(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の可塑性油脂組成物について詳細に説明する。
本発明の可塑性油脂組成物は、全油脂中のトリグリセリド組成が上記の1)〜8)の条件を全て満たすことが必要である。
【0010】
本発明における条件1)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、S3の含有量が15質量%以上、好ましくは17〜27質量%、より好ましくは19〜25質量%、最も好ましくは21〜23質量%である。上記のSは飽和脂肪酸残基を示し、具体的には炭素数が8〜22の飽和脂肪酸残基であり、詳しくはカプリル酸残基、カプリン酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、アラキジン酸残基、ベヘン酸残基の中から選ばれた1種又は2種以上である。
上記のS3の含有量が15質量%よりも少ないと、歯切れの良い食感を維持できるベーカリー食品が得られないので好ましくない。
【0011】
本発明における条件2)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、S3を構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がLであるS3の含有量がS3基準で55質量%以上、好ましくは59〜71質量%、より好ましくは61〜69質量%、最も好ましくは63〜67質量%である。
上記のS3を構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がLであるS3の含有量がS3基準で55質量%未満であると、ベーカリー食品の口溶けが悪くなるので好ましくない。
上記Lはラウリン酸残基及び/又はミリスチン酸残基を示す。
【0012】
本発明における条件3)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、S3を構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がPであるS3の含有量がS3基準で80質量%以上、好ましくは85〜97質量%、より好ましくは87〜95質量%、最も好ましくは89〜93質量%である。
上記のS3を構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がPであるS3の含有量がS3基準で80質量%未満であると、広い温度範囲で可塑性を有する可塑性油脂組成物が得られず、また口溶けの良いベーカリー食品が得られないので好ましくない。
上記Pはパルミチン酸残基を示す。
【0013】
本発明における条件4)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、S3を構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がBであるS3の含有量がS3基準で10質量%以上、好ましくは13〜19質量%、より好ましくは14〜18質量%、最も好ましくは15〜17質量%である。
上記のS3を構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がBであるS3の含有量がS3基準で10質量%未満であると、可塑性油脂組成物のコシが弱いため、可塑性油脂組成物を練り込み用として用いた場合には、生地ダレやべたつきのあるベーカリー食品となり、ロールイン用として使用した場合には、内層不良のベーカリー食品となってしまうので好ましくない。
上記Bはアラキジン酸残基及び/又はベヘン酸残基を示す。
【0014】
本発明における条件5)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、S2Mの含有量が25質量%以上、好ましくは28〜38質量%、より好ましくは30〜38質量%、最も好ましくは32〜36質量%である。
上記のS2Mの含有量が25質量%未満であると、広い温度範囲で可塑性が得られず、またコシが弱いため、可塑性油脂組成物を練り込み用として用いた場合には生地ダレやべたつきのあるベーカリー食品となり、ロールイン用として使用した場合には、内層不良のベーカリー食品となってしまうので好ましくない。
上記Mはモノ不飽和脂肪酸残基を示し、具体的にはオレイン酸残基を示す。
【0015】
本発明における条件6)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、S2Mを構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がLであるS2Mの含有量がS2M基準で42質量%以上、好ましくは45〜57質量%、より好ましくは47〜55質量%、最も好ましくは49〜53質量%である。
上記のS2Mを構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がLであるS2Mの含有量がS2M基準で42質量%未満であると、可塑性油脂組成物が硬くなり、作業性が悪化するため好ましくない。
【0016】
