(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984145
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】安全性および寿命特性が向上したリチウム二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20160823BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20160823BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20160823BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20160823BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-556563(P2013-556563)
(86)(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公表番号】特表2014-510372(P2014-510372A)
(43)【公表日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】KR2012007755
(87)【国際公開番号】WO2013048112
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2013年8月29日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0096893
(32)【優先日】2011年9月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】502318478
【氏名又は名称】コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ
(73)【特許権者】
【識別番号】513218905
【氏名又は名称】インダストリー、ファウンデーション、オブ、チョンナム、ナショナル、ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY FOUNDATION OF CHONNAM NATIONAL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】オー、ソン、テク
(72)【発明者】
【氏名】カン、ギ、ソク
(72)【発明者】
【氏名】ソ、ドン、ファ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ジ、ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジェ、グク
【審査官】
瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−113792(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/114534(WO,A1)
【文献】
特開2005−108682(JP,A)
【文献】
特開2001−023617(JP,A)
【文献】
特表2004−538610(JP,A)
【文献】
特表2009−505367(JP,A)
【文献】
特開2002−100357(JP,A)
【文献】
特表2013−520783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62、10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の製造方法であって、
(S1)以下の化学式1で表される正極活物質を製造する段階と、
Li{LiaMnxM1−a−x−yM'y}O2 [化学式1]
〔上記式中、
0<a≦0.2であり、
x>(1−a)/2であり、
0<y<0.2(1−a)であり、
MがMn、NiおよびCoからなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたものであり、
M'がTi、V、およびFeからなる群から選択される何れか1種または2種以上の元素が同時に適用された金属である。〕
(S2) 前記(S1)過程で製造された正極活物質を正極集電体に介在して正極を製造し、これを含むリチウム二次電池の製造段階と、
(S3) 前記(S2)過程で製造されたリチウム二次電池を正極電位に対して4.4V〜5.0Vの電圧で充電させるフォーメーション段階と、
(S4) 前記(S3)過程のフォーメーション段階で前記正極活物質からガスを発生させ、発生させたガスをリチウム二次電池から除去する(Degassing)段階とを含んでなる、リチウム二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記化学式1において、
M'がFeであることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記化学式1において、
