【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (集会名) 第59回応用物理学関係連合講演会 (主催者名) 公益社団法人応用物理学会 (開催日) 2012年3月17日 〔刊行物等〕 (集会名) 日本物理学会 第67回年次大会 (主催者名) 一般社団法人日本物理学会 (開催日) 2012年3月26日 〔刊行物等〕 (発行者) 公益社団法人応用物理学会 (刊行物名) 第37回光学シンポジウム講演予稿集69〜70頁 (発行日) 2012年6月14日 〔刊行物等〕 (集会名) 第37回光学シンポジウム (主催者名) 公益社団法人応用物理学会 (開催日) 2012年6月15日 〔刊行物等〕 (集会名) Topological lightwave synthesis and its applications 2012 (主催者名) 国立大学法人 千葉大学 尾松孝茂 (開催日) 2012年7月5日 〔刊行物等〕 (集会名) 第2回光科学異分野横断萌芽研究会 (主催者名) 光科学異分野横断萌芽研究会 (開催日) 2012年8月8日 〔刊行物等〕 (集会名) 奈良先端未来開拓コロキウム2012「メタX(メタエックス)version 2.0」 (主催者名) 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (開催日) 2012年8月22日 〔刊行物等〕 (発行者) 国立大学法人 東京大学 (プレスリリース) プレスリリース (発行日) 2012年9月5日 〔刊行物等〕 (発行者) 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (プレスリリース) プレスリリース (発行日) 2012年9月5日 〔刊行物等〕 (掲載日) 2012年9月10日 (アドレス) http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/2012/09/post−195.html 〔刊行物等〕 (掲載日) 2012年9月10日 (アドレス) http://www.jst.go.jp/pr/announce/20120910/index.html 〔刊行物等〕 (掲載日) 2012年9月10日 (アドレス) http://dx.doi.org/10.1038/nphoton.2012.218
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現代の情報社会を支えるエレクトロニクスでは、電子の持つ電荷の自由度やその電荷の流れである電流が情報を担ってきた。しかし、電流は、ジュール発熱が避けられず、情報デバイスの高密度化は、限界に達しつつある。
【0003】
そうした中、近年、電子が持つもう一つの自由度である電子スピン(以下、「スピン」という)を積極的に利用するスピントロニクスという分野が立ち上がり、次世代の情報社会を支える技術として世界で研究開発が進んでいる。
【0004】
エレクトロニクスでは、電子が持っている電荷がそのまま情報となっていたが、このスピントロニクスでは、電子の持っているスピンの向きが一つの情報となる。例えば、スピンの向きが、上向きか又は下向きかということが「1」、「0」の情報となる。
【0005】
図10に示すとおり、一つのスピンの回転軸が円を描くように揺れる現象を歳差運動と呼ぶ。このスピンが歳差運動を始めると、スピン間の相互作用によって、例えば、A点にある一つのスピンの周囲にある他のA点以外のスピンも同じ周波数で歳差運動を始める。ここで、互いに隣り合うスピン同士が、その間で位相のずれを持ちながら歳差運動をするとき、有限な波長を持った波動となり、これをスピン波と呼ぶ。このスピン波は、電流と異なりジュール発熱が生じないことから、新しい情報デバイスとして期待されている。
図10に示す場合では、このA点からB点までの長さをスピン波の波長と呼ぶ。
【0006】
従来から提案されているスピントロニクスのスピン波に関する技術としては、約100フェムト秒のパルス幅を持つ円偏光パルスを磁性体に集光することで逆ファラデー効果を利用してスピン波を誘起する技術が開示されている。(例えば、非特許文献1参照)
【0007】
非特許文献1に開示された技術は、
図11に示すとおり、試料90に照射されるポンプ光に対するプローブ光の相対的位置を磁場と同じ方向に徐々にずらしていくことによって、スピン歳差運動の時間空間分解測定を可能としている。このポンプ・プローブ法によるスピン波の空間伝播の観測法による観測結果は、
図12に示されている。この
図12に示す場合は、ポンプ光とプローブ光との距離を、100μm、200μm、300μmと順番にずらしていくと、スピン歳差運動が起きる時間が徐々にずれていき、スピン波の波束が伝播していく様子がわかる。
【0008】
また、同様に、ポンプ・プローブ法によるスピン波の空間伝播を観測した結果、ポンプ光のスポット形状を変えることで、スピン波が異方的に伝播する様子が明瞭に観測されたという実験結果が得られた。この結果は、スピン波の分散関係を用いた数値計算によっても再現されたということが開示されている。(例えば、非特許文献2参照)
