(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様の被膜付き自動車用窓ガラスの製造方法は、自動車の開閉可能な窓ガラスの少なくとも一方の面にフローコート法により塗布液を塗布する塗布工程と、該塗布工程にて塗布した塗布液を乾燥して被膜を形成する乾燥工程とを有する方法である。
【0012】
自動車の開閉可能な窓ガラスの材質としては、特に限定されず、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等の無機ガラス、およびポリカーボネート、アクリル等の有機ガラス等が挙げられる。
【0013】
自動車の開閉可能な窓ガラスとしては、自動車の前部または後部のドアに取り付けられる昇降して開閉可能な窓ガラスが挙げられる。本発明の方法によって製造した窓ガラスは、昇降開閉しても被膜の傷や剥離が生じにくく外観品質が良好である。窓ガラスの形状としては、種々のものがある。
図1(A)に、自動車の開閉可能な窓ガラスの一例として、自動車の前部のドアの開閉可能な窓ガラス10の正面図を示す。
窓ガラス10は、
図1(A)に示すように、一方の側辺11(以下、単に「側辺11」という。)が他方の側辺12(以下、単に「側辺12」という。)よりも長く、上辺13が曲線状になっている形状である。また、窓ガラス10の側辺11と下辺14とがなす角度αは90°よりも大きくなっており、側辺12と下辺14とがなす角度βが90°よりも小さくなっている。さらに、窓ガラス10は、
図1(B)に示すように、凹面10aが凹状、凸面10bが凸状となるように湾曲している。窓ガラス10は、側辺12側を前、側辺11側を後ろにして、凹面10aが車内側となるように自動車の前部のドアに取り付けられる。窓ガラス10の上辺13は、窓が閉じられた状態では、ドアの上部フレームのガラス収納部内に収納される。窓ガラス10のベルトラインLより下辺14側の領域は、窓ガラスが閉じられた状態でもドア内に収納される。
以下、本発明の被膜付き自動車用窓ガラスの製造方法の一例として、窓ガラス10の凹面10a側に被膜を形成して被膜付き自動車用窓ガラスを得る方法について説明する。
【0014】
塗布工程:
塗布工程においては、
図2に示すように、窓ガラス10をその上辺13を上にして立てた状態で保持する。そして、
図1(A)に示すように、窓ガラス10の凹面10aにおける上辺13から所定の幅dの領域が、塗布液を塗布しない非塗布領域Aとなるように、凹面10aの非塗布領域A以外の領域Bにフローコート法により塗布液を塗布する。ただし、下辺14近傍をマスク部材によりマスクする場合には、該マスク領域には塗布液は塗布されない。
【0015】
前記幅dと、自動車のドアにおいて窓が閉じられた場合に、ドアの上部フレームのガラス収納部内に収納される領域の幅(以下、「ガラス収納幅」という。)との差は小さければよい。
前記幅dがガラス収納幅以上である場合、自動車のドアの窓を繰り返し開閉しても、領域Bはドアの上部フレームのガラス収納部に収納されなくなる。そのため、領域Bに設けられた被膜は前記ガラス収納部に擦れることがなく、窓を繰り返し開閉しても被膜に傷が付いて外観が悪くなることを抑制できる。また、被膜による機能が充分に得られやすい点から、前記幅dはガラス収納幅にできるだけ近いことが好ましい。
前記幅dがガラス収納幅以下である場合、被膜による機能が充分に得られる。また、領域Bに設けられた被膜がガラス収納部に擦れることを抑制するため、前記幅dはガラス収納幅にできるだけ近いことが好ましい。
被膜の傷付きを抑制するという目的では、前記幅dはガラス収納幅以上であることが好ましい。
