(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1ないし第5実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
<第1実施形態>
本実施形態の光スイッチの構成例について、従来の一般的な光スイッチのものと異なり、小型化が可能な構成となっている。以下では、本実施形態の光スイッチの構成例について、従来の一般的な光スイッチとの差異が明確になるように
図1および
図2を参照して説明する。
図1は従来の一般的な光スイッチにおけるスイッチング方向の光路を説明するための図である。
図2は第1実施形態の光スイッチにおけるスイッチング方向の光路を説明するための図である。
【0016】
先ず、従来の一般的な2f光学系の光スイッチの構成について
図1を参照して説明する。
図1に示す2f光学系では、レンズ1003の焦点距離はfで設定されており、レンズ1003から、入力ポート1001aおよび出力ポート1001b(以下、「入出力ポート1001a,1001b」ともいう。)までの距離もfで設定されている。
【0017】
入出力ポート1001a,1001bは、レンズ1003の前側焦点位置(物面側)に配置され、入出力ポート1001a,1001bには、それぞれ、マイクロレンズ1001c,1001dが対応して設置される。各マイクロレンズ1001c,1001dによって、出射ビームの開口数を調整することが可能となっている。
【0018】
この光学系では、入力ポート1001aから出力された光信号は、レンズ1003に至るまでは、符号1002a,1002bで示すような発散光として伝搬される。そして、レンズ1003を通過した光信号は、平行光として空間光変調部1004に入射する。空間光変調部1004では、ポート選択に必要な光偏向を行い、光信号を反射する。空間光変調部1004としては、例えば、CMOS(Complimentary Metal Oxide Semiconductor)上に液晶が設置されるLCOS(Liquid Crystal on Silicon)などが用いられる。LCOSは、多数の微細ピクセルを有する光位相変調器であり、入射光に任意の波長依存で位相シフトを与えることができる。
【0019】
空間光変調部1004で光信号を出力ポート1001bに結合させるために必要な偏向角は、下記式(1)で表わされる。
θ=arctan(d/f) (1)
【0020】
なお、式(1)において、dは入出力ポート1001a,1001b間の距離、fはレンズ1003の焦点距離、を示す。
【0021】
図1に示す入力ポート1001aから出力された光信号の主光線と、空間光変調部1004で出力ポート1002b側に反射する光信号の主光線とは平行となる。そのため、入出力ポート1001a,1001bは、
図1に示したように平行に配置される。したがって、この光学系では、入出力ポートのレイアウトや実装が簡便になる。
【0022】
図1に示した2f光学系では、光学系の全長は、例えば2fに設定される。この例では、レンズ1003から入出力ポート1001a,1001bまでの距離がレンズ1003の焦点距離fと同じであるため、入出力ポート1001a,1001bと空間光変調器1004との間の距離が2fとなる。そのため、光スイッチの小型化が制限される。
【0023】
一方、
図1に示した光学系と異なり、
図2に示す光学系の光スイッチの例では、光学系の全長が例えば(s+f)に設定される。レンズ2003の焦点距離fは、
図1に示したレンズ2003の焦点距離と同様であるが、レンズ2003から、入力ポート2001aおよび出力ポート2001b(以下、「入出力ポート2001a,2001b」ともいう。)までの距離が
図1の光スイッチのものと異なる。すなわち、入出力ポート2001a,2001bとレンズ2003との間の距離は、例えばs(<f)に設定される。これにより、光学系の全長が
図1に示した2fよりも短くなる。したがって、この光スイッチでは、小型化が実現できる。
【0024】
図2に示した光学系について詳述する。
図2に示すように、この光学系では、入出力ポート2001a,2001bは、レンズ2003側に近接して配置される。この場合においても、入力ポート2001aからの光信号は、符号2002b,2002cで示すような発散光としてレンズ2003に向かって出射する。そして、レンズ2003を通過した光信号は、発散ビームとして空間光変調部2004に入射する。以下の説明において、空間光変調部2004は、例えばLCOS(Liquid Crystal on Silicon)として説明する(第1〜第5実施形態)が、例えばGrating Light Valve型のMEMS(Micro Electro Mechanical System)などを適用することもできる。また、この実施形態では、反射型のLCOSを例にとって説明するが、透過型LCOSなどの透過タイプの空間光変調素子を使ってもよい。
【0025】
この実施形態では、LCOS上の位相空間の分布を柔軟に設定することができることに着目し、空間光変調部2004が以下のような位相分布を持つようにしている。具体的には、LCOSに入射する曲率半径を持つ波面が、これと同様の曲率半径を持って反射するように、2次元の空間分布を持つ位相を与えて、等価的に凹面ミラーを形成するようにしている。この点は、本実施形態の光スイッチの特徴の一つである。
【0026】
空間光変調部2004としてのLCOSに与えられる位相の空間分布の曲率半径は、例えば、空間光変調部2004に入射する光信号の波面の曲率半径と等しくなるようにすることが好ましい。
【0027】
さらに、
図1に示した光学系と同様に、空間光変調部2004に対しては、ポート選択に必要なビーム偏向を与える必要があるため、空間光変調部2004に与えられる位相分布φ(x)は、
図3に示すφ
1(x)、φ
2(x)を重畳して与えることによって、下記式(2)で表される。
φ(x)=ax
2+bx (2)
【0028】
なお、式(2)において、aは光信号の波面の曲率半径に対応する2次の成分、bはポート選択に必要な1次の成分、を示す。
【0029】
