特許第5980504号(P5980504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5980504ウエーハの加工方法およびレーザー加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5980504
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ウエーハの加工方法およびレーザー加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20160818BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20160818BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   B23K26/53
   B23K26/00 M
   B23K26/00 N
   H01L21/78 B
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-285920(P2011-285920)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-132674(P2013-132674A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】古田 健次
【審査官】 水野 治彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−283753(JP,A)
【文献】 特開2010−000517(JP,A)
【文献】 特開2009−070920(JP,A)
【文献】 特開2010−087433(JP,A)
【文献】 特開2007−227742(JP,A)
【文献】 特開2006−119427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/53
B23K 26/00
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に格子状に形成されたストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されたウエーハの内部に、ストリートに沿って改質層を形成するウエーハの加工方法であって、
ウエーハの裏面におけるストリートに対応する領域の面粗さを計測し、面粗さマップを作成する面粗さマップ作成工程と、
ウエーハの裏面側からウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線をストリートに沿って照射し、ウエーハの内部にストリートに沿って改質層を形成する改質層形成工程と、を含み、
該改質層形成工程は、該面粗さマップと面粗さに対応して予め設定されたレーザー光線の適正出力マップとを参照して、ウエーハに照射しているレーザー光線の出力を制御する、
ことを特徴とするウエーハの加工方法。
【請求項2】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハにレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を加工送り方向(X軸方向)に相対的に加工送りする加工送り手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を加工送り方向(X軸方向)と直交する割り出し送り方向に相対的に割り出し送りする割り出し送り手段と、該チャックテーブルのX軸方向位置を検出するためのX軸方向位置検出手段と、該チャックテーブルのY軸方向位置を検出するためのY軸方向位置検出手段と、該X軸方向位置検出手段および該Y軸方向位置検出手段からの検出信号に基づいて該レーザー光線照射手段に装備され照射するレーザー光線の出力を調整する出力調整手段を制御する制御手段と、を具備し、
該制御手段は、被加工物のレーザー光線が照射される側の入射面における加工領域の面粗さデータに基づく面粗さマップと、該面粗さマップと面粗さに対応して予め設定されたレーザー光線の適正出力マップとを記憶するメモリを具備し、被加工物の入射面側から被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線を加工領域の内部に集光点を位置付けて照射し、被加工物の内部に改質層を形成する際に、該面粗さマップと該適正出力マップとを参照して該出力調整手段を制御し、被加工物に照射しているレーザー光線の出力を制御する、
ことを特徴とするレーザー加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に格子状に形成されたストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されたウエーハをストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの加工方法およびレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、略円板形状である半導体ウエーハの表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI等のデバイスを形成する。そして、半導体ウエーハをストリートに沿って切断することによりデバイスが形成された領域を分割して個々のデバイスを製造している。また、サファイア基板や炭化珪素基板の表面に窒化ガリウム系化合物半導体等が積層された光デバイスウエーハもストリートに沿って切断することにより個々の発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスに分割され、電気機器に広く利用されている。
【0003】
