特許第5983290号(P5983290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5983290シリコアルミノリン酸塩及びこれを用いた窒素酸化物還元触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983290
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】シリコアルミノリン酸塩及びこれを用いた窒素酸化物還元触媒
(51)【国際特許分類】
   C01B 37/08 20060101AFI20160818BHJP
   B01J 29/83 20060101ALI20160818BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C01B37/08
   B01J29/83 A
   B01D53/94
【請求項の数】4
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2012-230882(P2012-230882)
(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公開番号】特開2014-80345(P2014-80345A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡庭 宏
(72)【発明者】
【氏名】徳永 敬助
(72)【発明者】
【氏名】永井良和
(72)【発明者】
【氏名】青山英和
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/121257(WO,A1)
【文献】 特開2006−273710(JP,A)
【文献】 特表2004−524252(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/112949(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20ー39/54
B01D 53/73、53/86−53/90
B01D 53/94、53/96
B01J 21/00ー38/74
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表のVIIIB族元素、IB族元素及びVIIB族元素の群から選ばれる少なくとも1種の金属を有し、以下の式で表される組成であり、AEI構造の割合が50%を超えることを特徴とする、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩。
(SiAl)O
(但し、x+y+z=1、0.05<x≦0.15)
【請求項2】
周期表のVIIIB族元素、IB族元素及びVIIB族元素の群から選ばれる少なくとも1種の金属が銅であることを特徴とする請求項1に記載のシリコアルミノリン酸塩。
【請求項3】
CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩であって、AEI構造の割合が50%を超えるシリコアルミノリン酸塩に周期表のVIIIB族元素、IB族元素及びVIIB族元素の群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有させる金属含有工程、を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のシリコアルミノリン酸塩の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のシリコアルミノリン酸塩を含む窒素酸化物還元触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩に係る。より詳細には、本発明は、窒素酸化物還元触媒に適した、金属を含有するCHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩に係る。
【背景技術】
【0002】
2種類の骨格構造を有するシリコアルミノリン酸塩として、SAPO−34のCHA構造の一部とSAPO−18のAEI構造の一部が積層した連晶体が報告されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、このような連晶体は、窒素酸化物浄化触媒として利用できることが報告されている(特許文献2)。例えば、特許文献2では、CHA構造とAEI構造との割合が90:10であるシリコアルミノリン酸塩に金属を含有させ、これを窒素酸化物還元触媒として使用させることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−524252号公報
【特許文献2】WO2011/112949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2において開示されたシリコアルミノリン酸塩の連晶体からなる窒素酸化物還元触媒は、水分を含む雰囲気に晒されると、その結晶性が経時的に低下する。これに加え、当該窒素酸化物還元触媒は、水和による結晶性の低下とともに固体酸量が低下する。これにより、従来のシリコアルミノリン酸塩の連晶体からなる窒素酸化物還元触媒は、保管や使用の間に窒素酸化物還元率が著しく低下するという問題を有していた。
【0006】
本発明はこれらの課題を解決し、水分を含む雰囲気に晒されても窒素酸化物還元率の低下が少ないシリコアルミノリン酸塩を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明者らは鋭意検討した。その結果、CHA構造及びAEI構造を含み、なおかつ、AEI構造を多く含むシリコアルミノリン酸塩が金属を含有することで、これが、水分を含む雰囲気下に晒されても窒素酸化物還元率の低下の少ない触媒となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、周期表のVIIIB族元素、IB族元素及びVIIB族元素の群から選ばれる少なくとも1種の金属を有し、AEI構造の割合が50%を超えることを特徴とする、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩である。
【0009】
以下、本発明のCHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩について説明する。
【0010】
本発明は、シリコアルミノリン酸塩に係る。シリコアルミノリン酸塩(Silicoaluminophosphate)とは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、リン(P)及び酸素(O)を、その骨格の主成分とするゼオライト類縁物質である。シリコアルミノリン酸塩の組成は、以下の(1)式で表すことができる。
【0011】
(SiAl)O (1)
(但し、0.05<x≦0.2、0.45≦y≦0.55、0.4≦z≦0.45、及び、x+y+z=1)
【0012】
本発明のシリコアルミノリン酸塩は、CHA構造及びAEI構造を有する。
【0013】
CHA構造とは、国際ゼオライト学会(IZA)のStructure Commissionが定めているIUPAC構造コード(以下、単に「構造コード」とする。)で表記した場合に、CHA型となる構造である。また、AEI構造とは、構造コードで表記した場合にAEI型となる構造である。従って、本発明のシリコアルミノリン酸塩は、その結晶構造中にCHA構造及びAEI構造の2種の結晶構造、すなわち、CHA構造及びAEI構造の連晶相(Intergrowth phase)を有するシリコアルミノリン酸塩(以下、「連晶シリコアルミノリン酸塩」ともいう。)である。
【0014】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩はCHA構造及びAEI構造を有し、その結晶中に占めるCHA構造とAEI構造との割合(以下、「連晶比」とする。)は、AEI構造が50%を超える。すなわち、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、その結晶において、CHA構造よりもAEI構造が多い連晶シリコアルミノリン酸塩である。
【0015】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、その連晶比をCHA/AEIで表現した場合に、CHA/AEI<1となる。AEI構造の割合が50%以下である場合、すなわちCHA/AEI≧1である場合は、水を含有する雰囲気下でこのようなシリコアルミノリン酸塩を窒素酸化物還元触媒として使用した場合、窒素酸化物還元率の低下が著しくなる。水を含有する雰囲気下における窒素酸化物還元率の低下をより抑制する観点から、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の構造は、AEI構造が55%以上(CHA/AEI≦0.82)であることが好ましく、60%以上(CHA/AEI≦0.67)であることがより好ましい。
【0016】
一方、AEI構造の割合が80%以下(CHA/AEI≧0.25)、更には70%以下(CHA/AEI≧0.43)であれば、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩が高温下に晒された場合であっても、その窒素酸化物還元特性が低下しにくくなる。
