特許第5982798号(P5982798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5982798ポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982798
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】ポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/91 20060101AFI20160818BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C08G63/91
   C08F290/06
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-263639(P2011-263639)
(22)【出願日】2011年12月1日
(65)【公開番号】特開2013-116933(P2013-116933A)
(43)【公開日】2013年6月13日
【審査請求日】2014年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】松村 一成
(72)【発明者】
【氏名】安齋 竜一
(72)【発明者】
【氏名】小倉 邦義
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−275226(JP,A)
【文献】 特開2002−265580(JP,A)
【文献】 特開2008−274239(JP,A)
【文献】 特表2009−524722(JP,A)
【文献】 国際公開第03/075095(WO,A1)
【文献】 国際公開第96/033233(WO,A1)
【文献】 特開2011−162770(JP,A)
【文献】 特開2000−086302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−63/91
C08F 290/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールと多価カルボン酸成分とに由来する下記式(I)で表される構造単位を、その構造単位と、第二成分の多価アルコールと多価カルボン酸成分とに由来する構造単位との合計構造単位中80モル%以上含むポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法であって、
下記式(I)で表される構造単位を含むポリエステルジオールと、(メタ)アクリル酸無水物とを反応させるポリエステル(メタ)アクリレート(ただし、ポリエステルウレタン(メタ)アクリレートを除く)の製造方法。
【化1】
(式(I)中、Rは直鎖又は分岐の炭化水素基を表す。Rは環構造を含んでもよい。)
【請求項2】
式(I)中、Rが炭素数1〜20の炭化水素基である請求項1記載のポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法
【請求項3】
式(I)中、RがCまたはC16の炭化水素基である請求項1または2記載のポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法
【請求項4】
金属の酸化物、水酸化物または炭酸塩を用いて反応させる請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化した際に優れた透明性、柔軟性、および耐光黄変性を示すポリエステル(メタ)アクリレート、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線硬化性の樹脂組成物が数多く開発されている。その中でもポリエステル系樹脂組成物は、常温で液体のため取り扱いが容易である。このため、ポリエステル系樹脂組成物は、特に塗料、接着剤、印刷インキ、および光学材料等に利用されている。ポリエステルアクリレートと重合性単量体とからなるポリエステル系樹脂としては、種々の組成を有するものが知られている。例えば、メチル分岐を有する多価アルコール成分と多塩基酸成分から得られるポリエステルアクリレートとアクリル系単量体とを配合した樹脂組成物は、ウレタン変性アクリレート樹脂に匹敵する性能を有している(特許文献1および2)。
【0003】
また、ポリエステル(メタ)アクリレートを製造する方法として、(メタ)アクリル酸とポリエステルジオールとの直接脱水反応を用いる方法が知られている(特許文献1から4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−215719号公報
【特許文献2】特開平2−248414号公報
【特許文献3】特開2000−311516号公報
【特許文献4】特開2002−275226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリエステル(メタ)アクリレートを塗料、接着剤、印刷インキ、および光学材料等に使用する場合には、より優れた透明性、柔軟性、および耐光黄変性が要求される。特許文献1から4に記載されたポリエステル(メタ)アクリレートにおけるそれらの諸物性は、十分とはいえない。また、ポリエステル(メタ)アクリレートを公知の製造方法で合成した場合、分子量分布の変化、および着色等の不具合が頻繁に起こり、諸物性に強く影響を与える。
【0006】
