特許第5983526号(P5983526)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5983526-重希土類元素の回収方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983526
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年8月31日
(54)【発明の名称】重希土類元素の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20160818BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20160818BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20160818BHJP
【FI】
   C22B59/00
   C22B7/00 G
   C22B3/44 101Z
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-98486(P2013-98486)
(22)【出願日】2013年5月8日
(65)【公開番号】特開2014-218700(P2014-218700A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2015年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】石田 人士
(72)【発明者】
【氏名】前場 和也
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−229483(JP,A)
【文献】 特開2012−025992(JP,A)
【文献】 特開昭63−206313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重希土類元素と軽希土類元素とを含む希土類元素含有溶液に、アルカリ金属硫酸塩又はアルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加することで希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させて重希土類元素を回収する方法において、
上記希土類元素含有溶液中に種晶として希土類元素の硫酸複塩沈殿を加え、該種晶中の軽希土類元素の濃度のみで26g/L以上とした上で、該種晶中の軽希土類元素の濃度及び上記希土類元素含有溶液中の軽希土類元素の濃度の合計が28g/L以上となるように管理して行うことを特徴とする重希土類元素の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重希土類元素の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は、様々な用途において使用されている。具体的には、例えば、近年需要が増加しているニッケル水素電池の負極剤の原料として用いられている。また、その他にも、モーターに搭載される磁石の添加剤、液晶パネルやハードディスクドライブに使用されるガラス基板の研磨剤等にも用いられている。
【0003】
このように、希土類元素は、自動車や電子機器を製造するための必須の構成要素となっており、特に、自動車産業においては、駆動用モーターや二次電池を搭載するハイブリッド車や電気自動車への移行が進んでおり、その重要度はますます高くなっている。
【0004】
しかしながら、希土類元素の調達はほぼ全量を輸入に頼っている現状があり、これらの製品の廃棄物から希土類元素を効率的に且つ高い回収率で効果的に回収する方法の確立が望まれている。
【0005】
希土類元素を回収する方法としては、一般的には、廃棄物を鉱酸等の酸に溶かした水溶液から回収する湿式法が知られており、この方法には溶媒抽出法や沈殿法がある。
【0006】
具体的に、希土類元素を相互分離して各々の元素に分離する場合には、溶媒抽出法による精密分離が用いられることが多い(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、希土類元素は化学的な性質がよく似ているため、溶媒抽出の装置には多くの段数を必要とする。また、有機溶媒を使用するため、火災等に配慮した設備を必要とする。さらに、排水中のCOD(化学的酸素要求量)が上昇するため、排水処理の強化が必要となる等、コストが増加する傾向がある。