【非特許文献1】照井勇輝他、希土類鉄ガーネットにおける光誘起スピンダイナミクス、日本物理学会講演概要集第66巻第1号(第66回年次大会)第4分冊、751頁、2011年3月3日発行
【非特許文献2】照井勇輝他、円偏光パルスの成形によるスピン波の波数分布制御、第59回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集、10−076頁、2012年2月29日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の非特許文献1に開示された実験結果は、誘起されたスピン波が周囲に伝播していることはわかるものの、いかなるスピン波が誘起されたのかという点と、この誘起されたスピン波が、そもそも何に依存して誘起されたのかという点は開示されていない。
【0010】
また、上述の非特許文献2に開示された実験結果は、振幅と位相の情報が混合されているため、スポット形状を変更した際にいかなる方法によりスピン波がエネルギーとしていかなる方向に伝播していくかという点と、いかなる数値計算によるシミュレーションによって実験結果と同じ結果が再現されたのかという点については、開示されていない。
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、媒体に光パルスを照射することにより波動を誘起し、その光のスポット形状を変えることで波動の関数を制御する波動の誘起・伝播制御システム及び波動の誘起・伝播制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明に係る波動の誘起・伝播制御システム及
び波動の誘起・伝播制御方法は、次のように構成する。
【0013】
本願請求項1に係る波動の誘起・伝播制御システムは、光源と、前記光源から出射された光のスポット形状を変更するスポット形状変更手段とを備え、前記光が媒体に向けて照射されることにより当該媒体中に誘起され伝播する波動の関数を、前記スポット形状変更手段により前記媒体に照射した光のスポット
形状を変化させて、当該光のスポットにおける当該光の空間的強度分布のフーリエ変換を利用して下記(1)式に基づいて制御することを特徴とする。
【0014】
本願請求項2に係る波動の誘起・伝播制御システムは、
本願請求項1に記載の発明において、前記光が前記媒体に照射されることにより生じる、前記光と前記媒体としての磁性体の相互作用により前記波動が誘起されることを特徴とする。
【0015】
本願請求項3に係る波動の誘起・伝播制御システムは、
本願請求項1に記載の発明において、前記光が前記媒体に照射されることにより生じる、前記光と前記媒体としての弾性体の相互作用により弾性波としての前記波動を制御することを特徴とする。
【0016】
本願請求項4に係る波動の誘起・伝播制御システムは、本願請求項1又は2に記載の発明において、スピン波としての前記波動を制御することを特徴とする。
【0017】
本願請求項5に係る波動のスイッチング制御デバイスは、光のスポット形状を変更するスポット形状変更手段と、前記光が媒体に向けて照射されることにより当該媒体中に誘起され伝播する波動の関数を検出する少なくとも1つの波動検出器とを備え、前記スポット形状変更手段は、前記波動検出器により検出される波動の関数を、前記媒体に照射した光のスポット形状を変化させて、当該光のスポットにおける当該光の空間的強度分布のフーリエ変換を利用して下記(1)式に基づいて制御することを特徴とする。
【0018】
本願請求項6に係る波動のスイッチング制御デバイスは、本願請求項5に記載の発明において、前記光が前記媒体に照射されることにより生じる、前記光と前記媒体としての磁性体の相互作用により前記波動が誘起されることを特徴とする。
【0019】
本願請求項7に係る波動のスイッチング制御デバイスは、本願請求項5に記載の発明において、前記光が前記媒体に照射されることにより生じる、前記光と前記媒体としての弾性体の相互作用により弾性波としての前記波動を制御することを特徴とする。
【0020】
本願請求項8に係る波動のスイッチング制御デバイスは、本願請求項5又は6に記載の発明において、スピン波としての前記波動を制御することを特徴とする。
【0021】
本願請求項9に係る波動の誘起・伝播制御方法は、光源から出射された光を、光のスポット形状を変更するスポット形状変更手段を介して媒体に照射して当該媒体中に波動を誘起し伝播させる第1工程と、前記波動の関数を、前記スポット形状変更手段により前記媒体に照射した光のスポット形状を変化させて、当該光のスポットにおける当該光の空間的強度分布のフーリエ変換を利用して下記(1)式に基づいて制御する第2工程とを有することを特徴とする。
【0022】
本願請求項10に係る波動のスイッチング制御方法
は、光のスポット形状を変更するスポット形状変更手段を介して光を媒体に照射して、当該媒体中に波動を誘起し伝播させる第1工程と、前記波動の関数を、前記スポット形状変更手段により前記媒体に照射した光のスポット形状を変化させて、当該光のスポットにおける当該光の空間的強度分布のフーリエ変換を利用して下記(1)式に基づいて制御する第2工程と、前記波動の関数を少なくとも1つの波動検出器に検出させる第3工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本願請求項1〜4,9に記載の発明は、スポット形状変更手段により(1)式のモデルに基づいて波動の関数を制御することにより、所望の波動の関数を得るには、いかなる光のスポット形状を作ればいいかという設計が可能となる。また、(1)式により、試料の特性は、波動の
