特許第5982777号(P5982777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982777
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】プリント配線板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/00 20060101AFI20160818BHJP
   H05K 3/46 20060101ALN20160818BHJP
【FI】
   H05K3/00 N
   !H05K3/46 X
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-230848(P2011-230848)
(22)【出願日】2011年10月20日
(65)【公開番号】特開2013-89863(P2013-89863A)
(43)【公開日】2013年5月13日
【審査請求日】2014年8月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100152191
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 正人
(72)【発明者】
【氏名】畠山 修一
(72)【発明者】
【氏名】江尻 芳則
(72)【発明者】
【氏名】有家 茂晴
(72)【発明者】
【氏名】横島 廣幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 清
【審査官】 中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−339259(JP,A)
【文献】 特開2009−260280(JP,A)
【文献】 特開昭61−176186(JP,A)
【文献】 特開2010−109212(JP,A)
【文献】 特開2005−340785(JP,A)
【文献】 特開2006−312265(JP,A)
【文献】 特表2002−540609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/00
H05K 3/46
H05K 3/18
H05K 3/38 − 3/40
H05K 1/11
B23K 26/18
B23K 26/36 − 26/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基板と該基板の表面に銅箔とを有する多層板に、レーザを照射して前記銅箔を貫通する穴を形成する工程を有するプリント配線板の製造方法であって、
前記レーザを照射する前に、銅イオン、錯化剤及び塩基性物質を含む水溶液に銅箔を浸し、前記銅箔を陰極とする電解析出によって前記銅箔の表面に銅酸化物層を形成する工程を有し、
前記銅酸化物層は0.3〜5μmの厚みを有する、プリント配線板の製造方法。
【請求項2】
前記銅酸化物層は主成分として酸化第一銅を含有する、請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液のpHは8以上である、請求項1又は2に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記銅イオンは、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酸化銅、水酸化銅、ピロリン酸銅、及び金属銅から選ばれる少なくとも一種に由来する、請求項1〜のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記錯化剤は、一分子中に水酸基とカルボキシル基とを有するオキシカルボン酸、該オキシカルボン酸の塩、及び一分子中に複数の水酸基を有するアルコールから選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
前記銅酸化物層は0.3〜3μmの厚みを有する請求項1〜のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は、通常、次の手順で製造される。まず、内層回路を形成した絶縁基板上に、プリプレグと呼ばれるガラスクロスにエポキシ等の絶縁樹脂を含浸し半硬化状態にした材料と、銅箔とをこの順で重ねて熱プレスを行って一体化された多層板を得る。この多層板に、ドリルで層間接続用のスルーホールと呼ばれる穴をあける。そして、スルーホールの内壁と銅箔表面上に無電解めっきを施す。必要に応じて更に電解めっきを行い、回路導体として必要な厚さとした後、不要な銅を除去する。このようにしてプリント配線板が製造される。
