【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討した。その結果、CHA構造及びAEI構造を含み、なおかつ、AEI構造を多く含むシリコアルミノリン酸塩が金属を含有することで、これが、水分を含む雰囲気下に晒されても窒素酸化物還元率の低下の少ない触媒となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、周期表のVIIIB族元素、IB族元素及びVIIB族元素の群から選ばれる少なくとも1種の金属を有し、AEI構造の割合が50%を超えることを特徴とする、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩である。
【0009】
以下、本発明のCHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩について説明する。
【0010】
本発明は、シリコアルミノリン酸塩に係る。シリコアルミノリン酸塩(Silicoaluminophosphate)とは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、リン(P)及び酸素(O)を、その骨格の主成分とするゼオライト類縁物質である。シリコアルミノリン酸塩の組成は、以下の(1)式で表すことができる。
【0011】
(Si
xAl
yP
z)O
2 (1)
(但し、0.05<x≦0.2、0.45≦y≦0.55、0.4≦z≦0.45、及び、x+y+z=1)
【0012】
本発明のシリコアルミノリン酸塩は、CHA構造及びAEI構造を有する。
【0013】
CHA構造とは、国際ゼオライト学会(IZA)のStructure Commissionが定めているIUPAC構造コード(以下、単に「構造コード」とする。)で表記した場合に、CHA型となる構造である。また、AEI構造とは、構造コードで表記した場合にAEI型となる構造である。従って、本発明のシリコアルミノリン酸塩は、その結晶構造中にCHA構造及びAEI構造の2種の結晶構造、すなわち、CHA構造及びAEI構造の連晶相(Intergrowth phase)を有するシリコアルミノリン酸塩(以下、「連晶シリコアルミノリン酸塩」ともいう。)である。
【0014】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩はCHA構造及びAEI構造を有し、その結晶中に占めるCHA構造とAEI構造との割合(以下、「連晶比」とする。)は、AEI構造が50%を超える。すなわち、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、その結晶において、CHA構造よりもAEI構造が多い連晶シリコアルミノリン酸塩である。
【0015】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、その連晶比をCHA/AEIで表現した場合に、CHA/AEI<1となる。AEI構造の割合が50%以下である場合、すなわちCHA/AEI≧1である場合は、水を含有する雰囲気下でこのようなシリコアルミノリン酸塩を窒素酸化物還元触媒として使用した場合、窒素酸化物還元率の低下が著しくなる。水を含有する雰囲気下における窒素酸化物還元率の低下をより抑制する観点から、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の構造は、AEI構造が55%以上(CHA/AEI≦0.82)であることが好ましく、60%以上(CHA/AEI≦0.67)であることがより好ましい。
【0016】
一方、AEI構造の割合が80%以下(CHA/AEI≧0.25)、更には70%以下(CHA/AEI≧0.43)であれば、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩が高温下に晒された場合であっても、その窒素酸化物還元特性が低下しにくくなる。
【0017】
本発明において、連晶比はDIFFaXプログラムにより求めることができる。DIFFaXプログラムとは、ゼオライト等の連晶に対するXRD粉末パターンをシミュレートするためのシミュレーションプログラムであり、IZAにより市販されているプログラムである。
【0018】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は上記の連晶比を有する。そのため、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、その粉末X線回折パターンにおいて、面間隔(d値)5.22±0.1Åに相当するX線回折ピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=16.99±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)を有し、なおかつ、面間隔5.16±0.1Åに相当するX線回折ピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=17.20±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)を実質的に有さないパターンを示す。
【0019】
さらに、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、その粉末X線回折パターンにおいて、面間隔5.22±0.1Åに相当するピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=16.99±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)と面間隔4.16±0.05Åに相当するピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=21.34±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)とを有することが好ましい。なお、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、面間隔4.16±0.05Åに相当するピークが、面間隔5.22±0.1Åに相当するピークよりも強度が高くなる場合がある。
