特許第5981356号(P5981356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5981356化合物半導体単結晶、化合物半導体ウエハ、および化合物半導体単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5981356
(24)【登録日】2016年8月5日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】化合物半導体単結晶、化合物半導体ウエハ、および化合物半導体単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/40 20060101AFI20160818BHJP
   C30B 11/02 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C30B29/40 501C
   C30B11/02
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-8944(P2013-8944)
(22)【出願日】2013年1月22日
(65)【公開番号】特開2014-141355(P2014-141355A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】朝日 聰明
(72)【発明者】
【氏名】三上 充
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−232574(JP,A)
【文献】 特開2007−051054(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/119792(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウムアンチモンからなり、
直径6インチ以上の円柱状に形成され、
平均転位密度が800cm−2以下であることを特徴とする化合物半導体単結晶。
【請求項2】
インジウムアンチモンからなり、
直径6インチ以上の円柱状に形成され、
平均転位密度が40cm−2以下であることを特徴とする化合物半導体単結晶。
【請求項3】
n型不純物として、テルルまたはセレンが添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載の化合物半導体単結晶。
【請求項4】
電子濃度が1015〜1019cm−3であることを特徴とする請求項に記載の化合物半導体単結晶。
【請求項5】
p型不純物として、カドミウムまたは亜鉛が添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載の化合物半導体単結晶。
【請求項6】
正孔濃度が1015〜1019cm−3であることを特徴とする請求項に記載の化合物半導体単結晶。
【請求項7】
ガリウムアンチモン単結晶からなり、
主面が直径6インチ以上の円形であり、
平均転位密度が800cm−2以下であることを特徴とする化合物半導体ウエハ
【請求項8】
インジウムアンチモン単結晶からなり、
主面が直径6インチ以上の円形であり、
平均転位密度が40cm−2以下であることを特徴とする化合物半導体ウエハ。
【請求項9】
TTVが5μm以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の化合物半導体ウエハ。
【請求項10】
直径に対する厚さの割合が0.105mm/inch以下であり、
反りが10μm以下であることを特徴とする請求項7から9の何れか一項に記載の化合物半導体ウエハ。
【請求項11】
Warpが10μm以下であることを特徴とする請求項から10の何れか一項に記載の化合物半導体ウエハ。
【請求項12】
ガリウムアンチモンからなる化合物半導体単結晶の製造方法であって、
内径6インチ超の円筒状の側壁を有する耐熱性の容器に原料を充填し、
前記容器を炉に設置し、
前記炉内を不活性ガスで所定圧力となるまで加圧し、
その後、アンチモンの蒸発を抑制するための封止剤を用いることなく前記炉内を加熱し、
前記炉内をガリウムのみが十分に溶融する温度とした状態で十分な時間維持し、ガリウムを液化させるとともに、アンチモンを液化したガリウムに十分に浸漬することでアンチモンの蒸発を抑制し、
その後、前記炉内を更に加熱し、ガリウムとアンチモンとからガリウムアンチモンを合成し、更に、合成されたガリウムアンチモンを融解させて融液とし、
前記融液の温度が、下部から鉛直上方に向かって10℃/cm以下の割合で下がっていくように前記炉内の温度を制御し、
前記融液を所定時間保持した後、前記容器内において、前記融液を、該融液の表面から下方に向かって1〜10mm/hの速度で凝固させていくことにより、単結晶を育成することを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項13】
