手段15は、石炭ガス化炉11で生成された燃料ガスや循環排ガスXのガス組成、濃度などを計測する計測手段と、計測結果に基づき、ブドアール反応を抑制する流体の添加量を決定する制御手段と、決定された添加量を燃料ガスに添加する調整手段から構成される。循環排ガスXの添加量及び添加方法などについては後述する。
【0044】
次に、本発明の火力発電プラントの運転方法について説明する。
【0045】
本発明の火力発電プラントの運転方法は、第1及び第2の手順で構成される。
第1の手順は、ブドアール反応に関与する一酸化炭素及び二酸化炭素の第1分圧比及び水性ガスシフト反応に関与する一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水蒸気の第2分圧比で特定される燃料ガス中の炭素が析出するか否かを予め測定する。
【0046】
燃料ガスとは、石炭、褐炭、コークス、重質油、石油精製残渣、バイオマスなど、様々な炭素系資源をガス化炉でガス化することにより生成されたもの、又はこれらの模擬ガスをいう。本実施形態では、石炭ガス化ガスまたはこの模擬ガスをいう。
【0047】
第1分圧比とは式1で定義されるK
Bであり、下記式(a)に示すブドアール反応の平衡定数で表される。ブドアール反応は、一酸化炭素から二酸化炭素と炭素が生成する反応である。ブドアール反応が起こると燃料ガス中に固体の炭素が析出する。以下、第1分圧比をK
Bという。
【0048】
第2分圧比とは式2で定義されるK
Wであり、下記式(b)に示す水性ガスシフト反応の平衡定数で表される。水性ガスシフト反応は、一酸化炭素と水蒸気から二酸化炭素と水素が生成する反応である。以下、第2分圧比をK
Wという。
【0049】
ブドアール反応
2CO⇔CO
2+C (a)
水性ガスシフト反応(WGS)
CO+H
2O⇔CO
2+H
2 (b)
[式1]
K
B=P
CO2/P
CO2
(P
CO2は二酸化炭素の分圧、P
COは一酸化炭素の分圧である。)
[式2]
K
W=P
CO2・P
H2/(P
CO・P
H2O)
(P
H2は水素の分圧、P
H2Oは水蒸気の分圧である。)
【0050】
試料とは、燃料ガスと接触することで炭素が析出する可能性があるものをいう。たとえば、炭素析出の触媒となる鉄を含む脱硫剤や配管などを挙げることができる。本実施形態では、燃料ガス中の硫化物を除去する脱硫装置14を用いて、燃料ガス中の炭素が析出するか否かを予め測定する。試料としては、鉄を含む亜鉛フェライトを成分に含む脱硫剤を用いる。
【0051】
燃料ガス中の炭素が析出するか否かの測定は、反応検証装置を用いて行う。反応検証装置とは、燃料ガスを試料に流通する際に、燃料ガスが試料に接触する前と接触した後とで、ガス組成の変化が殆ど無い状況で燃料ガスを試料に流通させ、試料が接触しているガスの組成は常に一定に保たれている条件を作ることができる装置をいう。
【0052】
このような反応検証装置を用いて、K
B及びK
Wで特定される燃料ガスを連続的に試料(以下、脱硫剤試料という)に流通させ、脱硫剤試料に炭素が析出するか否かを測定する。炭素析出の判断は、脱硫剤試料に炭素(C)が析出したか否かで行うものとする。得られた測定結果を用いることにより、たとえば
図2に示す判断図を作成することができる。本発明は、このように作成された判断図を用いて、火力発電プラントの運転方法を実施するものである。
【0053】
図2の判断図は、K
B及びK
Wで特定される燃料ガスと該燃料ガス中の炭素が析出するか否かとの関係を示す。横軸はK
B、縦軸はK
Wであり、各プロットは、このK
B及びK
Wで特定される燃料ガスの炭素析出状況を記号化して表している。
【0054】
K
B及びK
Wで特定される燃料ガスとは、燃料ガスに含まれるガス組成から算出したK
B及びK
Wを満たす燃料ガス、またはK
B及びK
Wから算出したガス組成を満たす燃料ガスの双方を含むものとする。
【0055】
