特許第5984671号(P5984671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5984671
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】電極を印刷するための組成物
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20160823BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   H01B1/22 Z
   H01L31/04 260
   H01L31/04 264
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-527305(P2012-527305)
(86)(22)【出願日】2010年9月1日
(65)【公表番号】特表2013-504152(P2013-504152A)
(43)【公表日】2013年2月4日
(86)【国際出願番号】EP2010062775
(87)【国際公開番号】WO2011026852
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年8月8日
(31)【優先権主張番号】09169548.6
(32)【優先日】2009年9月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】クライネ,イェーガー
(72)【発明者】
【氏名】カクツン,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ヘルメス,シュテファン
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−135416(JP,A)
【文献】 特開2006−321948(JP,A)
【文献】 特開2007−235082(JP,A)
【文献】 特表2008−543080(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/011180(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00− 1/24
H01L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に電極をレーザー印刷法によって印刷するための組成物であって、
それぞれ組成物の合計質量に対して、50〜90質量%の導電性粒子、0〜7質量%のガラスフリット、0.1〜5質量%の、レーザー照射のための少なくとも1種の吸収剤、0〜8質量%の少なくとも1種のマトリクス材料、0〜8質量%の少なくとも1種の有機金属化合物、3〜50質量%の、溶媒としての水、0〜65質量%の少なくとも1種の歩留まり向上剤、及び0〜5質量%の少なくとも1種の添加剤を含み、及び
前記歩留まり向上剤は、水の蒸発を遅らせるための遅延剤であり、及び
前記添加剤として、分散剤、チキソトロープ剤、可塑剤、湿潤剤、消泡剤、乾燥剤、架橋剤、錯化剤、及び/又は伝導性ポリマー粒子が使用され、及び
導電性粒子が、平均粒子径を、100nm〜50μmの範囲に有し、及び
使用されるレーザー照射のための吸収剤が、
i)酸化クロム、酸化鉄、水和酸化鉄から成る群から選ばれる少なくとも1種の無機顔料、及び
ii)銀、金、白金、パラジウム、タングステン、ニッケル、スズ、鉄、インジウムチンオキシド、タングステンオキシド、チタニウムカーバイド、又はチタニウムニトリド、ファインカーボンタイプ、又はファインランタンヘキサボライドの、粒子径が2〜100nmの範囲の少なくとも1種のナノ粒子
から成る群から選ばれる少なくとも1種の物質であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
導電性粒子が、銀、金、アルミニウム、白金、パラジウム、スズ、ニッケル、カドミウム、ゲリウム、インジウム、銅、亜鉛、鉄、ビスマス、コバルト、マンガン、クロム、バナジウム、チタニウム、又はこれらの混合物、又は合金を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
導電性粒子が、基本的に球形であることを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の組成物。
【請求項4】
使用するガラスフリットが、酸化ビスマスベースの無鉛ガラスであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ガラスフリットが、0.01〜10質量%の酸化テルルを含むことを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