ウエーハをストリートに沿って分割する方法として、ウエーハに対して透過性を有するパルスレーザー光線を用い、分割すべき領域の内部に集光点を合わせてパルスレーザー光線を照射するレーザー加工方法が試みられている。このレーザー加工方法を用いた分割方法は、ウエーハの裏面側から内部に集光点を合わせてウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線をストリートに沿って照射し、ウエーハの内部にストリートに沿って改質層を連続的に形成し、この改質層が形成されることによって強度が低下したストリートに沿って外力を加えることにより、ウエーハを個々のデバイスに分割するものである。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許2001−96764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、ウエーハの表面に形成されたデバイスの電極がウエーハの裏面に達するように形成された所謂TSVと呼ばれるウエーハにおいては、ウエーハの裏面から電極を突出させるために、ウエーハの裏面をエッチングする場合がある。このようにウエーハの裏面をエッチングすると、裏面がRa0.02〜0.1μmの範囲で粗らされるため、裏面側からウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線を照射すると、レーザー光線の透過が部分的に妨げられ、適正な改質層を形成することができないという問題がある。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、ウエーハの裏面が粗れていても裏面側からウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線を照射して、内部に適正な改質層を形成することができるウエーハの加工方法およびレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、表面に格子状に形成されたストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されたウエーハの内部に、ストリートに沿って改質層を形成するウエーハの加工方法であって、
ウエーハの裏面におけるストリートに対応する領域の面粗さを計測し、面粗さマップを作成する面粗さマップ作成工程と、
ウエーハの裏面側からウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線をストリートに沿って照射し、ウエーハの内部にストリートに沿って改質層を形成する改質層形成工程と、を含み、
該改質層形成工程は、該面粗さマップと面粗さに対応して予め設定されたレーザー光線の適正出力マップとを参照して、ウエーハに照射しているレーザー光線の出力を制御する、
ことを特徴とするウエーハの加工方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハにレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を加工送り方向(X軸方向)に相対的に加工送りする加工送り手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を加工送り方向(X軸方向)と直交する割り出し送り方向に相対的に割り出し送りする割り出し送り手段と、該チャックテーブルのX軸方向位置を検出するためのX軸方向位置検出手段と、該チャックテーブルのY軸方向位置を検出するためのY軸方向位置検出手段と、該X軸方向位置検出手段および該Y軸方向位置検出手段からの検出信号に基づいて該レーザー光線照射手段に装備され照射するレーザー光線の出力を調整する出力調整手段を制御する制御手段と、を具備し、
該制御手段は、被加工物のレーザー光線が照射される側の入射面における加工領域の面粗さデータに基づく面粗さマップと、該面粗さマップと面粗さに対応して予め設定されたレーザー光線の適正出力マップとを記憶するメモリを具備し、被加工物の入射面側から被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線を加工領域の内部に集光点を位置付けて照射し、被加工物の内部に改質層を形成する際に、該面粗さマップと該適正出力マップとを参照して該出力調整手段を制御し、被加工物に照射しているレーザー光線の出力を制御する、
ことを特徴とするレーザー加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるウエーハの加工方法おいては、ウエーハの裏面におけるストリートに対応する領域の面粗さを計測し、面粗さマップを作成する面粗さマップ作成工程と、ウエーハの裏面側からウエーハに対して透過性を有する波長のレーザー光線をストリートに沿って照射し、ウエーハの内部にストリートに沿って改質層を形成する改質層形成工程とを含み、改質層形成工程は、面粗さマップと面粗さに対応して予め設定されたレーザー光線の適正出力マップとを参照して、ウエーハに照射しているレーザー光線の出力を制御するので、ウエーハの裏面が粗れていても、ウエーハには内部にストリートに沿って適正な改質層が形成される。
【0010】
また、本発明によるレーザー加工装置においては、被加工物のレーザー光線が照射される側の入射面における加工領域の面粗さデータに基づく面粗さマップと、該面粗さマップと面粗さに対応して予め設定されたレーザー光線の適正出力マップとを記憶するメモリを具備し、被加工物の入射面側から被加工物に対して透過性を有する波長のレーザー光線を加工領域の内部に集光点を位置付けて照射し、被加工物の内部に改質層を形成する際に、面粗さマップと適正出力マップとを参照して出力調整手段を制御し、被加工物に照射しているレーザー光線の出力を制御するので、被加工物のレーザー光線が照射される側の入射面が粗れていても、被加工物の加工領域の内部には適正な改質層が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
図2図1に示すレーザー加工装置を構成するレーザー光線照射手段のブロック構成図。
図3図1に示すレーザー加工装置に装備される制御手段のブロック構成図。
図4】本発明によるウエーハの加工方法によって加工される半導体ウエーハの斜視図および要部を拡大して示す断面図。
図5図4に示す半導体ウエーハを環状のフレームに装着されたダイシングテープに貼着した状態を示す斜視図。
図6】本発明によるウエーハの加工方法における面粗さマップ作成工程の説明図。
図7】本発明によるウエーハの加工方法における面粗さマップ作成工程の説明図。
図8図1に示すレーザー加工装置に装備される制御手段のメモリに格納される適正出力マップを示す説明図。
図9】本発明によるウエーハの加工方法における改質層形成工程の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明によるウエーハの加工方法およびレーザー加工装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0013】