本発明は、硬化した際に優れた透明性、柔軟性、および耐光黄変性を示すポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法は、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールと多価カルボン酸成分とに由来する下記式(I)で表される構造単位を、その構造単位と、第二成分の多価アルコールと多価カルボン酸成分とに由来する構造単位との合計構造単位中80モル%以上含むポリエステル(メタ)アクリレート(ただし、ポリエステルウレタン(メタ)アクリレートを除く)の製造方法であって、下記式(I)で表される構造単位を含むポリエステルジオールと、(メタ)アクリル酸無水物とを反応させる。
【0008】
【化1】
【0009】
(式(I)中、Rは直鎖又は分岐の炭化水素基を表す。Rは環構造を含んでもよい。)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、硬化した際に優れた透明性、柔軟性、および耐光黄変性を示すポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1において得られたPESMA1のH NMRスペクトルを示す図である。
図2】実施例3において得られたPESMA3のH NMRスペクトルを示す図である。
図3】実施例1において得られたPESMA1と参考例において得られたPESMA7のGPC分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書では、アクリロイル基およびメタクリロイル基を合わせて(メタ)アクリロイル基と記載する。アクリル酸およびメタクリル酸を合わせて(メタ)アクリル酸と記載する。アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルを合わせて(メタ)アクリル酸エステルと記載する。アクリレートおよびメタクリレートを合わせて(メタ)アクリレートと記載する。アクリル酸無水物およびメタクリル酸無水物を合わせて(メタ)アクリル酸無水物と記載する。
【0016】
[ポリエステル(メタ)アクリレート]
本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートは、下記式(I)で表される構造単位を含む。
【0017】
【化2】
【0018】
(式(I)中、Rは直鎖又は分岐の炭化水素基を表す。Rは環構造を含んでもよい。)
本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートは、その製造方法は特に限定されないが、例えば種々の原料から合成されたポリエステルジオールの両末端を(メタ)アクリル酸エステルに変換した、ポリマー/オリゴマーとすることができる。
【0019】
前記式(I)で表される構造単位は、ポリエステルジオール製造時に使用される2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールと多価カルボン酸成分に由来するものである。ポリエステルジオールの製造は既知の方法で実施できる。例えば、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールとジカルボン酸とを常圧または減圧下で加熱し、脱水重縮合させることにより得ることができる。必要により部分的にエステル化反応を行うなどの操作を行っても良い。
【0020】
2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールを使用した前記式(I)で表される構造単位を含む本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートは、硬化樹脂に使用した際に、優れた透明性、柔軟性、および耐光黄変性を発揮する。しかしながら、その他の物性を付与するために、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール以外の他の多価アルコール(以下、第二成分の多価アルコールとも示す)を併用しても良い。第二成分の多価アルコールとしては特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール等を挙げることができる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。第二成分の多価アルコールは、耐光黄変性の観点から、炭化水素基中に二重結合、芳香環またはエーテル結合を有さない構造が好ましい。式(I)で表される構造単位、即ち、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールと多価カルボン酸成分とに由来する構造単位を、その構造単位と、第二成分の多価アルコールと多価カルボン酸成分とに由来する構造単位との合計構造単位中80モル%以上含むことが好ましく、90モル%以上含むことがより好ましい。本発明の効果を発揮するためには、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール単独で使用することが最も好ましいが、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール製造の際に不純物として含まれるジオール等が含まれてもよい。
【0021】