マトリクス材料が、水溶性、又は水分散性のポリマーであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
歩留まり向上剤が、グリセロール、グリコール、ポリグリコール、アルカノールアミン、N−メチルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリビニルホルムアミド、又はこれらの混合物から成る群から選ばれることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の組成物。
【請求項8】
有機金属化合物が、金属カルボキシレート、金属プロピオン酸塩、金属アルコキシド、金属の錯体、又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の組成物。
【請求項9】
有機金属化合物の金属が、アルミニウム、ビスマス、亜鉛、及びバナジウムから成る群から選ばれることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の組成物。
【請求項10】
有機金属化合物が、追加的に、ホウ素又はシリコンを含むことを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の組成物。
【請求項11】
ファインカーボンが、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、及び/又はグラフェンを含むことを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の組成物。
【請求項12】
太陽電池のための電極を製造するために使用される、請求項1〜11の何れか1項に記載の組成物。
【請求項13】
基材上に電極を印刷するための方法であって、
基材上に電極を印刷するための組成物として、それぞれ組成物の合計質量に対して、50〜90質量%の導電性粒子、0〜7質量%のガラスフリット、0.1〜5質量%の、レーザー照射のための少なくとも1種の吸収剤、0〜8質量%の少なくとも1種のマトリクス材料、0〜8質量%の少なくとも1種の有機金属化合物、3〜50質量%の、溶媒としての水、0〜65質量%の少なくとも1種の歩留まり向上剤、及び0〜5質量%の少なくとも1種の添加剤を含む組成物が使用され、及び
前記歩留まり向上剤は、水の蒸発を遅らせるための遅延剤であり、及び
前記添加剤として、分散剤、チキソトロープ剤、可塑剤、湿潤剤、消泡剤、乾燥剤、架橋剤、錯化剤、及び/又は伝導性ポリマー粒子が使用され、及び
基材上に電極を印刷するためにレーザー印刷法が使用され、及び
導電性粒子が、平均粒子径を、100nm〜50μmの範囲に有し、及び
使用されるレーザー照射のための吸収剤が、
i)酸化クロム、酸化鉄、水和酸化鉄から成る群から選ばれる少なくとも1種の無機顔料、及び
ii)銀、金、白金、パラジウム、タングステン、ニッケル、スズ、鉄、インジウムチンオキシド、タングステンオキシド、チタニウムカーバイド、又はチタニウムニトリド、ファインカーボンタイプ、又はファインランタンヘキサボライドの、粒子径が2〜100nmの範囲の少なくとも1種のナノ粒子
から成る群から選ばれる少なくとも1種の物質であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性粒子、ガラスフリット及び溶媒を含む、電極を基材上に印刷するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性粒子、及びガラスフリットを溶媒中に分散した状態で含む組成物は、特に、半導体基材上に電極を印刷するために使用される。このようにして印刷された半導体基材は、例えば太陽電池として使用される。
【0003】
電極を製造するために、通常の印刷法を使用して、組成物が基材に印刷される。適切な印刷法は、例えば、インクジェット印刷、又はレーザー印刷である。
【0004】
組成物中に存在する導電性粒子は、通常、銀粒子である。これらはプレートレット形状又は球形状であって良い。プレートレット形状(platelet form)と球形状の銀粒子の混合物も公知である。印刷に必要とされる粘度を得るために、組成物は溶媒を含む。典型的には、有機溶媒が使用される。しかしながら、このことは、印刷の後の更なる処理の過程で、溶媒が組成物から逃げ出てしまい、そして従って環境に入り込むという不利な点を有する。
【0005】
組成物が流れ出ないように、典型的にはポリマー材料も存在し、これにより組成物が最初に半導体材料に結合する。印刷の後、通常、組成物は熱で焼かれる。焼くことの過程で、ポリマー材料が分解し、そしてコンダクタートラック(導体路線)から除去される。組成物中に存在するガラスフリットが溶融し、そして導電性粒子を含む印刷されたコンダクタートラックを、基材に結合させる。
