(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
発光ダイオードは、現在利用可能な光源の中で最も効率的な光源の一つである。このうち、白色発光ダイオードは、白熱電球、蛍光灯、CCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)バックライト、ハロゲンランプなどに代わる次世代光源として急激に市場を拡大している。白色LED(Light Emitting Diode)を実現する構成の一つとして、青色発光ダイオード(青色LED)と、青色光励起によって、より長波長、例えば黄色や緑色に発光する蛍光体との組合せによる白色LED(LED照明)が実用化されている。
【0003】
この白色LEDの構造としては、青色LED上又はそのごく近傍に樹脂やガラスなどに混合した状態で蛍光体を配置し、青色光の一部又は全部を、この事実上青色LEDと一体化したこれらの蛍光体層で波長変換して擬似白色光を得る、いわば白色LED素子と呼ぶべき方式が主流である。また、その蛍光体を青色LEDから数mm〜数十mm離れたところに配置して青色光の一部又は全部を該蛍光体で波長変換する方式が採られている発光装置もある。
【0004】
特に、LEDから発する熱によって蛍光体の特性が低下しやすい場合、LEDからの距離が遠いことは発光装置としての効率の向上や色調の変動を抑えるのに有効である。このようにして蛍光体を含む波長変換部材をLED光源から離間して配置した部材をリモートフォスファー、このような発光方式を「リモートフォスファー方式」と呼んでいる。このようなリモートフォスファー方式の発光方式では、照明として用いた場合の全体の色むらが改善されるなどの利点があり、近年急速に検討がなされている。
【0005】
このようなリモートフォスファー方式の発光装置においては、例えば青色LEDの前面にリモートフォスファーとして黄色発光蛍光体粒子や緑色蛍光体粒子、更には赤色蛍光体粒子を分散した樹脂又はガラスよりなる波長変換部材を配置することで、白色光を得る発光装置としているものが一般的である。リモートフォスファーとして使用される蛍光体としてはY
3Al
5O
12:Ce、(Y,Gd)
3(Al,Ga)
5O
12:Ce、(Y,Gd)
3Al
5O
12:Ce、Tb
3Al
5O
12:Ce、(Sr,Ca,Ba)
2SiO
4:Eu、β−SiAlON:Eu等の他、照明装置の演色性向上のため赤色蛍光体としてCaAlSiN
3:Eu
2+、Sr−CaAlSiN
3:Eu
2+などが使用されることもある。
【0006】
しかしながら、上記のようなLED照明装置に適した蛍光体のうち、緑色発光もしくは黄色発光の蛍光体の例は多いが、赤色発光する蛍光体としては、CASN、S−CASNと呼ばれる窒化物蛍光体や、α−S
iALON蛍光体と呼ばれる酸窒化物蛍光体など、あまり多く知られていない。また、これらの赤色発光する蛍光体は、通常高温、高圧下での合成が必要なため、大量に合成するには高温、高圧に耐える特殊な設備を必要とする。
【0007】
我々は、過去に下記式(1)
A
2(M
1-xMn
x)F
6 (1)
(式中、MはSi、Ti、Zr、Hf、Ge及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素、AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれ、かつ少なくともNa及び/又はKを含む1種又は2種以上のアルカリ金属であり、xは0.001〜0.3である。)で表されるLED用蛍光体として有望な赤色蛍光体の合成方法について検討を行なってきた(特開2012−224536号公報(特許文献1))。