角周波数の分散関係と波動の緩和係数に基づくため、事前に試料特性を数値計算により予測を行い、所望の波動を誘起するための試料の選定又は所望の試料の合成が可能となる。即ち、媒体に照射した光の空間的強度分布のフーリエ変換により、所望のスポット形状を計算することもできるうえに、波動の
角周波数の分散関係と波動の緩和係数により目的に合わせて所望の試料を合成することもできる。これにより、所望の波動を作ることができる。
【0024】
本願請求項
5〜8,10に記載の発明は、本願請求項1に記載の発明と同様に、(1)式のモデルに基づいて、所望のスポット形状、所望の試料、所望の波動を作ることができる。また、当該波動のスイッチング制御デバイスは、本願請求項1〜4
、9に記載の発明と比較して、光源が構成要素になく、代わりに波動検出器が構成要素に追加されている。従って、当該波動のスイッチング制御デバイスは、必要に応じて所望の光源のある場所に当該波動のスイッチング制御デバイスを移動させて使用することが可能となる。また、当該波動のスイッチング制御デバイスは、光源が予め設置されていないため、本願請求項1〜4
、9に記載の発明に波動検出器が追加された場合や、光源よりも波動検出器が安価である場合には、安価に製作でき経済的である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態として、媒体中を伝播する波動の関数を制御する波動伝播制御装システム及び波動の誘起・伝播制御方法において、媒体中を伝播する波動がスピン波の場合について、
図1、2を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明を適用したポンプ・プローブ法によるスピン波の誘起・伝播制御装置1の構成を示した模式図である。
図2は、本発明を適用した
図1に示すスピン波の誘起・伝播制御装置の主要な構成要素を抽出したスピン波の誘起・伝播制御システム10の概念図である。
【0028】
図1に示すスピン波の誘起・伝播制御装置1は、平板の試料2の面
内方向に電磁石41により磁場を印加することにより試料2中のスピンを面内方向に向けて、試料2の面直方向にポンプ光を入射し、ポンプ・プローブ法により当該スピンにより生じるスピン波の時間空間分解測定を可能とする装置であって、光源3と、光源3から出射された光を分離するビームスプリッター11と、このビームスプリッター11を通過したポンプ光の光路上に配されるとともにその光の波長を変換する光パラメトリック増幅器12と、光パラメトリック増幅器12によって略直交方向に折り曲げられたポンプ光の繰り返し周波数の半分の周波数で光をチョップするチョッパー13と、チョッパー13を通過したポンプ光を分離するビームスプリッター14と、分離された一方のポンプ光の強度を検出する光検出器15と、分離された他方のポンプ光を略直交方向に反射させるミラー16と、ポンプ光の偏光面を回転させる1/2波長板17と、ポンプ光を直線偏光にする偏光子18と、ポンプ光を円偏光にする1/4波長板19と、通過したポンプ光のスポット形状を変更することができるスポット形状変更装置4と、このスポット形状変更装置4の開口部7を通過したポンプ光を集光するレンズ5とを備えている。
【0029】
また、このスピン波の誘起・伝播制御装置1は、ビームスプリッター11により略直交方向に折り曲げられて分離されたプローブ光の光路上に配されたミラー21と、ミラー21により略直交方向に折り曲げられたプローブ光を遅延ステージ側へと導く偏光ビームスプリッター22と、偏光ビームスプリッター22からのプローブ光を直線偏光から円偏光に変換する1/4波長板23と、1/4波長板23を通過したプローブ光をポンプ光に対して時間遅延をつける遅延ステージ24と、遅延ステージ24から戻ってきたプローブ光が偏光ビームスプリッター22により略直交方向に折り曲げられ、当該プローブ光の光路上に配されたNDフィルタ26と、NDフィルタ26を通過した光を試料2側へと反射させるミラー28と、ミラー28で反射されたプローブ光を集光するレンズ55と、試料2を透過したプローブ光の偏光回転角を測定する偏光回転角測定器6とを備えている。
【0030】
図2に示すスピン波の誘起・伝播制御システム10は、平板の試料20
中のx方向に磁場を印加することにより試料20中のスピンをx方向に向けて、試料20の面直方向にポンプ光を入射し、ポンプ・プローブ法により当該スピンにより生じるスピン波の時間空間分解測定を可能とするシステムであって、光源30と、光源30から出射された光を通過させるスポット形状変更装置40と、スポット形状変更装置40の開口部70を通過した光を集光するレンズ50と、試料20に照射された光のスポット80内に誘起されスポット80外に伝播されたスピン波の
関数の情報を得るために、何れかの光源(図示省略)から出射されたプローブ光を試料20に透過させることにより、当該プローブ光の偏光回転角を測定可能とする偏光回転角測定器60とから構成される。