図1には、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工装置1は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動可能に配設され被加工物を保持するチャックテーブル機構3と、静止基台2にX軸方向と直交する矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット支持機構4と、該レーザー光線照射ユニット支持機構4に矢印Zで示す集光点位置調整方向(Z軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット5とを具備している。
【0014】
上記チャックテーブル機構3は、静止基台2上にX軸方向に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上にX軸方向に移動可能に配設された第一の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上にY軸方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持されたカバーテーブル35と、被加工物保持手段としてのチャックテーブル36を具備している。このチャックテーブル36は多孔性材料から形成された吸着チャック361を具備しており、吸着チャック361上に被加工物である例えば円盤状の半導体ウエーハを図示しない吸引手段によって保持するようになっている。このように構成されたチャックテーブル36は、円筒部材34内に配設された図示しないパルスモータによって回転せしめられる。なお、チャックテーブル36には、後述する環状のフレームを固定するためのクランプ362が配設されている。
【0015】
上記第1の滑動ブロック32は、その下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、その上面にY軸方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動させるための加工送り手段37を具備している。この加工送り手段37は、上記一対の案内レール31と31の間に平行に配設された雄ネジロッド371と、該雄ネジロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド371は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド371は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロッド371を正転および逆転駆動することにより、第一の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動せしめられる。
【0016】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は、上記チャックテーブル36の加工送り量即ちX軸方向位置を検出するためのX軸方向位置検出手段374を備えている。X軸方向位置検出手段374は、案内レール31に沿って配設されたリニアスケール374aと、第1の滑動ブロック32に配設され第1の滑動ブロック32とともにリニアスケール374aに沿って移動する読み取りヘッド374bとからなっている。このX軸方向位置検出手段374の読み取りヘッド374bは、図示の実施形態においては1μm毎に1パルスのパルス信号を後述する制御手段に送る。そして後述する制御手段は、入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の加工送り量即ちX軸方向の位置を検出する。なお、上記加工送り手段37の駆動源としてパルスモータ372を用いた場合には、パルスモータ372に駆動信号を出力する後述する制御手段の駆動パルスをカウントすることにより、チャックテーブル36の加工送り量即ちX軸方向の位置を検出することもできる。また、上記加工送り手段37の駆動源としてサーボモータを用いた場合には、サーボモータの回転数を検出するロータリーエンコーダが出力するパルス信号を後述する制御手段に送り、制御手段が入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の加工送り量即ちX軸方向の位置を検出することもできる。
【0017】
上記第2の滑動ブロック33は、その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、Y軸方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動させるための第1の割り出し送り手段38を具備している。この第1の割り出し送り手段38は、上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロッド381と、該雄ネジロッド381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド381は、その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ382の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド381は、第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ382によって雄ネジロッド381を正転および逆転駆動することにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動せしめられる。