具体的には、幅dとガラス収納幅の差は、0mm〜10mmであることが好ましく、0.5mm〜5mmであることがより好ましく、1mm〜3mmであることが特に好ましい。幅dとガラス収納幅の差とは、幅dがガラス収納幅よりも小さい場合、および幅dがガラス収納幅よりも大きい場合のいずれの場合も含む。また、前記幅dとガラス収納幅の差が0mmとは、幅dとガラス収納幅が一致していることを意味する。
【0016】
窓ガラス10を立てた状態で保持する方法は、特に限定されず、例えば、窓ガラス10における塗布液を塗布しない凸面10bに、吸盤を密着させて保持する方法等が挙げられる。
【0017】
窓ガラス10の凹面10aにおける領域Bにノズル20から塗布液を供給する方法としては、下記方法(i)および方法(ii)が挙げられる。
方法(i):凹面10aの領域Bへの塗布液の塗布を、側辺11側から開始し、側辺12側で終了する方法。
方法(ii):凹面10aの領域Bへの塗布液の塗布を、側辺12側から開始し、側辺11側で終了する方法。
【0018】
(方法(i))
方法(i)は、
図3(A)に示すように、窓ガラス10とノズル20を下記工程(i−1)〜工程(i−3)の順で相対移動させながら塗布液を吐出する方法である。
(i−1)凹面10aの側辺11に沿って、非塗布領域Aの下縁aまでノズル20を上方向に相対移動させる第1工程。
(i−2)凹面10aの非塗布領域Aの下縁aに沿って、側辺11から側辺12までノズル20を相対移動させる第2工程。
(i−3)凹面10aの側辺12に沿って、非塗布領域Aの下縁aから下方向にノズル20を相対移動させる第3工程。
方法(i)における窓ガラス10とノズル20の相対移動は、窓ガラス10の位置を固定してノズル20を移動させてもよく、ノズル20の位置を固定して窓ガラス10を移動させてもよく、窓ガラス10とノズル20を互いに移動させてもよい。なかでも、塗布液の液割れ、塗布液の反対側のガラス面への回り込みを抑制しやすい点から、窓ガラス10の位置を固定してノズル20を移動させることが好ましい。
【0019】
方法(i)により塗布液を塗布すると、
図4(A)に示すように、各工程で供給された塗布液31が自重によって凹面10aを下辺14側へと流れていき、
図4(B)に示すように、凹面10aにおける領域B全体に塗布液が塗布される。塗布液は、有機溶剤等の揮発成分が空気中に揮発し、固形分濃度が上昇して濃縮されながら凹面10aを流れていくため、凹面10aの下辺14側の方が被膜が厚くなる。
【0020】
方法(i)では、前述したように、工程(i−1)〜工程(i−3)の順に窓ガラス10とノズル20を相対移動させながら凹面10aの領域Bに塗布液を塗布することで、領域Bにおける塗布液の塗り斑を抑制でき、また、塗布液を塗布しない凸面10bへの塗布液の回り込みを抑制できる。これらの要因は、以下のように考えられる。
凹面10aに供給された塗布液は、自重によって凹面10aを下辺14に向かって流れていく。そのため、例えば、工程(i−3)を行わず、工程(i−2)のみで窓ガラス10の凹面10aにおける領域Bに塗布液を塗布しようとすると、側辺12は下辺に行くに従い裾広がりとなっているため、凹面10aの側辺12近傍において、部分的に塗布液が塗布されない塗りもれが生じやすい。また、工程(i−1)を行わず、工程(i−2)のみで窓ガラス10の凹面10aにおける領域Bに塗布液を塗布しようとすると、側辺11は下辺に行くに従いインカーブしているので、窓ガラス10の反対側のガラス面への塗布液の回り込みが生じやすい。
これに対し、方法(i)では、工程(i−1)において側辺11に沿って塗布液が塗布された部分が、側辺11の上部側に供給された塗布液が流れる際、塗布液の流れをガイドする道筋として作用するため、塗布液が側辺11に沿って流れるので、窓ガラス10の反対側のガラス面への塗布液の回り込みを防止できる。また工程(i−3)において側辺12に沿って塗布液を塗布することで、塗り漏れを防ぐことができる。