本発明における条件7)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、S2Mを構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がPであるS2Mの含有量がS2M基準で70質量%以上、好ましくは74〜86質量%、より好ましくは76〜84質量%、最も好ましくは78〜82質量%である。
上記のS2Mを構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がPであるS2Mの含有量がS2M基準で70質量未満であると、広い温度範囲で可塑性を有する可塑性油脂組成物が得られず、また口溶けの良いベーカリー食品が得られないので好ましくない。
【0017】
本発明における条件8)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、S2Mを構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がBであるS2Mの含有量がS2M基準で7質量%以上、好ましくは8〜14質量%、より好ましくは9〜13質量%、最も好ましくは10〜12質量%である。
上記のS3を構成する脂肪酸残基のうち1つ以上がBであるS2Mの含有量がS2M基準で7質量%未満であると、可塑性油脂組成物のコシが弱いため、可塑性油脂組成物を練り込み用として用いた場合には生地ダレやべたつきのあるベーカリー食品となり、ロールイン用として使用した場合には、内層不良のベーカリー食品となってしまうので好ましくない。
【0018】
本発明の可塑性油脂組成物の全油脂中のトリグリセリド組成が上記の1)〜8)の条件の全てを満たす具体的な配合油脂としては、以下の油脂Aと油脂Bを用いて、上記1)〜8)の条件を全て満たすように配合することにより得られる。
上記の油脂Aは、油脂配合物中の全トリグリセリドを構成する全脂肪酸残基のうちLの占める割合が好ましくは14〜20質量%、Pの占める割合が好ましくは31〜37質量%、Bの占める割合が好ましくは2〜5質量%、Sの占める割合が好ましくは53〜69質量%である油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂である。
上記の脂肪酸残基のLとPとBの割合が、Lが14〜20質量%、Pが31〜37質量%、Bが2〜5質量%のいずれか1つでも範囲外であると、口溶けが良く、歯切れの良い食感を維持できるベーカリー食品が得られにくい。
【0019】
上記の油脂Aは、油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂であるが、上記の油脂配合物は具体的には以下の油脂1と油脂2及び油脂3を配合することにより得ることができる。
上記の油脂1はパーム系油脂であり、パーム油及びこれらの分別油或いはエステル交換油脂を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では特にパーム油を用いることが好ましい。
上記の油脂2はラウリン系油脂であり、パーム核油、ヤシ油、ババス油及びこれらの分別油或いはエステル交換油脂を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では特にパーム核油、ヤシ油、ババス油を用いることが好ましい。
上記の油脂3としては長鎖飽和脂肪酸残基を高含量含有する油脂であり、ハイエルシンナタネ極度硬化油及び魚極度硬化油を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では特にハイエルシンナタネ極度硬化油を用いることが好ましい。
【0020】
上記の油脂1と油脂2と油脂3の配合割合は、好ましくは油脂1が65〜75質量%、油脂2が19〜29質量%、油脂3が1〜11質量%、より好ましくは油脂1が68〜73質量%、油脂2が22〜27質量%、油脂3が4〜9質量%、最も好ましくは油脂1が69〜71質量%、油脂2が23〜25質量%、油脂3が5〜7質量%である。
上記の油脂1と油脂2と油脂3の配合割合が、油脂1が65〜75質量%、油脂2が19〜29質量%、油脂3が1〜11質量%の範囲外であると、口溶けが良く、サクサクとした歯切れの良い食感を維持できるベーカリー食品を得ることができにくい。
【0021】
次に、上記油脂配合物に対しランダムエステル交換を行ない、エステル交換油脂を得る。このエステル交換反応は、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよく、常法に従って行うことができる。上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が用いられる。
また、上記酵素としては、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。尚、該リパーゼは、イオン交換樹脂或いはケイ藻土やセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
なお、本発明において、ランダムエステル交換ではない位置選択性のエステル交換をしたエステル交換油脂では、口溶けが良く、歯切れの良い食感を維持できるベーカリー食品を得ることができにくい。
【0022】