M'がリチウム金属以外の正極活物質に含まれる金属の総量に対して0.01〜20モル%で添加されてなることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記化学式1において、
M'がリチウム金属以外の正極活物質に含まれる金属の総量に対して0.05〜10モル%で添加されてなることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、韓国特許庁に2011年9月26日に出願された、韓国出願番号第10-2011-0096893号に対し優先権を主張し、本韓国出願の全般的な内容はここに参照として併合される。
【0002】
本発明は、安全性および寿命特性が向上した正極活物質およびこれを含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、環境問題に対する関心が高まるにつれて大気汚染の主要原因のひとつであるガソリン自動車、ディーゼル自動車などの化石燃料を使用する自動車を代替することができる電気自動車、ハイブリッド電気自動車に対する研究が多く行われている。このような電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの動力源としては主にニッケル水素金属二次電池が用いられているが、高いエネルギー密度と放電電圧を有してサイクル寿命が長く、磁気放電率が低いリチウム二次電池を使用する研究が活発に行われており、一部商用化の段階にある。
【0004】
このようなリチウム二次電池の負極活物質としては炭素材料が主に用いられており、リチウム金属、硫黄化合物などの使用も考慮されている。また、正極活物質としては、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)が主に用いられており、その他に層状結晶構造のLiMnO
2、スピネル結晶構造のLiMn
2O
4などのリチウム含有マンガン酸化物とリチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)の使用も考慮されている。
【0005】
前記正極活物質のうち、LiCoO
2は寿命特性および充放電効率に優れており、最も多く用いられているが、構造的安定性に劣り、原料として用いられるコバルトの資源的限界によって高価であるため価格競争力に限界があるという問題があり、電気自動車のような分野の動力源として大量使用するには限界がある。
【0006】
LiNiO
2系正極活物質は比較的安価で、かつ高い放電容量の電池特性を示しているが、充放電サイクルに伴う体積変化によって結晶構造の急激な相転移が現われ、空気と湿気に露出された時に安全性が急激に低下するという問題点がある。
【0007】
反面、リチウムマンガン酸化物は、資源が豊富で環境に優しいマンガンを原料として使用するという利点を有しているため、LiCoO
2を代替できる正極活物質として多くの関心を集めている。特に、スピネル構造のリチウム含有マンガン酸化物は、熱安定性に優れ、安価で、かつ合成が容易であるという利点がある。しかし、容量が小さくて副反応による寿命特性低下があり、サイクル特性および高温保存特性に劣るという欠点を有している。
【0008】
結果、スピネルの低い容量問題を補完し、マンガン系活物質の優れた熱安定性を確保するための層状構造のリチウム含有マンガン酸化物が提案された。特に、Mnの含量がその他の遷移金属(群)の含量より多い層状構造のxLi
2MnO
3-(1-x)LiMO
2(0<x<1、M=Co、Ni、Mn など)は、初期非可逆容量が多少大きいという欠点があるが、高い電圧で初期充電時に非常に大きい容量を発現して正極活物質として活発な研究の対象となっている。
【0009】
前記リチウム含有マンガン酸化物は、初期正極電位に対して4.5V(詳細には、4.4V以上)の比較的高い電圧で充電する場合、4.4Vから4.8Vに至る平坦準位区間を示し、かつ過量の酸素および二酸化炭素などのガスとともに約250mAh/gに至る大きい容量を示す。
【0010】
このような平坦準位区間およびガス発生は、前記材料の構造変化に係わる特徴的な特性であり、初期充電、すなわちフォーメーション段階で十分に生じない場合、以降のサイクルでも継続して生じる可能性がある。
【0011】
したがって、前記層状構造のxLi
2MnO
3-(1-x)LiMO
2を正極活物質として用いて前記のような高容量を実現するためには、前記のように正極電位に対して4.4V以上の電圧でのフォーメーション段階を十分に行うことが必須であると言える。しかし、前記平坦準位以上の電圧では電解液の酸化のような副反応が生じやすいため、フォーメーション電圧と時間のような条件は制約されるしかない。したがって、初期フォーメーションが十分に行われず繰り返される充放電サイクル過程中に継続して酸素および二酸化炭素からなるガスが放出されて電池の安全性および寿命特性を低下させる問題があった。
【0012】