【0003】
ところで、近年、電子機器の小型化、軽量化、多機能化が一段と進展し、これに伴ってLSIやチップ部品等の高集積化が進んでいる。そして、LSIやチップ部品の形態は多ピン化、小型化へと急速に変化している。このため、プリント配線板は、電子部品の実装密度を向上するために、ファインパターンや微小層間接続の要求がますます大きくなっている。小径ドリルでは、高い精度が求められるスルーホールやブラインドホールなどの穴加工に対応することが難しくなってきたため、COレーザやUVレーザ等のレーザを用いた加工技術が導入されている。
【0004】
量産に適するCOレーザの場合、一般には、穴の予定位置にある銅箔を予めフォトリソグラフィとエッチングで取り除いた後、そこへCOレーザを照射して穴を形成する、いわゆるコンフォーマルマスク加工法(コンフォーマル法)やラージウィンドウ加工法(ラージウィンドウ法)が採用されてきている。しかし、これらの方法では工程数が多くなってコスト的に不利なばかりでなく、外層の窓穴と内層パターンとの位置ずれが生じるという問題がある。
【0005】
このような問題に対し、プロセスの簡略化やビア位置精度の向上が可能なCuダイレクト加工法(Cuダイレクト法)の検討が進められている。Cuダイレクト法は、銅箔に予め窓穴を形成しておくことなく、レーザ照射により銅箔及びその下の絶縁層に一度に穴をあける加工法である。この加工法では、従来の窓穴形成プロセスが不要になるため、製造コストを低減できる。また、内層のアライメントマークをザグリ加工により露出させ、カメラ検出データをもとに、自動位置補正をすることが可能になるため、内層パッドに対する穴位置のずれを小さくすることができる。
【0006】
しかし、樹脂表面にレーザを照射して穴あけを行う場合に比べて、銅箔を直接COレーザで加工することは技術的に困難である。その理由は、COレーザの波長が赤外線領域である約10μm付近にあるため、銅によるレーザ光の反射が大きく、銅箔に吸収されるエネルギーが不十分なためと考えられている。このような事情の下、銅箔表面におけるレーザ光の反射を抑制してレーザ光の吸収を向上させるために、銅よりも反射率の小さい金属で銅箔表面を覆う方法、又は銅箔表面を薬液処理により粗面化する方法が試みられている。
【0007】
例えば、特許文献1では、銅箔表面にNi層、Co層、又はZn層からなる金属層を設け、その後レーザ光を照射する方法が開示されている。また、非特許文献1には、レーザを照射する銅箔に、酸化剤を含む化学処理液を用いて酸化処理を施す方法が開示されている。この酸化処理は黒化処理とも呼ばれている。この酸化処理は、本来、多層プリント基板の積層において銅箔の接着性を向上するための前処理として行われるものであり、これによって銅箔表面に酸化銅の針状結晶による微細な凹凸形状が形成される。
【0008】
また、特許文献2には、銅箔表面をマイクロエッチング液に接触させ、その表面に微細な凹凸形状を形成して、レーザ加工を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3670196号
【特許文献2】特開2007−129193号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】廣垣俊樹、他5名著:炭酸ガスレーザによるプリント基板のCuダイレクトバイアホール加工の穴品質評価、材料、55(3)、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、銅箔表面に金属層を形成する方法では、レーザによる穴あけ後に当該金属層を除去する必要があるものの、銅箔からこれらの金属層を選択的にエッチングすることは容易ではない。このような選択的なエッチングを行うため、専用の選択エッチング液が市販されてはいるものの、コスト的に不利なだけではなく、エッチングに伴って廃液が発生するため、環境負荷が増加するとともに、廃液の処理方法を別途検討することが必要となる。
【0012】