インジウムアンチモンからなる化合物半導体単結晶の製造方法であって、
内径6インチ超の円筒状の側壁を有する耐熱性の容器に原料を充填し、
前記容器を炉に設置し、
前記炉内を不活性ガスで所定圧力となるまで加圧し、
その後、アンチモンの蒸発を抑制するための封止剤を用いることなく前記炉内を加熱し、
前記炉内をインジウムのみが十分に溶融する温度とした状態で十分な時間維持し、インジウムを液化させるとともに、アンチモンを液化したインジウムに十分に浸漬することでアンチモンの蒸発を抑制し、
その後、前記炉内を更に加熱し、インジウムアンチモンとからインジウムアンチモンを合成し、更に合成されたインジウムアンチモンを融解させて融液とし、
前記融液の温度が、下部から鉛直上方に向かって10℃/cm以下の割合で下がっていくように前記炉内の温度を制御し、
前記融液を所定時間保持した後、前記容器内において、前記融液を、該融液の表面から下方に向かって1〜10mm/hの速度で凝固させていくことにより、単結晶を育成することを特徴とする化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項14】
前記融液を保持するための所定時間が、30分以上3時間未満であることを特徴とする請求項12または13に記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【請求項15】
前記融液を、キュロポーラス法、または垂直温度勾配凝固法で凝固させることを特徴とする請求項12から14の何れか一項に記載の化合物半導体単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体単結晶、この化合物半導体単結晶で形成されたウエハ、およびこの化合物半導体単結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、代表的なIII−V族化合物半導体として、インジウムアンチモン(InSb)やガリウムアンチモン(GaSb)が知られている。InSbは主に赤外線センサに用いられ、GaSbは主に赤外発光ダイオードや光電変換素子に用いられる。InSbやGaSbは、低融点、低解離圧という特性を有していることから、InSb単結晶やGaSb単結晶の製造においては、前者では、るつぼ内に充填したInSbの原料融液の表面にInSbの種結晶を浸し、回転させながら単結晶を鉛直上方に引上げ成長するチョクラルスキー(Cz:Czochralski)法が、後者では、GaSb原料融液の表面を酸化物からなる封止剤で覆い、更に炉内を解離圧より高い圧力を印加することで微量なSbの解離を抑え込むことが可能な液体封止チョクラルスキー(LEC:Liquid Encapsulated Czochralski)法が、広く用いられている(引用文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−001700号公報
【特許文献2】特開昭58−140399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Cz法やLEC法では、引き上げた単結晶を冷却するために、炉内の温度勾配を、単結晶の引上げ方向(鉛直方向)に向かって大きく低下していくようにしており、特に、融液の表面と融液上方の不活性ガスとの間に大きな温度差ができるようになっている。このため、育成された単結晶には、不活性ガスに晒されることで急激に冷却される部分と融液に接している部分との温度差によって熱応力が作用し、多くの転位が生じることとなってしまう。
近年、一本の単結晶からの基板の取得数を増やして、製造コストを下げるために、単結晶の大型化が求められている。しかし、大型の単結晶を製造しようとすると、引き上げ時に単結晶が受ける熱応力の影響が小型のものに比べて大きくなり、育成された単結晶には更に多くの転位が生じることとなってしまう。また、このような転位の多い単結晶で基板を形成し、その基板の表面に薄膜層をエピタキシャル成長させると、基板の転位が薄膜層にも伝播し、薄膜層の転位も多くなってしまう。そして、素子中の転位が多くなる(転位密度が上がる)ことは、素子特性の劣化にも繋がってしまう。