したがって、韓国公開特許第10-2007-0012213号および第10-2007-0021955号では最初のサイクル時に高電圧でフォーメーションを行った後、脱ガス(degassing)工程を経てガスを除去し、以降、一般的な二次電池の作動電圧水準(4.4V以下)に電圧を下げて充放電する方法について開示しているが、これによっても初期充電時にフォーメーションが十分に行われない現象は同様であり、これにより電池の使用過程でガスが継続して発生し、4.5V以上の高電圧でサイクルを回す場合よりは少ない容量が発揮されるため、これを解決するための技術に対する研究は継続して求められている。
【0013】
したがって、層状構造のリチウム含有マンガン酸化物xLi
2MnO
3-(1-x)LiMO
2を正極活物質として含むリチウム二次電池において、高電圧サイクル過程で継続して多量のガスが発生する問題を解決するための技術に対する開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記のような要求および従来の問題を解決するために導き出されたものであり、本出願の発明者らは、鋭意研究と様々な実験を重ねた結果、後述するようにリチウム二次電池のガス発生を初期に完了することで、以降多量のガスの発生を防止することができる方法を開発した。
【0015】
すなわち、本発明は、初期フォーメーション過程でガス発生が全て完了するようにし、以後サイクル過程ではガスがほとんど発生しないようにするマンガン系正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、前記正極活物質を含むリチウム二次電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記のような課題を解決するために、本発明は、以下の化学式1で表される正極活物質を提供する。
Li{Li
aMn
xM
1-a-x-yM'
y}O
2 [化学式1]
〔上記式中、
0<a≦0.2であり、
x>(1-a)/2、0<y<0.2(1-a)であり、
Mは3周期元素および4周期元素からなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたものであり、
M'は6配位の八面体(octahedral)構造を有し、かつ四価の酸化数のとき70pm以上のイオンサイズを有する金属(詳細には、Ti、VおよびFeからなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたもの)である。〕
【0018】
また、前記化学式1において、Mは Mn、NiおよびCoから選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたことであることができる。
【0019】
さらに、前記化学式1において、M'はFeであってもよい。
【0020】
また、前記化学式1において、M'はリチウム金属以外の正極活物質に含まれる金属の総量に対して0.01〜20モル%が添加されてもよく、または0.05〜10モル%が添加されてもよい。
【0021】
さらに、前記正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-マンガン酸化物、リチウムマンガン-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-ニッケル-マンガン酸化物、リチウム含有オリビン型リン酸塩、リチウム含有マンガンスピネルおよびこれらに他元素(群)で置換またはドープされた酸化物で構成された群から選択された何れか一種又は二種以上のリチウム含有金属酸化物がさらに含まれてもよい。
【0022】
この際、前記他元素(群)は、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、VおよびFeからなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素であってもよい。
【0023】
前記リチウム含有金属酸化物は、正極活物質総量に対して50重量%以内に含まれてもよい。
【0024】
また、本発明は、前記のような正極活物質と、導電材と、バインダーと、充填剤と、を含む正極合剤をさらに提供する。
【0025】
さらに、本発明は、前記正極合剤を含むリチウム二次電池をさらに提供する。
【0026】
前記リチウム二次電池は、中大型デバイスの電源である電池モジュールの単位電池として用いられてもよい。
【0027】
この際、前記中大型デバイスは、パワーツール(power tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車;E-bike、E-scooterを含む電気二輪車;電気ゴルフカート(Electric golf cart);電気トラック;電気商用車または電力貯蔵用システムであってもよい。
【0028】
一方、本発明は、(S1)以下の化学式1で表される正極活物質を製造する段階と、
Li{Li
aMn
xM
1−a−x−yM´
y}O
2 [化学式1]
〔上記式中、
0<a≦0.2であり、
x>(1−a)/2、0<y<0.2(1−a)であり、