【0006】
太陽電池の受光表面電極を製造するために使用することができるペースト状の組成物が、例えば特許文献1(WO2007/089273)に記載されている。ペーストは、比表面積が0.2〜0.6m2/gの銀粒子、ガラスフリット、樹脂バインダー、及び希釈剤を含んでいる。使用される希釈剤は、有機溶媒である。
【0007】
2つの異なる平均径を有する銀粉を含む組成物が、特許文献2(EP−A−1775759)に記載されている。銀粉に加え、組成物は同様に、ガラスフリット(glass frit)及び有機担体を含む。電極材料中の銀の割合は、75〜95質量%である。
【0008】
85〜99質量%の伝導性金属成分、及び1〜15質量%のガラス成分、及び有機成分を含む、太陽電池のための電極を製造するためのペーストが特許文献3(WO2006/132766)に記載されている。
【0009】
しかしながら、この公知の組成物の不利な点は、その中に存在する有機物質が、組成物を施した後の乾燥の過程と、焼くことの過程の両方で放出されることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2007/089273
【特許文献2】EP−A−1775759
【特許文献3】WO2006/132766
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、乾燥と焼くことの過程で、環境に放出される有機材料がより少ない、電極を印刷するための組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、基材上に電極を印刷するための組成物であって、それぞれ組成物の合計質量に対して、30〜90質量%の導電性粒子、0〜7質量%のガラスフリット、0.1〜5質量%の、レーザー照射のための少なくとも1種の吸収剤、0〜8質量%の少なくとも1種のマトリクス材料、0〜8質量%の少なくとも1種の有機金属化合物、3〜50質量%の、溶媒としての水、0〜65質量%の少なくとも1種の歩留まり向上剤(retention aid)、及び0〜5質量%の少なくとも1種の添加剤を含む組成物によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の組成物は、レーザー印刷法によって電極を印刷ために、特に適切である。
【0014】
溶媒としての水の使用は、電極を製造するための組成物の乾燥と焼くことの過程で、環境に放出される有機物質の割合を低減させる。このことは、太陽電池の製造における環境汚染を低減可能とする。
【0015】
組成物中に存在する導電性粒子は、任意の導電性材料から構成される、任意の幾何学的形状であって良い。組成物中に存在する導電性粒子は、好ましくは、銀、金、アルミニウム、白金、パラジウム、スズ、ニッケル、カドミウム、ガリウム、インジウム、銅、亜鉛、鉄、ビスマス、コバルト、マンガン、クロム、バナジウム、チタニウム、又はこれらの混合物又は合金を含む。
【0016】
使用する粒子の平均粒子径は、好ましくは3nm〜100μmの範囲である。平均粒子径は、より好ましくは100nm〜50μmの範囲、及び特に、500nm〜10μmの範囲である。使用する粒子は、この技術分野の当業者にとって公知の任意の所望の状態であって良い。例えば、粒子は、プレートレット、又は球状の形状であっても良い。球状の粒子は、その実際の形状が、理想的な球形状から由来(派生)するものを意味すると理解される。例えば、球状の粒子は、製造の結果として、液滴形状、又は先を切り取った状態であっても良い。組成物を製造するのに使用可能な適切な粒子は、この技術分野の当業者にとって公知であり、そして市販されている。特に好ましくは、球状の銀の粒子が使用される。球状の粒子の有利な点は、プレートレット−形状の粒子と比較して、そのレオロジー(的)挙動が改良されていることである。例えば、球状の粒子を含む組成物は、プレートレット形状の粒子を含む組成物よりも粘度が低い。更に、球状の粒子を含む組成物は、せん断において、粘度が相当に低い。このことは、約90%までの高い充填割合を達成可能とし、この場合、組成物はなお印刷可能である。
【0017】
2種以上の異なる種類の導電性粒子が使用される場合、これは各種類のものを混合することによって行なうことができる。異なる種類の粒子は、材料で、形状で、及び/又はサイズ(寸法)で異なっていても良い。
【0018】
組成物中の導電性粒子の割合は、50〜90質量%の範囲である。この割合は、好ましくは、70〜87質量%の範囲、及び特に75〜85質量%の範囲である。