また、銅箔表面に黒化処理用の液を接触させて、その表面に微細な凹凸形状を形成する粗面化する方法では、レーザ加工性が十分ではないことから、穴あけ加工のために高いレーザエネルギーが必要となる。したがって、エネルギー的なロスだけではなく、穴加工時にオーバーハングが発生し易くなる。銅箔穴径よりも樹脂穴径の方が著しく大きくなると、その後に行われるめっき工程でのめっきの付き回り性が悪くなり、結果的に接続信頼性が低下してしまう。マイクロエッチング液によって銅箔を粗面化する方法も、黒化処理用の液を用いた場合と同様の現象が発生する傾向にある。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高い接続信頼性を有するプリント配線板を低コストで製造することが可能なプリント配線板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために、レーザ加工の前処理として行われる銅箔の表面処理方法とCOレーザ加工性との関係について鋭意検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、絶縁性の基板と該基板の表面に銅箔とを有する多層板にレーザを照射して銅箔を貫通する穴を形成する工程を有するプリント配線板の製造方法であって、レーザを照射する前に、銅イオン、錯化剤及び塩基性物質を含む水溶液に銅箔を浸し、銅箔を陰極とする電解析出によって銅箔の表面に銅酸化物層を形成する工程を有する。本発明の製造方法では、電解析出によって銅酸化物層を形成している。このため、銅酸化物層の厚さを任意にコントロールすることが可能であり、十分な厚みを有する銅酸化物層を形成することができる。
【0016】
なお、従来の一般的な黒化処理によって銅酸化物層を形成する技術では、銅酸化物層の厚さは約0.2μm程度であり、処理時間を長くしても、酸化銅の厚さを大きくすることは困難であった。このように、酸化銅の厚みが薄いと、レーザ加工性が不十分となり、オーバーハングが発生してしまう。これに対し、電解析出によって銅酸化物層を形成する本発明のプリント配線板の製造方法によれば、銅酸化物層の厚さを大きくできるため、上述の不具合を解消することができる。
【0017】
ところで、黒化処理の処理液のアルカリ濃度を上げることで、酸化銅の厚みを、ある程度厚くできることが知られている。しかしながら、アルカリ濃度が高過ぎると、処理ムラが発生するため、得られるプリント配線板の信頼性が損なわれてしまう。また、黒化処理を施す場合、液温を80〜90℃程度の高温にする必要である。これよりも低い温度であると、酸化銅の針状晶が成長しない。このように、処理液を高温にする必要があるため、エネルギー的なロスが大きくなる。また、処理液から多量の水分が蒸発するため、濃度の変化が大きく濃度管理に労力を要する。
【0018】
これに対し、電解析出によって銅酸化物層を形成する本発明のプリント配線板の製造方法によれば、処理液の温度は必ずしも80℃以上とする必要はなく、より低温のマイルドな条件でも銅酸化物層を形成することが可能である。したがって、黒化処理よりもエネルギー的に有利であるうえに、処理する材料へのダメージも少なくすることができる。また、銅酸化物層の厚みを大きくしても処理ムラの発生を十分に抑制することができる。したがって、本発明のプリント配線板の製造方法によれば、高い接続信頼性を有するプリント配線板を低コストで製造することができる。
【0019】
本発明の製造方法では、銅酸化物層は主成分として酸化第一銅を含有することが好ましい。また、銅酸化物層の厚みは0.3〜5μmであることが好ましく、0.3〜3μmであることがより好ましい。
【0020】
本発明によれば、レーザを照射する前に、銅箔に所定の厚みを有する銅酸化物層が形成されている。銅酸化物層の厚みが0.3μm以上であることから、レーザのエネルギーを小さくしても、オーバーハングの小さい高品位の穴を形成することができる。また、銅酸化物層の厚みの上限を設けることによって、特殊なエッチング溶液を使用せずとも、レーザ照射後の銅酸化物層の除去を容易に行うことができる。このため、工程の簡素化が可能となり、接続信頼性に優れるプリント配線板を低コストで製造することができる。
【0021】
本発明の製造方法において、電解析出に用いられる水溶液のpHは8以上であることが好ましい。また、水溶液に含まれる銅イオンは、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酸化銅、水酸化銅、ピロリン酸銅、及び金属銅から選ばれる少なくとも一種の化合物に由来することが好ましい。また、水溶液に含まれる錯化剤は、一分子中に水酸基とカルボキシル基とを有するオキシカルボン酸、該オキシカルボン酸の塩、及び一分子中に複数の水酸基を有するアルコールから選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。これによって、銅箔に所望の厚みの銅酸化物層を形成することが一層容易となり、低エネルギーでオーバーハングの小さい一層高品位な穴を形成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い接続信頼性を有するプリント配線板を低コストで製造することが可能なプリント配線板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のプリント配線板の製造方法の一実施形態を説明するための概略図である。
