(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983300
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】フマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体およびそれを用いた位相差フィルム
(51)【国際特許分類】
C08F 222/14 20060101AFI20160818BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20160818BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
C08F222/14
G02B5/30
C08J5/18CER
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-233176(P2012-233176)
(22)【出願日】2012年10月22日
(65)【公開番号】特開2014-84364(P2014-84364A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖芳
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】豊増 信之
【審査官】
藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】
特開平6−287239(JP,A)
【文献】
特開2002−182388(JP,A)
【文献】
特開2006−193616(JP,A)
【文献】
特開2008−112141(JP,A)
【文献】
特開2008−120851(JP,A)
【文献】
特開2008−129465(JP,A)
【文献】
特開2011−107281(JP,A)
【文献】
特開2012−32784(JP,A)
【文献】
特開2012−97134(JP,A)
【文献】
特開2012−136603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00 − 222/40
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ジイソプロピル残基単位およびケイ皮酸残基単位を含むことを特徴とするフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体。
【請求項2】
フマル酸ジイソプロピル残基単位50〜99モル%およびケイ皮酸残基単位1〜50モル%を含むことを特徴とする請求項1に記載のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体。
【請求項3】
標準ポリスチレン換算の数平均分子量が30,000〜500,000であることを特徴とする請求項1または2に記載のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体を用いたことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項5】
フィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした場合のそれぞれの関係がnx≦ny<nzであることを特徴とする請求項4に記載の位相差フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体およびそれを用いた位相差フィルムに関するものであり、さらに詳細には、薄膜においても高い面外位相差を有する位相差フィルム、特に液晶表示素子用の光学補償フィルムに適した新規なフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、マルチメディア社会における最も重要な表示デバイスとして、携帯電話、コンピュータ用モニター、ノートパソコン、テレビまで幅広く使用されている。液晶ディスプレイには表示特性向上のため多くの光学フィルムが用いられており、特に位相差フィルムは正面や斜めから見た場合のコントラストの向上、色調の補償等大きな役割を果たしている。従来の位相差フィルムとしては、ポリカーボネートや環状ポリオレフィンが使用されており、これらの高分子はいずれも正の複屈折を有する高分子である。ここで、複屈折の正負は以下に示すように定義される。
【0003】
延伸等で分子配向した高分子フィルムの光学異方性は、
図1に示す屈折率楕円体で表すことができる。ここで、フィルムを延伸した場合のフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzと示す。なお、進相軸とはフィルム面内における屈折率の低い軸方向を指す。
【0004】
そして、負の複屈折とは延伸方向が進相軸方向となるものであり、正の複屈折とは延伸方向と垂直方向が進相軸方向となるものである。
【0005】
つまり、負の複屈折を有する高分子の一軸延伸では延伸軸方向の屈折率が小さく(進相軸:延伸方向)、正の複屈折を有する高分子の一軸延伸では延伸軸と直交する軸方向の屈折率が小さい(進相軸:延伸方向と垂直方向)。
【0006】
多くの高分子は正の複屈折を有する。負の複屈折を有する高分子としてはアクリル樹脂やポリスチレンがあるが、アクリル樹脂は位相差が小さく、位相差フィルムとしての特性は十分でない。ポリスチレンは、低温領域での光弾性係数が大きいためにわずかな応力で位相差が変化するなど位相差の安定性の課題、位相差の波長依存性が大きいといった光学特性上の課題、さらに耐熱性が低いという実用上の課題があり、現状用いられていない。
【0007】
ここで、位相差の波長依存性とは、位相差が測定波長に依存して変化することを意味し、波長450nmで測定した位相差(R450)と波長550nmで測定した位相差(R550)の比、R450/R550として表すことができる。一般に、芳香族構造の高分子ではこのR450/R550が大きくなる傾向が強く、低波長領域でのコントラストや視野角特性が低下する。
