(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984187
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ペリクルとフォトマスクのアセンブリ
(51)【国際特許分類】
G03F 1/60 20120101AFI20160823BHJP
G03F 1/62 20120101ALI20160823BHJP
G03F 1/64 20120101ALI20160823BHJP
【FI】
G03F1/60
G03F1/62
G03F1/64
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-89101(P2013-89101)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-211591(P2014-211591A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159433
【弁理士】
【氏名又は名称】沼澤 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】関原 一敏
【審査官】
佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−152344(JP,A)
【文献】
特開2010−102357(JP,A)
【文献】
特開平04−283748(JP,A)
【文献】
特開2006−159819(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/008294(WO,A1)
【文献】
特開平03−024547(JP,A)
【文献】
特開2012−022129(JP,A)
【文献】
実開昭62−058455(JP,U)
【文献】
特表2005−509185(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0140199(US,A1)
【文献】
特開2008−256925(JP,A)
【文献】
特開2012−108277(JP,A)
【文献】
特開2008−065258(JP,A)
【文献】
特開2011−076042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00 − 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも4つの辺を有すると共に、少なくとも4箇所の角部にはフォトマスク側となる端面からペリクル膜が設けられる端面に向かって雌ネジ孔を有するペリクルフレームから成るペリクルがフォトマスクに装着されたアセンブリであって、前記ペリクルフレームのフォトマスク側となる端面の前記雌ネジ孔の位置よりも内側に弾性体層が設けられ、前記フォトマスクの前記雌ネジ孔に対応した位置には貫通孔が設けられ、該貫通孔には、雄ネジを有する先端部と、中間部と、該先端部より径の大きい大径部とで構成されると共に、前記先端部と前記中間部との間に前記弾性体層の近傍のペリクルフレームに接触する段付き部を有する丸棒形状の締結手段が挿入され、該締結手段の雄ネジが前記雌ネジ孔に螺合して前記弾性体層を押しつけるように、前記ペリクルが前記フォトマスクに装着されていることを特徴とするペリクルとフォトマスクのアセンブリ。
【請求項2】
前記弾性体層は、前記ペリクルがフォトマスクに装着された場合に、該フォトマスク表面との接触幅が0.3〜1.0mmの範囲となるような形状であることを特徴とする請求項1に記載のペリクルとフォトマスクのアセンブリ。
【請求項3】
前記弾性体層の形状は、その断面形状がペリクルフレームの幅方向について見た場合に中央を頂点とする略半円形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のペリクルとフォトマスクのアセンブリ。
【請求項4】
前記弾性体層は、デュロメータ硬度Aで50°以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のペリクルとフォトマスクのアセンブリ。
【請求項5】
前記弾性体層は、シリコーン樹脂、フッ素変性シリコーン樹脂、EPM樹脂、EPDM樹脂、SBS樹脂およびSEBS樹脂からなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のペリクルとフォトマスクのアセンブリ。
【請求項6】
前記弾性体層は、その表面が接着性を有さないことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のペリクルとフォトマスクのアセンブリ。
【請求項7】