【0020】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の組成は、以下の式で表される組成であることが好ましい。
【0021】
(Si
xAl
yP
z)O
2
(但し、x+y+z=1、0.05<x≦0.15)
【0022】
xが0.05を超えること、好ましくは0.07以上であることで、窒素酸化物還元率がより高くなる。一方、xが0.15以下、更には0.13以下、また更には0.12未満であることで、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は窒素酸化物還元率が高く、なおかつ、水を含む雰囲気下に晒されても、その窒素酸化物還元率が低下しにくい窒素酸化物還元触媒となりやすい。
【0023】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、窒素酸化物還元触媒として使用できる程度の粒径を有していればよい。このような粒径として、平均粒径が10μm以下、更には7μm以下、また更には5μm以下を挙げることができる。また、平均粒径が0.5μm以上であることで、ハニカム等の触媒担体に塗布する際の操作性(ハンドリング)が高くなる。窒素酸化物還元特性と操作性のバランスをとる観点から、平均粒径は0.5μm以上であればよく、更には1μm以上であればよい。
【0024】
本発明において、平均粒径とは一次粒子の粒径を平均したものである。したがって、一次粒子が凝集して形成された二次粒子、いわゆる凝集粒子の粒子径を平均して得られるものとは異なる。平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」とする)観察により観察された連晶シリコアルミノリン酸塩の粒子を複数(例えば、100個以上)任意に選択し、この粒子径を測定して得られた粒子径の平均を求めることで測定することができる。
【0025】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の表面積は、効率よく窒素酸化物還元反応が生じる程度であればよい。本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩のBET比表面積として、例えば、500m
2/g以上、800m
2/g以下を挙げることができる。
【0026】
なお、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は細孔を多く有する、いわゆる多孔構造である。そのため、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩においては、表面積の大小と平均粒径の大小とは、実質的に相関がない。
【0027】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、金属を含有する。本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩が含有する金属は、周期表のVIIIB族元素、IB族元素及びVIIB族元素の群から選ばれる少なくとも1種であり、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びインジウム(In)の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、銅であることがより好ましい。これらの金属を本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩が含有することで、これを窒素酸化物還元触媒として使用した場合に特に高い窒素酸化物還元率を有する触媒となりやすい。特に、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩が銅を含有することで、500℃以上の高温だけでなく、それ未満の低温においても高い窒素酸化物還元率を示す窒素酸化物還元触媒となりやすい。
【0028】
金属の含有量は任意であるが、例えば、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の重量に対して、含有する金属の重量が0.3重量%以上、更には0.6重量%以上、また更には0.8重量%以上であることを挙げることができる。一方、金属の含有量は5重量%以下、更には4重量%以下、また更には3重量%以下であれば、金属含有による窒素酸化物還元特性の向上効果が得られやすい。
【0029】
次に、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法について説明する。
【0030】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法は、AEI構造の割合が50%を超えることを特徴とする、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩に金属を含有させる金属含有工程を有することを特徴とする製造方法である。
【0031】
特に好ましい本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法として、3級アミンを含む混合物を結晶化する結晶化工程、該結晶化工程により得られたAEI構造の割合が50%を超えることを特徴とする、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩に金属を含有させる金属含有工程、を有することを特徴とする製造方法を挙げることができる。
