(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以下の説明において、対象とする半導体装置は、電界効果型の薄膜トランジスタ(TFT)であり、特にZTOを材料に用いたTFT(ZTO−TFTと記す)を指すものとする。従って、以下に薄膜トランジスタと称する場合は、特に断らない限り、ZTO−TFTを意味するものとする。
【0011】
ZTO−TFTのOLED表示装置適用を考えた場合、高いIon/Ioff比(最大ドレイン電流とカットオフ時のドレイン電流との比)、高い移動度、小さいs値、絶対値で小さいしきい値電圧シフト量、加えてしきい値電圧(Vth)の安定性が必要である。具体的には、10
7以上のIon/Ioff比、5cm
2/Vs以上の移動度、0.3V以下のs値、光や電気に対するストレス印加後のしきい値電圧シフト量ΔVth=±3V以内(理想は0V)がより好ましく、その中でもOLED表示装置を安定動作するためには、5cm
2/Vs以上の移動度と光や電気に対するストレス印加後のΔVthが絶対値で3V以下、および初期のしきい値電圧が0V近傍を有するZTO−TFTを実現することが重要である。
【0012】
ZTO−TFTであり、特許文献1においてZTOにAl、Hf、Ta、Ti、Nb、Mg、Gaのうち少なくとも一種類を0.01〜0.3原子%添加したTFTでは、光ストレス後のしきい値電圧シフト量は低減するもののΔVthが絶対値で4Vと大きく不十分であり、OLED表示装置への適用を考えた場合、PBS(positive bias stress)およびNBIS(negative bias irradiation stress)でΔVth=±3V以内に抑える事が好ましい。また、特許文献1では、ZTOの添加材料としてAlやGaが紹介されているが、それらの材料はZnOに対しドーパント材としてよく知られている。AlやGaを添加することでキャリア数増加によるしきい値電圧(Vth)の負側へのシフトが生じるため、OLED表示装置への適用を考えると、しきい値電圧の制御が困難であることが予想される。
【0013】
本発明者によるTFT特性および信頼性向上を目的とした3d遷移金属のバナジウム酸化物、および4d遷移金属のモリブデン酸化物を添加したZTO−TFTの電流−電圧特性(Id−Vg)を
図1に示す。電子相関の強い材料ほど添加した際、キャリアを誘発する可能性があり、MoおよびVの酸化物を添加したZTOは導体化しゲート電圧−10V〜20VでOFFすることが困難であった。このため、添加量の最適化や電子相関の弱い材料の適用など検討する必要がある。
【0014】
また、ZTO−TFTの保護膜を形成する際、保護膜形成過程におけるイオン化元素の衝突などによるZTO半導体層表面の酸素欠損により、ZTO膜表面のキャリアが増加し導電化する。それにより、ZTO−TFT特性が著しく劣化することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ZTO−TFTにおいて、5cm
2/Vs以上の高い移動度と光ストレス耐性の向上には、酸化物半導体とゲート絶縁層界面における酸素欠損に起因するトラップ準位を低減することが重要となる。このトラップ準位の低減には、酸素を補償することで酸素欠陥を低減することが重要となる。このため、本発明者は、ZTO中の酸素欠損を補償には強相関電子材料である遷移金属酸化物などによる元素添加が有効であると考えた。具体的には、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cuからなる3d遷移金属、Y,Zr,Nb,Mo,Tc,Ru,Rh,Pd,Agからなる4d遷移金属、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Auからなる5d遷移金属が挙げられる。それらの3d、4d、5d遷移金属酸化物においては、3d、4d、5dの順に電子相関が弱くなることが知られて、電子相関が強いとキャリア生成などを引き起こすことが予想される。しかし、適度な相関を持つことでZTOのTFT特性を著しく低下させること無く、酸素補償によるトラップ準位低減を可能であるとする考えから、本発明者は5d遷移金属酸化物が有効であると推測した。
【0016】
電子相関の強い3dおよび4dの遷移金属をZTOに添加した場合、キャリア生成によるしきい値電圧の負側へのシフト量が大きく制御困難であったが、5d遷移金属の添加によりZTO−TFTへの影響が少なく優れたTFT特性を示すことが確認された。5d遷移金属の中で例えば、5d遷移金属に含まれるタングステン酸化物を添加したときの薄膜トランジスタの電流−電圧特性(Id−Vg)を
図2に示す。図より、ZTOにタングステン酸化物を添加することにより、Vthが0V近傍にシフトした。これは、膜中の酸素欠損が低減し膜中のキャリアが抑制されたためと考えられる。このことから、ZTOの添加材料としては5d遷移金属酸化物が有効であることがわかった。
【0017】
すなわち本発明は、酸化亜鉛及び酸化錫を主成分とするZn−Sn−O系酸化物半導体材料を焼結してなる酸化物半導体ターゲットであって、前記Zn−Sn−O系酸化物半導体材料を構成するZnの原子%による組成比[Zn]/([Zn]+[Sn])が0.5〜0.85の範囲で構成され、かつ前記酸化物半導体材料に、5d遷移金属が添加されており、前記5d遷移金属がW(タングステン)であって、該Wの添加量は、0.07〜3.8原子%の組成範囲であることを特徴とする酸化物半導体ターゲットである。この場合、より好ましい前記Wの添加量は、0.07〜2.0原子%の組成範囲である。
【0018】
本発明の酸化物半導体ターゲットは、前記Wの代わりに、前記5d遷移金属としてTa(タンタル)を用い、該Taの添加量は、0.5〜4.7原子%の組成範囲であってよい。この場合、より好ましい前記Taの添加量は、0.5〜2.2原子%の組成範囲である。
【0019】
また、前記Wの代わりに、前記5d遷移金属としてHf(ハフニウム)を用い、該Hfの添加量は、0.32〜6.4原子%の組成範囲である酸化物半導体ターゲットであってよい。この場合、より好ましい前記Hfの添加量は、0.32〜2.1原子%の組成範囲である。
【0020】
また、前記Wにさらに、前記5d遷移金属としてTa(タンタル)、Hf(ハフニウム)の金属元素を用い、それぞれの前記金属元素を単独で前記酸化物半導体材料に添加量した時の最大添加量を1として、添加するそれぞれの前記金属元素を該最大添加量で規格化し、規格化したそれぞれの金属元素の添加量の合計が1を超えない範囲で調節した値を上限値とし、それぞれの前記金属元素を単独で前記酸化物半導体材料に添加量した時の最小添加量を1として、添加するそれぞれの前記金属元素を該最大添加量で規格化し、規格化したそれぞれの金属元素の添加量の合計が1以上になる範囲で調節した値を下限値とした時、前記W、Ta、Hfの合計添加量は、前記上限値と前記下限値の組成範囲であることを特徴する酸化物半導体ターゲットであってよい。この場合、より好ましくは、前記金属元素の最大添加量は、Wが3.8原子%、Taが4.7原子%、Hfが6.4原子%であり、前記金属元素の最小添加量は、Wが0.07原子%、Taが0.5原子%、Hfが0.32原子%である。