【0017】
本発明において、連晶比はDIFFaXプログラムにより求めることができる。DIFFaXプログラムとは、ゼオライト等の連晶に対するXRD粉末パターンをシミュレートするためのシミュレーションプログラムであり、IZAにより市販されているプログラムである。
【0018】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は上記の連晶比を有する。そのため、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、その粉末X線回折パターンにおいて、面間隔(d値)5.22±0.1Åに相当するX線回折ピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=16.99±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)を有し、なおかつ、面間隔5.16±0.1Åに相当するX線回折ピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=17.20±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)を実質的に有さないパターンを示す。
【0019】
さらに、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、その粉末X線回折パターンにおいて、面間隔5.22±0.1Åに相当するピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=16.99±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)と面間隔4.16±0.05Åに相当するピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=21.34±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)とを有することが好ましい。なお、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、面間隔4.16±0.05Åに相当するピークが、面間隔5.22±0.1Åに相当するピークよりも強度が高くなる場合がある。
【0020】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の組成は、以下の式で表される組成であることが好ましい。
【0021】
(SiAl)O
(但し、x+y+z=1、0.05<x≦0.15)
【0022】
xが0.05を超えること、好ましくは0.07以上であることで、窒素酸化物還元率がより高くなる。一方、xが0.15以下、更には0.13以下、また更には0.12未満であることで、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は窒素酸化物還元率が高く、なおかつ、水を含む雰囲気下に晒されても、その窒素酸化物還元率が低下しにくい窒素酸化物還元触媒となりやすい。
【0023】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、窒素酸化物還元触媒として使用できる程度の粒径を有していればよい。このような粒径として、平均粒径が10μm以下、更には7μm以下、また更には5μm以下を挙げることができる。また、平均粒径が0.5μm以上であることで、ハニカム等の触媒担体に塗布する際の操作性(ハンドリング)が高くなる。窒素酸化物還元特性と操作性のバランスをとる観点から、平均粒径は0.5μm以上であればよく、更には1μm以上であればよい。
【0024】
本発明において、平均粒径とは一次粒子の粒径を平均したものである。したがって、一次粒子が凝集して形成された二次粒子、いわゆる凝集粒子の粒子径を平均して得られるものとは異なる。平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」とする)観察により観察された連晶シリコアルミノリン酸塩の粒子を複数(例えば、100個以上)任意に選択し、この粒子径を測定して得られた粒子径の平均を求めることで測定することができる。
【0025】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の表面積は、効率よく窒素酸化物還元反応が生じる程度であればよい。本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩のBET比表面積として、例えば、500m/g以上、800m/g以下を挙げることができる。
【0026】
なお、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は細孔を多く有する、いわゆる多孔構造である。そのため、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩においては、表面積の大小と平均粒径の大小とは、実質的に相関がない。
【0027】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、金属を含有する。本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩が含有する金属は、周期表のVIIIB族元素、IB族元素及びVIIB族元素の群から選ばれる少なくとも1種であり、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びインジウム(In)の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、銅であることがより好ましい。これらの金属を本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩が含有することで、これを窒素酸化物還元触媒として使用した場合に特に高い窒素酸化物還元率を有する触媒となりやすい。特に、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩が銅を含有することで、500℃以上の高温だけでなく、それ未満の低温においても高い窒素酸化物還元率を示す窒素酸化物還元触媒となりやすい。
【0028】
金属の含有量は任意であるが、例えば、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の重量に対して、含有する金属の重量が0.3重量%以上、更には0.6重量%以上、また更には0.8重量%以上であることを挙げることができる。一方、金属の含有量は5重量%以下、更には4重量%以下、また更には3重量%以下であれば、金属含有による窒素酸化物還元特性の向上効果が得られやすい。
【0029】
次に、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法について説明する。
【0030】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法は、AEI構造の割合が50%を超えることを特徴とする、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩に金属を含有させる金属含有工程を有することを特徴とする製造方法である。
【0031】
特に好ましい本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法として、3級アミンを含む混合物を結晶化する結晶化工程、該結晶化工程により得られたAEI構造の割合が50%を超えることを特徴とする、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩に金属を含有させる金属含有工程、を有することを特徴とする製造方法を挙げることができる。
【0032】
本発明の製造方法は、AEI構造の割合が50%を超えること(CHA/AEI<1)を特徴とする、CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩(連晶シリコアルミノリン酸塩)に金属を含有させる金属含有工程を有する。金属を含有することにより、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩が、水分を含む雰囲気下に晒されても窒素酸化物還元率の低下の少ない窒素酸化物還元触媒なる。
【0033】
連晶シリコアルミノリン酸塩が含有する金属は、周期表のVIIIB族元素、IB族元素及びVIIB族元素の群から選ばれる少なくとも1種であり、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びインジウム(In)の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、銅であることがより好ましい。これらの金属を含有することで、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩が高い窒素酸化物還元率を有する窒素酸化物還元触媒となる。さらに、連晶シリコアルミノリン酸塩が銅を含有すること、すなわち、連晶シリコアルミノリン酸塩が銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩であることで、これを窒素酸化物還元触媒として使用した場合、500℃以上の高温だけでなく、それ未満の低温においても高い窒素酸化物還元率を示す窒素酸化物還元触媒となりやすい。