我々の開発した合成方法によれば、上記蛍光体の合成は、100℃以下の低温、常圧での合成ができ、粒径、量子効率の良好な蛍光体が得られるが、この蛍光体は高湿下での耐久性に課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、LEDに好適な赤色蛍光体を用いた波長変換部材及び該波長変換部材を用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、新たな波長変換部材として、熱可塑性樹脂に蛍光体を混合した樹脂蛍光板に着目し、混合方法、混合量、蛍光板の厚み及びLED装置における配置について検討を行った。また、その際に、LED装置の色再現性を向上させるべく、擬似白色LED装置において黄色蛍光体の発光特性を補完しうる赤色蛍光体として、マンガン賦活複フッ化物蛍光体について検討を行った。そして、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、マンガン賦活複フッ化物からなる赤色蛍光体を特定の熱可塑性樹脂に分散させた樹脂成型体の波長変換部材により耐湿性が改善できること、また、LED光源の光軸上に、この波長変換部材を配すること、例えば、黄色系又は緑色系の波長変換部材とは別に独立して、マンガン賦活複フッ化物からなる赤色蛍光体を、特定の熱可塑性樹脂に分散させた樹脂成型体の波長変換部材を、黄色系又は緑色系の波長変換部材の前又は後ろに配することで、LED装置の色再現性を改善できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記の波長変換部材及び発光装置を提供する。
〔1〕 下記式
K2(Si1-xMnx)F6(xは0.001〜0.3である。)
で表され
るマンガン賦活ケイフッ化カリウムであり、粒度分布における体積累計50%の粒径D50が2μm以上200μm以下である複フッ化物蛍光体が0.1〜30質量%の含有量で分散された、
ポリプロピレンからなる板状の樹脂成型体であることを特徴とする波長変換部材。
〔
2〕 上記樹脂成型体が、上記複フッ化物蛍光体をポリプロピレンに練り込んだ熱成型体である
〔1〕記載の波長変換部材。
〔
3〕 平均厚さが0.5〜5mmである〔1〕
又は〔2〕記載の波長変換部材。
〔
4〕 波長420〜490nmの青色光成分を含む光を出射する青色LED光源又は擬似白色LED光源と、該LED光源の光軸上に配置される〔1〕〜〔
3〕のいずれかに記載の波長変換部材とを備えることを特徴とする発光装置。
〔
5〕 青色光を出射するLED光源と、該LED光源の光軸上に配置される〔1〕〜〔
3〕のいずれかに記載の波長変換部材と、上記青色光を吸収して上記複フッ化物蛍光体とは波長の異なる光を発する蛍光体を含む他の波長変換部材とを備えることを特徴とする発光装置。
〔
6〕 上記LED光源側から、他の波長変換部材、〔1〕〜〔
3〕のいずれかに記載の波長変換部材の順で配置されている〔
5〕記載の発光装置。
〔
7〕 上記他の波長変換部材がY
3Al
5O
12:Ce
3+蛍光体を含む〔
5〕又は〔
6〕記載の発光装置。
〔
8〕 上記光源から気体層又は真空層を介して、離れた場所に上記波長変換部材を配設したリモートフォスファー方式の発光装置である〔
5〕〜〔
7〕のいずれかに記載の発光装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の波長変換部材によれば、所定量のマンガン賦活複フッ化物粒子を熱可塑性樹脂に均一に練り込んで成型した新規な波長変換部材を提供することができる。また、本発明の波長変換部材を発光装置(照明装置)に用いることで、波長600〜660nmの領域にMn
4+に起因するシャープな発光ピークを付与することができるため、LED照明の演色性能を大きく向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[波長変換部材]
以下に、本発明に係る波長変換部材について説明する。
本発明に係る波長変換部材は、所定の複フッ化物蛍光体が30質量%以下の含有量で分散された、ポリオレフィン、ポリスチレン、スチレン共重合体、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂及びポリエーテル樹脂の群から選ばれる1種又は2種以上の熱可塑性樹脂の樹脂成型体である。