【0031】
試料2,20は、例えば、希土類鉄ガーネットのようなフェリ磁性絶縁体によって具体化させる。
【0032】
電磁石41は、試料2中の全てのスピンの向きを試料2の面内方向に揃えることとスピン波の分散関係そのものが印加する磁場に依存することから印加している。なお、電磁石41の
磁場の強度は約1kOeである。
【0033】
光源3,30は、例えば、フェムト秒パルスレーザー光源である。この光源3,30は、具体的には、中心波長800nm、時間幅120fs程度からなる光パルスを1kHzの繰り返し周波数で
生成する、再生増幅チタンサファイアレーザー等を用いるようにしてもよい。この光源3,30の光のパルスエネルギーは、約1m
Jである。
【0034】
ビームスプリッター11は、光源3から出射された光パルスをポンプ光とプローブ光に分離する。ビームスプリッター11は、この分離された光パルスのうちの約80%の光パルスをポンプ光として光パラメトリック増幅器12側に導き、残りの約20%をプローブ光として遅延ステージ24側へと導く。
【0035】
また、このビームスプリッター11で分離されたプローブ光の強度は、NDフィルタ26を通過後、更に低下する。従って、試料2に照射される直前には、ポンプ光とプローブ光との強度比は、約1000:1までに達している。これにより、プローブ光の強度をポンプ光の強度よりも非常に小さくすることで、試料2中に誘起されるスピン波は、プローブ光による影響を小さく抑えることができる。
【0036】
光パラメトリック増幅器12は、ポンプ光の波長を約1200〜2400nmに変換する。光が光パラメトリック増幅器12を通過すると、波長約1800nmのアイドラー光と波長約1400nmのシグナル光という2つの波長が生まれる。そのうちシグナル光だけをチョッパー13へと導く。この光パラメトリック増幅器12を通過した光のパルスエネルギーは、約30μJである。
【0037】
チョッパー13は、光パラメトリック増幅器12により波長変換されるポンプ光の繰り返し周波数の半分の周波数で周期的に断続することにより、当該ポンプ光を周期的にチョッピングする。チョッパー13は、光反射部と光透過部とが周方向に交互に配された回転ディスクとして構成され、モータの回転駆動によって光ビームを周期的に反射させ又は通過させるようにしてもよい。このチョッパー13を配設する目的は、取得すべき信号のSN比を向上させるためである。チョッパー13により変調されたポンプ光は、ビームスプリッター14に導かれる。
【0038】
ビームスプリッター14は、チョッパー13でチョップされた光パルスのうち約90%の光をそのまま透過させるとともに、残りの約10%は、これと略直交する方向に反射させて光検出器15に導く。
【0039】
光検出器15は、ポンプ光の強度をモニタリングすることができる。光パラメトリック増幅器12から出射されたポンプ光の繰り返し周波数の半分の周波数として、1kHzのポンプ光をチョッパー13でチョップすると、500Hzに低下する。この強度を光検出器15で検出することができる。
【0040】
ミラー16は、入射されてくる光を反射させることによりその光路を変換する反射板として構成される。この中で、ミラー16は、ビームスプリッター14を透過したポンプ光の光路を略直交方向に折り曲げて試料2側へと導く。
【0041】
1/2波長板17は、ポンプ光の強度調整を行う。この1/2波長板17を配置するのは、試料2に照射される光の強度が、強過ぎる場合は、試料2を損傷する可能性があり、弱過ぎる場合は、試料2に対するポンプ光の影響が測定できなくなるからである。
【0042】
偏光子18は、1/2波長板17を通過したポンプ光を直線偏光にして1/4波長板19へと導く。
【0043】
1/4波長板19は、この光学軸をポンプ光の直線偏光の面に対してプラス45度又はマイナス45度に傾けると、ポンプ光の直線偏光は、それぞれ右回り又は左回りの円偏光とすることができる。同様に、1/4波長板23は、この光学軸をプローブ光の直線偏光の面に対してプラス45度又はマイナス45度に傾けると、プローブ光の直線偏光は、それぞれ右回り又は左回りの円偏光とすることができる。
【0044】
スポット形状変更装置4、40は、例えば、略矩形のステンレスで構成される。スポット形状変更装置4、40は、それぞれ略中央に開口部7、70がある。
図1、
図2に示すそれぞれの開口部7、70は、略長方形状である。しかし、これに限定されることなく、光のスポット形状を自在に変更することができれば、例えば、空間光変調器といったものでもよい。
【0045】
レンズ5,50は、ポンプ光を試料2,20に集光する。ポンプ光は、このレンズ5,50により直径約50μmに絞られて試料2,20に到達する。ここで、
図2に示すとおり、スポット形状変更装置4,40とレンズ5,50の間の距離は、それぞれ25cmである。また、レンズ5,50と試料2,試料20の間の距離は、それぞれ25cmである。即ち、このスポット形状変更装置4,40とレンズ5,50の間の距離と、レンズ5,50と試料2,試料20の間の距離は、等間隔に設けられている。
【0046】
