特許第5983615号(P5983615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5983615
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】アニオン性含フッ素乳化剤の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 49/00 20060101AFI20160823BHJP
   B01J 41/04 20060101ALI20160823BHJP
   C07C 51/47 20060101ALI20160823BHJP
   C07C 59/135 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B01J49/00 162
   B01J41/04
   C07C51/47
   C07C59/135
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-533639(P2013-533639)
(86)(22)【出願日】2012年9月6日
(86)【国際出願番号】JP2012072802
(87)【国際公開番号】WO2013038990
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年3月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-199724(P2011-199724)
(32)【優先日】2011年9月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】相田 茂
(72)【発明者】
【氏名】豊田 瑞菜
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 一夫
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/096448(WO,A1)
【文献】 特開昭55−104651(JP,A)
【文献】 特開2002−059160(JP,A)
【文献】 特開2003−285076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 49/00
B01J 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法であって、
前記アニオン性含フッ素乳化剤が、エーテル性酸素原子を1〜3個含有してもよい炭素数5〜7の含フッ素カルボン酸およびその塩であり、
塩酸、硫酸および硝酸の水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる無機酸水溶液と、
25℃での水への溶解度が、0.1%未満である、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテルおよびヒドロフルオロアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる含フッ素媒体と、
分子中にフッ素原子を含有せず、25℃における水への溶解度は、50%以上であり、かつ、25℃における含フッ素媒体への溶解度は、50%以上である非フッ素媒体とを用い、
前記塩基型イオン交換樹脂に、前記無機酸水溶液と前記含フッ素媒体と前記非フッ素媒体との混合液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂と液相とに分離して液相を回収し、該液相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することを特徴とするアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項2】
アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法であって、
前記アニオン性含フッ素乳化剤が、エーテル性酸素原子を1〜3個含有してもよい炭素数5〜7の含フッ素カルボン酸およびその塩であり、
塩酸、硫酸および硝酸の水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる無機酸水溶液と、
25℃での水への溶解度が、0.1%未満である、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテルおよびヒドロフルオロアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種からなる含フッ素媒体と、
分子中にフッ素原子を含有せず、25℃における水への溶解度は、50%以上であり、かつ、25℃における含フッ素媒体への溶解度は、50%以上である非フッ素媒体とを用い、
前記塩基型イオン交換樹脂に前記無機酸水溶液を接触させ、次いで、前記含フッ素媒体と前記非フッ素媒体との混合液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂と液相とに分離して液相を回収し、該液相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することを特徴とするアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項3】
前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂を分離回収し、分離回収した塩基型イオン交換樹脂に、含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液を接触させる請求項2に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項4】
前記塩基型イオン交換樹脂の平均粒径が0.1〜5mmであり、イオン交換容量が0.1〜3(eq/L)である請求項1〜3のいずれか1項に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項5】
前記混合液中の含フッ素媒体と非フッ素媒体の割合が、質量比で5/95〜95/5である請求項1〜4のいずれか1項に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項6】
前記塩基型イオン交換樹脂と、無機酸水溶液、含フッ素媒体および非フッ素媒体の混合液との割合が、質量比で1/99〜99/1である請求項1、4または5に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項7】
前記塩基型イオン交換樹脂と、含フッ素媒体および非フッ素媒体の混合液との割合が、質量比で1/99〜80/20である請求項2〜5のいずれか1項に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項8】
