(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
繊維束と熱可塑性樹脂からなる積層体を加熱及び加圧する工程を含む熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグの製造方法であって、前記積層体を加熱及び加圧する工程の前またはその工程と同時に、前記積層体に、熱可塑性樹脂を加熱及び加圧する際に、重合などの反応を起こさず、かつ、熱可塑性樹脂への雰囲気温度でのヘンリー定数が0.004g−gas/g−polymer/MPa以上である不活性ガスを浸透させる工程を含む、前記方法。
繊維束に熱可塑性樹脂を含浸してなる熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグをホットスタンピング成形により成形する工程を含む繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法であって、
前記ホットスタンピング成形を、熱可塑性樹脂を加熱及び加圧する際に、重合などの反応を起こさず、かつ、熱可塑性樹脂への雰囲気温度でのヘンリー定数が0.004g−gas/g−polymer/MPa以上である不活性ガスの雰囲気下で行う、前記方法。
【背景技術】
【0002】
強化繊維により強化された熱可塑性樹脂成形体の製造には、これを作製するための材料として、いわゆるプリプレグが用いられる。プリプレグは炭素繊維などの強化繊維からなる繊維束にマトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂を含浸させて得られるものであり、その製造方法として種々の方法が知られている。
例えば、熱可塑性樹脂を含む溶液に繊維束を浸漬して繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させる方法や、繊維束の上から熱可塑性樹脂を塗布した後、加圧ローラー等により加圧する方法で熱可塑性樹脂を繊維束全体に拡げていく方法が挙げられる。
しかし、繊維束を熱可塑性樹脂を含む溶液に浸漬したり、繊維束にマトリクックス樹脂を塗布して加圧ローラー等により加圧するだけでは、繊維束の中までマトリックス樹脂が浸透しにくく、繊維束への樹脂含浸量が低くなることがあった。
【0003】
上記のような問題を解決するためのプリプレグシートの製造方法として、例えば、炭素繊維の繊維束に熱可塑性樹脂などのマトリックス樹脂を含浸させたシートを得るために、繊維束とその繊維束に含浸させたマトリックス樹脂の加圧を、一対のローラーで行うとともに、このローラーのうち少なくとも一方のローラーをこれらの回転軸方向に移動させながら行う方法が開示されている(例えば、特許文献1)。この方法では、繊維束へのマトリックス樹脂の含浸量を高められるとともに、繊維束の拡幅量を向上させることができることが記載されている。
【0004】
一方、プリプレグを成形させて得られる繊維強化熱可塑性樹脂シートの成形方法として、これまでに種々の方法が提案されている。そのような成形方法の中でも、ホットスタンピング法では、成形サイクルが短く、比較的大型の成形品の成形に適している。ホットスタンピング法では、スタンパブルシートと呼ばれるものを基材として用い、そのようなスタンパブルシートとしては、多数本の炭素繊維を引き揃えてシート状にした後、これに樹脂を含浸させてシート状に積層させたプリプレグが使われている。
このようなプリプレグは、予め加熱された状態で成形機に供給され、型に合わせて高速でプレスされて成形が行われる。
【0005】
このようなホットスタンピング法では、成形までの時間が短くて済むものの、プリプレグを樹脂が溶融する温度に保持して高圧でスタンピングを行っても、炭素繊維内への樹脂の含浸が完全に行われないことがあり、これがいわゆるボイドとなって、成形品の特性を損なうことがあった。
【0006】
【特許文献1】特開2011−240666号公報
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグの製造方法は、繊維束と熱可塑性樹脂からなる積層体を加熱及び加圧する工程を含み、前記積層体を加熱及び加圧する工程前またはその工程と同時に、前記熱可塑性樹脂に不活性ガスを浸透させる工程を含むことを特徴とする。
上記方法によれば、熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグにおいて、繊維束への樹脂の含浸性を高め、繊維間及び繊維束と熱可塑性樹脂の界面におけるボイドの発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法は、繊維束に熱可塑性樹脂を含