【0007】
一方、ミッシュメタルのような希土類混合物として回収する場合は、含有される希土類元素を相互に分離する必要がなく安価に回収できる沈殿法が工業的に利用しやすい。この沈殿法には、蓚酸を添加することで沈殿させて回収する方法(例えば、特許文献2参照。)や、希土類硫酸塩とアルカリ硫酸塩との硫酸複塩を形成した沈殿を生じさせて回収する方法が知られている。
【0008】
しかしながら、蓚酸沈殿法の場合には、排水中のCODが高くなり、上述した溶媒抽出法と同様に排水処理のコストが高くなる傾向がある。
【0009】
それに対して、硫酸複塩沈殿法は、スカンジウム(Sc)やランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)等の軽希土類元素の分離回収に利用されており、蓚酸沈殿による回収の場合とは異なり、排水中のCODを上昇させない。そのため、排水処理のコストは、蓚酸沈殿法による湿式回収法と比較すると有利となる。
【0010】
しかしながら、この硫酸複塩沈殿法では、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等の重希土類元素を効果的に回収することが難しかった。
【0011】
このことは、アルカリ硫酸塩により生成した硫酸複塩が、溶液中のアルカリ硫酸塩の濃度が増加するほど溶解度が低くなる性質を有し、また重希土類元素の硫酸複塩は、軽希土類元素の硫酸複塩よりも溶解度が高い傾向にあることによる。そのため、上述の硫酸複塩沈殿法では、軽希土類元素と重希土類元素の溶解度の性質の差を利用して分離するようにしている。
【0012】
これまでの硫酸複塩沈殿法では、重希土類元素が溶液中に残留して回収できなかったため、軽希土類元素を回収した後に、溶液中に残留した重希土類元素を別途回収する必要があった。これにより、重希土類元素を回収する際は、別途の処理の手間がかかるだけでなく、コストが増加したり重希土類元素の回収率が低下したりする問題が生じ、効率的に且つ高い回収率で回収することは困難であった。
【0013】
このような従来法の問題を解消する手段として、希土類元素の硫酸複塩沈澱を種晶として追加で添加することにより、効率的に重希土類元素を軽希土類元素と共沈させる方法も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0014】
しかしながら、この方法では、反応バッチ毎の種晶量の厳密な管理が必要となる。すなわち、種晶の添加量が不足すると共沈効果が得られず、一方で添加量が過剰であると攪拌機の消費エネルギーが増大したり沈殿物を濾過するための所要時間が増大する。また、厳密に種晶量の管理を行った場合でも、重希土類元素の共沈を安定的に生じさせることは困難であり、分離効率や、品質、コスト等を安定化させることは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平07−026336号公報
【特許文献2】特開平09−217133号公報
【特許文献3】特開2012−229483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、安定的に重希土類元素を回収することができる重希土類元素の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、重希土類元素の分離性能の変動は原料中の軽希土類元素の含有品位の変動と相関があることが分かり、反応液中の軽希土類元素の合計濃度を所定濃度以上とすることによって、安定的に重希土類元素を共沈させて回収することができることを見出した。
【0018】
すなわち、本発明に係る重希土類元素の回収方法は、重希土類元素と軽希土類元素とを含む希土類元素含有溶液に、アルカリ金属硫酸塩又はアルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加することで希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させて重希土類元素を回収する方法において、上記希土類元素含有溶液中に種晶として希土類元素の硫酸複塩沈殿を加え、該種晶中の軽希土類元素の濃度のみで26g/L以上とした上で、該種晶中の軽希土類元素の濃度及び上記希土類元素含有溶液中の軽希土類元素の濃度の合計が28g/L以上となるように管理して行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、重希土類元