Mは3周期元素および4周期元素からなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたものであり、
M´はTi、V、およびFeから
なる群から選択される何れか1種または2種以上の元素が同時に適用された金属である。〕
(S2)前記(S1)過程で製造された正極活物質を正極集電体に介在して正極を製造し、これを含むリチウム二次電池の製造段階と、
(S3)前記(S2)過程で製造されたリチウム二次電池を正極電位に対して4.4V〜5.0Vの電圧で充電させるフォーメーション段階と、
(S4)前記(S3)過程のフォーメーション段階を経たリチウム二次電池のガスを除去する(Degassing)段階と、
を含むリチウム二次電池の製造方法をさらに提供する。
【0029】
この際、前記化学式1において、Mは、Mn、NiおよびCoから選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されてもよい。
【0030】
また、前記化学式1において、M'はFeであることがある。
【0031】
さらに、前記化学式1において、M'はリチウム金属以外の正極活物質に含まれる金属の総量に対して0.01〜20モル%を添加してもよい。
【0032】
または、前記化学式1において、M'はリチウム金属以外の正極活物質に含まれる金属の総量に対して0.05〜10モル%を添加してもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、層状構造のリチウム化合物を正極活物質として含むリチウム二次電池において、前記リチウム含有マンガン酸化物のガス発生が初期フォーメーション過程で全て完了するようにすることで、以降サイクル過程ではガスの発生がほとんどないようにする正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池を提供することができる。これにより、本発明によるリチウム二次電池は、安全性および寿命特性が改善し、工程性および容量もまた向上する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施例による二次電池に対して充放電による酸素の発生程度を測定したグラフである。
【
図2】本発明の比較例による二次電池に対して充放電による酸素の発生程度を測定したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0036】
本発明は、前記のような課題を解決するために、以下の化学式1で表される正極活物質を提供することで層状構造のリチウム化合物の製造時にガスの発生を促進し、初充放電によるフォーメーション過程でガスの発生が全て完了することを特徴とする。
Li{Li
aMn
xM
1-a-x-yM'
y}O
2 [化学式1]
〔上記式中、
0<a≦0.2であり、
x>(1-a)/2、0<y<0.2(1-a)であり、
Mは3周期元素および4周期元素からなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたものであり、
M'は6配位の八面体(octahedral)構造を有し、かつ四価の酸化数のとき70pm(ピコメートル、picometer)以上のイオンサイズを有する金属のうち一種以上(詳細には、Ti、VおよびFeからなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたもの)である。〕
【0037】
前記化学式1による正極活物質は、Li(Li
aMn
xM
1-a-x)O
2(0<a≦0.2であり、x>(1-a)/2であり、Mは3周期元素および4周期元素からなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時適用されたもの)で表される層状構造のリチウムマンガン酸化物から前記Mで表される遷移金属の一部を特定金属ドーパント(M')でドープしたものである。
【0038】
前記層状構造のリチウム化合物は、必須遷移金属としてMnを含み、Mnの含量がその他の遷移金属(群)の含量より多く、Mnを含む遷移金属モル数より1倍以上モル数のLiを含み、正極電位に対して4.4V以上の高電圧範囲での最初充電時にリチウム脱離(lithium deintercalation)とともに現われる平坦準位区間で酸素および二酸化炭素などのガスが放出される特性を有し、かつ大きい容量を発現するリチウム遷移金属酸化物である。
【0039】
また、負極表面での初期非可逆反応に消耗するリチウムイオンを提供し、以降、放電時には負極での非可逆反応に用いられなかったリチウムイオンが正極に移動して追加のリチウムソースを提供することもできる物質である。
【0040】
前記層状構造のリチウム化合物に必須遷移金属として含まれるMnはその他の金属(リチウム除外)の含量より多く含まれるため、リチウム以外の金属の全体量に対して50〜80モル%であることが好ましい。Mnの含量が少なすぎると安全性が低下し、製造コストが増加する可能性があり、前記層状構造のリチウム化合物だけの独特の特性を発揮しにくい恐れがある。反対に、Mnの含量が多すぎるとサイクル安全性が低下する恐れがある。
【0041】
