(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の製造に不可欠な単結晶シリコンは、CZ法やFZ法により結晶育成され、その際の原料として多結晶シリコン棒や多結晶シリコン塊が用いられる。このような多結晶シリコン材料は、多くの場合、シーメンス法により製造される(特許文献1等参照)。シーメンス法とは、トリクロロシランやモノシラン等のシラン原料ガスを加熱されたシリコン芯線に接触させることにより、該シリコン芯線の表面に多結晶シリコンをCVD(Chemical Vapor Deposition)法により気相成長(析出)させる方法である。
【0003】
例えば、CZ法で単結晶シリコンを結晶育成する際には、石英ルツボ内に多結晶シリコン塊をチャージし、これを加熱溶融させたシリコン融液に種結晶を浸漬して転位線を消滅(無転位化)させた後に、所定の直径となるまで徐々に径拡大させて結晶の引上げが行われる。このとき、シリコン融液中に未溶融の多結晶シリコンが残存していると、この未溶融多結晶片が対流により固液界面近傍を漂い、転位発生を誘発して結晶線を消失させてしまう原因となる。
【0004】
また、特許文献2には、多結晶シリコンロッド(多結晶シリコン棒)をシーメンス法で製造する工程中に該ロッド中で針状結晶が析出することがあり、かかる多結晶シリコン棒を用いてFZ法による単結晶シリコン育成を行うと、個々の晶子の溶融がその大きさに依存するために均一には溶融せず、不溶融の晶子が固体粒子として溶融帯域をとおって単結晶ロッドへと通り抜けて未溶融粒子として単結晶の凝固面に組み込まれ、これにより欠陥形成が引き起こされるという問題が指摘されている。
【0005】
この問題に対し、特許文献2では、多結晶シリコン棒の長軸方向に対して垂直に切り出された試料面を研磨乃至ポリシングし、エッチング後に組織の微結晶を光学顕微鏡下でも視認できる程度にコントラストを高めて針状結晶のサイズとその面積割合を測定し、その測定結果に基づいてFZ単結晶シリコン育成用原料としての良否を判断する手法を提案している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に開示の手法のような、光学顕微鏡下での視認による良否判断は、観察試料面のエッチングの程度や評価担当者の観察技量等に依存して結果に差が生じ易いことに加え、定量性や再現性にも乏しい。このため、単結晶シリコンの製造歩留まりを高める観点からは、原料となる多結晶シリコンの良否判断の基準を高めに設定しておく必要があり、結果として、多結晶シリコン棒の不良品率は高くなってしまう。
【0008】
また、本発明者らが検討したところによれば、特許文献2に開示の手法では、良品と判定された多結晶シリコン棒を用いた場合でも、FZ法による単結晶シリコンロッドの育成工程で転位が発生し結晶線が消失することがある一方で、不良品と判定されたものを使用した場合でも、良好にFZ単結晶が得られる場合もあることが確認されている。
【0009】
従って、単結晶シリコンを高い歩留まりで安定的に製造するためには、単結晶シリコン製造用原料として好適な多結晶シリコンを、高い定量性と再現性で選別する高度な技術が求められる。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、単結晶シリコン製造用原料として好適な多結晶シリコンを高い定量性と再現性で選別し、単結晶シリコンの安定的製造に寄与する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る多結晶シリコン中の局所配向ドメインの評価方法は、多結晶シリコン中に含まれる局所配向ドメインをX線回折法により評価する方法であって、前記多結晶シリコンを板状試料とし、該板状試料をミラー指数面<hkl>からのブラッグ反射が検出される位置に配置し、スリットにより定められるX線照射領域が前記板状試料の主面上をφスキャンするように該板状試料の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、前記ミラー指数面からのブラッグ反射強度の前記板状試料の回転角度(φ)依存性を示すチャートを求め、該チャートからピークトップの回折強度値とベースラインの回折強度値を求め、前記ピークトップの回折強度値(P)を前記ベースラインの回折強度値(B)で除した値(回折強度比:P/B=R)を前記多結晶シリコン中に含まれる局所配向ドメインの評価指標として用いる、ことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記ミラー指数面<hkl>は、<111>および<220>の少なくとも一方の面である。