上記油脂Bは、液状油脂である。液状油脂とは、常温(30℃)で液状の油脂を指し、好ましくは融点20℃未満である油脂、最も好ましくは融点10℃未満である油脂である。
上記油脂Bとして、例えば大豆油、菜種油、米油、綿実油、とうもろこし油、サフラワー油、ひまわり油、落花生油、ゴマ油、キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油、オリーブ油等の常温で液状の油脂や、常温で固形である油脂、例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、サル脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油の分別軟部油であってもよく、本発明ではこれらの液状油脂の中から選ばれた1種又は2種以上の油脂を用いることができる。本発明では、菜種油、米油、ゴマ油、キャノーラ油、ハイオレイックキャノーラ油、ハイオレイックサフラワー油及びハイオレイックひまわり油の中から選ばれた1種又は2種以上の油脂を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の可塑性油脂組成物の油相において、油脂Aの含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、一層好ましくは90質量%以上、最も好ましくは90〜98質量%である。
本発明の可塑性油脂組成物の油相において、油脂Bの含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、一層好ましくは10質量%以下、最も好ましくは2〜10質量%である。
【0024】
また本発明の可塑性油脂組成物において、油脂Aと油脂B以外のその他の油脂を用いることが可能である。
上記のその他の油脂としては、例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、サル脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂及び上記液状油脂の極度硬化油が挙げられる。本発明はこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
本発明の可塑性油脂組成物の油相において、上記のその他の油脂の含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、最も好ましくは5質量%以下である。
【0025】
本発明の可塑性油脂組成物は、硬化油を含有しないことが好ましい。
上記の硬化油を含有しないとは、硬化油には通常、構成脂肪酸中にトランス酸が10〜50質量%程度含まれているためであり、トランス酸に起因する健康阻害回避のため本発明では含有しないことが好ましい。
ただし、極度硬化油脂は完全に水素添加されており、トランス酸を含まないため、本発明では極度硬化油を含有することは構わない。
本発明の可塑性油脂組成物は、油相の構成脂肪酸組成においてトランス酸を実質的に含有しないことが好ましい。
尚、ここでいう「トランス酸を実質的に含有しない」とは、トランス酸の含有量が、上記の可塑性油脂組成物に含まれる油相の構成脂肪酸組成において、好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは2質量%以下であることを意味する。
【0026】
本発明の可塑性油脂組成物中の全油脂の含有量は、好ましくは60〜95質量%、より好ましくは75〜95質量%、最も好ましくは80〜95質量%である。本発明の可塑性油脂組成物において、全油脂の含有量が、60質量%よりも少ないと可塑性油脂組成物の乳化が不安定となりやすく、95質量%よりも多いと可塑性が不足しやすい。なお、上記の全油脂として、本発明の可塑性油脂組成物で含有させる以下のその他の成分に由来する油分も含めるものとする。
【0027】
本発明の可塑性油脂組成物は、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲において、その他の成分を含有することができる。その他の成分としては、水、乳化剤、乳製品、糖類、甘味料、グアーガム・ローカストビーンガム・カラギーナン・アラビアガム・アルギン酸類・ペクチン・キサンタンガム・プルラン・タマリンドシードガム・サイリウムシードガム・結晶セルロース・CMC・メチルセルロース・寒天・グルコマンナン・ゼラチン・ファーセルラン・タラガム・カラヤガム・トラガントガム・ジェランガム・澱粉・化工澱粉等の増粘安定剤、食塩・塩化カリウム等の塩味剤、アミラーゼ・プロテアーゼ・アミログルコシダーゼ・プルラナーゼ・ペントサナーゼ・セルラーゼ・リパーゼ・ホスフォリパーゼ・カタラーゼ・リポキシゲナーゼ・アスコルビン酸オキシダーゼ・スルフィドリルオキシダーゼ・ヘキソースオキシダーゼ・グルコースオキシダーゼ等の酵素、デキストリン、無機塩類、食塩・塩化カリウム等の塩味剤、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料類、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、卵類、調味料、アミノ酸、pH調整剤、