【0034】
金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、プロトン型(H型)のシリコアルミノリン酸塩又はアンモニア型(NH型)の連晶シリコアルミノリン酸塩のいずれか1種以上であることが好ましい。これにより、連晶シリコアルミノリン酸塩への金属の含有がより効率的に行える傾向にある。
【0035】
連晶シリコアルミノリン酸塩をプロトン型(H型)の連晶シリコアルミノリン酸塩とするためには、例えば、金属含有工程の前に連晶シリコアルミノリン酸塩を、大気中、400℃以上で焼成することが挙げられる。また、連晶シリコアルミノリン酸塩をアンモニア型(NH型)の連晶シリコアルミノリン酸塩にするには、例えば、金属含有工程の前に連晶シリコアルミノリン酸塩を塩化アンモニウム水溶液でイオン交換することを挙げられる。
【0036】
金属含有工程において使用する原料は、連晶シリコアルミノリン酸塩に含有させる金属を含む硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物及び複合酸化物の群から選ばれるいずれか、並びにこれらの混合物を使用することができる。
【0037】
金属含有工程において、連晶シリコアルミノリン酸塩に金属が含有されれば、その含有方法は任意の方法を選択することができる。含有方法として、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、共沈法、析出沈殿法又は物理混合法などの方法を例示することができる。
【0038】
金属の含有量は任意であるが、例えば、連晶シリコアルミノリン酸塩の重量に対して、含有された金属の重量が0.3重量%以上、更には0.6重量%以上、また更には0.8重量%以上となるように連晶シリコアルミノリン酸塩に金属を含有させることを挙げることができる。一方、金属の含有量が5重量%以下、更には4重量%以下、また更には3重量%以下となるように金属を連晶シリコアルミノリン酸塩に含有させれば、金属含有による窒素酸化物還元特性の向上が得られやすくなる傾向にある。
【0039】
本発明の製造方法では、金属含有工程を得た連晶シリコアルミノ酸塩をか焼するか焼工程を有することが好ましい。これにより、連晶シリコアルミノリン酸塩と金属とがより強固に結合しやすくなる。
【0040】
金属含有工程において連晶シリコアルミノリン酸塩に取り込まれた硝酸、硫酸、酢酸等の塩類が除去できれば、か焼の方法は任意の方法を適用することができる。か焼方法として、例えば、大気中または酸素ガスなどの酸化雰囲気下、或いは窒素、ヘリウム等の不活性雰囲気下で、400℃以上、1000℃以下の温度で金属含有工程を得た連晶シリコアルミノ酸塩を処理することが挙げられる。
【0041】
本発明の製造方法において、金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、AEI構造の割合が50%を超える、すなわち、その構造において、CHA構造よりもAEI構造が多い連晶シリコアルミノリン酸塩である。そのため、その粉末X線回折パターンにおいて、面間隔5.24±0.1Åに相当するX線回折ピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=16.93±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)を有し、なおかつ、面間隔5.16±0.1Åに相当するX線回折ピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=17.18±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)を実質的に有さないパターンを示す。
【0042】
さらに、金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、その粉末X線回折パターンにおいて、面間隔5.24±0.1Åに相当するピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=16.93±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)と面間隔4.17±0.05Åに相当するピーク(CuKα線を線源とした場合の2θ=21.31±0.1°にピークトップを有するX線回折ピーク)とを有することが好ましい。なお、このような連晶シリコアルミノリン酸塩は、面間隔4.16±0.05Åに相当するピークが、面間隔5.22±0.1Åに相当するピークよりも強度が高くなる場合がある。
【0043】
金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、以下の表1に示す粉末X線回折パターンを有することが更に好ましい。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明の製造方法において、金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は固体酸量が高いことが好ましい。固体酸量が高いことで、得られる金属含有連晶シリコアルミノリン酸塩が高い窒素酸化物還元率を示す窒素酸化物還元触媒となりやすい。従って、金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩の固体酸量は0.5mmol/g以上であることが好ましく、0.6mmol/g以上であることがより好ましく、0.7mmol/g以上であることが更に好ましい。固体酸量が0.5mmol/g以上であることで、得られる金属含有連晶シリコアルミノリン酸塩が、より高い窒素酸化物還元率を示す窒素酸化物還元触媒となりやすい。固体酸量が多いほど、窒素酸化物還元率は高くなる傾向にある。その一方で、固体酸量が多くなりすぎると結晶構造が不安定になる場合がある。そのため、固体酸量が1.4mmol/g以下、更には1.2mmol/g以下、また更には1.0mmol/g以下であることで、得られる金属含有連晶シリコアルミノリン酸塩が、窒素酸化物還元率が高く、なおかつ、結晶構造が安定したものとなりやすい。
【0046】
ここで、「固体酸」とは、シリコアルミノリン酸塩の触媒活性を評価する指標となるものである。
【0047】
固体酸は、一般的なNH−TPD法により確認及び定量することができる。固体酸はアンモニア(NH)を吸着する性質を有する。NH−TPD法は、この性質を利用した測定法であり、シリコアルミノリン酸塩にアンモニアを吸着及び脱離させ、特定の温度範囲においてシリコアルミノ酸塩から脱離されるアンモニアを確認及び定量し、これを固体酸として確認及び定量する測定方法である。
【0048】
NH−TPD法としては、以下の3つの工程を有する方法を例示することができる。
【0049】
1)シリコアルミノリン酸塩に吸着したガスや水分等を除去する前処理工程
2)アンモニアをシリコアルミノリン酸塩に吸着させるアンモニア吸着工程、及び
3)シリコアルミノリン酸塩に吸着されたアンモニアを、そこから脱離させるアンモニア脱離工程
【0050】
前処理工程としては、処理温度400〜600℃で不活性ガスをシリコアルミノリン酸塩に流通させることが例示できる。また、アンモニア吸着工程としては、処理温度100〜150℃で、1〜20容量%のアンモニアを含む不活性ガスをシリコアルミノリン酸塩に流通させることが例示できる。さらに、アンモニア脱離工程としては、不活性ガスをシリコアルミノリン酸塩に流通しながら100℃〜700℃程度まで昇温することが例示できる。
【0051】
アンモニア脱離工程において、脱離したアンモニアを確認及び定量することで、固体酸の確認及び定量ができる。なお、シリコアルミノリン酸塩に吸着されるアンモニアは、物理的に吸着されるアンモニアと、固体酸により吸着されるアンモニアがある。固体酸の確認及び定量を行う際は、この両者を分離する必要がある。例えば、250〜450℃の温度で脱離したアンモニアのピークをもって固体酸の存在が確認でき、当該ピークに相当するアンモニア量を定量し、これを固体酸量とみなすことが挙げられる。
【0052】
金属含有工程に供する連晶シリコアルミノリン酸塩は、窒素酸化物還元触媒として使用できる程度の粒径を有していればよい。このような粒径として、平均粒径が10μm以下、更には7μm以下、また更には5μm以下を挙げることができる。また、平均粒径が0.5μm以上であることで、ハニカム等の触媒担体に塗布する際の操作性(ハンドリング)が高くなる。窒素酸化物還元特性と操作性のバランスをとる観点から、平均粒径は0.5μm以上であればよく、更には1μm以上であればよい。
【0053】
金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩は、例えば、3級アミンを含む混合物を結晶化する結晶化工程を有する製造方法により得ることができる。
【0054】