【0013】
本発明に係る多結晶シリコン棒の選択方法は、単結晶シリコン製造用原料として用いる多結晶シリコン棒をX線回折法により選択するための方法であって、前記多結晶シリコン棒は化学気相法による析出により育成されたものであり、該多結晶シリコン棒の径方向に垂直な断面を主面とする板状試料を採取し、該板状試料をミラー指数面<hkl>からのブラッグ反射が検出される位置に配置し、スリットにより定められるX線照射領域が前記板状試料の主面上をφスキャンするように該板状試料の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、前記ミラー指数面からのブラッグ反射強度の前記板状試料の回転角度(φ)依存性を示すチャートを求め、該チャートからピークトップの回折強度値とベースラインの回折強度値を求め、前記ピークトップの回折強度値(P)を前記ベースラインの回折強度値(B)で除した値(回折強度比:P/B=R)を判定基準として単結晶シリコン製造用原料としての適否を判断する、ことを特徴とする。
【0014】
好ましくは、前記ミラー指数面<hkl>は、<111>および<220>の少なくとも一方の面である。
【0015】
さらに好ましくは、前記ミラー指数面<hkl>が<111>である場合の回折強度比(R
111)と、前記ミラー指数面<hkl>が<220>である場合の回折強度比(R
220)を求め、前記回折強度比R
111が1.8以下で、かつ、前記回折強度比R
220が12以下である場合に、単結晶シリコン製造用原料として用いる多結晶シリコン棒として選択する。
【0016】
例えば、前記多結晶シリコン棒はシーメンス法で育成されたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法で選択された多結晶シリコン棒中では、局所的にもランダムな結晶配向状態が実現しており、シリコン融液中の未溶融粒子となり易い局所配向ドメインが極めて少ないか若しくは存在しない。このため、係る多結晶シリコン棒を用いてFZ法で単結晶育成したり、このような多結晶シリコン棒を破砕して得られた多結晶シリコン塊を用いてCZ法で単結晶育成する場合の、局所的未溶融状態の発生が抑制され、単結晶シリコンの安定的製造が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者らは、単結晶シリコンの製造を安定的に行うための多結晶シリコンの品質向上につき検討を進める中で、多結晶シリコン析出時の諸条件の違いにより、多結晶シリコン棒中に含まれる「局所配向ドメイン」の程度に差異が生じるという知見を得るに至った。
【0020】
単結晶シリコンとは異なり、多結晶シリコンは無数の結晶粒から成り、一般に、個々の結晶粒のサイズは概ね数ミクロンから数十ミクロンであり、通常は、個々の結晶粒は互いにランダムに配向していると考えられている。しかし、詳細に調べると、多結晶シリコン中には、概ね同一の結晶方位に配向した領域が認められる場合があり、そのサイズは、大きいものでは数mm程度にもなる。
【0021】
つまり、仮に、結晶全体にわたって評価した平均値をとれば個々の結晶粒がランダムに配向しているように見える多結晶シリコンであっても、局所的には、結晶軸が特定の方位に揃っている領域が存在することがある。換言すれば、マクロに見れば結晶粒がランダム配向していても、ミクロに見れば必ずしもランダム配向していない領域が存在する多結晶シリコンがあり得るのである。
【0022】
このような局所的な配向領域は、いわゆる「結晶ドメイン」(単結晶から成る領域)であることもあるであろうし、個々の結晶方位が略同一に揃った複数の結晶粒で形成される領域、言わば疑似的「結晶ドメイン」とも云うべきものである場合もあろう。
【0023】
多結晶シリコン中にこのような領域が存在する場合には、当該領域は、他の領域に比較して相対的に溶融し難いため、シリコン融液中の未溶融粒子となり易く、単結晶シリコンの安定的製造に支障をきたす結果となる。本明細書では、このような領域を、便宜上、「局所配向ドメイン」と呼ぶこととする。