【0008】
負の複屈折を示す高分子の延伸フィルムではフィルムの厚み方向の屈折率が高く、従来にない位相差フィルムとなるため、例えば、スーパーツイストネマチック型液晶ディスプレイ(STN−LCD)や垂直配向型液晶ディスプレイ(VA−LCD)、面内配向型液晶ディスプレイ(IPS−LCD)、反射型液晶ディスプレイ(反射型LCD)等のディスプレイの視角特性の補償用位相差フィルムや偏向板の視野角補償フィルムとして有用であり、負の複屈折を有する位相差フィルムに対して市場の要求は強い。
【0009】
正の複屈折を有する高分子を用いてフィルムの厚み方向の屈折率を高めたフィルムの製造方法が提案されている。ひとつは高分子フィルムの片面または両面に熱収縮性フィルムを接着し、その積層体を加熱延伸処理して、高分子フィルムのフィルム厚み方向に収縮力をかける処理方法(例えば、特許文献1〜3参照)である。また、高分子フィルムに電場を印加しながら面内に一軸延伸する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
それ以外にも負の光学異方性を有する微粒子と透明性高分子からなる位相差フィルムが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0011】
しかし、特許文献1〜4において提案された方法は、製造工程が非常に複雑になるために生産性が劣る課題がある。また位相差の均一性等の制御も従来の延伸による制御と比べると著しく難しくなる。
【0012】
ベースフィルムとしてポリカーボネートを使用した場合には室温での光弾性係数が大きくわずかな応力によって位相差が変化することから、位相差の安定性に課題がある。さらに位相差の波長依存性が大きい課題も抱えている。
【0013】
特許文献5で得られる位相差フィルムは、負の光学異方性を有する微粒子を添加することによって負の複屈折を示す位相差フィルムであり、製造方法の簡便化や経済性の観点から、微粒子を添加する必要のない位相差フィルムが求められている。
【0014】
また、フマル酸ジエステル系樹脂及びそれよりなるフィルムが提案されている(例えば、特許文献6〜10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許2818983号公報
【特許文献2】特開平5−297223号公報
【特許文献3】特開平5−323120号公報
【特許文献4】特開平6−88909号公報
【特許文献5】特開2005−156862号公報
【特許文献6】特開2008−112141号公報
【特許文献7】特開2012−032784号公報
【特許文献8】WO2012/005120号公報
【特許文献9】特開2008−129465号公報
【特許文献10】特開2006-193616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献6〜10で提案されたフマル酸ジエステル系樹脂及びそれよりなるフィルムは、高い面外位相差を有しているものの、現状においては、薄膜においてもより高い面外位相差を有するフィルムが求められている。
【0017】
本発明の目的は、特定の共重合体を用いた薄膜においても高い面外位相差を有する光学特性に優れた位相差フィルムに適した新規なフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、フマル酸ジイソプロピル残基単位およびケイ皮酸残基単位を含むことを特徴とするフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体ならびにそれを用いた位相差フィルムに関するものである。
【0020】
以下、本発明の位相差フィルムに適したフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体について詳細に説明する。
【0021】
本発明のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体は、フマル酸ジイソプロピル残基単位およびケイ皮酸残基単位を含むフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体である。
【0022】
該フマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体は、本発明の範囲を超えない限り、他の単量体残基単位を含有していてもよく、他の単量体残基単位としては、例えば、スチレン残基単位、α−メチルスチレン残基単位等のスチレン類残基単位;(メタ)アクリル酸残基単位;(メタ)アクリル酸メチル残基単位、(メタ)アクリル酸エチル残基単位、(メタ)アクリル酸ブチル残基単位等の(メタ)アクリル酸エステル残基単位;酢酸ビニル残基単位、プロピオン酸ビニル残基単位等のビニルエステル類残基単位;アクリロニトリル残基単位;メタクリロニトリル残基単位;メチルビニルエーテル残基単位、エチルビニルエーテル残基単位、ブチルビニルエーテル残基単位等のビニルエーテル類残基単位;N−メチルマレイミド残基単位、N−シクロヘキシルマレイミド残基単位、N−フェニルマレイミド残基単位等のN−置換マレイミド類残基単位;エチレン残基単位、プロピレン残基単位等のオレフィン類残基単位;フマル酸ジn−ブチル残基単位、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)残基単位等のフマル酸ジイソプロピル残基単位以外のフマル酸ジエステル類残基単位より選ばれる1種また2種以上を挙げることができる。
【0023】
本発明のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体の組成は、位相差フィルムとしたときの位相差特性や強度が優れたものとなることから、フマル酸ジイソプロピル残基単位50〜99モル%およびケイ皮酸残基単位1〜50モル%が好ましく、フマル酸ジイソプロピル残基単位70〜97モル%およびケイ皮酸残基単位3〜30モル%がさらに好ましい。
