特許第5981346号(P5981346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5981346超電導線材用基材、超電導線材及び超電導線材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981346
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】超電導線材用基材、超電導線材及び超電導線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/06 20060101AFI20160818BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160818BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   H01B12/06ZAA
   H01B13/00 565D
   C23C14/08 K
   C23C14/08 L
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-541902(P2012-541902)
(86)(22)【出願日】2011年11月2日
(86)【国際出願番号】JP2011075340
(87)【国際公開番号】WO2012060425
(87)【国際公開日】20120510
【審査請求日】2014年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2010-246056(P2010-246056)
(32)【優先日】2010年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「イットリウム系超電導電力機器開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】笠原 正靖
(72)【発明者】
【氏名】福島 弘之
(72)【発明者】
【氏名】奥野 良和
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 裕子
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−203531(JP,A)
【文献】 特開2001−73151(JP,A)
【文献】 特開2010−103021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/06
H01B 13/00
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式がLa(Mn1−x3+δ(M=Cr,Al,Co及びTiから選ばれる少なくとも1つであって、δは酸素不定比量であり、0<w/z<2、0<x≦1である)で表される結晶材料(但し、LaAlO3+δは除く)を主体とする酸化物層、
を含む超電導線材用基材。
【請求項2】
前記結晶材料のM置換量xは、0.1≦x≦1である、
請求項1に記載の超電導線材用基材。
【請求項3】
前記結晶材料のw/zは、0.8≦w/z≦1.1である、
請求項1又は請求項2に記載の超電導線材用基材。
【請求項4】
2軸配向した配向層を含む基材本体を備え、
前記酸化物層は、前記配向層上に配置されている、
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の超電導線材用基材。
【請求項5】
前記酸化物層上に、CeO及びPrOから選ばれる少なくとも1つからなる蛍石系結晶構造体で構成されたキャップ層が配置されている、
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の超電導線材用基材。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の超電導線材用基材と、
前記超電導線材用基材上に配置され、酸化物超電導体で構成された超電導層と、
を備える超電導線材。
【請求項7】
基材上に、組成式がLa(Mn1−x3+δ(M=Cr,Al,Co及びTiから選ばれる少なくとも1つであって、δは酸素不定比量であり、0<w/z<2、0<x≦1である)で表される結晶材料(但し、LaAlO3+δは除く)を主体とする酸化物層を、前記基材を加熱しながら形成する工程と、
前記酸化物層上に、前記酸化物層が形成された前記基材を加熱しながら薄膜をエピタキシャル成長させる工程と、
を有する超電導線材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材用基材、超電導線材及び超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属テープ等の基材上に酸化物超電導体を薄膜成長することで形成される超電導線材において、当該酸化物超電導体は、その導体としての特性が結晶方位に大きく依存するため、高い臨界電流密度(Jc)特性を持たせるには、酸化物超電導体の結晶方位を高度に配向させることが必要である。