ミラー21、28は、入射されてくる光を反射させることによりその光路を変換する反射板として構成される。ミラー21は、ビームスプリッター11を透過したプローブ光を略直交方向に反射されて遅延ステージ24側へ導く。ミラー28は、この偏光ビームスプリッター22により折り曲げられて到達するプローブ光を試料2側へと反射させる。
【0047】
偏光ビームスプリッター22は、プローブ光におけるP偏光を透過し、S偏光を反射する。
【0048】
遅延ステージ24は、可動ミラー25と固定ミラー27による光路長の調整を利用した光学系により構成されている。可動ミラー25は
図1中の右方に移動したとき光路長が長く、また
図1中の左方に移動したとき光路長が短く調整されることになる。従って、遅延ステージ24は、可動ミラー25の移動により、ポンプ光とプローブ光との遅延時間を調整することが可能となる。また、固定ミラー27は、可動ミラー25から垂直に入射した光を垂直に反射させることで、入射光の光路上に正確に反射光を戻すことができる。ここで、ポンプ光の光路長の可変範囲は、一般的には、90cm程度であり、プローブ光とポンプ光との間に、例えば、0〜3nsの遅延時間の設定範囲を与えることになる。
【0049】
なお、遅延ステージ24は、プローブ光の光路を調整することにより時間遅延させる場合を例にとり説明したが、これに限定されるものではなく、ポンプ光の光路上に設けるようにしてもよい。これにより、ポンプ光の光路を調整することにより時間を遅延させることも可能となる。
【0050】
ここで、光源3を出射された光は、P偏光のままミラー21を反射され、偏光ビームスプリッター22を透過して1/4波長板23に到達する。このP偏光は、1/4波長板23により左回りの円偏光に変換される。この左回り円偏光は、遅延ステージ24の可動ミラー25及び固定ミラー27で反射されると右回りの円偏光に変換される。この右回りの円偏光が、一度通過した1/4波長板23を再度通過すると、S偏光に変換される。S偏光は、偏光ビームスプリッター22により略直交方向に反射されてミラー28側に導かれる。
【0051】
NDフィルタ26は、プローブ光の強度調整を行う。このNDフィルタ26を配置するのは、試料2に照射される光の強度が、強過ぎる場合は、試料2を損傷する可能性があり、弱過ぎる場合は、プローブ光の信号が見えなくなるからである。
【0052】
レンズ55は、ミラー28で反射されたプローブ光を集光して、試料2の表面に対して、試料2の法線の7°方向から照射する。
【0053】
偏光回転角測定器6は、ウォラストンプリズム33と、光検出器34と、光検出器35とを備える。偏光回転角測定器60は、偏光回転角測定器6と同様に図示はされていないウォラストンプリズムや光検出器を備えている。
【0054】
ウォラストンプリズム33は、2つの直交した直線偏光に分離する。ここで、ポンプ光を試料2に照射しない場合は、ウォラストンプリズム33に垂直に入射したプローブ光の偏光面に対して、プラス45度とマイナス45度の直交した同じ強度の直線偏光に分離する。しかし、ポンプ光を試料2に照射する場合は、スピン波の誘起によってプローブ光にファラデー回転が起きる。これにより、ウォラストンプリズム33に垂直に入射したプローブ光のプラス45度とマイナス45度に分離した光の強度が異なる結果となる。
【0055】
光検出器34、35は、ウォラストンプリズム33で分離された異なるプローブ光の強度をそれぞれ測定する。光検出器34と光検出器35で検出されたプローブ光の強度の差分をとることで、試料2、20中を伝播したスピン波の面直方向の情報を得ることができる。
【0056】
ポンプ光は、
繰り返し周波数約500Hzであり、その強度は、光検出器15で検出される。また、試料2を透過したプローブ光は、約1kHzであり、その強度は、光検出器34と、光検出器35で検出される。この光検出器15、34、35の3つを比較することで、ポンプ光のONとOFFを区別することができる。
【0057】
次に、本発明を適用した媒体中を伝播する波動の誘起・伝播制御システム及び波動の誘起・伝播制御装置における波動の誘起・伝播制御方法について、媒体中を伝播する波動がスピン波の場合について、
図1、2を参照しながら詳細に説明する。
【0058】
まず、
図2を参照しながら、スピン波の誘起・伝播制御システム10におけるスピン波の誘起・伝播制御方法について説明する。
【0059】
光源30から出射された光をスポット形状変更装置40を介して、当該光をレンズ50により集光させて試料20に照射して試料20中にスピン波をスポット80内に誘起し、当該スピン波をスポット80外に伝播させる。次に、スポット形状変更装置40の開口部70の形状を変化させることにより、試料20に照射された光のスポット80の形状も変化させ、試料20中に伝播するスピン波の関数も変化させる。更に、プローブ光を試料20に照射して透過させ、その透過したプローブ光の偏光回転角を偏光回転角測定器60により検出し、試料20中を伝播するスピン波の関数の情報を得る。このため、スポット形状変更装置40は、光のスポット形状を自在に変更させることにより、試料20中に異方的に伝播するスピン波の関数を制御することができる。
【0060】
次に、