つまり、温度勾配の大きい環境下で引き上げながら単結晶を育成する従来の方法では、大型の単結晶から特性の優れた素子を製造することは困難であった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、InSbやGaSbといった低融点で低解離圧成分を有するIII−V族化合物半導体単結晶を基板とする素子において、優れた特性を有する素子を、大型の単結晶から一度に数多く製造できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、ガリウムアンチモンからなり、直径6インチ以上の円柱状に形成され、平均転位密度が800cm−2以下であることを特徴とする化合物半導体単結晶である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、インジウムアンチモンからなり、直径6インチ以上の円柱状に形成され、平均転位密度が40cm−2以下であることを特徴とする化合物半導体単結晶である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の化合物半導体単結晶であって、n型不純物として、テルルまたはセレンが添加されていることを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項に記載の化合物半導体単結晶であって、電子濃度が1015〜1019cm−3であることを特徴としている。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1または2に記載の化合物半導体単結晶であって、p型不純物として、カドミウムまたは亜鉛が添加されていることを特徴としている。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項に記載の化合物半導体単結晶であって、正孔濃度が1015〜1019cm−3であることを特徴としている。
【0012】
請求項7に記載の発明は、ガリウムアンチモン単結晶からなり、主面が直径6インチ以上の円形であり、平均転位密度が800cm−2以下であることを特徴とする化合物半導体ウエハである。
【0013】
請求項8に記載の発明は、インジウムアンチモン単結晶からなり、主面が直径6インチ以上の円形であり、平均転位密度が40cm−2以下であることを特徴とする化合物半導体ウエハである。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項7または8に記載の化合物半導体ウエハであって、TTVが5μm以下であることを特徴としている。
ここで、「TTV」とは、Total Thickness Variationの略である。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項7から9の何れか一項に記載の化合物半導体ウエハであって、直径(inch)に対する厚さ(mm)の割合が0.105mm/inch以下であり、反りが10μm以下であることを特徴としている。
【0016】
請求項11に記載の発明は、請求項から10の何れか一項に記載の化合物半導体ウエハであって、Warpが10μm以下であることを特徴としている。
【0017】
請求項12に記載の発明は、ガリウムアンチモンからなる化合物半導体単結晶の製造方法であって、内径6インチ超の円筒状の側壁を有する耐熱性の容器に原料を充填し、前記容器を炉に設置し、前記炉内を不活性ガスで所定圧力となるまで加圧し、その後、アンチモンの蒸発を抑制するための封止剤を用いることなく前記炉内を加熱し、前記炉内をガリウムのみが十分に溶融する温度とした状態で十分な時間維持し、ガリウムを液化させるとともに、アンチモンを液化したガリウムに十分に浸漬することでアンチモンの蒸発を抑制し、その後、前記炉内を更に加熱し、ガリウムとアンチモンとからガリウムアンチモンを合成し、更に、合成されたガリウムアンチモンを融解させて融液とし、前記融液の温度が、下部から鉛直上方に向かって10℃/cm以下の割合で下がっていくように前記炉内の温度を制御し、前記融液を所定時間保持した後、前記容器内において、前記融液を、該融液の表面から下方に向かって1〜10mm/hの速度で凝固させていくことにより、単結晶を育成することを特徴としている。
【0018】
請求項13に記載の発明は、インジウムアンチモンからなる化合物半導体単結晶の製造方法であって、内径6インチ超の円筒状の側壁を有する耐熱性の容器に原料を充填し、前記容器を炉に設置し、前記炉内を不活性ガスで所定圧力となるまで加圧し、その後、アンチモンの蒸発を抑制するための封止剤を用いることなく前記炉内を加熱し、前記炉内をインジウムのみが十分に溶融する温度とした状態で十分な時間維持し、インジウムを液化させるとともに、アンチモンを液化したインジウムに十分に浸漬することでアンチモンの蒸発を抑制し、その後、前記炉内を更に加熱し、インジウムアンチモンとからインジウムアンチモンを合成し、更に合成されたインジウムアンチモンを融解させて融液とし、前記融液の温度が、下部から鉛直上方に向かって10℃/cm以下の割合で下がっていくように前記炉内の温度を制御し、前記融液を所定時間保持した後、前記容器内において、前記融液を、該融液の表面から下方に向かって1〜10mm/hの速度で凝固させていくことにより、単結晶を育成することを特徴としている。