【0021】
また、本発明の上記酸化物半導体ターゲットは、前記焼結した酸化物半導体材料の相対密度が95%以上であることが好ましい。
【0022】
本発明の上記酸化物半導体ターゲットを用い、光ストレス耐性などの信頼性向上を目的とした保護膜として好適な新規な酸化物半導体材料を得ることができる。すなわち本発明の酸化物半導体材料は、半導体装置の保護膜に用いられる絶縁性を有する酸化物半導体材料であって、酸化亜鉛及び酸化錫を主成分とするZn−Sn−O系酸化物半導体材料に、5d遷移金属が添加され、前記5d遷移金属が、W(タングステン)であり、該Wを8原子%以上含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の酸化物半導体材料は、前記Wの代わりに、前記5d遷移金属としてTa(タンタル)を用い、該Taを9原子%以上含んでよい。
【0024】
また、前記Wの代わりに、前記5d遷移金属としてHf(ハフニウム)を用い、該Hfを11原子%以上含む酸化物半導体材料であってよい。
【0025】
また、本発明の上記酸化物半導体ターゲットを用いて半導体基板上に形成された半導体層と、前記半導体層に設けられ互いに離隔して配置されたソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極及びドレイン電極との間に位置する前記半導体層の領域に、バイアス電位を与えることが可能な位置に設けられたゲート電極と、を備えることを特徴とする、本発明の電界効果トランジスタを得ることができる。
【0026】
また、前記半導体層、前記ソース電極、前記ドレイン電極を含む領域を覆うように被覆する保護用絶縁膜を有し、前記保護用絶縁膜は、前記酸化物半導体材料のいずれかで構成されることを特徴とする電界効果トランジスタであってよい。
【0027】
なお、本発明には、上記半導体膜材料および保護膜材料のスパッタリングターゲットも含まれる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、5cm
2/Vs以上の高い移動度と、ΔVth=±3V以内の安定したしきい値電圧シフト量を有するZTO薄膜トランジスタを実現することができる。
【0029】
また、本発明になる材料を用いれば、チャネルエッチ構造の実現と、膜中の酸素欠損の少ない低ダメージで保護膜形成が可能となり、低コストで信頼性の高い表示装置を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、応用例、詳細説明、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。 さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数等(個数、数値、量、範囲等を含む)についても同様である。
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。さらに、実施の形態を説明する図面においては、構成を分かり易くするために、平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0033】
<実施例1>
まず、本発明の実施例1における酸化物半導体スパッタリングターゲットについて、説明する。
【0034】
図3は本発明のスパッタリングターゲットを適用したマグネトロンスパッタリング装置の模式図である。酸化物半導体の堆積方法の一例を以下に示す。
【0035】
薄膜を堆積しようとするサンプルをサンプルホルダーSHの表面上に、酸化物半導体ターゲットTGに対向させて載せる。
【0036】
ロータリーポンプRPで粗引きし、引き続きターボ分子ポンプTMで所望の真空度に保持されたチャンバー内に、反応ガスRGが調節弁の開閉により、導入される。スパッタ電源を作動させスパッタカソードCDにバイアスを印加することにより、導入された反応ガスにより酸化物半導体ターゲット中の酸化物半導体を叩きだし、サンプル表面に酸化物半導体を堆積していく。
【0037】
次に、上述したマグネトロンスパッタリング装置で用いる本実施例で用いるスパッタリングターゲットについて詳述する。
【0038】
本願発明の酸化物焼結ターゲットを製造する方法は概ね以下の通りである。まず、高純度の酸化亜鉛(純度>99.9%)および酸化錫粉末(純度>99.9%)を[Zn](/[Zn]+[Sn])組成比が0.6となるようなモル分率の量にそれぞれの粉末を秤量し、次に酸化タングステン粉末(純度>99.9%)をWが0〜7.8原子%となるように加えた後、水系溶媒を加え、数時間以上混合してスラリーとする。このスラリーにバインダーとなるポリビニルアルコール等を加え、乾燥後、造粒した造粒粉を型枠に入れて成形し、固形物中のバインダーを取り除くため大気中600℃前後で数時間焼成する。この固形物を更に窒素気流中または減圧下で1300℃前後の温度で数時間以上焼結し、ターゲット材料の原料体とする。無酸素状態での焼結により、酸素欠損を導入した導電性ターゲットが形成される。得られた焼結体を研磨により求める形状、大きさに成形し、焼結ターゲットの完成品を得た。
【0039】
完成品焼結ターゲットに含有するWは0〜7.8原子%の範囲であった。
【0040】
なお、焼結した酸化物半導体材料の相対密度が95%以上であった。
スパッタリングターゲットとして使用する場合には、スパッタリング装置のカソード電極側の金属裏板にボンディング処理を行い、スパッタリングターゲットとして使用できるようになる。
【0041】
図4は本発明のスパッタリングターゲットを利用して形成した酸化物半導体チャネル層を利用した薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。ここで用いたトランジスタの薄膜は、
図3にマグネトロンスパッタリング装置を用い、本発明のZTOスパッタリングターゲットTGを用いて作製した。
【0042】
作製した薄膜は、
図4に示したボトムゲート/トップコンタクト型薄膜トランジスタに適用している。ここで、ボトムゲートとは、ゲート電極がチャネル層(酸化物半導体層)よりも下層に配置される構造を意味し、トップコンタクトとは、ソース電極およびドレイン電極がチャネル層よりも上層に配置される構造を意味している。
【0043】
本実施例のボトムゲート/トップコンタクト型薄膜トランジスタは、以下の方法によって製造される。
【0044】