前記Mは3周期または4周期元素からなる群から選択された何れか一種以上であってもよく、詳細には、Ni、MnおよびCoのうち一種又は二種以上であってもよい。
【0042】
また、前記層状構造のリチウム化合物は、正極活物質内の構成成分の酸化数変化によって現われる酸化/還元電位以上で日程区間の平坦準位を有している。具体的に、正極電位に対して4.4V以上の高電圧での(初期)充電時4.4V〜4.8V付近で平坦準位区間を有するようになる。
【0043】
このような平坦準位区間では一般的にリチウムが脱離して酸化/還元のバランスを取るためにガス(酸素および二酸化炭素)が放出される。このうち酸素が放出される場合には下記のように二つのリチウムイオンの発生する反応が起こる。
Li
2MnO
3->2Li
++e
-+MnO
3
MnO
3->1/2O
2+ MnO
2
【0044】
前記のような反応は、前記層状構造のリチウム化合物の構造変化による特徴であり、このような反応が初期充電時に十分に起きない場合、以降繰り返される充放電サイクル過程で継続して多量のガスを排出することができる。
【0045】
このように発生する多量のガスは電池の使用において、安全性に深刻な問題になることができ、セルの抵抗を増加させるなど、電池の寿命も短縮し得る要因となる。
【0046】
本発明は、これを解決するために前記層状構造のリチウム化合物の安定した構造変異を加速化させることで、ガスの発生を促進できる金属ドーパント(M')をドープして前記化学式1で表される正極活物質を提供することを特徴とする。
【0047】
前記金属ドーパント(M')は、層状構造のリチウム化合物に含まれて電池の最初のサイクル過程で多量のガスが発生されてガス発生が完了するようにすることで、以降繰り返される充放電過程でガスの発生がほとんどないようにする役割をする。
【0048】
これは、金属ドーパント(M')が層状構造のリチウム化合物に含まれて層状構造の構造変化を促進させて発生する効果であり、このために前記金属ドーパント(M')として6配位のoctahedral構造を有し、かつ四価の酸化数のとき70pm以上のイオンサイズを有する金属が好ましい。
【0049】
前記のような特徴を有するM'は前記層状構造のリチウム化合物に含まれ、正極電圧に対して4.4V以上の電圧で充電時に層状構造のリチウム化合物の不安定性に寄与して構造変異によるガス発生を促進することができる。
【0050】
すなわち、前記化学式1に係る正極活物質を正極電圧に対して4.4V以上の電圧で充電する際に充電過剰によりLiが脱離して遷移金属のイオンサイズが減少し、これにより現われるlatticeの変化などの現象を前記M'元素がさらに促進することで、層状構造のリチウム化合物の構造変化を初期に全て完了することができ、これによるガスの発生もまた、初充の放電時に全て完了させる。
【0051】
具体的に、前記のように6配位のoctahedral構造を有し、かつ四価の酸化数のとき70pm以上のイオンサイズを有する金属ドーパント(M')としては、Ti、VおよびFeからなる群から選択される何れか一種であってもよく、より詳細には、Feであってもよい。
【0052】
前記のような金属ドーパント(M')は、リチウム金属以外に化学式1に含まれる全体金属に対して0.01〜20モル%範囲内に添加されることができ、詳細には、0.05〜10モル%で含まれることができる。
【0053】
前記M'が0.01モル%未満に添加される場合には本発明が要求する水準の効果を発現することが難しく、20モル%を超えて含まれる場合には電池の容量とサイクル安全性において問題があり得る。
【0054】
一方、本発明による正極活物質は、前記化学式1で表される正極活物質の他に、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-マンガン酸化物、リチウムマンガン-ニッケル酸化物、リチウムコバルト-ニッケル-マンガン酸化物、リチウム含有オリビン型リン酸塩、リチウム含有マンガンスピネルおよびこれらに他元素(群)で置換またはドープされた酸化物で構成された群から選択された何れか一種又は二種以上のリチウム含有金属酸化物が混合したものであってもよく、このようなリチウム含有金属酸化物は全体正極活物質重量に対して50重量%以内に含有されることが本発明で追求する効果発揮の面において好ましい。
【0055】
ここで、前記他元素(群)は、Al、Mg、Mn、Ni、Co、Cr、VおよびFeからなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素であってもよい。
【0056】
また、本発明は、前記のような正極活物質に導電材、バインダー、充填剤をさらに含む正極合剤を提供する。
【0057】
前記導電材は、通常混合正極活物質全体重量に対して1〜50重量%を添加される。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発せず、かつ導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファネースブラック、ランプブラック、サマーブラックなどのカーボンブラック、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウイスカー(whisker);酸化チタンなどの導電性酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが用いられることができる。