前記貫通孔は、パターン面の反対側が大径となったテーパ形状又は段差のある形状であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のペリクルとフォトマスクのアセンブリ。
【請求項8】
前記締結手段の段付き部は、前記弾性体層の近傍の前記ペリクルフレームに設けられた段差に接触することを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のペリクルとフォトマスクのアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、ICパッケージ、プリント基板、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等を製造する際のゴミよけとして使用される
ペリクルとフォトマスクのアセンブリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体又は液晶ディスプレイ等の製造においては、半導体ウエハーあるいは液晶用ガラス板に紫外光を照射してパターンを作製するが、この時に用いるフォトマスクにゴミが付着していると、このゴミが紫外光を遮ったり、紫外光を反射してしまうために、転写したパターンの変形、短絡などが発生して品質が損なわれるという問題があった。
【0003】
このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミよけとしてペリクルを貼り付けした後に露光を行っている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するために、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
一般に、ペリクルは、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース又はフッ素樹脂などからなる透明なペリクル膜を、アルミニウム、ステンレス鋼などからなるペリクルフレームの上端面に貼り付け又は接着して構成されている。また、ペリクルフレームの下端には、フォトマスクに装着するためのポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着層及び粘着層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が設けられている。
【0005】
近年、露光パターンの微細化に伴い、ペリクルを貼り付けることによって生じるフォトマスクの歪みが問題視されるようになってきた。フォトマスクとペリクルフレームがマスク粘着材を介して締結されると、ペリクルフレームの形状がフォトマスクの形状に影響を与えて、フォトマスク表面に描画されていたパターンが本来のものから変形してしまうためである。
【0006】
そのため、従来から種々の解決策が提案されている。例えば、特許文献1には、ペリクルフレームのマスクに張り付く側の平坦度を30μm以下で、かつそのペリクルフレームのペリクル膜側の平坦度を15μm以下に抑制することで、マスクの変形を小さく抑えることができると記載されている。
また、特許文献2には、マスクに貼付されるペリクルの粘着剤の厚さと弾性率とを所望値に規定することで、ペリクルフレーム端面の凹凸を粘着剤層に吸収して、マスク面の平滑度を十分に保つことができると記載されている。
特許文献3には、ペリクル粘着層として柔軟なゲル組成物からなるものを用いることで、ペリクルをマスク等に貼り付けた場合のマスク等の歪みを低減することができると記載されている。
さらに、特許文献4には、粘着剤層の粘着力を1N/mから100N/mの範囲に低く抑えることで、ペリクル貼り付けによるマスクの変形が抑制されると記載されている。
【0007】
しかし、これらの提案では、ペリクルフレームがフォトマスク形状に与える影響を低減することができる十分な解決策とはなっておらず、未だ問題も多い。例えば、粘着層を柔らかいものとした場合には、ペリクル剥離後にフォトマスク表面に粘着剤の残渣が残りやすく、その除去や再洗浄に多大な手間がかかるという問題がある。
【0008】
また、粘着剤の平坦度を向上させたとしても、大きな加圧力でしっかりと貼り付けないと、粘着層とフォトマスクの間にエア溜まりが生じて密着性が悪化し、ペリクルの内外が通気してしまうことがあるために、信頼性という点で問題がある。一方で、この問題を解決するために、強い加圧力でしっかり貼り付けると、ペリクルフレームの形状によってフォトマスクに与える影響が大きくなり、フォトマスクパターンの歪を大きくしてしまうという問題がある。
【0009】
以上のことから、ペリクル装着によってフォトマスクに与える歪を小さく抑えることができると共に、ペリクルの脱着が容易で、かつ使用中の信頼性も高いというペリクルは、これまで提案されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008―256925号