また、判断図の作成に際しては、脱硫装置の処理温度(450℃)及び実際の運転圧力(27.51bar)を分圧調整法により実験室装置の運転圧力(9.81bar)に補償した。したがって、判断図は、その実験室装置の運転圧力をもとに作成されたものである。
【0056】
各プロットは、K
B及びK
Wで特定される燃料ガスを脱硫剤試料に流通させ、脱硫剤試料に炭素の析出が認められなかった場合を「○」で表し、炭素の析出が認められた場合を「■」で表している。K
B及びK
Wの値が広範囲にわたる様々な燃料ガスについて、炭素の析出が認められなかったことを示す「○」の集合、及び炭素の析出が認められたことを示す「■」の集合はそれぞれ炭素が析出しない領域B及び炭素が析出する領域Cとしてまとめることができる。そして、それぞれまとめられた領域B及び領域Cの境界として特定できる曲線Aは、燃料ガス中での炭素析出の有無の境界となることを実証的に示すことができる。
【0057】
次に、第2の手順について説明する。
第2の手順は、第1の手順の測定結果に基づき、石炭ガス化炉で生成された燃料ガスのK
B及びK
Wが、炭素が析出するK
B及びK
Wである場合、炭素が析出しないK
B及びK
Wの燃料ガスとなるように燃料ガスのガス組成を調整する。
【0058】
燃料ガスのK
B及びK
Wが、炭素が析出するK
B及びK
Wであるとは、燃料ガスが
図2の領域C内のガス組成(分圧比)を満たすことをいう。燃料ガスのK
B及びK
Wが、炭素が析出しないK
B及びK
Wであるとは、燃料ガスが
図2の領域B内のガス組成(分圧比)を満たすことをいう。
【0059】
燃料ガスのガス組成を調整するとは、石炭ガス化炉で生成された燃料ガスが、領域C内の炭素が析出するK
B及びK
Wである場合、既知のガス組成の流体を燃料ガスに添加することにより、領域B内の炭素が析出しないK
B及びK
Wの燃料ガスとなるように、燃料ガスのガス組成を調整することをいう。
【0060】
既知のガス組成の流体としては、ブドアール反応を抑制する流体が好ましく、二酸化炭素、水蒸気、排気ガス及びこれらの混合流体を挙げることができる。本実施形態では、排熱回収ボイラ18で熱回収された排気ガスの一部である循環排ガスXを燃料ガスに添加している。
【0061】
燃料ガスのガス組成の調整は、
図2に示す判断図を用いて、
図1に示すIGCC100に設けられた計測手段、制御手段及び調整手段からなる流体添加手段15により行うことができる。
【0062】
以下、ガス組成の調整方法について説明する。まず、計測手段は、燃料ガスの圧力、ガス組成などを計測することによりK
B及びK
Wを算出し、K
B及びK
Wの算出結果を制御手段に伝達する。
【0063】
計測手段としては、K
B及びK
Wを算出することができる圧力計やガスクロマトグラフィーなどの公知の計測装置を挙げることができる。次に、制御手段は、計測手段から伝達された情報に基づいて、燃料ガスが領域C内の炭素が析出するK
B及びK
Wである場合、領域B内の炭素が析出しないK
B及びK
Wの燃料ガスとなるように循環排ガスXの添加量を決定し、添加量の循環排ガスXを燃料ガスに添加するように調整手段を制御する。このような添加量の決定は、
図2に示す判断図の情報を制御手段に予め記憶させることにより行うことができる。次に、調整手段は、制御手段の制御信号に基づいて決定された添加量の循環排ガスXを燃料ガスに添加する。調整手段としては、流量調節弁や流量計などを挙げることができる。
【0064】
なお、計測手段は、石炭ガス化炉11から脱硫装置14の間に設けることが好ましく、本実施形態では、図示されないが、石炭ガス化炉11の出口に設けられている。
【0065】
本発明の火力発電プラントの運転方法は、IGCC100に流体添加手段15を設け、
図2に示す判断図を用いて火力発電プラントを運転するものである。これにより、燃料ガス中の炭素が析出するか否かを予め正確に判断することができ、石炭ガス化炉11で生成された燃料ガスが領域C内の炭素が析出するK
B及びK