図3は空間光変調部2004の位相分布を説明するための図であって、(a)は位相分布、(b)は位相シフトの様子を表す。
【0030】
図3(a)に示すφ1は光信号の波面の曲率補償の成分、φ2はビーム偏向に必要な成分を示してある。この例では、φ
1(x)=ax
2、φ
2(x)=bxが設定される。
【0031】
式(2)に示すφ(x)は、φ
1(x)=ax
2を、例えば−b/2aだけx軸方向にシフトしてある。
【0032】
空間光変調部2004では、式(2)に示される位相分布φ(x)が設定されることによって、出力ポート2001bに向かう光信号の主光線2002aは、
図2に示す符号2005aで示した光路となる。これは、式(2)の右辺の第二項の(bx)に依存する。
【0033】
図2では、光信号のビーム形状は、
図2に示す符号2005b,2005cで示すように収束しつつ、光信号が出力ポート2001bに伝搬されることになる。そして、光信号は最終的に、出力ポート2001bに集光する。
【0034】
ここで、上述した式(2)の右辺の第一項の係数aは、入出力ポート2001a,2001bからレンズ2003までの距離sによって、最適な値が変化する。また、
図2に示した光学系において、入力ポート2001aからの光信号は、ガウスビームとして形成される。これにより、ガウスビームがレンズ2003に入射するときの状況から、空間光変調部2004へ入射するビーム波面の曲率半径を求めることができる。
【0035】
一般に、レンズ2003の焦点距離をf、レンズ2003から物体までの距離をd1、レンズ2003から像までの距離をd2とすると、この光線のABCD行列は、下記式(3)で表される。
【0037】
ここで、レンズ2003からの距離がd1の位置にレンズ通過前のビームウェストが存在すると仮定し、レンズ2003からの距離がd2の位置に、再度ビームウェストが存在する場合、一般に、ガウスビームのレンズ通過前後のウェスト位置の間には、下記式(4)に示すような関係があることが知られている(例えば、光デバイスのための光結合系の基礎と応用−(河野健治著、現代工学社発行)の23〜28ページを参照)。
【0039】
この関係から、レンズ通過後のビームウェストの位置は、下記式(5)で表される。
【0041】
なお、式(5)において、γは下記式(6)で表される。
【0043】
なお、式(6)において、λは光信号の波長、ω
0は入力ポートにおけるビームウェストのサイズ、を示す。
【0044】
上記の観点から、空間光変調部2004上に入射する光信号の波面の曲率半径は、以下のようにして求められる。すなわち、式(5)においてd1=sとしてd2を求めると、これがレンズ通過後の光信号の仮想的なビームウェストを指す。
【0045】
図2に示した光学系の例では、上述したd2はマイナスの値となり、レンズ2003よりも紙面左側、すなわち物側に仮想的なビームウェストが存在する。したがって、空間光変調部2004に入射する光信号の波面の曲率半径Rは、下記式(7)で表される。
R=f−d2 (7)
【0046】
なお、式(7)において、d2はマイナスの値を示す。
【0047】
LCOSなどの空間位相変調器は、設定できる位相に上限値があり、一般に、光信号の位相は2π程度である。必要となる位相シフト量がこの上限値を超える場合には、位相シフト量は、
図3(b)に示すように上限値よりも小さい位相量となるように、例えば2πごとに折り返す。なお、
図3(b)では、2πで折り返す場合について説明しているが、必ずしも2πとする必要はなく、符号3001で示した位相の折り返しの段差(φ)が2πの整数倍であればよい。
【0048】
なお、
図3(b)に示すような位相の折り返しは、光の回折に起因する損失の増加の要因となる。
図3(b)の符号3001で示された位相2πの折り返しは、その折り返し付近では、離散的に2πで折り返しが行われるのではなく、位相が0と2πとにおける電界の干渉と液晶素子の追従との程度によって、アナログ的に位相が変化する有限幅の領域がある。この領域が損失を引き起こし得るので、このような折り返しは少なくするのが好ましい。
【0049】
位相が2πで折り返す数は、式(7)に示した曲率半径Rが小さいほど、多くなる。換言すると、ガウスビームの波面の曲率半径が最小となるのは好ましくない。このような条件としては、ガウスビームのレーリ長の位置に空間位相変調器2004がある場合である。このため、空間位相変調器2004としてのLCOSは、このレーリ長の位置に設置しないようにする必要がある。
【0050】
なお、この実施形態では、出力ポート数を1つの場合を例にとって説明したが、2つ以上(複数)設けるようにすることもできる。複数の出力ポートを設ける場合のポート選択は、式(2)のbを適宜変更することで実現される。
【0051】
さらに、入出力ポートを基板上に作製された光導波路を用いて実現することも可能である。
図4は光導波路基板3500上に形成された入出力ポートを利用する例を説明するための図である。光導波路基板3500には、光ファイバ3501a〜3501eが接続されており、各光ファイバ3501a〜3501eからの光信号は、光導波路基板3500上に形成された入出力ポート3502a〜3502eに結合する。入出力ポート3502a〜3502eに接続された曲げ導波路3503によって、入出力ポート3502a〜3502e間の間隔(ピッチ)は狭められ、入出力ポート3502a〜3502eの光出力が空間に出力される。
【0052】
一般に、光ファイバの外径は125μmであるため、入出力導波路の間隔がこの光ファイバの外径の大きさの影響を受けることになって、入出力導波路の間隔が制限される。一方、
図4に示した光導波路では、曲げ導波路3503によって出力ポート側のピッチを任意に設定することができるという利点がある。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の光スイッチによれば、空間光変調器2004の位相分布は、入射光の波面の曲率半径と同じ曲率半径の位相分布と、反射光の主光線の位相分布とが重畳するように設定される。したがって、入力ポート2001aからの光がレンズ2003を介して空間光変調器2004で反射し、この反射光が出力ポート2001bで集光されるため、光学系の全長が銃らの2fより短くなる。よって、光スイッチの小型化を実現することができる。