【0003】
酸化物超電導体の結晶方位を配向させる技術としては、2軸配向性を有する基材又は、2軸配向した薄膜(中間層)を基材上に形成したものの上に超電導層を成長させる方法があり、2軸配向した中間層を基材上に形成する方法としては、イオンビームアシストを利用しながら薄膜形成する方法がある(例えば特許文献1:特開2003−96563号公報)。
【0004】
このように、超電導層と中間層の薄膜積層構造を作成する場合、成長する薄膜の結晶配向性はテンプレートとする基材或いは下層薄膜層の結晶配向性を引き継ぐエピタキシャル成長となるため、超電導層の結晶配向性を向上させるためには、そのテンプレートとなる中間層の結晶配向性を向上させる必要がある。
【0005】
特許文献2(特表2007−515053号公報)には、超電導線材において、超電導層の下地となる中間層をLMOのAサイト(Laサイト)にSrをドープした(La1−xSr)MnOで構成する技術が開示されている。
【0006】
同様に、特許文献3(特表2010−513180号公報)には、超電導線材において、超電導層の下地となる中間層をLMOのLaサイトにM元素(M=Ca,Sr,Baの何れか1つ)をドープした(La1−x)MnOで構成する技術が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、超電導層と中間層の積層構造の形成において、結晶構造(結晶格子)の変化を伴う相転移点を有する組成式LaMnO3+δ(以下LMOという)で表される結晶材料を中間層又は中間層の一部の酸化物層(薄膜)として成長する場合、当該LMOで構成された酸化物層上に形成される他の酸化物層や酸化物超電導層(以下、他の酸化物薄膜ともいう)が下層となるLMOで構成された酸化物層の結晶配向性を引き継ぐためには、当該LMOで構成された酸化物層の成長温度を相転移温度よりも高温側に設定する必要がある。
以下、図4及び図5を用いて、LMOの成長温度と相転移温度の関係について説明する。図4は、LMOの結晶格子の変化の状態を示す図であり、図4中の縦軸はLMOの軸長を表し、横軸はLMOの加熱温度を示す。また、図5は、LMOで構成された酸化物層上にCeOを成膜する際の成膜温度を変化させた際の、CeOのX線回折強度(図5A)とCeOの配向率(図5B)を示す図である。
【0008】
具体的には、図4に示すように、LMOの結晶格子は、LMOの温度が約800K(相転移温度T1)以上となると斜方晶から立方晶に変化し、さらにLMOの温度が約1000K(相転移温度T2)以上となると立方晶から菱面体晶に変化する。そして、結晶歪みが他の結晶格子に比べて小さい立方晶のLMOは下層の結晶配向性を引き継ぐことができるので、LMOで構成された酸化物層の成長温度をT1以上T2以下の高温側で設定し、当該LMOで構成された酸化物層におけるLMOの結晶格子を立方晶とする必要がある。
【0009】
また、LMOの相転移は、LMOで構成された酸化物層上に他の薄膜をエピタキシャル成長させる場合に顕著な影響を与える。
【0010】
具体的には、上記のように立方晶のLMOで構成された酸化物層上に他の酸化物薄膜を、基材(LMOで構成された酸化物層も含む)を加熱しながらエピタキシャル成長させる場合、図5A及び図5Bに示すように、その成膜温度がLMOの相転移温度T1よりも低いと、下層となる酸化物層を構成するLMOの結晶格子が立方晶から斜方晶に変化して、当該酸化物層上に他の酸化物薄膜をエピタキシャル成長し難くなってしまう。したがって、LMOで構成された酸化物層を成膜する際だけでなく、LMOで構成された酸化物層上に他の酸化物薄膜を成膜する際も、その成膜温度をLMOの相転移温度T1以上(T2以下)とする必要がある。
なお、図5Aは、中間層の一部を構成する他の薄膜としてCeO膜をLMOからなる酸化物層上に成膜し、その成膜の際の成膜温度を変化させたときのCeO(200)のX線回折強度(cps)をプロットした図であり、図5Bは、中間層の一部を構成する他の酸化物層としてCeO膜をLMOからなる酸化物層上に成膜し、その成膜の際の成膜温度を変化させたときのCeO(200)の配向率(%)をプロットした図である。
【0011】
しかしながら、LMOで構成された酸化物層の成膜温度やその上に形成する他の酸化物層の成膜温度をT1以上に高く設定することで、超電導線材の基材に対してより高温・長時間の熱履歴を与えることになり、超電導線材の機械強度を低下させてしまう。
【0012】
以上の結果、LMOで構成された酸化物層を用いた際に、当該酸化物層上に形成される他の酸化物薄膜のエピタキシャル成長を可能とし、かつ、超電導線材の機械強度の低下を抑制するためには、LMOの結晶格子が立方晶となる相転移温度T1自体を低くすればよいことが分かる。
【0013】
ここで、相転移温度T1を低くするためには、特許文献2,3のようにLMOの組成調整が考えられるが、特許文献2,3では、相転移温度T1を低くすることをドーピングの目的としておらず、またBサイト(Mnサイト)にドーピングする記載はない。