【0015】
ここで、本発明に用いる複フッ化物蛍光体は、下記式(1)
A
2(M
1-xMn
x)F
6 (1)
(式中、MはSi、Ti、Zr、Hf、Ge及びSnから選ばれる1種又は2種以上の4価元素、AはLi、Na、K、Rb及びCsから選ばれ、かつ少なくともNa及び/又はKを含む1種又は2種以上のアルカリ金属であり、xは0.001〜0.3、好ましくは0.001〜0.1である。)
で表される赤色蛍光体である。
【0016】
この蛍光体は、A
2MF
6で表される複フッ化物の構成元素の一部がマンガンで置換された構造を有するマンガン賦活複フッ化物蛍光体である。このマンガン賦活複フッ化物蛍光体において、賦活元素のマンガンは、特に限定されるものではないが、A
2MF
6で表される4価元素のサイトにマンガンが置換したもの、即ち、4価のマンガン(Mn
4+)として置換したものが好適である。この場合、A
2MF
6:Mn
4+と表記してもよい。本発明においては、このうち、複フッ化物蛍光体が、K
2(Si
1-xMn
x)F
6(xは上記と同じ)で表されるマンガン賦活ケイフッ化カリウムであることが特に好ましい。
【0017】
このようなマンガン賦活複フッ化物蛍光体は、波長420〜490nm、好ましくは波長440〜470nmの青色光により励起されて、波長600〜660nmの範囲内に発光ピーク、あるいは最大発光ピークを有する赤色光を発する。
【0018】
なお、上記式(1)で表される複フッ化物蛍光体は、従来公知の方法で製造したものでよく、例えば、金属フッ化物原料をフッ化水素酸に溶解又は分散させ、加熱して蒸発乾固させて得たものを用いるとよい。
【0019】
また、マンガン賦活複フッ化物蛍光体の粒径としては、粒度分布における体積累計50%の粒径D50が2μm以上200μm以下であり、好ましくは10μm以上60μm以下である。D50値が2μm未満の場合は、蛍光体としての発光効率が低下してしまう。一方、蛍光体粒子が大きい場合は、発光に本質的に問題はないが、熱可塑性樹脂との混合時に、蛍光体の分布が不均一になりやすいなどの欠点が生じやすくなるため、D50で200μm以下であるものが使いやすいという利点がある。
なお、本発明における粒径の測定方法は、例えば、空気中に対象粉末を噴霧、あるいは分散浮遊させた状態でレーザー光を照射して、その回折パターンから粒径を求める乾式レーザー回折散乱法が、湿度の影響を受けず、なお且つ粒度分布の評価までできるため好ましい。
【0020】
本発明の波長変換部材におけるマンガン賦活複フッ化物蛍光体の含有量は変換部材の厚み及び目的とする色再現性の状態により異なるものの、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、特に好ましくは5質量%以上で、30質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下の範囲である。
蛍光体含有量が30質量%超となると、練り込みの際の蛍光粉体と成型機の練り込みスクリューとの摩擦及び摩耗が増大し、その結果、樹脂封止蛍光材(波長変換部材)における変色が生じてしまう。また、過度に高い含有量とすると、封止樹脂内で蛍光粉体が部分的に凝集して、樹脂封止蛍光材における発光分布が不均一なものとなる。一方、2質量%未満では、赤色光の発光量が少なく、演色性改善効果が低くなってしまう場合があるが、2質量%未満の含有量で全く使えないわけではない。より高い演色性改善効果を得るためには、2質量%以上であることが望ましい。
【0021】
本発明で用いる蛍光体を封止する樹脂の検討に当り、本発明者らはアルカリへの化学的耐性が高く、防湿性にも優れている熱可塑性樹脂に着目し、成型温度、(実用環境における)光透過性、耐湿性、耐熱性について鋭意検討を行った。
【0022】