【特許文献2】特開2008―65258号
【特許文献3】特開2011―76042号
【特許文献4】特開2012―108277号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上記のような実情に鑑みなされたものであり、装着後のフォトマスクに与える歪が小さく、しかもペリクルの脱着が容易で、かつ信頼性の高い
ペリクルとフォトマスクのアセンブリを提供することを目的とする。
【0012】
そして、本発明者らは、この目的を達成するために、小さな締付荷重で高いシール性が得られるOリングなどのガスケットの機能に着目し、この機能をペリクルフレーム上に設けることができないか鋭意実験を繰り返したところ、ペリクルフレーム10上に弾性体層を設けこれを加圧しても、フォトマスクに与える歪が小さく、かつ高い密封性を保持することができることを見出して、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明の
アセンブリは、少なくとも4つの辺を有すると共に、少なくとも4箇所の角部にはフォトマスク側となる端面からペリクル膜が設けられる端面に向かって雌ネジ孔を有するペリクルフレームから成るペリクルがフォトマスクに装着されたアセンブリであって、ペリクルフレームのフォトマスク側となる端面の雌ネジ孔の位置よりも内側に弾性体層が設けられ、フォトマスクの雌ネジ孔に対応した位置には貫通孔が設けられ、この貫通孔には、雄ネジを有する先端部と、中間部と、先端部より径の大きい大径部とで構成されると共に、先端部と中間部との間に弾性体層の近傍のペリクルフレームに接触する段付き部を有する丸棒形状の締結手段が挿入され、この締結手段の雄ネジが雌ネジ孔に螺合して弾性体層を押しつけるように、ペリクルがフォトマスクに装着されていることを特徴とする。
【0014】
そして、この弾性体層の形状は、ペリクルがフォトマスクに装着された場合に、フォトマスク表面との接触幅が0.3〜1.0mmの範囲となるようなものが好ましく、その断面形状がペリクルフレームの幅方向について見た場合に中央を頂点とする略半円形状であることが好ましい。また、弾性体層の硬度も、デュロメータ硬度Aで50°以下が好ましく、その材質としては、シリコーン樹脂、フッ素変性シリコーン樹脂、EPM樹脂、EPDM樹脂、SBS樹脂およびSEBS樹脂からなる群より選択されるのが好ましい。さらに、弾性体層の表面は、接着性を有さないことが好ましい。
【0015】
本発明のペリクルを装着するフォトマスクは、雌ネジに対応した位置に貫通孔を有することを特徴とする。また、この貫通孔の形状は、パターン面の反対側が大径となったテーパ形状又はパターン面の反対側が大径となった段差のある形状であることが好ましく、この貫通孔には、先端部に雄ネジを有する締結手段が挿入され、雄ネジと雌ネジとの締結によってペリクルが装着される。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、ペリクルおよびフォトマスクは、ガスケットの機能を有する弾性体層を介してネジ機構の締結手段で締結されるから、マスク粘着層が不要となるために、フォトマスク表面に粘着剤の残渣が残るようなことはなく、ペリクル取り外し後のフォトマスクの洗浄も極めて容易となる。また、本発明の弾性体層は、エア溜まりの発生が無く容易に潰れるから、極めて弱い押しつけ力でも完全にシールすることができるために、装着によりフォトマスクに与える歪を極めて小さく抑えることができると共に、ネジ機構により締結するので密封の信頼性も高く、ペリクルの取り外しも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ペリクルフレームの一実施形態を示す平面図である。
【
図2】ペリクルフレームの一実施形態を示す側面図である。
【
図4】本発明のペリクルの一実施形態を示す斜視図である。
【
図7】フォトマスク基板の一実施形態を示す平面図である。
【
図10】本発明のペリクルをフォトマスク基板に装着した実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
図1乃至3は、ペリクルフレーム10の一実施形態を示すものである。
図1は、フォトマスク装着側から見た平面図であり、その外形は矩形をなし、角部には雌ネジ11が設けられている。この雌ネジ11は、フォトマスク装着側からペリクル膜側へ向かって設けられており、この実施形態のように非貫通とするのが好ましいが、寸法や加工上の都合で貫通としてもよい。
【0020】