【0024】
本発明のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体は、機械特性に優れたものとなることから、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量が30,000〜500,000あることが好ましく、30,000〜300,000であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体の製造方法としては、フマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体が得られる限りにおいて如何なる方法により製造してもよく、例えば、フマル酸ジイソプロピルとケイ皮酸のラジカル重合を行うことにより製造することができる。
【0026】
前記ラジカル重合は公知の重合方法、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれも採用可能である。
【0027】
ラジカル重合を行う際の重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0028】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン;アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水等が挙げられ、これらの混合溶媒も挙げられる。
【0029】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、反応の制御が容易であることから、一般的には30〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0030】
本発明のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体を用いた光学フィルムが得られたときは、薄膜においても高い面外位相差を有し光学特性に優れることから、位相差フィルムとすることが好ましい。
【0031】
本発明の位相差フィルムは、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした場合のそれぞれの関係がnx≦ny<nzであることを特徴とする位相差フィルムであり、前記nx≦ny<nzを満たすことによりSTN−LCD、IPS−LCD、反射型LCDや半透過型LCD等の視野角補償性能に優れた位相差フィルムとなるものである。なお、一般的にフィルムの3次元屈折率の制御はフィルムの延伸等によって行われるため製造工程や品質の管理が複雑になるが、本発明の位相差フィルムは未延伸でフィルム厚み方向の屈折率が高いという特異な挙動を示すことを見出している。
【0032】
また、本発明の位相差フィルムがより光学特性に優れた位相差フィルムとなることから、次の式(a)にて示される波長550nmで測定した面外位相差(Rth)が−50〜−2000nmであることが好ましく、−100〜−500nmであることがさらに好ましい。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d (a)
(ここで、dはフィルムの厚みを示す。)
本発明の位相差フィルムは薄膜においても高い面外位相差を有することから、膜厚と面外位相差の関係が、絶対値で4.5nm/フィルム膜厚(μm)以上が好ましく、5〜15nm/フィルム膜厚(μm)がさらに好ましい。
【0033】
位相差の波長依存性は、波長450nmで測定した位相差(R450)と波長550nmで測定した位相差(R550)の比R450/R550として表すことができる。本発明の位相差フィルムでは、該R450/R550は、1.1以下が好ましく、1.08以下がさらに好ましく、1.05以下が特に好ましい。
【0034】
本発明の位相差フィルムは、液晶表示素子に用いられる際に画質の特性が良好なものとなることから、光線透過率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、位相差フィルムのヘーズ(曇り度)は2%以下であることが好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明の位相差フィルムの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、溶液キャスト法、溶融キャスト法等の方法が挙げられる。
【0036】
溶液キャスト法は、フマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体を溶媒に溶解した溶液(以下、ドープと称する。)を支持基板上に流延した後、加熱等により溶媒を除去してフィルムを得る方法である。その際ドープを支持基板上に流延する方法としては、例えば、Tダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法等が用いられる。特に、工業的にはダイからドープをベルト状またドラム状の支持基板に連続的に押し出す方法が最も一般的である。用いられる支持基板としては、例えば、ガラス基板、ステンレスやフェロタイプ等の金属基板、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム等がある。溶液キャスト法において、高い透明性を有し、かつ厚み精度、表面平滑性に優れたフィルムを製膜する際には、ドープの溶液粘度は極めて重要な因子であり、10〜20000cPsが好ましく、100〜10000cPsであることがさらに好ましい。
【0037】
この際のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体の塗布厚は、フィルムの取り扱いが容易であることから、乾燥後1〜200μmが好ましく、さらに好ましくは5〜100μm、特に好ましくは10〜50μmである。
【0038】