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウォッカ・ブランデー等の蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、小麦蛋白・大豆蛋白等の植物蛋白、食品保存料、苦味量、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、ナッツペースト、香辛料、カカオ及びカカオ製品、ココアパウダー、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、紅茶、緑茶、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、食品添加物等を含有させてもよい。
【0028】
上記の水としては、水道水や天然水等の水や、本発明の可塑性油脂組成物で含有させるその他の成分に由来する水分も含めたものとする。本発明の可塑性油脂組成物において、上記の水の含有量は好ましくは5〜40質量%、より好ましくは5〜25質量%、最も好ましくは5〜20質量%である。
【0029】
上記の乳化剤として、例えばグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
本発明の可塑性油脂組成物において、上記の乳化剤の含有量は好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
【0030】
上記の乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、バター、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、クリームパウダー、サワークリーム、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、バターミルク、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、トータルミルクプロテイン、乳清ミネラル等が挙げられる。本発明ではこれらの乳製品の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
本発明の可塑性油脂組成物において、上記の乳製品の含有量は固形物換算で好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
【0031】
上記の糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、はちみつ、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、還元乳糖、ソルビトール、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、トレハロース等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記の甘味料としては、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン、ネオテーム、アセスルファムカリウム、甘草、羅漢果等が挙げられる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
本発明の可塑性油脂組成物において、上記の糖類や甘味料の含有量は、固形物換算で好ましくは25質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0032】
次に本発明の可塑性油脂組成物の好ましい製造方法について以下に説明する。
本発明の可塑性油脂組成物は、その製造方法が特に制限されるものではなく、上記1)〜8)の条件を満たす油脂を溶解し、冷却し、可塑化することにより得ることができる。
具体的には、まず上記1)〜8)の条件を満たす油脂に、必要によりその他の成分を添加し、油相とする。また水に、必要によりその他の成分を添加し、水相とする。上記の油相を加熱溶解し、必要により上記の水相を加え、混合し、油脂組成物とする。
上記水相を用いる場合、油相と水相との質量比率(前者:後者)は、好ましくは60〜95:5〜40、より好ましくは75〜95:5〜25、最も好ましくは80〜95:5〜20である。本発明において、油相が60質量%よりも少なく、水相が40質量%よりも多いと、乳化が不安定となりやすい。また、油相が95質量%よりも多く、水相が5質量%よりも少ないと、良好な可塑性が得られにくい。
【0033】
そして次に殺菌処理をすることが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は、好ましくは80〜100℃、更に好ましくは80〜95℃、最も好ましくは80〜90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は、好ましくは40〜60℃、更に好ましくは40〜55℃、最も好ましくは40〜50℃とする。