【0018】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置は、上記第2の滑動ブロック33の割り出し加工送り量即ちY軸方向位置を検出するためのY軸方向位置検出手段384を備えている。このY軸方向位置検出手段384は、案内レール322に沿って配設されたリニアスケール384aと、第2の滑動ブロック33に配設され第2の滑動ブロック33とともにリニアスケール384aに沿って移動する読み取りヘッド384bとからなっている。このY軸方向位置検出手段384の読み取りヘッド384bは、図示の実施形態においては1μm毎に1パルスのパルス信号を後述する制御手段に送る。そして後述する制御手段は、入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の割り出し送り量即ちY軸方向の位置を検出する。なお、上記第1の割り出し送り手段38の駆動源としてパルスモータ382を用いた場合には、パルスモータ382に駆動信号を出力する後述する制御手段の駆動パルスをカウントすることにより、チャックテーブル36の割り出し送り量即ちY軸方向の位置を検出することもできる。また、上記第1の割り出し送り手段38の駆動源としてサーボモータを用いた場合には、サーボモータの回転数を検出するロータリーエンコーダが出力するパルス信号を後述する制御手段に送り、制御手段が入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の割り出し送り量即ちY軸方向の位置を検出することもできる。
【0019】
上記レーザー光線照射ユニット支持機構4は、静止基台2上にY軸方向に沿って平行に配設された一対の案内レール41、41と、該案内レール41、41上に矢印Yで示す方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は、案内レール41、41上に移動可能に配設された移動支持部421と、該移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなっている。装着部422は、一側面にZ軸方向に延びる一対の案内レール423、423が平行に設けられている。図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット支持機構4は、可動支持基台42を一対の案内レール41、41に沿ってY軸方向に移動させるための第2の割り出し送り手段43を具備している。この第2の割り出し送り手段43は、上記一対の案内レール41、41の間に平行に配設された雄ネジロッド431と、該雄ネジロッド431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド431は、その一端が上記静止基台2に固定された図示しない軸受ブロックに回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ432の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド431は、可動支持基台42を構成する移動支持部421の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため、パルスモータ432によって雄ネジロッド431を正転および逆転駆動することにより、可動支持基台42は案内レール41、41に沿ってY軸方向に移動せしめられる。
【0020】
図示の実施形態のおけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51と、該ユニットホルダ51に取り付けられたレーザー光線照射手段52を具備している。ユニットホルダ51は、上記装着部422に設けられた一対の案内レール423、423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511、511が設けられており、この被案内溝511、511を上記案内レール423、423に嵌合することにより、Z軸方向に移動可能に支持される。
【0021】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51を一対の案内レール423、423に沿ってZ軸方向に移動させるための集光点位置調整手段53を具備している。集光点位置調整手段53は、一対の案内レール423、423の間に配設された雄ネジロッド(図示せず)と、該雄ネジロッドを回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでおり、パルスモータ532によって図示しない雄ネジロッドを正転および逆転駆動することにより、ユニットホルダ51およびレーザー光線照射手段52を案内レール423、423に沿ってZ軸方向に移動せしめる。なお、図示の実施形態においてはパルスモータ532を正転駆動することによりレーザー光線照射手段52を上方に移動し、パルスモータ532を逆転駆動することによりレーザー光線照射手段52を下方に移動するようになっている。
【0022】
図示のレーザー光線照射手段52は、上記ユニットホルダ51に固定され実質上水平に延出する円筒形状のケーシング521を含んでいる。このレーザー光線照射手段52について、図2を参照して説明する。
図示のレーザー光線照射手段52は、上記ケーシング521内に配設されたパルスレーザー光線発振手段522と、該パルスレーザー光線発振手段522によって発振されたパルスレーザー光線の出力を調整する出力調整手段523と、該出力調整手段523によって出力が調整されたパルスレーザー光線を上記チャックテーブル36の保持面に保持された被加工物Wに照射する集光器524を具備している。
【0023】
上記パルスレーザー光線発振手段522は、例えば波長が1064nmのパルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振器522aと、パルスレーザー光線発振器522aが発振するパルスレーザー光線の繰り返し周波数を設定する繰り返し周波数設定手段522bとから構成されている。上記出力調整手段523は、パルスレーザー光線発振手段522から発振されたパルスレーザー光線の出力を所定の出力に調整する。これらパルスレーザー光線発振手段522のパルスレーザー光線発振器522a、繰り返し周波数設定手段522bおよび出力調整手段523は、図示しない後述する制御手段によって制御される。
【0024】
上記集光器524は、パルスレーザー光線発振手段522から発振され出力調整手段523によって出力が調整されたパルスレーザー光線をチャックテーブル36の保持面に向けて方向変換する方向変換ミラー524aと、該方向変換ミラー524aによって方向変換されたパルスレーザー光線を集光してチャックテーブル36に保持された被加工物Wに照射する集光レンズ524bを具備している。このように構成された集光器524は、図1に示すようにケーシング521の先端に装着される。
【0025】