【0024】
このような局所配向ドメインは、その程度によっては、光学顕微鏡下で確認することは可能である。しかし、上述したように、光学顕微鏡下での視認による良否判断は、観察試料面のエッチングの程度や評価担当者の観察技量等に依存して結果に差が生じ易いことに加え、定量性や再現性にも乏しいという問題がある。
【0025】
本発明者は、単結晶シリコンの安定的製造のために好適な多結晶シリコン棒乃至多結晶シリコン塊の選定手法について検討を進める過程で、上記局所配向ドメインが、X線回折法により評価可能であるとの知見を得るに至った。特に、ミラー指数面<111>および<220>からのピークは、局所配向ドメインの評価に有効であることが判明した。
【0026】
以下では、図面を参照しながら、化学気相法で析出させて育成された多結晶シリコン棒からのX線回折測定用の板状試料の採取例、板状試料からのX線回折プロファイルをθ-2θ法で求める際の測定系例の概略、板状試料からのX線回折プロファイルをφスキャン法で求める際の測定系例の概略、φスキャン測定をミラー指数面<111>、<220>、<311>、<400>について行って得られたチャートの例について説明した上で、板状試料のミラー指数面<111>および<220>についてのφスキャン・チャートに現れるピークの例について説明する。
【0027】
図1A及び
図1Bは、シーメンス法などの化学気相法で析出させて育成された多結晶シリコン棒10からの、X線回折プロファイル測定用の板状試料20の採取例について説明するための図である。図中、符号1で示したものは、表面に多結晶シリコンを析出させてシリコン棒とするためのシリコン芯線である。
【0028】
なお、この例では、多結晶シリコン棒10の結晶配向度(局所配向ドメインの存在の程度)の径方向依存性の有無を確認すべく3つの部位(CTR:シリコン芯線1に近い部位、EDG:多結晶シリコン棒10の側面に近い部位、R/2:CTRとEGDの中間の部位)から板状試料20を採取しているが、このような部位からの採取に限定されるものではない。
【0029】
図1Aで例示した多結晶シリコン棒10の直径は概ね120mmであり、この多結晶シリコン棒10の側面側から、直径が概ね20mmで長さが概ね60mmのロッド11を、シリコン芯線1の長手方向と垂直にくり抜く。
【0030】
そして、
図1Bに図示したように、このロッド11のシリコン芯線1に近い部位(CTR)、多結晶シリコン棒10の側面に近い部位(EDG)、CTRとEGDの中間の部位(R/2)からそれぞれ、多結晶シリコン棒10の径方向に垂直な断面を主面とする厚みが概ね2mmの円板状試料(20
CTR、20
EDG、20
R/2)を採取する。
【0031】
なお、ロッド11を採取する部位、長さ、および本数は、シリコン棒10の直径やくり抜くロッド11の直径に応じて適宜定めればよく、円板状試料20も、くり抜いたロッド11のどの部位から採取してもよいが、シリコン棒10全体の性状を合理的に推定可能な位置であることが好ましい。
【0032】
例えば、2枚の円板状試料を取得する場合には、シリコン棒の周の半径に対し、中心から半径の2分の1である点よりも中心側にある位置と、外側にある位置の2箇所から円板状試料を取得することが好ましい。更に、例えば比較を行う2つのサンプルの取得位置を、中心から半径の3分の1である点よりも中心側にある位置と、中心から半径の3分の2である点よりも外側にある位置とした場合、より高精度な比較ができる。また、比較する円板状試料は1枚以上であればよく、特に上限はない。
【0033】
また、円板状試料20の直径を概ね20mmとしたのも例示に過ぎず、直径はX線回折測定時に支障がない範囲で適当に定めればよい。
【0034】
本発明では、多結晶シリコンの局所配向ドメインをX線回折法により評価するにあたり、上述のようにして採取した板状試料20を、ミラー指数面<hkl>からのブラッグ反射が検出される位置に配置し、スリットにより定められるX線照射領域が板状試料20の主面上をφスキャンするように該板状試料20の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、上記ミラー指数面からのブラッグ反射強度の板状試料20の回転角度(φ)依存性を示すチャートを求め、該チャートからピークトップの回折強度値とベースラインの回折強度値を求める。そして、このピークトップの回折強度値(P)をベースラインの回折強度値(B)で除した値(回折強度比:P/B=R)を多結晶シリコン中に含まれる局所配向ドメインの評価指標として用いる。