【0014】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、中間層又は中間層の一部としての酸化物層を構成するLMOの結晶格子が立方晶となる相転移温度を低くした超電導線材用基材、超電導線材及び超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の上記課題は下記の手段によって解決された。
<1>組成式がLa(Mn1−x3+δ(M=Cr,Al,Co及びTiから選ばれる少なくとも1つであって、δは酸素不定比量であり、0<w/z<2、0<x≦1である)で表される結晶材料(但し、LaAlO3+δは除く)を主体とする酸化物層、を含む超電導線材用基材。
【0016】
<2>前記結晶材料のM置換量xは、0.1≦x≦1である、前記<1>に記載の超電導線材用基材。
【0017】
<3>前記結晶材料のw/zは、0.8≦w/z≦1.1である、前記<1>又は前記<2>に記載の超電導線材用基材。
【0018】
<4>2軸配向した配向層を含む基材本体を備え、前記酸化物層は、前記配向層上に配置されている、前記<1>〜前記<3>の何れか1つに記載の超電導線材用基材。
【0019】
<5>前記酸化物層上に、CeO及びPrOから選ばれる少なくとも1つからなる蛍石系結晶構造体で構成されたキャップ層が配置されている、前記<1>〜前記<4>の何れか1つに記載の超電導線材用基材。
【0020】
<6>前記<1>〜前記<5>の何れか1つに記載の超電導線材用基材と、前記超電導線材用基材上に配置され、酸化物超電導体で構成された超電導層と、を備える超電導線材。
【0021】
<7>基材上に、組成式がLa(Mn1−x3+δ(M=Cr,Al,Co及びTiから選ばれる少なくとも1つであって、δは酸素不定比量であり、0<w/z<2、0<x≦1である)で表される結晶材料(但し、LaAlO3+δは除く)を含んで構成された酸化物層を、前記基材を加熱しながら形成する工程と、前記酸化物層上に、前記基材を加熱しながら薄膜をエピタキシャル成長させる工程と、を有する超電導線材の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、中間層又は中間層の一部としての酸化物層を構成するLMOの結晶格子が立方晶となる相転移温度を低くした超電導線材用基材、超電導線材及び超電導線材の製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施形態に係る超電導線材の積層構造を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る超電導線材用基材2の概略構成を示す断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る超電導線材用基材2の詳細構成を示す断面図である。
図4図4は、LMOの結晶格子の変化の状態を示す図である。
図5A図5Aは、中間層の一部を構成する他の薄膜としてCeO膜をLMOからなる酸化物層上に成膜し、その成膜の際の成膜温度を変化させたときのCeO(200)のX線回折強度(cps)をプロットした図である。
図5B図5Bは、中間層の一部を構成する他の酸化物層としてCeO膜をLMOからなる酸化物層上に成膜し、その成膜の際の成膜温度を変化させたときのCeO(200)の配向率(%)をプロットした図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る超電導線材用基材、超電導線材及び超電導線材の製造方法について具体的に説明する。なお、図中、同一又は対応する機能を有する部材(構成要素)には同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0025】
(超電導線材の構成及びその製造方法)
図1は、本発明の実施形態に係る超電導線材の積層構造を示す図である。
図1に示すように、超電導線材1は、テープ状の金属基材10上に中間層20、酸化物超電導層30、保護層40が順に形成された積層構造を有している。そして、図1におけるテープ状の金属基材10と中間層20が、本発明の実施形態に係る超電導線材用基材2を構成する。
【0026】
金属基材10は、低磁性の無配向金属基材である。金属基材10の形状は、上述のテープ状だけでなく、板材、線材、条体等の種々の形状のものを用いることができる。金属基材10の材料としては、例えば、強度及び耐熱性に優れた、Cu,Cr,Ni,Ti,Mo,Nb,Ta,W,Mn,Fe,Ag等の金属又はこれらの合金を用いることができる。特に好ましいのは、耐食性及び耐熱性の点で優れているステンレス、ハステロイ(登録商標)、その他のニッケル系合金である。また、これら各種金属材料上に各種セラミックスを配してもよい。
【0027】
中間層20は、酸化物超電導層30において高い面内配向性を実現するために金属基材10上に形成される層であり、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が金属基材10と酸化物超電導層30を構成する酸化物超電導体との中間的な値を示す。なお、具体的な層構成については、後述する。