図1を参照しながら、スピン波の誘起・伝播制御システム10において、例えば、スピン波の誘起・伝播制御装置1の場合に、具体的にスピン波の誘起と分析を行いスピン波の関数を制御する、スピン波の誘起・伝播制御方法について説明する。
【0061】
このスピン波の誘起・伝播制御装置1においては、ポンプ・プローブ法によりプローブ光の光路途中に置かれた遅延ステージ24の可動ミラー25を物理的に移動させることにより光路長を変更して、ポンプ光との間の遅延時間を調整する。
【0062】
ポンプ光は、チョッパー13によりチョッピングされた後に試料2に照射される。このポンプ光の照射により、試料2中のポンプ光のスポット内にスピン波が誘起され、そのスピン波が当該スポット外に伝播
することになる。
【0063】
またプローブ光は、試料2に対して試料2の法線の7°方向から入射され、偏光回転角測定器6で偏光回転角を測定し、伝播するスピン波の
関数の情報を分析する。ここで、スポット形状変更装置4で試料2中に照射される光のスポット形状を変更することによりスピン波の伝播方向、波長、波数等を含めたスピン波の関数が変化する。ポンプ光とプローブ光とは、遅延ステージ24による遅延時間をずらし、試料2中に照射する箇所をポンプ光に対するプローブ光の相対的な2次元
位置をずらしていくことで、スピン波の時間空間分解が可能となり、時間空間的なスピン波の関数の情報を得ることができる。
【0064】
なお、スピン波の誘起・伝播制御装置1及びスピン波の誘起・伝播制御システム10で使用されるプローブ光は、ポンプ光により誘起され伝播されるスピン波の
関数の情報を検出するための一つの手段である。従って、スピン波の関数の情報を検出できれば、プローブ光に限定されることなく、いかなる手段であってもよい。
【0065】
次に、本発明を適用した一般的な波動の誘起・伝播制御システム及び波動の誘起・伝播制御方法について、
図3を参照しながら詳細に説明する。
【0066】
図3は、本発明を適用した一般的な波動の誘起・伝播制御システムの概念図である。特に、
図3ではポンプ光のみを利用して波動を誘起した場合を示している。
【0067】
図3に示す波動の誘起・伝播制御システム10aは、
図2と比較すると、スピン波の誘起・伝播制御システム10のうち、偏光回転角測定器60を除いた構成となっている。波動の誘起・伝播制御システム10aは、平板の試料20aの面直方向にポンプ光を
入射することにより試料20a中を伝播する波動を制御するシステムであって、光源30aと、光源30aから出射された光を通過させるスポット形状変更装置40aと、スポット形状変更装置40aの開口部70aを通過した光を集光するレンズ50aとから構成される。
【0068】
波動の誘起・伝播制御システム10aは、光源30aから出射された光をスポット形状変更装置40aを介して、当該光をレンズ50aにより集光させて試料20aに照射して試料20a中に
波動をスポット80a内に誘起し、当該
波動をスポット80a外に伝播させる。次に、スポット形状変更装置40aの開口部70aの形状を変化させることにより、試料20aに照射された光のスポット80aの形状も変化させ、試料20a中に伝播する
波動の関数も変化させる。
図3に示す試料20a中の点線で表現された複数の略楕円は、ある瞬間の
波動の
関数を表している。このように、スポット形状変更 装置40aは、光のスポット形状を自在に変更させることにより、試料20a中に異方的に伝播する
波動の関数を制御することができる。
図3に示すスポット形状変更装置40aは、開口部70aを有する場合を示しているが、これに限定されることなく、光のスポット形状を自在に変更することができれば、例えば、空間光変調器等、いかなるものであってもよい。
【0069】
次に、本発明を適用した
図3に示された波動の誘起・伝播制御システム10aにおける数値計算モデルについて説明する。
【0070】
は、スポット形状変更装置表面上の2次元の位置ベクトルを表している。(以下、「ベクトルr´」という。)従って、開口部70aの形状は、E(ベクトルr′)で表される。
【0071】
図4(b)は、試料20aに照射された光のスポット80aを示している。
ここで、
は、試料20a表面上の2次元の位置ベクトルを表している。(以下、「ベクトルr」という。)従って、スポット80aの形状は、E(ベクトルr′)をフーリエ変換したE(ベクトルr)で表される。また、
図4(b)に示す|E(ベクトルr)|
2は、光のスポット80aにおける光の強度である。
【0072】
ここで、
は、当該媒体表面上の2次元の波数ベクトルを表している。(以下、「ベクトルk」という。)
【0073】
図4(c)に示すh(ベクトルk)は、この光の強度|E(ベクトルr)|
2をフーリエ変換したものであり、即ち、媒体に照射した光の空間的強度分布のフーリエ変換を表している。
【0074】
このh(ベクトルk)を
波動の波源として、下記に示す(1)式のモデルを立てた。
【0075】
ここで、
は時間を表している。
は、波動の関数である。
は、波の式である。
は、波の減衰を表す式である。
【0076】
ここで、ω(ベクトルk)は、
波動の
角周波数の分散関係を表す。αは、ベクトルk=0の時の
波動の緩和係数である。
波動がスピン波の場合には、このαは、
磁性共鳴の実験で求めることができる。また、δは、初期位相を表している。波動の関数であるm(ベクトルr,t)は、波数空間で積分を行