図2】本発明のプリント配線板の製造方法の一実施形態を説明するための概略図である。
図3】本発明のプリント配線板の製造方法の一実施形態を説明するための概略図である。
図4】実施例2で銅箔の表面に酸化第一銅を電解析出して形成した銅酸化物層の走査型電子顕微鏡の写真である。
図5】比較例2で黒化処理を施した銅箔の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0025】
図1は、本実施形態のプリント配線板の製造方法を示す概略図である。本実施形態のプリント配線板の製造方法は、絶縁樹脂を含む絶縁性の基材と該基材の表面に銅箔を張り合わせた多層板を準備する第1工程と、多層板の銅箔の表面に主成分として酸化第一銅を含有する銅酸化物層を形成する第2工程と、銅箔の表面に形成された銅酸化物層にレーザを照射して、銅酸化物層及び銅箔を貫通する穴を形成する第3工程を有する。以下、各工程の詳細を説明する。なお、本明細書において多層板とは、2層以上の導体層を有する基板である。
【0026】
第1工程は、絶縁性の基材と該基材の表面に銅箔を有する多層板を準備する工程である。基材としては、例えばエポキシ樹脂で構成された樹脂基板、ガラス繊維にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸して得られるガラス繊維強化基板、又はアラミド繊維にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸して得られるアラミド繊維強化基板等が挙げられる。これらの基板は、公知の方法で作製することができる。市販品を用いてもよい。
【0027】
基材の表面に、銅箔を張り合わせて銅張り積層板が得られる。この銅張り積層板にさらに絶縁性の基材等からなるプリプレグと銅箔とを積層して、多層板が得られる。ここで用いる絶縁性の基材は、銅張り積層板の作製に用いられる基材と同様のものが挙げられる。
【0028】
図1は、第1工程で準備される多層板の一例を模式的に示す断面図である。多層板10は、外側から第1の銅箔11、第1の絶縁層12、第2の銅箔13、第2の絶縁層14がこの順で積層された多層板である。
【0029】
第2工程は、多層板の銅箔の表面上に主成分として酸化第一銅を含有する銅酸化物層を形成する工程である。銅酸化物層は、銅イオン、錯化剤、及び塩基性物質含む水溶液から陰極上に電解析出させることで形成することができる。具体的には、多層板10を上記水溶液に浸し、これを陰極として電解析出を行う。これによって、陰極である銅箔11の表面に酸化第一銅を主成分として含有する銅酸化物層を形成することができる。
【0030】
図2は、第2工程で銅酸化物層が形成された多層板を模式的に示す断面図である。多層板20は、図2に示す多層板10の銅箔11の表面に銅酸化物層22を形成することによって得られる。銅酸化物層22における酸化第一銅の含有率は、例えば70質量%以上である。レーザによる穴あけを円滑に行う観点から、銅酸化物層22における酸化第一銅の含有率は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0031】
電解析出に用いる水溶液は安定剤を含んでもよい。銅イオンの供給源としては特に制限はなく、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酸化銅、水酸化銅、ピロリン酸銅、又は金属銅等を用いることができる。水溶液における銅イオンの濃度は、例えば約0.01〜0.5mol/Lである。
【0032】
錯化剤には、一分子中に水酸基及びカルボキシル基を有するオキシカルボン酸、該オキシカルボン酸の塩、又は一分子中に複数の水酸基を有するアルコールを使用することができる。オキシカルボン酸としては、酒石酸、クエン酸、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、マンデル酸、及びヒドロキシ酪酸等を用いることができる。オキシカルボン酸の塩としては、上述のオキシカルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、ナトリウムカリウム塩、銅塩等を用いることができる。一分子中に複数の水酸基を含むアルコールとしては、ブタンジオール等を用いることができる。水溶液における酸化剤の濃度は、例えば約0.05〜5mol/Lである。