素を軽希土類元素の硫酸複塩に安定して共沈させることができるようになるため、希土類元素含有溶液からの重希土類元素の分離効率を安定したものに維持することができ、高い回収率で重希土類元素を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】脱希土類元素(RE)反応液中の軽希土類元素(La+Ce)の濃度に対する反応後の濾液中の重希土類元素(Y)の濃度の関係を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る重希土類元素の回収方法の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0022】
本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法は、重希土類元素と軽希土類元素を含有する溶液(以下、「希土類元素含有溶液」ともいう。)を対象溶液(原料溶液)として、その溶液に対してアルカリ金属硫酸塩又はアルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加し、希土類元素の硫酸複塩沈殿を生成させることによって重希土類元素を回収する方法である。
【0023】
対象溶液である希土類元素含有溶液は、上述のように、重希土類元素と軽希土類元素とを含有した溶液であり、硫酸や塩酸等の鉱酸からなる溶液である。具体的に、この溶液としては、例えば重希土類元素と軽希土類元素とを含有する電池や電子機器等のスクラップ品を硫酸や塩酸等の鉱酸で浸出して得られた浸出液を用いることができる。溶液のpH条件は、特に限定されないが、鉱酸によりpHを1〜2に調整することが好ましい。
【0024】
この希土類元素含有溶液に含まれ、回収の対象となる重希土類元素としては、特に限定されるものではなく、例えば、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等を挙げることができる。
【0025】
また、上述した重希土類元素と共に溶液中に含まれる軽希土類元素についても、特に限定されるものではなく、例えば、スカンジウム(Sc)やランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)等を挙げることができる。
【0026】
本実施の形態においては、上述した希土類元素含有溶液に対して、アルカリ金属硫酸塩又はアルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加して攪拌する。すると、その溶液中において、希土類元素の硫酸複塩生成反応が生じる。
【0027】
軽希土類元素の硫酸複塩の溶解度は、重希土類元素の硫酸複塩の溶解度に比して低い。このことから、希土類元素含有溶液に対してアルカリ金属硫酸塩又はアルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加して反応させると、先ず、軽希土類元素の硫酸複塩生成反応が起こり軽希土類元素の硫酸複塩の沈殿物が生成し、続いて、生成した軽希土類元素の硫酸複塩沈殿に重希土類元素が共沈するようになる。このとき、本実施の形態においては、アルカリ金属硫酸塩又はそれを含む溶液の添加に併せて、種晶として、希土類元素の硫酸複塩沈殿を添加する。これにより、重希土類元素の共沈を促進させることができる。
【0028】
このように、溶液中に含有される軽希土類元素について形成された硫酸複塩の沈殿物に重希土類元素を共沈させるようにすることで、共沈した重希土類元素を軽希土類元素と共に一括回収することができる。またそのとき、種晶として希土類元素の硫酸複塩沈殿を添加することで、その種晶に対する重希土類元素の共沈反応も生じさせることができるようになるため、より効率的に重希土類元素を沈殿物として回収することができる。
【0029】
ここで、添加するアルカリ金属硫酸塩としては、特に限定されるものではないが、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等を用いることができる。または、その硫酸ナトリウムや硫酸カリウム等のアルカリ金属硫酸塩を含む溶液を用いることができる。また、それらのアルカリ金属硫酸塩の中でも、操作性が良好である等の利便性が高いという観点から、硫酸ナトリウム又はその硫酸ナトリウムを含む溶液を用いることが好ましい。
【0030】