浸してなる熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグをホットスタンピング成形により成形する工程を含む繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法であって、前記ホットスタンピング成形を不活性ガスの雰囲気下で行うことを特徴とする。
上記方法を用いて得た繊維強化熱可塑性樹脂シートでは、その材料である熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグにおける熱可塑性樹脂の繊維束への含浸性が良好になることで、シート内でのボイドを低減させることができる。その結果、繊維強化熱可塑性樹脂シートに求められる良好な曲げ強度や弾性率を達成することができる。
【0015】
<熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグの製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグ(以下、単にプリプレグともいう)の製造方法により得られるプリプレグは、熱可塑性樹脂からなる層を少なくとも二層有し、その層の間に強化繊維としての繊維束からなる層を有するものであることが好ましい。
あるいは、後述するフィルム状の熱可塑性樹脂とシート状の強化繊維からなる二層構造であってもよい。
【0016】
前記熱可塑性樹脂としては、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を用いることができる。また、これらの混合物を用いてもよい。さらに、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。
また、得たい成形品の要求特性に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を添加しておくこともできる。
上記の熱可塑性樹脂は、前記プリプレグを作製する際には、操作の簡便性から、厚さ10〜100μmのフィルム状のものを用いることが好ましい。
【0017】
上記強化繊維としての繊維の種類は特に限定されず、炭素繊維をはじめ、ガラス繊維やアラミド繊維など、あらゆる強化繊維を使用可能であり、これらを組み合わせて用いたハイブリッド構成も採用可能である。これらの中では、最終成形物の強度等の機械特性を考慮すると、炭素繊維を使用することが好ましい。また、強化繊維の平均繊維直径は、通常、1〜50μmで、5〜20μmであるものが好ましい。
強化繊維としての繊維束としては、通常、目付が10〜1000g/m
2のもので、ス
トランドを平面上に展開させたシート状のものを用いる。この繊維シートについては、通常、長繊維の方向が一方向に配向されたものや、ストランドを織布にしたものや不織布を用いる。
シート状の強化繊維の厚さとしては、製品の十分な強度を確保する観点と、熱可塑性樹脂の十分な含浸を確保することを両立する観点から、通常、平均厚さとして10〜200μmである。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグの製造方法では、上記熱可塑性樹脂の形態として例えば前述したフィルム状のものを二層分準備し、その二層の間に上述した繊維束から構成された繊維シート挟み込み、加熱するとともに加圧を行う工程を経て積層体とすることで作製できる。
より具体的には、対を形成する熱可塑性樹脂フィルムを送り出す2つのロールから二層分のフィルムを送り出すとともに、繊維シートのロールから供給される繊維シートをその層間に挟み込ませ、熱可塑性樹脂フィルム−繊維シート−熱可塑性樹脂フィルムの三層構造、いわゆるサンドイッチ構造が構成された後に、加熱及び加圧する手段を経て繊維シー
トに熱可塑性樹脂を含浸させ、前記プリプレグを作製することができる。加熱及び加圧する手段としては、公知のものを用いることができ、二個以上の熱ロールを利用したり、予熱装置と熱ロールの対を複数使用するなどの多段工程を要するものであってもよい。
ここで、熱可塑性樹脂からなる層は一層である必要はなく、繊維シートを挟む熱可塑性樹脂とは別の種類の熱可塑性樹脂からなるフィルムを、上記のような装置を用いてさらに積層させてもよい。
熱可塑性樹脂としてフィルム状のものを一層のみ使用し、シート状の強化繊維と二層のみの構成でプリプレグを作製する場合には、上記の三層構造のプリプレグを作製するための装置において、熱可塑性樹脂のフィルムを送り出すロールを一つにすればよい。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグの製造方法では、前記の繊維束と熱可塑性樹脂からなる積層体を加熱及び加圧する工程の前、またはその工程と同時に、前記積層体に不活性ガスを浸透させる工程を含む。本発明でいう「浸透させる」とは、前記積層体の内部の間隙に存在する空気を不活性ガスで置換させることをいう。また、積層体を構成する熱可塑性樹脂に、不活性ガスを溶解させることも含む。
【0020】