加えて、工程(i−2)によって領域Bにおける非塗布領域Aの下縁a近傍に供給された塗布液の下辺14への流れは、予め工程(i−1)で塗布された塗布液に沿って流れやすいので、よりスムーズになる。そのため、塗布液の流れが枝分かれすることによる液割れが抑制される。
【0021】
工程(i−2)において、窓ガラス10の凹面10aに供給された塗布液が下辺14側に流れていく際、その流速が遅いと、塗布液の流れが枝分かれし、液割れを生じる場合がある。そのため、塗布液の流れが枝分かれして液割れするのを抑制する目的で、窓ガラス10の水平面に対する傾斜角θ(
図2)を90°に近くすることが好ましい。窓ガラス10の水平面に対する傾斜角θが90°に近いほど、凹面10aに供給された塗布液が下辺14側に流れる際の流速が速くなり、塗布液の液割れが生じ難くなる。
前記窓ガラス10の水平面に対する傾斜角θとは、窓ガラス10の非塗布面である凸面10bの中央部分に接触する平面と、水平面とがなす角度を意味する。
【0022】
また、窓ガラス10の凹面10aに対するノズル20の角度φ(
図4(A))は、小さいほど好ましい。ノズル20の前記角度φが小さいほど、ノズル20から塗布液を吐出する方向が窓ガラス10の凹面10aに対して平行に近づき、ノズル20から吐出される塗布液の流速が凹面10aと接触した際に低下し難くなるため、塗布液の液割れが生じ難くなる。
【0023】
ノズル20の相対移動速度は、塗布液の粘度、塗布液の吐出量、窓ガラス10の高さ等によっても異なり、塗布液の液割れの抑制と、生産性を考慮して適宜決定すればよい。前記ノズル20の相対移動速度とは、窓ガラス10から見たノズル20の移動速度である。
工程(i−1)と工程(i−3)における窓ガラス10とノズル20の相対移動のベクトルは、垂直方向が主成分であって、水平方向の成分は小さい。一方、工程(i−2)における窓ガラス10とノズル20の相対移動のベクトルは水平方向が主成分である。液割れは水平方向の相対移動速度が大きい程発生しやすいので、工程(i−1)におけるノズル20の相対移動速度v
1と、工程(i−2)におけるノズル20の相対移動速度v
2と、工程(i−3)におけるノズル20の相対移動速度v
3との関係は、相対移動速度v
1、v
3が相対移動速度v
2よりも速いことが好ましい。
前記ノズル20の相対移動速度v
1、v
2、v
3は、各々一定の速度であっても、途中で変化してもよいが、相対移動速度v
2は側辺11側が側辺12側よりも遅いことが好ましい。なぜなら、ノズル20から凹面10aに供給された塗布液は、下辺14に向かって流れる距離が長いほど、揮発成分の揮発によって固形分濃度が上昇するので下辺14近傍の流速が低下する。窓ガラス10は、側辺12から側辺11にいくにしたがって高さが高くなっているため、凹面10aの側辺11側の方が塗布液の流れる距離が長い。そのため、工程(i−2)におけるノズル20の相対移動速度v
2は、ノズル20が側辺11に近いほど遅いことが好ましい。これにより、高さの高い側辺11側においても、塗布液が下辺14に向かって流れやすくなり、塗布液の流速の低下による液割れが生じ難くなる。
【0024】
また、方法(i)では、工程(i−1)における窓ガラス10とノズル20の相対移動の開始位置、すなわち塗布液の塗布を開始する位置は、凹面10aの側辺11側から凸面10bへと塗布液が回り込むのを抑制しつつ塗布液を塗布できる範囲であればよい。
【0025】
工程(i−3)における窓ガラス10とノズル20の相対移動の終了位置、すなわち塗布液の塗布を終了する位置は、凹面10aの側辺12近傍の下辺14側に塗りもれを生じさせずに塗布液を塗布できる範囲であればよい。例えば、保持されている窓ガラス10の側辺12と下辺14とがなす角度βが垂直に近ければ、工程(i−3)において側辺12側の高さ方向の中間位置で塗布液の塗布を終了しても、凹面10aの側辺12近傍の下辺14側に塗りもれを生じさせずに塗布液を塗布できる。一方、側辺12と下辺14とがなす角度βが小さく、窓ガラス10の側辺12側の下辺14が大きく広がった形状である場合は、側辺12近傍の下辺14側で塗りもれが生じないように、工程(i−3)における塗布液の塗布はできるだけ下辺14に近い位置で終了する。