【0054】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態の光スイッチについて説明する。
【0055】
図2に示した光スイッチでは、レンズ2003を備える場合について説明した。このレンズ2003によって、次のような効果が得られる。すなわち、(1)レンズ2003と空間光変調器2004とを
図2に例示したfの距離に置くことによって、入出力ポート2001a,2001bの平行配置が可能になり、これによって光学系のレイアウトを簡易化すること、(2)ビームの広がりをある程度抑えることによって、空間光変調器2004に入射するビームの面積を制限することである。これとは別に、レンズ2003を備えずに構成するようにしてもよい。レンズ2003を備えずに構成した光スイッチを
図5に示す。
【0056】
図5は第2実施形態における光スイッチにおけるスイッチング方向の光路を説明するための図である。
【0057】
図5に示した光スイッチにおいて、入力ポート4001aおよび出力ポート4001b(以下、「入出力ポート4001a,4001b」という。)は、任意の位置に配置し、前述したレンズ2003を備えていない。この実施形態では、入出力ポート4001a,4001bと空間光変調器4004との間の距離は、sとなる。この場合、入出力ポート4001a,4001bを基板上に形成された光導波路とするのは、フォトリソグラフィによる精度で位置決めが行え、光の出力方向も任意に設定することができるので、本実施形態の光スイッチを実現するのに好適である。
【0058】
図5において入力ポート4001aから出力された光信号は、発散しつつ空間光変調器4004に伝搬する。この場合、その光信号の主光線は符号4002aに示すようになり、ビームは符号4002b,4002cに示すような広がりを有する。
【0059】
空間光変調器4004上には、第1実施形態1の場合と同様に、ポート選択に必要な偏向機能と、ビーム整形に必要な凹面ミラーの機能が重畳された位相とが設定される。この場合、空間光変調器4004で反射される光信号の主光線は符号4005aに示すようになり、かつ、ビームの形状は符号4005b,4005cに示すように収束しながら、出力ポート4001bに伝搬する。この場合、出力ポート4001bは、出力ポート4001bへの結合効率が最大となるよう導波路と主光線4005aとが同一直線状になるように配置される。
【0060】
ここで、入出力ポート4001a,4001bから空間光変調器4004までの距離をs、入出力ポート4001a,4001b間の距離をdとすると、空間光変調器4004で偏向すべき角度は、下記式(8)で表される。
θ≒d/s (8)
【0061】
なお、式(8)において、sは入出力ポート4001a,4001bから空間光変調器4004までの距離であると同時に、空間光変調器上での光信号の波面の曲率半径でもある。
【0062】
入力ポート4001aから出力される光信号の主光線が光軸と一致するように配置される場合、出力ポート4001bを構成する導波路は、空間光変調器4004と光軸との交点Pから、式(8)で表される角度θを差し引いた直線状に配置するのが好ましい。その様子を、
図5に示してある。
【0063】
次に、この実施形態における導波路の構成例について
図6を参照して説明する。
図6は入力導波路4001aおよび出力導波路4001a,4001b,4001cを含む光導波路5001の構成例を示す図である。
【0064】
この
図6に示すように、光導波路5001には、入力ポートとしての入力導波路4001aおよび出力ポートとしての出力導波路4001bに加え、3つの出力導波路(出力ポート)4001c,4001d,4001eが配置されている。
図6では、出力導波路は全部で例えば4つの例が示されているが、5つ以上配置するようにしてもよい。
【0065】
図6において、点Pは、
図5に示した点P、すなわち空間光変調器4004と光軸との交点Pと同じであり、入出力導波路4001a〜4001eは、それぞれ点Pを中心とした放射線上に配置される。また、入出力ファイバ5001a〜5001eは、それぞれ、入出力導波路4001a〜4001eに対応して設置される。
図6では、光導波路から空間への出射にともなうスネルの法則の効果は無視して示してあるが、本質は変わらない。
【0066】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態の光スイッチについて説明する。
【0067】
図5に示した光スイッチでは、レンズを備えない場合について説明した。しかしながら、レンズを備え、さらには、このレンズを任意の位置に配置するようにしてもよい。このような光スイッチの構成例を
図7に示す。
【0068】
図7は、第3実施形態における光スイッチにおけるスイッチング方向の光路を説明するための図である。
【0069】
図7に示した光スイッチでは、レンズ6003は、入力ポート6001aおよび出力ポート6001bからの距離s1、および、空間光変調器6004からの距離s2の位置に配置するようにすればよい。
【0070】
この場合、入力ポート6001aから出力された光信号は、その主光線が符号6002aで示されるようになり、ビームは符号6002b,6002cで示されるような広がりを有してレンズ6003に伝搬する。
【0071】
レンズ6003を通過した光信号は、その後、ビーム幅が狭められて、空間光変調部6004に伝搬する。このため、空間光変調部6004で補償する必要がある波面の曲率半径は第2実施形態の場合よりも小さくなる。すなわち、式(5)において、d1=s1としたときの空間光変調部6004に入射する光信号のビームの曲率半径は、下記式(9)で表される。
R=s2−d2 (9)
【0072】
なお、式(9)において、d2はマイナスの値を示す。
【0073】