【0028】
酸化物超電導層30は、中間層20上に形成され、酸化物超電導体、特に銅酸化物超電導体で構成されている。この銅酸化物超電導体としては、REBaCu7−δ(RE−123と称す),BiSrCaCu8+δ(BiサイトにPbドープしたものも含む),BiSrCaCu10+δ(BiサイトにPbドープしたものも含む)又はTlBaCan−1Cu2n+4等の組成式で表される結晶材料を用いることができる。また、銅酸化物超電導体は、これら結晶材料を組み合わせて構成することもできる。
【0029】
以上の結晶材料の中でも、超電導特性が良くて結晶構造が単純であるという理由から、REBaCu7−δを用いることが好ましい。また、結晶材料は、多結晶材料であっても単結晶材料であってもよい。
【0030】
なお、上記REBaCu7−δ中のREは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、YbやLuなどの単一の希土類元素又は複数の希土類元素であり、これらの中でもBaとの置換が起こり難い等の理由でYであることが好ましい。また、δは、酸素不定比量であり、例えば0以上1以下であり、超電導転移温度が高いという観点から0に近いほど好ましい。ここで、REをPrとしたPrBaCu7−δだけは、現在、超電導現象が確認されていないが、将来酸素不定比量δを制御するなどして超電導現象が確認できた場合には、本発明の実施形態に係わる酸化物超電導体にPrBaCu7−δも含むものとする。
また、REBaCu7−δ以外の結晶材料のδも酸素不定比量を表し、例えば0以上1以下である。
【0031】
酸化物超電導層30の膜厚は、特に限定されないが、例えば500nm以上3000nm以下である。
【0032】
酸化物超電導層30の形成(成膜)方法としては、例えばTFA−MOD法、PLD法、CVD法、MOCVD法、又はスパッタ法などが挙げられる。これら成膜方法の中でも、高真空を必要としない、大面積、複雑な形状の金属基材10にも成膜可能、量産性に優れているという理由からMOCVD法を用いることが好ましい。MOCVD法を用いる場合の成膜条件は、酸化物超電導層30の構成材料や膜厚等によって適宜設定されるが、例えば、線材搬送速度:10m/h以上500m/h以下、成膜温度:800℃〜900℃(YBaCu7−δの場合)とされる。また、REBaCu7−δの成膜時には、酸素不定比量δを小さくして超電導特性を高めるという観点から、酸素ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0033】
以上のような酸化物超電導層30の上面には、例えばスパッタ法により銀からなる保護層40が成膜されている。また、保護層40を成膜して超電導線材1を製造した後、超電導線材1に熱処理を施してもよい。
【0034】
(超電導線材用基材の概略構成及びその製造方法)
図2は、本発明の実施形態に係る超電導線材用基材2の概略構成を示す断面図である。
図2に示すように、本発明の実施形態に係る超電導線材用基材2は、中間層20の一部又は中間層20としてLMO層22を含んで構成される。
【0035】
LMO層22が中間層20の一部である場合、すなわち中間層20が複数の層からなる場合、LMO層22は、中間層20を構成する他の2層以上で挟まれる配置、中間層20において最上層に位置する配置、中間層20において最下層に位置する配置の何れの態様も取り得る。ただし、LMO層22は、後述する2軸配向層26や酸化物超電導層30との格子整合度が小さいという観点から、2軸配向層26上に位置する配置の方が好ましい。
【0036】
このようなLMO層22は、既に背景技術の欄で説明したように、LMO層22上層のエピタキシャル成長を可能としつつ、超電導線材1の機械強度低下を抑制するためには、LMOの結晶格子が立方晶となる相転移温度T1自体を低くすればよい(図4図5参照)。
【0037】
ここで、相転移温度T1を低くするためには、ドーピング等のLMOの組成調整が考えられる。そこで、本発明者らは、LMOがペロブスカイト型の結晶構造(単位格子)であることに着目し、トレランスファクターtを1に近づけると、結晶中の歪みを低減し、相転移温度T1を低くすることができることを見出した。
【0038】
トレランスファクターtは、一般的に組成式ABOで表される化合物がペロブスカイト型の結晶構造をとるか否かの指標として使われており、以下の式で定義される。
【0039】
【数1】
【0040】
なお、上記tの値が0.75以上で1.1以下の場合に、前記化合物はペロブスカイト構造をとり、tの値が0.75未満では別の結晶構造(イルメナイト構造)をとると言われている。なお上記式において、rはペロブスカイトのAサイトを占有する陽イオンのイオン半径を、rはペロブスカイトのBサイトを占有する陽イオンのイオン半径を、さらにrは酸素のイオン半径を示す。前記トレランスファクターtが1の場合には、理想的なペロブスカイト構造となる。
【0041】
