特許第5982804号(P5982804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5982804
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】触媒の賦活方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 38/64 20060101AFI20160818BHJP
   B01J 31/08 20060101ALI20160818BHJP
   B01J 31/10 20060101ALI20160818BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   B01J38/64
   B01J31/08 M
   B01J31/10 M
   C02F1/72 Z
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-271721(P2011-271721)
(22)【出願日】2011年12月12日
(65)【公開番号】特開2013-121580(P2013-121580A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡嶌 健吾
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真治
(72)【発明者】
【氏名】田畑 潤也
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−277679(JP,A)
【文献】 特開2004−105831(JP,A)
【文献】 特開平06−023375(JP,A)
【文献】 特開2000−117109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C02F 1/00−1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の活性成分が、マンガン、周期表1B族元素および周期表8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物類であり、担体がフッ素系有機陽イオン交換体からなる触媒、および次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、塩素、オゾンのうち少なくとも1種以上を含む酸化剤の存在下、COD成分を含む水溶液を処理する方法において、活性が低下した触媒を50〜160℃の液相で、アルカリ水溶液と接触させることを特徴とする触媒の賦活方法。
【請求項2】
触媒の活性成分が、ニッケル、コバルトおよび銅から選ばれる少なくとも1種の酸化物類からなることを特徴とする請求項1に記載の触媒の賦活方法。
【請求項3】
アルカリ水溶液のアルカリ剤が、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒の賦活方法。
【請求項4】
アルカリ水溶液のアルカリ剤が、水酸化ナトリウムであり、その濃度が10〜50wt%であることを特徴とする請求項3に記載の触媒の賦活方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水の湿式酸化処理において使用される触媒の賦活方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学的酸素要求物質(以下、COD成分と称する)を含む工業廃水の処理方法は、廃水流量やCOD成分の種類や濃度によって異なる。例えば、廃水流量が少なく、COD成分の濃度が低い場合、酸化剤と反応させて無害化する際、酸化剤のみでは反応が遅いため、金属酸化物や金属過酸化物などの触媒と接触させ、反応を促進する方法が良く知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、廃水中にはCaCO、Mg(OH)、Fe(OH)等の難溶解性塩を形成し易いCa、Mg、Fe等の溶解性無機物質や懸濁物質(以下、SSと称する)が共存する場合がある。これらの物質は触媒活性点を被覆し、反応を阻害するため、触媒は長期間の使用に耐えられないことがあった。この課題を解決するため、活性が低下した触媒を酸や還元剤で処理し、再生する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この方法により、ある程度の活性回復は可能であるが、酸を使用することで、触媒成分である金属の一部を溶解させてしまい、それが処理液中に混入するため、後処理によって除去する必要があった。また、触媒の活性回復も期待したほどではなかった。
【0003】