次に急冷可塑化を行なう。この急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブチラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等が挙げられ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターの組み合わせが挙げられる。この急冷可塑化を行なうことにより、可塑性を有する可塑性油脂組成物となる。
急冷可塑化の際に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
本発明の可塑性油脂組成物の製造工程において、窒素、空気等を含気させても、含気させなくても構わない。
【0034】
本発明の可塑性油脂組成物は、急冷可塑化後にケースやカップ等の容器に流し込んでも良いし、シート状、ブロック状、円柱状、直方体等の形状としてもよい。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ1〜50mm、ブロック状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ50〜500mm、円柱状:直径1〜25mm、長さ5〜100mm、直方体:縦5〜50mm、横5〜50mm、高さ5〜100mmである。
【0035】
以下に、本発明の可塑性油脂組成物を用いたベーカリー生地について説明する。
本発明のベーカリー生地は、上述した本発明の可塑性油脂組成物をロールインしたベーカリー生地である。また本発明のベーカリー生地は、上述した本発明の可塑性油脂組成物を練り込んだベーカリー生地である。なお、本発明の可塑性油脂組成物を練り込みとロールインの両方に用いたベーカリー生地でも構わない。
上記のベーカリー生地としては、食パン生地、菓子パン生地、フランスパン生地、デニッシュ・ペストリー生地、スイートロール生地、イーストドーナツ生地、ピザ生地、クッキー生地、パイ生地、シュー生地、サブレ生地、ワッフル生地、スコーン生地、クラッカー生地、スポンジケーキ生地、バターケーキ生地、ケーキドーナツ生地等が挙げられる。
【0036】
上記のベーカリー生地を、適宜、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストをとった後、加熱してベーカリー食品とする。
上記成形においては、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。これらの成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
上記加熱としては、例えば、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼きが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を行うことができる。
【0037】
得られたベーカリー食品は、袋に入れて密封する。
上記の袋としては、従来より使用されている公知の材質、形状等のものを広く用いることができ、その材質としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、アルミ箔とPE、PET等の合成樹脂との積層材等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
以下の実施例1〜12のうち、実施例2及び7は参考例である。
【0039】
〔エステル交換油脂A〕
パーム油70質量%とパーム核油24質量%とハイエルシン菜種極度硬化油6質量%からなる油脂配合物に、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×10
2Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10
2Pa以下の減圧下)を行ない、エステル交換油脂Aを得た。得られたエステル交換油脂Aの組成を表1に示した。
【0040】
〔エステル交換油脂B〕
パーム極度硬化油25質量%とパーム核油75質量%からなる油脂配合物に、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×10
2Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10
2Pa以下の減圧下)を行ない、エステル交換油脂Bを得た。得られたエステル交換油脂Bの組成を表1に示した。
【0041】
〔エステル交換油脂C〕
パームオレイン80質量%とハイエルシン菜種極度硬化油20質量%からなる油脂配合物に、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×10
2Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10
2Pa以下の減圧下)を行ない、エステル交換油脂Cを得た。得られたエステル交換油脂Cの組成を表1に示した。
【0042】
〔エステル交換油脂D〕
パームオレイン100質量%を用い、ナトリウムメチラートを触媒として、ランダムエステル交換反応を行なった後、漂白(白土3%、85℃、9.3×10
2Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×10