【0026】
(方法(ii))
方法(ii)は、
図3(B)に示すように、窓ガラス10とノズル20を下記工程(ii−1)〜工程(ii−3)の順で相対移動させながら塗布液を吐出する方法である。
(ii−1)凹面10aの側辺12に沿って、非塗布領域Aの下縁aまでノズル20を上方向に相対移動させる第1工程。
(ii−2)凹面10aの非塗布領域Aの下縁aに沿って側辺12から側辺11までノズル20を相対移動させる第2工程。
(ii−3)凹面10aの側辺11に沿って非塗布領域Aの下縁aから下方向にノズル20を相対移動させる第3工程。
方法(ii)における窓ガラス10とノズル20の相対移動は、方法(i)と同様に、窓ガラス10の位置を固定してノズル20を移動させてもよく、ノズル20の位置を固定して窓ガラス10を移動させてもよく、窓ガラス10とノズル20を互いに移動させてもよい。なかでも、塗布液の液割れ、塗布液の反対側のガラス面への回り込みを抑制しやすい点から、窓ガラス10の位置を固定してノズル20を移動させることが好ましい。
【0027】
窓ガラス10の凹面10aに供給された塗布液は、方法(i)と同様に、自重によって凹面10aを下辺14側へと流れていき、凹面10aの領域B全体に塗布液が塗布される。
方法(ii)は、窓ガラス10とノズル20の相対移動を開始する位置と終了する位置、すなわち塗布液の塗布を開始する位置と終了する位置が反対である以外は、方法(i)と同じ方法である。方法(ii)によれば、方法(i)と同じ理由で塗布液の塗り斑を抑制できる。
【0028】
また、方法(i)と同様に、塗布液の液割れや非塗布面である凸面10b側への回り込みを抑制しやすい点から、方法(ii)における窓ガラス10の水平面に対する傾斜角θは、90°に近くすることが好ましい。また、方法(ii)における窓ガラス10の凹面10aに対するノズル20の角度φは小さいほど好ましい。
【0029】
また、工程(ii−1)におけるノズル20の相対移動速度v
4、工程(ii−2)におけるノズル20の相対移動速度v
5、工程(ii−3)におけるノズル20の相対移動速度v
6については、それぞれ方法(i)におけるノズル20の相対移動速度v
1、v
2、v
3と同様のことがいえる。
側辺12近傍と側辺11近傍は、工程(ii−1)と工程(ii−3)における窓ガラス10とノズル20の相対移動のベクトルは垂直方向が主成分であり、一方、工程(ii−2)における窓ガラス10とノズル20の相対移動のベクトルは水平方向が主成分である。液割れは水平方向の相対移動速度が大きい程発生しやすいので、工程(ii−1)におけるノズル20の相対移動速度v
4と、工程(ii−2)におけるノズル20の相対移動速度v
5と、工程(ii−3)におけるノズル20の相対移動速度v
6との関係は、相対移動速度v
4、v
6が相対移動速度v
5よりも速いことが好ましい。
また、工程(ii−1)〜(ii−3)におけるノズル20の相対移動速度v
4、v
5、v
6は、各々一定の速度であっても、途中で変化させてもよいが、相対移動速度v
5は側辺11に近いほど遅いことが好ましい。これにより、高さの高い側辺11側においても塗布液の液割れが生じ難くなる。ノズル20の相対移動速度v
4と、相対移動速度v
6は上辺13に近いほど遅いことが好ましい。
【0030】