うことで得ることができる。波動がスピン波の場合には、このδは、光と磁性体の相互作用の仕方に依存している。逆ファラデー効果によって、円偏光パルスがスピン歳差運動を誘起する場合、円偏光の電場の回転方向に応じてδは、0かπになる。
【0077】
上記に示された(1)式の数値計算モデルは、
図3に示す波動の誘起・伝播制御システム10aにおいて、スポット形状変更装置40aにより波動の関数を制御する際に利用できる。この(1)式により、所望の波動の関数を得るには、いかなる光のスポット形状を作ればいいかという設計が可能となる。また、(1)式により、試料の特性は、波動の分散関係ω(ベクトルk)と波動の緩和係数αに基づくため、事前に試料特性を数値計算により予測を行い、所望の波動を誘起するための試料20aの選定又は所望の試料20aの合成が可能となる。即ち、h(ベクトルk)により、所望のスポット80aの形状を計算することもできるうえに、ω(ベクトルk)とαにより目的に合わせて所望の試料20aを選定又は合成することが可能となる。これにより、所望の波動を作ることができる。
【実施例1】
【0078】
次に、波動がスピン波である場合において、スピン波の誘起・伝播制御装置1及びスピン波の誘起・伝播制御システム10による実際の実験結果とこの(1)式のモデルによる数値シミュレーション結果について
図5〜8を参照しながら詳細に説明する。
【0079】
図5は、スポット形状変更装置4、40が、不透明な平板の略中央に略長方形状の開口部7、70を短手方向1.2mmと長手方向6mmの略長方形状の開口部としたときの平面図である。
図5(a)は、長手方向と磁場方向が平行な場合であり、
図5(b)は、長手方向が磁場方向と垂直な場合である。この2つの場合を使って実験を行うこととする。
【0080】
図6(a)は、スポット形状変更装置4,40の略長方形状の開口部7,70の長手方向が、磁場に平行な場合におけるポンプ光に対するプローブ光の試料2,20に到達する相対的時間差である遅延時間が1.5ns
の偏光回転角測定器6,60で検出された
プローブ光の偏光回転角の実験結果の図である。
図6(b)は、開口部7,70の長手方向が、磁場に垂直な場合における
図6(a)と同様な
プローブ光の偏光回転角の実験結果の図である。
【0081】
ここで、縦軸は、磁場と垂直方向の距離を表し、横軸は、磁場と平行方向の距離を表している。また、
図6中グラフの右側の白黒の濃淡は、プローブ光の偏光回転角(mrad)を表している。ここでは、
図6中の点線部分が、スポット8,80を示している。スピン波の場合、波動の関数はスピン歳差運動の回転角であり、スピン歳差運動の回転角の面直成分は、プロープ光の偏光回転角として測定できる。
【0082】
図6(a)に示すとおり、開口部7,70の長手方向が、磁場と平行方向な場合は、スポット8,80が試料2,20の略中央に磁場と垂直方向に長手方向となる略楕円形
状になる。
【0083】
また、
図6(b)に示すとおり、開口部7,70の長手方向が、磁場と垂直方向な場合は、スポット8,80が試料2,20の略中央に磁場と平行方向に長手方向となる略楕円形
状になる。
【実施例2】
【0084】
図7(a)は、スポット形状変更装置4,40の略長方形状の開口部7,70の長手方向が、磁場に平行な場合におけるポンプ光に対するプローブ光の試料2、20に到達する相対的時間差である遅延時間が1.5ns
のスピン波
の関数の(1)式による数値シミュレーション結果の図である。
図7(b)は、開口部7,70の長手方向が、磁場に垂直な場合における
図7(a)と同様なスピン波
の関数の数値シミュレーション結果の図である。ここで、
図7の縦軸と横軸等は、
図6と同様な構成である。
【0085】
図7(a)に示すとおり、開口部7,70の長手方向が、磁場と平行方向な場合の数値シミュレーションでは、スポット8,80が試料2,20の略中央に磁場と垂直方向に長手方向となる略楕円形状になる。
【0086】
また、
図7(b)に示すとおり、開口部7,70の長手方向が、磁場と垂直方向な場合の数値シミュレーションでは、スポット8,80が試料2,20の略中央に磁場と平行方向に長手方向となる略楕円形状になる。
【0087】
これにより、実施例1の実験結果と実施例2の数値シミュレーションのそれぞれのスピン波の波形がほぼ同じであるといえ、(1)式の数値計算式が正しいことが証明された。
【0088】
しかしながら、
図6の実験結果と、
図7の数値シミュレーション結果とでは、振幅の情報と位相の情報の両方が含まれているため、スピン波が波束としていかなる伝播をしているかが明確でないという問題点もある。
【実施例3】
【0089】
そこで、
図7の数値シミュレーション結果の各点において、時間的な変動を見ると振動をしているため、そのエンベロープを抽出することとする。そのエンベロープだけを抽出したものが
図8に示すスピン波の振幅マップである。ここでは、
図8の縦軸と横軸等は、
図6と同様な構成である。
図8中の白黒の濃淡は、スピン波の振幅を示している。
【0090】