また、溶融キャスト法は、フマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体を押出機内で溶融し、Tダイのスリットからフィルム状に押出した後、ロールやエアー等で冷却しつつ引き取る成形法である。
【0039】
本発明の位相差フィルムは、基材のガラス基板や他の光学フィルムから剥離して用いることが可能であり、基材のガラス基板や他の光学フィルムとの積層体としても用いることができる。
【0040】
また、本発明の位相差フィルムは、偏光板と積層して円または楕円偏光板として用いることが可能であり、ポリビニルアルコール/ヨウ素等を含む偏光子と積層して偏光板とすることも可能である。さらに、本発明の位相差フィルム同士または他の位相差フィルムと積層することもできる。
【0041】
本発明の位相差フィルムは、フィルム成形時または位相差フィルム自体の熱安定性を高めるために酸化防止剤が配合されていることが好ましい。該酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他酸化防止剤が挙げられ、これら酸化防止剤はそれぞれ単独または併用して用いても良い。そして、相乗的に酸化防止作用が向上することからヒンダード系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用して用いることが好ましく、その際には例えば、ヒンダード系酸化防止剤100重量部に対して、リン系酸化防止剤を100〜500重量部で混合して使用することがさらに好ましい。また、酸化防止剤の添加量としては、酸化防止作用のより効果的な発現のため、本発明の位相差フィルムを構成するフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、0.5〜1重量部がさらに好ましい。
【0042】
さらに、紫外線吸収剤として、例えば、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエート等の紫外線吸収剤を必要に応じて配合してもよい。
【0043】
本発明の位相差フィルムは、発明の主旨を超えない範囲で、その他高分子、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等を配合してもよい。
【0044】
本発明によると、液晶ディスプレイのコントラストや視野角特性の補償フィルムや反射防止フィルムとして有用となるフィルムの厚み方向の屈折率が大きく、面内位相差が大きく、波長依存性が小さい等の光学特性に優れた位相差フィルムに適したフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体を提供することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明のフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体は、薄膜においても高い面外位相差を有し、フィルムの厚み方向の屈折率が大きい等の光学特性に優れる位相差フィルムに適したフマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体であり、特に液晶表示素子用の光学補償フィルム用として適したものである。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
なお、実施例により示す諸物性は、以下の方法により測定した。
【0049】
<フマル酸ジイソプロピル−ケイ皮酸共重合体の組成>
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(
1H−NMR)スペクトル分析より求めた。
【0050】
<数平均分子量の測定>
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー製、商品名C0−8011(カラムGMH
HR―Hを装着))を用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃で測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0051】
<透明性の評価方法>
ヘーズメーター(日本電色工業製、商品名NDH5000)を使用して、フィルムの全光線透過率およびヘーズを測定した。
【0052】
<屈折率の測定>
アッベ屈折率計(アタゴ製)を用い、JIS K 7142(1981年版)に準拠して測定した。
【0053】
<フィルムの位相差および三次元屈折率の測定>
全自動複屈折計(王子計測機器製、商品名KOBRA−WR)を用いて測定した。
【0054】
実施例1(フマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体の合成1)
容量75mLのガラスアンプルにフマル酸ジイソプロピル50g(0.25モル)、ケイ皮酸1.9g(0.013モル)および重合開始剤であるtert−ブチルパーオキシピバレート0.29g(0.0016モル)を入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを50℃の恒温槽に入れ、48時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン400gで溶解させた。このポリマー溶液を3Lのメタノール中に滴下して析出させた後、80℃で10時間真空乾燥することにより、フマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸ジエステル共重合体21gを得た(収率:41%)。
【0055】
得られたフマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体の数平均分子量は138,000であった。
【0056】
また、
1H−NMR測定により、共重合体組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/ケイ皮酸残基単位=97/3(モル%)であることを確認した。
【0057】