上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の先端部には、レーザー光線照射手段52によってレーザー加工すべき加工領域を検出する撮像手段6が配設されている。この撮像手段6は、可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に、被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と、該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されており、撮像した画像信号を後述する制御手段に送る。
【0026】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置1は、図3に示す制御手段8を具備している。制御手段8はコンピュータによって構成されており、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)81と、制御プログラム等を格納するリードオンリメモリ(ROM)82と、後述する制御マップや被加工物の設計値のデータや演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)83と、カウンター84と、入力インターフェース85および出力インターフェース86とを備えている。制御手段8の入力インターフェース85には、上記X軸方向位置検出手段374、Y軸方向位置検出手段384および撮像手段6等からの検出信号が入力される。そして、制御手段8の出力インターフェース86からは、上記パルスモータ372、パルスモータ382、パルスモータ432、パルスモータ532、レーザー光線照射手段52のパルスレーザー光線発振器522a、繰り返し周波数設定手段522bおよび出力調整手段523等に制御信号を出力する。
【0027】
次に、上述したレーザー加工装置1を用いて実施するウエーハの加工方法について説明する。
図4の(a)および(b)には、本発明によるウエーハの加工方法によって加工される半導体ウエーハの斜視図および要部を拡大して示す断面図が示されている。図4の(a)および(b)に示す半導体ウエーハ10は、シリコンウエーハからなり、表面10aに格子状に形成されたストリート101と102によって区画された複数の領域にデバイス103が形成されている。半導体ウエーハ10の表面10aに形成された複数個のデバイス103には複数個のスタッドバンプ(電極)104が形成されており、この複数個のスタッドバンプ(電極)104は表面10aから裏面10bに達するように埋設されている。このように形成された半導体ウエーハ10は、裏面10bがエッチング処理されて複数個のスタッドバンプ(電極)104が裏面10bから僅かに突出せしめられている。このようにエッチング処理された半導体ウエーハ10の裏面10bは粗され、面粗さがRa0.02〜0.1μmとなっている。
【0028】
以下、レーザー加工装置1を用いて光デバイスウエーハ10の内部にストリート101および102に沿って破断の起点となる改質層を形成する加工方法について説明する。
先ず、図5に示すように環状のフレームFに装着されたダイシングテープTの表面に半導体ウエーハ10の表面10aを貼着する(ウエーハ貼着工程)。従って、ダイシングテープTの表面に貼着された半導体ウエーハ10は、裏面10bが上側となる。
【0029】
上述したウエーハ貼着工程を実施したならば、半導体ウエーハ10の裏面10bにおけるストリート101に対応する領域の面粗さを計測し、面粗さマップを作成する面粗さマップ作成工程を実施する。この半導体ウエーハ10の裏面10bにおけるストリート101および102に対応する領域の面粗さの計測は、例えば株式会社ミツトヨによって製造販売されている評価型表面粗さ測定器 サーフテスト SV2100 を用いことができる。
【0030】
以下、面粗さマップ作成工程の一例について図6および図7を参照して説明する。
先ず、図6の(a)に示すように半導体ウエーハ10をストリート101がX軸方向と平行になるようにセットし、ストリート101aからストリート101nに沿って面粗さを計測する。そして、図6の(b)に示すように各ストリート101aからストリート101nにおけるXY座標に対応した面粗さを設定した面粗さマップ(1)を作成する。
【0031】
次に、半導体ウエーハ10を90度回動して、図7の(a)に示すように半導体ウエーハ10をストリート102がX軸方向と平行になるようにセットし、ストリート102aからストリート102nに沿って面粗さを計測する。そして、図7の(b)に示すように各ストリート102aからストリート102nにおけるXY座標に対応した面粗さを設定した面粗さマップ(2)を作成する。
【0032】
以上のようにして作成された図6の(b)に示す面粗さマップ(1)および図7の(b)に示す面粗さマップ(2)は、上記レーザー加工装置1に装備された制御手段8のランダムアクセスメモリ(RAM)83に格納される。また、ランダムアクセスメモリ(RAM)83には、面粗さに対応して適正な改質層が形成できるレーザー光線の出力を設定した図8に示す適正出力マップが格納される。図8に示す適正出力マップは、縦軸が面粗さ(μm)を示し、横軸がパルスレーザー光線のパルスエネルギー(μJ)を示している。このような面粗さに対応して適正な改質層が形成できるレーザー光線の出力は、実験によって求める。
【0033】
上述したように図6の(b)に示す面粗さマップ(1)および図7の(b)に示す面粗さマップ(2)と図8に示す適正出力マップを上記レーザー加工装置1に装備された制御手段8のランダムアクセスメモリ(RAM)83に格納したならば、レーザー加工装置1のチャックテーブル36上に半導体ウエーハ10のダイシングテープT側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより、ダイシングテープTを介して半導体ウエーハ10をチャックテーブル36上に吸引保持する(ウエーハ保持工程)。従って、チャックテーブル36に保持された半導体ウエーハ10は、裏面10bが上側となる。
【0034】