前記含フッ素媒体が、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、CFCFCFCFCFCHF、およびCFCHOCFCFHからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜のいずれか1項に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項9】
前記非フッ素媒体が、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、およびtert−ブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜のいずれか1項に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項10】
無機酸水溶液と含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液が、不燃性である請求項1に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項11】
含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液が、不燃性である請求項2または3に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【請求項12】
前記塩基型イオン交換樹脂が、強塩基型イオン交換樹脂である請求項1〜11のいずれか1項に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)、溶融成形性フッ素樹脂、フルオロエラストマー等の含フッ素ポリマーを乳化重合により製造する際、一般的に水性媒体中で連鎖移動によって重合反応を妨げることのないようなアニオン性含フッ素乳化剤を用いる。
【0003】
乳化重合により得られる含フッ素ポリマーの水性乳化液(以下、含フッ素ポリマー水性乳化液という)を凝集および乾燥することで、含フッ素ポリマーのパウダーが得られる。含フッ素ポリマーのパウダー、特に、PTFEのファインパウダーは、ペースト押出し成形等の方法で成形した後、種々の用途に用いられる。また、含フッ素ポリマー水性乳化液に必要に応じてノニオン界面活性剤等を添加して安定化処理し、その後、濃縮処理することで含フッ素ポリマーを高濃度含有する含フッ素ポリマー水性分散液が得られる。このフッ素ポリマー水性分散液は、必要に応じて各種配合剤等を加えて、様々なコーティング用途、含浸用途等に用いられる。
一方、含フッ素ポリマーの乳化重合に用いられるアニオン性含フッ素乳化剤は、自然界で容易に分解されない。このため、近年では工場排水のみならず、含フッ素ポリマー水性乳化液や含フッ素ポリマー水性分散液等の製品中に含まれるアニオン性含フッ素乳化剤を低減することが望まれている。
【0004】
アニオン性含フッ素乳化剤の低減方法としては、アニオン性含フッ素乳化剤を含む、水性乳化液や水性分散液等の被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させ、該被処理液中のアニオン性含フッ素乳化剤を塩基型イオン交換樹脂に吸着させる方法がある。また、アニオン性含フッ素乳化剤は高価であることから、塩基型イオン交換樹脂が吸着したアニオン性含フッ素乳化剤を回収して再利用する試みが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂を、希鉱酸と有機溶剤との混合物で処理し、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収する方法が開示されている。有機溶剤としては、水と混和して、溶解度が少なくとも40%、または無限に混合しうるような溶剤が好ましいことが記載されており、メタノール等のアルコール、ジオキサン等の環状エーテル、塩化メチレン等を用いる。
また、特許文献2には、無機酸と非水溶性含フッ素媒体とを用いて、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を非水溶性含フッ素媒体に溶出させて回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭63−2656号公報
【特許文献2】国際公開WO/2011/096448号パフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の実施例では、有機溶媒としてメタノール等のアルコールやジオキサン等の環状エーテルを用いて、弱塩基型イオン交換樹脂から、80%以上の高収率でアニオン性含フッ素乳化剤を回収している。
しかしながら、アニオン性含フッ素乳化剤の吸着能力が高い強塩基型イオン交換樹脂から当該乳化剤を溶出させて回収する場合、アニオン性含フッ素乳化剤の回収率が低く、70%程度であった。また、これらの有機溶媒は、引火性であることから、取り扱いに対する安全対策が必要とされる。また、アニオン性含フッ素乳化剤の種類によっては、当該乳化剤がアルコールと反応してエステル体を生成し、乳化剤として有用なアンモニウム塩等に変換するのが困難となる場合があった。
【0008】
さらに特許文献1では、不燃性の有機溶媒である塩化メチレンを用いてアニオン性含フッ素乳化剤を回収しているが、回収率が50%と低かった。
また、特許文献2では、不燃性の有機溶媒である非水溶性含フッ素媒体を用いて、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を回収しているが、一回の抽出操作で回収されるアニオン性含フッ素乳化剤の回収率が50%程度と低かった。
したがって、本発明の目的は、塩基型イオン交換樹脂が吸着したアニオン性含フッ素乳化剤を、簡便で効率よく回収できるアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]〜[12]の構成を有する、アニオン性含フッ素乳化剤の回収方法を提供する。
[1]アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法であって、前記塩基型イオン交換樹脂に、無機酸水溶液と含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂と液相とに分離して液相を回収し、該液相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することを特徴とするアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【0010】