【0019】
請求項14に記載の発明は、請求項12または13に記載の化合物半導体単結晶の製造方法であって、前記融液を保持するための所定時間が、30分以上3時間未満であることを特徴としている。
【0021】
請求項15に記載の発明は、請求項12から14の何れか一項に記載の化合物半導体単結晶の製造方法であって、前記融液を、キュロポーラス法、または垂直温度勾配凝固法で凝固させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、単結晶が温度勾配の小さい容器内でゆっくりと成長するので、ガリウムアンチモンまたはインジウムアンチモンからなり、直径6インチ以上と大型、かつ平均転位密度が800cm−2以下と低いIII−V族化合物半導体単結晶が得られる。
更に、この単結晶で形成した基板の表面に薄膜層をエピタキシャル成長させて素子を製造した場合に、薄膜層への転位の伝播を少なくすることができる。
従って、ガリウムアンチモンまたはインジウムアンチモンからなるIII−V族化合物半導体単結晶を基板とする素子において、優れた特性を有する素子を、大型の単結晶から一度に数多く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について詳細に説明する。
【0024】
〔GaSb単結晶の製造方法〕
まず、本発明に係る化合物半導体単結晶であるガリウムアンチモン(GaSb)単結晶を製造する方法について説明する。本実施形態のGaSb単結晶のインゴットは、準備工程、昇温工程、結晶育成工程を経て製造される。
【0025】
初めの準備工程では、まず、原料である純度が6N(99.9999%)以上のガリウム(Ga)および6N以上のアンチモン(Sb)を、耐熱性の容器であるpBN(pyrolytic Boron Nitride)製のるつぼに充填する。るつぼは、内径6インチ超の円筒状の側壁を有するものを使用する。そして、製造しようとする半導体の型に応じた不純物をるつぼに入れる。例えば、単結晶をn型半導体とする場合はテルル(Te)またはセレン(Se)を入れ、p型半導体とする場合はカドミウム(Cd)または亜鉛(Zn)を入れる。不純物の量は、これから製造する単結晶における正孔濃度または電子濃度が1015〜1019cm−3となるよう予め計算された量とする。なお、本実施形態では、るつぼに封止剤を入れないようにする。そして、原料および不純物を充填したるつぼを単結晶育成炉(以下、炉)に設置し、不活性ガスによる炉内のパージングを複数回行い、炉内の純化を行う。その後、炉内に不活性ガス(Arガスまたは、Nガス)を送り込み、炉内が所定圧力(0.1〜1.0MPa程度)となるまで不活性ガスで加圧する。
【0026】
炉内を不活性ガスで加圧した後は、昇温工程に入る。昇温工程では、まず、原料であるGaを融点(29.7℃)以上の所定温度で所定時間保持して、充填したGaを充分に液化させる。こうすることで、この段階ではまだ融解していない固体Sbが液体Gaに浸漬されるとともに、固体Sbの表面が、液体Gaによって覆われる。さらに、固体Sbを覆う液体Gaは、炉内の不活性ガスの圧力を受けるので、固体Sbは液体Gaによって封止された状態となる。このため、この後、炉内を更に昇温させていっても、Sbの蒸発を抑制することができる。
【0027】
原料が所定温度に達すると、GaとSbの直接合成が開始される。GaとSbが合成されてGaSbになると、Sbの解離圧が低下するので、融解後の融液からSbが蒸発するのを抑制することができるようになる。この後、炉内がGaSbの融点(約710℃)に達すると、GaSbが融解して融液となる。この後、所定の短い時間(30分〜3時間程度)、融液を一定温度で保持して融液を安定化させる。
なお、単体Gaと単体Sbを原料とするのではなく、予め合成されたGaSbの多結晶や単結晶を原料として用いると、ガリウムの液化工程を省略しても、Sbの解離を抑制することができる。
【0028】
ここで、従来のIII-V族化合物半導体単結晶を育成する場合と同様に、もし、原料の充填段階で封止剤を入れていたとすると、炉内の加熱を開始した後に軟化した封止剤が融液の表面を覆うことになる。封止剤は、例えば、ホウ素の酸化物(B)であるため、原料融液のGaと封止剤の酸素とが反応して、酸化ガリウムのガス(泡、スカム)を発生させる。GaSbのような低融点の化合物半導体の成長では、封止剤の温度は軟化点より若干高い程度であるため、封止剤の粘性が高くなる。このため、スカムは封止剤を通り抜けることなく気泡として界面に滞留し続け、このスカムが単結晶の育成時の成長界面の温度揺らぎ、ひいては双晶や多結晶を発生させる虞がある。
しかしながら、前述したように、本実施形態では封止剤を用いていないので、酸化物である封止剤によってGaが酸化されることは無くなり、その結果、従来、LEC法の育成で課題とされてきた、融液表面と封止剤の界面に存在する酸化ガリウムから成るスカムの問題は発生しない。