【0033】
水溶液に含まれる塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等が挙げられる。水溶液のpHは約8以上のアルカリ性であることが好ましく、約9〜13であることがより好ましい。水溶液の液温は広い範囲で設定することが可能であり、例えば約25〜90℃とすればよい。
【0034】
電解方法は、多層板の表面銅箔を陰極として、定電位電解又は定電流電解によって行えばよい。定電位電解の場合、陰極電位は電解液の濃度などに応じて適宜設定すればよく、例えばAg/AgCl電極基準で約−0.1V以下が適当であり、約−0.2〜−1.0Vが好ましい。
【0035】
電解に用いる陽極としては、通常の銅めっきに用いられる陽極を使用できる。具体例としては、不溶性である白金、白金めっきチタン、可溶性陽極である銅等を用いることができる。
【0036】
第1の銅箔11の表面に形成される銅酸化物層22の厚みは0.3〜5μmである。銅酸化物層22の厚さは、レーザによる加工性を維持しつつ、工程の短縮化を図る観点から、好ましくは約0.3〜3μmであり、より好ましくは約0.5〜2μmであり、さらに好ましくは約0.7〜1.4μmである。銅酸化物層22の厚みは、定電位電解又は定電流電解を行う時間を変えることによって調整することができる。この時間は、例えば10〜60分間である。
【0037】
銅酸化物層22の厚さが薄くなり過ぎると、レーザによる加工性が不十分となる。したがって、第1の銅箔11上に適切な厚さを有する銅酸化物層22を形成した場合に比べて、同じエネルギーを有するレーザを照射した場合に開口する穴の直径が小さくなる傾向にある。このため、穴の直径を十分に大きくするためには、より高いレーザエネルギーが必要となる。この場合、オーバーハングが生じ易い傾向にある。一方、この銅酸化物層22は、次に説明する第3工程の後に除去する必要があるため、厚みが大きくなり過ぎると、これを取り除く工程に所要する時間が長くなる。
【0038】
第3工程は、第1の銅箔11の表面上に形成された銅酸化物層22にレーザを照射して、銅酸化物層22及び第1の銅箔11を貫通する穴を形成する工程である。レーザとしては、COレーザを用いることができる。COレーザは、赤外線波長領域である約10μmの波長を有する。COレーザのエネルギーは、第1の銅箔11や銅酸化物層22の厚みなどによって適宜選択することができる。
【0039】
図3は、第3工程によって穴が形成された多層板の一例を模式的に示す断面図である。多層板30は、COレーザを用いた銅ダレクト法により、多層板20における銅酸化物層22、第1の銅箔11、及び第1の絶縁層12を貫通する穴32が形成されている。穴あけ加工された多層板30では、内層銅箔である第2の銅箔13の一部が穴32の底面に露出している。
【0040】
第3工程の後に、必要に応じて次の第4工程を行ってもよい。第4工程では、第1の銅箔11の表面に形成された銅酸化物層22を除去した後、デスミア処理を行う。その後、めっき処理を行うことによって、穴32の内部に形成されためっき膜によって、第1の銅箔11と第2の銅箔13とを電気的に接続することができる。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。本実施形態の製造方法は、銅ダイレクト法による穴あけ加工を採用しているため、工程数を少なくできるだけではなく、内層パッドに対する穴位置ずれを最小化することもできる。また、本実施形態の製造方法では、低エネルギーのレーザを用いて、オーバーハングの小さい高品位の穴加工を行うことができる。すなわち、本発明によれば、高い接続信頼性を有するプリント配線板を、低コストで製造することができる。なお、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
本発明の内容について、実施例と比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
市販の両面銅張り積層板(商品名:MCL−E−679−D35、厚み:0.6mm、日立化成工業株式会社製)を準備した。この銅張り積層板の両面に、内層を接着するために表面処理を施した。そして、銅張り積層板の両面に、それぞれ、ガラス布基材エポキシプリプレグ(商品名:GEA−679N、0.06t、日立化成工業株式会社製)と、厚さ9μmの銅箔(商品名:3EC−VLP、三井金属鉱業株式会社製)とを順次積層し、加圧加熱プレスを行った。このようにして、銅箔、絶縁層、銅張り積層板、絶縁層、及び銅箔がこの順で積層された多層板(4層板)を作製した。