図5に、上記薄膜トランジスタのプロセスフローを示す。
【0045】
まず、絶縁性の基板SUを用意する。基板SUの材料としては、Si(シリコン)、サファイア、石英、ガラス、フレキシブルなプラスチックフィルムなどを例示することができる。プラスチックフィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどを例示することができる。また、必要に応じて上記した材料の表面に絶縁コーティング層を設けたものを使用することもできる。
【0046】
次に、
図5Aに示すように、基板SUの上面に導電膜を堆積し、続いてこの導電膜をパターニングすることによって、ゲート電極GEを形成する。ゲート電極GEを構成する導電膜としては、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、W(タングステン)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Ti(チタン)、Ni(ニッケル)、Ta(タンタル)、Ag(銀)、Co(コバルト)、Zn、Au(金)、Pt(白金)などのような金属の単層膜、これらの金属を2種以上含む合金膜、これらの金属の積層膜を例示することができる。また、ITO(In−Sn−O:インジウム錫酸化物)、Al、Ga、InまたはB(ボロン)などを添加したZnO(酸化亜鉛)のような導電性金属酸化物膜や、これらの導電性金属酸化物と前記金属との積層膜を使用することもできる。さらに、TiN(窒化チタン)のような導電性金属窒化物の単層膜、導電性金属窒化物と前記金属との積層膜などを使用することもできる。
【0047】
上記した各種導電膜の堆積は、CVD法、スパッタリング法、蒸着法などにより行い、パターニングは、フォトレジスト膜をマスクに用いたドライエッチングまたはウェットエッチングにより行う。
【0048】
引き続き、上記ゲート電極GEが形成された基板SUの上面にゲート絶縁膜GIを形成する。
【0049】
ゲート絶縁膜GIを構成する絶縁膜としては、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、Y
2O
3(酸化イットリウム)膜、HfO
2(酸化ハフニウム)膜、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)膜、有機系高分子絶縁膜などを例示することができる。有機系高分子絶縁膜の材料としては、ポリイミド誘導体、ベンゾシクロブテン誘導体、フォトアクリル誘導体、ポリスチレン誘導体、ポリビニルフェノール誘導体、ポリエステル誘導体、ポリカーボネート誘導体、ポリエステル誘導体、ポリ酢酸ビニル誘導体、ポリウレタン誘導体、ポリスルフォン誘導体、アクリレート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、パリレンなどを例示することができる。また、これらの絶縁膜の堆積は、CVD法、スパッタリング法、蒸着法、塗布法などにより行う。
【0050】
次に、
図5Bに示すように、上記ゲート絶縁膜GIの上部にアモルファス酸化物半導体層CHを形成する。アモルファス酸化物半導体層CHは、
図3で示したスパッタリング装置で作製した。アモルファス酸化物半導体層CHを構成する酸化物膜の堆積は、スパッタリング法以外では、CVD法、パルスレーザーデポジション(Pulsed Laser Deposition:PLD)法、塗布法、印刷法、共蒸着法などにより行うことができる。その膜厚は5nm〜100nm程度が好ましい。また、アモルファス酸化物半導体層CHを形成した後、必要に応じて不純物をドーピングしたり、アニール処理を施したりしてもよい。ここでは、300℃で1時間の大気中アニールを施した。さらに、上記酸化物膜のパターニングは、フォトレジスト膜をマスクに用いたドライエッチングまたはウェットエッチングにより行うことができる。ここでは、ITO−07Nエッチング液にてウェットエッチングにより加工した。
【0051】
次に、後で形成するソース・ドレイン電極層SDとゲート電極層GEとの接続のためのコンタクトホール(図示せず)を形成する場合は、フォトレジスト膜をエッチングマスクにしてゲート絶縁層GIをウェットエッチングまたはドライエッチングすることにより、所望の形状のコンタクトホール(図示せず)を形成する。
【0052】
引き続き、アモルファス酸化物半導体層CHの上部にソース・ドレイン電極用の導電膜SDを堆積する。この導電膜SDとしては、前述したゲート電極GEを構成する各種導電膜を例示することができる。また、導電膜SDの堆積は、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法などにより行う。本実施例では、スパッタ法にて膜厚150nmのMo電極をソース・ドレイン電極SE(
図4参照)として堆積させた。
【0053】
次に、
図5Cに示すように、フォトレジスト膜をマスクに用いた市販のAlエッチング液(混酸)にてソース・ドレイン電極SDを加工した。このAlエッチング液によるZn−Sn−OにWを添加したチャネル材料のエッチング速度は、0.05nm/min程度を有し、チャネル材料に対し高い耐性を示した。一方、このAlエッチング液によるMo電極のエッチング速度は120nm/minとなった。すなわち、Mo電極のエッチングの際に、通常適用される程度のオーバーエッチを施しても、チャネル材料はほとんどエッチングされることがわかった。このことから、Mo電極加工後の膜厚分布がほとんど生じることなく、ソース・ドレイン電極SDを形成することが可能になった。
【0054】
これに対して、従来の酸化物半導体材料であるIn−Ga−Zn−O系(IGZO系)に対して、上記のAlエッチング液を適用すると、エッチング速度は30nm/minとなる。一方、膜厚150nmのMo電極を加工しようとした場合、Alエッチング液のエッチング速度は120nm/minであることから、オーバーエッチング時間を含めて1.5分程度の時間を必要とする。また、Mo電極エッチングの際には通常、ジャストエッチに適度のオーバーエッチを加える。その際、IGZOチャネルは、Mo電極エッチングのオーバーエッチング時間分、エッチング液に晒されることになり、例えば、数十秒のオーバーエッチングを加えると、IGZO表面が10〜20nm前後エッチングされることになる。従って、IGZO膜厚が25nmの場合に、膜の大半がエッチングされてしまう結果となる。このことから、ウェットエッチングによるIGZO−TFTのチャネルエッチ構造の実現が困難であることがわかる。
【0055】
以上のことから、W添加したZTOを酸化物半導体材料に用いることで、例えば25nmのZTOのウェットエッチングによる膜厚減少分は、0.02nm程度となり、良好なチャネルエッチ構造が得られることを確認できた。
【0056】