種々の熱可塑性樹脂材料を用いて樹脂封止蛍光材である波長変換部材を試作し、マンガン賦活複フッ化物蛍光体の混合の可否、光学特性、耐湿性について検討を行った。その結果、熱可塑性樹脂として
、ポリプロピレンを用いた場合、蛍光体との混合が可能であり、樹脂及び蛍光体の分解、劣化が少ないという知見を得た。
【0023】
従って、本発明
の光透過性の熱可塑性樹脂としては
、ポリプロピレ
ンを用いる。
【0024】
ポリプロピレンとしては、ホモポリマー、ブロックコポリマー及びランダムコポリマーのいずれでもよいが、コポリマーは、エチレンとのコポリマーが好ましい。特に、エチレン単位を共重合体中に2質量%以上6質量%以下の少量含有するランダムコポリマータイプのものが好ましく、JIS K 7210で規定されるメルトフローレート(MFR)が5〜30g/10min程度の射出成型可能なものがより好ましい。
【0025】
なお、成型方法は、特に限定しないが、短い時間で成型可能な、射出成型が、より好ましい。
【0026】
本発明の波長変換部材では、従来の熱可塑性プラスチック材と同様に、酸化防止剤、光安定化剤、紫外線吸収剤をはじめとした安定化剤並びに成型滑剤を助剤として、0.1〜0.3質量%の範囲で配合することができる。また、特に、ポリプロピレンを用いた場合において長期間の使用による強度の低下が問題となるときには、最大0.3質量%を目安に重金属不活性化剤を添加してもよい。
【0027】
このほか、マンガン賦活複フッ化物蛍光体の含有量(練り込み濃度)が低い場合、あるいはヘイズを増加させ、当該部材を透過する光の拡散性を向上する助剤として、光拡散剤を混合することもできる。光拡散剤としては、タルク、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ケイ酸アルミニウム、酸化イットリウム等の無機セラミックス粉体が挙げられ、なかでも、透明度が高く、透過光の損失が小さい、酸化アルミニウム粉又は酸化ケイ素粉が好ましい。また、光拡散剤の粒径D50値は0.1μm以上20μm以下が好ましい。粒径D50値が0.1μm未満もしくは20μmを超える場合は、光拡散剤としての効力が低くなることがある。また、光拡散剤の配合量は、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.05〜1.5質量%、更に好ましくは0.1〜0.5質量%である。配合量0.05質量%未満では光拡散効果が十分でない場合があり、5質量%超では波長変換部材の光透過性が低下するおそれがある。
【0028】
本発明の波長変換部材の通常の成型工程としては、上記熱可塑性樹脂、マンガン賦活複フッ化物蛍光体、その他助剤等を原料とし、混合機にて混合し、用途に応じた任意の形状に熱成型する。例えば、混合時にそのまま発光装置の波長変換部材に適した目的の形状に成型してもよいし、一旦ペレット状に成型しておき、必要なときにこのペレット状のものから目的の形状の波長変換部材に成型してもよい。
【0029】
波長変換部材の平均厚さは、要求される波長変換性能(入射する青色励起光の光量に対して吸収して発光する赤色波長領域の光の量や青色励起光の透過率等)に対応して、マンガン賦活複フッ化物蛍光体の含有量との関係から決定され、例えば0.5〜5mmが好ましい。
【0030】
このようにして得られた波長変換部材は、マンガン賦活複フッ化物蛍光体が所定の熱可塑性樹脂で封止された樹脂成型体となり、耐湿性が著しく改善されたものとなる。また、該波長変換部材は光学的に波長420〜490nmの青色光励起により、波長約600〜660nmの赤色波長領域の蛍光を発することから、所定のマンガン賦活複フッ化物を含む本発明の波長変換部材を発光装置に適用することで、その発光スペクトルに赤色波長成分を容易に付加することができ、発光装置の演色性、特に平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数△R9の向上が期待できる。更に、本発明の波長変換部材では、上記マンガン賦活複フッ化物蛍光体は、波長420〜490nmの青色光に対する吸収係数が比較的小さいため、波長変換部材の内部まで青色光が入射しやすい特性をもっている。そのため、波長変換部材のうち、青色光が入射した部分だけが発光するのではなく、波長変換部材全体が発光し、即ち、その波長変換部材の形状、大きさに応じて広範囲での発光源となり、特に、面発光の発光装置において好適なものとなる。