そして、トレランスファクターtを1に近づける方法としては、上記式中のrを大きくするか、或いはrを小さくする方法が挙げられる。
【0042】
以下の表1に、Shannonのイオン半径を、Aサイトを占有する、あるいはその可能性のある陽イオン、およびBサイトを占有する、あるいはその可能性のある陽イオンについてまとめて示す。また、以下の表2に、これらのイオン半径を用いて、LMOのAサイト又はBサイトに陽イオンを一定量ドープした場合のトレランスファクターtを求めた結果を示す。また、表3に、LMOのBサイトにおける陽イオンCrのドープ量を変化させたときのトレランスファクターtを求めた結果を示す。また、表4に、LMOのAサイト及びBサイトに陽イオンを一定量ドープした場合のトレランスファクターtを求めた結果を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
以上の結果から、LMOのAサイトに、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1つをドープすると、何もドープしないLMOの場合に比べてtの値が1に近づいていることが分かる。これに対し、LMOのAサイトに、Caをドープすると、何もドープしないLMOの場合に比べてtの値が1より遠ざかっていることが分かる。なお、上記特許文献3では、LMOのAサイトにSr,Ca又はBaをドーピングしているが、Caドープではtが1に近づかないため、tを1に近づけて結晶中の歪みを低減し、相転移温度T1を低くするという本発明のような目的はないものと考えられる。
また、LMOのBサイトに、Cr,Al,Co及びTiから選ばれる少なくとも1つをドープすると、何もドープしないLMOの場合に比べてtの値が1に近づいていることが分かる。
なお、tの値を1に近づけるためには、Aサイト及びBサイトの少なくとも1サイトへドーピングすればよいが、AサイトへドープするBaなどの元素は水酸化物を生成するために安定で単一な結晶相を作成する妨げとなる場合があること、AサイトよりもBサイトへのドーピングの方がドーピング可能な陽イオンが多いという観点から、AサイトにドープするよりもBサイトをドープする方が好ましい。
【0048】
以上の考察から、LMO層22は、BサイトにMnよりもイオン半径の小さい陽イオンがドープされたLMOで構成されている。
具体的には、LMO層22は、組成式がLa(Mn1−x3+δ(M=Cr,Al,Co及びTiから選ばれる少なくとも1つであって、δは酸素不定比量であり、0<w/z<2、0<x≦1である)で表される結晶材料(但し、LaAlO3+δは除く)で構成された酸化物層である。
なお、δの値は、特に限定されないが、例えば−1<δ<1である。
ここで、M置換量x>0とするのは、上述の通り、Mnよりもイオン半径の小さいCr,Al,Co及びTiから選ばれる少なくとも1つをBサイトにドープして、トレランスファクターtを1に近づけて結晶中の歪みを低減し、LMOが立方晶となる相転移温度T1を低くするためである。なお、LMO層22では、上述したように単一な結晶相を作成することが好ましいが、Aサイトにドーピングした場合よりも水酸化物等の不純物が少なければ単一な結晶相でなくてもよく、すなわち、LMO層22は、上記結晶材料を主体として構成され、Aサイトにドーピングした場合よりも少ない不純物を含んでいてもよい。なお、上記「主体」とは、LMO層22に含まれる構成成分中で含有量が最も多いことを示す。
【0049】
そして、LMO層22を構成する結晶材料のM置換量xは、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。理由は、M置換量xが0.1以上であると、より相転移温度を低くなるからである。
また、LMO層22をペロブスカイト型のLMO相単相とするという観点から、AサイトとBサイトのイオン半径等の関係に基づいて、結晶材料のw/zは、0.8≦w/z≦1.1であることが好ましい。
【0050】
また、LMO層22上に形成された層(以下、上層という)の歪み等を抑制するという観点からLMO層22を構成するLMOの結晶構造は、上層を構成する結晶材料の結晶構造とLMO層22の下に形成された層(以下、下層という)を構成する結晶材料の結晶構造との中間の格子定数を有していることが好ましい。なお、中間の構成定数となるのは、a軸長、b軸長、c軸長全てでなくてもよく、これらのうちいずれか1つであってもよい。
【0051】
また、格子定数と同様のパラメータであるが、上層とLMO層22との格子不整合度(△:単位%)が、仮に上層を下層上に直接形成した場合の上層と下層との格子不整合度より0に近いほどよく、例えば±5%以下が好ましく、±3%以下がさらに好ましい。具体的には、後述するように、上層がCeOで構成され、下層がIBAD(イオンビームアシスト蒸着法)で成膜されたMgOで構成された場合、上層とLMO層22との格子不整合度Δは例えば−2.1%であり、上層と下層との格子不整合度Δは例えば−9.1%である。
なお、格子不整合度は次の関係式(2)をもって表すこととする。