この雌ネジ部11は、ペリクルフレーム10に直接設けられているが、別に加工して作ったものをペリクルフレーム10にインサートして取り付けてもよい。緩み防止剤の塗布や横方向からのピン、止めネジ(図示しない)などの緩み止めの手段を付与することもできる。このペリクルフレーム10の材質としては、アルミニウム合金の他、炭素鋼、ステンレス鋼などの鉄系合金、PEEKをはじめするエンジニアリングプラスチック、繊維強化プラスチックなどを用いることができる。
また、ペリクルフレーム10の平坦度は、本発明の目的を達成するためには、少なくとも30μm以下であるのが好ましく、より好ましくは15μm以下である。ペリクルフレーム10の側面には、ハンドリングのための治具孔12および通気孔13を設けてもよい。
【0021】
図4は、このようなペリクルフレーム10を用いて構成されたペリクル40の斜視図であり、フォトマスク装着面から見た向きで示されている。この
図4に示す実施形態では、雌ネジ11は、角部だけに配置されているが、ペリクルフレーム10の辺長が長い場合には、角部の他にも適宜雌ネジ部を増やして配置することが好ましい。ペリクルフレーム10の外形は、矩形に限定されず、雌ネジ11の位置を考慮すれば、円形や八角形状であってもよい。
【0022】
ペリクルフレーム10は、その一方の面にアクリル接着剤、シリコーン接着剤、フッ素系接着剤などから成るペリクル膜接着層41が設けられ、ペリクル膜42がシワの無いように接着されている。一方、その反対の面には弾性体層43が設けられるが、この弾性体層43の形状は、
図5に示すように、ペリクルフレーム10の幅方向に見た場合にその中央を頂点とする略半円形状となっている。
【0023】
そして、この弾性体層43は、
図4ではペリクルフレーム10の幅方向全体に設けられているが、幅方向の一部だけに設けられてもよい。また、この弾性体層43は、
図6に示すように、ペリクルフレーム10の雌ネジ部11を有する角部では、雌ネジ11よりも内側に配置され、しかも、この弾性体層43の近傍には、段差14が設けられている。この段差14は、弾性体層43を塗布によって設ける際に、塗布幅を規制すると共に、雌ネジ11内に塗布物が流入しないように設けられている。
【0024】
本発明では、ペリクルフレーム10をフォトマスク基板70に接着させる必要がないので、このペリクルフレーム10の弾性体層43の表面は、接着性を有しないのが好ましいが、ペリクル40をフォトマスク基板70に装着する際に、弾性体層43の表面が微粘着性を有していれば、ペリクルフレーム10がフォトマスクに接触した際に容易に横ずれしないために作業上好都合であるから、微粘着性を有しているものでもよい。
【0025】
この弾性体層43は、以上の観点および耐オゾン性、発ガス、耐光性、硬度、成形性などの観点から、シリコーン樹脂、フッ素変性シリコーン樹脂、EPM樹脂、EPDM樹脂、SBS樹脂およびSEBS樹脂からなる群より選択されることが好ましい。これら以外の樹脂でも、ペリクルフレーム10上に塗布・成形することが可能であれば、弾性体層43として適用は可能であるが、硫黄を用いる加硫が必要な材質は、ペリクル使用中にヘイズ発生の原因となる恐れがあるために不適である。
【0026】
また、この弾性体層43の形状は、フォトマスク基板70に装着された場合に、フォトマスク基板70との接触幅が0.3〜1.0mmの範囲となるように仕上げることが好ましく、信頼性および装着時の荷重の観点から、0.4〜0.6mmの範囲がより好ましい。接触幅が0.3mm未満では、装着時の押しつけ力が弱く密封性が良くないからであり、また、1.0mmを超えると、押しつけ力が強すぎて弾性体層43の潰れ量が多くなって反発力が大きくなるために、フォトマスク基板70に与える歪が大きくなるからである。なお、この接触幅は、フォトマスク側からガラスを素通しして見た場合に、弾性体層がガラスと接触して色調が違って見える幅を言い、実体顕微鏡などの低倍率の拡大鏡で測定することができる。
【0027】
さらに、弾性体層43の硬度も、後述する締結手段101による押しつけによって弾性体層43が適度に潰れて、ペリクル40とフォトマスク基板70との接触幅が0.3〜1.0mmの範囲となるような、デュロメータ硬度Aで50°以下のものを選択するのが好ましい。
【0028】
このように、本発明では、弾性体層43とフォトマスク基板70との接触幅が0.3〜1.0mmの範囲となるように、弾性体層43の形状および硬度、さらには後述する締結手段101によるフォトマスク基板70への押しつけ量を設定することが好ましい。また、弾性体層43の頂点部分の平坦度も、高いほど好ましいことは言うまでもなく、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。
【0029】
本発明のペリクル40は、以上のように構成されているから、このペリクル40の装着により生じるフォトマスク基板70の歪を極めて低減することができる。特に、微細加工が要求される半導体製造用途のフォトマスク基板に適用するとより大きな効果が発揮されるが、適用するペリクル40の大きさには特に制限はなく、一辺150mm程度の半導体製造用ペリクルから一辺が1000mmを超えるディスプレイ製造用のものまで適用可能である。