【0031】
[発光装置]
次に、本発明に係る発光装置について説明する。
図1は、本発明に係る発光装置の第1の実施形態における構成を示す斜視図である。
本発明に係る発光装置10は、
図1に示すように、青色光を出射するLED光源1、該LED光源1の光軸A上に配置される、上述した本発明の複フッ化物蛍光体を含有する波長変換部材(赤色系波長変換部材)3、及び青色光を吸収して本発明の複フッ化物蛍光体とは波長の異なる光を発する蛍光体を含む他の波長変換部材(例えば、黄色系波長変換部材、緑色系波長変換部材など)2を備える。
【0032】
ここで、LED光源1は、発光装置10に配置される全ての波長変換部材2,3に含まれる蛍光体を励起することが可能な発光光を含む必要があり、青色光、例えば、発光波長420〜490nm程度の青色光、又は該青色光成分を含む光を出射するものが好ましい。また、LED光源1は、LED照明用として、複数のLEDチップからなるものが好ましい。
【0033】
発光装置10の出射光の色度は、波長変換部材2,3それぞれの厚み、蛍光体含有量、LED光源1の光軸上の配置等によって調整することができる。
ここでは、
図1に示すように、LED光源1の光軸上に、LED光源1側から他の波長変換部材2、本発明の波長変換部材3の順で配置されている構成であって、演色性の高い白色光を得る一形態について説明する。
【0034】
他の波長変換部材2は、黄色蛍光体又は緑色蛍光体が分散された樹脂成型体であり、例えば、Y
3Al
5O
12:Ce
3+、(Y,Gd)
3(Al,Ga)
5O
12:Ce
3+、(Y,Gd)
3Al
5O
12:Ce
3+、Tb
3Al
5O
12:Ce
3+、(Sr,Ca,Ba)
2SiO
4:Eu
2+、β−SiAlON:Eu
2+等の蛍光体を熱可塑性樹脂に練り込んだ黄色もしくは緑色系波長変換部材であることが好ましい。
【0035】
他の波長変換部材2における蛍光体の含有量は、入射する青色光の光量、黄色波長領域の光の発光量、青色光の透過率等を考慮して決定され、例えば、Y
3Al
5O
12:Ce
3+蛍光体を練り込んだ厚み2mmの板材の場合、練り込み濃度は、0.2〜5質量%が好ましく、1〜4質量%がより好ましい。
【0036】
波長変換部材3は、上述した本発明の波長変換部材であり、LED光源1及び波長変換部材2からの光が入射し、発光装置として効率的に光を出射する形状を有している。これらの波長変換部材2,3は発光装置10において独立して単独で扱える自立した部材であることが好ましい。波長変換部材2,3の形状は、
図1に示す円盤形状に限定されず、白熱電球のような曲面、その他の形状でもよい。
【0037】
また、波長変換部材3は波長420〜490nmの励起光透過率が、20%以上90%以下が好ましく、30%以上70%以下がより好ましい。励起光透過率が20%未満では発光装置から出る青色光が不足し、その色合いのバランスが悪くなるおそれがあり、90%超では赤色光が不足し、演色性向上の効果が期待できないおそれがある。
【0038】
また、波長変換部材3とLED光源1との間隔は2〜100mmとすることが好ましく、5〜10mmとすることがより好ましい。上記範囲を超える場合でも使用可能であるが、上記間隔が2mm未満ではLED光源1からの熱影響を受けて波長変換部材が劣化するおそれがあり、100mm超では波長変換部材が大きくなりすぎる場合がある。
【0039】
上記構成の発光装置10では、