【0019】
印刷可能な分散物を得るために、組成物は溶媒を含む。本発明に従えば、使用する溶媒は水で、これは組成物中に、3〜20質量%の割合で存在する。組成物中の水の割合は、好ましくは5〜15質量%の範囲、及び特に6〜12質量%の範囲である。
【0020】
通常、水は比較的速く蒸発するので、蒸発を遅らせるために、遅延剤として公知の歩留まり向上剤(retention aid)を添加する必要がある。歩留まり向上剤は、組成物中に、0〜65質量%の割合、好ましくは0.5〜10質量%の割合、及び特に0.8〜4質量%の範囲の割合で存在する。
【0021】
適切な歩留まり向上剤は、極性の水−結合溶媒である。適切な極性の水−結合溶媒は、例えば、グリセロール、グリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG200)、ポリプロピレングリコール、アルカノールアミン、例えば、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、N−メチルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリビニルホルムアミド、又はこれらの組合せである。特に好ましい歩留まり向上剤は、グリセロール及びポリエチレングリコールである。これらは、高い表面張力を有し、これは、印刷される基材の表面上での組成物の流出を低減する。この結果、より鮮明な構造を印刷することができる。
【0022】
水を実際に焼く(firing)前に、組成物が流出することなく、ウエハー上に付着するために、マトリクス材料が追加的に存在する。
【0023】
使用するマトリクス材料は、好ましくは、水溶性又は水分散性のポリマー又はポリマー混合物である。
【0024】
水中で低粘性溶液を形成する水溶性又は水分散性ポリマー又はポリマー混合物が好ましい。これにより、低い粘性での、導電性粒子の高い充填レベルが可能になる。更に、例えば使用するソーラーウエハーの表面での太陽電池の製造において、使用するポリマーは、印刷される基材表面への良好な付着性を有するべきである。ポリマーは、印刷されたコンダクタートラックの十分な全体性(完全性)をももたらすべきである。
【0025】
マトリクス材料として使用可能な適切なポリマーは、例えば、アクリレート分散物、及びアクリレートコポリマー、例えばスチレンアクリレート、アルカリ−溶解性アクリレート樹脂、及びこれらのコポリマー、無水マレイン酸コポリマー、例えば、スチレン−マレイン酸分散物、アルキド樹脂分散物、スチレン−ブタジエン分散物、セルロース誘導体、特にヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、ポリエステル分散物、ポリビニルアルコール、特に、部分的又は完全に加水分解されたポリビニルアルコール、加水分解されたビニルアセテートコポリマー、例えばグラフト化ポリエチレングリコ−ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルピロリドン、及びビニルピロリドンコポリマー、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリビニルホルムアミド、超分岐ポリカーボネート、ポリグリコール、ポリウレタン分散物、プロテイン、例えばカゼインである。2種以上のポリマーの混合物を使用して、マトリクス材料を形成することも可能である。
【0026】
組成物の、太陽電池の製造における基材としての半導体材料への良好な付着性(粘着性)を得るために、ガラスフリットが組成物中に、0〜7質量%の範囲の割合で存在する。ガラスフリットの割合は、好ましくは1.5〜4質量%の範囲、及び特に2〜3.5質量%の範囲である。
【0027】
基本的に鉛非含有のガラスフリットを使用することが好ましい。このようなガラスフリットは、例えば、ビスマスオキシドベースのガラスである。組成物にとって適切なガラスフリットは、特に、ビスマスオキシド、シリコンオキシド、及び/又はテルルオキシドを含む。テルルオキシドの割合は、好ましくは0.01〜10質量%の範囲である。ビスマスオキシドの割合は、好ましくは40〜95質量%の範囲である。ビスマスオキシドの割合は、より好ましくは50〜80質量%の範囲、及び特に、60〜75質量%の範囲である。シリコンオキシドの割合は、各場合において、ガラスフリットの質量に対して、好ましくは0〜30質量%の範囲、特に1〜4質量%の範囲である。
【0028】
ビスマスオキシド、シリコンオキシド及びテルルオキシドに加え、ガラスフリットは、追加的にボロンオキシドを含んでも良い。ボロンオキシドの割合は、好ましくは0.1〜10質量%の範囲、特に0.5〜8質量%の範囲であり、及び特に好ましい実施の形態では、1〜4質量%の範囲である。