例えば、レンズの焦点距離f=100mm、s=100mm、s1=50mm、s2=50mmが与えられる場合には、この実施形態の光学系全長はs1+s2=100mmとなり、第2実施形態の光学系の全長もs=100mmとなるので、全長がともに100mmで等しくなる。一方、空間光変調部により補償されるべき波面の曲率半径Rは、この実施形態ではR=s=100mmであるのに対し、第3実施形態では式(5)および式(9)からR=149.9mmとなる。したがって、この実施形態では、波面の曲率半径Rは第2実施形態のものよりも小さくなり、波面のカーブは緩やかとなる。
【0074】
<第4実施形態>
以上では、光スイッチについて説明したが、波長選択スイッチに適用するようにしてもよい。この実施形態の説明では、一例として、第1実施形態の光学系を波長選択スイッチに適用するが、第2実施形態および第3実施形態の光学系を適用しても、ほぼ同様の効果が得られる。
【0075】
図8は第4実施形態の波長選択スイッチの構成例を示す図であって、(a)はスイッチ軸方向の構成、(b)は波長軸方向の構成を示す。なお、
図8(a)においてxは
図3に示したx軸、
図8(b)においてyはx軸と直交する軸を表してある。
【0076】
図8に示す波長選択スイッチは、入力ポート7001aと、出力ポート7001bと、マイクロレンズ7001c,7001dと、レンズ7003と、コリメートレンズ7010と、分散素子7011と、集光レンズ7012と、空間光変調器7004とを備える。
【0077】
なお、入出力ポート7001a,7001bは第1実施形態の入出力ポート2001a,2001bに相当し、マイクロレンズ7001c,7001dは第1実施形態のマイクロレンズ2001c,2001dに相当する。
【0078】
一方、この実施形態のレンズ7003は、第1実施形態のレンズ2003と異なり、スイッチ軸方向にのみ光学パワーを有する円筒レンズである。
【0079】
コリメートレンズ7010は、例えば円筒状であり、
図8(b)に示すように、マイクロレンズ7001dのビームウェストからf1(WL)の位置に設置される。コリメートレンズ7010によって、
図8(b)に示す波長軸方向においては入射光が平行光に変換される。
【0080】
分散素子7011は、透過型の回折格子、反射型の回折格子またはグリズム等を用いることが可能であるが、この実施形態では、透過型の回折格子を例にとって説明する。
【0081】
集光レンズ7012は、
図8(b)に示すように、分散素子7011および空間光変調器7004との間の距離がf2(WL)の位置に配置される。この実施形態では、集光レンズ7012の焦点距離を例えばf2(WL)とする。なお、WLはwave lengthの略である。
【0082】
空間光変調部7004は、第1実施形態の空間光変調部2004と同様に、例えば、多数の微細ピクセルを有するLCOSであり、入射光の位相をLCOSへの入射位置ごとにシフトすることができるようになっている。後述するように、LCOS7004への光信号の入射位置は波長により異なるので、空間光変調部7004によって、波長ごとの位相シフトが可能となり、これにより波長ごとに異なる出力ポートに光結合させることができる。
【0083】
入力ポート7001aからの光信号は、マイクロレンズ7001dを通過して自由空間に出力される。この場合、
図8(a)に示したスイッチ軸方向においては、光信号は、第1実施形態の場合と同様に拡散しつつレンズ7003に伝搬する。一方、
図8(b)に示した波長軸方向においては、光信号は、コリメートレンズ7010によって平行光に変換されてレンズ7003に伝搬する。
【0084】
この実施形態では、レンズ7003はスイッチ軸方向にのみ光学パワーを有する円筒レンズであり、レンズ7003を通過した光信号は、分散素子7011に入射する。
【0085】
図8(b)において、分散素子7011から出力される光信号は、その波長に応じて異なる方向に回折される。このときの様子を、破線7013a、実線7013bおよび一点鎖線7013cで表してある。
【0086】
そして、分散素子7011を経由した光信号は、
図8(b)に示した波長軸方向の集光レンズ7012によって波長軸方向に集光されて、空間光変調部7004に入力する。この実施形態の集光レンズ7012は、波長軸方向にのみ光学パワーを有する円筒レンズである。
【0087】
その後、空間光変調部7004によって空間的に位相変調を受けた光信号は、空間光変調部7004で反射して、第1実施形態と同様に出力ポート7001bで結合する。この場合、
図8(a)(b)に示したように、空間光変調部7004に入射する光信号は、その波長に応じて異なる位置で反射する。これにより、波長ごとに異なる出力ポートでの結合が可能になる。
【0088】
なお、この実施形態では、分散素子7011は、レンズ7003と集光レンズ7012との間に設ける場合について例示している。これは、
図8(a)に示すスイッチ軸方向のビーム広がりが比較的緩やかで、分散素子7011の性能を活用しやすいためである。しかしながら、分散素子7011は、例えば、レンズ7003とコリメートレンズ7010との間に設けるようにしてもよい。
【0089】
<第5実施形態>
図4および
図6では、光導波路を入出力ポートとして利用し、入出力ポートの間隔を狭めるようにして、有利な効果が得られる場合について説明した。これとは別に、光導波路に各種回路を集積して光導波路を利用するようにしてもよい。
【0090】
図9は第5実施形態の光スイッチの構成例を示す図である。この光スイッチは、第1実施形態の入力光学系に機能が付加される場合について示してある。
【0091】
図9において、入出力導波路3502a〜3502eの各々には、可変光減衰器8001a〜8001eが設置される。
【0092】
可変光減衰器8001a〜8001eは、熱光学効果により可変性が与えられたマッハツェンダ干渉計を用いたものが適用される。
【0093】
可変光減衰器8001a〜8001eは、無給電の状態で光が通らない状態、すなわち、ノーマリオフの状態に設定する場合に光スイッチ自体に障害が発生したとき、光信号の伝搬をオフすることができる。このため、光サージ等の問題を解決することができる。
【0094】