従来報告されている、連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法においては、有機鉱化剤(Structure directing agents;以下、「SDA」とする)として4級アミン、例えば、水酸化テトラエチルアンモニウム(以下、「TEAOH」とする)を含む化合物を使用して結晶化することが必須であった。これに対し、金属含有工程に供するのに好ましいシリコアルミノ酸塩を得る結晶化工程では、4級アミンを含む化合物を必須の成分とすることなく、連晶シリコアルミノリン酸塩を結晶化することができる。
【0055】
結晶化工程では、3級アミンを含む混合物を結晶化する。これにより、本発明の金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩が得られる易くなる。
【0056】
結晶化工程において、3級アミンは、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジエチルプロピルアミン、エチルジプロピルアミン、及び、ジエチルイソプロピルアミンの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、トリエチルアミンであることがより好ましい。
【0057】
結晶化工程では、SDAとしてトリエチルアミン含み、かつ、ケイ素(Si)源、リン(P)源、アルミニウム(Al)源及び水(HO)を含む混合物を結晶化することが好ましい。
【0058】
ケイ素源、リン源及びアルミニウム源の各原料は任意のものを選択することができる。これらの原料として以下のものを例示することができる。
【0059】
ケイ素源として、コロイダルシリカ、シリカゾル及び水ガラスの群からなる少なくとも1種の水溶性ケイ素化合物又は溶媒に分散されたケイ素化合物、無定形シリカ、フュームドシリカ及びケイ酸ナトリウムの群からなる少なくとも1種の固体状ケイ素化合物、及びオルトケイ酸エチルなどの有機ケイ素化合物、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0060】
リン源として、正リン酸及び亜リン酸のいずれか1種以上の水溶性リン化合物、ピロリン酸などの縮合リン酸及びリン酸カルシウムのいずれか1種以上の固体状リン化合物、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0061】
アルミニウム源として、硫酸アルミニウム溶液、アルミン酸ソーダ溶液及びアルミナゾルの群から選ばれる少なくとも1種の水溶性アルミニウム化合物又は溶媒に分散されたアルミニウム化合物、無定形アルミナ、擬ベーマイト、ベーマイト、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム及びアルミン酸ナトリウムの群から選ばれる少なくとも1種の固体状アルミニウム化合物、及び、アルミニウムイソプロポキシドなどの有機アルミニウム化合物、並びにこれらの混合物を挙げることができる。
【0062】
さらには、ケイ素、リン及びアルミニウムの群から選ばれる2種以上を含む化合物も、原料として使用することができる。このような化合物としては、アルミノリン酸ゲルや、シリコアルミノリン酸ゲルなどを例示することができる。
【0063】
混合物は、これら原料と水及びSDAを混合することによって得られる。混合物を得る際の原料等の混合方法は、任意の方法を使用することができる。例えば、各原料、水及びSDAを1つずつ順番に混合してもよく、2つ以上の原料等を同時に混合してもよい。
【0064】
得られた混合物は、必要に応じてpHを調整してもよい。混合物のpHを調整する場合は、例えば、塩酸、硫酸又はフッ酸などの酸、又は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化アンモニウムなどのアルカリを、混合物に混合すればよい。
【0065】
結晶化工程において、混合物のケイ素、リン、アルミニウム、水及びSDAの組成は、混合物中のケイ素、リン及びアルミニウムを、それぞれSiO、P及びAlとみなしたとき、以下の組成であることが好ましい。
【0066】
/Al 0.7以上、1.5以下
SiO/Al 0.1以上、1.2以下
O/Al 5以上、100以下
SDA/Al 0.5以上、5以下
【0067】
なお、上記組成における各割合はモル比である。
【0068】
混合物のリンとアルミニウムの割合は、モル比でP/Alが0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。P/Alが0.7以上であることで、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩の収量が多くなりやすい。一方、P/Alが1.5以下、さらには1.2以下であれば、より短い結晶化時間で連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。
【0069】
混合物のケイ素とアルミニウムの割合は、モル比でSiO/Alが0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。SiO/Alが0.1以上であることで、固体酸量がより多い連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。一方、SiO/Alが1.2以下、さらには0.8以下であればより短い結晶化時間で連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。
【0070】
混合物の水とアルミニウムの割合は、モル比でHO/Alが5以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。HO/Alが5以上であることで、得られる混合物が、流動性に富んだものとなる。これにより、混合物がより操作性に優れたものになり易い。混合物中のHO/Alは小さいことが好ましいが、HO/Alが100以下、さらには70以下であれば、結晶化に適した流動性を有した混合物となる。更に、HO/Alが60以下となることで、より濃い濃度での結晶化が行えるため、工業的生産において有利になりやすい。
【0071】
混合物中のSDAとアルミニウムの割合は、モル比でSDA/Alが0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましい。これにより、固体酸量がより多い連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。SDA/Alは大きいほど、連晶シリコアルミノリン酸塩がより得られやすくなる。SDA/Alが5以下、更には4以下、また更には3以下であれば、固体酸量の多い連晶シリコアルミノリン酸塩がより得られやすくなる。
【0072】
結晶化工程では、混合物は種晶を含んでいることが好ましい。混合物が種晶を含むことで、短い結晶化時間で連晶シリコアルミノリン酸塩が得られやすくなる。
【0073】
混合物は種晶を0.05重量%以上含むことが好ましく、0.1重量%以上含むことがより好ましく、0.5重量%以上含むことが更に好ましい。混合物が種晶を0.05重量%以上含むことで、結晶化の時間が短縮されやすくなる。これに加え、混合物が種晶を含むことで、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩の結晶粒径が均一になりやすい。得られる連晶シリコアルミノリン酸塩の結晶粒径が均一になれば、混合物における種晶含有量は任意である。そのため、種晶含有量の上限として、例えば、10重量%以下、さらには5重量%以下、また更には2重量%以下を挙げることができる。
【0074】
なお、混合物に含まれる種晶の含有量(重量%)とは、当該種晶を除く混合物中のケイ素、リン及びアルミニウムを、それぞれSiO、P及びAlとみなしたときの合計重量に対する、種晶の重量の割合である。
【0075】
さらに、種晶の種類はシリコアルミノリン酸塩であることが好ましく、連晶シリコアルミノリン酸塩であることがより好ましく、AEI構造が50%を超える連晶シリコアルミノリン酸塩であることが更に好ましい。
【0076】
金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩を得るための好ましい混合物として以下の組成の混合物を例示することができる。
【0077】
/Al 0.8以上、1.2以下
SiO/Al 0.2以上、0.8以下
O/Al 15以上、60以下
SDA/Al 1以上、3以下
種晶 0重量%以上、5重量%以下
【0078】
なお、上記組成における各割合はモル比であり、SDAはトリエチルアミン、種晶は連晶シリコアルミノリン酸塩である。
【0079】
結晶化工程においては、混合物が結晶化すれば、その結晶化方法は適宜選択することができる。好ましい結晶化方法として、混合物を水熱処理することが挙げられる。水熱処理は、混合物を密閉耐圧容器に入れ、これを加熱すればよい。
【0080】
結晶化温度は130℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。結晶化温度が130℃以上であれば、比較的短い結晶化時間、例えば、100時間以下、さらには80時間以下で連晶シリコアルミノリン酸塩が結晶化する。結晶化温度が高いほど、結晶化時間が短くなりやすい。しかしながら、例えば、結晶化温度が220℃以下、更には200℃以下であれば、5時間以上、さらには10時間以上、また更には15時間以上の結晶化時間であっても、連晶シリコアルミノリン酸塩が結晶化しやすくなる。
【0081】