Wであったとしても、領域B内の炭素が析出しないK
B及びK
Wを満たす燃料ガスとなるようにガス組成を調整することができる。さらに、調整後の燃料ガスを脱硫装置14に流通させることにより、脱硫装置14での炭素析出を確実に防止することができる。
【0066】
次に、反応検証装置を用いて得られた他の判断図に基づいて、本発明の火力発電プラントの運転方法を実施する場合について説明する。
【0067】
図3に、K
B及びK
Wで特定される燃料ガスと該燃料ガス中の炭素が析出するか否かとの関係を表す判断図を示す。
図2と同様に、横軸はK
B、縦軸はK
Wであり、各プロットは、このK
B及びK
Wの燃料ガスの炭素析出状況を記号化して表している。具体的に、炭素の析出が認められなかった場合は「○」、炭素の析出が認められた場合は「■」、「▲」で表している。また、
図3に示す判断図は、
図2と同様に脱硫装置の処理温度(450℃)及び実験室装置の運転圧力(9.81bar)をもとに作成されている。
【0068】
図3の曲線D
0の各プロット「▲」は、矢印αの方向に、石炭ガス化炉で生成された約900℃の燃料ガスに循環排ガスXを添加せずに450℃で運転する脱硫装置まで降温していく過程で水性ガスシフト反応が進行した時のK
B及びK
Wの変化を表すものである。
【0069】
ただし、実際のプラントでは、石炭ガス化炉で生成された燃料ガスが脱硫装置まで流通する過程で、水性ガスシフト反応が平衡に至る前に停止しており曲線D
0の各プロットの途中段階の組成となっている。曲線D
0の各プロットは水性ガスシフト反応の進行による計算上の変化を表しているものである。
【0070】
以下、反応検証装置を用いて作成した
図3の判断図を用いて、実際の火力発電プラントにおいて、燃料ガスに循環排ガスXを体積比で3%、5%、10%、15%添加し、火力発電プラントを運転した場合について説明する。
【0071】
石炭ガス化炉で生成する燃料ガスは、石炭ガス化炉出口でも900℃以上の高温にあるため、
図3のEに位置するガス組成となっている。この燃料ガスに循環排ガスXが添加されると、K
Bは増大する。これにより、循環排ガスXを添加した燃料ガスの状態は、K
Bが増大する方向に移行し、
図3の点線の領域Fで表す領域にプロットされる。
【0072】
一方、循環排ガスXが添加された燃料ガスは水性ガスシフト反応が脱硫装置の運転温度における平衡状態まで移行すると考えると、循環排ガスXを添加した燃料ガスの状態は水性ガスシフト反応が平衡状態となる直線Gまで変化する。
【0073】
よって、燃料ガスに循環排ガスXが3%、5%、10%、15%添加された後、燃料ガスが水性ガスシフト反応の平衡状態まで移行する過程はそれぞれ曲線D
3、曲線D
5、曲線D
10、曲線D
15で表すことができる。
【0074】
曲線D
3及び曲線D
5より、燃料ガスに循環排ガスXを3%、5%添加した場合は、水性ガスシフト反応が平衡に至る前に停止して領域Fにとどまるならば炭素析出が抑制されるが、万一、石炭ガス化炉から脱硫装置までの流通過程で水性ガスシフト反応が進んで、ガス組成が曲線D
3、曲線D
5に沿って変化すると、K
Wの値が2ないし3まで増大しただけで炭素が析出する可能性が残されていることが判る。また、燃料ガスに循環排ガスXを10%添加した場合も同様に、水性ガスシフト反応が進んで、ガス組成が曲線D
10に沿って変化すると、K
Wの値が6ないし8まで増大した段階で炭素が析出する可能性が残されていることが判る。一方、循環排ガスXを15%添加した場合は、たとえ水性ガスシフト反応が進んで、矢印βの方向、すなわち、曲線D
15上に沿ってガス組成が変化し、K
Wの値が9近くまで変化しても炭素析出が認められないことが判断される。
【0075】
このように、
図3に示す判断図を用いることにより、石炭ガス化炉で生成された燃料ガスが脱硫装置まで流通する過程で水性ガスシフト反応が進んでK
B及びK
Wの値が変化しても、K
B及びK
Wで特定される燃料ガス中の炭素が析出するか否かを予め把握することができる。