上述した薄膜トランジスタのプロセスフローにより、ゲート電極層GEと、ソース・ドレイン電極層SDと、酸化物半導体層CHと、ゲート絶縁層GIとにより、電界効果型薄膜トランジスタ(ここでは、以下にTFTと略す)が形成される。ここで、ソース用のソース・ドレイン電極層SDとドレイン用のソース・ドレイン電極層SDとの間でかつゲート電極層GEの上方に位置する酸化物半導体層CHが、TFTのチャネル領域として機能し、そのチャネル領域(酸化物半導体層CH)とゲート電極層GEとの間に位置する部分のゲート絶縁層GIが、TFTのゲート絶縁膜として機能する。
【0057】
次に、必要に応じて、基板SU上に、ソース・ドレイン電極層SD、アンテナ・配線層AW、および酸化物半導体層CHを覆うように、絶縁層として保護膜(保護層、保護膜層)PAを形成してもよい。この保護膜PAには、例えば、CVD法などにより形成した厚さ300nm程度の酸化シリコン膜(SiO
x)を用いることができる。酸化シリコン膜の他、酸化アルミニウム(AlO
x)膜などの他の酸化物膜を用いてもよい。また、酸化物膜以外に、窒化シリコン(SiN
x)膜や窒化アルミニウム(AlN)膜などの無機絶縁膜や、ポリイミド誘導体、ベンゾシクロブテン誘導体、フォトアクリル誘導体、ポリスチレン誘導体、ポリビニルフェノール誘導体、ポリエステル誘導体、ポリカーボネート誘導体、ポリエステル誘導体、ポリ酢酸ビニル誘導体、ポリウレタン誘導体、ポリスルフォン誘導体、アクリレート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などの有機絶縁膜を用いてもよいが、上記の酸化膜を用いることがより好ましい。また、保護膜PAの成膜方法としては、上記CVD法の他、スパッタリング法や蒸着法、塗布法などを用いてもよい。
【0058】
その後、TFTの特性向上を目的に、200℃〜450℃の熱処理を施すことができる。但し、基板SUとしてフレキシブル基板を用いる場合には、熱処理温度は350℃以下が望ましい。この熱処理は、TFTの特性向上を目的としているため、チャネル層(上記酸化物半導体層CHに対応)の形成後であれば、いつでも熱処理を行い、同様な効果を得ることができる。
【0059】
次に、上述したスパッタリングターゲットを用いて作製した薄膜トランジスタに対して測定した結果について説明する。主たる測定項目(1)−(3)と、ストレス印加条件を次に示す。
【0060】
(1)薄膜トランジスタ特性(ドレイン電流−ゲート電圧(Id−Vg)特性)、(2)しきい値電圧、および(3)s値を調べた。
(a)しきい値電圧(Vth):
しきい値電圧とは、おおまかにいえば、トランジスタがオフ状態(ドレイン電流の低い状態)からオン状態(ドレイン電流の高い状態)に移行する際のゲート電圧の値である。本実施例では、薄膜トランジスタ特性Id−Vgを測定し、所定のId値におけるVg値をしきい値電圧(Vth)とする方法を用いたが、Id−Vg曲線の外挿点から求める方法などを用いても良い。
(b)移動度の算出:
作製した薄膜トランジスタのゲート長、ゲート幅などの形状データと、測定されたドレイン電流(Id)、ゲート電圧(Vg)、および得られたしきい値電圧(Vth)の電気的データとを用いて、薄膜トランジスタ特性を表わす式から、移動度は算出される。
(c)ストレス印加条件およびしきい値電圧シフト量(ΔVth):
薄膜トランジスタに所定のストレス与えて、その前後のしきい値電圧の差分を求める。
【0061】
与えるストレスには2種類ある。一つは、PBS(positive bias stress)であり、もう一つは、NBIS(negative bias irradiation stress)である。PBSは、薄膜トランジスタに対して、Vgに正の所定の電圧を印加し、Vdは0Vとし、一定の時間経過後に、しきい値電圧Vthを測定する。そして、先に計測しておいた初期しきい値電圧との差分を求め、これをしきい値電圧シフト量ΔVthとする。
【0062】
本実施例では、PBSの場合、Vg=+15V、Vd=0V、一定の時間経過後=10
4秒後としている。
【0063】
一方、NBISは、薄膜トランジスタに対して、Vgに負の所定の電圧を印加し、Vdは0Vとし、さらに所定の波長をもつハロゲンランプを所定の照度で照射し、一定の時間経過後に、しきい値電圧Vthを測定する。そして、先に計測しておいた初期しきい値電圧との差分を求め、これをしきい値電圧シフト量ΔVthとする。
【0064】
本実施例では、NBISの場合、Vg=−15V、Vd=0V、一定の時間経過後=10
4秒後とし、所定の波長=波長305nm〜3000nm、所定の照度=1300ルックスとしている。ただし、以下に述べるOLEDに適用する場合は、所定の波長=400〜800nmの範囲の光としている。
【0065】
図2は、W添加量を0.07〜3.8原子%と表記するが、ZTOと0.07原子%のWを添加したときの電流−電圧特性(Id−Vg)を示したものである。この図よりTFTのしきい値電圧が、W添加により0V近傍にシフトしたことがわかった。同様に、その他のW添加量(3.8原子%までの添加量)でも0V近傍のしきい値電圧が得られたので、その結果に基づいて、
図2においてW添加量を0.07〜3.8原子%と表記している。
【0066】
図6、7は、上述したW添加量が0〜7.8原子%の範囲にある焼結ターゲットを用いて、作成したTFTに関する測定結果を表わす。
【0067】
図6は、作成したTFTの移動度とs値のW添加量との関係を示すものである。この図からW添加量の増加に伴い移動度が低下するため、5cm
2/Vs以上の移動度を実現するには、W添加量を3.8原子%以下にする必要があることがわかった。
【0068】
一方、TFTのs値は、W添加量0.07原子%以上で飽和する傾向を示し約0.24V/decadeの値を有した。
【0069】
図7は、作成したTFTのPBSとNIBSのW添加量との関係を示すものである。PBSは、Vg=15V、Vd=0V、10
4秒後のΔVthの値である。NBISは、Vg=−15V、Vd=0V、波長305nm〜3000nmの波長をもつハロゲンランプを照度1300ルックスで照射し、10
4秒後のΔVthの値である。OLED表示装置に適用する場合、波長領域400〜800nmの範囲の光に対する耐性を確認する必要がありハロゲンランプ照射により擬似的に試験した。
【0070】
この図に示すように、Wを添加しない場合のΔVthは、−3Vより大きく変動している。一方、図中の左から2番目のデータは、Wを0.07原子%添加した場合のΔVthを示している。本図が示すようにWを0.07原子%添加することにより、光ストレス耐性が向上し、ΔVthは−3V以内の値が得られることがわかった。
【0071】
以上のことから、W添加量を0.07〜3.8原子%とすることにより、5cm
2/Vs以上の移動度およびΔVth=±3V以内の薄膜トランジスタを実現することができる。更に好ましくは、移動度10cm