別法として、活性が低下した触媒を、酸化剤を含有する溶液に浸漬する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この方法によれば、触媒表面に堆積した不純物はある程度除去できるものの、強固に沈着した不純物までは除去できないため、性能の回復は十分と言えるものではなかった。さらに別法として、酸、アルカリおよび/または還元剤を用いて触媒を再生する際、空気を送入する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。本法にて触媒の活性はある程度回復できるものの、薬液流量の10倍以上の空気を同時に送入しなければならないため、処理槽中のガスホールド量が大きくなり、反面、液ホールド量は少なくなるため、劣化触媒と薬液との接触が悪くなり、処理効率が低下したり、触媒を形成している粒子が流動化したりすることで、触媒同士が衝突し、摩耗して、触媒性能を低下させることがあった。
【0004】
そこで、本発明者らは、触媒の担体をフッ素系有機陽イオン交換体とすることで、反応活性が高く、しかもSSや難溶性塩を形成しやすいアルカリ土金属イオンが含まれていても沈澱を生成させにくく、沈澱が生成しても触媒の作用が持続することを見い出し、すでに特許出願を行っている(例えば、特許文献5参照)。この方法によれば、従来の触媒に比べ、初期活性のみならず、寿命も大幅に改善することができ、優れたものであった。しかし、徐々にではあるが活性が低下するため、触媒コストを低減する目的で、さらなる触媒寿命の改善、即ち、活性が低下した触媒の賦活方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭51−48387号公報
【特許文献2】特公平3−66018号公報
【特許文献3】特開2003−80276公報
【特許文献4】特開2000−117109公報
【特許文献5】特開平6−23375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来法の種々の問題点を解決できる、効果的、効率的な触媒の賦活方法、即ち、廃水の酸化処理に用いる触媒であって、SSや無機難溶性塩が被覆したことにより、活性が低下した触媒を賦活する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、劣化した触媒の賦活方法について鋭意検討した結果、賦活処理方法を適正化することにより、簡易な方法で触媒の活性を大幅に回復でき、触媒を交換することなく、長期間に亘って使用可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、
[1]触媒および酸化剤の存在下、COD成分を含む水溶液を処理する方法において、活性が低下した触媒を50〜160℃の液相で、アルカリ水溶液と接触させることを特徴とする触媒の賦活方法。
[2]触媒が、フッ素系有機陽イオン交換体の担体からなることを特徴とする[1]に記載の触媒の賦活方法。
[3]触媒の活性成分が、マンガン、周期表1B族元素および周期表8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物類からなることを特徴とする[1]または[2]に記載の触媒の賦活方法。
[4]触媒の活性成分が、ニッケル、コバルトおよび銅から選ばれる少なくとも1種の酸化物類からなることを特徴とする[3]に記載の触媒の賦活方法。
[5]アルカリ水溶液のアルカリ剤が、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の触媒の賦活方法。
[6]アルカリ水溶液のアルカリ剤が、水酸化ナトリウムであり、その濃度が10〜50wt%であることを特徴とする[5]に記載の触媒の賦活方法。
に関するものである。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の方法により処理されるCOD成分は、特に限定されないが、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、カルボン酸類、芳香族類、炭水化物、イオウ化合物、アンモニア、アンモニウム塩、アミン類、アミノ酸類などを例示することができる。これらは、通常、酸化剤によって分解し、水、炭酸ガス、窒素ガス等の無害成分に変化する。また、COD成分を含む水溶液の排出源は、特に限定されないが、化学工業、紙・パルプ工業、繊維工業、食品工業などが例示される。
【0011】
本発明の方法により賦活される触媒は、COD成分を酸化剤で処理する際に反応を促進させるものであれば特に限定されない。好ましくは、触媒としての活性が高い、マンガン、周期表1B族元素および周期表8族元素から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物類である。なお、本明細書における酸化物類とは、酸化物および水酸化物の総称である。特に、触媒活性および経済性の面から、ニッケル、コバルト、銅から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物類が好ましい。触媒は、活性成分のみの粉末や粒状であっても、バインダーによって成形されたものであっても、さらには担体に担持されたものであっても構わない。好ましくは、触媒活性の高さやハンドリングの面から、フッ素系有機陽イオン交換体を担体として担持されたものである。COD成分を分解する際、酸化剤を使用するが、酸化剤の種類については特に限定されない。具体的には、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、塩素、二酸化塩素、オゾン、過酸化水素、過硫酸塩、オゾンから選ばれる少なくとも1種を含むものである。COD成分との反応性、処理コストの面から、次亜塩素酸、次亜塩素酸塩、塩素、オゾンのうち少なくとも1種以上を含むものであることが好ましい。