【0029】
上述したオキシドに加え、ガラスフリットは、亜鉛オキシド、及び/又はアルキニウムオキシドを含んでも良い。亜鉛オキシドの割合は、0〜15質量%の範囲、及びアミニウムオキシドの割合は、0〜3質量%の範囲である。
【0030】
ガラスフリット中に存在しても良い更なる金属オキシドは、例えば、銀オキシド(Ag2O)、アンチモンオキシド(Sb23)、ゲルマニウムオキシド(GeO2)、インジウムオキシド(In23)、ホスホラスペントキシド(P25)、バナジウムペントキシド(V25)、ニオビウムペントキシド(Nb25)、及びタンタルペントキシド(Ta25)である。ガラスフリット中に存在して良いAg2O、P25、V25、Nb25及び/又はTa25の割合は、それぞれの場合において、約0〜8質量%の範囲である。ガラスフリット中のIn23及び/又はSb23の割合は、各場合において、0〜5質量%の範囲である。更に、ガラスフリットは、1種以上のアルカリ金属オキシド、典型的には、Na2O、Li2O及び/又はK2Oを含んでも良い。ガラスフリット中のアルカリ金属オキシドの割合は、各場合において0〜3質量%の範囲である。更に、アルカリ土類金属オキシドもガラスフリット中に存在しても良い。典型的に存在するアルカリ土類金属オキシドは、BaO、CaO、MgO及び/又はSrOである。ガラスフリット中のアルカリ土類金属オキシドの割合は、各場合において、0〜8質量%の範囲である。
【0031】
本発明で、「基本的に鉛非含有(基本的に無鉛)」は、ガラスフリットに鉛が加えられることがなく、そしてガラスフリット中の鉛の割合が1000ppm未満であることを意味する。
【0032】
本発明の組成物は更に、少なくとも1種の有機金属化合物を含む。組成物中の有機金属化合物の割合は、0〜5質量%の範囲、好ましくは1〜3質量%の範囲、及び特に1.5〜2.5質量%の範囲である。
【0033】
印刷された組成物を有する基材を焼くことの過程で、有機金属化合物の有機成分が分解され、そして組成物から除去される。存在する金属は組成物中に残り、そして追加的に、導電性材料として作用することができる。
【0034】
使用することができる、適切な有機金属化合物は、金属カルボキシレート、金属プロピオネート、金属アルコキシド、金属の錯体、又はこれらの混合物である。有機金属化合物は、芳香族、又は脂肪族基をも含んでも良い。
【0035】
適切なカルボキシレートは、例えば、フォメート、アセテート、又はプロピオネートである。適切なアルコキシドは、例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、ペントキシド、ヘキソキシド、ヘプトキシド、オクトキシド、非酸化物、デコキシド、ウンデコキシド、及びドデキシドである。
【0036】
有機金属化合物の金属は、好ましくは、アルミニウム、ビスマス、亜鉛、及びバナジウムから成る群から選ばれる。
【0037】
更に、有機金属化合物は、ホウ素又はシリコンを含んでも良い。
【0038】
使用することができる、適切な有機金属化合物は、例えば、ビスマス(III)アセテート、トリフェニルビスマス、ビスマス(III)ヘキサフルオロペンタンジオネート、ビスマス(III)テトラメチルペンタンジオネート、ビスマスネオデカノエート、ビスマス(III)2−エチルヘキサノエート、ビスマスカーボネートオキシド、ビスマスサブガラートハイドレート、ビスマス(III)ガラートベーシックハイドレート、ビスマス(III)スブサリシレート、ビスマス(III)トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)、トリフェニルビスマス(III)カーボネート、トリス(2−メトキシフェニル)ビスムチンである。
【0039】
特に好ましい有機金属化合物は、ビスマス(III)アセテート、ビスマス(III)2−エチルヘキサノエート、ビスマスカーボネートオキシド、ビスマスサブガラートハイドレート、ビスマス(III)ガラートベーシックハイドレート、ビスマス(III)サブサリシレートである。
【0040】
更に、組成物は、更なる添加剤を含んでも良い。組成物中に存在しても良い添加剤は、例えば、分散剤、チキソトロープ剤、可塑剤、湿潤剤、消泡剤、乾燥剤、架橋剤、錯化剤、伝導性ポリマー粒子、及び/又はレーザー照射のための吸収剤である。添加剤は、それぞれ個々に、又は2種以上の添加剤の混合物として使用しても良い。
【0041】
組成物中の添加剤の割合は、通常、0〜5質量%の範囲、好ましくは0.1〜3質量%の範囲、及び特に0.1〜2質量%の範囲である。
【0042】
添加剤として分散剤が使用された場合、1種の分散剤だけを使用することができ、又は1種を超える種類の分散剤を使用することもできる。