図9において、入出力導波路3502a〜3502eに接続される各光タップ8002a〜8002eは、入出力導波路3502a〜3502eからの各光信号の一部を分岐し、結果として、各受光素子8003a〜8003eに出力させる。この実施形態では、光ファイバ3502cに入力信号が与えられ、光ファイバ3502a,3502b,3502d,3502eに出力信号が与えられるので、受光素子8003cでは入力信号のパワーをモニタすることができ、受光素子8003a,8003b,8003e,8003dでは出力光の強度をモニタすることができるようになっている。
【0095】
なお、光タップ8002a〜8002eとしては、方向性結合器、マルチモード干渉計またはマッハツェンダ干渉計による波長無依存カプラなどの各種光導波路を適用することができる。
【0096】
光タップ8002a〜8002eおよび受光素子8003a〜8003eによって、光スイッチを可変光減衰器として適用する場合に、減衰量をモニタすることができるようになる。
【0097】
さらに、この実施形態の光スイッチと第4実施形態の波長選択スイッチとを組み合わせて構成する場合、このような構成では、波長ごとに選択的に強度をモニタすることで、光チャネルモニタ(OCM)または光パフォーマンスモニタ(OPM)の機能も実現できる。さらには、上述した減衰量モニタやOCM、OPMの機能の他にも、モニタ回路の向きを適宜変更することで各種機能を有するように構成することができる。
【0098】
上記各実施形態の入力ポートおよび出力ポートにおいて、マッハツェンダ干渉計や方向性結合器を配置することで、光スイッチ、光タップ、光VOA、光モニタまたはそれらの複合部品が集積され得る。
【0099】
<第6実施形態>
図10は従来の光スイッチの光学系および第6実施形態の光スイッチの光学系の一例を示す図であって、(a)は従来の光スイッチの光学系の概略構成、(b)は第6実施形態の光スイッチの光学系の概略構成を示す。なお、
図10(a)は
図1、
図10(b)は
図2と同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0100】
図10(a)および(b)それぞれの光学系には、
図11(a)および(b)に示す位相分布が、LCOS素子に設定される。この実施形態では、LCOS素子に入射する波面が有限の曲率を有する。つまり、平面波ではない。
【0101】
図11は従来の光スイッチの光学系における位相設定および第6実施形態の光スイッチの光学系における位相設定の一例を説明するための図であって、(a)は従来の光スイッチの光学系における位相設定、(b)は第6実施形態の光スイッチの光学系における位相設定を示す。
【0102】
一般に、LCOS等の空間位相変調素子は、その位相変調指数が2π程度に制限されている。この場合、光スイッチングを実現するために線形な位相分布を付与するために、
図11(a)に示されるように、その位相を周期的に2πで折り返すことにより等価的に線形の位相分布を有する手法が一般に用いられる。例えば
図11(a)の例では、点Pに示される2πから0へと位相が変化する領域において、不連続な位相変化が要求されることになる。しかしながら、LCOS素子等の空間位相変調素子では、点Pにおける不連続な位相変化を実現することは不可能である。これは、LCOS素子の隣接するピクセル間の電界の干渉および液晶素子の連続性に起因する。すなわち、点Pの近傍では、位相設定が2πから0へ急峻に連続的に変化する領域が発生する。この領域における光信号は、2πから0へ変化するスロープの位相変化を生じる。したがって、
図11(a)に示される通り、この領域もスイッチング動作を実現する線形なスロープと同じ周期性を持って現れる。したがって、この領域に起因する光信号は高次回折光を生成し、クロストークを発生する。
【0103】
図12は従来の光スイッチの光学系において位相分布が設定される場合の各出力ポートに結合する光信号の強度を示すプロット図、および、第6実施形態の光スイッチの光学系において位相分布が設定される場合の各出力ポートに結合する光信号の強度を示すプロット図であって、(a)は従来の光スイッチの光学系において位相分布が設定される場合の各出力ポートに結合する光信号の強度を示すプロット、(b)は第6実施形態の光スイッチの光学系において位相分布が設定される場合の各出力ポートに結合する光信号の強度を示すプロットを示す。
【0104】
図12(a)において、横軸はLCOS素子でビームを偏向した際の偏向角、縦軸は光強度を表してある。また、
図12(a)では出力ポート数は23ポートであり、それぞれの光強度を異なる線でプロットしてある。
図13(a)の太線は第22ポート(最外角から2番目)の光信号の偏向角依存性を示してある。
【0105】
図12(a)では、第11ポート(偏向角―0.4°)に出力を設定した場合に、第22ポート(偏向角―0.8°)に発生するクロストークが示されている(太線)。LCOSによる偏向角を大きくしていくと、偏向角が0.8°程度で第22ポートに光信号の大部分が結合することになる。しかし、偏向角を0.4°程度に設定して第11ポートに光信号をルーティングした場合でも、−15dB程度の光が第22ポートに結合することがわかる。これは、第11ポートに光を結合した際にその2次回折光が第22ポートに結合するためである。
【0106】
さらに、第7ポートに光をルーティングする場合(偏向角0.26°)には、その3次回折光が−30dB程度の強度で第22ポートに結合する様子がわかる。このような高次回折光が結合しない領域は、
図12(a)に示すように、第12ポートから第23ポートまでである。すなわち、高次回折光に起因するクロストークの劣化を避けるためには、偏向角が0から0.4°程度の内角の領域には出力ポートを配置することができないことがわかる。
【0107】
一方、
図11(b)は、本実施形態の光学系において設定される位相分布の一例が示してある。
図10(b)の本実施形態の光学系では、光偏向素子であるLCOSに入射する光信号は、スイッチ軸方向に湾曲した位相分布を持った球面波(スイッチ軸のみに曲率をもつシリンダ面)として入射する。LCOS素子では、この球面を補正する位相分布と、偏向に寄与する線形な位相分布を重畳して与えることでスイッチングを実現する。