【0032】
本発明の製造方法は、AEI構造の割合が50%を超えること(CHA/AEI<1)を特徴とする、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩(連晶シリコアルミノリン酸塩)に金属を含有させる金属含有工程を有する。金属を含有することにより、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩が、水分を含む雰囲気下に晒されても窒素酸化物還元率の低下の少ない窒素酸化物還元触媒なる。
【0033】
連晶シリコアルミノリン酸塩が含有する金属は、周期表のVIIIB族元素、IB族元素及びVIIB族元素の群から選ばれる少なくとも1種であり、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びインジウム(In)の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、銅であることがより好ましい。これらの金属を含有することで、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩が高い窒素酸化物還元率を有する窒素酸化物還元触媒となる。さらに、連晶シリコアルミノリン酸塩が銅を含有すること、すなわち、連晶シリコアルミノリン酸塩が銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩であることで、これを窒素酸化物還元触媒として使用した場合、500℃以上の高温だけでなく、それ未満の低温においても高い窒素酸化物還元率を示す窒素酸化物還元触媒となりやすい。
【0034】
金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、プロトン型(H
+型)のシリコアルミノリン酸塩又はアンモニア型(NH
4+型)の連晶シリコアルミノリン酸塩のいずれか1種以上であることが好ましい。これにより、連晶シリコアルミノリン酸塩への金属の含有がより効率的に行える傾向にある。
【0035】
連晶シリコアルミノリン酸塩をプロトン型(H
+型)の連晶シリコアルミノリン酸塩とするためには、例えば、金属含有工程の前に連晶シリコアルミノリン酸塩を、大気中、400℃以上で焼成することが挙げられる。また、連晶シリコアルミノリン酸塩をアンモニア型(NH
4+型)の連晶シリコアルミノリン酸塩にするには、例えば、金属含有工程の前に連晶シリコアルミノリン酸塩を塩化アンモニウム水溶液でイオン交換することを挙げられる。
【0036】
金属含有工程において使用する原料は、連晶シリコアルミノリン酸塩に含有させる金属を含む硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物及び複合酸化物の群から選ばれるいずれか、並びにこれらの混合物を使用することができる。
【0037】
金属含有工程において、連晶シリコアルミノリン酸塩に金属が含有されれば、その含有方法は任意の方法を選択することができる。含有方法として、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、共沈法、析出沈殿法又は物理混合法などの方法を例示することができる。
【0038】
金属の含有量は任意であるが、例えば、連晶シリコアルミノリン酸塩の重量に対して、含有された金属の重量が0.3重量%以上、更には0.6重量%以上、また更には0.8重量%以上となるように連晶シリコアルミノリン酸塩に金属を含有させることを挙げることができる。一方、金属の含有量が5重量%以下、更には4重量%以下、また更には3重量%以下となるように金属を連晶シリコアルミノリン酸塩に含有させれば、金属含有による窒素酸化物還元特性の向上が得られやすくなる傾向にある。
【0039】
本発明の製造方法では、金属含有工程を得た連晶シリコアルミノ酸塩をか焼するか焼工程を有することが好ましい。これにより、連晶シリコアルミノリン酸塩と金属とがより強固に結合しやすくなる。
【0040】
金属含有工程において連晶シリコアルミノリン酸塩に取り込まれた硝酸、硫酸、酢酸等の塩類が除去できれば、か焼の方法は任意の方法を適用することができる。か焼方法として、例えば、大気中または酸素ガスなどの酸化雰囲気下、或いは窒素、ヘリウム等の不活性雰囲気下で、400℃以上、1000℃以下の温度で金属含有工程を得た連晶シリコアルミノ酸塩を処理することが挙げられる。
【0041】
本発明の製造方法において、金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、AEI構造の割合が50%を超える、すなわち、その構造において、CHA構造よりもAEI構造が多い連晶シリコアルミノリン酸塩である。そのため、その粉末X線回折パターンにおいて、面間隔5.24±0.1Åに相当するX線回折ピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=16.93±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)を有し、なおかつ、面間隔5.16±0.1Åに相当するX線回折ピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=17.18±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)を実質的に有さないパターンを示す。
【0042】