前記式(I)で表される構造単位において、Rは直鎖又は分岐の炭化水素基を示すものであるが、ポリエステルジオール製造時の多価カルボン酸成分に由来するものである。Rは直鎖状でも、分岐状でも、あるいは環構造を含んでもよく、また不飽和結合またはエーテル結合を含んでもよい。ポリエステルジオール製造時に使用される多価カルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、およびシクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸、テレフタル酸、およびイソフタル酸等の芳香族カルボン酸を挙げることができる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0022】
耐光黄変性の観点から、多価カルボン酸は、炭化水素基中に不飽和結合およびエーテル結合を含まない炭素数1〜20の炭化水素基が好ましい。すなわち、前記式(I)で表される構造単位において、Rは炭素数が1〜20の炭化水素基であることが好ましい。また、Rは不飽和結合およびエーテル結合を含まないことが好ましい。Rは炭素数が1〜8の炭化水素基であることがより好ましい。
【0023】
また、得られた硬化樹脂の透明性、柔軟性、および耐光黄変性の観点から、多価カルボン酸としてアジピン酸またはセバシン酸を使用することが好ましい。すなわち、前記式(I)で表される構造単位において、RはC48またはC816の炭化水素基であることが好ましい。多価カルボン酸を2種以上使用する場合には、目的とする物性に応じて任意の割合で使用することができる。なお、多価カルボン酸の代わりに対応する多価カルボン酸誘導体、例えば酸無水物、酸ハロゲン化物、およびエステル類を用いてもよい。
【0024】
本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートの数平均分子量(Mn)は、400〜10000が好ましい。Mnが前記範囲であると、得られる硬化樹脂が優れた透明性、柔軟性、および耐光黄変性を示す。Mnは、1000〜5000がより好ましい。本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートの質量平均分子量(Mw)は、1000〜15000が好ましい。Mwは、2000〜7000がより好ましい。本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートの分子量分布(Mw/Mn)は、2.0〜4.0が好ましい。Mw/Mnは、2.3〜3.5がより好ましい。なお、Mn、MwおよびMw/Mnは、後述するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により算出した値とする。
【0025】
[硬化性樹脂組成物]
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートを含有する。
【0026】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレート以外にも、必要に応じて二重結合を有する他の単量体を含有してもよい。他の単量体としては、ビニル系モノマーが挙げられる。ビニル系モノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族化合物、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。また、ジビニルベンゼン、フタル酸ジアリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能性ビニル単量体も使用できる。これらは一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートおよび他の単量体の単独重合を防止するために、本発明に係る硬化性樹脂組成物は重合禁止剤を含有してもよい。重合禁止剤は特に限定されず、例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4,4’−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、6−t−ブチル−2,4−キシレノール等の公知の重合禁止剤を用いることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。重合禁止剤の使用量は、ポリエステル(メタ)アクリレートおよび前記他の単量体100質量部に対して、0.0005質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましい。また、重合禁止剤の使用量は、ポリエステル(メタ)アクリレートおよび前記他の単量体100質量部に対して、0.5質量部以下が好ましく、0.1質量部以下がより好ましい。
【0028】
これら上記の化合物群を硬化性樹脂組成物に含有させる方法は特に制限はなく、含有の形態についても特に制限はない。
【0029】
[硬化性樹脂組成物の硬化物]
本発明に係る硬化物は、本発明に係る硬化性樹脂組成物の硬化物である。
【0030】
本発明に係る硬化性樹脂組成物は、単独、または必要に応じて重合開始剤や重合促進剤を添加した後に、室温もしくは加温、または光照射等の条件下で硬化してポリエステル系樹脂硬化物とすることができる。硬化性樹脂組成物を硬化する手段としては、電子線硬化、紫外線硬化、および熱硬化等の公知の方法を採用することができる。
【0031】
電子線を照射して硬化性樹脂組成物を硬化する場合には、重合開始剤等の添加は特に必要としない。
【0032】