【0108】
ここで、本実施形態の光学系においても、従来の光学系と同様に、LCOS素子に与えられる位相分布は2πで折り返す必要がある。しかしながら、
図11(b)で明らかなように、2πから0への折り返しが発生する位置には周期性がない。したがって、折り返しの不完全性(連続性)に起因する反射光は、各々異なる領域へ拡散されることになる。
【0109】
図12(b)は、本実施形態の光学系において光スイッチの各出力ポートに結合する光信号の強度をプロットしたものである。
図12(a)と同様に、
図12(b)の横軸はLCOS素子でビームを偏向した際の偏向角、縦軸は各出力の光強度を表してある。
図12(b)では、2π折り返しが非周期的であるので、高次の回折光は散逸して上述のクロストークは生じない。例えば従来の光学系においては第1ポートから第11ポートに出力を設定した際に、その倍角、3倍角の位置に存在する出力ポートに発生していた高次回折光が発生していないことがわかる。これは、
図11(b)の位相設定において2πから0への折り返しが周期性を持たず、特定の位置に高次光が発生しないからである。高次光に寄与していた光エネルギーは拡散され、光エネルギーは様々な偏向角方向に一様に分布する。したがって、クロストークは−35dBで一様に上がっている様子がわかる。
【0110】
従来の光学系では高次光を避けるため偏向角が0°から0.4°程度の内角の領域にはポートを配置することができなかった。しかし、本実施形態の光学系では、内角にポートを配置することが可能になる。換言すれば、本実施形態の光学系では、従来の光スイッチに比べて2倍の出力ポート数を確保することができ、大規模スイッチの実現が可能になる。この実施形態によれば、クロストークにより使用されないポートが減少するので、同じ数のポートを確保するために必要なLCOSのビーム偏向角を半分にすることができるという効果を得ることができる。
【0111】
本実施形態の光学系ではさらに、同じ数のポート数を確保する際には、LCOSによるビームの偏向角を半分にすることができる。すなわち、光学系の高さを半分にすることが可能になるため、光学系の低背化に寄与し、光スイッチモジュールの小型化が可能になる。
【0112】
<第7実施形態>
第1実施形態では、説明の容易のため、空間位相変調素子であるLCOSには2次の位相設定をする場合を説明したが(第1実施形態の式(2))、厳密には球面(スイッチ軸のみに曲率をもつシリンダ面)とするのが好ましい。すなわち、LCOSに入射する光信号の波面は、正確には球面であり、式(10)で表すのが好ましい。LCOSに入射する際の波面の曲率は有限の値を有する。つまり、平面波ではない。
【0114】
ここで、Rは波面の曲率半径である。この場合、スイッチング時のビーム偏向に起因する線形な位相分布は、式(11)で表される。
【0116】
<第8実施形態>
図13は第7実施形態の空間位相変調素子上での位相設定を説明するための図であって、(a)は1次の位相分布と2次の位相分布とが重畳する場合の光強度分布、(b)は(a)の光強度分布において位相オフセットが設定されている場合の光強度分布を示す。以下では、説明の容易のため、第7実施形態における完全な球面波の位相ではなく、第1実施形態における2次曲線の位相分布として説明するが、完全な球面波の場合でも同様である。
【0117】
第1実施形態ですでに説明したとおり、本実施形態の光学系においては、LCOSに設定する位相分布は、波面補償のための2次の位相分布と、偏向のための1次の位相分布とを重畳した位相分布が設定される。2次および1次の曲線が重畳された曲線は2次曲線である。ここで、2次の曲線成分の傾きをa、1次の曲線成分の傾きbとすると、その軸が−b/2aだけシフトした2次曲線となる。この重畳された位相分布は、LCOSで設定可能な位相の上限値(たとえば2π)で折り返す分布構造をとる。この場合、スイッチングされる出力によっては、LCOS上の光強度分布Y3003が最大となる位置に折り返し構造が発生する場合があり得る。LCOSに入射するビームの強度分布の中心は、LCOSの位相設定によらず、光学系で決まり一定であるからである。
図13(a)は上述のケースを示したものである。LCOSの座標中心Qに最大強度をもつ分布の光信号が入射したときに、上記の重畳された位相分布の2π折り返しの位置が座標中心Qと一致する場合を示している。この場合では、2π折り返しに起因する位相折り返しの不完全性が大きく影響する。
【0118】
これに対して、
図13(b)に示すように、重畳された位相分布に適当な位相オフセットを足すことで、折り返し位置をシフトすることができる。すなわち、下記式(12)に示すように、傾きaの2次分布、傾きbの一次分布に加えて、定数cを付加した分布を想定し、それを2πごとに折り返す位相設定である。
【0120】
図13(b)では、定数cを任意の値に設定し、2π折り返しを、光強度が最大となる点からずらした例を示してある。
【0121】
定数cの設定方法としては、以下のようにするのが好ましい。すなわち、2π折り返しが発生する領域の幅dtは、LCOS上の全領域にわたって同じ幅であると考えられるので、その領域における入射光信号の積分値の和が最小となるように定数cを決定すればよい。
【0122】
上述の位相設定を施すことで、2π折り返しに起因する迷光を低減することが可能になり、クロストークの劣化を低減することが可能になる。
【0123】
<第9実施形態>
図14は第9実施形態の光学系の構成例を説明するための図であって、(a)はLCOS4001とシリンダレンズ4002との配置例、(b)は(a)の光学系において光信号がLCOS4001に入射する様子を示す。
【0124】
図14(a)において、光偏向素子としてのLCOS4001の前面には、シリンダレンズ4002が設置される。この実施形態では、シリンダレンズ4002として、例えば凹面状のシリンダレンズを用いるが、例えば凸面状のシリンダレンズを適用することができる。このようにしても、凹面状のシリンダレンズの場合と同様の効果を得ることができる。
【0125】