さらに、金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、その粉末X線回折パターンにおいて、面間隔5.24±0.1Åに相当するピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=16.93±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)と面間隔4.17±0.05Åに相当するピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=21.31±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)とを有することが好ましい。なお、このような連晶シリコアルミノリン酸塩は、面間隔4.16±0.05Åに相当するピークが、面間隔5.22±0.1Åに相当するピークよりも強度が高くなる場合がある。
【0043】
金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、以下の表1に示す粉末X線回折パターンを有することが更に好ましい。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明の製造方法において、金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は固体酸量が高いことが好ましい。固体酸量が高いことで、得られる金属含有連晶シリコアルミノリン酸塩が高い窒素酸化物還元率を示す窒素酸化物還元触媒となりやすい。従って、金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩の固体酸量は0.5mmol/g以上であることが好ましく、0.6mmol/g以上であることがより好ましく、0.7mmol/g以上であることが更に好ましい。固体酸量が0.5mmol/g以上であることで、得られる金属含有連晶シリコアルミノリン酸塩が、より高い窒素酸化物還元率を示す窒素酸化物還元触媒となりやすい。固体酸量が多いほど、窒素酸化物還元率は高くなる傾向にある。その一方で、固体酸量が多くなりすぎると結晶構造が不安定になる場合がある。そのため、固体酸量が1.4mmol/g以下、更には1.2mmol/g以下、また更には1.0mmol/g以下であることで、得られる金属含有連晶シリコアルミノリン酸塩が、窒素酸化物還元率が高く、なおかつ、結晶構造が安定したものとなりやすい。
【0046】
ここで、「固体酸」とは、シリコアルミノリン酸塩の触媒活性を評価する指標となるものである。
【0047】
固体酸は、一般的なNH
3−TPD法により確認及び定量することができる。固体酸はアンモニア(NH
3)を吸着する性質を有する。NH
3−TPD法は、この性質を利用した測定法であり、シリコアルミノリン酸塩にアンモニアを吸着及び脱離させ、特定の温度範囲においてシリコアルミノ酸塩から脱離されるアンモニアを確認及び定量し、これを固体酸として確認及び定量する測定方法である。
【0048】
NH
3−TPD法としては、以下の3つの工程を有する方法を例示することができる。
【0049】
1)シリコアルミノリン酸塩に吸着したガスや水分等を除去する前処理工程
2)アンモニアをシリコアルミノリン酸塩に吸着させるアンモニア吸着工程、及び
3)シリコアルミノリン酸塩に吸着されたアンモニアを、そこから脱離させるアンモニア脱離工程
【0050】
前処理工程としては、処理温度400〜600℃で不活性ガスをシリコアルミノリン酸塩に流通させることが例示できる。また、アンモニア吸着工程としては、処理温度100〜150℃で、1〜20容量%のアンモニアを含む不活性ガスをシリコアルミノリン酸塩に流通させることが例示できる。さらに、アンモニア脱離工程としては、不活性ガスをシリコアルミノリン酸塩に流通しながら100℃〜700℃程度まで昇温することが例示できる。
【0051】
アンモニア脱離工程において、脱離したアンモニアを確認及び定量することで、固体酸の確認及び定量ができる。なお、シリコアルミノリン酸塩に吸着されるアンモニアは、物理的に吸着されるアンモニアと、固体酸により吸着されるアンモニアがある。固体酸の確認及び定量を行う際は、この両者を分離する必要がある。例えば、250〜450℃の温度で脱離したアンモニアのピークをもって固体酸の存在が確認でき、当該ピークに相当するアンモニア量を定量し、これを固体酸量とみなすことが挙げられる。
【0052】
金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、窒素酸化物還元触媒として使用できる程度の粒径を有していればよい。このような粒径として、平均粒径が10μm以下、更には7μm以下、また更には5μm以下を挙げることができる。また、平均粒径が0.5μm以上であることで、ハニカム等の触媒担体に塗布する際の操作性(ハンドリング)が高くなる。窒素酸化物還元特性と操作性のバランスをとる観点から、平均粒径は0.5μm以上であればよく、更には1μm以上であればよい。
【0053】
金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩は、例えば、3級アミンを含む混合物を結晶化する結晶化工程を有する製造方法により得ることができる。
【0054】
従来報告されている、連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法においては、有機鉱化剤(Structure directing agents;以下、「SDA」とする)として4級アミン、例えば、水酸化テトラエチルアンモニウム(以下、「TEAOH」とする)を含む化合物を使用して結晶化することが必須であった。これに対し、金属含有工程に供するのに好ましいシリコアルミノ酸塩を得る結晶化工程では、4級アミンを含む化合物を必須の成分とすることなく、連晶シリコアルミノリン酸塩を結晶化することができる。
【0055】
結晶化工程では、3級アミンを含む混合物を結晶化する。これにより、本発明の金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩が得られる易くなる。