【0029】
融液を安定化させた後は、炉のヒーターの出力を調節し、融液の温度が、下部から鉛直上方に向かって10℃/cm以下の割合で下がっていくように炉内の温度を制御する。このように、融液に若干の温度勾配を持たせることにより、凝固時に発生する潜熱を放散しながら融液を一方向に凝固させ、単結晶を再現性良く得るようにすることができる。
【0030】
融液に所定の温度勾配を持たせた後は、結晶育成工程に移る。本実施形態の結晶育成工程では、容器成長法の一つであるVGF法でGaSb単結晶を育成する。具体的には、温度勾配を持たせたまま融液の温度を下げていく。すると、融液の表面(不活性ガスと接している部分)が凝固し始める。引き続き、融液が表面から下方に向って、1〜10mm/hの速度で凝固していくように融液の温度を下げていくことにより、GaSb単結晶を育成していく。
【0031】
ここで、もし、Cz法のように、封止剤を用いずに単結晶を引き上げていくと、るつぼ内の融液と引上げられる単結晶の位置関係から、融液表面の中心部分には、引き上げられた単結晶が融液と連続的にメニスカス状に繋がった状態で覆いかぶさり、融液表面の外周部は不活性ガスに直接曝されることになるので、融液表面の外周部からのSbの解離が結晶成長の間、継続されることになる。
また、容器成長法で封止剤を使用すると、封止剤が凝固した単結晶とるつぼとの隙間に入り込んでしまう。この状態で凝固した単結晶がるつぼ内で室温まで冷却されると、硬化した封止剤と単結晶との熱膨張率の差によって単結晶に大きな応力が作用し、転位の増大や、時には結晶の破壊(割れ、クラック)等の問題が発生してしまう虞がある。
【0032】
しかしながら、前述したように、本実施形態では、炉内を不活性ガスで所定圧力とし、容器成長法で融液の表面から下方に向かって単結晶を凝固させている。何れの凝固法においても、融液の温度は原料の融点に基づいて決定されるので、製造する単結晶が同じであれば、融液の温度が同じ場合、解離圧は同じになる。つまり、本実施形態の容器成長法におけるSbの解離圧は、従来のLEC法の場合と同程度であるが、例えば、原料合成の時には、Sbを覆う液化したGaと不活性ガスの圧力とによって、従来のLEC法の場合よりもSbの蒸発が抑制されている。また、原料融解後の保持時間を短くすることによっても、融液の表面からのSbの蒸発が最小限に抑えられている。そして、融液を表面から凝固させることで、表面温度が融点(710℃)よりも下がり、融液の表面において育成される単結晶が、融液に対する蓋として作用し、融液の表面が不活性ガスに晒されなくなる。つまり、融液の表面が封止剤で覆われるのと同じ状態になる。さらに、結晶成長が進行するにつれて、凝固した単結晶の上部の温度も下がるので、単結晶表面からのSbの解離を更に抑制できるようになる。このようにして、単結晶を、Sbの解離、蒸発を抑えつつ安定して成長させることができる。
また、本実施形態では封止剤を用いていないので、封止剤と単結晶との熱膨張率の差による応力が容器内のGaSb単結晶に作用することが無く、転位の増殖や、結晶の破壊等を抑制することができる。
【0033】
以上の各工程を経ることにより、直径6インチ超の円柱状に形成されたGaSb単結晶のインゴットが製造される。なお、このGaSb単結晶の任意の部位(全体でもよい)の平均転位密度を測定したところ、800cm−2以下となることが確認された。
【0034】
〔GaSbウエハの製造方法〕
次に、本実施形態の化合物半導体ウエハであるGaSbウエハの製造方法について説明する。本実施形態のGaSbウエハの製造方法は、円筒研削工程、スライシング工程、ラッピング工程、化学エッチング工程、鏡面研磨工程からなる。
【0035】
初めの円筒研削工程では、るつぼから取り出したGaSb単結晶のインゴット(以下インゴット)の表面を削り、直径が6インチ以上の円柱状に形成する(円筒研削)。
円柱形のインゴットを削り出した後は、スライシング工程に移る。スライシング工程では、インゴットを、切断面が円形となるように複数の板状に切断する。
ウエハを切り出した後は、ラッピング工程に移る。ラッピング工程ではラッピング用の研磨材を用いてウエハの切断面を裏表両面とも研磨する。
【0036】
ウエハの切断面を平坦化した後は、化学エッチング工程に移る。化学エッチング工程では、エッチング液を用いてウエハの研磨面を更に研磨することにより、ラッピング工程で残った研磨面の凹凸を化学的に取り除く。
ウエハの研磨面をエッチングした後は、鏡面研磨工程に移る。鏡面研磨工程では、鏡面研磨用の研磨材を用いてウエハの研磨面を更に研磨することにより、ウエハの研磨面を鏡面に仕上げる。