【0058】
前記バインダーは正極活物質と導電材などの結合と集電体に対する結合を容易にする成分であり、通常、正極活物質全体重量に対して1〜50重量%を添加される。このようなバインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエニルテルポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、様々な共重合体などが挙げられる。
【0059】
前記充填剤は、正極の膨張を抑制する成分として選択的に用いられ、当該電池に化学的変化を誘発しないとともに繊維状材料であれば特に制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合体;ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状物質が用いられる。
【0060】
また、本発明は、前記正極合剤が集電体上に含まれる正極を提供する。
【0061】
本発明による二次電池は、前記のような正極活物質を含むことを特徴とする。以下、本発明による二次電池の製造方法について説明する。
【0062】
まず、 Li(Li
aMn
xM
1-a-x)O
2
(上記式中、
0<a≦0.2であり、
x>(1-a)/2であり、
Mは3周期元素および4周期元素からなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたものである)
で表される層状構造のリチウム化合物に6配位のoctahedral構造を有し、かつ四価の酸化数のとき70pm以上のイオンサイズを有する金属ドーパント(dopant)を適用して下記化学式1で表される正極活物質を製造する(S1)。
Li{Li
aMn
xM
1-a-x-yM'
y}O
2 [化学式1]
〔上記式中、
0<a≦0.2であり、
x>(1-a)/2、0<y<0.2(1-a)であり、
Mは3周期元素および4周期元素からなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたものであり、
M'は6配位の八面体(octahedral)構造を有し、かつ四価の酸化数のとき70pm以上のイオンサイズを有する金属(詳細には、Ti、VおよびFeからなる群から選択される何れか一種又は二種以上の元素が同時に適用されたもの)である。〕
【0063】
この際、前記金属ドーパント(M')の含量は前記のように、リチウム金属以外の金属の全体重量に対して0.01〜20モル%範囲内に添加することが好ましい。
【0064】
前記化学式1の正極活物質を製造する方法は特に制限されず、空針やソルゲルなどの液状法、噴霧熱分解などの気相法など既存の正極活物質を製造する方法と同一の条件下で前記金属ドーパントを含有する前駆体を添加してともに反応させることで前記金属ドーパント(M')が導入した正極活物質を製造することができる。
【0065】
さらに、本発明による前記化学式1で表される正極活物質には、他のリチウム含有金属酸化物および導電材がさらに含むことができる。
【0066】
次に、前記過程によって製造された化学式1による正極活物質を正極集
電体に介在して正極を製造し、公知の方法を用いて前記正極を含んでリチウム二次電池を製造する(S2)。
【0067】
前記方法によって製造されたリチウム二次電池を正極電位に対して4.4V以上の比較的高電圧で充電させるフォーメーション過程を行う(S3)。
【0068】
前記(S3)段階は、化学式1による正極活物質の構造変化が行われ、これによって酸素および二酸化炭素などの多量のガスを発生すると同時に前記正極活物質の高容量を発現するための段階であり、電池フォーメーション段階で平坦準位以上の比較的高電圧で充電することで電池を活性化する段階である。
【0069】
前記(S3)のフォーメーション過程により、最初のサイクルで前記化学式1で表される正極活物質の構造変異が完了し、これによるガス発生も完了するため、以降サイクル過程では前記のような水準の電圧で充放電が行われてもガスの発生量が著しく減少する効果が現われる。
【0070】
前記(S3)のようなフォーメーション過程は、1回または2回以上繰り返して行うことができる。
【0071】
また、前記(S3)段階は、平坦準位以上の比較的高電圧で行うものであり、正極電位に対して4.4V以上、詳細には、さらに高い容量確保のために4.45V以上の電圧で行うことができる。
【0072】
前記(S3)段階のフォーメーション過程を経たリチウム二次電池は、発生された多量のガスを排出するために脱ガス(Degassing)段階を通じて電池内部のガスを全てとり除く(S4)。このような脱ガス(Degassing)過程は一回またはそれ以上行われることができる。
【0073】