上述したように半導体ウエーハ10を吸引保持したチャックテーブル36は、加工送り手段37によって撮像手段6の直下に位置付けられる。チャックテーブル36が撮像手段6の直下に位置付けられると、撮像手段6および制御手段8によって光デバイスウエーハ10のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。即ち、撮像手段6および制御手段8は、半導体ウエーハ10の所定方向に形成されているストリート101と、ストリート101に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器524との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する(アライメント工程)。また、半導体ウエーハ10に形成されている上記所定方向に対して直交する方向に延びるストリート102に対しても、同様にアライメント工程を実施する。このとき、半導体ウエーハ10のストリート101および102が形成されている表面10aは下側に位置しているが、撮像手段6が上述したように赤外線照明手段と赤外線を捕らえる光学系および赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成された撮像手段を備えているので、裏面10bから透かしてストリート101および102を撮像することができる。
【0035】
以上のようにしてアライメント工程を実施したならば、図9の(a)で示すようにチャックテーブル36をレーザー光線照射手段52の集光器524が位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定のストリート101の一端(図9の(a)において左端)をレーザー光線照射手段52の集光器524の直下に位置付ける。そして、集光器524から照射されるパルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ10の厚み方向中間部に合わせる。集光器524から照射されるパルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ10の所定位置に位置付けるためには、例えば特開2009−63446号公報に記載されているチャックテーブルに保持された被加工物の高さ位置検出装置を用いてチャックテーブル36に保持された半導体ウエーハ10の上面の高さ位置を検出し、検出された半導体ウエーハ10の上面の高さ位置を基準として集光点位置調整手段53を作動することによりパルスレーザー光線の集光点Pを所定位置に位置付ける。次に、レーザー光線照射手段52の集光器524から半導体ウエーハ10に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル36を図9の(a)において矢印X1で示す加工送り方向に所定の加工送り速度で移動せしめる。そして、図9の(b)で示すようにレーザー光線照射手段52の集光器524の照射位置にストリート101の他端(図9の(b)において右端)が達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル36の移動を停止する(改質層形成工程)。この改質層形成工程において制御手段8は、ランダムアクセスメモリ(RAM)83に格納されている上記図6の(b)に示す面粗さマップ(1)および図8に示す適正出力マップを参照して、半導体ウエーハ10の裏面10bのストリート101に対応する領域におけるXY座標に対応した面粗さに対応して設定されたレーザー光線の適正出力(パルスエネルギー)を求める。そして、制御手段8はパルスレーザー光線発振手段522から発振されたパルスレーザー光線の出力が適正出力(パルスエネルギー)となるように出力調整手段523を制御する。この結果、半導体ウエーハ10の裏面10bの面粗さがRa0.02〜0.1μmの範囲であっても、半導体ウエーハ10には図9の(b)および(c)に示すように内部にストリート101に沿って適正な改質層110が形成される。
【0036】
上記の改質層形成工程における加工条件は、例えば次のように設定されている。
光源 :半導体励起固体レーザー(Nd:YAG)
波長 :1064nmのパルスレーザー
繰り返し周波数 :80kHz
平均出力 :0.1〜0.7W
パルスエネルギー :1.25〜8.75μJ
集光スポット径 :φ1μm
加工送り速度 :100mm/秒
【0037】
以上のようにして、半導体ウエーハ10の所定方向に延在する全てのストリート101に沿って上記改質層形成工程を実施したならば、チャックテーブル36を90度回動せしめて、上記所定方向に対して直交する方向に形成された各ストリート102に沿って上記改質層形成工程を実施する。このストリート102に沿って改質層形成工程を実施する場合には、制御手段8はランダムアクセスメモリ(RAM)83に格納されている上記図7の(b)に示す面粗さマップ(1)および図8に示す適正出力マップを参照して、半導体ウエーハ10の裏面10bのストリート102に対応する領域におけるXY座標に対応した面粗さに対応して設定されたレーザー光線の適正出力(パルスエネルギー)を求め、パルスレーザー光線発振手段522から発振されたパルスレーザー光線の出力が適正出力(パルスエネルギー)となるように出力調整手段523を制御する。この結果、半導体ウエーハ10の裏面10bの面粗さがRa0.02〜0.1μmの範囲であっても、半導体ウエーハ10には内部にストリート102に沿って適正な改質層が形成される。
【0038】
上述した改質層形成工程が実施された半導体ウエーハ10は、内部に改質層110が形成されたストリート101および102に沿って分割する分割工程に搬送される。
【0039】
以上、本発明を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で種々の変形は可能である。例えば、実施形態においては面粗さ測定器を備えていないレーザー加工装置について説明したが、例えば撮像手段6からの画像情報を面粗さ測定器に伝達して面粗さを自ら測定できるレーザー加工装置として構成してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1:レーザー加工装置
2:静止基台
3:チャックテーブル機構
36:チャックテーブル
37:加工送り手段
374:X軸方向位置検出手段
38:第1の割り出し送り手段
384:Y軸方向位置検出手段
4:レーザー光線照射ユニット支持機構
43:第2の割り出し送り手段
5:レーザー光線照射ユニット
52:レーザー光線照射手段
522:パルスレーザー光線発振手段
523:出力調整手段
524:集光器
53:集光点位置調整手段
6:撮像手段
8:制御手段
10:半導体ウエーハ
F:環状のフレーム
T:ダイシングテープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9