△(%)={(A−As)/As}×100・・・・・・(2)
関係式(2)で記号Asは被堆積層(下地層)の格子定数を、また、記号Aは該下地層の上に堆積させた層の格子定数である。
【0052】
LMO層22の厚みは、特に限定されないが、LMO層22の表面粗れを抑制するという観点から100nm以下であることが好ましく、製造上の観点から4nm以上であることが好ましい。具体値としては30nmが挙げられる。
【0053】
LMO層22の形成(成膜)方法としては、金属基材10を加熱しながら行うPLD法やRFスパッタリング法による成膜が挙げられる。RFスパッタリング法による成膜条件は、LMO層22の構成材料であるLa(Mn1−x3+δにおけるM置換量xやLMO層22の膜厚等によって適宜設定されるが、例えば、スパッタ出力:100W以上300W以下、線材搬送速度:20m/h以上200m/h以下、成膜温度(基材加熱温度):800℃以下、成膜雰囲気:0.1Pa以上1.5Pa以下のArガス雰囲気とされる。
ここで、上記成膜温度は、LMOが立方晶となる温度であれば特に限定されないが、本実施形態ではLMOのBサイトにCr等をドープする構成とし、LMOが立方晶となる相転移温度T1を低くしたため、ドープしないLMOの場合に比べて成膜温度を低く設定することができる。これにより、金属基材10に対して高温・長時間の熱履歴を与えることを防止し、超電導線材1の機械強度が低下することを抑制できる。
【0054】
また、上記のように立方晶のLMOで構成されたLMO層22上に他の酸化物薄膜(中間層20の一部を構成する他の酸化物層や酸化物超電導層30)を、金属基材10(LMOも含む)を加熱しながらエピタキシャル成長させる場合、既に背景技術の欄で説明したように、下地となるLMO層22を構成するLMOの結晶格子が立方晶から斜方晶に変化して、当該LMO層22上に他の酸化物薄膜がエピタキシャル成長し難くなることを回避する必要がある。そのため、その金属基材10の加熱温度(成膜温度)を相転移温度T1以上としなければならないが、本実施形態ではLMO層22を構成するLMOのBサイトにCr等をドープする構成とし、LMOが立方晶となる相転移温度T1を低くしたため、LMO層22上層の成膜温度も低くすることができる。
【0055】
以上、LMO層22の配置を特定せずに超電導線材用基材2の概略構成について説明したが、以下に、LMO層22の配置を具体的に特定した超電導線材用基材2の詳細構成について説明する。
【0056】
(超電導線材用基材の詳細構成及びその製造方法)
図3は、本発明の実施形態に係る超電導線材用基材2の詳細構成を示す断面図である。
図3に示すように、超電導線材用基材2の中間層20は、ベッド層24と、2軸配向層26と、LMO層22と、キャップ層28と、を備えて構成されている。
【0057】
ベッド層24は、金属基材10上に配置され、金属基材10の構成元素が拡散するのを防止するための層である。ベッド層24の構成材料としては、GdZr(以下GZOと称す)、YAlO(イットリウムアルミネート)、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、Y、Gd、Al、Sc、Cr、REZrO及びRE等を用いることができる。ここで、REは、単一の希土類元素又は複数の希土類元素を表す。なお、ベッド層24は、拡散防止機能とともに例えば2軸配向性を向上させるなど他の機能を有していてもよい。なお、2軸配向性を向上させる機能を持たせるためには、アモルファスGZOをベッド層24の構成材料として用いることが好ましい。
【0058】
ベッド層24の膜厚は、特に限定されないが、例えば20nm以上200nm以下であり、具体値としては110nmが挙げられる。
【0059】
ベッド層24の形成(成膜)方法としては、例えば、アルゴン雰囲気中でRFスパッタリング法により成膜する方法が挙げられる。
RFスパッタリング法では、プラズマ放電で発生した不活性ガスイオン(例えばAr)を蒸着源(GZO等)に衝突させ、はじき出された蒸着粒子を成膜面に堆積させて成膜する。このときの成膜条件は、ベッド層24の構成材料や膜厚等によって適宜設定されるが、例えば、RFスパッタ出力:100W以上500W以下、線材搬送速度:10m/h以上100m/h以下、成膜温度:20℃以上500℃以下とされる。
なお、ベッド層24の成膜には、イオン発生器(イオン銃)で発生させたイオンを蒸着源に衝突させるイオンビームスパッタ法を利用することもできる。また、ベッド層24は、Y層とAl層との組み合わせ等の多層構造とすることもできる。
【0060】
2軸配向層26は、ベッド層24上に配置され、酸化物超電導層30の結晶を一定の方向に配向させるための層である。2軸配向層26の構成材料としては、NbOやMgO等の多結晶材料が挙げられる。また、ベッド層24と同様の材料、例えばGZOを用いることもできる。
【0061】
2軸配向層26の膜厚は、特に限定されないが、例えば1nm以上20nm以下であり、具体値としては5nmが挙げられる。
【0062】