紫外線を照射して硬化性樹脂組成物を硬化する場合には、公知の重合開始剤を使用できる。重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、およびアントラキノン等が挙げられる。また、重合促進剤を併用しても良い。重合促進剤としては、例えば、トリメチルアミン、メチルジメタノールアミン、トリエタノールアミン、およびp−ジエチルアミノアセトフェノン等のアミン類が挙げられる。重合開始剤と重合促進剤は、硬化性樹脂組成物への溶解性に優れ、紫外線透過性を阻害しないものが好ましい。重合開始剤と重合促進剤の使用量は、硬化性樹脂組成物の総量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。また、重合開始剤と重合促進剤の使用量は、硬化性樹脂組成物の総量に対し、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0033】
硬化性樹脂組成物を熱硬化する場合には、公知の重合開始剤を使用できる。重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、およびt−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化エステル類が挙げられる。重合開始剤の使用量は、硬化性樹脂組成物の総量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。また、重合開始剤の使用量は、硬化性樹脂組成物の総量に対し、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0034】
硬化性樹脂組成物を常温硬化する場合には、重合開始剤として過酸化ベンゾイルを用いることができる。また、重合促進剤として、ナフテン酸コバルト等の金属塩、またはジメチルアニリン等の第三級アミン類を用いることができる。重合開始剤と重合促進剤の使用量は、硬化性樹脂組成物の総量に対し、0.3質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、重合開始剤と重合促進剤の使用量は、硬化性樹脂組成物の総量に対し、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。
【0035】
[ポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法]
本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法は、前記式(I)で表される構造単位を含むポリエステルジオールと、(メタ)アクリル酸無水物とを反応させることが好ましい。本発明に係る製造方法によれば、硬化した際に優れた透明性、柔軟性、および耐光黄変性を示すポリエステル(メタ)アクリレートを提供することができる。また、従来の方法に比べ、分子量分布の増加と着色を大幅に抑制することができ、高純度のポリエステル(メタ)アクリレートを得ることができる。
【0036】
前記式(I)で表される構造単位を含むポリエステルジオールは、前述した2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールと多価カルボン酸から合成したポリエステルジオールを用いてもよく、市販品を用いてもよい。
【0037】
(メタ)アクリル酸無水物は、市販品でも別途合成したものを使用してもよい。(メタ)アクリル酸無水物の使用量は、ポリエステルジオール1モル当たり1モル以上が好ましく、2モル以上がより好ましい。また反応後の後処理工程への負荷、経済性の観点から、(メタ)アクリル酸無水物の使用量は、ポリエステルジオール1モル当たり10モル以下が好ましく、4モル以下がより好ましい。なお、(メタ)アクリル酸無水物の使用量が少なすぎると、反応時間が長くなる上に反応液が着色する場合がある。一方、(メタ)アクリル酸無水物の使用量が多すぎても、添加量に対応した形での収量の向上、または、反応時間の短縮が認められない場合がある。
【0038】
反応系内には触媒を添加することができるが、無触媒であってもよい。触媒を添加する場合には、触媒としては金属化合物、酸触媒、塩基触媒、不均一系触媒等が挙げられる。
【0039】
前記金属化合物としては、金属の酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、およびホウ酸塩等の無機酸塩やカルボン酸塩、およびスルホン酸塩等の有機酸塩やアセチルアセトナート、およびシクロペンタジエニル錯体等の錯塩が挙げられる。前記酸触媒としては、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、塩酸、およびヘテロポリ酸等の無機酸やメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、およびカンファースルホン酸等の有機酸が挙げられる。前記塩基触媒としては、ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基が挙げられる。前記不均一系触媒としては、塩基性イオン交換樹脂及び酸性イオン交換樹脂等のイオン交換樹脂、活性成分をシリカやアルミナ、チタニア等の担体に固定した触媒が挙げられる。これらの触媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。反応効率と操作性の観点から、触媒としては、金属の酸化物、水酸化物、および炭酸塩が好ましい。金属化合物の中でも、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の化合物が好ましい。中でも酸化マグネシウムおよび炭酸セシウムが特に好ましい。