前記の積層体を加熱及び加圧する工程の前に、前記積層体に不活性ガスを浸透させる工程を含む場合には、前記積層体に不活性ガスを浸透させる工程として、予め熱可塑性樹脂フィルム−繊維シート−熱可塑性樹脂フィルムの三層構造、もしくは繊維シート−熱可塑性樹脂フィルムの二層構造が構成された積層体を準備し、これを適当な圧力容器に入れ、この容器内を適当なガス供給装置によりガスを供給して圧力0〜1MPa(ゲージ圧)の不活性ガスで充満させて、0.1〜10分程度保持することで、積層体の内部に存在する空気を不活性ガスで置換させる工程が挙げられる。
また、前記の積層体を圧力0〜1MPa(ゲージ圧)の不活性ガスで充満されたチャンバー内を通過させることにより、積層体の内部に存在する空気を不活性ガスで置換させる工程も挙げられる。
上記の積層体に不活性ガスを浸透させる工程の温度としては、通常、常温〜400℃で行う。
上記のような工程を経て、前記積層体を加熱及び加圧し、熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグを作製できる。
【0021】
一方、前記積層体を加熱及び加圧する工程と同時に、前記積層体に不活性ガスを浸透させる工程を含む場合には、前記積層体に不活性ガスを浸透させる工程として、前記加熱及び加圧を行う手段として例えばロールを用い、このロールを、適当なガス供給装置によりガスを供給して圧力0〜1MPa(ゲージ圧)の不活性ガスで充満されたチャンバー内に配置させることで、加熱及び加圧時に積層体に不活性ガスを浸透させることができる。
【0022】
本発明で用いることのできる不活性ガスは、熱可塑性樹脂を加熱及び加圧した際に、当該熱可塑性樹脂への溶解性が高いものを用いることが好ましい。
本発明でいう不活性ガスは、熱可塑性樹脂を加熱及び加圧する際に、重合などの反応を起こさず、かつ、熱可塑性樹脂への雰囲気温度でのヘンリー定数が0.004g−gas/g−polymer/MPa以上である。
そのような不活性ガスとして、例えば、二酸化炭素やフルオロカーボン類、炭素数1〜5の炭化水素が挙げられる。炭素数1〜5の炭化水素としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンのような飽和炭化水素や、エチレンやプロピレンのような不飽和炭化水素が挙げられる。これらの中でも二酸化炭素及びプロピレンが、扱いの容易性や熱可塑性樹脂への溶解性から特に好ましい。
上記の不活性ガスを混合して用いることもできる。
【0023】
なお、これらの不活性ガスの熱可塑性樹脂への溶解度は、例えば、文献,Y. Sato, et
al., Fluid Phase Equilibria, vol.162, p.261 (1999)、R. A. Gorski, Journal of Cellular Plastics, vol.22, p.21 (1986)、A. Tsuboi, Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physics, vol.39, p.1255 (2001)に記載されている。これらの文献によると
、ポリプロピレン樹脂に対する雰囲気温度におけるCO
2のヘンリー定数は0.009g
−gas/g−polymer/MPaであり、ポリプロピレン樹脂に対するN
2のヘン
リー定数は0.001g−gas/g−polymer/MPaである。またポリプロピレン樹脂に対するプロピレンのヘンリー定数は0.029g−gas/g−polymer/MPaである。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグの製造方法における、上記加熱温度は、熱可塑性樹脂の種類にもよるが、通常、100〜400℃である。一方、加圧時の圧力は、通常0.1〜10MPaである。
上記のような操作を経ることで、積層体に存在する熱可塑性樹脂に、積層体の内部で空気と置換された不活性ガスが溶解し、熱可塑性樹脂の粘度が低下して、強化繊維内に熱可塑性樹脂が含浸しやすくなる。
これによって、熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグにおいて、ボイドの生成を防ぐことができる。
【0025】
上記熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグの厚さは、取扱やすさの観点と、高強度を維持する観点から、通常、厚さは50〜500μmであり、繊維の重量比率は、熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグの重量部を100とした場合、高強度を維持する観点と、加圧する圧力を低減させる観点から、通常、10〜90重量部である。熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグにおける繊維の重量比率は、JIS K7052に基づき測定できる。