図2に示すように、LED光源1から青色光Lbが出射されると、まず青色光Lbが他の波長変換部材2に入射し、青色光Lbの一部が波長変換部材2に含まれる蛍光体に吸収され、黄色波長領域(又は緑色波長領域)を含む光(ここでは黄色光と称する)Lyに変換され、波長変換部材2を透過した残りの青色光Lbと共に出射される。次いで、黄色光Lyと残りの青色光Lbが波長変換部材3に入射し、残りの青色光Lbの一部が波長変換部材3に含まれる赤色蛍光体に吸収され、赤色波長領域を含む光(ここでは赤色光と称する)Lrに変換され、波長変換部材3を透過した黄色光Ly及び更に残部の青色光Lbと共に出射される。その結果、青色光Lb、黄色光Ly、赤色光Lrが所定の比率で出射されることになり、演色性の高い白色光Lwが得られる。
なお、
図2に示すように、LED光源1から出射された青色光Lbの一部が、他の波長変換部材2や波長変換部材3で反射される場合は、LED光源1側に反射板5を設けて、青色光を反射光Lb’として再び他の波長変換部材2及び波長変換部材3側に戻せば、反射光Lb’からも黄色光Ly’及び赤色光Lr’が得られ、これらも白色光Lwの発光に寄与させることができる。
【0040】
本発明の発光装置10によれば、波長変換部材2,3中の双方の蛍光体を、同じLED光源1からの励起光が順次励起する構成となっていることから、複数の白色LED光源に基づいた発光装置におけるようなLEDの出力のばらつきによる発光色の違いは生じず、色度が安定し、かつ均一な発光が得られる。また、本発明の発光装置10によれば、該発光装置10の組み立ての最終段階で、目的の色度の発光に対応させて、それぞれにおいて蛍光体含有量を調整した波長変換部材2,3を組み付ければよく、簡単な調整で自由度の高い発光調色が可能となる。なお、本発明の波長変換部材3は、黄色波長領域(又は緑色波長領域)の光の大部分を透過するため、発光装置10の調光が容易である。更に、波長変換部材2,3がLED光源(発光チップ)1と空間的に独立しているため、波長変換部材2,3は高温になりにくく、含有される蛍光体の特性が安定し、長寿命となる。
【0041】
また、LED光源1の光軸上における波長変換部材2,3の配置順を入れ替えて、LED光源1側から本発明の波長変換部材3、他の波長変換部材2の順で配置してもよい。
【0042】
図3は、本発明に係る発光装置の第2の実施形態における構成を示す斜視図である。
本発明に係る発光装置20は、
図3に示すように、青色波長成分を含む擬似白色光を出射するLED光源1Aと、該LED光源1Aの光軸A上に配置される、上述した本発明の波長変換部材3とを備える。
【0043】
ここで、LED光源1Aは、例えば、波長420〜490nm、好ましくは波長440〜470nmの青色光を発光する青色LED表面に黄色蛍光体や緑色蛍光体を含む樹脂塗料を塗布した擬似白色光を出射する光源である。
【0044】
波長変換部材3及び反射板5は、第1の実施形態のものと同じである。
【0045】
上記構成の発光装置20において、LED光源1Aから擬似白色光が出射されると、擬似白色光が波長変換部材3に入射し、擬似白色光における青色光の一部が波長変換部材3に含まれる赤色蛍光体によって赤色光に変換される。その結果、演色性の高い白色光が得られる。
【0046】
本発明の発光装置20によれば、LED光源1Aからの擬似白色光の一部が励起光として波長変換部材3中の蛍光体を励起する構成となっていることから、複数のLED光源に基づいた発光装置におけるようなLEDの出力のばらつきによる発光色の違いは生じず、色度が安定し、かつ均一な発光が得られる。また、本発明の発光装置20によれば、赤色波長用の波長変換部材3がLED光源1Aの波長変換部とは別に独立しているので、該発光装置20の組み立ての最終段階で、目的の色度の発光に対応させて、所定の蛍光体含有量とした波長変換部材3を組み付ければよく、簡単な調整で自由度の高い発光調色が可能となる。更に、波長変換部材3がLED光源(発光チップ)1Aと空間的に独立し、離れているため、該波長変換部材3が高温になりにくく、含有される蛍光体の特性が安定し、長寿命となる。
【0047】