結晶化工程では、混合物を攪拌しながら結晶化することが好ましい。これにより、得られる連晶シリコアルミノリン酸塩の粒径がより均一になりやすい。
【0082】
金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法では、さらに、洗浄工程及び乾燥工程を有していてもよい。
【0083】
洗浄工程では、結晶化後の連晶シリコアルミノリン酸塩は、ろ過、デカンテーション又は遠心分離などの任意の固液分離法により液相と分離される。固液分離後の連晶シリコアルミノリン酸塩は、適宜、水洗してもよい。
【0084】
乾燥工程では、ろ過後の連晶シリコアルミノリン酸塩を乾燥する。乾燥方法としては、大気中、90℃以上、120℃以下で、5時間以上乾燥する方法を例示することができる。
【0085】
金属含有工程に供するのに好ましい連晶シリコアルミノリン酸塩の製造方法では、焼成工程及び再洗浄工程を有していてもよい。
【0086】
焼成工程においては、乾燥後の連晶シリコアルミノリン酸塩を焼成する。これにより、結晶化の際にシリコアルミノリン酸塩に取り込まれたSDAを除去することができる。連晶シリコアルミノリン酸塩からSDAが除去されることにより、窒素酸化物還元触媒として得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を使用する場合に、これがより高い窒素酸化物還元特性を示しやすい。
【0087】
焼成工程では、連晶シリコアルミノリン酸塩からSDAが除去できれば任意の焼成方法を適用することができる。このような焼成方法として、例えば、大気中又は酸素ガスなどの酸化雰囲気下で、400℃以上、800℃以下の焼成温度で焼成することが挙げられる。
【0088】
また、再洗浄工程においては、連晶シリコアルミノリン酸塩を再洗浄する。原料としてアルカリ金属等を含むものを使用して連晶シリコアルミノリン酸塩を結晶化した場合、これらアルカリ金属等の原料由来の金属が連晶シリコアルミノリン酸塩の表面や細孔など残存することがある。
【0089】
再洗浄工程では、連晶シリコアルミノリン酸塩に残存した原料由来の金属を、そこから除去することができれば任意の洗浄方法を適用することができる。このような再洗浄方法として、例えば、酸洗浄やイオン交換を挙げることができる。
【0090】
上記の焼成工程及び再洗浄工程は、必要に応じて行うことができる。そのため、焼成工程のみ若しくは再洗浄工程のみの、いずれか一方を行ってもよい。また、焼成工程及び再洗浄工程の両者を行う場合、これらの順番はいずれを先に行ってもよい。
【0091】
本発明の製造方法では、このようにして得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を金属含有工程に供すること、すなわち、3級アミンを含む混合物を結晶化する結晶化工程、該結晶化工程により得られた連晶シリコアルミノリン酸塩に金属を含有する金属含有工程とすることがより好ましい。
【0092】
本発明のCHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩(連晶シリコアルミノリン酸塩)は窒素酸化物還元触媒、好ましくは窒素酸化物の選択的接触還元触媒(Selective catalytic reduction;以下、「SCR触媒」とする。)とすることができる。本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩はそのままでも窒素酸化物還元触媒として使用することができるが、ハニカム等の触媒担体に付着等させて使用することもできる。
【0093】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩を、窒素酸化物還元触媒又はSCR触媒(以下、これらを合わせて「窒素酸化物還元触媒等」とする)とすることにより、水分を含む雰囲気にこれが晒された前後の窒素酸化物還元率の変化が小さい窒素酸化物還元触媒等となる。本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、例えば、水和処理前の窒素酸化物還元率に対する水和処理後の窒素酸化物還元率(以下、「水和還元維持率」とする。)は、例えば、500℃における水和還元維持率は90%以上であり、300℃における水和還元維持率は85%以上であり、200℃における水和還元維持率が85%以上であり、150℃における水和還元維持率が75%以上であることが挙げられる。
【0094】
ここで、水和処理とは、水分を含む雰囲気にシリコアルミノリン酸塩を晒す処理であり、その条件に一般化又は規格化されたものはない。水和処理として、60℃以上、90℃以下の飽和水蒸気雰囲気下に連晶シリコアルミノリン酸塩を1日以上、100日間以下、静置して処理することを例示することができる。
【0095】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩を窒素酸化物還元触媒等として使用した場合、水分を含む雰囲気にこれが晒された前後の窒素酸化物還元率の変化が小さいことに加え、高温下に晒された場合、更には水分を含む高温下に晒された場合であっても、窒素酸化物還元率が高いこと好ましい。
【0096】
従って、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩の、耐久処理後の窒素酸化物還元率は、例えば、500℃において70%以上であることが挙げられる。特に、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、低温下における耐久処理後の窒素酸化物還元率が高いことが好ましく、耐久処理後の窒素酸化物還元率は、300℃において85%以上であり、200℃おいて80%以上であることが挙げられる。更には、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、より低温下での窒素酸化物還元率が高く、例えば、150℃における窒素酸化物還元率は、65%以上、更には70%を超え、また更には72%以上であることが挙げられる。
【0097】
ここで、耐久処理とは、連晶シリコアルミノ酸塩を高温下に晒す処理、すなわち、連晶シリコアルミノリン酸塩を窒素酸化物還元触媒として高温下で長期間使用した後の状態と同等の状態にするための処理である。耐久処理には、一般化又は規格化された条件はない。耐久処理として、例えば、10体積%以上、20体積%以下の水蒸気を含有ガスの流通下に、800℃以上、1000℃以下で、1時間以上、24時間以下で連晶シリコアルミノリン酸塩を静置して処理することを挙げることができる。
【0098】
ここで、窒素酸化物還元率とは、窒素酸化物を含有する処理ガスを窒素酸化物還元触媒等に接触させる場合において、当該接触前の処理ガス中の窒素酸化物の濃度に対する、当該接触により還元された処理ガス中の窒素酸化物の濃度である。これは、以下の式(2)により求めることができる。
【0099】
窒素酸化物還元率(%)
={1−(接触後の処理ガス中の窒素酸化物濃度/接触前の処理ガス中の窒素酸化物濃度)}×100 (2)
【0100】
SCR触媒の窒素酸化物還元率の評価方法は、一般化又は規格化された条件はない。SCR触媒の窒素酸化物還元率の評価方法として、例えば、実施例に示した方法や、窒素酸化物を含有するガスとアンモニアを体積比で1対1で含有する混合ガスを触媒に流通し、これにより混合ガス中の窒素酸化物を還元させ、流通前後の混合ガス中の窒素酸化物濃度を測定し、上記の式(2)より求めることが挙げられる。
【0101】
なお、このSCR触媒反応の場合、還元剤としてアンモニアを使用している。そのため、この場合の窒素酸化物還元率は、いわゆるアンモニアSCR触媒として窒素酸化物還元率の値である。
【0102】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は水分を含む雰囲気下に晒されても窒素酸化物還元率の低下が少ない。そのため、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩からなる窒素酸化物還元触媒等は、例えば、工場排ガスや自動車排ガスなどの排気ガス処理システムに使用することができる。
【発明の効果】
【0103】
本発明により、水分を含む雰囲気に晒されても窒素酸化物還元率の低下が少ないシリコアルミノリン酸塩を提供することができる。
【0104】
さらに、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩により、水分を含む雰囲気に晒されても窒素酸化物還元率の低下が少ない窒素酸化物還元触媒、及びこれを用いた窒素酸化物の還元方法を提供することができる。特に、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩により、水分を含む雰囲気に晒されても、500℃未満、更には200℃以下、また更には150℃以下の低温下における窒素酸化物還元率の低下が少ない窒素酸化物還元触媒を提供することができる。そのため、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩及びこれを用いた窒素酸化物還元触媒は、水分を含む雰囲気に晒された後であっても窒素酸化物還元特性の低下が少なく、いわゆる耐水性が高い窒素酸化物還元触媒とすることができる。
【0105】