【0076】
本発明の火力発電プラントの運転方法では、K
B及びK
Wで特定される燃料ガスと該燃料ガス中の炭素が析出するか否かとの関係を表す判断図を用いてプラントを運転する。これにより、石炭ガス化炉で生成された燃料ガスが脱硫装置まで流通する過程において、水性ガスシフト反応が進んでK
B及びK
Wの値が変化したときに起こり得る炭素析出の可能性を予め予測することができる。
【0077】
燃料ガスに循環排ガスXを所定量添加する場合においては、
図3の曲線D
3、曲線D
5、曲線D
10のように、K
Wの値が小さいうちには燃料ガスから炭素が析出しない条件であっても、燃料ガスの流通過程で水性ガスシフト反応が進んでK
Wの値が増大したときに炭素が析出する条件に移行する、または移行する可能性があることを予め予測することができる。そして、この予測に基づき、石炭ガス化炉から脱硫装置まで燃料ガスが流通する全ての過程(曲線D
15)で炭素が析出しないK
B及びK
Wに収まるように予め燃料ガスのガス組成を調整することができる。これにより、脱硫装置や配管で炭素が析出するのを未然に防止しながら火力発電プラントを運転することができる。
【0078】
また、脱硫剤への炭素の析出が防止されるため、脱硫剤が有する硫黄化合物の除去機能が阻害されることなく、燃料ガスを精製することができる。さらに、循環排ガスXは本来燃焼器16に直接投入される排ガスの一部をIGCC100の系内から抽出して流体添加手段15を経て、脱硫装置14の上流で添加される。このため、燃焼器16に投入されるガス量や組成条件ならびにガスタービンの燃焼状態には何ら影響を与えることがなく、本質的に火力発電プラントの熱効率に悪影響を及ぼすことなくブドアール反応を抑制することができ、炭素析出を確実に防止しながら火力発電プラントを運転することができる。
【0079】
(実施形態2)
実施形態2は、実施形態1の構成の変形例であり、実施形態1と同一のものには同一符号を付し、重複する説明は省略する。
図4に、実施形態2に係る火力発電プラントの運転方法に適用される石炭ガス化複合発電設備(IGCC)の一部概略構成図を示す。実施形態2では、
図2に示す判断図を用いて火力発電プラントの運転方法を実施する場合について説明する。
【0080】
IGCC101に設けられた流体添加手段15は、ブドアール反応を抑制する流体として、系内から抽出した水蒸気Yを燃料ガスに添加するものである。水蒸気Yは、排熱回収ボイラ18で製造された水蒸気の一部である。水蒸気Yを添加することにより、K
Wを減少させ、領域B(
図2参照)内の炭素が析出しないK
B及びK
Wの燃料ガスとなるようにガス組成を調整することができる。水蒸気は改質反応を有し、且つ水蒸気は炭素が析出する触媒活性点に吸着されその効果を減ずる特性を有するため、より効果的に炭素析出を抑制できる。
【0081】
このような流体添加手段15を設けることにより、K
B及びK
Wで特定される燃料ガスと該燃料ガス中の炭素が析出するか否かとの関係を表す判断図を用いて、領域B内の炭素が析出しないK
B及びK
Wの燃料ガスとなるように水蒸気Yの添加量を調整することができ、調整後の燃料ガスを流通させることにより、脱硫装置14内での炭素析出を確実に防止しながらIGCC101を運転することができる。また、脱硫剤が有する硫黄化合物の除去機能が大きく阻害されることなく、燃料ガスを精製することができる。さらに、ブドアール反応を抑制する流体を系外から導入することなく、IGCC101の系内の水蒸気Yを有効利用でき、炭素析出を確実に防止しながら火力発電プラントを運転することができる。
【0082】
(実施形態3)
実施形態3は、実施形態1の構成の変形例であり、実施形態1と同一のものには同一符号を付し、重複する説明は省略する。
図5に、実施形態3に係る火力発電プラントの運転方法に適用されるIGCCの一部概略構成図を示す。実施形態3では、
図2に示す判断図を用いて火力発電プラントの運転方法を実施する場合について説明する。