図14(a)において、入出力ポート4008は、X軸方向に沿って平行に設置される。この場合、シリンダレンズ4002を介して入射した光信号の波面は、曲面となり、これにより、第6実施形態と同様の効果を得る。すなわち、
図14(b)に示す平面波が入射した場合でも、シリンダレンズ4002を介してLCOS4001に入射する光信号の波面は、球面(スイッチ軸のみに曲率をもつシリンダ面)となる。この波面によって、LCOS4001に設定すべき位相分布が、この波面が表す球面を補償する位相分布と、スイッチングに寄与する1次の位相分布とを重畳したものとなる(第6実施形態のものと同様の効果)。したがって、高次光に起因するクロストークが低減する。換言すれば、ポート数を倍増させることができる。
【0126】
<第10実施形態>
以下、光スイッチの第10実施形態について説明する。
【0127】
図15に示した波長選択スイッチにおいて、分散素子7011は、レンズ7003の入力側に配置しているが、分散素子としての回折格子(波長分波手段)7011とレンズ7003との配置を逆にしてもよい。この場合の波長選択スイッチは、LCOS7004上の光強度分布を分散させるようにすることで、リプルのない良好な波長特性を有する透過スペクトルを得る点に特徴がある。なお、この実施形態では、分散素子として、例えば回折格子を用いる場合について説明するが、プリズムなどを適用することもできる。
【0128】
図15は本実施形態の波長選択スイッチの構成例を示す図であって、(a)はスイッチ軸方向の構成、(b)は波長軸方向の構成を示す。なお、
図15(a)においてxは
図3に示したx軸、
図15(b)においてyはx軸と直交する軸を表してある。
【0129】
本実施形態の波長選択スイッチでは、第4実施形態(
図8)と類似であり、分散素子7011とレンズ7003との配置を逆にした点で異なる。この点以外の構成は、第4実施形態と同様である。すなわち、本実施形態の波長選択スイッチは、第4実施形態と同様に、入力ポート7001aと、出力ポート7001bと、マイクロレンズ7001c,7001dと、レンズ7003と、コリメートレンズ7010と、分散素子としての回折格子7011と、集光レンズ7012と、空間光変調器7004とを備える。この実施形態では、空間光変調器7004は、例えばLCOSとして説明するが、例えばGrating Light Valve型のMEMSなどを適用することもできる。また、この実施形態では、反射型のLCOSを例にとって説明するが、透過型LCOSなどの透過タイプの空間光変調素子を使ってもよい。
【0130】
入力ポート7001aからの光信号は、マイクロレンズ7001dを通過して自由空間に出力される。この場合、
図15(a)に示したスイッチ軸方向においては、光信号は、回折格子7011を介してレンズ7003に伝搬する。一方、
図15(b)に示した波長軸方向においては、光信号は、コリメートレンズ7010によって平行光に変換された後、回折格子7011を介してレンズ7003に伝搬する。
【0131】
図15において、入力ポート7001から出力した光信号は、発散光として、分散素子7011に入力される。この様子を
図16に示す。
【0132】
図16は回折格子7011に入射する光線の様子を説明するための図である。
図16において、回折格子7011に入力する光信号は、その中心光線(主光線)d161と外郭光線(マージナル光線)d162,d163とが異なる角度で入射する。中心光線d161と各外郭光線d162,d163との間の光線は、それぞれの入射角度の中間となる角度で入射する。
【0133】
この場合、主光線d161に対する回折格子ピッチ(格子周期)および格子深さは、マージナル光線d162,d163に対する回折格子ピッチおよび格子深さとは異なる。さらには、主光線d161とマージナル光線d162,d163とは、回折(分散)角度が異なる。その結果、この実施形態のLCOS7004では、回折格子7011を介して到達するビームパターンが異なる。
【0134】
図15(b)において、回折格子7011に入射した発散光のうち中心光線は、破線で示される経路Y2−1を伝搬してLCOS7004に入射する。一方、外郭光線の場合は、回折格子7011によって異なる分散となるので、中心光線とは異なる方向に回折される。
図15(b)の例では、外郭光線は、実線で示される経路Y2−2を伝搬してLCOS7004に入射する。
【0135】
このような中心光線および外郭光線の伝搬経路により、LCOS7004上には、後述する三日月状の強度プロファイル(強度分布)が形成される。
【0136】
次に、異なる形状のビームがLCOS7004に入射される場合に得られる選択波長の透過特性について、
図17および
図18を参照して説明する。
【0137】
図17は、LCOS7004上に入射される単色光による光強度分布であって、(a)は単色光が円形ビームの場合、(b)は波長の異なる2つの単色光が楕円ビームの場合、(c)は単色光が三日月状ビームの場合を示している。
図18は、
図17(a)〜(c)の入射光の場合にそれぞれ得られる選択波長の各透過特性を示す図である。
【0138】
図17(a)の場合、波長の分解能が悪くなるため、LCOS7004によってポートスイッチパターンまたは減衰パターンが与えられたとき、その悪い波長分解能に対応して透過スペクトルの分解能が劣化する。この場合の選択波長の透過特性は、
図18(a)に示すように、鈍った特性となり、理想的な透過スペクトルとならない。
【0139】
図17(b)の場合、波長軸方向に楕円ビームが入射するため、
図18(b)に示すように、波長分解能が優れた透過スペクトルを得る。この場合には、同じ波長をもつ光が入射するピクセルの数が少なくなるので、同一のピクセルでは、異なる波長をもつ光が重なりにくくなり、これにより、波長分解能が大きくなり、
図18(b)に示すような透過スペクトルを有するように光信号が操作できるようになるからである。
【0140】
ところが、
図17(b)の場合、LCOS7004の周期構造に起因する透過特性のリプルが生じる。リプルが生じるのは、LCOS7004のピクセル間の間隙が有限の幅を有することが原因である。
【0141】
ここで、
図17(b)の場合のLCOS7004のピクセル構造と入力ビームとの位置関係について