以上の各工程を経ることにより、主面が直径6インチ以上の円形となるGaSbウエハが製造される。ここで、シリコンやガリウム砒素などの半導体ウエハでは、通常、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials Institute:半導体製造装置材料協会)によって、ウエハの口径や厚さなどの形状が標準化されており、シリコンやガリウム砒素、インジウムリンなどの基板で標準化されているウエハの口径と厚さ(直径6インチの場合は厚さ0.625mm、8インチの場合は厚さ0.725mm、12インチの場合は厚さ0.775mm)のウエハを製造し、その平坦度を示す各数値を計測したところ、何れもTTV(Total Thickness Variation)が5μm以下、反りが10μm以下、Warpが10μm以下となることが確認された。
【0037】
このように、本実施形態のGaSb単結晶(化合物半導体単結晶)の製造方法では、内径6インチ超の円筒状の側壁を有する耐熱性の容器(るつぼ)に原料(GaおよびSb)を充填し、容器を炉(単結晶育成炉)に設置し、V族元素の蒸発を抑制するための封止剤を用いることなく炉内を加熱して、原料を融解させて融液にし、融液の温度が、下部から鉛直上方に向かって10℃/cm以下の割合で下がっていくように炉内の温度を制御し、容器内において、融液を、該融液の表面から下方に向かって1〜10mm/hの速度で凝固させていくことにより、単結晶を育成するようにしている。
【0038】
このようにして製造すれば、単結晶が温度勾配の小さい容器内でゆっくりと成長するので、直径6インチ以上と大型、かつ平均転位密度が800cm−2以下と低いGaSb単結晶が得られる。
また、この結晶で形成した基板の表面に薄膜層をエピタキシャル成長させて素子を製造した場合に、薄膜層への転位の伝播を少なくすることができる。
従って、III−V族化合物半導体単結晶を基板とする素子において、優れた特性を有する素子を、大型の単結晶から一度に数多く製造することができ、ひいては、素子の製造コストを下げることができる。
【0039】
また、従来、ウエハが大きくなるほど、その平坦化は困難なものとなり、特に、GaSbのような低融点の化合物半導体の単結晶の場合、結晶の硬度がGaAsやGaPに比べて小さく脆い材質なので、結晶を切断した際のウエハ表面には加工変質層と呼ばれる結晶欠陥が多く含まれる層が、より深く、より多く入りやすくなり、平坦化はより困難であった。しかし、本実施形態の方法で製造した低転位密度のGaSb単結晶を用いれば、加工変質層が入りにくくなり、主面の直径が6インチ以上と大型であっても、TTV(Total Thickness Variation)が5μm以下、反りが10μm以下、Warpが10μm以下というように平坦性に優れたGaSbウエハを製造することができる。
【0040】
更に、単結晶が融液の表面から下方に向かって成長し、成長当初にできた単結晶が融液の表面を覆うので、本実施形態のGaSb単結晶のように解離圧成分元素の解離、蒸発が問題となる化合物半導体単結晶を、封止剤を用いることなく製造する場合であっても、容器に保持された融液からの解離圧成分元素(Sb)の蒸発を抑制することができる。また、るつぼ上部から温度を下げていくので、凝固した単結晶の上部の温度も下がり、解離圧成分元素の解離も抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態のGaSb単結晶の製造方法では、炉内を不活性ガスで所定圧力となるまで加圧した後に炉内の加熱を開始し、炉内をIII族元素のみが十分に溶融する温度とした状態で十分な時間維持し、III族元素を液化させるとともに、V族元素を液化したIII族元素に十分に浸漬することでV族元素の蒸発を抑制し、その後、炉内を更に加熱し、III族元素とV族元素を合成してIII-V族化合物半導体原料とし、更に炉内の加熱を継続し、合成されたIII-V族化合物半導体原料を融解させて融液とし、融液を所定時間保持した後、単結晶の育成を開始するようにしている。
【0042】
このようにして製造すれば、固体Sbを覆う液体Gaと不活性ガスの圧力とにより、液体Gaが封止剤の代わりとなり、固体SbからのSbの蒸発が抑制されるようになる。
また、封止剤を用いないので、原料の溶融後に、酸化ガリウムからなるスカムの問題が生じないので、双晶や多結晶の発生を防止できる。また、単結晶成長後の降温時に、単結晶と封止剤の熱膨張率の差による転位の増大、単結晶の破壊(割れ、クラック)等の問題が発生することを防止でき、製品の歩留まりを高めることができる。
また、Sbの解離、蒸発を最小限に留めながら、安定して単結晶を成長させることができる。
【0043】
更に、本実施形態のGaSb単結晶の製造方法では、融液を保持するための所定時間が、30分以上3時間未満となっている。
このようにして製造すれば、原料が融解してから単結晶育成を開始するまでの融液の保持時間が短いので、GaSb融液から解離して蒸発するSbを少なくすることができる。