【0083】
IGCC102に設けられた流体添加手段15は、ブドアール反応を抑制する流体として、系内から抽出した二酸化炭素Zを燃料ガスに添加するものである。二酸化炭素Zは、排熱回収ボイラ18で熱回収された排気ガスの一部が二酸化炭素回収系により回収され、給水加熱器23、スクラバー24及び汽水分離器25などを経て、圧縮機19cで加圧された二酸化炭素の一部である。二酸化炭素Zを添加することにより、K
Bを増大させ、領域B(
図2参照)内の炭素が析出しないK
B及びK
Wの燃料ガスとなるように燃料ガスのガス組成を調整することができる。
【0084】
このような流体添加手段15を設けることにより、実施形態1、2と同様に、炭素が析出しないK
B及びK
Wの燃料ガスとなるように二酸化炭素Zの添加量を調整することができ、調整後の燃料ガスを流通させることにより、脱硫装置14内での炭素析出を確実に防止しながらIGCC102を運転することができる。また、脱硫剤が有する硫黄化合物の除去機能が阻害されることなく、燃料ガスを精製することができる。さらに、ブドアール反応を抑制する流体を系外から導入することなく、IGCC102の系内の二酸化炭素Zを有効利用でき、炭素析出を確実に防止しながら火力発電プラントを運転することができる。
【0085】
(他の実施形態)
実施形態1〜3では、燃料ガスに添加する流体として、系内から抽出した循環排ガスX、水蒸気Yおよび二酸化炭素Zをそれぞれ用いたが、系内から抽出したものでなくてもよく、また、循環排ガスX及び水蒸気Y及び二酸化炭素Zから選択される少なくとも2以上の混合流体であってもよい。
【0086】
また、実施形態1〜3では、脱硫装置14を評価対象としたが、脱硫装置14の他に、例えば燃料ガスに含まれるハロゲンを除去するハロゲン化物除去装置、水銀を除去する水銀除去装置、アンモニアを除去するアンモニア除去装置などのガス精製設備、燃焼器、ガスタービン、排熱回収ボイラ及び燃料電池などの各種のガス反応設備に適用することができる。
【0087】
この場合、各種のガス反応設備の実際の処理温度及び圧力または圧力を補償した実験室装置の運転圧力に合わせて、第1の手順に従い、K
B及びK
Wで特定される燃料ガス中の炭素が析出するか否かを予め反応検証装置により測定し、測定結果に基づいてガス反応設備毎に
図2及び
図3に示す判断図を作成することができる。そして、かかる判断図に基づき、第2の手順に従い、流体添加手段15によりブドアール反応を抑制する流体を燃料ガスに添加することで燃料ガスのガス組成を調整し、調整後の燃料ガスを各種のガス反応設備に流通させることで炭素析出を未然に防止することができる。
【0088】
脱硫装置14以外の他のガス反応設備が、炭素析出の要因となる鉄を含む脱硫剤などの物質を有していない場合には、脱硫装置14において炭素析出が抑制できる条件となっていれば、脱硫装置14と同様の条件で運転されるガス反応設備においても炭素析出が抑制できる条件となることを合理的に推察できる。そのような場合には、脱硫装置14で得られた判断図をそのまま当該ガス反応設備に適用してもよい。
【0089】
なお、実施形態1〜3では、
図2又は
図3の判断図に従い、燃料ガスに添加されるブドアール反応を抑制する流体の添加量を決定し、燃料ガスのガス組成を調整したが、かかる判断図を用いなくても、ガス組成を調整することができる。たとえば、第1の手順で測定した結果を別のグラフ、表などに表したり、測定結果を制御手段などの各種機器に記憶させて用いたりすることにより、
図2又は
図3の判断図を用いた場合と同様に、ブドアール反応を抑制する流体の添加量を決定し、ガス組成を調整することができる。
【0090】
また、複数のガス反応設備を対象に本発明を実施する場合、流体添加手段は、炭素析出が起こる、または起き易いガス反応設備毎に設けることが好ましく、配設場所は、燃料ガスをガス反応設備に流通させる前、すなわち、ガス反応設備の上流側が好ましい。