【0035】
ここで、上述したように、本発明者らの検討によれば、ミラー指数面<111>および<220>からのピークは、局所配向ドメインの評価に特に有効であるから、上記ミラー指数面<hkl>としては、<111>および<220>の少なくとも一方の面であることが好ましい。
【0036】
また、本発明では、単結晶シリコン製造用原料として用いる多結晶シリコン棒をX線回折法により選択するにあたり、上述の多結晶シリコンの局所配向ドメインの評価方法を利用する。
【0037】
すなわち、本発明に係る多結晶シリコン棒の選択方法は、単結晶シリコン製造用原料として用いる多結晶シリコン棒をX線回折法により選択するための方法であって、前記多結晶シリコン棒は化学気相法による析出により育成されたものであり、該多結晶シリコン棒の径方向に垂直な断面を主面とする板状試料を採取し、該板状試料をミラー指数面<hkl>からのブラッグ反射が検出される位置に配置し、スリットにより定められるX線照射領域が前記板状試料の主面上をφスキャンするように該板状試料の中心を回転中心として回転角度φで面内回転させ、前記ミラー指数面からのブラッグ反射強度の前記板状試料の回転角度(φ)依存性を示すチャートを求め、該チャートからピークトップの回折強度値とベースラインの回折強度値を求め、前記ピークトップの回折強度値(P)を前記ベースラインの回折強度値(B)で除した値(回折強度比:P/B=R)を判定基準として単結晶シリコン製造用原料としての適否を判断する。
【0038】
ここでも、上記ミラー指数面<hkl>としては、<111>および<220>の少なくとも一方の面であることが好ましい。
【0039】
板状試料のミラー指数面<hkl>についてのφスキャン・チャートに現れるピークをどのように定義付けるか等については、ミラー指数面<111>および<220>についてのφスキャン・チャートを例に、後述する。
【0040】
図2は、円板状試料20からのX線回折プロファイルを、いわゆるθ-2θ法で求める際の測定系例の概略を説明するための図である。スリット30から射出されてコリメートされたX線ビーム40(Cu−Kα線:波長1.54Å)は円板状試料20に入射し、円板状試料20をXY平面内で回転させながら、試料回転角度(θ)毎の回折X線ビームの強度を検知器(不図示)で検出して、θ-2θのX線回折チャートを得る。
【0041】
図3は、上記で得られたθ-2θのX線回折チャートの例で、ミラー指数面<111>、<220>、<311>、<400>からの強いブラッグ反射がそれぞれ、2θ=28.40°、47.24°、55.98°、68.98°の位置にピークとなって現れる。
【0042】
図4は、円板状試料20からのX線回折プロファイルを、いわゆるφスキャン法で求める際の測定系の概略を説明するための図である。例えば、円板状試料20の上記θを、ミラー指数面<111>からのブラッグ反射が検出される角度とし、この状態で、円板状試料20の中心から周端に渡る領域にスリットにより定められる細い矩形の領域にX線を照射させ、このX線照射領域が円板状試料20の全面をスキャンするように円板状試料20の中心を回転中心としてYZ面内で回転(φ=0°〜360°)させる。
【0043】
図5は、上記φスキャン測定を、ミラー指数面<111>、<220>、<311>、<400>について行って得られたチャートの一例である。この例では、上記何れのミラー指数面に着目してもブラッグ反射強度は略一定であり、ブラッグ反射強度は回転角φに依存せず、粉末試料と同様のチャートとなっている。つまり、この円板状試料20には、局所配向ドメインが存在しないと判断することができる。
【0044】
図6は、円板状試料20からのX線回折プロファイルをφスキャン法で求める際の他の測定系例の概略を説明するための図で、この図に示した例では、円板状試料20の両周端に渡る領域にスリットにより定められる細い矩形の領域にX線を照射させ、このX線照射領域が円板状試料20の全面をスキャンするように円板状試料20の中心を回転中心としてYZ面内で回転(φ=0°〜180°)させる。
【0045】