また、アルカリ金属硫酸塩の添加量としては、特に限定されないが、硫酸イオン濃度として、27g/L以上となるように添加することが好ましく、54g/L以上となるように添加することがより好ましい。これにより、溶液中に存在する重希土類元素を効率的に共沈澱物とすることができ、高い回収率で回収することができる。また、アルカリ金属硫酸塩の添加量の上限値に関して、その硫酸イオン濃度として100g/Lより高い濃度となるように溶液中に添加させても、それ以上に重希土類元素の回収率は向上しない。したがって、経済性の観点も考慮すれば、アルカリ金属硫酸塩の添加量としては、硫酸イオン濃度として、27g/L以上100g/L以下となるようにすることが好ましく、54g/L以上100g/L以下となるように添加することがより好ましい。
【0031】
なお、本実施の形態においては、希土類元素含有溶液に対してアルカリ金属硫酸塩を添加することに限られず、硫酸アンモニウム塩や硫酸アミン塩等を添加して硫酸複塩生成反応を生じさせるようにしてもよい。このように、硫酸アンモニウム塩や硫酸アミン塩等を用いた場合でも、硫酸イオン濃度として上述した濃度となるように添加することで、効果的に重希土類元素を軽希土類元素の硫酸複塩沈殿に共沈させて回収することができる。
【0032】
ところで、本発明者らは、種晶として添加した硫酸複塩沈殿中の軽希土類元素の濃度を固定した状態で運転を継続していたプラントにおいて、重希土類元素の分離性能の変動が大きいことを確認し、その原因を調査した。その結果、重希土類元素の分離性能は、温度等の要因には関連はなく、原料(希土類元素含有溶液)中の軽希土類元素の含有品位の変動と相関があることを見出した。
【0033】
すなわち、重希土類元素の共沈を期待できるのは、種晶及び原料に含まれる軽希土類元素の硫酸複塩であり、その種晶量を固定しても、原料に含まれる軽希土類元素が少なければ、結果として軽希土類元素の硫酸複塩沈殿の量は相対的に少ないものとなり、重希土類元素の共沈効果はそれだけ弱いものとなることが分かった。
【0034】
図1に、脱希土類元素(RE)反応液中の軽希土類元素(La+Ce)の濃度、すなわち希土類元素含有溶液中及び種晶中に含まれる軽希土類元素の合計濃度に対する、反応後の濾液中の重希土類元素(Y)の濃度の関係を表すグラフを示す。この図1のグラフに示されるように、反応液中の種晶を含めた軽希土類元素の合計濃度と反応後の濾液に残留する重希土類元素の濃度とは、負の相関関係があり、軽希土類元素の濃度が増加しないと、重希土類元素を十分に分離させることができないことが分かった。
【0035】
このように、重希土類元素の分離性能を安定化するためには、反応バッチ全体で十分な軽希土類元素の量を確保することが重要になる。そこで、本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法においては、希土類元素含有溶液中に希土類元素の硫酸複塩沈殿を種晶として加えた状態で、その種晶中(種晶由来)の軽希土類元素の濃度及び希土類元素含有溶液中(原料由来)の軽希土類元素の濃度の合計を所定の値以上となるように管理して、硫酸複塩生成反応を生じさせるようにする。
【0036】
具体的に、この重希土類元素の回収方法においては、種晶中の軽希土類元素及び原料の希土類元素含有溶液中の軽希土類元素の合計濃度が、28g/L以上となるように管理して、硫酸複塩生成反応を生じさせるようにする。
【0037】
このようにして種晶由来の軽希土類元素及び原料由来の軽希土類元素の合計濃度を28g/L以上となるように管理することで、重希土類元素の共沈の基になる軽希土類元素の硫酸複塩沈殿の量を十分に確保することができ、安定的に重希土類元素を共沈させて溶液から分離することができる。そして、これにより、重希土類元素を溶液中(濾液中)に残留させることなく、高い回収率で効果的に重希土類元素を回収することができる。
【0038】
また、このように安定して重希土類元素を共沈させることができることから、重希土類元素の分離効率だけでなく、回収した重希土類元素の品質、さらに分離回収コスト等についても安定化させることができる。さらに、従来のように軽希土類元素を回収した後に別途重希土類元素を回収するといった手間やコスト等も不要となるため、効率的に重希土類元素を回収することができる。
【0039】
反応液中の軽希土類元素の濃度に関して、種晶中の軽希土類元素の濃度の方が希土類元素含有溶液中の軽希土類元素の濃度よりも大きくした上で、その合計濃度を28g/L以上とすることが好ましい。これにより、種晶に基づく重希土類元素の共沈作用をより効果的に高めることができる。
【0040】