2/Vs以上、ΔVth=±3V以内を実現することができる、W添加量0.07〜2.0原子%である。
【0072】
なお、本実施例においては、[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.6の場合を用いて説明を行ったが、別段この組成比に限定されるものではなく、ウェットエッチングの特性に多少の変化は出るものの、本発明において規定する[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.5〜0.85の全範囲において、薄膜トランジスタ自体の特性はほぼ同等の値が得られることを確認した。成膜方法としてはマグネトロンスパッタリングを使用したが、作製した焼結ターゲットは、ECRスパッタリング法を用いてもほぼ同様な結果を得ることができる。また、スパッタリング以外の蒸着法でも同様な結果を得ることができる他、パルスレーザー蒸着などを用い、エピタキシャル成長が可能な単結晶基板を用いれば、薄膜トランジスタのみならず酸化物半導体単結晶とそれを用いたデバイスの製作も可能である。さらに、本実施例においてはボトムゲートトップコンタクト型薄膜トランジスタの例を用いて記述したが、別段この構造に限定するものではなく、他のボトムゲートボトムコンタクト型、トップゲートトップコンタクト型、トップゲートボトムコンタクト型のいずれの構造の薄膜トランジスタにおいてもほぼ同等な特性を得ることが可能である。これらの薄膜トランジスタは、アクティブマトリクス型液晶ディスプレイ駆動用トランジスタやOLED用電流駆動デバイス、RFIDタグデバイスなどとしても問題なく利用可能である。
【0073】
なお、本実施例に係る発明は以上の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、本実施例は、他の実施例と適宜組み合わせて用いることができる。
【0074】
<実施例2>
本発明の実施例2と実施例1との違いは、添加元素をWの代わりにTaとした点である。実施例1と同様に、高純度の酸化亜鉛および酸化錫粉末を[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比が0.6となるようなモル分率の量にそれぞれの粉末を秤量し、次に酸化タンタル粉末をTa添加量が0〜6.5原子%となるように加え、焼結ターゲット作製した。このターゲットを用いて薄膜トランジスタを作製する。なお、ターゲット作製の詳細なプロセスは、実施例1で述べたものと同様である。
【0075】
Ta添加したZTOは、Alエッチング液に対し0.05nm/min程度のエッチング速度を有し、高いエッチング耐性であることが確認できた。
【0076】
実施例1と同様に、Taを0.5原子%以上添加したときの薄膜トランジスタの電流−電圧特性から、TFTのしきい値電圧が、0V近傍にシフトしたことを確認した。
【0077】
図8は、作成したTFTの移動度とs値のTa添加量との関係を示すものである。この図からTa添加量の増加に伴い移動度が低下し、5cm
2/Vs以上の移動度を実現するには、Ta添加量を4.5原子%以下にする必要があることがわかった。TFTのs値は、Ta添加量0.01原子%以上で飽和する傾向を示し約0.2V/decadeの値を有した。
【0078】
図9は、作成したTFTのPBSとNIBSのTa添加量との関係を示すものである。PBSは、Vg=15V、Vd=0V、10
4秒後のΔVthの値である。NBISは、Vg=−15V、Vd=0V、波長305nm〜3000nmの波長をもつハロゲンランプを照度1300ルックスで照射し、10
4秒後のΔVthの値である。OLEDに適用する場合、波長領域400〜800nmの範囲の光に対する耐性を確認する必要がありハロゲンランプ照射により擬似的に試験した。本図が示すようにTaを0.5原子%以上添加することにより、光ストレス耐性が向上し、ΔVthは−3V以内の値が得られた。
【0079】
以上のことから、Ta添加量を0.5〜4.7原子%とすることにより、5cm
2/Vs以上の移動度およびΔVth=±3V以内の薄膜トランジスタを実現することができる。更に好ましくは、移動度10cm
2/Vs以上、ΔVth=±3V以内を実現することができる、Ta添加量0.5〜2.2原子%である。
【0080】
なお、本実施例においては、[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.6の場合を用いて説明を行ったが、別段この組成比に限定されるものではなく、ウェットエッチングの特性に多少の変化は出るものの、本発明において規定する[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.5〜0.85の全範囲において、薄膜トランジスタ自体の特性はほぼ同等の値が得られることを確認した。成膜方法としてはマグネトロンスパッタリングを使用したが、作製した焼結ターゲットは、ECRスパッタリング法を用いてもほぼ同様な結果を得ることができる。また、スパッタリング以外の蒸着法でも同様な結果を得ることができる他、パルスレーザー蒸着などを用い、エピタキシャル成長が可能な単結晶基板を用いれば、薄膜トランジスタのみならず酸化物半導体単結晶とそれを用いたデバイスの製作も可能である。
【0081】
さらに、本実施例においてはボトムゲートトップコンタクト型薄膜トランジスタの例を用いて記述したが、別段この構造に限定するものではなく、他のボトムゲートボトムコンタクト型、トップゲートトップコンタクト型、トップゲートボトムコンタクト型のいずれの構造の薄膜トランジスタにおいてもほぼ同等な特性を得ることが可能である。これらの薄膜トランジスタは、アクティブマトリクス型液晶ディスプレイ駆動用トランジスタやOLED用電流駆動デバイス、RFIDタグデバイスなどとしても問題なく利用可能である。
【0082】
<実施例3>
本発明の実施例3と実施例1との違いは、添加元素をWの代わりにHfとした点である。実施例1と同様に、高純度の酸化亜鉛および酸化錫粉末を[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比が0.6となるようなモル分率の量にそれぞれの粉末を秤量し、次に酸化ハフニウム粉末をHf添加量が0〜7.3原子%となるように加え、焼結ターゲット作製した。このターゲットを用いて薄膜トランジスタを作製する。なお、ターゲット作製の詳細なプロセスは、実施例1で述べたものと同様である。
【0083】
Hf添加したZTOは、Alエッチング液に対し0.05nm/min程度のエッチング速度を有し、高いエッチング耐性であることが確認できた。
【0084】
実施例1と同様に、Hfを0.32原子%以上添加したときの電流−電圧特性から、TFTのしきい値電圧が、0V近傍にシフトしたことを確認した。