実施例2(フマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体の合成2)
容量75mLのガラスアンプルにフマル酸ジイソプロピル50g(0.25モル)、ケイ皮酸6.5g(0.044モル)および重合開始剤であるtert−ブチルパーオキシピバレート0.32g(0.0018モル)を入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを50℃の恒温槽に入れ、48時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン400gで溶解させた。このポリマー溶液を3Lのメタノール中に滴下して析出させた後、80℃で10時間真空乾燥することにより、フマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体19gを得た(収率:34%)。
【0058】
得られたフマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体の数平均分子量は122,000であった。
【0059】
また、
1H−NMR測定により、共重合体組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/ケイ皮酸エチル残基単位=90/10(モル%)であることを確認した。
【0060】
実施例3(フマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体の合成3)
容量75mLのガラスアンプルにフマル酸ジイソプロピル50g(0.25モル)、ケイ皮酸15.9g(0.107モル)および重合開始剤であるtert−ブチルパーオキシピバレート0.21g(0.0012モル)を入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを50℃の恒温槽に入れ、48時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン400gで溶解させた。このポリマー溶液を3Lのメタノール中に滴下して析出させた後、80℃で10時間真空乾燥することにより、フマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸ジエステル共重合体10gを得た(収率:15%)。
【0061】
得られたフマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体の数平均分子量は65,000であった。
【0062】
また、
1H−NMR測定により、共重合体組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/ケイ皮酸残基単位=79/21(モル%)であることを確認した。
【0063】
実施例4
実施例1で得られたフマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体をメチルイソブチルケトンに溶解して15重量%の樹脂溶液とし、コーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、130℃で10分乾燥することにより、厚み30μmのフマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸ジエステル共重合体を用いたフィルムを得た。
【0064】
得られたフィルムは、全光線透過率92%、ヘーズ0.5%、屈折率1.474であった。
【0065】
三次元屈折率は、nx=1.4716、ny=1.4716、nz=1.4773であり、得られたフィルムはnx=ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きい値を示した。また、面外位相差Rthは−170nmと負に大きく、さらに位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.05であった。また、膜厚と面外位相差の絶対値は5.7であった。
【0066】
これらの結果より、得られたフィルムは負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、さらに面外位相差が負に大きく、薄膜においても高い面外位相差を有することから、位相差フィルムに適したものであった。
【0067】
実施例5
実施例2で得られたフマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体をトルエン/メチルイソブチルケトン混合溶剤に溶解して15重量%の樹脂溶液とし、コーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、130℃で10分乾燥することにより、厚み30μmのフマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸ジエステル共重合体を用いたフィルムを得た。
【0068】
得られたフィルムは、全光線透過率92%、ヘーズ0.6%、屈折率1.482であった。
【0069】
三次元屈折率は、nx=1.4796、ny=1.4796、nz=1.4861であり、得られたフィルムはnx=ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きい値を示した。また、面外位相差Rthは−194nmと負に大きく、さらに位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.07であった。また、膜厚と面外位相差の絶対値は6.5であった。
【0070】
これらの結果より、得られたフィルムは負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、さらに面外位相差が負に大きく、薄膜においても高い面外位相差を有することから、位相差フィルムに適したものであった。
【0071】
実施例6