【0030】
次に、本発明のペリクル40を装着するフォトマスク基板70の実施形態について説明する。本発明のフォトマスク基板70には、ペリクル40のネジ孔11に対応して貫通孔71が設けられている。この貫通孔71は、パターン面の反対側を大径とするのがよく、
図8に示すテーパ形状であるか、又は
図9に示す段差形状であるのがよい。このような形状とする目的は、後述するように、締結手段101がフォトマスク基板70の表面よりも突出しないように収めるためであり、ペリクル40とフォトマスク基板70との間の装着寸法に影響を及ぼすことから、このテーパ形状又は段差の加工深さを精度よく管理することが必要である。
【0031】
そして、テーパ形状とした場合は、締結手段101の挿入・締結時に発塵が少ないという利点があり、また、段差形状とした場合は、より正確に加工深さの寸法管理が可能となるために、ペリクル40とフォトマスク基板70との間の装着寸法および弾性体層43の押し付け量を正確に管理することができるという利点がある。
【0032】
以下、本発明のペリクル40をフォトマスク基板70に装着する実施形態について説明するが、この実施形態は、
図9に示す段差形状の貫通孔71を有するフォトマスク基板70を用いた場合である。
【0033】
ペリクル40は、フォトマスク基板70のパターン面の反対側から挿入され、締結手段101により締め付け固定されている。この締結手段101は、
図11に示すように、先端部と中間部との間に段付き部112を有する丸棒形状である。そして、その先端部は、雄ネジ111で構成され、中間部は、円筒部分114で構成され、他の一端は、大径部113で構成されている。また、この大径部113の天面には、締結手段101の締結又は解除が可能なように、+や−形状の溝又は四角、六角などの凹みを加工して設けるのが好ましい(図示しない)。
【0034】
本発明のペリクル40の装着は、この締結手段101によって行われるので雌ネジ11に雄ネジ111を締め付ける時にネジからの発塵が懸念されるが、フォトマスク基板70のパターン面は、ペリクルフレーム10に設けられた弾性体層43によって完全に密封されているから、発塵による汚染等の問題は生じない。
【0035】
また、締結手段101は、段付き部112を有しているが、この段付き部112の位置、換言すれば円筒部分114の長さは、ペリクル40とフォトマスク基板70の取り付け寸法および弾性体層43の潰れ具合に大きく影響するために、前述のように、フォトマスク基板70における貫通孔71の段差寸法を管理するだけでなく、この円筒部114の長さをも適切に管理することが好ましく、その長さのばらつきはできるだけ小さく抑えることが必要である。
【0036】
そして、フォトマスク基板70における貫通孔71の段差寸法、ペリクルフレームの段差14の寸法および締結手段101の円筒部114の長さ(又は段付き部112の位置)は、ペリクル40を装着するフォトマスク基板70厚さ、ペリクルフレーム10高さ、弾性体層43高さおよび露光装置から要求されるスタンドオフ高さ(フォトマスクパターン面からペリクル膜までの高さ)に応じて設定されるが、少なくとも弾性体層43の潰れ具合(潰れ量)によって弾性体層43とフォトマスク基板70との接触幅が0.3〜1.0mmの範囲内となるように、各設計値を設定することが好ましい。
【0037】
ペリクル40を装着する場合に、例えば、この締結手段101を多く締め付けて強く締結すれば、ペリクル40の固定の確実性は増すが、一方で弾性体層43の潰れ量が多くなって反発力が大きくなり、フォトマスク基板70の歪が大きくなる。したがって、締結手段101の円筒部114の長さを適切に設定すると共に、弾性体層43の形状および硬さと装着時の潰れ量をも適切に設定して、フォトマスク基板70の平坦度の変化量が10%以下となるように抑えることが好ましい。
【0038】
また、本発明のペリクル40では、その弾性体層43の頂点が凸となっているために接触幅が狭くなっているが、このような狭い接触幅でも極めて低荷重の押しつけで確実に内部を密封することができる。また、本発明では、接着してペリクル40の自重を垂直支持する従来の機能を必要としないから、接触幅の狭さは何ら問題とならない。
【0039】
次に、ペリクル40をフォトマスク基板70から取り外す作業について説明する。このペリクル40の取り外す作業は、締結手段101を解除するだけで行うことができるから、従来のように粘着剤を引き剥がすための治具等は必要がない。また、フォトマスク基板70上の粘着剤残渣を洗浄する必要も無いために、再洗浄が極めて容易であるから、大幅な作業時間の短縮が図られるほか、粘着剤残渣の汚染によりフォトマスク基板が使用不能になるという事態も発生しない。