図19を参照して説明する。
図19はLCOS7004のピクセル構造と入力ビームとの位置関係を説明するための図である。
【0142】
図19において、透明電極1912は、ガラス基板1911の下に構成されており、透明電極1912と反射電極1914との間には、液晶層1913が形成される。この液晶層1913は、透明電極1912と反射電極1914とによって、電圧が印加される。この電圧の印加により、LCOS7004では、入射光に対して所定の位相を与えるようになっている。
【0143】
一般に、隣接する反射電極1914間の隙間(ギャップ)部分は、反射電極1914部分に比べて反射光の量が少なくなる。
【0144】
ここで、回折格子7011を透過した光信号は、異なる波長を有する光信号が異なる方向に回折されるので、異なる波長成分は、LCOS7004上の異なる部分に入射される。
【0145】
図19において、d191はLCOSに入射する光の強度分布を示しており、稜線d192および193は、それぞれ波長の異なる単色光の強度分布の稜線を示すものである。
【0146】
たとえば、光信号が位置Aに入射する場合には、LCOS7004のピクセル境界とビームの最大強度となる位置が一致する。この場合、入射光の大部分は、LCOS7004による位相変調を効果的に受けない。さらにこの場合は、反射電極から戻る光は減少する。
【0147】
一方、位置Aに入射する光信号とは異なる波長の光信号がLCOS7004に入射し、たとえば位置Bに入射する場合には、光強度がLCOSピクセルの反射電極の中心位置で最大となるので、反射光の強度が最大となる。さらに、反射電極2014上に着弾するため、位相変調の作用を効果的に受けることになる。
【0148】
位相変調の作用によって、透過スペクトルは、
図18(b)に示すように、波長依存性のリプルを生じる。それに加えて、クラマス・クロニッヒの関係から、透過特性のリプルは、光信号の強度特性とともに位相特性にも影響を与えることになる。ここで、透過スペクトル特性の伝達関数をH(ω)=H
R(ω)+i H
I(ω)とすると、下記式(13)のような関係がある。
【0150】
なお、上記式(13)において、ω:光信号の角周波数、H
R(ω):出力電界の振幅特性、H
I(ω):位相特性、を示す。
【0151】
上記式(13)から、振幅特性が波長によって変化する場合は、位相特性も変化することがわかる。したがって、光信号の位相特性すなわち分散特性にも影響が出る。
【0152】
図17(c)の場合、三日月状の形状のビームがLCOS7004に入射するため、スイッチ軸方向のビーム端が波長軸方向にシフトする。この場合の透過特性は、
図18(c)に示すような値を得る。この場合のLCOS7004上の入力ビームとLCOS7004のピクセル構造の位置関係を
図20に示す。
【0153】
図20は、LCOS7004のピクセル構造と入力ビームとの位置関係を説明するための図である。なお、
図20において、ガラス基板2011、透明電極2012、液晶層2013および反射電極2014が表してある。
【0154】
図20に示す稜線d202,d203は、スイッチ軸方向の位置に対応するビームの最大強度を結んで形成してある。
【0155】
図20に示すように、ある単色光としての入力ビームd201aが与えられる場合でも、光信号は、波長軸方向にわたって複数のピクセルに与えられるように配置される。稜線d202は波長方向に連続的に変化するため、光ビームに対して与えられるピクセル境界も連続的に変化する。これにより、ピクセル境界での光強度のばらつきが与える影響が平均化される。つまり、
図20に示すように、稜線d202は、波長軸(分波軸)の方向(すなわちLCOS7004の面と分波面がLCOS7004上に形成される直線方向)に対して、分布するように設定される。これにより、ピクセル境界において光強度が与える影響が平均化されることがわかる。
【0156】
また、
図20において、光信号の波長が変化し、LCOS7004の入射位置が位置Bに変わったとしても、上述の平均化効果は低下することになるものの消滅することはない。
【0157】
さらに、透過スペクトルの急峻性を実現するために、LCOS7004の制御パターンを、
図21に示す三日月の形状に従って設定するのが好ましい。
【0158】
図21において、WDMチャネルの境界の波長における単色光を形成する三日月ビームd211が与えられるLCOS7004のピクセル領域d212が、三日月形状となるように設定すればよい(
図21の斜線部分で表す)。このように制御することによって、チャネル境界で急峻なロールオフ特性を実現することが可能になる。
【0159】
以上説明したように、本実施形態の光学系では、回折格子7011を介してLCOS7004に光信号が入射するときに、その光信号の形状が、回折格子7011の波長軸と直交するLCOS7004面内の軸に対して非対称となるように、回折格子7011が予め配置される。これにより、リプルのない優れた波長特性を得ることとなり、帯域が狭窄化することがなく、透過スペクトルの平坦性の高い波長選択スイッチを実現することが可能になる。例えば、本実施形態の光スイッチを例えば光伝送システムに導入したとしても、伝送特性が劣化しない。
【0160】
この場合、複数のピクセルからなるLCOS(空間位相変調素子)7004のピクセル境界(反射電極のギャップ間)が大きい場合においても、ピクセル境界が光信号に与える影響を小さくすることができる。
【0161】
回折格子7011は、光信号に含まれる主光線d161とマージナル光線d162,d163とを、それぞれ異なる角度で入射するように配置される(
図16)。これにより、LCOS7004に与えるビームパターンを、例えば
図21のように設定することができる。
【0162】
<変形例>
上記各実施形態では、入力ポートから出力される光信号の主光線は、光学系の光軸上に現れる場合について示しているが、入出力ポートの配置を入れ替えても光スイッチが動作することから、光学系の光軸上に現れない場合も同様の構成をとることが可能である。
【0163】
上記各実施形態において、入力ポートまたは/および出力ポートは、2つ以上設けるようにしてもよい。