【0043】
原則として、この技術分野の当業者にとって(分散物中に使用するために)公知であり、及び従来技術に記載されている全ての分散剤が適切である。好ましい分散剤は、界面活性剤、又は界面活性剤混合物、例えばアニオン性、カチオン性、両性、又は非イオン性の界面活性剤である。適切なカチオン性、及びアニオン性界面活性剤は、例えば“Encyclopedia of Polymer Science and Technilogy”,J.Wiley&Sons(1966),Volume5,pages816〜818、及び“Emulsion Polymerisation and Emulsion Polymers”,editors:P.Lovell and M.El−Asser,publisher:Wiley&Sons(1997),pages224〜226に記載されている。しかしながら、分散剤として、この技術分野の当業者にとって公知の、顔料親和性(pigment-affinitive)のアンカー基を有するポリマーを使用することもできる。
【0044】
チキソトロープ剤が添加剤として加えられた場合、例えば有機チキソトロープ剤を使用することができる。使用することができる増粘剤は、例えば、ポリアクリル酸、ポリウレタン、又は水素化したキャスターオイルである。
【0045】
使用可能な可塑剤、湿潤剤、消泡剤、乾燥剤、架橋剤、錯化剤、及び伝導性ポリマーは、分散剤中に一般的に使用され、そしてこの技術分野の当業者にとって公知のものである。
【0046】
組成物を、レーザー印刷法を使用して基材の上に印刷する場合、印刷のエネルギー供給源、例えばレーザーのエネルギーのための吸収剤が、更なる添加剤として組成物中に加えられることが好ましい。使用するレーザービーム供給源に依存して、レーザー照射を効果的に吸収する、異なる吸収剤、又は他に吸収剤の混合物を使用することが必要であっても良い。
【0047】
レーザー照射のための適切な吸収剤は、レーザーの波長の範囲で、高い吸収を有するものである。特に適切なものは、近赤外線、及び電磁スペクトルの長波VIS領域に高い吸収を有する吸収剤である。このような吸収剤は、高出力の固体レーザー、例えばNd:YAGレーザー、及びIRダイオードレーザーからの照射を吸収するために特に適切である。レーザー照射のための適切な吸収剤は、例えば、赤外スペクトル領域で強く吸収する染料、例えばフタロシアニン、ナフタロシアニン、シアニン、キノン、金属錯体染料、例えばジチオレン、又は光発色性の染料である。
【0048】
更なる適切な吸収剤は、無機顔料、特に強く着色された無機顔料、例えば酸化クロム(クロミウムオキシド酸化鉄(鉄オキシド、又は水和酸化鉄(鉄オキシドハイダレードである。
【0049】
同様に、吸収剤として適切なものは、例えばカーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、又はグラフェンの状態のカーボンである。
【0050】
使用する吸収剤がカーボンブラックである場合、組成物中のカーボンブラックの割合は、0〜5質量%の範囲である。この割合は、好ましくは、0.01〜3質量%の範囲、及び特に、0.5〜2質量%の範囲である。使用するカーボンブラックは、この技術分野の当業者にとって公知の、任意の所望のカーボンブラックであって良い。このようなカーボンブラックは、この技術分野の当業者にとって公知であり、そして市販されている。
【0051】
上述した吸収剤に加え、銀、金、白金、パラジウム、タングステン、ニッケル、スズ、鉄、インジウムチンオキシド、タングステンオキシド、チタニウムカーバイド、又はチタニウムニトリドを、レーザー照射のための吸収剤として使用することも可能である。このようにして、例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、又はグラファイトの状態の元素炭素を、レーザー照射用の吸収剤として除くことが可能であり、又は公知の組成物と比較して、必要とされる量を相当に減少させることができる。
【0052】
銀、金、白金、パラジウム、タングステン、ニッケル、スズ、鉄、インジウムチンオキシド、又はチタニウムカーバオドを使用することの更なる有利な点は、これらの材料は、導電性であることである。この理由で、ナノ粒子の使用は印刷されたコンダクタートラックの電気伝導率を非常に大きく低減させるか、又は好ましくは少しもなくなる。更に、これらの材料は、焼くことの過程で、酸化されず;より特定的には、これらは、(コンダクタートラックに気孔率をもたらし、及び従って伝導率を低下させる)ガス状化合物を発生させることがない。吸収剤としてのチタニウムカーバイドは、燃焼することができるが、しかし放出されるカーボンの量は、吸収剤としての元素炭素を使用した場合に放出される量と比較して非常に少ない。