本発明の発光装置に関し、本発明の主旨を変えない範囲で、各構成の形態の変更が可能であり、上記で説明した実施形態に限定されるものではない。例えば、
図3に示すLED光源1Aが青色LEDの場合は、青色LEDから青色光が出射されると、青色光が波長変換部材3に入射し、青色光の一部が波長変換部材3に含まれる赤色蛍光体によって赤色光に変換され、青色光と赤色光とが混合した光が発光される。
【0048】
本発明の発光装置は、青色LED光源から気体層又は真空層を介して、離れた場所に波長変換部材を配設したリモートフォスファー方式の発光装置として好適である。リモートフォスファーは、面発光で放射角が大きいなど、一般的なLED発光装置とは異なる配光特性を有しており、広範囲を照らしたい照明器具などに特に好適である。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1、比較例1]
透明ポリプロピレンペレットを90℃で3時間乾燥させた後に、添加剤として、ステアリル−β−(3,5−
ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、ステアリン酸カルシウムを、各々0.1質量%、0.1質量%、0.3質量%、0.1質量%、0.05質量%となるように添加し、撹拌混合した。
この添加剤混合ポリプロピレンペレット4.5kgに、二軸押出機を用いて、粒径D50値17.6μmのK
2(Si
0.97Mn
0.03)F
6蛍光体0.5kgを混合し、K
2(Si
0.97Mn
0.03)F
6を10質量%含有するポリプロピレンペレットを得た。更に、同様の工程でK
2(Si
0.97Mn
0.03)F
6含有量を1〜33質量%としたK
2(Si
0.97Mn
0.03)F
6含有ポリプロピレンペレットを得た。
次に、得られたK
2(Si
0.97Mn
0.03)F
6含有ポリプロピレンペレットを用いて、20t横型射出成型機により、厚み2mm、直径20mmの板状の部材に成型した。
得られた板状の波長変換部材について、量子効率測定システムQE1100(大塚電子(株)製)で、励起光の透過率及び励起光を波長変換して得られた赤色発光の外部量子効率の評価を行った。更に、青色光を照射しての発光ムラの有無を裏側から目視で観察した。以上の評価結果を表1に示す。
実施例1−1〜実施例1−4においては、実施例1−1では蛍光体の含有率が低いため、ほとんどの光が透過して、波長変換部材としての発光はごくわずかではあったものの、赤色蛍光体の含有量が増えるに従って、励起光の透過率が減少し、赤色発光が強くなった。また、青色光を照射しての発光ムラの有無を裏側から目視で観察したが、発光ムラは認められなかった。
比較例1では強い赤色発光が認められたが、その発光には明部と暗部の発光ムラが認められた。
【0051】
【表1】
【0052】
[実施例2、比較例2]
実施例1と同様の方法で、赤色蛍光体含有量が5質量%、10質量%の板状の波長変換部材を作製した。また、YAG:Ce
3+蛍光体を5質量%含有する同様の波長変換部材を作製し、これらを組み合わせて
図4に示す構成の発光装置を作製した。なお、
図4中、11は青色LED光源、12は黄色系波長変換部材、13は赤色系波長変換部材、16はパッケージである。励起光としては450nm光を発するCree社製2W型青色LEDチップを用いた青色光源を使用した。各々の発光装置の波長変換部材の組み合わせは表2に示した。各々の発光装置についての色温度、平均演色評価数Ra、特殊演色評価数△R9を分光放射照度計CL−500A(コニカミノルタオプティクス(株)製)を用いて測定した。また、比較用に上記赤色系波長変換部材を用いない発光装置も試作し評価した。結果を表2にまとめた。波長変換部材に含有する蛍光体の量及び厚みを調整することにより発光装置の色温度を変化させることができ、また、赤色系波長変換部材を用いることにより平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数△R9が向上することがわかる。