さらに、本発明の製造方法により、水分を含む雰囲気に晒されても窒素酸化物還元率の低下が少ないシリコアルミノリン酸塩の製造方法を提供する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1】実施例1で得られた連晶シリコアルミノリン酸塩のSEM写真を示す図である(図中スケールは5μm)。
図2】実施例1で得られた連晶シリコアルミノリン酸塩のX線回折パターンを示す図である。
【実施例】
【0107】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等限定されるものではない。
【0108】
(組成、銅含有量の測定)
組成分析は誘導結合プラズマ発光分析法(ICP法)により行った。すなわち、試料をフッ酸と硝酸の混合溶液に溶解させ、測定溶液を調製した。一般的な誘導結合プラズマ発光分析装置(商品名:OPTIMA3000DV、PERKIN ELMER製)を用いて、得られた測定溶液を測定することで、試料の組成を測定し、銅の含有量を求めた。
【0109】
(平均結晶粒径の測定)
一般的な走査型電子顕微鏡(商品名:JSM−6390LV型、日本電子社製)を用い、試料を走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」とする)観察した。SEM観察の倍率は1000〜2000倍とした。SEM観察により得られた試料のSEM像から、150個の結晶粒子を任意に選択しその大きさを測定した。得られた測定値の平均値を求め、試料の平均結晶粒径とした。
【0110】
(粉末X線回折測定)
一般的なX線回折装置(商品名:MXP−3、マックサイエンス社製)を使用し、試料のX線回折測定をした。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件はステップ幅0.02°、計測時間は1秒、および測定範囲は2θとして5°から40°の範囲で測定した。
【0111】
得られた試料の粉末X線回折パターンの各ピーク強度は面間隔9.30±0.15Åのピーク強度に対する相対強度として求めた。
【0112】
更に、DIFFaXプログラム(v1.813)を使用して、得られたX線回折パターンを解析し、試料の連晶比を求めた。
【0113】
(固体酸量の測定)
試料の固体酸量の測定は、以下に示したNH−TPD法により行った。
【0114】
測定に先立ち、試料を加圧成形し、粉砕した後、20〜30メッシュに整粒した。整粒後の試料を0.1g量りとり、これを固定床常圧流通式反応管(以下、単に「反応管」とする)に充填した。
【0115】
試料が充填された反応管にヘリウムガスを流しながら、これを500℃まで加熱した。これにより、試料とヘリウムガスとを接触させた。500℃で1時間保持した後、試料が充填された反応管を100℃まで冷却した。
【0116】
冷却後、試料が充填された反応管の温度を100℃に保持しながら、10体積%のアンモニアを含むアンモニア−ヘリウム混合ガスを流速60mL/minで1時間これに流した。これにより、試料にアンモニアを吸着させた。試料へのアンモニア吸着後、アンモニア−ヘリウム混合ガスを止め、その代わりにヘリウムガスを60mL/minで1時間流した。これにより、反応管の雰囲気中に残存するアンモニアガス、すなわち、試料に吸着されていないアンモニアを、反応管から除去した。
【0117】
その後、流速60mL/minでヘリウムガスを流しながら、10℃/minの昇温速度で100℃から700℃まで試料を昇温した。これにより、試料に吸着されたアンモニアを、試料から脱離させた。試料から脱離されるアンモニアは、熱伝導度検出器(TCD)を備えたガスクロマトグラフによって連続的に定量され、これによりアンモニアの脱離スペクトルを得た。
【0118】
得られた脱離スペクトルにおいて、脱離温度100℃以上250℃未満にピークトップを持つ脱離ピークを試料へ物理吸着したアンモニアの脱離に由来するピーク(以下、「物理吸着ピーク」とする)とみなし、脱離温度250℃以上450℃以下にピークトップを持つ脱離ピークを試料の固体酸に由来するピーク(以下、「固体酸ピーク」とする)とみなした。
【0119】
脱離スペクトルにおける固体酸ピークのピーク面積を求め、これと、予め測定したアンモニア量(mmol)が既知のガス(30mLの10容量%アンモニア−ヘリウム混合ガス)のNH−TPDピークのピーク面積との比を求めた。これにより固体酸ピークに相当するアンモニア脱離量(mmol)を求め、以下の式により、試料の固体酸量を求めた。
【0120】
試料の固体酸量(mmol/g)
=固体酸ピークに相当するアンモニア脱離量(mmol)
/CHA構造及びAEI構造を有するシリコアルミノリン酸塩質量(g)
【0121】
(BET表面積の測定)
一般的な表面積測定装置(商品名:OMNISORP 360CX型、コールター社製)を用い、試料のBET表面積を測定した。試料は真空排気下、350℃で2時間の前処理をおこなった。前処理後の試料を約0.1g量りとった後、液体窒素温度における当該試料の窒素吸着等温線の相対圧0.01から0.05の範囲の窒素吸着量からBET表面積を算出した。
【0122】
(窒素酸化物還元率の測定方法)
試料の窒素酸化物還元率は、以下に示すアンモニアSCR方法により測定した。
【0123】
測定に先立ち、試料を加圧成形し、粉砕した後、12〜20メッシュに整粒した。整粒した試料を1.5mL量りとり、これを反応管に充填して窒素酸化物還元触媒とした。その後、150℃、200℃、300℃、又は500℃のいずれかの温度で、窒素酸化物を含む以下の組成からなる処理ガスを当該反応管に流通させた。なお、その他の条件は、処理ガスの流量を1.5L/min、及び空間速度(SV)を60,000hr−1として測定を行った。
【0124】
処理ガス組成 NO 200ppm
NH 200ppm
10容量%
O 3容量%
残部 N
【0125】
反応管に流通させた処理ガス中の窒素酸化物濃度(200ppm)に対する、試料流通後の処理ガス中の窒素酸化物濃度(ppm)を求め、上記(2)式に従って、窒素酸化物還元率を求めた。
【0126】
実施例1
(シリコアルミノリン酸塩の作製)
水1690g、85%リン酸水溶液(特級試薬、キシダ化学製)559g、30%コロイダルシリカ(ST−N30、日産化学製)284g、トリエチルアミン(以下、「TEA」とする;特級試薬、キシダ化学製)744g、及び、77%擬ベーマイト(Pural SB、サソール製)322gを混合し、次の組成の反応混合物を調製した。
【0127】
/Al=1.0
SiO/Al=0.6
O/Al=50
TEA/Al=3
【0128】
この反応混合物を4Lのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、270rpmで撹拌しながら180℃で69時間保持することで、これを結晶化して生成物を得た。
【0129】
得られた生成物はろ過、水洗し、その後、大気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後の生成物を、空気中、600℃で2時間焼成した。
【0130】
粉末X線回折パターンから得られた、焼成後の生成物の面間隔値(d値)及び相対強度を表2に示す。なお、表は相対強度2%以上の回折ピークのみを記載した。
【0131】
【表2】
【0132】
得られたシリコアルミノリン酸塩の連晶比はAEI構造の割合が60%(CHA/AEI=0.667)であり、組成が以下の式で表される連晶シリコアルミノリン酸塩であった。
【0133】
(Si0.09Al0.490.42)O
【0134】
また、当該連晶シリコアルミノリン酸塩の平均粒径は4.3μm、固体酸量は0.91mmol/g、BET表面積は722m/gであった。
【0135】
(窒素酸化物還元触媒の作製)
得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成した。純水2.9gに硝酸銅三水和物(一級試薬、キシダ化学株式会社製)0.46gを溶解して硝酸銅水溶液を得た。焼成後の試料7.5gに得られた硝酸銅水溶液を全量滴下した後、乳鉢で10分間混練した。
【0136】
混練後の試料を110℃で一晩乾燥した後、大気中、500℃、1時間焼成して銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩の銅含有量は1.6重量%であった。
【0137】
(水和処理)
得られた銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩5gをシャーレに量りとり、底部に純水を含むデシケーターにこれを配置した後、デシケーターを密閉した。当該デシケーターを80℃に保持した乾燥機中に配置することにより、銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩を80℃の飽和水蒸気濃度(291g/m)雰囲気下に置いた。当該雰囲気下に8日間、20日間、及び80日間静置することにより、銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩を水和処理した。
【0138】
焼成後(すなわち、水和処理前)の銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩、及び各期間で水和処理を施した後の銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩について、以下の条件で耐久処理を施した。
【0139】