【0026】
<繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法>
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法(以下、単に本発明の製造方法ともいう)では、熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグをホットスタンピング成形を行わせる材料として用いる。
熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグは、上記の本発明のプリプレグの製造方法を用いて得たものを用いてもよいし、市販されているものを用いてもよい。
上記プリプレグについては、繊維が一方向に配向されているものを用いることができる。
これを縦横比が、例えば100:1〜1:100となるようにカットしたものを用い、繊維の配向方向を揃えて後述するダイに積層させることで、ホットスタンピング成形を経た後も繊維の配向性を維持することができる。これによれば、連続繊維が一方向に配向した、いわゆるユニダイレクション(UD)シートとなる。ダイに積層させる際には、プリプレグが2〜100層積層されるように配置することが好ましい。
【0027】
一方で、上記プリプレグを予め小片に裁断し、これを繊維方向がランダムになるようにダイに積層させてホットスタンピング成形してもよい。これによれば、連続繊維がランダムに配向した、いわゆるランダムシートとなる。
ランダムシートを作製する際に用いる上記プリプレグの小片としては、繊維が一方向に配向されているプリプレグを縦横比が、通常10:1〜1:10となるようにカットされたものを用いることができる。
これをホットスタンピング成形時に、ダイの平面上に、繊維の配向方向がランダムになるように分散して積層させることで、上記のようにホットスタンピング成形後の繊維強化熱可塑性樹脂シート(以下、単に本発明にかかるシートともいう)において、強化繊維がランダムに配向されたものを得ることができる。
ダイに積層させる際には、プリプレグが2〜100層積層されるように配置することが好ましい。
【0028】
本発明にかかるシートがUDシートである場合も、ランダムシートである場合でも、前記カットされたプリプレグの大きさとしては、上述の縦横比を満たすもので、繊維方向の一辺の長さが1〜100mmのものが挙げられる。
また、前記カットされたプリプレグの形状は、生産効率の観点から四角形であることが好ましいが、これに限定されるものではなく、繊維強化熱可塑性樹脂シートにおける繊維方向を一方向に揃えることさえできれば、多角形のものや、辺の一部に曲線を有するものであってもよい。
【0029】
本発明では、上記のようにホットスタンピング成形により、前記プリプレグを加熱及び加圧を行う。
前記加熱については、前記プリプレグに用いられている熱可塑性樹脂の種類にもよるが、通常100〜400℃、好ましくは150〜300℃で加熱する。
加熱に関しては、予備加熱を行ってもよい。予備加熱については、前記プリプレグに用いられている熱可塑性樹脂の種類にもよるが、通常150〜400℃、好ましくは200〜380℃で加熱する。
圧力としては、好ましくは0.1〜10MPaであり、より好ましくは0.2〜2MPaである。この圧力については、プレス力をプリプレグの初期面積(m
2)で割った値と
する。
上記加熱及び加圧する時間は、通常0.1〜30分、好ましくは0.5〜10分である。
一方、冷却時間は、通常0.5〜30分である。
上記ホットスタンピング成形を経た本発明にかかる繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さは0.5〜10mmとなる。
【0030】
上記のように本発明の製造方法では、前記スタンピング成形を不活性ガスの雰囲気下で行う。
前記スタンピング成形を不活性ガスが存在する条件下で行うことで、繊維強化熱可塑性樹脂シートの材料である熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグ中に存在していたボイドの空気が不活性ガスで置換されると共に、そのプリプレグに熱と圧力が加わることで、プリプレグ中のボイドの不活性ガスが熱可塑性樹脂に溶解し、プリプレグ中のボイドを低減しやすくなる。また、チョップドプリプレグのようなプリプレグの小片が重なる部分において、不活性ガスが熱可塑性樹脂に溶解することにより、熱可塑性樹脂の流動性が高まり、隣接する小片間におけるボイドの発生を防ぐことができる。
【0031】
本発明の製造方法では、ホットスタンピング成形により、上記プリプレグを加熱及び加圧するが、その際に用いるダイについては、所望の形状を有するものを用いることができる。ダイの材質についても、繊維強化熱可塑性樹脂シートのホットスタンピング成形で通常用いられるものを採用することができ、金属製のいわゆる金型を用いることができる。