2Pa以下の減圧下)を行ない、エステル交換油脂Dを得た。得られたエステル交換油脂Dの組成を表1に示した。
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例1〜5)
エステル交換油脂A、大豆極度硬化油、キャノーラ油を用いて、下記の表2に示した配合油を調製した。
本配合油82質量部にグリセリン脂肪酸エステル0.5質量部、及びレシチン0.5質量部を配合し、油相を調製した。この油相83質量部に、水相として水17質量部を加えて、油中水型に乳化し、85℃で殺菌した。そして50℃まで予備冷却した。次に予備冷却した油脂組成物を6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。その後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、5℃で2週間保管し、本発明の可塑性油脂組成物である実施例1〜5のロールイン用油脂組成物を得た。
【0045】
(比較例1〜4)
エステル交換油A〜D、キャノーラ油、パームステアリン、大豆極度硬化油を用いて、下記の表4に示した配合油を調製した。
本配合油82質量部にグリセリン脂肪酸エステル0.5質量部、及びレシチン0.5質量部を配合し、油相を調製した。この油相83質量部に、水相として水17質量部を加えて、油中水型に乳化し、85℃で殺菌した。そして50℃まで予備冷却した。次に予備冷却した油脂組成物を6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。その後、サイズが縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、5℃で2週間保管し、比較例1〜4のロールイン用油脂組成物を得た。
【0046】
(実施例6〜10、比較例5〜8)
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られたロールイン用油脂組成物を用い、下記配合と製法により実施例6〜10と比較例5〜8のデニッシュを製造した。
<デニッシュの配合>
強力粉 80質量部
薄力粉 20質量部
イースト 4質量部
イーストフード 0.2質量部
上白糖 15質量部
全卵 10質量部
バター 5質量部
水 45質量部
ロールイン用油脂組成物 45質量部
【0047】
<デニッシュの製法>
バターとロールイン用油脂組成物以外の原料をミキサーボールに入れ、フックを用い、縦型ミキサーにて低速3分、中速3分にてミキシングを行い、バターを入れ、さらに低速3分、中速3分にてミキシングを行い、生地を調製した。この生地をフロアタイム20分、−5℃の冷凍庫で24時間リタードさせた。この生地にロールイン用油脂組成物をのせ、常法により、ロールイン(3つ折り3回)し、成型(縦10センチ、横10センチ、厚さ3ミリ)した。そしてホイロ(32℃ 50分)をとり、200℃15分にて焼成し、デニッシュを得た。得られたデニッシュは室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリプロピレン製の袋に密封し、室温(25℃)に保管した。
【0048】
<評価>
焼成直後(焼成後3時間)、焼成3日後のデニッシュを食したときの歯切れ、焼成1日後の口溶けを下記評価基準により評価した。またロールイン時の可塑性及びコシを下記評価基準により評価した。その結果を下記の表3、表5に示した。
<歯切れ評価基準>
○○○:焼成直後は非常にサクサクとした歯切れの良い食感であり、焼成3日後も焼成直後と同様の食感である。
○○:焼成直後は非常にサクサクとした歯切れの良い食感であるが、焼成3日後はやや歯切れ悪い食感である。
○:焼成直後はサクサクとした歯切れの良い食感であるが、焼成3日後は歯切れ悪い食感である。
×:焼成直後の段階で歯切れが悪い食感である。
【0049】
<口溶け評価基準>
○○○:非常に口溶けが良好で油性感を感じない。
○○ :口溶けが良好でやや油性感を感じる。
○ :やや口溶けが良好で油性感を感じる。
× :口溶けが悪く、油性感が持続する。
【0050】
<可塑性評価基準>
○○○:幅広い温度域で可塑性が良好で、作業性が非常に良好。
○○ :特定の温度域で可塑性が良好で、作業性が良好。
○ :非常に狭い温度域で可塑性が良好で、作業性はやや良好。
× :可塑性が不良であり、作業性が悪い。
【0051】
<コシ評価基準>
○○○:非常にコシが良好であり、生地のベタつきやロールイン用油脂組成物の練り込まれが一切ない。
○○ :コシが良好であり、やや生地がベタつくものの、ロールイン用油脂組成物の練り込まれがない。
○ :コシがやや良好であり、生地のベタつき、ロールイン用油脂組成物の練り込まれが若干発生する。
× :コシが不良であり、生地のベタつきが発生し、ロールイン用油脂組成物が練り込まれる。
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
(実施例11)
配合油は実施例1と同じものを用い、配合油82質量部にグリセリン脂肪酸エステル0.5質量部、及びレシチン0.5質量部を配合し、油相を調製した。この油相83質量部に、水相として水17質量部を加えて、油中水型に乳化し、85℃で殺菌した。そして50℃まで予備冷却した。次に予備冷却した油脂組成物を6本のAユニット、レスティングチューブを通過させ、急冷可塑化した。その後、ケースに流し込み、5℃で2週間保管し、本発明の可塑性油脂組成物である実施例11の練り込み用油脂組成物を得た。