【0012】
本発明の賦活に用いるアルカリ水溶液を形成するアルカリ剤としては、水に溶解した際にアルカリ性を示すものであれば特に限定されない。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニアなどを例示でき、薬剤コスト、ハンドリングの面から、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのいずれかを含むものであり、特に好ましくは水酸化ナトリウムである。アルカリ剤には実質的に空気を含まない。例えば、特許文献4のように、アルカリ剤に空気を吹き込んだり、あるいは巻き込んだりすると、前述の通り、触媒とアルカリ剤との接触が阻害され、効果が不十分となるばかりではなく、固定床などで処理する際、触媒が流動化し、触媒同士が衝突して、触媒の一部が破砕され、活性が低下することがあるからである。
【0013】
アルカリ剤にて賦活する際の温度は50〜160℃の範囲である。50℃より低い温度では賦活が不十分となり、160℃を越える温度では設備の耐食性や耐圧性が必要となるため、設備が高級化し、あるいは触媒の活性成分や担体が一部溶解したり、活性成分の粒成長が起こって活性が低下することがある。好ましい温度は60〜150℃である。処理時間は特に限定されず、触媒の劣化の程度、目標とする触媒活性などにより適宜選定できる。処理時間が長いほど賦活度合いを高められるが、長すぎると活性成分の粒成長が起こり、活性が低下することがあるため、1〜400時間が好ましく、特に好ましくは2〜300時間である。
【0014】
アルカリ剤の濃度は特に限定されないが、低すぎると賦活の効果が小さく、高すぎるとアルカリ剤のコストがアップし、さらにはアルカリ剤を中和するための薬剤コストもアップするため、好ましくは5〜60wt%であり、特に好ましくは10〜50wt%である。
【0015】
賦活操作は連続式でも回分式でも、あるいは半回分式でも構わない。連続式の場合は、アルカリ剤を連続的に供給し、触媒は槽に保持し、処理液が連続的に排出される。この処理液中の溶解性無機物質濃度やSS濃度が低い場合、リサイクル使用することができる。賦活の装置形式は、攪拌槽方式、流動床方式、固定床方式などを例示することができる。好ましくは、水溶液中のCOD成分を処理する反応器内にて、触媒を抜き出すことなく、そのまま処理する方法であり、固定床や攪拌槽の反応器が使用される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、以下のような顕著な効果が達成される。
【0017】
・活性が低下した触媒を新触媒並みの活性に回復させることができ、再使用が可能となる。
【0018】
・触媒交換の頻度が少なく、触媒交換費用を大幅に削減できる。また、劣化触媒の廃棄量が少なく、環境への負荷を低く抑えられる。
【0019】
・安価な薬剤で触媒を賦活でき、コストが低減できる。
【0020】
・反応器を2基以上とすることにより、廃水処理を停止することなく連続運転が可能となる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0022】
なお、本発明における触媒活性指数は、新触媒の活性を100としたときに、触媒の活性低下の度合いを数値化したものであり、以下の方法にて求めた。
【0023】
200mL丸底フラスコに、模擬廃水(エチレングリコール360wtppm、pH12)100mLを入れ、反応当量の次亜塩素酸ナトリウムと触媒1gを添加し、反応させた。そして、エチレングリコールのTOC(全有機体炭素)分解率を90%とするに要した時間を求め、新触媒のそれに要した時間と比べて触媒活性指数を算出した。例えば、新触媒のときTOC分解率を90%とするのに3時間であったものが、劣化触媒では6時間要した場合、劣化触媒の活性指数は50(=3/6×100)となる。なお、本発明におけるTOC濃度は、TOC分析計(島津製作所製TOC−V)の絶対検量線法にて定量した。また、廃水中のCOD濃度は、酸性下、酸化剤に過マンガン酸カリウムを用いて測定した値である。
【0024】
参考例1 ニッケル担持触媒の調製
イオン交換膜法食塩電解に使用したフッ素系有機陽イオン交換膜Nafion954(Du Pont社製)をよく洗浄した後、10mm×10mmの大きさに切断した。
【0025】