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法において、前記ホットスタンピング成形を不活性ガスの雰囲気下で行わせる方法としては、ホットスタンピングのダイのキャビティ内に適当な手段で不活性ガスを供給し、ダイを不活性ガスで充満させる方法や、ダイを含むホットスタンピング成形にかかる装置を圧力容器の中に配置し、当該圧力容器の内部に、適当な手段により供給した不活性ガスを充満させる方法などが挙げられる。
【0032】
本発明の製造方法におけるホットスタンピング成形については、上述した特徴を有すること以外は、繊維強化熱可塑性樹脂シートの作製に用いられる通常の装置、例えば加熱プレス機を用いて行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を記載して、本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に記載される成分、割合、手順等は、本発明の趣旨から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に記載される具体例に制限されるものではない。
【0034】
<実施例1:炭素熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグの作製>
炭素繊維TR50S−15L−AD(三菱レイヨン社製)からなる長繊維を一方向に配向した目付け98g/m
2の炭素繊維ストランドのシート状物の両面に、変性ポリプロピ
レン(以下、PPともいう)フィルム(モディックP958、三菱化学社製、目付け36g/m
2)を配置し、シート状物をフィルムで挟んだサンドイッチ状の積層体を得た。こ
の積層体をあらかじめ内部に大気を二酸化炭素に置換した箱型のデシケータにいれ(0MPa:(ゲージ圧))の二酸化炭素雰囲気下で60分保持した後に、260℃に加熱した金属ロール(圧力1MPa)を通して、変性PPフィルムをシート状物に溶融含浸させた。得られた炭素熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグ(以下、樹脂含浸シート状物ともいう)の厚さは0.11〜0.13mmであった。繊維含有率は40重量%であった。
【0035】
<比較例1>
加熱した金属ロールに通す前に二酸化炭素雰囲気下で積層体を保持しなかったこと以外は実施例1と同様の手順で、炭素熱可塑性樹脂含浸繊維プリプレグを得た。
【0036】
<実施例2:炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの作製>
上記で得られた樹脂含浸シート状物を、幅14mmにスリットした後、ロータリー式のカッターを用いて、長さ25mmにカットして、チョップドプリプレグを得た。このチョップドプリプレグ40gを、あらかじめ二酸化炭素で充満した金型内(圧力0MPa:ゲージ圧)に繊維配向がランダムになるように積層した。二酸化炭素雰囲気を保持したままその金型を210℃に加熱した小型加熱プレス(ミニテストプレスMP−2FH、東洋精機社製)に挟んで5分間予備加熱を行った。その後、プリプレグに対する圧力0.7MPa(油圧3MPa)でプレスし10分間保持した。その後20℃に保持した小型プレス(ミニテストプレス、東洋精機社製)に金型を挟み、プリプレグに対する圧力1.2MPa(油圧5MP)で10分間保持し、厚さ2mmの炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを得た。得られたシートは機械的物性が実質的に等方性のものであった。
【0037】
<比較例2>
二酸化炭素を金型内に充満させなかったこと以外は実施例2と同様の手順で炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを得た。
【0038】
<比較例3>
二酸化炭素ではなく窒素を用いたこと以外は実施例2と同様の手順で炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを得た。
【0039】
実施例2、比較例2及び3で得られた炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートを用い、曲げ強度と曲げ弾性率の測定を以下の手順で行った。結果を表1に示す。
【0040】
<曲げ強度と曲げ弾性率の測定>
曲げ強度と曲げ弾性率の測定はJIS K7017に従って測定した。またCV値とは、相対的な散らばりを表す指標(変動係数)であり、(標準偏差/測定値の平均値)×100(%)で表される値であり、この値が小さいほどサンプル間の物性のばらつきが小さいことを示している。測定数は各サンプル5点とした。
【0041】
【表1】