【0056】
結晶化工程において、3級アミンは、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジエチルプロピルアミン、エチルジプロピルアミン、及び、ジエチルイソプロピルアミンの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、トリエチルアミンであることがより好ましい。
【0057】
結晶化工程では、SDAとしてトリエチルアミン含み、かつ、ケイ素(Si)源、リン(P)源、アルミニウム(Al)源及び水(H
2O)を含む混合物を結晶化することが好ましい。
【0058】
ケイ素源、リン源及びアルミニウム源の各原料は任意のものを選択することができる。これらの原料として以下のものを例示することができる。
【0059】
ケイ素源として、コロイダルシリカ、シリカゾル及び水ガラスの群からなる少なくとも1種の水溶性ケイ素化合物又は溶媒に分散されたケイ素化合物、無定形シリカ、フュームドシリカ及びケイ酸ナトリウムの群からなる少なくとも1種の固体状ケイ素化合物、及びオルトケイ酸エチルなどの有機ケイ素化合物、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0060】
リン源として、正リン酸及び亜リン酸のいずれか1種以上の水溶性リン化合物、ピロリン酸などの縮合リン酸及びリン酸カルシウムのいずれか1種以上の固体状リン化合物、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0061】
アルミニウム源として、硫酸アルミニウム溶液、アルミン酸ソーダ溶液及びアルミナゾルの群から選ばれる少なくとも1種の水溶性アルミニウム化合物又は溶媒に分散されたアルミニウム化合物、無定形アルミナ、擬ベーマイト、ベーマイト、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム及びアルミン酸ナトリウムの群から選ばれる少なくとも1種の固体状アルミニウム化合物、及び、アルミニウムイソプロポキシドなどの有機アルミニウム化合物、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0062】
さらには、ケイ素、リン及びアルミニウムの群から選ばれる2種以上を含む化合物も、原料として使用することができる。このような化合物としては、アルミノリン酸ゲルや、シリコアルミノリン酸ゲルなどを例示することができる。
【0063】
混合物は、これら原料と水及びSDAを混合することによって得られる。混合物を得る際の原料等の混合方法は、任意の方法を使用することができる。例えば、各原料、水及びSDAを1つずつ順番に混合してもよく、2つ以上の原料等を同時に混合してもよい。
【0064】
得られた混合物は、必要に応じてpHを調整してもよい。混合物のpHを調整する場合は、例えば、塩酸、硫酸又はフッ酸などの酸、又は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化アンモニウムなどのアルカリを、混合物に混合すればよい。
【0065】
結晶化工程において、混合物のケイ素、リン、アルミニウム、水及びSDAの組成は、混合物中のケイ素、リン及びアルミニウムを、それぞれSiO
2、P
2O
5及びAl
2O
3とみなしたとき、以下の組成であることが好ましい。
【0066】
P
2O
5/Al
2O
3 0.7以上、1.5以下
SiO
2/Al
2O
3 0.1以上、1.2以下
H
2O/Al
2O
3 5以上、100以下
SDA/Al
2O
3 0.5以上、5以下
【0067】
なお、上記組成における各割合はモル比である。
【0068】
混合物のリンとアルミニウムの割合は、モル比でP
2O
5/Al
2O
3が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。P
2O
5/Al
2O
3が0.7以上であることで、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩の収量が多くなりやすい。一方、P
2O
5/Al
2O
3が1.5以下、さらには1.2以下であれば、より短い結晶化時間で連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。
【0069】
混合物のケイ素とアルミニウムの割合は、モル比でSiO
2/Al
2O
3が0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。SiO
2/Al
2O
3が0.1以上であることで、固体酸量がより多い連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。一方、SiO
2/Al
2O
3が1.2以下、さらには0.8以下であればより短い結晶化時間で連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。
【0070】
混合物の水とアルミニウムの割合は、モル比でH
2O/Al
2O
3が5以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。H
2O/Al
2O
3が5以上であることで、得られる混合物が、流動性に富んだものとなる。これにより、混合物がより操作性に優れたものになり易い。混合物中のH
2O/Al
2O
3は小さいことが好ましいが、H
2O/Al
2O
3が100以下、さらには70以下であれば、結晶化に適した流動性を有した混合物となる。更に、H
2O/Al
2O
3が60以下となることで、より濃い濃度での結晶化が行えるため、工業的生産において有利になりやすい。
【0071】
混合物中のSDAとアルミニウムの割合は、モル比でSDA/Al
2O