【0085】
図10は、作成したTFTの移動度とs値のHf添加量との関係を示すものである。この図からHf添加量の増加に伴い移動度が低下し、5cm
2/Vs以上の移動度を実現するには、Hf添加量を6.4原子%以下にする必要があることがわかった。TFTのs値は、Hf添加量0.1原子%以上で飽和する傾向を示し約0.15V/decadeの値を有した。
【0086】
図11は、作成したTFTのPBSとNIBSのHf添加量との関係を示すものである。PBSは、Vg=15V、Vd=0V、10
4秒後のΔVthの値である。NBISは、Vg=−15V、Vd=0V、波長305nm〜3000nmの波長をもつハロゲンランプを照度1300ルックスで照射し、10
4秒後のΔVthの値である。OLEDに適用する場合、波長領域400〜800nmの範囲の光に対する耐性を確認する必要がありハロゲンランプ照射により擬似的に試験した。本図が示すようにHfを0.32原子%以上添加することにより、光ストレス耐性が向上し、ΔVthは−3V以内の値が得られた。
【0087】
以上のことから、Hf添加量を0.32〜6.4原子%とすることにより、5cm
2/Vs以上の移動度およびΔVth=±3V以内の薄膜トランジスタを実現することができる。更に好ましくは、移動度10cm
2/Vs以上、ΔVth=±3V以内を実現することができる、Hf添加量0.32〜2.1原子%である。
【0088】
なお、本実施例においては、[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.6の場合を用いて説明を行ったが、別段この組成比に限定されるものではなく、ウェットエッチングの特性に多少の変化は出るものの、本発明において規定する[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.5〜0.85の全範囲において、薄膜トランジスタ自体の特性はほぼ同等の値が得られることを確認した。成膜方法としてはマグネトロンスパッタリングを使用したが、作製した焼結ターゲットは、ECRスパッタリング法を用いてもほぼ同様な結果を得ることができる。また、スパッタリング以外の蒸着法でも同様な結果を得ることができる他、パルスレーザー蒸着などを用い、エピタキシャル成長が可能な単結晶基板を用いれば、薄膜トランジスタのみならず酸化物半導体単結晶とそれを用いたデバイスの製作も可能である。さらに、本実施例においてはボトムゲートトップコンタクト型薄膜トランジスタの例を用いて記述したが、別段この構造に限定するものではなく、他のボトムゲートボトムコンタクト型、トップゲートトップコンタクト型、トップゲートボトムコンタクト型のいずれの構造の薄膜トランジスタにおいてもほぼ同等な特性を得ることが可能である。
【0089】
また、5d遷移金属の具体的な例を示したのは、W、Ta、Hfのみであるが、他の5d遷移金属酸化物においても同様な効果があることが予想される。ただし、材料により最適添加量が異なると考えられ、当業者であっても単純かつ簡易な添加量の調整に止まらないものと推量する。これらの薄膜トランジスタは、アクティブマトリクス型液晶ディスプレイ駆動用トランジスタや有機EL用電流駆動デバイス、RFIDタグデバイスなどとしても問題なく利用可能である。
【0090】
以上の実施例1〜実施例3までに述べたように、光ストレス耐性を向上させるためには、Wの場合は0.07原子%以上添加することにより、Taの場合は0.5原子%以上添加することにより、Hfの場合は0.32原子%以上添加することにより、ΔVthを−3V以内にすることができる。
【0091】
すなわち、Wの場合は、5d遷移金属中の他の金属(Ta、Hf)に比べて、より少ない添加量で光ストレス耐性を向上できる。このように、より微量な添加で有効性を発揮できることは、製造上での添加量のばらつきに対して、より安定な光ストレス耐性を確保できることを意味する。したがって、本発明においてはWの添加がより好ましく有利である。
【0092】
なお、s値に関しては、
図6、8、10中の光ストレス耐性を満足する範囲内にあっては、W、Ta、Hfのいずれもほぼ同程度の効果を示している。
【0093】
<実施例4>
本実施例と実施例1乃至実施例3との違いは、添加元素としてW、Ta、Hfのうちから2種類以上を選択して添加する点である。実施例1と同様に、高純度の酸化亜鉛および酸化錫粉末を[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比が0.6となるようなモル分率の量にそれぞれの粉末を秤量し、次に、酸化タングステン粉末、酸化タンタル粉末、酸化ハフニウム粉末を、実施例1〜実施例3で得られた最大添加量(TFTの移動度5cm
2/Vs以上が得られる添加量)を1として、それぞれの添加元素を最大添加量で規格化し、それぞれの添加量の規格化した合計が1を超えない範囲で調節する。これにより、添加量の上限値を規定することができる。
【0094】
実施例1〜実施例3で得られた最小添加量(TFTの光ストレス耐性向上(ΔVth≦±3V)が得られる添加量)を1として、それぞれの添加元素を最小添加量で規格化し、それぞれの添加量の規格化した合計が1以上になる範囲で調節する。これにより、添加量の下限値を規定することができる。
【0095】
本実施例では、W、Ta、Hfの3種類を全て添加した一例を示す。例えば、Wを10%(3.8×0.1=0.38原子%)、Taを5%(4.7×0.05=0.23原子%)、Hfを20%(6.4×0.2=1.28原子%)となるように加え、焼結ターゲット作製した。このターゲットを用いて薄膜トランジスタを作製した。
【0096】
ここで、実施例1〜実施例3で得られた、Wの最大添加量である3.8原子%と、Taの最大添加量である4.7原子%と、Hfの最大添加量である6.4原子%とを用いている。また、各材料の添加量、W10%(0.1)、Ta5%(0.05)、Hf20%(0.2)は、それぞれの添加量の規格化した合計が1(100%)を超えない範囲で調節している。
【0097】
W、Ta、Hf添加したZTOは、Alエッチング液に対し0.05nm/min程度のエッチング速度を有し、高いエッチング耐性であることが確認できた。
実施例1同様に、W、Ta、Hf添加したときの電流−電圧特性から、TFTのしきい値電圧が、0V近傍にシフトしたことを確認し、TFTの移動度も5cm
2/Vs以上を得ることを確認した。
【0098】
W、Ta、Hf添加したTFTのPBSとNIBSの評価を行った。PBSは、Vg=15V、Vd=0V、10
4秒後のVthの値である。NBISは、Vg=−15V、Vd=0V、波長305nm〜3000nmの波長をもつハロゲンランプを照度1300ルックスで照射し、10