図7は、上記φスキャン測定を、ミラー指数面<111>、<220>、<311>、<400>について行って得られたチャートの一例で、実質的に、
図5に示したものと同じφスキャン・チャートが得られている。
【0046】
図8は、円板状試料20からのX線回折プロファイルをφスキャン法で求める際のもうひとつの測定系例の概略を説明するための図で、この図に示した例では、円板状試料20の主面の全体ではなく、内周領域のみにX線を照射させ、このX線照射領域が円板状試料20の全面をスキャンするように円板状試料20の中心を回転中心としてYZ面内で回転(φ=0°〜180°)させる。
【0047】
図9Aおよび
図9Bは、それぞれ、多結晶シリコン棒の中心部から採取した板状試料のミラー指数面<111>についてのφスキャン・チャート例、および、多結晶シリコン棒の外周部から採取した板状試料のミラー指数面<220>についてのφスキャン・チャート例である。
【0048】
図9Aのミラー指数面<111>についてのφスキャン・チャートには、多数のピークが表れており、<111>方向に局所的に配向したドメインが存在していることを示している。この例では、最も強いピークのトップの回折強度値(P)と、ベースラインの回折強度値(B)の比(P/B=R)は、1.90と求められる。
【0049】
また、
図9Bのミラー指数面<220>についてのφスキャン・チャートにも、複数のピークが表れており、<220>方向に局所的に配向したドメインが存在していることを示している。この例では、最も強いピークのトップの回折強度値(P)と、ベースラインの回折強度値(B)の比(P/B=R)は、11.2と求められる。
【0050】
図10は、板状試料のミラー指数面<hkl>についてのφスキャン・チャートに現れるピークをどのように定義付けるかを説明するための図である。
【0051】
結晶が完全にランダムに配向していれば、特定のミラー指数面<hkl>からの回折強度は一定であるから、φスキャンを行っても「ベースライン」の回折強度は概ね一定のはずである。しかし、局所配向ドメインが存在するとピークが現れ、「ベースライン」も「ノイズ」を帯びたものとなる。
【0052】
本発明者は、このようなφスキャン・チャート中のピークの有無を、例えば、「ピーク」近傍の「ベースライン」の上限値B
Hと下限値B
Lの回折強度値の平均値をベースラインの回折強度値Bとし、「ピーク」のトップの回折強度値Pが、下記の関係式を満足する場合に、当該「ピーク」を局所配向ドメイン評価のためのピークとして採用することとした。
【0054】
後述するように、このような方法において、ミラー指数面<hkl>が<111>である場合の回折強度比(R
111)と、ミラー指数面<hkl>が<220>である場合の回折強度比(R
220)を求め、回折強度比R
111が1.8以下で、かつ、回折強度比R
220が12以下である場合に、単結晶シリコン製造用原料として用いる多結晶シリコン棒として選択することが好ましい。
【0055】
なお、
図8に示したようなX線照射領域から得られるφスキャン・チャートと、上述の円板状試料20の主面全体から得られるφスキャン・チャートとの差分を求める等の処理を行うと、円板状試料20の面内での局所配向ドメインの分布を得ることも可能となる。
【0056】
尤も、
図1A〜1Bに示したような態様で採取された円板状試料20については面内での局所配向ドメイン分布は生じないと考えられるが、本発明に係る局所配向ドメインの評価は、シーメンス法等により育成された多結晶シリコン棒の選択方法としてのみならず、多結晶シリコン全般をX線回折法により評価する方法としても有意であることは言うまでもない。
【0057】
従って、例えば、化学気相法による析出で育成された多結晶シリコン棒の径方向と平行に切り出された円板状試料につき面内での局所配向ドメイン分布を求めることにより、多結晶シリコン棒内での局所配向ドメインの有無乃至多結晶シリコン棒の口径拡大に伴う局所配向ドメインの変化等を知ることも可能となり、これにより単結晶シリコン製造用原料として好適な多結晶シリコン棒を選択することが可能となる。
【0058】
つまり、局所配向ドメインの存在が認められない領域からのミラー指数面<hkl>についてのφスキャン・チャートにはピークが現れない一方、局所配向ドメインの存在が認められる領域からのミラー指数面<hkl>についてのφスキャン・チャートにはピークが現れる。本発明者らの検討によれば、この現象は、ミラー指数面<hkl>が、<111>と<220>において特に顕著である。