2Lビーカーに、N−NiCl水溶液1.5Lおよび上記の切断したフッ素系有機陽イオン交換膜300g(湿潤状態)を入れ、1時間攪拌しながらイオン交換処理を行った。次に、溶液を抜き出し、新たにN−NiCl水溶液1.5Lを入れ、同様に1時間処理し、溶液を抜き出した。
【0026】
次に、3.0wt%NaClO水溶液(pH10)1.5Lを入れた2Lビーカーに、イオン交換処理した前記イオン交換体を全量入れたところ、ニッケルイオンは黒色の酸化物となった。得られた複合体のフッ素系有機陽イオン交換体乾燥重量に対するニッケルの担持率は、2.0wt%であった。また、X線光電子分光法で複合体表面に付着している金属酸化物類を分析したところ、Niであった。担持しているNiの63%がイオン交換膜の内部に存在していた。
【0027】
参考例2 コバルト担持触媒の調製
N−NiCl水溶液をN−CoCl水溶液に代えた他は、参考例1と同じ条件にて複合体を得た。複合体は黒色であり、フッ素系有機陽イオン交換体乾燥重量に対するコバルトの担持率は1.8wt%であった。また、担持しているCoの75%がイオン交換膜の内部に存在していた。
【0028】
実施例1
参考例1で得られたニッケル担持触媒300gを固定床反応器に充填した。固定床反応器は、内径40mm、充填高800mmであり、内容積1Lとして、連続流通式のアップフローにて廃水を処理した。
【0029】
廃水は、エチレングリコール、エタノールなどが含まれ、COD濃度は950wtppmであり、この廃水を4L/時間で固定床反応器へ連続的に供給を行い、処理した。酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用い、CODに対して重量比で7.5となるように供給した。反応温度は80℃、反応器入口のpHは10とした。
【0030】
その結果、運転開始から1日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々5wtppm、40wtppm、30日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々52wtppm、120wtppm、90日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々103wtppm、400wtppmであり、触媒性能はゆっくりではあるが経時的に低下した。そこで、90日後の使用済み触媒を全量抜き出し、一部を用いて触媒活性指数を求めたところ、25にまで低下していた。
【0031】
使用済み触媒の一部を用いて賦活操作を実施した。内容積500mLの蓋付きテフロン(登録商標)製容器に、使用済み触媒50gとアルカリ水溶液300gを入れ、蓋をした後、電気炉内にて所定温度で所定時間、賦活処理を実施した。賦活処理後、触媒の一部を用いて触媒活性指数を測定した。その結果を表1に示した。
【0032】
【表1】
【0033】
水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを用いて賦活処理することにより、触媒活性指数は78〜82にまで回復した。
【0034】
比較例1
実施例1と同じ使用済み触媒50gを、次亜塩素酸ナトリウム水溶液300gまたは塩酸300gを用いて賦活を試みた。操作は実施例1と同様とした。結果を表2に示した。
【0035】
【表2】
【0036】
次亜塩素酸ナトリウムにて処理した触媒の活性指数は28で、賦活の効果はほとんど見られなかった。
【0037】
また、塩酸による処理では、活性指数は12に低下した。これは触媒から活性種であるニッケル酸化物が溶解したためで、触媒は黒色から緑色に変化した。
【0038】
実施例2
参考例1で得られたニッケル担持触媒300gを実施例1と同じサイズの固定床反応器に充填し、廃水を処理した。
【0039】
廃水には、エチレングリコール、メタノールなどが含まれ、COD濃度は530wtppmであり、この廃水に酸化剤である次亜塩素酸ナトリウム水溶液を混合した後、固定床反応器へ連続的に供給して処理した。反応温度は75℃、反応器入口でのpHは9.5、CODに対する次亜塩素酸ナトリウムの添加量は重量比で7.5とした。廃水の流量は2L/時間とし、固定床内をアップフローで通液した。
【0040】
その結果、運転開始から1日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々3wtppm、15wtppm、30日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々15wtppm、60wtppm、90日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々54wtppm、152wtppmであり、触媒性能はゆっくりではあるが経時的に低下した。そこで、90日後の使用済み触媒を一部抜き出し、触媒活性指数を求めたところ、28にまで低下していた。残りの触媒は、固定床反応器内から抜き出すことなく、そのまま水酸化ナトリウム水溶液で賦活処理を実施した。