図8(a)に示すとおり、開口部7,70の長手方向が、磁場と平行方向な場合の数値シミュレーションでは、スポット8,80の強度が、グラフ中央に点線で示された略楕円形状で示されており、その周囲に色の濃い部分が、磁場に平行方向に流れており、スピン波が磁場に平行に流れていることがわかる。
【0091】
また、
図8(b)に示すとおり、開口部7,7の長手方向が、磁場と垂直方向な場合の数値シミュレーションでは、スポット8,80の強度が、グラフ中央に点線で示された略楕円形状で示されており、その周囲に色の濃い部分が、磁場と垂直方向に流れており、スピン波が磁場に垂直に流れていることがわかる。
【0092】
次にスピン波を応用例として、スピン波を使った波動のスイッチング制御デバイスについて、
図9を参照しながら詳細に説明する。
【0093】
図9に示すとおり、スイッチング素子100は、平板の試料200
表面上に磁場を印加し、試料200の面直方向にポンプ光を入射することにより試料200中を伝播する波動を制御するシステムであって、
何れかの光源(図示省略)から出射された光を通過させるスポット形状変更装置400と、スポット形状変更装置400の開口部700を通過した光を集光するレンズ500と、試料200の表面上に照射された光のスポット800外であって試料200中に少なくとも1つ設けられたスピン波検出器600から構成される。
図9では、スピン波検出器600では、例えば、複数設けられたスピン波検出器600が示されている。
【0094】
いずれかの光源から出射された光をスポット形状変更装置400を介して、当該光をレンズ500により集光させて試料200に照射して、スピン波を試料200中の光のスポット800内に誘起し、当該スピン波をスポット800外に伝播させる。次にスポット形状変更装置400の開口部700の形状を変化させることにより、試料200に照射された光のスポット800の形状を変化させ、試料200中に伝播するスピン波の関数を変化させる。このため、スポット形状変更装置400は、光のスポット800の形状を自在に変更させることができる。更に、スポット800外に伝播されたスピン波は、スピン波検出器600により検出させる。
【0095】
例えば、
図9に示すとおり、スポット形状変更装置400の略長方形状の開口部700の長手方向が磁場に平行な場合は、試料200中の光のスポット800は、長軸が磁場に垂直な略楕円形状となる。また、スポット形状変更装置400の略長方形状の開口部700の長手方向が磁場に垂直な場合は、試料200中の光のスポット800は、長軸が磁場に平行な略楕円形状となる。このため、スポット形状変更装置400の略長方形状の開口部700の方向を自在に変化させることで、開口部700の方向に合せて試料200中の光のスポット800の略楕円形状の方向も変化させることができる。なお、
図9に示すスポット形状変更装置400は、開口部700を有する場合を示しているが、これに限定されることなく、光のスポット形状を自在に変更することができれば、例えば、空間光変調器等、いかなるものであってもよい。
【0096】
これにより、スピン波の伝播方向の切り替えを可能とするスイッチング素子100が実現される。スイッチング素子100は、試料200中に伝播するスピン波の関数を変化させることができるため、スピン波の関数を制御できる。
【0097】
スイッチング素子100は、光源が構成要素にないため必要に応じて所望の光源のある場所にスイッチング素子100を移動させて使用することが可能となる。また、スイッチング素子100は、光源が予め設置されていないため、
図3に示す波動の誘起・伝播制御システム10aにおいて波動がスピン波とした場合に、波動の誘起・伝播制御システム10aの構成にスピン波検出器600が追加されたスピン波の誘起・伝播制御システムや、光源30aよりスピン波検出器600が安価である場合には、比較的安価に製作でき経済的である。
【0098】
このスピン波の速度は、スピン波の誘起・伝播制御装置1及びスピン波の誘起・伝播制御システム10及びスイッチング素子100の場合、約10
5m/sであった。光速は、3×10
8m/sであるため、光速と比較すると圧倒的に遅い。しかしながら、速度が遅いというのは、逆にメリットにもなり得る。例えば、光の速度は、速すぎるためデバイス中でその情報を保持することができない。一方、スピン波は、速度が光の速度と比較してある程度遅いため、例えば、
図9に示すスポット形状変更装置400を通過した光が、スピン波検出器600に届くまでにはある一定時間がかかる。即ち、スピン波を利用したスイッチング素子100は、試料200中にスピン波の
関数の情報を一定時間保持することができるとも言える。
【0099】
上述のような構成で示された、波動の誘起・伝播制御システム10a、スピン波の誘起・伝播制御システム10、スピン波の誘起・伝播制御装置1及びスイッチング素子100は、スピン波に限られるものではない。例えば、弾性波等といったものであっても、これらの波動を光で誘起することができる。即ち、同じしくみを使うことで、弾性波の伝播方向、波長、波数等を含めた弾性波の関数を制御できることは勿論である。
【0100】
以上、本発明の実施例及び応用例について詳細に説明したが、前述した実施例及び応用例は、何れも本発明を実施するにあたって具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。