【0044】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について詳細に説明する。なお、InSb単結晶から本発明に係る化合物半導体ウエハであるInSbウエハを製造する方法については、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0045】
〔InSb単結晶の製造方法〕
ここでは、本発明に係る化合物半導体単結晶であるインジウムアンチモン(InSb)単結晶を製造する方法について説明する。本実施形態のInSb単結晶のインゴットは、第1実施形態と同様に、準備工程、昇温工程、結晶育成工程を経て製造される。
【0046】
初めの準備工程では、まず、原料である純度が6N以上のインジウム(In)、純度が6N以上のSbおよび製造しようとする半導体の型に応じた所定量の不純物を、るつぼに充填する。使用するるつぼの材質、形状や、添加する不純物の種類や量は第1実施形態と同様である。なお、本実施形態においても、封止剤は使用しない。
そして、原料および不純物を充填したるつぼを炉に設置し、不活性ガスによる炉内のパージングおよび炉内の加圧を第1実施形態と同様に行う。
【0047】
次の昇温工程において、原料が所定温度に達すると、InとSbの直接合成が開始される。この後、炉内がInSbの融点(約525℃)に達すると、InSbが融解して融液となる。InSbの場合、融点での解離圧が非常に低く、成分元素の解離、蒸発の影響を余り考慮する必要がないため、融液を一定温度で保持する時間は3〜10時間程度とするのが好ましい。
融液が安定したら、第1実施形態と同様にして融液の温度が、下部から鉛直上方に向かって10℃/cm以下の割合で下がっていくように炉内の温度を制御する。
【0048】
次の結晶育成工程では、キュロポーラス法でInSb単結晶を育成する。具体的には、上記昇温工程において融液の成長軸方向(鉛直方向)に沿って温度勾配を持たせた融液の表面に種結晶を浸漬し、種結晶を引き上げることなくその場でゆっくりと回転させながら、融液の温度を下げていく。すると、種結晶から下方および側方へ向かってInSb単結晶が成長していく。今回の単結晶の育成では、種結晶の成長面が(100)面を有する単結晶を使用して単結晶の育成を行った。
【0049】
以上の各工程を経ることにより、直径6インチ以上で、成長方位が(100)方位であるの円柱状に研削可能なInSb単結晶のインゴットが製造される。また、このInSb単結晶の任意の部位(全体でもよい)の平均転位密度は40cm−2以下となることが確認された。
【0050】
このように、本実施形態のInSb単結晶(化合物半導体単結晶)の製造方法では、内径6インチ超の円筒状の側壁を有する耐熱性の容器(るつぼ)に原料(InおよびSb)を充填し、容器を炉(単結晶育成炉)に設置し、V族元素の蒸発を抑制するための封止剤を用いることなく炉内を加熱して、原料を融解させて融液にし、融液の温度が、下部から鉛直上方に向かって10℃/cm以下の割合で下がっていくように炉内の温度を制御し、容器内において、融液を、該融液の表面から下方に向かって1〜10mm/hの速度で凝固させていくことにより、単結晶を育成するようにしている。
【0051】
このようにして製造すれば、単結晶が温度勾配の小さい容器内でゆっくりと成長するので、直径6インチ以上と大型、かつ平均転位密度が40cm−2以下と極めて低いInSb半導体単結晶が得られる。
また、本実施形態の方法で製造した低転位密度のInSb単結晶を用いれば、加工変質層が入りにくくなり、主面の直径が6インチ以上と大型であっても、TTVが5μm以下、反りが10μm以下、Warpが10μm以下というように平坦性に優れたInSbウエハを製造することができる。
【0052】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0053】
例えば、第1実施形態では、VGF法によりGaSb単結晶を製造する方法について、第2実施形態では、キュロポーラス法によりInSb単結晶を製造する方法についてそれぞれ説明したが、GaSb単結晶をキュロポーラス法により製造し、InSbをVGF法により製造するようにしても良い。
また、本実施形態では、融液の温度が、下部から上方に向かうにつれて低くなるようにしたが、InSb単結晶のように成分元素の蒸発をあまり考慮する必要の無い単結晶を製造する場合には、融液の表面からから下方に向かうにつれて低くなるようにして、るつぼの底部から上方に向けて結晶を育成するようにしても良い。
また、るつぼの形状は、後で直径6インチの円柱状に削り出すことが可能な大きさの単結晶を製造可能なものであれば角筒状等他の形状であっても良い。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。