【実施例】
【0042】
本発明の内容について、実施例と比較例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
市販の両面銅張り積層板(商品名:MCL−E−679−D35、厚み:0.6mm、日立化成工業株式会社製)を準備した。この銅張り積層板の両面に、内層を接着するために表面処理を施した。そして、銅張り積層板の両面に、それぞれ、ガラス布基材エポキシプリプレグ(商品名:GEA−679N、0.06t、日立化成工業株式会社製)と、厚さ9μmの銅箔(商品名:3EC−VLP、三井金属鉱業株式会社製)とを順次積層し、加圧加熱プレスを行った。このようにして、銅箔、絶縁層、銅張り積層板、絶縁層、及び銅箔がこの順で積層された多層板(4層板)を作製した。
【0044】
次に、作製した多層板の銅箔表面の洗浄を行った。まず、脱脂のため1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に40℃で5分間浸漬し、その後、水洗を行った。続いて、1mol/Lの過硫酸ナトリウム水溶液に25℃で2分間浸漬し、その後、水洗を行った。続いて、希硫酸水溶液に25℃で2分間浸漬し、その後、水洗を行った。
【0045】
次に、以下の手順で多層板(4層板)の銅箔表面に酸化第一銅を電解析出させた。多層板を、0.2mol/Lの硫酸銅、及び2mol/Lの乳酸を含むpH9のアルカリ性水溶液に浸した。対極として白金板を該アルカリ性水溶液に浸し、液温40℃、電位−0.4V vs Ag/AgClの条件で定電位電解を行った。これによって、多層板の銅箔の表面に、酸化第一銅を主成分として含む0.7μmの厚みを有する銅酸化物層を形成した。なお、銅箔表面に形成した銅酸化物層の厚みは、電気化学的還元法により測定した。対極はPt,比較電極はAg/AgCl,電解液はKCl水溶液とし、当該電解液中で定電流電解を行って銅酸化物相の厚みを測定した。
【0046】
次に、CO
2レーザを用いて、銅酸化物層が形成された多層板の穴あけ加工を行って、銅酸化物層、銅箔及び絶縁層を貫通するBVH(ブラインドビアホール)を形成した。銅箔に形成する穴の直径の目標を100μmとし、15mJのパルスエネルギーを有するCO
2レーザを、多層板の積層方向と平行な方向に照射した。
【0047】
穴あけ加工を行った後、銅エッチング液によって銅箔上の銅酸化物を溶解除去した。続いて、多層板を膨潤液、アルカリ過マンガン酸液、及び中和液に順次浸漬するデスミア処理を行って、BVH内において内層の銅箔上に残留していた樹脂残渣を除去した。その後、層間接続のため、多層板に無電解銅めっき処理及び電気銅めっき処理を順次施して、BVH内に、膜厚0.5μmの無電解銅めっき膜、及び膜厚20μmの電気銅めっき膜を形成した。これを実施例1の評価用基板とした。
【0048】
<組成、反射率、穴(BVH)の直径の測定>
得られた評価用基板の銅酸化物層の組成、反射率、及びレーザ加工によって形成した穴の直径を以下の手順で測定した。組成は、X線回折分析によって確認した。X線回折分析によって検出された最も多く含まれる成分を主成分とした。反射率は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を使用し、金製板を基準試料とする相対法で測定した。測定波長はCO
2レーザと同じ赤外線領域の10μm付近とした。穴の直径は、めっき膜が形成されたBVHのクロスセクション(横断面)を走査型電子顕微鏡で観察し、銅箔における穴の直径と絶縁層における穴の直径とをそれぞれ測定した。これらの測定結果を、表1に示す。
【0049】
(実施例2)
定電位電解の時間を実施例1よりも長くして、多層板の銅箔の表面に、酸化第一銅を主成分として含む1.4μmの厚みを有する銅酸化物層を形成した。これ以外は、実施例1と同様にして評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、組成、反射率及びBVHの直径の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0050】
(実施例3)
酸化第一銅の電解析出に、0.2mol/Lの硫酸銅、及び2mol/Lの乳酸を含むpH12のアルカリ水溶液を用いたこと、及び定電位電解の条件を−0.8V vs Ag/AgClとしたこと以外は、実施例1と同様にして評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、組成、反射率及びBVHの直径の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0051】