2軸配向層26の形成(成膜)方法としては、例えばアルゴン、酸素、又はアルゴンと酸素の混合ガス雰囲気中でIBAD法により成膜する方法が挙げられる。IBAD法では、アシストイオンビームを成膜面に対して斜め方向から照射しながら、RFスパッタ(又はイオンビームスパッタ)により蒸着源(MgO等)からはじき出された蒸着粒子を成膜面に堆積させて成膜する。このときの成膜条件は、2軸配向層26の構成材料や膜厚等によって適宜設定されるが、例えば、アシストイオンビーム電圧:800V以上1500V以下、アシストイオンビーム電流:80以上350mA以下、アシストイオンビーム加速電圧:200V、RFスパッタ出力:800W以上1500W以下、線材搬送速度:80m/h以上500m/h以下、成膜温度:5℃以上250℃以下とされる。
【0063】
なお、2軸配向層26の成膜には、蒸着源を例えばMgとして、アルゴンと酸素の混合ガス雰囲気中でスパッタすることにより、はじき出されたMgと酸素を反応させてMgOを成膜させる反応性スパッタを利用することもできる。また、2軸配向層26は、エピタキシャル法により成膜した層とIBADにより成膜した層とからなる複合層であってもよい。
【0064】
LMO層22は、2軸配向層26とキャップ層28の間に配置され、上述した構成を備えている。このようにLMO層22は、2軸配向層26とキャップ層28の間に配置されることで、キャップ層28の格子整合性を向上させる機能を有している。
【0065】
キャップ層28は、LMO層22上に配置され、酸化物超電導層30との格子整合性を高めるための層である。具体的には、自己配向性を有する蛍石型結晶構造体で構成されている。この蛍石型結晶構造体は、例えばCeO及びPrOから選ばれる少なくとも1つである。また、キャップ層28は蛍石型結晶構造体の他に不純物を含有していてもよい。
【0066】
キャップ層28の膜厚は、特に限定されないが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましく、500nm以上であればさらに好ましい。ただし、5000nm を超えると結晶配向性が悪くなるので、5000nm以下とすることが好ましい。
【0067】
このキャップ層28の形成(成膜)方法としては、PLD法やRFスパッタリング法による成膜でエピタキシャル成長させる方法が挙げられる。RFスパッタリング法による成膜条件は、キャップ層28の構成材料や膜厚等によって適宜設定されるが、例えば、RFスパッタ出力:400W以上2000W以下、線材搬送速度:2m/h以上50m/h以下、成膜温度:400℃以上800℃以下とされる。
【0068】
ここで、上記のように立方晶のLMOで構成されたLMO層22上にキャップ層28を、金属基材10(LMO層22も含む)を加熱しながらエピタキシャル成長させる場合、既に背景技術の欄で説明したように、下地となるLMO層22を構成するLMOの結晶格子が立方晶から斜方晶に変化して当該LMO層22上にキャップ層28がエピタキシャル成長し難くなることを回避する必要がある。そのため、その金属基材10の加熱温度(成膜温度)を相転移温度T1以上としなければならないが、本実施形態ではLMO層22を構成するLMOのBサイトにCr等をドープする構成とし、LMOが立方晶となる相転移温度T1を低くしたため、LMO層22上に形成されたキャップ層28(上層)の成膜温度も、例えば何もドープしないLMOの相転移温度T1(500℃)よりも低くすることができる。
【0069】
(変形例)
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであり、例えば上述の複数の実施形態は、適宜、組み合わされて実施可能である。また、以下の変形例を、適宜、組み合わせてもよい。
【0070】
例えば、ベッド層24や保護層40は、省略することができる。金属基材10は、金属で構成される場合を説明したが、耐熱性の高い樹脂等で形成してもよい。
なお、日本出願2010−246056の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明に係る超電導線材用基材、超電導線材及び超電導線材の製造方法について、実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
表面を機械研磨した金属基材10としてのハステロイ基材上へMgをターゲットとし、アシストイオンビームを照射しながら反応性スパッタ法により成膜した2軸配向層26上へRFスパッタリング法により、圧力4mTorrのArガス雰囲気下、RFパワー200W、基材温度700℃にて、La(Mn0.7Cr0.3)O3+δからなるLMO層22を10nmの厚さで形成した。さらに、この上へRFスパッタリング法により、圧力3mTorrのArガス雰囲気下、RFパワー800W、基材温度480℃にて、CeOからなるキャップ層28を200nmの厚さで形成した。
以上の製造工程を経て、実施例1に係る超電導線材用基材を作製した。
【0073】
(実施例2)