[2]アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂から、アニオン性含フッ素乳化剤を溶離して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として回収するアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法であって、前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させ、次いで、含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂と液相とに分離して液相を回収し、該液相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収することを特徴とするアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[3]前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂を分離回収し、分離回収した塩基型イオン交換樹脂に、含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液を接触させる上記[2]に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【0011】
[4]前記塩基型イオン交換樹脂の平均粒径が0.1〜5mmであり、イオン交換容量が0.1〜3(eq/L)である上記[1]〜[3]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[5]前記混合液中の含フッ素媒体と非フッ素媒体の割合が、質量比で5/95〜95/5である上記[1]〜[4]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[6]前記塩基型イオン交換樹脂と、無機酸水溶液、含フッ素媒体および非フッ素媒体の混合液との割合が、質量比で1/99〜99/1である上記[1]、[4]または[5]に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[7]前記塩基型イオン交換樹脂と、含フッ素媒体および非フッ素媒体の混合液との割合が、質量比で1/99〜80/20である上記[2]〜[5]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[8]前記無機酸水溶液が、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸の水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]〜[7]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【0012】
[9]前記含フッ素媒体が、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、CFCFCFCFCFCHF、およびCFCHOCFCFHからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]〜[8]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[10]前記非フッ素媒体が、水溶性であり、かつ、前記含フッ素媒体に対して溶解性を有するものである上記[1]〜[9]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[11]前記非フッ素媒体が、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、およびtert−ブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記[1]〜[10]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【0013】
[12]無機酸水溶液と含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液が、不燃性である上記[1]に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[13]含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液が、不燃性である上記[2]または[3]に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[14]前記アニオン性含フッ素乳化剤の酸が、含フッ素カルボン酸である上記[1]〜[13]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[15]前記アニオン性含フッ素乳化剤の酸が、エーテル性酸素原子を1〜3個含有してもよい、炭素数5〜7の含フッ素カルボン酸である上記[14]に記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
[16]前記塩基型イオン交換樹脂が強塩基型イオン交換樹脂である上記[1]〜[15]のいずれかに記載のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂に、無機酸水溶液と、含フッ素媒体と、非フッ素媒体との混合液と接触させるか、あるいは、前記塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させ、次いで、含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液を接触させることにより、塩基型イオン交換樹脂に吸着されたアニオン性含フッ素乳化剤が、無機酸水溶液によって酸型化されて、含フッ素媒体や非フッ素媒体に溶出する。そして、本発明では、含フッ素媒体と非フッ素媒体とを併用して抽出するので、含フッ素媒体と非フッ素媒体とをそれぞれ単独で使用した場合よりも効率よく抽出でき、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を高い収率で回収できる。回収したアニオン性含フッ素乳化剤の酸は、そのまま含フッ素ポリマーの乳化重合に使用することもでき、中和してアンモニウム塩やアルカリ金属塩等として使用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、塩基型イオン交換樹脂に吸着させるアニオン性含フッ素乳化剤としては特に限定はない。例えば、エーテル性酸素原子を有していてもよい含フッ素カルボン酸およびその塩、含フッ素スルホン酸およびその塩等が挙げられる。塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(Li、Na、K等)等が挙げられ、アンモニウム塩が好ましい。なかでも、エーテル性酸素原子を有していてもよい含フッ素カルボン酸およびその塩が好ましく、エーテル性酸素原子を1〜3個含有してもよい炭素数5〜7の含フッ素カルボン酸およびその塩がより好ましい。
【0016】
含フッ素カルボン酸の具体例としては、パーフルオロカルボン酸、エーテル性酸素原子を有するパーフルオロカルボン酸、水素原子を有する含フッ素カルボン酸等が挙げられる。