【0059】
従って、上述の手法で多結晶シリコン中の局所配向ドメインの存否を評価し、その程度に応じて、単結晶シリコン製造用原料として好適な多結晶シリコン棒乃至は当該多結晶シリコン棒を破砕して得られた多結晶シリコン塊を選択することにより、単結晶シリコン製造の安定性が高まることになる。
【0060】
ここで、各ミラー指数面<hkl>についてのφスキャン・チャートに現れるピークの最大値は、上述の意味での「局所配向ドメイン」を構成する領域にある結晶粒の配向の程度に依存しており、ピークの幅は、「局所配向ドメイン」にX線が照射されるφスキャン時の試料の回転角度、つまり、「局所配向ドメイン」の領域の幅に相当するものであり、「局所配向ドメイン」の形状が円形であれば直径に相当し、不定形であればこれを円形近似した場合の直径に相当する。
である。
【0061】
本発明者らの検討により、光学顕微鏡観察において「局所配向ドメイン」が確認されない試料であっても、上述の手法で評価するとφスキャン・チャートにピークが現れ、「局所配向ドメイン」を含むと判断されるものがあることが明らかになった。つまり、本発明の方法によれば、光学顕微鏡では観察不能乃至は見落される程度の「局所配向ドメイン」であっても、検出が可能である。
【0062】
また、本発明者らの検討によれば、多数の多結晶シリコン棒から試料を採取して上述の局所配向ドメイン評価を行い、各多結晶シリコン棒を原料としてFZ法で単結晶化を試みたところ、局所配向ドメインの含有レベルが低いと評価されるものでは単結晶化の工程で結晶線が消失しない一方、局所配向ドメインの含有レベルが比較的高いと評価されるものでは単結晶化の工程で結晶線が消失する確率が高いことが判明した。
【0063】
本発明では、局所配向ドメインの含有レベルが低いと判断する基準として、ミラー指数面<hkl>が<111>である場合の回折強度比(R
111)と、ミラー指数面<hkl>が<220>である場合の回折強度比(R
220)を求め、回折強度比R
111が1.8以下で、かつ、回折強度比R
220が12以下であることを提案する。
【0064】
このような局所配向ドメインの生成メカニズムの詳細は不明な点も多いが、多結晶シリコン棒を製造する際には、その成長に伴って表面積当たりの原料供給量や表面温度の状態も変化するため、局所配向ドメインは、シリコン棒の長軸方向での部位依存性よりも、半径方向での部位依存性の方が高くなりやすい傾向がある。
【実施例】
【0065】
異なる析出条件下で育成された多結晶シリコン棒を6本準備した(A〜F)。これらの多結晶シリコン棒のそれぞれにつき、
図1Aおよび1Bで示した3つの部位から、厚みが概ね2mmの円板状試料(20
CTR、20
EDG、20
R/2)を採取し、
図6に示した測定系により、ミラー指数面<111>及び<220>のφスキャン・チャートを得た。なお、円板状試料20の直径は約20mmである。
【0066】
これらの多結晶シリコン棒から得られた円板状試料毎(A〜F)のピークトップの回折強度とベースラインの回折強度Bの比(P/B)、および、これらの多結晶シリコン棒を用いてFZ法による単結晶シリコンロッドの育成を行った際の結晶線消失の有無を、表1に纏めた。なお、何れの多結晶シリコン棒についても、同一成長方向の中央部と外側部から取得した円板状試料を評価して得た値のうちの高い方で評価しており、回折強度の単位はkcpsである。
【0067】
【表1】
【0068】
A〜Fの何れの試料についても、光学顕微鏡観察において、局所配向ドメインは確認されなかったが、試料DとEにおいて、FZ結晶線の消失が確認された。
【0069】
試料DにおいてFZ結晶線の消失が確認された理由は、<220>のP/Bの値が12を超えたためであると考えられる。また、試料EにおいてFZ結晶線の消失が確認された理由は、<110>のP/Bの値が1.8を超えたためであると考えられる。
【0070】
そこで、本発明では、局所配向ドメインの含有レベルが低いと判断する基準として、ミラー指数面<hkl>が<111>である場合の回折強度比(R
111)と、ミラー指数面<hkl>が<220>である場合の回折強度比(R
220)を求め、回折強度比R
111が1.8以下で、かつ、回折強度比R
220が12以下であることを提案する。