【0044】
次に、作製した多層板の銅箔表面の洗浄を行った。まず、脱脂のため1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に40℃で5分間浸漬し、その後、水洗を行った。続いて、1mol/Lの過硫酸ナトリウム水溶液に25℃で2分間浸漬し、その後、水洗を行った。続いて、希硫酸水溶液に25℃で2分間浸漬し、その後、水洗を行った。
【0045】
次に、以下の手順で多層板(4層板)の銅箔表面に酸化第一銅を電解析出させた。多層板を、0.2mol/Lの硫酸銅、及び2mol/Lの乳酸を含むpH9のアルカリ性水溶液に浸した。対極として白金板を該アルカリ性水溶液に浸し、液温40℃、電位−0.4V vs Ag/AgClの条件で定電位電解を行った。これによって、多層板の銅箔の表面に、酸化第一銅を主成分として含む0.7μmの厚みを有する銅酸化物層を形成した。なお、銅箔表面に形成した銅酸化物層の厚みは、電気化学的還元法により測定した。対極はPt,比較電極はAg/AgCl,電解液はKCl水溶液とし、当該電解液中で定電流電解を行って銅酸化物相の厚みを測定した。
【0046】
次に、COレーザを用いて、銅酸化物層が形成された多層板の穴あけ加工を行って、銅酸化物層、銅箔及び絶縁層を貫通するBVH(ブラインドビアホール)を形成した。銅箔に形成する穴の直径の目標を100μmとし、15mJのパルスエネルギーを有するCOレーザを、多層板の積層方向と平行な方向に照射した。
【0047】
穴あけ加工を行った後、銅エッチング液によって銅箔上の銅酸化物を溶解除去した。続いて、多層板を膨潤液、アルカリ過マンガン酸液、及び中和液に順次浸漬するデスミア処理を行って、BVH内において内層の銅箔上に残留していた樹脂残渣を除去した。その後、層間接続のため、多層板に無電解銅めっき処理及び電気銅めっき処理を順次施して、BVH内に、膜厚0.5μmの無電解銅めっき膜、及び膜厚20μmの電気銅めっき膜を形成した。これを実施例1の評価用基板とした。
【0048】
<組成、反射率、穴(BVH)の直径の測定>
得られた評価用基板の銅酸化物層の組成、反射率、及びレーザ加工によって形成した穴の直径を以下の手順で測定した。組成は、X線回折分析によって確認した。X線回折分析によって検出された最も多く含まれる成分を主成分とした。反射率は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を使用し、金製板を基準試料とする相対法で測定した。測定波長はCOレーザと同じ赤外線領域の10μm付近とした。穴の直径は、めっき膜が形成されたBVHのクロスセクション(横断面)を走査型電子顕微鏡で観察し、銅箔における穴の直径と絶縁層における穴の直径とをそれぞれ測定した。これらの測定結果を、表1に示す。
【0049】
(実施例2)
定電位電解の時間を実施例1よりも長くして、多層板の銅箔の表面に、酸化第一銅を主成分として含む1.4μmの厚みを有する銅酸化物層を形成した。これ以外は、実施例1と同様にして評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、組成、反射率及びBVHの直径の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
酸化第一銅の電解析出に、0.2mol/Lの硫酸銅、及び2mol/Lの乳酸を含むpH12のアルカリ水溶液を用いたこと、及び定電位電解の条件を−0.8V vs Ag/AgClとしたこと以外は、実施例1と同様にして評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、組成、反射率及びBVHの直径の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0051】
(実施例4)
酸化第一銅の電解析出に、0.2mol/Lの硫酸銅、及び2mol/Lの乳酸を含むpH12のアルカリ水溶液を用いたこと、及び定電位電解の条件を−0.8V vs Ag/AgClとしたこと以外は、実施例2と同様にして評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、組成、反射率及びBVHの直径の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0052】