実施例3で得られたフマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸共重合体を酢酸エチル/メチルイソブチルケトン混合溶剤に溶解して15重量%の樹脂溶液とし、コーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、130℃で10分乾燥することにより、厚み15μmのフマル酸ジイソプロピル/ケイ皮酸ジエステル共重合体を用いたフィルムを得た。
【0072】
得られたフィルムは、全光線透過率92%、ヘーズ0.7%、屈折率1.495であった。
【0073】
三次元屈折率は、nx=1.4925、ny=1.4925、nz=1.4991であり、得られたフィルムはnx=ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きい値を示した。また、面外位相差Rthは−99nmと負に大きく、さらに位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.10であった。また、膜厚と面外位相差の絶対値は7.6であった。
【0074】
これらの結果より、得られたフィルムは負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、さらに面外位相差が負に大きく、薄膜においても高い面外位相差を有することから、位相差フィルムに適したものであった。
【0075】
比較例1(フマル酸ジエステル系共重合体(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ビス2−エチルヘキシル共重合体)の合成1)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた1Lのオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)1.6g、蒸留水520g、フマル酸ジイソプロピル196g、フマル酸ビス2−エチルヘキシル84g、及び重合開始剤であるt−ブチルパーオキシピバレート1.9gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、400rpmで攪拌しながら50℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液をろ別し、蒸留水およびメタノールで洗浄することによりフマル酸ジエステル系共重合体を得た(収率:66%)。
【0076】
得られたフマル酸ジエステル系共重合体の数平均分子量は86,000であった。また、
1H−NMR測定により、共重合体組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ビス2−エチルヘキシル残基単位=84/16(モル%)であることを確認した。
【0077】
比較例2(フマル酸ジエステル系共重合体(フマル酸ジイソプロピル/フマル酸ジn−ブチル共重合体)の合成2)
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた1Lのオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)1.6g、蒸留水520g、フマル酸ジイソプロピル230g、フマル酸ジn−ブチル50g、および重合開始剤であるt−ブチルパーオキシピバレート2.1gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、400rpmで攪拌しながら50℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液をろ別し、蒸留水およびメタノールで洗浄することによりフマル酸ジエステル系共重合体を得た(収率:80%)。
【0078】
得られたフマル酸ジエステル系共重合体の数平均分子量は150,000であった。また、
1H−NMR測定により、共重合体組成はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジn−ブチル残基単位=87/13(モル%)であることを確認した。
【0079】
比較例3
比較例1で得られたフマル酸ジエステル系共重合体をトルエン/メチルエチルケトン=50/50混合溶剤に溶解して20重量%の樹脂溶液とし、コーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、70℃で10分乾燥することにより、厚み30μmのフィルムを得た。
【0080】
得られたフィルムは、全光線透過率92%、ヘーズ0.6%、屈折率1.473であった。
【0081】
三次元屈折率は、nx=1.4723、ny=1.4723、nz=1.4738であり、得られたフィルムはnx=ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きいものであったが、面外位相差は−45nmと小さく、膜厚と面外位相差の絶対値も1.5と小さかった。
【0082】
比較例4
比較例2で得られたフマル酸ジエステル系共重合体をトルエン/メチルエチルケトン=50/50混合溶剤に溶解して20重量%の樹脂溶液とし、コーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、70℃で10分乾燥することにより、厚み15μmのフィルムを得た。
【0083】
得られたフィルムは、全光線透過率92%、ヘーズ0.6%、屈折率1.472であった。
【0084】
三次元屈折率は、nx=1.4712、ny=1.4712、nz=1.4743であり、得られたフィルムはnx=ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きいものであったが、面外位相差は−47nmと小さく、膜厚と面外位相差の絶対値も3.1と小さかった。
【符号の説明】
【0085】
nx;フィルム面内の進相軸方向の屈折率を示す。
ny;nxと直交するフィルム面内方向の屈折率を示す。
nz;フィルムの厚み方向の屈折率を示す。