方法(ii)では、工程(ii−1)における窓ガラス10とノズル20の相対移動の開始位置、すなわち塗布液の塗布を開始する位置は、凹面10aの側辺12近傍の下辺14側に塗りもれを生じさせずに塗布液を塗布できる範囲であればよい。保持されている窓ガラス10の側辺12と下辺14とがなす角度βが垂直に近ければ、工程(ii−1)において側辺12側の高さ方向の中間位置から塗布液の塗布を開始しても、凹面10aの側辺12近傍の下辺14側に塗りもれを生じさせずに塗布液を塗布できる。一方、側辺12と下辺14とがなす角度βが小さく、窓ガラス10の側辺12側の下辺14が大きく広がった形状である場合は、側辺12近傍の下辺14側で塗りもれが生じないように、工程(ii−1)における塗布液の塗布はできるだけ下辺14に近い位置から開始する。
【0031】
同様に、工程(ii−3)における窓ガラス10とノズル20の相対移動の終了位置、すなわち塗布液の塗布を終了する位置も、凹面10aの側辺11側から凸面10bへと塗布液が回り込むのを抑制しつつ塗布液を塗布できる範囲であればよい。
【0032】
本発明における塗布工程での塗布液の塗布方法は、窓ガラス10の凹面10aに形成する被膜の側辺11側と側辺12側の膜厚を揃えやすい点から、方法(i)が好ましい。方法(i)の方が側辺11側と側辺12側の被膜の膜厚を揃えやすい理由は以下に示すとおりである。
窓ガラス10の凹面10aに塗布された塗布液は、有機溶剤等の揮発成分が空気中に揮発し、固形分濃度が上昇して濃縮されながら流れるので、
図4(B)に示すように、凹面10aの下辺14側ほど塗布液の厚みが厚くなる傾向がある。この塗布液の厚みの変化は、塗布液が流れる距離が長いほど顕著であるため、側辺12の長さに比べて側辺11の長さが長い窓ガラス10では、側辺11側の方が側辺12側よりも下辺14側の塗布液の厚みが厚くなりやすい。一方、塗布液を塗布してから窓ガラス10が立てられた状態で維持される時間(塗り置き時間)が長いほど、窓ガラス10の下辺14側から塗布液が流れ落ちていくため、凹面10aの下辺14側の塗布液の厚みが薄くなる傾向がある。
方法(i)では、長さがより長い側辺11側に先に塗布液を塗布するので、側辺11側に塗布された塗布液は側辺12側に塗布された塗布液よりも塗り置き時間が長くなり、下辺14側から流れ落ちる量が多くなる。そのため、方法(i)によれば、凹面10aの側辺11側は、側辺12側に比べて塗布液が流れる距離が長いために塗布液の厚みが厚くなりやすい一方で、側辺12側に比べて塗り置き時間が長くなって下辺14側から流れ落ちる塗布液量が多くなるので、塗布液の厚みの増加が小さくなる。そのため、側辺11側と側辺12側の下辺14側の厚みのバランスを取りやすい。
【0033】
ノズル20の形状は、特に限定されないが、吐出される塗布液の幅がより広くなるノズルが好ましく、複数本のノズルが並列された複合ノズル、幅が広いスリット状の吐出口を有するスリットノズルが好ましい。ノズル20から吐出される塗布液の幅が広くなると、窓ガラス10の凹面10aの同じ位置に、塗布液が供給される時間に幅が生じる。そのため、方法(i)の工程(i−2)あるいは方法(ii)の工程(ii−2)において、凹面10aに先に供給された塗布液が凹面10aを流れていく際に液割れが生じたとしても、同じ位置に後から供給されて流れてくる塗布液によってその液割れが解消される効果が期待できる。つまり、前記複合ノズル、スリットノズル等のノズルを用いることで、吐出口の幅の狭い単一のノズルを用いて、同じ部分に複数回塗布液を塗布するのと同等の効果が期待できる。
また、ノズル20から、同じ吐出量で塗布液を吐出する場合、前記複合ノズル、スリットノズル等のように吐出される塗布液の幅が広い方が、幅の狭い単一のノズルに比べて、吐出する塗布液の線速度が遅くなるため、特に側辺11側と側辺12側において塗布液が勢い余って凸面10bに回り込んでしまうことを抑制しやすい。
【0034】
本発明の塗布工程では、例えば、