4秒後のVthの値である。OLEDに適用する場合、波長領域400〜800nmの範囲の光に対する耐性を確認する必要がありハロゲンランプ照射により擬似的に試験した。作成したTFTは、W、Ta、Hfを既定の範囲内で添加することにより、光ストレス耐性が向上し、ΔVthは−3V以内の値を得た。
【0099】
なお、本実施例においては、[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.6の場合を用いて説明を行ったが、別段この組成比に限定されるものではなく、ZTOに含まれるZnの割合(Zn]/([Zn]+[Sn]))が0.5の場合は、Alエッチング液に対し0.03nm/min、同様に0.85の場合は0.08nm/min程度のエッチング性能を示した。また、[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.5〜0.85の全範囲において、薄膜トランジスタ自体の特性はほぼ同等の移動度5cm
2/Vs以上、ΔVthは−3V以内が得られることを確認している。成膜方法としてはマグネトロンスパッタリングを使用したが、作製した焼結ターゲットは、ECRスパッタリング法を用いてもほぼ同様な結果を得ることができる。また、スパッタリング以外の蒸着法でも同様な結果を得ることができる他、パルスレーザー蒸着などを用い、エピタキシャル成長が可能な単結晶基板を用いれば、薄膜トランジスタのみならず酸化物半導体単結晶とそれを用いたデバイスの製作も可能である。
【0100】
さらに、本実施例においてはボトムゲートトップコンタクト型薄膜トランジスタの例を用いて記述したが、別段この構造に限定するものではなく、他のボトムゲートボトムコンタクト型、トップゲートトップコンタクト型、トップゲートボトムコンタクト型のいずれの構造の薄膜トランジスタにおいてもほぼ同等な特性を得ることが可能である。これらの薄膜トランジスタは、アクティブマトリクス型液晶ディスプレイ駆動用トランジスタやOLED用電流駆動デバイス、RFIDタグデバイスなどとしても問題なく利用可能である。
【0101】
<実施例5>
実施例1乃至実施例4との違いは酸化物半導体層を2層以上で構成する点である。
図12は、実施例5における半導体装置の構成を示す図である。図に示すように、まず、ゲート電極GE、ゲート絶縁膜GI形成後、第1の半導体層CH1と第2の半導体層CH2を連続で堆積し、半導体層CHは素子分離のため一般的なフォトリソグラフィー技術とウェットエッチング、あるいはドライエッチングの組み合わせにより加工した。第1の半導体層CH1は、5dの遷移金属酸化物を添加したZTOを用いてもよいが、光ストレスに対して安定性の少ない、In−O、In−Zn−O、In−Sn−O、In−Ga−O、Sn−O、In−Ga−Zn−O、Zn−Sn−Oなどの酸化物、およびそれらの複合酸化物によって形成することができる。第2の半導体層CH2は、実施例1から実施例4で記載した5dの遷移金属酸化物を添加したZTOによって形成されている。それらの成膜は、スパッタ法、PLD法、CVD法、塗布法、印刷法などにより行なう。本実施例では、第1の半導体層CH1にIn−Sn−O(In:Sn=93:7)をガス圧0.5Pa(Ar+10%O
2)、DC電力50W、成長温度(室温)の条件下でスパッタリング法により形成する。第1の半導体層の厚みは3〜25nm程度が好ましい。第2の半導体層CH2には、Taを1.0原子%添加したZTO(Zn:Sn=50:50)をガス圧0.5Pa(Ar+20%O
2)、DC電力50W、成長温度(室温)の条件下でスパッタリング法により形成した。第2の半導体層の厚みは、5〜75nm程度で形成するのが好ましい。
【0102】
次に、後で形成するソース・ドレイン電極層SDとゲート電極層GEとの接続のためのコンタクトホール(図示せず)を形成する場合は、フォトレジスト膜をエッチングマスクにしてゲート絶縁層GIをウェットエッチングまたはドライエッチングすることにより、所望の形状のコンタクトホール(図示せず)を形成する。
【0103】
その後、ソース・ドレイン電極SDを堆積し、一般的なフォトリソグラフィー技術とドライエッチング、あるいはウェットエッチングの組み合わせにより形状する。
【0104】
次に、保護膜形成PA、電気的接続用のコンタクトホールCONを形成後、配線層WRを形成し、必要に応じて300〜450℃でアニール処理を施し、試料を作製した。
【0105】
作製したTFTは、実施例1で作製したTFTと同様な特性を示し、しきい値電圧は0V近傍となった。また、移動度は30cm
2/Vs以上、s値は、0.15V/decadeを示した。光ストレス試験の結果、ΔVthは±3V以内となり、光ストレスに対し高いストレス耐性を示した。以上の結果から、光ストレス耐性の無い材料を第1の半導体層CH1に用いても、光ストレス耐性のある第2の半導体層CH2を用いることで、作製したTFTは、光ストレスに対する高いストレス耐性を実現することができる。これらの薄膜トランジスタは、アクティブマトリクス型液晶ディスプレイ駆動用トランジスタや有機EL用電流駆動デバイス、RFIDタグデバイスなどとしても問題なく利用可能である。
【0106】
なお、本実施例においては、[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.6の場合を用いて説明を行ったが、別段この組成比に限定されるものではなく、ZTOに含まれるZnの割合(Zn]/([Zn]+[Sn]))が0.5の場合は、Alエッチング液に対し0.03nm/min、同様に0.85の場合は0.08nm/min程度のエッチング性能を示した。また、[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.5〜0.85の全範囲において、薄膜トランジスタ自体の特性はほぼ同等の移動度が5cm
2/Vs以上、ΔVthは−3V以内を得ることを確認している。
【0107】
<実施例6>
実施例1乃至実施例5との違いは5d遷移金属酸化物の添加量を増やし、保護膜として薄膜トランジスタに適用した点である。
図13のWを8原子%添加したZTOの電流−電圧特性を示した図である。図よりW添加量が8原子%以上になると絶縁体と同様な電気的特性を示した。また、TaおよびHfについても同様に調べたところ、Taでは添加量9原子%以上、Hfでは添加量11原子%以上で絶縁膜と同様な電気特性を示した。以上の結果から、添加元素(W、Ta、Hfのうち1種または2種以上)の添加量を増やすことで保護膜への適用が可能となった。
【0108】