【0040】
以上のように、本発明のペリクル40によれば、ペリクル40の装着・取り外しの交換作業の場合に大きな利点があるが、それ以外でも、例えば、ペリクル装着時のフォトマスク基板70にトラブルがあった場合でも大きな利点がある。すなわち、ペリクル40の装着後に、フォトマスク基板70のパターン面に異物が発見された場合でも、すぐに締結手段101の解除によってペリクル40を取り外して、フォトマスク基板70上の異物を除去することができるし、その後再びペリクル40を容易に装着することもできる。
【0041】
また、本発明のペリクル40では、粘着剤等を使用していないために、粘着剤跡を除去するウェット洗浄が不要であるから、大幅な時間短縮が可能であり、取り外したペリクル40を再利用することも可能であるから、使用済みのペリクル40が無駄に廃棄されることもない。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明するが、この実施例では、
図1および
図2に示すような形態のペリクルフレーム10を機械加工により製作した。このペリクルフレーム10は、外寸115x149mm、内寸111x145mm、高さ3.5mmの矩形状であり、その平坦度は20μmであり、その側面にはハンドリングのための治具孔12および通気孔13が設けられている。そして、その材質としては、A7075アルミニウム合金を用い、機械加工後には表面に黒色アルマイト処理を施した。このペリクルフレーム10の角部には、
図3に示す高さ0.15±0.01mmの段差14が設けられ、その外側には非貫通のM1、ピッチ0.2の雌ネジ11が設けられている。
【0043】
次いで、このペリクルフレーム10をクリーンルーム内に搬入し、界面活性剤と純水で洗浄し、乾燥した後に、
図4に示すペリクル40を製作した。雌ネジ11のない側の端面には、フッ素系樹脂からなるペリクル膜接着層41を設け、ここにスピンコート法にて製造したフッ素系樹脂(旭硝子株式会社製、商品名サイトップ)製のペリクル膜42を接着した。また、他の一方の端面にはフッ素変性シリコーン樹脂(商品名SIFEL、信越化学工業(株)製)を塗布し、硬化させて高さ0.55mm、硬度がデュロメータA35°の弾性体層43を設けた。この弾性体層43の形状は、
図5の断面図に示す凸形状であり、また、この弾性体層43は、
図6に示すように、その角部において雌ネジ11の内側になるように設けられており、さらに、通気孔13は、PTFEからなるメンブレンフィルタ44のアクリル粘着層を介して取り付けられている。
【0044】
一方、フォトマスク基板70としては、
図7および
図9に示すような形態のもので、152x152x厚さ6.35mmの寸法で、その平坦度が0.27μmの合成石英製フォトマスク基板を用意した。通常、フォトマスク基板70は、片面(パターン面)にCrやMoSiなどの遮光膜を形成するが、この実施例では省略している。フォトマスク基板70の角部近傍4か所には、ダイヤモンド刃を用いた機械加工によりφ3.2mm、深さ2.5±0.01mmの段差が付いたφ1.5mmの貫通孔71を設けた。
【0045】
以上のように製作されたフォトマスク基板70の一面に前記のように製作したペリクル40を締結手段101により装着した。装着後の断面を
図10および
図11に示す。使用する締結手段101は、SUS304ステンレス鋼を用いて機械加工により製作し、円筒部114はφ1.25mm、長さ4.5±0.01mmに設定した。そして、このような締結手段101の先端のM1ピッチ0.2の雄ネジ111をペリクルフレーム10の雌ネジ11に段差112が突き当たるまで締め込むようにして、ペリクル40を装着した。この時、弾性体層43は約0.05mm潰され、その接触幅は、約0.5mmとなっており、その全周にわたって途切れや接触幅の極端な増減は見られなかった。
また、フォトマスク基板70の平坦度を確認したところ、0.28μmであったので、ペリクル40の装着前の平坦度0.27μmと比べれば、わずか0.01μm程度の小さな歪に抑制できることが確認された。
【0046】
最後に、締結手段101の解除によってペリクル40をフォトマスク基板70から取り外して、フォトマスク基板70の弾性体層43が接触していた部位を暗室内で集光ランプにより観察したところ、線状のごく薄い接触痕は見られるものの、異物や粘着性の残渣のようなものは全く観察されず、清浄な状態を保持していることが確認された。
【符号の説明】
【0047】
10 ペリクルフレーム
11 雌ネジ
12 治具孔
13 通気孔
14 段差
40 ペリクル
41 ペリクル膜接着層
42 ペリクル膜
43 弾性体層
44 フィルタ
70 フォトマスク基板
71 貫通孔
101 締結手段
111 雄ネジ
112 段付き部
113 大径部
114 円筒部