3が0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましい。これにより、固体酸量がより多い連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。SDA/Al
2O
3は大きいほど、連晶シリコアルミノリン酸塩がより得られやすくなる。SDA/Al
2O
3が5以下、更には4以下、また更には3以下であれば、固体酸量の多い連晶シリコアルミノリン酸塩がより得られやすくなる。
【0072】
結晶化工程では、混合物は種晶を含んでいることが好ましい。混合物が種晶を含むことで、短い結晶化時間で連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。
【0073】
混合物は種晶を0.05重量%以上含むことが好ましく、0.1重量%以上含むことがより好ましく、0.5重量%以上含むことが更に好ましい。混合物が種晶を0.05重量%以上含むことで、結晶化の時間が短縮されやすくなる。これに加え、混合物が種晶を含むことで、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩の結晶粒径が均一になりやすい。得られる連晶シリコアルミノリン酸塩の結晶粒径が均一になれば、混合物における種晶含有量は任意である。そのため、種晶含有量の上限として、例えば、10重量%以下、さらには5重量%以下、また更には2重量%以下を挙げることができる。
【0074】
なお、混合物に含まれる種晶の含有量(重量%)とは、当該種晶を除く混合物中のケイ素、リン及びアルミニウムを、それぞれSiO
2、P
2O
5及びAl
2O
3とみなしたときの合計重量に対する、種晶の重量の割合である。
【0075】
さらに、種晶の種類はシリコアルミノリン酸塩であることが好ましく、連晶シリコアルミノリン酸塩であることがより好ましく、AEI構造が50%を超える連晶シリコアルミノリン酸塩であることが更に好ましい。
【0076】
金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩を得るための好ましい混合物として以下の組成の混合物を例示することができる。
【0077】
P
2O
5/Al
2O
3 0.8以上、1.2以下
SiO
2/Al
2O
3 0.2以上、0.8以下
H
2O/Al
2O
3 15以上、60以下
SDA/Al
2O
3 1以上、3以下
種晶 0重量%以上、5重量%以下
【0078】
なお、上記組成における各割合はモル比であり、SDAはトリエチルアミン、種晶は連晶シリコアルミノリン酸塩である。
【0079】
結晶化工程においては、混合物が結晶化すれば、その結晶化方法は適宜選択することができる。好ましい結晶化方法として、混合物を水熱処理することが挙げられる。水熱処理は、混合物を密閉耐圧容器に入れ、これを加熱すればよい。
【0080】
結晶化温度は130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。結晶化温度が130℃以上であれば、比較的短い結晶化時間、例えば、100時間以下、さらには80時間以下で連晶シリコアルミノリン酸塩が結晶化する。結晶化温度が高いほど、結晶化時間が短くなりやすい。しかしながら、例えば、結晶化温度が220℃以下、更には200℃以下であれば、5時間以上、さらには10時間以上、また更には15時間以上の結晶化時間であっても、連晶シリコアルミノリン酸塩が結晶化しやすくなる。
【0081】
結晶化工程では、混合物を攪拌しながら結晶化することが好ましい。これにより、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩の粒径がより均一になりやすい。
【0082】
金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法では、さらに、洗浄工程及び乾燥工程を有していてもよい。
【0083】
洗浄工程では、結晶化後の連晶シリコアルミノリン酸塩は、ろ過、デカンテーション又は遠心分離などの任意の固液分離法により液相と分離される。固液分離後の連晶シリコアルミノリン酸塩は、適宜、水洗してもよい。
【0084】
乾燥工程では、ろ過後の連晶シリコアルミノリン酸塩を乾燥する。乾燥方法としては、大気中、90℃以上、120℃以下で、5時間以上乾燥する方法を例示することができる。
【0085】
金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法では、焼成工程及び再洗浄工程を有していてもよい。
【0086】
焼成工程においては、乾燥後の連晶シリコアルミノリン酸塩を焼成する。これにより、結晶化の際にシリコアルミノリン酸塩に取り込まれたSDAを除去することができる。連晶シリコアルミノリン酸塩からSDAが除去されることにより、窒素酸化物還元触媒として得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を使用する場合に、これがより高い窒素酸化物還元特性を示しやすい。
【0087】
焼成工程では、連晶シリコアルミノリン酸塩からSDAが除去できれば任意の焼成方法を適用することができる。このような焼成方法として、例えば、大気中又は酸素ガスなどの酸化雰囲気下で、400℃以上、800℃以下の焼成温度で焼成することが挙げられる。
【0088】
また、再洗浄工程においては、連晶シリコアルミノリン酸塩を再洗浄する。原料としてアルカリ金属等を含むものを使用して連晶シリコアルミノリン酸塩を結晶化した場合、これらアルカリ金属等の原料由来の金属が連晶シリコアルミノリン酸塩の表面や細孔など残存することがある。
【0089】
再洗浄工程では、連晶シリコアルミノリン酸塩に残存した原料由来の金属を、そこから除去することができれば任意の洗浄方法を適用することができる。このような再洗浄方法として、例えば、酸洗浄やイオン交換を挙げることができる。
【0090】