【0040】
触媒の使用量は、ポリエステルジオール1モル当たり0.001モル以上が好ましく、0.01モル以上がより好ましい。また、触媒の使用量は、ポリエステルジオール1モル当たり0.5モル以下が好ましく、0.2モル以下がより好ましい。触媒の使用量がポリエステルジオール1モル当たり0.001モル未満の場合、反応活性が低くなり、所望のポリエステル(メタ)アクリレートの収率が低くなる場合がある。一方、触媒の使用量がポリエステルジオール1モル当たり0.01モルを超える場合、反応後の後処理工程への負荷が大きくなる場合がある。
【0041】
反応は溶媒の存在下、または不存在下のいずれの条件でも行うことができる。溶媒としては、反応基質であるポリエステルジオールおよび(メタ)アクリル酸無水物、生成したポリエステル(メタ)アクリレートと反応しないものが好ましい。具体的には、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、飽和炭化水素、エーテル類、およびエステル類が挙げられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。ポリエステル(メタ)アクリレートとの相溶性の観点から、ハロゲン化炭化水素を用いることが好ましい。溶媒の使用量は、ポリエステルジオールに対して等倍質量以上であれば、操作性が向上する。しかしながら、収率などの生産性と環境調和性の観点から、溶媒を使用しないことが望ましい。
【0042】
反応温度は特に制限されないが、反応時間、副生成物の量、および反応液の着色を考慮すれば、0℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましい。また、反応温度は、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0043】
反応時間は特に制限されないが、副生成物の量、および反応液の着色を考慮すれば、できるだけ短時間で行うことが好ましい。
【0044】
本発明に係るポリエステル(メタ)アクリレートの製造方法においては、重合を抑制するため、反応系内に重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤としては、特に限定されず、例えば、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4,4’−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、6−t−ブチル−2,4−キシレノール等の公知の重合禁止剤を用いることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。重合禁止剤の使用量は、ポリエステルジオール100質量部に対して0.0005質量部以上が好ましく、0.01質量部以上がより好ましい。また、重合禁止剤の使用量は、ポリエステルジオール100質量部に対して0.5質量部以下が好ましく、0.1質量部以下がより好ましい。
【0045】
反応終了後は、公知の方法に従って処理することができる。例えば、洗浄(酸性水、アルカリ性水、蒸留水等)、抽出、濾過、および濃縮操作を順次行うことにより、所望のポリエステル(メタ)アクリレートを高純度で得ることができる。特に、反応時に触媒を用いた場合においては、反応終了後、反応混合物から触媒を取り除くために酸性水、アルカリ性水、蒸留水等の洗浄水による洗浄が必須となる。本発明によって得られるポリエステル(メタ)アクリレートは、その洗浄において、ポリエステル(メタ)アクリレートと酸性水、アルカリ性水、蒸留水等の洗浄水との分離性が良好である。このため、反応終了後、分離性を高くするために溶媒を加えたりすること無く、そのまま洗浄を行うことが可能である。生産性と環境調和性の観点から、溶媒を使用しないことが望ましい。しかしながら、溶媒を使用する場合には、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、飽和炭化水素、エーテル類、およびエステル類等を用いてもよい。溶媒としては、ポリエステル(メタ)アクリレートとの相溶性と水やアルカリ水溶液などとの分離性の観点から、ハロゲン化炭化水素を用いることが好ましい。また、無触媒反応条件の場合においては、洗浄、抽出、およびろ過操作を行う必要はない。反応終了後、副生した(メタ)アクリル酸、残存する(メタ)アクリル酸無水物を留去させるだけで、所望のポリエステル(メタ)アクリレートを高純度で得ることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。なお、硬化物の性能は、以下の方法に従って評価した。
【0047】
(1)透明性
作製した2mm厚の硬化物を3mm厚のフロートガラスに貼り付け、全光線透過率およびヘーズを測定し、透明性を評価した。測定には、ヘーズメーター(製品名:HM−150型、(株)村上色彩技術研究所製)を用いた。
【0048】
(2)耐光黄変性
デューパネル光コントロールウェザーメーター(スガ試験機(株)製、連続照射、30W/m2、70℃)による耐光性試験を100時間実施した。試験サンプルには、2mm厚の硬化物を白色アクリル板に貼り付けたものを用いた。試験後のYI値を色差計(製品名:SE2000、日本電色工業(株)製)を用いて測定し、耐光性を評価した。
【0049】
(3)柔軟性
JIS K6253に従い、23℃におけるタイプAデュロメータ硬さを測定し、柔軟性を評価した。
【0050】