処理ガス組成 HO 10容量%
残部 Air
処理ガス流量 0.3リットル/分
処理ガス/触媒容量比 100/分
触媒温度 900℃(昇温速度10℃/分)
空間速度 6,000hr−1
処理時間 1時間(900℃保持時間)
【0140】
耐久処理後、150℃、200℃、及び、300℃の各温度で、低温における窒素酸化物還元率及び水和還元維持率を評価した。結果を表3に示す。
【0141】
【表3】
【0142】
表3より、焼成後の窒素酸化物還元率が300℃において90%以上と、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は低温下における窒素酸化物還元率が高いことが確認できた。特に、焼成後の窒素酸化物還元率は200℃において85%以上、150℃において70%以上であり、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は200℃以下、更には150℃以下のより低温下であっても、高い窒素酸化物還元率を有していることが確認できた。
【0143】
さらに、焼成後から水和処理後の全期間において、各温度における窒素酸化物還元率が、300℃において90%以上、200℃において80%以上、及び150℃において66%以上と、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、水を含有する雰囲気下に長時間さらされた場合であっても、高い窒素酸化物還元率を有することが確認できた。
【0144】
また、水和処理を8日間及び20日間施した場合の水和還元維持率が、いずれの温度でも、100%近くであった。これより、本発明のシリコアルミノリン酸塩は、初期状態から窒素酸化物還元率の変動がほとんど生じない窒素酸化物還元触媒等となることが確認できた。
【0145】
さらに、水和処理を80日間施した場合であっても、300℃及び200℃における水和還元維持率が100%近く、窒素酸化物還元率の低下がないだけでなく、150℃においても水和還元維持率が90%以上であった。これより、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、200℃以下の低温下だけでなく、150℃以下のより低い温度下においても高い窒素酸化物還元率を維持することが確認できた。
【0146】
実施例2
(窒素酸化物還元触媒の作製)
実施例1と同様な方法で連晶シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成した。焼成後の試料を10.0g量りとり、酢酸銅水溶液に分散させ、スラリーとした。得られたスラリーをpH7.5とし、これを室温度20時間攪拌することでイオン交換を行った。
【0147】
なお、酢酸銅水溶液には、純水100gに酢酸銅(II)一水和物(一級試薬、キシダ化学株式会社製)1.01gを溶解したものを使用し、pH調整には25%アンモニア水(試薬特級、キシダ化学製)を使用した。
【0148】
イオン交換後のスラリーをろ過、洗浄し、110℃で一晩乾燥することにより、銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩の銅含有量は2.7重量%であった。
【0149】
実施例3
(窒素酸化物還元触媒の作製)
実施例1と同様な方法で連晶シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成した。純水2.9gに硝酸銅三水和物0.98gを溶解して硝酸銅水溶液を得た。焼成後の試料7.5gに得られた硝酸銅水溶液を全量滴下した後、乳鉢で10分間混練した。
【0150】
混練後の連晶シリコアルミノリン酸塩を110℃で一晩乾燥した後、空気雰囲気下、500℃で1時間の焼成を行い、銅含有シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩の銅含有量は3.4重量%であった。
【0151】
実施例4
(シリコアルミノリン酸塩の作製)
水1698g、85%リン酸水溶液559g、30%コロイダルシリカ284g、トリエチルアミン736g、77%擬ベーマイト322g、及び、種晶4.2gを混合し、次の組成の反応混合物を調製した。なお、種晶には、実施例1で得られた連晶シリコアルミノリン酸塩をボールミルで1時間湿式粉砕したものを使用した。
【0152】
/Al=1.0
SiO/Al=0.6
O/Al=50
TEA/Al=3
種晶0.5重量%
【0153】
この反応混合物を4Lのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、270rpmで撹拌しながら180℃で64時間保持し、これを結晶化して生成物を得た。
【0154】
得られた生成物はろ過、水洗し、その後、大気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後の生成物を、空気中、600℃で2時間焼成した。
【0155】
焼成後の生成物の粉末X線回折パターンから得られた、面間隔値(d値)及び相対強度を表4に示す。なお、表は相対強度2%以上の回折ピークのみを記載した。
【0156】
【表4】
【0157】
得られたシリコアルミノリン酸塩の連晶比はAEI構造の割合が65%(CHA/AEI=0.538)であり、組成が以下の式で表される連晶シリコアルミノリン酸塩であった。
【0158】
(Si0.08Al0.500.42)O
【0159】
また、当該連晶シリコアルミノリン酸塩の平均粒径は1.2μm、固体酸量は0.80mmol/g、BET表面積は741m/gであった。
【0160】
(窒素酸化物還元触媒の作製)
得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成した。純水2.9gに硝酸銅三水和物0.37gを溶解して硝酸銅水溶液を得た。焼成後の試料7.5gに得られた硝酸銅水溶液を全量滴下した後、乳鉢で10分間混練した。
【0161】
混練後の連晶シリコアルミノリン酸塩を110℃で一晩乾燥した後、空気雰囲気下、500℃で1時間の焼成を行い、銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩の銅含有量は1.3重量%であった。
【0162】
実施例5
(シリコアルミノリン酸塩の作製)
水29.4g、85%リン酸水溶液8.9g、30%コロイダルシリカ0.98g、トリエチルアミン11.7g、77%擬ベーマイト5.1g、及び、種晶0.07gを混合し、次の組成の反応混合物を調製した。なお、種晶には、実施例1で得られた連晶シリコアルミノリン酸塩をボールミルで1時間湿式粉砕したものを使用した。
【0163】
/Al=1.0
SiO/Al=0.13
O/Al=50
TEA/Al=3
種晶0.6重量%
【0164】
この反応混合物を80mlのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、水平軸廻りに55rpmで回転させながら180℃で63時間保持し、これを結晶化して生成物を得た。
【0165】
得られた生成物はろ過、水洗し、その後、大気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後の生成物を、空気中、600℃で2時間焼成した。
【0166】
焼成後の生成物の粉末X線回折パターンから得られた、面間隔値(d値)及び相対強度を表5に示す。なお、表は相対強度2%以上の回折ピークのみを記載した。
【0167】
【表5】
【0168】
得られたシリコアルミノリン酸塩の連晶比はAEI構造の割合が60%(CHA/AEI=0.667)であり、組成が以下の式で表される連晶シリコアルミノリン酸塩であった。
【0169】
(Si0.06Al0.500.44)O
【0170】
また、当該連晶シリコアルミノリン酸塩の平均粒径は1.4μm、固体酸量は0.59mmol/g、BET表面積は749m/gであった。
【0171】
(窒素酸化物還元触媒の作製)
得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成した。純水2.9gに硝酸銅三水和物0.37gを溶解して硝酸銅水溶液を得た。焼成後の試料7.5gに得られた硝酸銅水溶液を全量滴下した後、乳鉢で10分間混練した。
【0172】
混練後の連晶シリコアルミノリン酸塩を110℃で一晩乾燥した後、空気雰囲気下、500℃で1時間の焼成を行い、銅含有シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた銅含有シリコアルミノリン酸塩の銅含有量は1.3重量%であった。
【0173】
実施例6
(窒素酸化物還元触媒の作製)
実施例1と同様な方法で連晶シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成した。焼成後の試料を10.0g量りとり、硝酸銅水溶液に分散させ、スラリーとした。得られたスラリーをpH7.0とし、これを室温度2時間攪拌することでイオン交換を行った。
【0174】
なお、硝酸銅水溶液には、純水100gに硝酸銅(II)一水和物0.63gを溶解したものを使用し、pH調整には25%アンモニア水を使用した。
【0175】
イオン交換後のスラリーをろ過、洗浄し、110℃で一晩乾燥することにより、銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた銅含有シリコアルミノリン酸塩の銅含有量は0.3重量%であった。