【0041】
賦活処理は、30wt%水酸化ナトリウム水溶液を固定床反応器の下部から入れ、その流量は0.3L/時間でアップフローとした。温度85℃で100時間、連続通液した。処理後、触媒の一部を抜き出し、触媒活性指数を求めたところ、83にまで賦活できていた。賦活した触媒は固定床反応器に充填したまま、賦活処理前と同様に廃水を処理した。処理1日後のCOD濃度と次亜塩素酸ナトリウム濃度を測定したところ、各々4wtppm、18wtppmであり、ほぼ新触媒並みの性能に賦活できていることを確認した。
【0042】
実施例3
オーバーフロー管付き2Lセパラブルフラスコの攪拌槽中に、参考例2で得られたコバルト担持触媒160gを入れ、攪拌速度300rpm、廃水流量2L/時間にて連続処理した。廃水中のCOD成分はメタノールとエタノールで、COD濃度は380wtppmであった。酸化剤には次亜塩素酸ナトリウムを用い、CODに対する次亜塩素酸ナトリウムの添加量は重量比で7、反応温度80℃、反応器入口のpHは9とした。
【0043】
その結果、運転開始から1日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々2wtppm、18wtppm、40日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々9wtppm、25wtppm、120日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々22wtppm、47wtppmであり、触媒活性はゆっくりではあるが経時的に低下した。120日後の使用済み触媒の一部を取り出し、触媒活性指数を求めたところ、32にまで低下していた。残りの触媒は、反応槽から抜き出すことなく、そのまま水酸化ナトリウム水溶液で賦活処理した。
【0044】
賦活処理は、20wt%水酸化ナトリウム水溶液を0.2L/時間で連続的に供給し、処理液はオーバーフロー管より連続的に排出した。温度は80℃で150時間処理し、処理終了後、水酸化ナトリウムを純水で置換した。反応槽上部から触媒の一部を取り出し、活性指数を求めたところ、85にまで賦活できていた。残りの触媒は反応槽に入れたまま、賦活前と同条件にて廃水処理を実施した。廃水を通液し、1日後にCOD濃度と次亜塩素酸ナトリウム濃度を測定したところ、各々3wtppm、12wtppmであり、ほぼ新触媒並みの性能にまで賦活できていた。
【0045】
参考例1
市販の触媒ACCENT(ジョンソンマッセイ社製)290gを内径40mm、充填高300mm、内容積380mLのアクリル製の固定床反応器に充填し、廃水を処理した。

【0046】
廃水は、メタノール、エタノールなどが含まれ、COD濃度は660wtppmであった。この廃水を1L/時間で固定床反応器へ連続的に供給して処理した。酸化剤は次亜塩素酸ナトリウムを用い、CODに対して重量比で8となるように供給した。反応温度は60℃、反応器入口のpHは10とした。
【0047】
その結果、運転開始から1日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々10wtppm、110wtppm、15日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々37wtppm、340wtppm、30日後の処理液のCOD濃度、次亜塩素酸ナトリウム濃度は、各々68wtppm、540wtppmであり、触媒性能は低下した。そこで、30日後の使用済み触媒を全量抜き出し、一部を用いて触媒活性指数を求めたところ、17にまで低下していた。
【0048】
賦活処理には、別の固定床反応器を用いた。活性が低下した触媒の約半分に相当する140gを内径40mm、高さ1000mmの固定床反応器に入れ、この反応器での触媒充填高さは140mmとし、10wt%水酸化ナトリウム水溶液を固定床反応器の下部から1L/時間の流量で連続的に供給した。温度は80℃、処理時間200時間とした。処理後、触媒の一部を抜き出し、触媒活性指数を求めたところ、81にまで賦活できていた。
【0049】
比較例2
実施例4の劣化触媒のうち、賦活していない140gを以下の操作にて賦活を試みた。実施例4の賦活に用いた内径40mm、高さ1000mmの固定床反応器に、劣化触媒140gを充填し、下部から10wt%水酸化ナトリウムを1L/時間と、空気20NL/時間を連続的に送り、温度80℃で200時間処理した。その結果、触媒は空気によって流動化し、触媒同士が衝突して、一部破砕され、微粒の発生が認められた。200時間の処理後、触媒の一部を取り出し、触媒活性指数を求めたところ、23であり賦活が不十分であった。これは、送入した空気によって、触媒の一部が破砕され、活性が低下したことと、触媒とアルカリ剤の接触が阻害されたことによると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、劣化した触媒の活性を回復させ、長期間に亘って触媒を交換することなく使用できる方法に関する。