また、種晶中の軽希土類元素の濃度のみで26g/L以上とした上で、希土類元素含有溶液中の軽希土類元素との合計濃度が28g/L以上となるように管理することがより好ましい。これにより、原料の希土類元素含有溶液中に含まれる軽希土類元素の含有量の変動を吸収することができ、より安定的に重希土類元素を共沈させ分離することができる。
【0041】
また、種晶中の軽希土類元素及び希土類元素含有溶液中の軽希土類元素の合計濃度の上限値としては、特に限定されるものではないが、40g/L以下とすることが好ましい。合計濃度が40g/Lを超えるようにしても、それ以上に重希土類元素の共沈効果(重希土類元素の回収率)は向上せず、効率性を低下させる要因となる。したがって、種晶中の軽希土類元素及び希土類元素含有溶液中の軽希土類元素の合計濃度として、28g/L以上40g/L以下の範囲とすることが好ましい。
【0042】
軽希土類元素の濃度管理方法(運転方法)としては、特に限定されないが、例えば、予め、処理対象の希土類元素含有溶液(原料)中の軽希土類元素濃度(含有量)、添加する種晶中の軽希土類元素濃度(含有量)を秤量と分析により確定させておき、それに基づいて反応槽内への投入量を決定し、原料由来及び種晶由来の軽希土類元素の合計濃度を管理するようにすることができる。
【0043】
添加する種晶は、上述したように希土類元素の硫酸複塩沈殿であるが、この沈殿物としては、例えば、前(1バッチ前)の重希土類元素の回収処理で固液分離して回収した硫酸複塩沈殿の全部又は一部を繰り返し用いることができる。また、軽希土類元素のみからなる硫酸複塩沈殿を用いるようにしてもよい。
【0044】
また、その種晶の添加量としては、種晶由来及び原料由来の軽希土類元素の合計濃度が上述した所定の範囲となるように制御することができれば、特に限定されるものではない。一具体例として挙げれば、重希土類元素の共沈を生じさせる時点における液量、すなわち最終的な液量に対してスラリー濃度で25g/L以上とすることができる。
【0045】
なお、種晶の添加量の上限値に関して、種晶をスラリー濃度で100g/Lを超える濃度となるように添加させても、それ以上に重希土類元素の共沈効果は向上しない。この添加量は、種晶由来の軽希土類元素の濃度でおよそ30g/L程度に相当し、原料由来の軽希土類元素の濃度と併せて40g/L程度に相当する量である。このようなスラリー濃度で100g/Lを超える濃度となるように種晶を添加した場合、上述したように、共沈効果の向上がないだけでなく、攪拌機動力の無駄が発生し、若しくは攪拌効果の減少に繋がる可能性があり、操業効率を低下させることになる。
【0046】
また、種晶の添加のタイミングとしては、特に限定されるものではなく、アルカリ金属硫酸塩の添加前に、またはアルカリ金属硫酸塩の添加と同時に、若しくはアルカリ金属硫酸塩の添加後の何れの段階で行うようにしてもよい。
【0047】
希土類元素含有溶液の温度条件は、特に限定されない。ただし、アルカリ金属硫酸塩と反応させた後の溶液中の残留重希土類元素濃度と溶液の温度とは負の相関関係がある。そのため、高い温度の溶液中で反応させることが好ましい。これにより、より効果的に且つ効率的に、重希土類元素を回収することができる。具体的には、溶液の温度条件として、55℃以上とすることが好ましい。溶液の温度を55℃以上とすることで、溶液中の重希土類元素をより高い回収率で且つ迅速に回収することができる。一方、溶液の温度を100℃以上とすることは、熱源や設備投資のコストが高まり工業的には実用的ではない。したがって、温度条件としては、55℃以上100℃以下とすることが好ましい。
【0048】
また、この重希土類元素の回収方法においては、上述したように、アルカリ金属硫酸塩又はアルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加した後に、攪拌操作を行うことが好ましい。攪拌操作を行うことによって、重希土類元素の軽希土類元素の硫酸複塩沈殿へ共沈を促進させることができる。
【0049】
攪拌操作の方法としては、特に限定されないが、例えば攪拌翼を備える攪拌機を用いた方法や、ボールミル、ビーズミル等の各種ミルを用いた方法等により行うことができる。また、攪拌時間としては、希土類元素含有溶液中の希土類元素の濃度等に応じて適宜設定することができるが、例えば20分以上攪拌することが好ましく、60分以上攪拌することがより好ましい。