【0053】
一実施の形態では、ナノ粒子は球状形状である。本発明において、球状粒子とは、原則的に(本来)粒子が球状形状であるが、しかし実際の粒子は、理想的な状態から偏差していても良いことを意味する。例えば、実際の粒子は、先を切り取った形状、又は液滴状の形状を有していても良い。製造の結果として発生し得る、理想的な球状の形状からの他の偏向も可能である。
【0054】
ナノ粒子が球状粒子の場合、これらは直径が2〜100nmの範囲であることが好ましい。特に、赤外線レーザー、特に波長が1050nmのものを使用する場合、粒子径が2〜50nmの範囲の球状のナノ粒子が特に適切であることがわかった。球形状の粒子の直径は、より好ましくは6nmの範囲である。
【0055】
ナノ粒子を球形状の粒子の状態で使用する場合、組成物中のナノ粒子の割合は、特に、0.5〜12質量%の範囲である。
【0056】
他の実施の形態では、ナノ粒子は、縁の長さが15〜1000nm、及び高さが3〜100nmの角柱である。角柱の形状は、種々のものである。例えば、その形状は他のファクターの中でも特に、使用するレーザー照射に依存する。角柱のベースは、例えば多角形の状態、例えば三角形又は五角形の状態であって良い。ナノ粒子として使用されるプリズムは通常、その吸収特性が使用するレーザーの波長に適合するPlasmon resonateである。使用するレーザーの波長への適合は、例えば、角柱(プリズム)の縁の長さと断面積によって行われる。例えば、異なる断面積、及び異なる縁の長さのそれぞれが、異なる吸収特性を有している。角柱の高さも、吸収特性に影響を及ぼす。
【0057】
角柱をナノ粒子として使用する場合、組成物中に角柱として存在するナノ粒子の割合は、好ましくは3〜10質量%の範囲である。
【0058】
球状の粒子又は角柱をレーザー吸収のための吸収剤として使用することに加え、この替わりに、球状粒子と角柱の両方を使用することも可能である。球状粒子の角柱に対する任意の所望の割合が可能である。角柱の状態のナノ粒子の割合が大きくなる程、組成物中のナノ粒子の割合が少なくなっても良い。
【0059】
ナノ粒子は通常、特に輸送のために、適切な添加剤を使用して、製造の過程で安定化される。コンダクタートラックを印刷するための組成物を製造する過程で、典型的には、添加剤は除去されず、従ってこれらは組成物中に存在する。安定化のための添加剤の割合は、通常、ナノ粒子の質量に対して15質量%以下である。ナノ粒子を安定化させるために使用される添加剤は、例えば、長鎖アミン、例えばドデシラミンであっても良い。ナノ粒子を安定化させるために適切な更なる添加剤は、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、オレイン酸、及びポリエチレンイミンである。
【0060】
レーザー照射のために特に適切な吸収剤は、無機顔料、銀、金、白金、パラジウム、タングステン、ニッケル、スズ、鉄、インジウムチンオキシド、タングステンオキシド、チタニウムカーバイド、又はチタニウムニトリドのナノ粒子、特に銀のナノ粒子、微細カーボンタイプ、又は微細ランタンヘキサボライド(LaB6)である。
【0061】
加えられる吸収剤の量は、分散層の所望の特性の関数として、この技術分野の当業者によって選択される。この場合、この技術分野の当業者は、加えられる吸収剤が、組成物のレーザーによる転写の速度と効率に影響するのみならず、他の特性、例えば印刷される基材上での組成物の付着、又は印刷されたコンダクタートラックの導電率にも影響することを追加的に考慮する。
【0062】
本発明の組成物は、例えば、この技術分野の当業者にとって公知の装置内での強い混合(攪拌)と分散によって製造される。このことは、例えば、溶解機内で、又は比較的強く分散させる装置内で組成物を混ぜること、又は攪拌ボールミル内、又は大量製造の場合には、粉流動装置内で分散させることを含む。
【0063】
本発明の組成物は、この技術分野の当業者にとって公知の任意の方法で基材に施すことができる。例えば、印刷法を使用した被覆、例えばスクリーン印刷、パッド印刷、インクジェット印刷、オフセット印刷、又はレーザー印刷を使用した被覆が可能である。印刷の過程で施される層の厚さは、好ましくは0.01〜100μmの範囲、より好ましくは0.1〜50μmの範囲、及び特に好ましくは5〜30μmの範囲で変化する。本発明の組成物が施される層は、平面状であっても、構造物であっても良い。
【0064】
特に好ましい実施の形態では、本発明の組成物は、(電磁波の状態でエネルギーを放出するエネルギー放出装置を使用して、組成物の体積及び/又は位置が変化し、及びその結果、組成物が基材に移される)印刷法によって基材に施される。このような方法は、例えばWO−A03/074278から公知である。