図1に例示した、側辺11と下辺14とがなす角度αが90°よりも大きい窓ガラス10に塗布液を塗布する場合、凹面10aの側辺11近傍の非塗布領域Aの下縁a側に供給された塗布液が、凹面10aを下辺14側に流れていく際に側辺11から窓ガラス10の凸面10b側に回り込んでしまうおそれがある。そのため、方法(i)および方法(ii)のいずれの方法を採用する場合であっても、側辺11に垂直な直線lが水平となるように窓ガラス10を保持し、側辺11を水平面に対して垂直にした状態で塗布液の塗布を行うことが好ましい。これにより、窓ガラス10の側辺11側において、凹面10aに塗布した塗布液が側辺11側から凸面10b側に回りこむことを抑制することが容易になる。
【0035】
本発明に用いる塗布液は、窓ガラス10の面に、本発明の塗布工程および乾燥工程によって必要な機能を有する被膜を形成できるものであればよく、紫外線吸収膜形成用塗布液、赤外線吸収膜形成用塗布液、防曇膜形成用塗布液、撥水膜形成用塗布液等の公知の塗布液が挙げられる。被膜の膜厚が大きくなるほど、外観品質の問題が生じやすくなるため、本発明の製造方法による効果が得られやすい。従って、比較的大きな膜厚が要求される、紫外線吸収膜形成用塗布液、赤外線吸収膜形成用塗布液および防曇膜形成用塗布液が好ましい。
【0036】
乾燥工程:
本発明の製造方法における乾燥工程では、塗布液に含まれている有機溶剤等の揮発成分を蒸発させて除去して乾燥する。乾燥工程は、特に限定されず、公知の乾燥工程を採用できる。本発明における乾燥工程としては、例えば、塗布液が塗布された窓ガラス10を一定時間置くことで、凹面10aに塗布した塗布液を仮乾燥する仮乾燥工程と、塗布液が塗布された窓ガラス10を加熱して塗布液を完全に乾燥させる本乾燥工程を有する工程が挙げられる。
【0037】
本乾燥工程では、塗布液が塗布された窓ガラス10を加熱することにより、塗布液に含まれている有機溶剤等の揮発成分を蒸発させて除去し、乾燥させて被膜を形成する。
塗布液が塗布された窓ガラス10を加熱する方法としては、特に限定されず、例えば、塗布液が塗布された窓ガラス10をコンベア上に載せ、加熱炉内に送ることで加熱する方法が挙げられる。本乾燥工程で凹面を下向きにしてコンベア上に載せる場合、被膜が窓ガラスの上辺端部まで存在すると、窓ガラスの上辺端部の被膜が加熱された加熱炉のコンベアに接触し、塗膜が白化するという外観上の問題が生じる。一方、本発明の製造方法によれば、被膜が窓ガラス10の上辺13端部まで存在しないため、このような外観上の問題は生じない。
【0038】
以上説明した本発明の製造方法によれば、塗布工程において方法(i)または方法(ii)を採用することで、塗布液の塗り斑を抑制して窓ガラスのガラス面に塗布液を安定して塗布できるので、高品質な被膜付き自動車用窓ガラスが得られる。
【0039】
また、本発明の製造方法によれば、自動車のドアの窓を繰り返し開閉しても被膜に傷が付きにくく外観の悪化が抑制された被膜付き自動車用窓ガラスが得られる。
本発明では、窓ガラスの上辺側に被膜を形成しない非塗布領域Aを設ける態様とした。これは、窓ガラスにおける非塗布領域Aは、窓を閉じた状態でドアの上部フレーム内に隠れるので、該領域に被膜が形成されていなくても被膜による機能は充分に得られるためである。窓ガラスの非塗布領域Aに被膜を形成しないことで、窓を繰り返し開閉しても、ドアの上部フレームのガラス収納部分と擦れる被膜の領域が小さく、被膜に傷が付いて外観が悪化することを抑制できる。
【0040】
なお、本発明の製造方法は、前述した方法には限定されない。例えば、塗膜中の成分を硬化させて硬化塗膜とする場合等は、必要に応じて乾燥工程後に硬化工程等の他の工程を行ってもよい。