パーフルオロカルボン酸としては、パーフルオロヘキサン酸、パーフルオロヘプタン酸、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロノナン酸等が挙げられる。
エーテル性酸素原子を有するパーフルオロカルボン酸としては、COCF(CF)CFOCF(CF)COOH、COCOCFCOOH、COCOCFCOOH、COCOCFCOOH、COCFCFOCFCFOCFCOOH、CO(CFCOOH、CFOCOCFCOOH、CFOCFOCFOCFCOOH、CFOCFOCFOCFOCFCOOH、CFO(CFCFO)CFCOOH、CFOCFCFCFOCFCOOH、COCFCOOH、COCFCFCOOH、CFOCF(CF)CFOCF(CF)COOH、COCF(CF)COOH等が挙げられる。
水素原子を有する含フッ素カルボン酸としては、ω−ハイドロパーフルオロオクタン酸、COCF(CF)CFOCHFCOOH、CFCFHO(CFCOOH、CFO(CFOCHFCFCOOH、CFO(CFOCHFCOOH、COCHFCFCOOH、CFCFHO(CFCOOH等が挙げられる。
含フッ素スルホン酸としては、パーフルオロオクタンスルホン酸、C13CHCHSOH等が挙げられる。
【0017】
本発明において、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着させるために用いる塩基型イオン交換樹脂としては、強塩基型イオン交換樹脂、弱塩基型イオン交換樹脂が挙げられる。好ましくは強塩基型イオン交換樹脂である。強塩基型イオン交換樹脂は、アニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液のpHによる影響を受けにくく、高い吸着効率を維持することができる。また、強塩基型イオン交換樹脂は、アニオン性含フッ素乳化剤を強固に吸着するので、強塩基型イオン交換樹脂からはアニオン性含フッ素乳化剤が溶離され難く、アニオン性含フッ素乳化剤の回収率が低くなる傾向にあるが、本発明の方法によれば、強塩基型イオン交換樹脂にアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた場合であっても、アニオン性含フッ素乳化剤を高収率で回収できる。
【0018】
強塩基型イオン交換樹脂としては、トリメチルアンモニウム基やジメチルエタノールアンモニウム基などの4級アンモニウム基をイオン交換基として樹脂母体に導入したものが挙げられる。
弱塩基型イオン交換樹脂としては、ジメチルアンモニウム基やアミノ基などの1〜3級アミノ基をイオン交換基として樹脂母体に導入したものが挙げられる。
塩基型イオン交換樹脂の樹脂母体の材質としては、特に限定はない。スチレン−ジビニルベンゼン架橋樹脂、アクリル−ジビニルベンゼン架橋樹脂、セルロース樹脂等が挙げられる。
塩基型イオン交換樹脂の種別は、特に限定は無く、ポーラス型、ゲル型のいずれも好ましく用いることができる。
【0019】
塩基型イオン交換樹脂の平均粒径は、0.1〜5mmが好ましく、0.2〜2mmがより好ましく、0.3〜1.5mmが特に好ましい。塩基型イオン交換樹脂の平均粒径が上記範囲内であれば、例えば、塩基型イオン交換樹脂を充填したカラムにアニオン性含フッ素乳化剤を含有する被処理液を通液してアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させる操作を行った際、被処理液の流路を閉塞し難くなる。
塩基型イオン交換樹脂のイオン交換容量は、0.1〜3(eq/L)が好ましく、0.5〜2.5(eq/L)がより好ましい。塩基型イオン交換樹脂のイオン交換容量が上記範囲内であれば、被処理液中のアニオン性含フッ素乳化剤を効率よく吸着できる。
【0020】
塩基型イオン交換樹脂の市販品としては、ランクセス社製Lewatit(登録商標)MP800OH、ランクセス社製Lewatit(登録商標)M800KR、ランクセス社製Lewatit(登録商標)MP600、ランクセス社製Lewatit(登録商標)MP62WS、ピュロライト社製PUROLITE(登録商標)A200MBOH、ピュロライト社製PUROLITE(登録商標)A300MBOH、ピュロライト社製PUROLITE(登録商標)A503OH等が挙げられる。
【0021】
本発明において、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂は、アニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させることで得られる。すなわち、被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させることで、被処理液中のアニオン性含フッ素乳化剤が塩基型イオン交換樹脂に吸着される。例えば、アニオン性含フッ素乳化剤として、CFCFOCFCFOCFCOO(NHを含む被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させた場合、CFCFOCFCFOCFCOOが、塩基型イオン交換樹脂のイオン交換基に結合して吸着されると考えられる。
アニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液としては、例えば、以下の(1)〜(3)が一例として挙げられる。
(1)含フッ素モノマーをアニオン性含フッ素乳化剤の存在下で乳化重合し、得られた含フッ素ポリマー水性乳化液に非イオン系界面活性剤を添加して安定化し、必要に応じて濃縮した含フッ素ポリマー水性分散液。
(2)前記含フッ素ポリマー水性乳化液を凝集させた後に排出されるアニオン性含フッ素乳化剤を含有する排水。
(3)前記含フッ素ポリマー水性乳化液を凝集して得られた含フッ素ポリマー凝集物を乾燥する過程で、大気中に排出されたアニオン性含フッ素乳化剤を吸収した水溶液。
上記含フッ素ポリマー水性分散液は、含フッ素ポリマー水性乳化液を非イオン系界面活性剤で安定化した含フッ素ポリマー水性分散液が好ましい。
【0022】
非イオン系界面活性剤としては、一般式(A)または一般式(B)で示される界面活性剤等が挙げられる。
−O−A−H ・・・(A)
(式(A)中、Rは炭素数8〜18のアルキル基であり、Aはオキシエチレン基数5〜20およびオキシプロピレン基数0〜2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である。)
−C−O−B−H ・・・(B)
(式(B)中、Rは炭素数4〜12のアルキル基であり、Bはオキシエチレン基数5〜20より構成されるポリオキシエチレン鎖である。)
【0023】
一般式(A)の非イオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、C1327−(OC10−OH、C1225−(OC10−OH、C1021CH(CH)CH−(OC−OH、C1327−(OC−OCH(CH)CH−OH、C1633−(OC10−OH、CH(C11)(C15)−(OC−OH、等の分子構造をもつ非イオン系界面活性剤が挙げられる。市販品としては、ダウ社製タージトール(登録商標)15Sシリーズ、日本乳化剤社製ニューコール(登録商標)シリーズ、ライオン社製ライオノール(登録商標)TDシリーズ等が挙げられる。