【0176】
比較例1
(シリコアルミノリン酸塩の作製)
水244g、85%リン酸水溶液279g、30%コロイダルシリカ135g、35%テトラエチルアンモニウムヒドロキサイド(TEAOH;工業用、アルファーエイサー製)1159g、77%擬ベーマイト183gを混合し、次の組成の反応混合物を調製した。
【0177】
/Al=0.88
SiO/Al=0.5
O/Al=50
TEAOH/Al=2
【0178】
この反応混合物を4Lのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、270rpmで撹拌しながら200℃で92時間保持した。
【0179】
生成物をろ過、水洗し、その後、大気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後の生成物を、空気中、600℃で2時間焼成した。
【0180】
焼成後の生成物の粉末X線回折パターンから得られた、面間隔値(d値)及び相対強度を表6に示す。なお、表は相対強度2%以上の回折ピークのみを記載した。
【0181】
【表6】
【0182】
得られたシリコアルミノリン酸塩の連晶比はAEI構造が10%(CHA/AEI=0.111)であり、組成が以下の式で表される連晶シリコアルミノリン酸塩であった。
【0183】
(Si0.12Al0.490.39)O
【0184】
また、当該連晶シリコアルミノリン酸塩の平均粒径は0.8μm、固体酸量は1.15mmol/gであった。
【0185】
(窒素酸化物還元触媒の作製)
得られた連晶シリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成した。純水2.9gに硝酸銅三水和物0.46gを溶解した硝酸銅水溶液を焼成後の試料7.5gに滴下した後、乳鉢で10分間混練した。
【0186】
混練後の連晶シリコアルミノリン酸塩を110℃で一晩乾燥した後、空気雰囲気下、500℃で1時間の焼成を行い、銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩の銅含有量は1.6重量%であった。
【0187】
(水和処理)
静置期間を80日間としたこと以外は実施例1と同様な方法で、得られた銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩を水和処理した。水和処理後、実施例1と同様な方法で耐久処理を得られた銅含有シリコアルミノリン酸塩及び、焼成後(すなわち、耐久処理前)の銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩に施した後、150℃、200℃、300℃、及び500℃の各温度でその窒素酸化物還元率を評価した。結果を表7に示す。
【0188】
【表7】
【0189】
表7より、比較例1の500℃の高温下における窒素酸化物還元率は、実施例1のそれよりも高かった。しかしながら、水和処理を80日間施した後の実施例1の水和還元維持率は100%であるのに対し、比較例1のそれは77%であった。これより、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、CHA構造を多く含む連晶シリコアルミノリン酸塩と比べ、500℃以上の高温下において、窒素酸化物還元率の変化が少ないことが分かった。
【0190】
また、300℃及び200℃の窒素酸化物還元率において、焼成後は実施例1、比較例1のいずれも90%以上の窒素酸化物還元率を示し、同等の窒素酸化物還元特性を有することが確認できた。しかしながら、水和処理を80日間施した後の比較例1の水和還元維持率は83%であり、実施例1の水和還元維持率より低かった。これより、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、CHA構造を多く含む連晶シリコアルミノリン酸塩と比べ、300℃以下、更には200℃以下の低温下においても、窒素酸化物還元率の変化が少ないことが分かった。
【0191】
さらに、150℃の窒素酸化物還元率において、焼成後は実施例1が74%であるのに対し、比較例1は70%であった。これより、150℃以下のより低温下においては、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、CHA構造を多く含む連晶シリコアルミノリン酸塩と比べて高い窒素酸化物還元率を有していることが確認できた。さらに150℃の水和還元維持率は実施例1が90%以上であるのに対し、比較例1は30%であり、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、CHA構造を多く含む連晶シリコアルミノリン酸塩と比べて3倍以上の水和還元維持率を示すことが確認できた。これにより、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、150℃以下のより低温下において、窒素酸化物還元率の変化が少ない窒素酸化物還元特性を有することが確認できた。
【0192】
比較例2
(シリコアルミノリン酸塩の作製)
水64.3g、85%リン酸水溶液18.3g、30%コロイダルシリカ(6.9g、N−エチルジイソプロピルアミン(以下、「EDIPA」とする;特級試薬、キシダ化学製)18.8g、及び、77%擬ベーマイト11.7gを混合し、次の組成の反応混合物を調製した。
【0193】
/Al=0.9
SiO/Al=0.4
O/Al=50
EDIPA/Al=1.6
【0194】
この反応混合物を80mlのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、水平軸廻りに55rpmで回転させながら160℃で91時間保持した。
【0195】
生成物をろ過、水洗し、その後、大気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後の生成物を、空気中、600℃で2時間焼成した。
【0196】
焼成後の生成物の粉末X線回折パターンから得られた、面間隔値(d値)及び相対強度を表8に示す。なお、表は相対強度2%以上の回折ピークのみを記載した。
【0197】
【表8】
【0198】
得られたシリコアルミノリン酸塩の連晶比はAEI構造が100%(CHA/AEI=0)であり、その構造中AEI構造のみを有するシリコアルミノリン酸塩であった。また、当該シリコアルミノリン酸塩の組成は以下の式で表されるものあった。
【0199】
(Si0.12Al0.500.39)O
【0200】
また、当該シリコアルミノリン酸塩の結晶形状は柱状や板状など不定形で、かつ、長辺方向が1μm程度の粒子であり、その固体酸量は0.33mmol/gであった。
【0201】
(窒素酸化物還元触媒の作製)
得られたシリコアルミノリン酸塩を600℃で2時間焼成した。純水2.9gに硝酸銅三水和物0.46gを溶解した硝酸銅水溶液を焼成後の試料7.5gに滴下した後、乳鉢で10分間混練した。
【0202】
混練後のシリコアルミノリン酸塩を110℃で一晩乾燥した後、空気雰囲気下、500℃で1時間の焼成を行い、銅含有シリコアルミノリン酸塩を得た。得られた銅含有シリコアルミノリン酸塩の銅含有量は1.6重量%であった。
【0203】
(耐熱性評価)
実施例1、2、4及び比較例1の銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩、並びに、比較例2の銅含有シリコアルミノリン酸塩について、実施例1と同様な耐久処理を施した。耐久処理前、及び、耐久処理後のこれらの試料の窒素酸化物還元率を測定した。結果を表9に示す。
【0204】
【表9】
【0205】
表9より、実施例の連晶シリコアルミノリン酸塩は、150℃、200℃、300℃、及び、500℃のいずれの温度においても、耐久処理前の窒素酸化物還元率が65%以上、耐久処理後の窒素酸化物還元率は70%以上と、いずれも高い窒素酸化物還元特性を有していることが確認できた。
【0206】
特に、実施例の銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩は、耐久処理後における、150℃の窒素酸化物還元率は70%を超える高い値を示すことが確認できた。
【0207】
さらに、実施例1の銅含有連晶シリコアルミノリン酸塩は、比較例1の連晶シリコアルミノリン酸塩と銅の量が等しい。しかしながら、耐久処理前後によらず、実施例1の窒素酸化物還元率は、比較例1のそれよりも高かった。これより本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、CHA構造を多く含有する連晶シリコアルミノリン酸塩よりも高い窒素酸化物還元率を示すこと、特に150℃という低温における窒素酸化物還元率が高くなることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩は、窒素酸化物還元触媒、特に、アンモニア等を還元剤として窒素酸化物を選択的に還元する窒素酸化物還元触媒として使用することができる。このように、本発明の連晶シリコアルミノリン酸塩を含む窒素酸化物還元触媒等は、例えば、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等の内燃機関や燃焼設備等の酸素を含有する排気ガスをはじめとする自動車排ガスや、工場排ガスなどの排気ガス処理システムに使用することができる。
図1
図2