転化率(%)は、(反応中に消費されたポリエステルジオールのモル数/反応仕込み時のポリエステルジオールのモル数)×100で算出した。
【0051】
質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により算出した(標準ポリスチレン換算)。
【0052】
装置:HLC8020(製品名、東洋ソーダ工業株式会社製)
カラム:TSKgelGMHXL{カラムサイズ:7.8mm(ID)×30.0cm(L)}を3本直列に連結
オーブン温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1mL/分
試料濃度:2mg/10mL
注入量:0.1mL
検出器:RI。
【0053】
[実施例1]
アジピン酸および2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールから合成されたポリエステルジオール(商品名:HS2N−221A、豊国製油株式会社製、式(I)におけるRがC48、OH価:57.3、400.00g)、メタクリル酸無水物(66.12g、0.43モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(0.04g、0.32ミリモル)、および酸化マグネシウム(0.82g、0.02モル)を混合し、内温80℃にて3時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し、5質量%水酸化カリウム水溶液を加え、1時間攪拌した。この混合液にジクロロメタンを加え、抽出操作を行い、得られた有機相を純水にて洗浄し、水相が中性になるまで水洗浄を繰り返した。有機相をろ過した後、ろ液を減圧濃縮することにより、ポリエステルメタクリレート:PESMA1(419.38g、外観:透明)を得た。
【0054】
なお、反応は、1H NMR(PESMA1、270MHz、CDCl3)により確認した。PESMA1の1H NMRスペクトルを図1に示す。反応終了後、室温まで冷却した時点での転化率、PESMA1の外観ならびにGPC分析によるPESMA1のMw、MnおよびMw/Mnを表1に示す。PESMA1のGPC分析におけるGPCチャートを図3に示す。
【0055】
[実施例2]
反応は実施例1と同様に行った。反応終了後、室温まで冷却し、5質量%水酸化カリウム水溶液を加え、1時間攪拌した。この後、水相を除去し、得られたポリエステル(メタ)アクリレート相を純水にて洗浄し、水相が中性になるまで水洗浄を繰り返した。水相を分離した後、ポリエステル(メタ)アクリレート相をジクロロメタンで希釈した。得られた混合溶液をろ過した後、ろ液を減圧濃縮することにより、ポリエステルメタクリレート:PESMA2(425.23g、外観:透明)を得た。
【0056】
[実施例3]
セバシン酸および2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールから合成されたポリエステルジオール(商品名:HS2N−220S、豊国製油株式会社製、式(I)におけるRがC816、OH価:56.6、400.00g)、メタクリル酸無水物(65.31g、0.42モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(0.04g、0.32ミリモル)、および酸化マグネシウム(0.81g、0.02モル)を混合し、内温80℃にて3時間撹拌した。反応終了後は実施例1と同様に操作を行い、ポリエステルメタクリレート:PESMA3(422.60g、外観:透明)を得た。
【0057】
なお、反応は、1H NMR(PESMA3、270MHz、CDCl3)により確認した。PESMA3の1H NMRスペクトルを図2に示す。
【0058】
[合成例1]
アジピン酸および2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールから合成されたポリエステルジオール(商品名:HS2B−222A、豊国製油株式会社製、OH価:55.8、400.00g)、メタクリル酸無水物(64.39g、0.42モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(0.04g、0.32ミリモル)、および酸化マグネシウム(1.60g、0.04モル)を混合し、内温80℃にて4時間撹拌した。反応終了後は実施例1と同様に操作を行い、ポリエステルメタクリレート:PESMA4(421.88g、外観:透明)を得た。
【0059】
[合成例2]
アジピン酸およびネオペンチルグリコールから合成されたポリエステルジオール(商品名:ポリライトOD−X−2044、DIC株式会社製、OH価:57.9、400.00g)、メタクリル酸無水物(66.81g、0.43モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(0.04g、0.32ミリモル)、および酸化マグネシウム(0.83g、0.02モル)を混合し、内温80℃にて3時間撹拌した。反応終了後は実施例1と同様に操作を行い、ポリエステルメタクリレート:PESMA5(412.13g、外観:透明)を得た。
【0060】
[合成例3]
アジピン酸および3−メチル−1,5−ペンタンジオールから合成されたポリエステルジオール(商品名:クラレポリオールP−2010、株式会社クラレ製、OH価:57.6、400.00g)、メタクリル酸無水物(66.47g、0.43モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(0.04g、0.32ミリモル)、および酸化マグネシウム(0.83g、0.02モル)を混合し、内温80℃にて3時間撹拌した。反応終了後は実施例1と同様に操作を行い、ポリエステルメタクリレート:PESMA6(409.41g、外観:透明)を得た。