一般式(B)の非イオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、C17−C−(OC10−OH、C19−C−(OC10−OH等の分子構造をもつ非イオン系界面活性剤が挙げられる。市販品としては、ダウ社製トライトン(登録商標)Xシリーズ、日光ケミカル社製ニッコール(登録商標)OPシリーズまたはNPシリーズ等が挙げられる。
含フッ素ポリマー水性分散液中における一般式(A)および/または一般式(B)で示される非イオン系界面活性剤の含有量は、含フッ素ポリマーの質量に対して1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましく、2〜8質量%が特に好ましい。
【0024】
アニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液と塩基型イオン交換樹脂との接触方法は、特に限定はなく、従来公知の方法が挙げられる。例えば、被処理液中に塩基型イオン交換樹脂を投入し、撹拌または揺動する方法、塩基型イオン交換樹脂を充填したカラムに被処理液を通す方法等が挙げられる。また、被処理液を塩基型イオン交換樹脂に接触させるに先立ち、該被処理液を濾過して凝固物等の浮遊する固体等を除去することが好ましい。これにより、塩基型イオン交換樹脂の目詰まりなどを抑制できる。被処理液の濾過は、0.1〜300μm、好ましくは1〜100μmの孔径を有する1段または複数段のフィルター群を用いて行うことが好ましい。
塩基型イオン交換樹脂にアニオン性含フッ素乳化剤を含む被処理液を接触させる際の接触温度は特に限定はない。適宜選定すればよいが、10〜40℃の室温付近が好ましい。また、接触時間は特に限定はなく、適宜選定すればよい。例えば、撹拌方式で接触させる場合には、10分〜200時間の範囲が好ましく、30分〜50時間の範囲がより好ましい。また、接触時の圧力は、大気圧が好ましいが、減圧状態であってもよいし、加圧状態であってもよい。
【0025】
上記したように、塩基型イオン交換樹脂に、被処理液中のアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた後、塩基型イオン交換樹脂を分離することで、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂が得られる。このアニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂は、乾燥処理等を行わず湿潤状態のまま使用してもよく、乾燥処理を行って乾燥状態で使用してもよい。工業的には、湿潤状態のまま使用することが、工程を簡略化できるので好ましい。
【0026】
本発明におけるアニオン性含フッ素乳化剤回収法の第一の実施形態としては、まず、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂に、無機酸水溶液と含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液(以下、無機酸水溶液と含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液を溶離抽出媒体という)を接触させる。
アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂に、溶離抽出媒体を接触させると、アニオン性含フッ素乳化剤が無機酸水溶液によって酸型化されて、塩基型イオン交換樹脂から溶離し易くなる。アニオン性含フッ素乳化剤は、含フッ素媒体や非フッ素媒体との相溶性が良好なので、塩基型イオン交換樹脂に吸着されたアニオン性含フッ素乳化剤は、アニオン性含フッ素乳化剤の酸として溶離し、含フッ素媒体や非フッ素媒体に抽出される。そして、本発明では、含フッ素媒体と非フッ素媒体とを併用することにより、含フッ素媒体と非フッ素媒体とをそれぞれ単独で使用した場合よりも、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を効率よく抽出できる。このため、塩基型イオン交換樹脂から高い収率でアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収できる。
【0027】
なお、塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液のみを接触させても、アニオン性含フッ素乳化剤の酸は、無機酸水溶液にはほとんど抽出されず、塩基型イオン交換樹脂の表面に付着していると考えられる。このため、国際公開WO/2011/096448号の比較例1に記載された通り、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させ、続いて含フッ素溶媒を加えてアニオン性含フッ素乳化剤を抽出しようとしてもアニオン性含フッ素乳化剤の酸はほとんど抽出されない。
塩基型イオン交換樹脂と、溶離抽出媒体との割合は、質量比で、塩基型イオン交換樹脂/溶離抽出媒体=1/99〜99/1が好ましく、10/90〜90/10がより好ましく、15/85〜50/50が最も好ましい。塩基型イオン交換樹脂と、溶離抽出媒体との割合が上記範囲であれば、塩基型イオン交換樹脂と溶離抽出媒体とを効率よく接触させることができる。
【0028】
塩基型イオン交換樹脂と、溶離抽出媒体との接触時間は、5〜500分が好ましく、10〜300分がより好ましい。接触時間が5分以上であれば、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を十分に抽出できる。500分を超えても、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の抽出量の変化は殆どないので、上限は500分が好ましい。
溶離抽出媒体の接触時の温度は5〜100℃が好ましく、10〜80℃がより好ましい。5℃以上であれば、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を効率よく抽出できる。100℃以下であれば、好ましい溶媒の常圧における沸点を超えないため、常圧下で抽出工程を実施できるので、上限は100℃が好ましい。
【0029】
塩基型イオン交換樹脂と、溶離抽出媒体との接触方法は特に限定はない。例えば、オートクレーブに塩基型イオン交換樹脂と、溶離抽出媒体を入れ、撹拌翼で機械撹拌する方法、振とう機を使って、塩基型イオン交換樹脂と、溶離抽出媒体とを接触させる方法等が挙げられる。また、塩基型イオン交換樹脂をカラムに充填し、溶離抽出媒体を通液させて、流通法で溶離抽出媒体にアニオン性含フッ素乳化剤の酸を抽出させても良い。なお、カラム充填した塩基型イオン交換樹脂から、流通法で溶離抽出媒体にアニオン性含フッ素乳化剤を抽出する場合は、無機酸水溶液と含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合比率を調整し、溶離抽出媒体が単一相となる組成にすることが好ましい。溶離抽出媒体が単一相となる組成は、無機酸水溶液、含フッ素媒体、および非フッ素媒体の種類により異なるが、水溶性である非フッ素媒体の比率を、無機酸水溶液が溶解するのに十分な比率とすることで、溶離抽出媒体が単一相となる組成にできる。