表面を機械研磨した金属基材10としてのハステロイC276合金からなる基材上へMgをターゲットとし、アシストイオンビームを照射しながら反応性スパッタ法により成膜した2軸配向層26上へRFスパッタリング法により、圧力4mTorrのArガス雰囲気下、RFパワー200W、基材温度600℃にて、La(Mn0.7Cr0.3)O3+δからなるLMO層22を10nmの厚さで形成した。さらに、この上へRFスパッタリング法により、圧力3mTorrのArガス雰囲気下、RFパワー800W、基材温度480℃にて、CeOからなるキャップ層28を200nmの厚さで形成した。
以上の製造工程を経て、実施例2に係る超電導線材用基材を作製した。
【0074】
(比較例1)
表面を機械研磨した金属基材10としてのハステロイC276合金からなる基材上へMgをターゲットとし、アシストイオンビームを照射しながら反応性スパッタ法により成膜した2軸配向層26上へRFスパッタリング法により、圧力4mTorrのArガス雰囲気下、RFパワー200W、基材温度700℃にて、何もドープされていないLaMnO3+δからなるLMO層22を10nmの厚さで形成した。さらに、この上へRFスパッタリング法により、圧力3mTorrのArガス雰囲気下、RFパワー800W、基材温度480℃にて、CeOからなるキャップ層28を200nmの厚さで形成した。
以上の製造工程を経て、比較例1に係る超電導線材用基材を作製した。
【0075】
(比較例2)
表面を機械研磨した金属基材10としてのハステロイC276合金からなる基材上へMgをターゲットとし、アシストイオンビームを照射しながら反応性スパッタ法により成膜した2軸配向層26上へRFスパッタリング法により、圧力4mTorrのArガス雰囲気下、RFパワー200W、基材温度700℃にて、何もドープされていないLaMnO3+δからなるLMO層22を10nmの厚さで形成した。さらに、この上へRFスパッタリング法により、圧力3mTorrのArガス雰囲気下、RFパワー800W、基材温度510℃にて、CeOからなるキャップ層28を200nmの厚さで形成した。
以上の製造工程を経て、比較例2に係る超電導線材用基材を作製した。
【0076】
(評価)
以下、実施例1,2及び比較例1,2で作製した超電導線材用基材の評価方法及び評価結果について記載する。
【0077】
各実施例及び比較例に係わる超電導線材用基材のキャップ層28について、リガク製X線回折装置RAD−Bを用いて2θ-θ法によるX線回折測定を行った。
【0078】
そして、この測定結果から、各キャップ層28のCeO(200)配向度・(200)カウント強度を評価した。評価結果を、以下の表5に示す。
【0079】
【表5】
【0080】
表5に示す結果から、比較例1に係る超電導線材用基材では、キャップ層28のCeO(200)配向度・(200)カウント強度が、他と比べて極端に低いことが確認できる。これは、キャップ層28の成膜温度がLMOの相転移温度T1よりも低かったために、キャップ層28の成膜過程で、LMOの結晶格子が立方晶から斜方晶に変化したことに起因するものと考えられる。
【0081】
また、比較例2に係る超電導線材用基材では、キャップ層28のCeO(200)配向度・(200)カウント強度が、実施例1、2と同等で良好あることが確認できる。これは、キャップ層28の成膜温度がLMOの相転移温度T1よりも高かったために、キャップ層28の成膜過程で、LMOの結晶格子を立方晶のまま維持することができたことに起因すると考えられる。
しかし、この場合、キャップ層28の成膜温度が高いため、金属基材10に対して高温・長時間の熱履歴を与え、超電導線材1の機械強度が低下してしまう。
【0082】
これに対し、実施例1,2に係る超電導線材用基材では、キャップ層28の成膜温度を、比較例2よりも低くし、比較例1と同等の温度としても、キャップ層28のCeO(200)配向度・(200)カウント強度が、比較例1のように悪化することなく、比較例2と同様の結果となった。これは、実施例1,2では、LMOのBサイトにCr等をドープする構成としたため、LMOが立方晶となる相転移温度T1が480℃よりも低くなり、480℃でキャップ層28を成膜しても、LMOの結晶格子を立方晶のまま維持することができたことに起因すると考えられる。
そして、このように比較例2よりもキャップ層28の成膜温度を低くするとことができると、金属基材10に対して高温・長時間の熱履歴を与えることを防止し、超電導線材1の機械強度が低下することを抑制できる。
【0083】
また、実施例2では、LMO層22の成膜温度を実施例1よりも低くしているが、この場合でも、実施例1と同様の結果となっている。そして、このようにLMO層22の成膜温度を低くすると、金属基材10に対して高温・長時間の熱履歴を与えることを防止し、超電導線材1の機械強度が低下することを抑制できる。
【符号の説明】
【0084】
1 超電導線材
2 超電導線材用基材
10 金属基材(基材本体)
22 LMO層(酸化物層)
26 2軸配向層(配向層)
28 キャップ層
30 酸化物超電導層(超電導層)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B