上記の焼成工程及び再洗浄工程は、必要に応じて行うことができる。そのため、焼成工程のみ若しくは再洗浄工程のみの、いずれか一方を行ってもよい。また、焼成工程及び再洗浄工程の両者を行う場合、これらの順番はいずれを先に行ってもよい。
【0091】
本発明の製造方法では、このようにして得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を金属含有工程に供すること、すなわち、3級アミンを含む混合物を結晶化する結晶化工程、該結晶化工程により得られた連晶シリコアルミノリン酸塩に金属を含有する金属含有工程とすることがより好ましい。
【0092】
本発明のCHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩(連晶シリコアルミノリン酸塩)は窒素酸化物還元触媒、好ましくは窒素酸化物の選択的接触還元触媒(Selective catalytic reduction;以下、「SCR触媒」とする。)とすることができる。本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩はそのままでも窒素酸化物還元触媒として使用することができるが、ハニカム等の触媒担体に付着等させて使用することもできる。
【0093】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩を、窒素酸化物還元触媒又はSCR触媒(以下、これらを合わせて「窒素酸化物還元触媒等」とする)とすることにより、水分を含む雰囲気にこれが晒された前後の窒素酸化物還元率の変化が小さい窒素酸化物還元触媒等となる。本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、例えば、水和処理前の窒素酸化物還元率に対する水和処理後の窒素酸化物還元率(以下、「水和還元維持率」とする。)は、例えば、500℃における水和還元維持率は90%以上であり、300℃における水和還元維持率は85%以上であり、200℃における水和還元維持率が85%以上であり、150℃における水和還元維持率が75%以上であることが挙げられる。
【0094】
ここで、水和処理とは、水分を含む雰囲気にシリコアルミノリン酸塩を晒す処理であり、その条件に一般化又は規格化されたものはない。水和処理として、60℃以上、90℃以下の飽和水蒸気雰囲気下に連晶シリコアルミノリン酸塩を1日以上、100日間以下、静置して処理することを例示することができる。
【0095】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩を窒素酸化物還元触媒等として使用した場合、水分を含む雰囲気にこれが晒された前後の窒素酸化物還元率の変化が小さいことに加え、高温下に晒された場合、更には水分を含む高温下に晒された場合であっても、窒素酸化物還元率が高いこと好ましい。
【0096】
従って、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の、耐久処理後の窒素酸化物還元率は、例えば、500℃において70%以上であることが挙げられる。特に、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、低温下における耐久処理後の窒素酸化物還元率が高いことが好ましく、耐久処理後の窒素酸化物還元率は、300℃において85%以上であり、200℃おいて80%以上であることが挙げられる。更には、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、より低温下での窒素酸化物還元率が高く、例えば、150℃における窒素酸化物還元率は、65%以上、更には70%を超え、また更には72%以上であることが挙げられる。
【0097】
ここで、耐久処理とは、連晶シリコアルミノ酸塩を高温下に晒す処理、すなわち、連晶シリコアルミノリン酸塩を窒素酸化物還元触媒として高温下で長期間使用した後の状態と同等の状態にするための処理である。耐久処理には、一般化又は規格化された条件はない。耐久処理として、例えば、10体積%以上、20体積%以下の水蒸気を含有ガスの流通下に、800℃以上、1000℃以下で、1時間以上、24時間以下で連晶シリコアルミノリン酸塩を静置して処理することを挙げることができる。
【0098】
ここで、窒素酸化物還元率とは、窒素酸化物を含有する処理ガスを窒素酸化物還元触媒等に接触させる場合において、当該接触前の処理ガス中の窒素酸化物の濃度に対する、当該接触により還元された処理ガス中の窒素酸化物の濃度である。これは、以下の式(2)により求めることができる。
【0099】
窒素酸化物還元率(%)
={1−(接触後の処理ガス中の窒素酸化物濃度/接触前の処理ガス中の窒素酸化物濃度)}×100 (2)
【0100】
SCR触媒の窒素酸化物還元率の評価方法は、一般化又は規格化された条件はない。SCR触媒の窒素酸化物還元率の評価方法として、例えば、実施例に示した方法や、窒素酸化物を含有するガスとアンモニアを体積比で1対1で含有する混合ガスを触媒に流通し、これにより混合ガス中の窒素酸化物を還元させ、流通前後の混合ガス中の窒素酸化物濃度を測定し、上記の式(2)より求めることが挙げられる。
【0101】
なお、このSCR触媒反応の場合、還元剤としてアンモニアを使用している。そのため、この場合の窒素酸化物還元率は、いわゆるアンモニアSCR触媒として窒素酸化物還元率の値である。
【0102】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は水分を含む雰囲気下に晒されても窒素酸化物還元率の低下が少ない。そのため、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩からなる窒素酸化物還元触媒等は、例えば、工場排ガスや自動車排ガスなどの排気ガス処理システムに使用することができる。