【0030】
無機酸水溶液は、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸の水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。前記無機酸水溶液を2種類以上混合して用いてもよい。これらのうち、塩酸水溶液が工業上、使用が容易であり特に好ましい。
無機酸水溶液の濃度は、一般的に高い程、塩基型イオン交換樹脂から溶離するアニオン性含フッ素乳化剤の酸が増加する傾向にあるので、高いことが好ましい。好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは5.0質量%以上であり、特に好ましくは10〜38質量%である。
【0031】
含フッ素媒体としては、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテルおよびヒドロフルオロアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種類が好ましく用いられる。これらのうち、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテルが好ましい。
ヒドロクロロフルオロカーボンとしては、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン等が挙げられる。
ヒドロフルオロカーボンとしては、CFCFCFCFCFCHF、CFCFCFCFCHCH、CFCFCFCFCFCFCHCH、CFCFCHFCHFCF、CFCHCFCH、CFCFCFCFHCH等が挙げられる。
ヒドロフルオロエーテルとしては、CFCHOCFCFH、CFCHOCFCFHCF、(CFCHOCFCFH、CFCHOCHFCHF、CF(CFOCH、CF(CFOCH、CF(CFOCHCH、CF(CFOCHCH、(CFCFCFOCHCH等が挙げられる。
ヒドロフルオロアルコールとしては、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール等が挙げられる。
なお、塩基性イオン交換樹脂から抽出するアニオン性含フッ素乳化剤がヒドロフルオロアルコールと反応し、エステル体を生成しない場合、もしくはエステル体を生成しても問題無い場合については、ヒドロフルオロアルコールを使用することができる。
【0032】
含フッ素媒体は、非水溶性であることがより好ましく、25℃での水への溶解度が、0.1%未満であることが最も好ましい。非水溶性であれば、溶離抽出媒体が、含フッ素媒体の相と、無機酸水溶液の相とに分離し易く、簡単な操作で、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を大量に含む液相を回収できる。
なかでも、アニオン性含フッ素乳化剤および非フッ素媒体の両者との親和性が良好なため、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、CFCFCFCFCFCHF、CFCHOCFCFHが好ましく用いられる。
【0033】
非フッ素媒体は、分子中にフッ素原子を含有しないものであり、水溶性で、かつ、含フッ素媒体に対して溶解性を有するものが好ましく用いられる。非フッ素媒体が、水溶性であり、かつ、含フッ素媒体に対して溶解性を有することにより、塩基型イオン交換樹脂への溶離抽出媒体の浸透性が良好となり、塩基性イオン交換樹脂からアニオン性含フッ素乳化剤を抽出し易くなる。
非フッ素媒体の25℃における水への溶解度は、50%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。また、非フッ素媒体の25℃における含フッ素媒体への溶解度は、50%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0034】
非フッ素媒体の具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、tert−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン等のピロリドン類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が挙げられる。
上記した非フッ素媒体は、いずれも水溶性であり、かつ、含フッ素媒体に対して溶解性を有する。なかでも、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、tert−ブタノールが好ましく、アセトン、アセトニトリルが最も好ましい。なお、塩基性イオン交換樹脂から抽出するアニオン性含フッ素乳化剤の酸が、アルコール類と反応してエステル体を生成し、乳化剤として有用なアンモニウム塩等に変換する際に問題となる場合は、アルコール類の使用は控えることが好ましい。また、アニオン性含フッ素乳化剤の酸とエステル体を生成しない場合、もしくはエステル体を生成しても問題無い場合は、アルコール類を使用してもよい。
【0035】
溶離抽出媒体は、無機酸水溶液と含フッ素媒体との割合が、質量比で、無機酸水溶液/含フッ素媒体=1/99〜95/5が好ましく、5/95〜80/20がより好ましく、10/90〜70/30が特に好ましい。無機酸水溶液と含フッ素媒体との質量比が上記範囲であれば、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が高い。
また、溶離抽出媒体は、含フッ素媒体と非フッ素媒体の割合が、質量比で、含フッ素媒体/非フッ素媒体=5/95〜95/5が好ましく、10/90〜95/5がより好ましく、15/85〜95/5が特に好ましい。含フッ素媒体と非フッ素媒体の質量比が上記範囲であれば、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が高い。
さらに、含フッ素媒体と非フッ素媒体の質量比を、75/25〜95/5、好ましくは85/15〜95/5とすることにより、溶離抽出媒体が不燃性になり易く、取り扱い性に優れる。例えば、含フッ素媒体として1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンを用い、非フッ素媒体としてアセトンを用いた場合、質量比で、含フッ素媒体/非フッ素媒体=85/15〜95/5とすることで、溶離抽出媒体が不燃性となる。また、含フッ素媒体として1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンを用い、非フッ素媒体としてアセトニトリルを用いた場合、質量比で、含フッ素媒体/非フッ素媒体=75/25〜95/5とすることで、溶離抽出媒体が不燃性となる。