【0057】
(実施例12、比較例9)
実施例11で得られた練り込み用油脂組成物をメロンパンの外生地である焼菓子生地の練り込み用油脂組成物として用い、さらに実施例11で得られた練り込み用油脂組成物を内生地である菓子パン生地の練り込み用油脂組成物として用い、下記配合と製法により実施例12のメロンパンを製造した。
また実施例11で得られた練り込み用油脂組成物のかわりに市販のバターをメロンパンの外生地である焼菓子生地の練り込み用油脂組成物として用い、さらに実施例11で得られた練り込み用油脂組成物のかわりに市販のバターを内生地である菓子パン生地の練り込み用油脂組成物として用い、下記配合と製法により比較例9のメロンパンを製造した。
【0058】
<焼菓子生地の配合と製法>
練り込み用油脂組成物30質量部、上白糖50質量部、及び、食塩0.4質量部をミキサーボールに投入して縦型ミキサーにセットし、ビーターを使用して混合し、そこに全卵(正味)25質量部を数回に分けて添加混合した。さらに薄力粉100質量部、ベーキングパウダー1質量部を、低速1分にて混合し、焼菓子生地を得た。
【0059】
<菓子パン生地の配合と製法>
強力粉70質量部、イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入して縦型ミキサーにセットし、フックを使用して低速で3分、中速で2分ミキシングして中種生地を得た。この中種生地を醗酵室で28℃にて2時間中種発酵させた。次いで、この生地に、さらに強力粉30質量部、上白糖20質量部、食塩1.5質量部、脱脂粉乳2質量部、全卵(正味)12質量部、及び水10質量部を添加し、低速で4分、中速で4分ミキシングした。ここで、練り込み用油脂組成物10質量部を投入し、低速で3分、中速で3分ミキシングして菓子パン生地を得た。なお捏ね上げ温度は28℃であった。
【0060】
<メロンパンの配合と製法>
上記焼菓子生地を50gに分割し、これを麺棒を使用して直径100mm、厚さ5mmの円形になるように圧延成形した。上記菓子パン生地は、フロアタイム30分をとった後に65gに分割し、さらにベンチタイム20分をとった後、これを内生地とし、その上面に、上記焼菓子生地を積置し、温度36℃、相対湿度70%で50分ホイロをとった後、固定窯で180℃にて17分焼成し、メロンパンを得た。得られたメロンパンは室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリプロピレン製の袋に密封し、室温(25℃)に保管した。
【0061】
<評価>
実施例12と比較例9で得られたメロンパンを食したときの焼菓子部分とパン部分の焼成直後(焼成後3時間)、焼成1日後、焼成3日後の歯切れを下記評価基準により評価し、また焼菓子部分のポリプロピレン製の袋への付着度合いを評価した。その結果を表6に示した。
<歯切れ評価基準>
◎ きわめて良好
○ 良好
× 悪い
【0062】
【表6】
【0063】
(実施例13、比較例10)
実施例11で得られた練り込み用油脂組成物を菓子パンの練り込み用油脂組成物として用い、下記配合と製法により実施例13の菓子パンを製造した。
また実施例11で得られた練り込み用油脂組成物のかわりに市販のバターを菓子パンの練り込み用油脂組成物として用い、下記配合と製法により比較例10の菓子パンを製造した。
<菓子パンの配合>
(中種配合)
強力粉 70質量部
イーストフード 0.1質量部
イースト 3質量部
米麹 1質量部
ブドウ糖 3質量部
水 40質量部
(本捏配合)
強力粉 30質量部
食塩 1.5質量部
上白糖 15質量部
練り込み用油脂組成物 10質量部
水 23質量部
【0064】
<菓子パンの製法>
中種配合の全原料を、縦型ミキサーにて低速3分、中速3分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度=26℃)を得た。得られた中種生地は28℃、相対湿度80%にて120分の中種発酵を取った。
次に本捏配合の練り込み用油脂組成物以外の全原料と上記の中種発酵を行った中種生地を、縦型ミキサーにて低速3分、中速3分ミキシングした後、本捏配合の練り込み用油脂組成物を添加して、低速3分、中速4分ミキシングし、菓子パン生地(捏ね上げ温度=28℃)を得た。
得られた菓子パン生地は、フロアータイムを30分とり、50gに分割した。さらに30分ベンチタイムを取った後、丸め成形をし、38℃、相対湿度85%、50分のホイロを取った後、上火200℃下火200℃のオーブンで10分焼成し、菓子パンを得た。得られた菓子パンは室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリプロピレン製の袋に密封し、室温(25℃)に保管した。
【0065】
<評価>
実施例13と比較例10で得られた菓子パンを食したときの焼成直後(焼成後3時間)、焼成1日後、焼成3日後の歯切れを下記評価基準により評価した。その結果を表7に示した。
<歯切れ評価基準>
◎ きわめて良好
○ 良好
× 悪い
【0066】
【表7】