また、本発明の製造方法では、塗布液は自動車用窓ガラスの少なくとも一方の面に塗布すればよく、窓ガラス10を例にすれば凸面10bのみに塗布液を塗布して被膜を形成してもよく、凹面10aと凸面10bの両方に塗布液を塗布して被膜を形成してもよい。両面に被膜を形成する際は、片面ずつ形成してもよく、両面同時に形成してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1および例2は実施例であり、例3は比較例である。[被膜の膜厚の測定]
ガラス基板から被膜の一部を削り取り、被膜の存在する部分と被膜の存在しない部分の段差を表面形状測定装置(DEKTAK3、日本真空技術社製)を用いて測定し、その値を被膜の膜厚とした。
【0042】
[例1]
塗布液としては、エタノールの40.7g、テトラメトキシシラン17.7g、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの6.0g、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンの7.6g、純水18.3g、および1%硝酸水溶液の2.4gを混合し、一時間攪拌して調製した紫外線吸収膜形成用塗布液を用いた。
【0043】
塗布工程:
前記紫外線吸収膜形成用塗布液を、方法(i)により、
図1に例示した窓ガラス10の凹面10aに塗布した。ノズル20としてシングルノズルを用い、窓ガラス10の位置を固定してノズル20を移動させることで、窓ガラス10とノズル20を相対移動させた。ノズル20の相対移動速度は、工程(i−1)における相対移動速度v
1、および工程(i−3)における相対移動速度v
3を300mm/秒とした。工程(i−2)におけるノズル20の相対移動速度v
2は60mm/秒とした。また、非塗布領域Aの上辺13からの幅dは15mmとした。
該塗布工程では、塗りもれもなく、液割れを抑制して塗布液を塗布できた。また、凸面10bへの塗布液の回り込みもなかった。
【0044】
乾燥工程:
塗布液を塗布した窓ガラス10を、凹面10aを下向きにして保持し、その後凹面10aを下向きにしてコンベア上に載せ、加熱炉へと送り窓ガラス10の凹面10a上に紫外線吸収膜を形成した。得られた被膜付き自動車用窓ガラスについて、
図5に示すように、凹面10a上に形成した被膜の点ア〜クにおける膜厚を測定した。
各点における被膜の膜厚は、点アが1.55μm、点イが2.74μm、点ウが3.92μm、点エが1.60μm、点オが2.82μm、点カが3.84μm、点キが1.90μm、点クが4.02μmであった。
【0045】
[例2]
塗布工程において方法(ii)により塗布液を塗布した以外は、例1と同様にして窓ガラス10の凹面10a上に紫外線吸収膜を形成した。ノズル20の相対移動速度は、工程(ii−1)における相対移動速度v
4、および工程(ii−3)における相対移動速度v
6を300mm/秒とした。工程(ii−2)におけるノズル20の相対移動速度v
5は50mm/秒とした。塗布工程では、塗りもれもなく、液割れを抑制して塗布液を塗布できた。また、凸面10bへの塗布液の回り込みもなかった。
得られた被膜付き自動車用窓ガラスについて、
図5に示すように、凹面10a上に形成した被膜の点ア〜クにおける膜厚を測定した。
各点における被膜の膜厚は、点アが1.47μm、点イが3.01μm、点ウが4.98μm、点エが1.48μm、点オが2.81μm、点カが3.92μm、点キが1.44μm、点クが3.05μmであった。
【0046】
[例3]
塗布工程において、工程(i−1)および工程(i−3)を行わず、工程(i−2)のみで塗布液を塗布した以外は、実施例1と同様にして窓ガラス10の凹面10a上に紫外線吸収膜を形成した。塗布工程では、凹面10aの側辺11側において塗布液を塗布しない凸面10bへの塗布液の回り込みが生じ、側辺12側に塗りもれが生じた。