【0036】
上記の実施形態では、塩基型イオン交換樹脂と溶離抽出媒体との混合物から、塩基型イオン交換樹脂を分離除去して液相を分離回収し、回収した液相からアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収する。回収した液相が単一相(無機酸水溶液と含フッ素媒体と非フッ素媒体とが混相をなしている)の場合は、回収した液相の蒸留操作などを行うことでアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収できる。
また、含フッ素媒体として非水溶性のものを用い、非フッ素媒体として水溶性で、かつ、含フッ素媒体に対して溶解性を有するものを用いた場合においては、無機酸水溶液に非フッ素媒体が溶解した上層と、含フッ素媒体に非フッ素媒体が溶解した下層とに二層分離する。上層にもアニオン性含フッ素乳化剤の酸が僅かながら存在するが、含フッ素媒体を含む下層にアニオン性含フッ素乳化剤の酸が高濃度に存在し、下層に比べてごく少量であるため、下層のみを分取することで、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を効率よく回収できる。
【0037】
回収した液相(下層のみを分取した場合は下層)に含まれるアニオン性含フッ素乳化剤の酸は、JIS 水質 K0400−30−10に記載の分析方法、ガスクロマトグラフィーによる分析方法、H−NMRと19F−NMRとを用いたNMR分析方法等により定量できる。
こうして回収したアニオン性含フッ素乳化剤の酸は、そのままアニオン性含フッ素乳化剤として使用してもよく、中和してアンモニウム塩、アルカリ金属塩等として用いてもよい。
【0038】
次に、本発明におけるアニオン性含フッ素乳化剤回収法の第二の実施形態について説明する。
第二の実施形態では、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着した塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させ、次いで、含フッ素媒体と非フッ素媒体の混合液(以下、含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液を抽出媒体という)を接触させる。
上述したように、塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させると、アニオン性含フッ素乳化剤は酸型化して、溶離し易い形で塩基型イオン交換樹脂に吸着される。アニオン性含フッ素乳化剤は、無機酸水溶液との相溶性が低いので、酸型化されても無機酸水溶液中に溶出することは殆どない。しかし、アニオン性含フッ素乳化剤は、含フッ素媒体や非フッ素媒体との相溶性が良好なので、無機酸水溶液を接触させた塩基型イオン交換樹脂に抽出媒体を接触させると、塩基型イオン交換樹脂に吸着されたアニオン性含フッ素乳化剤が、抽出溶媒にアニオン性含フッ素乳化剤の酸として溶離して抽出される。その後、塩基型イオン交換樹脂を分離除去して液相を回収し、回収した液相が単一相になっている場合は、回収した液相の蒸留操作などを行うことでアニオン性含フッ素乳化剤の酸を回収できる。また、回収した液相が二層分離している場合は、含フッ素媒体を含む下層にアニオン性含フッ素乳化剤の酸が高濃度に存在するため、下層のみを分取することで、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を効率よく回収できる。
【0039】
第二の実施形態においては、塩基型イオン交換樹脂に無機酸水溶液を接触させた後、塩基型イオン交換樹脂を分離回収し、分離回収した塩基型イオン交換樹脂に、含フッ素媒体と非フッ素媒体との混合液を接触させることが好ましい。このようにすることで、無機酸水溶液と抽出媒体を分離する操作が不要となるので、極めて簡単な操作により、アニオン性含フッ素乳化剤の酸が高濃度に存在する液相を回収できる。また、非フッ素媒体が無機酸と反応して分解する場合は、非フッ素媒体と接触する無機酸の量を最小化できるので、非フッ素媒体の分解を最小限に抑制することができる。
第二の実施形態においては、無機酸水溶液、含フッ素媒体、および非フッ素媒体は、上記第1の実施形態で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0040】
第二の実施形態において、塩基型イオン交換樹脂と無機酸水溶液との接触時間は、5〜500分が好ましく、10〜300分がより好ましい。接触時間が5分以上であれば、アニオン性含フッ素乳化剤を酸型化して、塩基型イオン交換樹脂から溶離させ易くできる。また、500分を超えても、ほとんど効果は向上しないので、上限は500分が好ましい。
無機酸水溶液の接触時の温度は5〜100℃が好ましく、10〜80℃がより好ましい。5℃以上であれば、アニオン性含フッ素乳化剤を酸型化して、塩基型イオン交換樹脂から溶離させ易くできる。100℃以下であれば、無機酸水溶液の常圧における沸点を超えないため、常圧下で無機酸水溶液による処理を実施できるので、上限は100℃が好ましい。
【0041】
第二の実施形態において、塩基型イオン交換樹脂と無機酸水溶液との接触方法は、特に限定は無い。例えば、オートクレーブに、塩基型イオン交換樹脂と無機酸水溶液とを入れ、撹拌翼で機械撹拌する方法、振とう機を使って、塩基型イオン交換樹脂と無機酸水溶液とを接触させる方法等が挙げられる。また、塩基型イオン交換樹脂をカラムに充填し、無機酸水溶液を通液して接触させてもよい。
【0042】
第二の実施形態において、塩基型イオン交換樹脂と、無機酸水溶液との割合は、質量比で、99/1〜1/99が好ましく、90/10〜10/90がより好ましく、60/40〜30/70が最も好ましい。塩基型イオン交換樹脂と、無機酸水溶液との割合が上記範囲であれば、塩基型イオン交換樹脂と無機酸水溶液とを効率よく接触させることができ、塩基型イオン交換樹脂に吸着されたアニオン性含フッ素乳化剤を、溶離し易くできる。
【0043】
第二の実施形態において、塩基型イオン交換樹脂と抽出媒体との接触時間は、5〜500分が好ましく、10〜300分がより好ましい。接触時間が5分以上であれば、アニオン性含フッ素乳化剤を十分に抽出できる。また、500分を超えても、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の抽出量の変化は殆どないので、上限は500分が好ましい。
抽出媒体の接触時の温度は5〜100℃が好ましく、10〜80℃がより好ましい。5℃以上であれば、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を効率よく抽出できる。100℃以下であれば、好ましい溶媒の常圧における沸点を超えないため、常圧下で抽出工程を実施できるので、上限は100℃が好ましい。
【0044】