【0050】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る重希土類元素の回収方法においては、重希土類元素の分離性能は、反応液中の軽希土類元素の合計濃度と相関があることに鑑みて、種晶中の軽希土類元素及び希土類元素含有溶液中の軽希土類元素の合計濃度が、28g/L以上となるように管理して、硫酸複塩生成反応を生じさせるようにする。このような方法によれば、重希土類元素を軽希土類元素の硫酸複塩沈殿に安定して共沈させることができるようになるため、希土類元素含有溶液からの重希土類元素の分離効率を安定したものに維持でき、高い回収率で重希土類元素を回収することができる。
【0051】
特に、この重希土類元素の回収方法は、例えば電池や電子機器等の重希土類元素を含有する使用済み製品について、これを硫酸等で浸出して得られた浸出液を対象として(希土類元素含有溶液として)、この浸出液から重希土類元素を回収する際に適用することができる方法である。これにより、使用済みの電池等から、低いコストで且つ複雑な処理を行うことなく、高い回収率で重希土類元素を回収することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を適用した具体的な実施例と比較例について説明するが、本発明は、これらの実施例や比較例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
軽希土類元素としてランタン(La)及びセリウム(Ce)を含有し、重希土類元素としてイットリウム(Y)を含有する溶液(希土類元素含有溶液)を用いて試験した。具体的には、希土類元素含有溶液として、ランタン濃度が15g/L、セリウム濃度が7.5g/Lであり、イットリウム濃度が1.1g/Lである硫酸溶液140Lを用い、その溶液のpHを1〜2に調整した。そして、予め、反応槽内に硫酸ナトリウム濃度180g/Lの溶液140Lを用意しておき、これに上述の希土類元素含有溶液を加えた。その後、溶液の温度を60℃に維持した。
【0054】
次に、反応槽内に希土類元素の硫酸複塩沈殿を種晶として20kg添加した。この種晶に含まれるランタンとセリウムの物量は4.3kgだった。その後、希土類元素含有溶液を60℃に維持したまま3時間保持し、希土類元素の硫酸複塩沈澱を生成させて、270Lの希土類元素の硫酸複塩のスラリーを作成した。
【0055】
その後、作成したスラリーに対して固液分離処理を施すことによって濾液を得た。
【0056】
得られた濾液中のイットリウム濃度を測定したところ、0.02g/Lと十分低いものであり、希土類元素含有溶液から重希土類元素であるイットリウムを高い収率で分離させることができた。
【0057】
(比較例1)
希土類元素含有溶液として、ランタン濃度が7.5g/L、セリウム濃度が3.5g/Lであり、イットリウム濃度が0.61g/Lである硫酸溶液140Lを用い、その溶液のpHを1〜2に調整した。そして、実施例1と同様に、予め、反応槽内に硫酸ナトリウム濃度180g/Lの液140Lを用意しておき、これに上述の希土類元素含有溶液を加えた。また、反応時の溶液の温度は60℃となるように維持した。
【0058】
次に、反応槽内に希土類元素の硫酸複塩沈殿を種晶として20kg添加した。この種晶にはランタン及びセリウムが物量で4.4kg含まれていた。その後、希土類元素含有溶液を60℃に維持したまま3時間保持し、希土類元素の硫酸複塩沈澱を生成させて、280Lの希土類元素の硫酸複塩のスラリーを作成した。
【0059】
その後、作成したスラリーに対して固液分離処理を施すことによって濾液を得た。
【0060】
得られた濾液中のイットリウム濃度を測定したところ、0.15g/Lと高い割合で残留しており、重希土類元素の分離性能としては不十分なものであった。
【0061】
下記表1に、実施例1、比較例1にて用いた原料由来(希土類元素含有溶液中)の軽希土類元素の濃度と、種晶由来(種晶中)の軽希土類元素の濃度をまとめて示すとともに、固液分離して得られた濾液中のイットリウム(重希土類元素)の濃度の測定結果を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
このように、種晶由来の軽希土類元素濃度は同じであっても、原料由来の軽希土類元素の濃度が少ないことにより反応液中の合計の軽希土類元素の濃度が所定の割合より小さいと、重希土類元素を安定的に共沈させて分離することができないことが分かった。そして、上述の実施例1の結果から、反応液中の原料由来及び種晶由来の軽希土類元素の合計濃度が28g/L以上であることによって、得られる濾液中にほとんど残留させることなく、効果的に重希土類元素を分離回収することができることが分かった。
図1