【0053】
【表2】
【0054】
[実施例3、比較例3]
以下の条件で発光装置を作製した。
二軸押出機を用いて、透明ポリプロピレンペレットに、実施例1で用いたK
2(Si
0.97Mn
0.03)F
6蛍光体の混合を行い、K
2(Si
0.97Mn
0.03)F
6蛍光体の濃度を2.5質量%、10質量%としたK
2(Si
0.97Mn
0.03)F
6蛍光体含有ポリプロピレンペレットを得た。
次に、得られたK
2(Si
0.97Mn
0.03)F
6含有ポリプロピレンペレットを用いて、20t横型射出成型機により成型を行い、厚み2mm、100mm角の板状の赤色系の波長変換部材を得た。
また、ポリカーボネート樹脂に、Y
3Al
5O
12:Ce粉体を各々2.5、3.0、4.0、5.0質量%で練り込んだペレットを作製し、これを原料として射出成型を行い、厚み2mm、100mm角の板状の黄色系の波長変換部材を得た。
得られた2種類の波長変換部材を青色LED発光装置(GL−RB100(Cree社製2W型青色LEDチップXT−Eロイヤルブルー6個使用)、日野電子(株)製)の前面の光軸上に配置し、白色LED発光装置とした。波長変換部材の組み合わせとしては表3に示すようにLED発光装置側から第1波長変換部材、第2波長変換部材とし、黄色系波長変換部材、赤色系波長変換部材の順に配置したもの、赤色系波長変換部材、黄色系波長変換部材の順に配置したものをそれぞれ蛍光体含有量の組み合わせを変化させて作製し、更に、黄色系波長変換部材(蛍光体含有量4質量%)のみを配置したものも作製した。
分光放射照度計CL−500A(コニカミノルタオプティクス(株)製)を用いて、これらのLED発光装置の色温度、平均演色評価数Ra、特殊演色評価数△R9を光源から20cm離れた位置で測定し、その結果を表3に示した。
表3からわかるように、赤色系波長変換部材を使用した実施例3−1〜3−5ではいずれも赤色系波長変換部材を使用していない比較例3に比べると特殊演色評価数△R9が高いことがわかる。
また、実施例3−2の発光スペクトルを
図5に、比較例3の発光スペクトルを
図6に示した。
図5、
図6を対比すると分かるように、本発明の波長変換部材を用いた発光装置のスペクトル(
図5)は波長600nm以上に発光ピークをもつことがわかり、このことが平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数△R9が向上する理由になっていると考えられる。
【0055】
【表3】
【0056】
以上のように、本発明の波長変換部材を用いたLED発光装置によれば、黄色系波長変換部材のみを用いたLED発光装置の平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数△R9を大きく改善することができる。また、LED発光装置の組み立て後であっても、波長変換部材を交換するだけで出射光の色度、演色性を調整することが可能である。
【0057】
更に、上記ペレットを用いて、実施例3−2の赤色系波長変換部材と、比較例3の黄色系波長変換部材について、厚み2mm、40mm角の板状の波長変換部材を作製し、青色LED(波長460nm)からの光を、波長変換部材の40mm角の面に対して垂直方向から照射し、照射面の裏側から見た波長変換部材の発光の状態を目視で確認した。発光状態の斜視像を
図7に示す。
図7(B)の比較例3の黄色系波長変換部材の場合は、励起光である青色光が照射された部分(図の右側部)のみが発光して輝いているのに対して、
図7(A)の実施例3−2の赤色系波長変換部材の場合は、励起光である青色光が照射された部分と共に、その周縁部(図の中央部から左側部)も発光しており、波長変換部材の発光範囲が広いことがわかる。
【0058】
なお、これまで本発明を、実施形態をもって説明してきたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。