図14は、W、Ta、Hfのうち1種または2種以上を添加して作製することができるZTOを保護膜に適用した薄膜トランジスタの断面図を示したものである。この図に示すように、まず、ゲート電極GE、ゲート絶縁膜GI形成後、酸化物半導体層CHを堆積し、酸化物半導体層CHは素子分離のため一般的なフォトリソグラフィー技術とウェットエッチング、あるいはドライエッチングの組み合わせにより加工した。酸化物半導体層CHは、5dの遷移金属酸化物を添加したZTOを用いてもよいが、光ストレスに対して安定性の少ない、In−O、In−Zn−O、In−Sn−O、In−Ga−O、Sn−O、In−Ga−Zn−O、Zn−Sn−Oなどの酸化物、およびそれらの複合酸化物によって形成することができる。それらの成膜は、スパッタ法、PLD法、CVD法、塗布法、印刷法などにより行なう。本実施例では、酸化物半導体層CHにZn−Sn−O(Zn:Sn=85:15)をガス圧0.5Pa(Ar+10%O
2)、DC電力50W、成長温度(室温)の条件下でスパッタリング法により形成する。酸化物半導体層の厚みは3〜75nm程度が好ましい。
【0109】
次に、後で形成するソース・ドレイン電極層SDとゲート電極層GEとの接続のためのコンタクトホール(図示せず)を形成する場合は、フォトレジスト膜をエッチングマスクにしてゲート絶縁層GIをウェットエッチングまたはドライエッチングすることにより、所望の形状のコンタクトホール(図示せず)を形成する。
【0110】
その後、ソース・ドレイン電極SDを堆積し、一般的なフォトリソグラフィー技術とドライエッチング、あるいはウェットエッチングの組み合わせにより形状する。
【0111】
次に、保護膜としてW添加量8原子%添加したZn−Sn−O(Zn:Sn=60:40)をガス圧0.5Pa(Ar+30%O
2)、RF電力50W、成長温度(室温)の条件下でスパッタリング法により形成する。酸化物半導体層の厚みは100〜300nm程度が好ましい。
【0112】
次に、電気的接続用のコンタクトホールCONを形成後、配線層WRを形成し、必要に応じて300〜450℃でアニール処理を施し、試料を作製した。
【0113】
作製したTFTは、実施例1で作製したTFTと同様な特性を示し、しきい値電圧は0V近傍となった。また、移動度は20cm
2/Vs、s値は、0.2V/decadeを示した。光ストレス試験の結果、ΔVthは±3V以内となり、光ストレスに対し高いストレス耐性を示した。以上の結果から、光ストレス耐性の無い材料を酸化物半導体層CHに用いても、光ストレス耐性のある保護膜PAを用いることで、作製したTFTは、光ストレスに対する高いストレス耐性を実現することができる。これらの薄膜トランジスタは、アクティブマトリクス型液晶ディスプレイ駆動用トランジスタや有機EL用電流駆動デバイス、RFIDタグデバイスなどとしても問題なく利用可能である。
【0114】
なお、本実施例においては、保護膜[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.6の場合を用いて説明を行ったが、別段この組成比に限定されるものではなく、ZTOに含まれるZnの割合(Zn]/([Zn]+[Sn]))が0.5の場合は、Alエッチング液に対し0.03nm/min、同様に0.85の場合は0.08nm/min程度のエッチング性能を示した。また、[Zn]/([Zn]+[Sn])組成比0.5〜0.85の全範囲において、薄膜トランジスタ自体の特性はほぼ同等の移動度が5cm
2/Vs以上、ΔVthは−3V以内が得られることを確認している。
【0115】
<実施例7>
上記実施例1乃至実施例6で説明した薄膜トランジスタおよび保護膜の適用例に制限はないが、例えば、OLED表示装置などの電気光学装置に用いられるアクティブマトリクス基板(アレイ基板)に適用することができる。
【0116】
図15は、実施例7におけるアクティブマトリクス基板の構成を示す要部回路図である。また、
図16は、実施例7におけるアクティブマトリクス基板の平面構成を示す平面図模式図である。本実施例では、前記実施例1から実施例5に示す構造を有するTFTを構成要素とする素子が基板SU上にアレイ状に配置されている。TFTを、アレイ内の各素子のスイッチングや駆動用のトランジスタに用いることはもちろん、このTFTのゲート電極層GEと接続されるゲート配線GLに信号を送るゲート線駆動回路GDや、このTFTのソース電極・ドレイン電極SDと接続されるデータ配線DLに信号を送るデータ線駆動回路DDを構成するトランジスタに用いてもよい。この場合、各素子のTFTとゲート線駆動回路GDあるいはデータ線駆動回路DD内のTFTを並行して形成することができる。
【0117】
アクティブマトリクス型液晶表示装置に上述したアレイを適用する場合、各素子は、例えば、
図16に示すような構成になる。この図中x方向に延在するゲート配線GLに走査信号が供給されると、TFTがオンし、このオンされたTFTを通して、図中y方向に延在するデータ配線DLからの映像信号が画素電極TCに供給される。なお、ゲート配線GLは図中y方向に並設され、データ配線DLは図中x方向に並設され、隣接する一対のゲート配線GLと隣接する一対のデータ配線DLで囲まれる領域(画素領域)に画素電極TCが配置されている。この場合、例えば、データ配線DLがソース電極SEと電気的に接続され、画素電極TCがドレイン電極DEと電気的に接続される。あるいは、データ配線DLがソース電極SEを兼ねてもよい。また、液晶表示装置に限らず有機EL表示装置などに上述したアレイを適用してもよい。この場合、画素回路を構成するトランジスタにTFTを適用する。さらには、上述したアレイを記憶素子に適用し、選択トランジスタにTFTを適用してもよい。
【0118】
上記アクティブマトリクス基板をアクティブマトリクス型液晶表示装置に適用したところ、良好な結果が得られた。
以上、本実施例によれば酸化物半導体装置を各種表示装置に適用することにより、それらの性能を向上することができる。
【0119】
<実施例8>
上記実施例1乃至実施例6で説明した薄膜トランジスタおよび保護膜の適用例に制限はないが、例えば、RFID(Radio Frequency IDentification)タグに適用することができる。
【0120】
図17は本実施例8におけるRFIDタグの回路システム構成を示すブロック図である。RFIDタグは、アンテナ共振回路11、整流器12、変調器13、デジタル回路14などにより構成されている。このRFIDタグは、リーダ15とライタ16との間で無線通信を行うことができるようになっている。また、酸化物半導体は透明材料であるため、ほとんど透明な回路が形成できる。例えば、電極および配線部分をITOなどの透明導電膜を用い、TFT部分には本発明の構造を用いることで実現可能となりうる。従来のRFIDタグのように、Siのチップや金属によるアンテナ等の構造が見える形態ではないため、フィルムやカード上に記載されている意匠を損なうことなく後付することが可能である。
【0121】
このRFIDタグの特にデジタル回路14を上記実施例1から実施例4で説明した薄膜トランジスタを用いて構成する。その結果、デジタル回路14が小面積、高速になり、RFIDタグの無線動作が可能となる。