【0061】
参考例
アジピン酸および2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールから合成されたポリエステルジオール(商品名:HS2N−221A、豊国製油株式会社製、式(I)におけるRがC、OH価:57.3、400.00g)、メタクリル酸(52.75g、0.61モル)、p−トルエンスルホン酸一水和物(8.16g、0.04モル)、ハイドロキノンモノメチルエーテル(0.76g、6.1ミリモル)、およびトルエン(400mL)を混合し、6時間加熱還流しながら生成する水を反応系外へ除去した。反応終了後は実施例1と同様に操作を行い、ポリエステルメタクリレート:PESMA7(399.71g、外観:淡黄色)を得た。
【0062】
反応終了後、室温まで冷却した時点での転化率、PESMA7の外観ならびにGPC分析によるPESMA7のMw、MnおよびMw/Mnを表1に示す。PESMA7のGPC分析におけるGPCチャートを図3に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
[実施例5]
実施例1で製造したPESMA1 80質量部、希釈剤(メタクリル酸シクロヘキシル)20質量部、重合開始剤(商品名:パーロイルTCP、日油(株)製、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート)1質量部を常温で攪拌混合し、硬化性樹脂組成物とした。PETフィルムで被覆したガラスとシリコンゴム製のガスケットを用いて作製した鋳型に、脱泡した前記硬化性樹脂組成物を流し込み、70℃で2時間、さらに100℃で1時間加熱硬化を行った。鋳型を外して、厚さ2mmの板状樹脂硬化物を得た。
【0065】
得られた板状樹脂硬化物に対し、前記透明性、耐光黄変性および柔軟性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0066】
[実施例6]
実施例5において、PESMA1の代わりに実施例2で製造したPESMA2を用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、評価した。評価結果を表2に示す。
【0067】
[実施例7]
実施例5において、PESMA1の代わりに実施例3で製造したPESMA3を用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、評価した。評価結果を表2に示す。
【0068】
[比較例1]
実施例5において、PESMA1の代わりに合成例1で製造したPESMA4を用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、評価した。評価結果を表2に示す。
【0069】
[比較例2]
実施例5において、PESMA1の代わりに合成例2で製造したPESMA5を用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、評価した。評価結果を表2に示す。
【0070】
[比較例3]
実施例5において、PESMA1の代わりに合成例3で製造したPESMA6を用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、評価した。評価結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
[実施例8]
50mLのナスフラスコにアジピン酸および2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールから合成されたポリエステルジオール(商品名:HS2N−221A、豊国製油株式会社製、式(I)におけるRがC48、OH価:57.3、5.00g)、メタクリル酸無水物(0.98g、6.38ミリモル)、および酸化マグネシウム(0.01g、0.26ミリモル)を順次加え、攪拌下、80℃で反応を行った。
【0073】
反応開始後1時間、3時間におけるポリエステルジオールの転化率および反応液の着色を表3に示す。なお、ポリエステルジオールの転化率(%)は、1H NMRを用いて、(反応中に消費されたポリエステルジオールのモル数/反応仕込み時のポリエステルジオールのモル数)×100により算出した。
【0074】
[実施例9〜11]
実施例8において、触媒としての酸化マグネシウムの代わりに、炭酸リチウム、炭酸セシウムおよび硫酸をそれぞれ用いた以外は、実施例8と同様の操作を行った。なお、触媒量はすべて酸化マグネシウムと等モル量になるようにした。
【0075】
反応開始後1時間、3時間におけるポリエステルジオールの転化率および反応液の着色評価を表3に示す。
【0076】
[実施例12]
実施例8において、触媒としての酸化マグネシウムを用いなかった以外は、実施例8と同様の操作を行った。
【0077】
反応開始後1時間、3時間におけるポリエステルジオールの転化率および反応液の着色評価を表3に示す。
【0078】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、硬化した際に優れた透明性、柔軟性、および耐光黄変性を示すポリエステル(メタ)アクリレートに関するものであり、特に塗料、接着剤、印刷インキ、および光学材料等の用途に対して好適に用いることができる。
図1
図2
図3