前記のような段階を経て製造されたリチウム二次電池は、高容量を有し、以降充放電過程で発生するガスの量が著しく減少して安全性および寿命特性が向上したリチウム二次電池であることができる。
【0074】
前記過程を経て製造されたリチウム二次電池は、以降、毎回の作動サイクルごとに高電圧条件で充電する場合、大きい容量の発現が可能であるが、現時点ではこのためには高電圧で安定して作動することができる電解液およびその他ユニットの具現が難しいため、電池の安全性および安定したサイクルのためにこのような高電圧での充放電過程は通常電池フォーメーション段階のみで行い、その後には平坦準位以下の電圧で作動するようにすることが一般的であるがこれに制限されない。
【0075】
一方、本発明の正極活物質を含むリチウム二次電池は、正極合剤と集電体で構成された正極、負極合剤と集電体で構成された負極、および前記正極と負極の間で電子伝導を遮断してリチウムイオンを伝導することができる分離膜で構成され、電極と分離膜材料のvoidにはリチウムイオンの伝導のための電解液が含まれている。
【0076】
通常、前記正極および負極は、集電体上に電極活物質、導電剤およびバインダーの混合物を塗布した後、乾燥して製造され、必要に応じて前記混合物に充填剤をさらに添加することができる。
【0077】
本発明が適用されるリチウム二次電池は、当業界における通常の方法によって製造することができる。具体的に、正極と負極との間に多孔性の分離膜を入れ、非水電解液を投入することで製造することができる。
【0078】
このような本発明による二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに用いられることができるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく用いられることができる。
【0079】
前記中大型デバイスの好ましい例としては、パワーツール(power tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気自動車;E-bike、E-scooterを含む電気二輪車;電気ゴルフカート(Electric golf cart);電気トラック;電気商用車または電力貯蔵用システムなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0080】
以下、実施例を参照して本発明の内容をより詳述するが、下記実施例は本発明を例示するためのものにすぎず、本発明の範疇はこれによって限定されない。
【0081】
実施例
<正極の製造>
Li(Li
0.2Mn
0.5Co
0.125Ni
0.125Fe
0.05)O
2を正極活物質として、これを総正極合剤のうち87重量%として、導電剤としてデンカブラック7重量%、バインダーとしてPVDF6重量%をNMPに添加してスラリーを製造した。これを正極集電体であるアルミニウム箔(Al foil)にコーティングして圧延および乾燥してリチウム二次電池用正極を製造した。
【0082】
<リチウム二次電池の製造>
前記のように製造された正極を含み、リチウム金属に基づく負極の間に多孔性ポリエチレンの分離膜を介在し、リチウム電解液を注入して、コイン型リチウム二次半電池(half cell)を製作した。
【0083】
<活性化過程>
フォーメーション段階で前記コイン型リチウム二次電池を正極電位基準4.6Vで初期充電した後、2.5Vで放電した。以後、in-situに発生するガスを分析し、これに対する結果は
図1に示した。
【0084】
比較例
Li{Li
0.2Mn
0.5Ni
0.3Co
0.3}O
2を正極活物質で利用したこと以外は前記実施例と同様な方法で正極およびリチウム二次電池を製造した後、同様な方法で形成してその結果は
図1に示した。
【0085】
前記実施例および比較例による二次電池に対して充放電しながらガス発生を検出するDEMS装備を用いて酸素(O
2)の発生可否を測定し、その結果に対しては
図1および
図2に示した。
【0086】
本明細書で記載した電圧値(『4.6V』など)は特別な定義がない限りhalf cellでの正極電位を意味し、full cellでは負極電位によって約
0.05〜0.1V低くなる。例えば、half cellに対して4.6Vは(負極によって変わるものの)黒鉛系負極を用いた場合、full cell電圧で約4.5〜4.55Vになる。
【0087】
以上の説明は、本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎず、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から外れない範囲で多様な修正及び変形が可能であるはずである。したがって、本発明に開示された実施形態等は、本発明の技術思想を限定するためのものではなく、説明するためのものであり、このような実施形態により本発明の技術思想の範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は、請求の範囲に基づき解釈されなければならず、これと同等な範囲内にある全ての技術思想は、本発明の権利範囲に含まれるものとして解釈されなければならない。