(実施例4)
酸化第一銅の電解析出に、0.2mol/Lの硫酸銅、及び2mol/Lの乳酸を含むpH12のアルカリ水溶液を用いたこと、及び定電位電解の条件を−0.8V vs Ag/AgClとしたこと以外は、実施例2と同様にして評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、組成、反射率及びBVHの直径の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0052】
(実施例5)
定電位電解の時間を実施例1よりも長くして、多層板の銅箔の表面に、酸化第一銅を主成分として含む4.8μmの厚みを有する銅酸化物層を形成した。これ以外は、実施例4と同様にして評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、組成、反射率及びBVHの直径の測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
図4は、実施例2において、銅箔上に酸化第一銅を電解析出させた後の銅酸化物層の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:30,000倍)である。銅酸化物層の表面は、滑らかであり、顕著な凹凸形状が認められなかった。この表面の反射率は約30%であり、後述する比較例1〜3よりも著しく低かった。この理由は必ずしも明らかではないが、凹凸形状のような形状的な因子とは異なる別の因子が作用している可能性が高いと考えている。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同様にして、銅箔、絶縁層、銅張り積層板、絶縁層、及び銅箔がこの順で積層された4層からなる多層板を作製し、銅箔表面の洗浄を行った。その後、液温80℃の黒化処理液に、多層板を1分間浸漬して、銅箔表面に層状の酸化銅を形成した。なお、用いた黒化処理液の含有成分は、次の通りである。
亜塩素酸ナトリウム 31g/L
水酸化ナトリウム 12g/L
りん酸ナトリウム 12g/L
【0056】
黒化処理を行って銅箔上に形成した酸化銅の厚みは、実施例と同じ電気化学的還元法により測定した。その結果を表2に示す。
【0057】
次に、実施例1と同じ条件でCO
2レーザによる穴あけ加工を行って、BVHを形成した。その後、実施例1と同様にして、銅箔上の黒化処理層の除去、デスミア処理、無電解銅めっき処理、及び電気銅めっき処理を順次行って評価用基板を作製した。これを比較例1の評価用基板とした。
【0058】
実施例1と同様にして、銅箔の表面に形成された酸化銅の組成、反射率、及びBVHの直径を測定した。測定結果を表2に示す。
【0059】
(比較例2,3)
液温80℃の黒化処理液に、多層板を浸漬する時間を表2の通りに変えたこと以外は、比較例1と同様にして、評価用基板を作製した。そして、実施例1と同様にして、銅箔の表面に形成された酸化銅の組成、反射率、及びBVHの直径を測定した。測定結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表1の通り、実施例1〜5は、ほぼ目標とする直径を有する穴(BVH)を形成することができた。また銅箔における穴の直径と絶縁層における穴の直径との差が小さく、オーバーハングが十分に抑制されていた。これに対し、表2の通り、比較例1〜3は、実施例1〜5と同じエネルギーを有するCO
2レーザを用いても、十分なサイズの直径を有する穴(BVH)を形成することができなかった。このことから、比較例1〜3は、実施例1〜5よりも、レーザ加工性に劣ることが確認された。また、実施例1〜5は、銅箔の穴の直径と絶縁層の穴の直径との差が小さく、品質的に優れることが確認された。
【0062】
図5は、比較例2において黒化処理を施した後の銅箔表面の走査型電子顕微鏡(倍率:30,000倍)の写真である。銅箔の黒化処理面には、この写真に示すようにサブミクロン又はミクロンオーダの針状結晶が多数形成されていた。このように酸化銅の層の表面が凹凸形状を有していることから、レーザを照射した場合にレーザが散乱して反射が抑制されるものと考えられる。
【0063】
レーザ加工性が良好であった実施例のうち、実施例1及び2は十分に反射率が小さかった。一方、実施例3〜5の反射率は、実施例1及び2の2〜4倍であり、レーザ加工性が劣っている比較例1〜3と同程度であった。この結果は、レーザ加工性はレーザ照射面の反射率だけで決定されるものではなく、他の因子が影響していることを示唆している。