(実施例5)
定電位電解の時間を実施例1よりも長くして、多層板の銅箔の表面に、酸化第一銅を主成分として含む4.8μmの厚みを有する銅酸化物層を形成した。これ以外は、実施例4と同様にして評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、組成、反射率及びBVHの直径の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
図4は、実施例2において、銅箔上に酸化第一銅を電解析出させた後の銅酸化物層の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:30,000倍)である。銅酸化物層の表面は、滑らかであり、顕著な凹凸形状が認められなかった。この表面の反射率は約30%であり、後述する比較例1〜3よりも著しく低かった。この理由は必ずしも明らかではないが、凹凸形状のような形状的な因子とは異なる別の因子が作用している可能性が高いと考えている。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同様にして、銅箔、絶縁層、銅張り積層板、絶縁層、及び銅箔がこの順で積層された4層からなる多層板を作製し、銅箔表面の洗浄を行った。その後、液温80℃の黒化処理液に、多層板を1分間浸漬して、銅箔表面に層状の酸化銅を形成した。なお、用いた黒化処理液の含有成分は、次の通りである。
亜塩素酸ナトリウム 31g/L
水酸化ナトリウム 12g/L
りん酸ナトリウム 12g/L
【0056】
黒化処理を行って銅箔上に形成した酸化銅の厚みは、実施例と同じ電気化学的還元法により測定した。その結果を表2に示す。
【0057】
次に、実施例1と同じ条件でCOレーザによる穴あけ加工を行って、BVHを形成した。その後、実施例1と同様にして、銅箔上の黒化処理層の除去、デスミア処理、無電解銅めっき処理、及び電気銅めっき処理を順次行って評価用基板を作製した。これを比較例1の評価用基板とした。
【0058】
実施例1と同様にして、銅箔の表面に形成された酸化銅の組成、反射率、及びBVHの直径を測定した。測定結果を表2に示す。
【0059】
(比較例2,3)
液温80℃の黒化処理液に、多層板を浸漬する時間を表2の通りに変えたこと以外は、比較例1と同様にして、評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、銅箔の表面に形成された酸化銅の組成、反射率、及びBVHの直径を測定した。測定結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表1の通り、実施例1〜5は、ほぼ目標とする直径を有する穴(BVH)を形成することができた。また銅箔における穴の直径と絶縁層における穴の直径との差が小さく、オーバーハングが十分に抑制されていた。これに対し、表2の通り、比較例1〜3は、実施例1〜5と同じエネルギーを有するCOレーザを用いても、十分なサイズの直径を有する穴(BVH)を形成することができなかった。このことから、比較例1〜3は、実施例1〜5よりも、レーザ加工性に劣ることが確認された。また、実施例1〜5は、銅箔の穴の直径と絶縁層の穴の直径との差が小さく、品質的に優れることが確認された。
【0062】
図5は、比較例2において黒化処理を施した後の銅箔表面の走査型電子顕微鏡(倍率:30,000倍)の写真である。銅箔の黒化処理面には、この写真に示すようにサブミクロン又はミクロンオーダの針状結晶が多数形成されていた。このように酸化銅の層の表面が凹凸形状を有していることから、レーザを照射した場合にレーザが散乱して反射が抑制されるものと考えられる。
【0063】
レーザ加工性が良好であった実施例のうち、実施例1及び2は十分に反射率が小さかった。一方、実施例3〜5の反射率は、実施例1及び2の2〜4倍であり、レーザ加工性が劣っている比較例1〜3と同程度であった。この結果は、レーザ加工性はレーザ照射面の反射率だけで決定されるものではなく、他の因子が影響していることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、高い接続信頼性を有するプリント配線板を低コストで製造することが可能なプリント配線板の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
10,20,30…多層板、11…第1の銅箔、12…第1の絶縁層、13…第2の銅箔、14…第2の絶縁層、22…銅酸化物層、32…穴。
図1
図2
図3
図4
図5