第二の実施形態において、塩基型イオン交換樹脂と抽出媒体との接触方法は、上記した無機酸水溶液との接触方法と同様の方法により行うことができる。
第二の実施形態において、抽出媒体の含フッ素媒体と非フッ素媒体の割合は、質量比で、含フッ素媒体/非フッ素媒体=5/95〜95/5が好ましく、10/90〜90/10がより好ましく、20/80〜90/10が特に好ましい。含フッ素媒体と非フッ素媒体の質量比が上記範囲であれば、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が高い。さらに、含フッ素媒体と非フッ素媒体の質量比を、75/25〜95/5、更には85/15〜95/5とすることにより、抽出媒体は不燃性になり易く、取り扱い性に優れる。
【0045】
第二の実施形態において、塩基型イオン交換樹脂と抽出媒体との割合は、質量比で、1/99〜80/20が好ましく、10/90〜70/30がより好ましく、15/85〜60/40が最も好ましい。塩基型イオン交換樹脂と、抽出媒体との割合が上記範囲であれば、塩基型イオン交換樹脂と抽出媒体とを効率よく接触させて、抽出媒体にアニオン性含フッ素乳化剤の酸を抽出できる。
【実施例】
【0046】
次に、実施例(例1−1〜1−12、および2−1〜2−20)および比較例(例1−13、1−14、および2−21)により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されない。
【0047】
[溶離抽出媒体および抽出媒体の燃焼性]
JIS K 2265−1に記載のタグ密閉法若しくは、JIS K 2265−4に記載のクリーブランド開放式により、各例で使用した溶離抽出媒体および抽出媒体の燃焼性の有無を確認した。
【0048】
[アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率]
抽出処理後の回収した液相について、H−NMRおよび19F−NMRによる定量分析により、アニオン性含フッ素乳化剤の酸を定量し、液相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の含有量(g)を測定した。次いで、下式に基づき、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率を求めた。
回収率(%)=(液相中のアニオン性含フッ素乳化剤の酸の含有量(g)/塩基型イオン交換樹脂に吸着していたアニオン性含フッ素乳化剤の量(g))×100
【0049】
(例1)
アニオン性含フッ素乳化剤(CFCFOCFCFOCFCOO(NH)の水溶液と塩基型イオン交換樹脂とを接触させて、塩基型イオン交換樹脂にアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた。
次に、内容積50mlのふた付きビーカーに、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた塩基型イオン交換樹脂と、塩酸と、非フッ素媒体と、含フッ素媒体とを表1に記す通り仕込み、恒温水槽で温度を40℃に保ちながら、マグネチックスターラーで内容物を10〜60分撹拌して、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の抽出を行った。
撹拌終了後、塩基型イオン交換樹脂を分離除去した。次いで、例1−1〜1−13においては、塩基型イオン交換樹脂を分離除去して残った液相が二層分離していたので、下層のみを回収した。また、例1−14においては、塩基型イオン交換樹脂を分離除去して残った液相は単一相をなしていたので、該液相をそのまま回収した。
その後、回収した液相(下層のみを回収した場合は下層)に含まれるアニオン性含フッ素乳化剤の酸を上記の方法で定量し、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率を測定した。結果を表1にまとめて記す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、塩酸と含フッ素媒体とを併用して抽出を行った例1−13(回収率50%)、および塩酸と非フッ素媒体とを併用して抽出を行った例1−14(回収率77%)に比べ、溶離抽出媒体(塩酸と非フッ素媒体と含フッ素媒体の混合物)を用いて抽出を行った例1−1〜1−12は、塩基型イオン交換樹脂の種類によらず、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が80%以上と高かった。
【0052】
(例2)
例1と同様にして、アニオン性含フッ素乳化剤(CFCFOCFCFOCFCOO(NH)の水溶液と塩基型イオン交換樹脂とを接触させて、塩基型イオン交換樹脂にアニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた。
次に、内容積50mlのふた付きビーカーに、アニオン性含フッ素乳化剤を吸着させた塩基型イオン交換樹脂と、塩酸とを表2に記す通り仕込み、恒温水槽で温度を15〜60℃に保ちながら、マグネチックスターラーで内容物を30〜60分撹拌した後、塩酸のみをビーカーから抜き出した。
続いて、塩酸で処理されて塩基型イオン交換樹脂が入った前記ビーカーに、表2に示すとおり非フッ素媒体と、含フッ素媒体とを仕込み、恒温水槽で温度を15〜60℃に保ちながら、マグネチックスターラーで内容物を30〜300分撹拌してアニオン性含フッ素乳化剤の酸の抽出を行った。
撹拌終了後、塩基型イオン交換樹脂を分離除去した。次いで、例2−1〜2−21のいずれにおいても、塩基型イオン交換樹脂を分離除去して残った液相は、二層分離していたので、下層のみを回収した。
その後、回収した液相に含まれるアニオン性含フッ素乳化剤の酸を上記の方法により定量し、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率を測定した。結果を表2にまとめて記す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示すように塩酸で処理した後、含フッ素媒体のみを用いて抽出を行った例2−21(回収率44%)に比べて、塩酸で処理した後、抽出媒体(非フッ素媒体と含フッ素媒体との混合物)を用いて抽出を行った例2−1〜2−20は、アニオン性含フッ素乳化剤の酸の回収率が83%以上と高かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のアニオン性含フッ素乳化剤の回収方法によれば、アニオン性含フッ素乳化剤を高収率で回収することが可能であり、回収に使用した含フッ素媒体は再利用でき、廃液処理に要する手間を軽減できる。さらに、回収したアニオン性含フッ素乳化剤は、そのまま、あるいは中和してアルカリ金属塩やアンモニウム塩として、含フッ素ポリマー水性乳化液の乳化重合等に使用できるなど、産業上有用である。
なお、2011年9月13日に出願された日本特許出願2011−199724号の明細書、特許請求の範囲、および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。