特許第5985746号(P5985746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985746
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ブレイトンサイクル冷凍機
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/06 20060101AFI20160823BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20160823BHJP
   F25B 1/10 20060101ALI20160823BHJP
   F25B 41/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   F25B9/06 Z
   F25B1/00 391
   F25B1/10 R
   F25B41/00 L
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-519709(P2015-519709)
(86)(22)【出願日】2014年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2014057679
(87)【国際公開番号】WO2014192382
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2015年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-116116(P2013-116116)
(32)【優先日】2013年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】植田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】町田 明登
(72)【発明者】
【氏名】工藤 瑞生
(72)【発明者】
【氏名】仲村 直子
【審査官】 柿沼 善一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−251667(JP,A)
【文献】 特開平05−272357(JP,A)
【文献】 特開2011−106755(JP,A)
【文献】 特開2003−148824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/06
F25B 1/00
F25B 1/10
F25B 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒ライン上にて直列接続された多段式の圧縮機によって圧縮された冷媒を用いて冷熱を発生させるブレイトンサイクルにより冷媒を冷却するブレイトンサイクル冷凍機であって、
極低温状態で超電導体を利用した超電導機器を冷却対象として熱負荷を検出する熱負荷検出手段と、
前記圧縮機で圧縮される前の冷媒が流れる低圧ラインと前記圧縮機で圧縮された後の冷媒が流れる高圧ラインとの間に設けられたバッファタンクと、
前記バッファタンクの入口側に設けられることにより、前記バッファタンクへの冷媒流入量を制御可能な第1のバルブと、
前記バッファタンクの出口側に設けられることにより、前記バッファタンクからの冷媒流出量を制御可能な第2のバルブと、
前記第1のバルブ及び前記第2のバルブの開度を制御する制御手段と、
を備え、
前記冷却対象において熱負荷の変動が検出され、熱負荷が増加している場合、前記制御手段は、第1のバルブを閉じた状態で第2のバルブを開くように制御して前記冷凍機の冷却能力を増加するように調整し、
一方、前記熱負荷が減少している場合、前記制御手段は、第2のバルブを閉じた状態で第1のバルブを開くように制御して、前記冷凍機の冷却能力を低下するように調整することを特徴とするブレイトンサイクル冷凍機。
【請求項2】
前記高圧ラインは、最下流側に配置された前記圧縮機から冷媒が排出されるラインであり、
前記低圧ラインは、最上流側に配置された前記圧縮機に冷媒を供給するラインであることを特徴とする請求項1に記載のブレイトンサイクル冷凍機。
【請求項3】
前記圧縮機で圧縮された冷媒と冷却対象を冷却後の冷媒とを熱交換する冷熱回収熱交換器を備え、
前記高圧ラインは前記圧縮機と前記冷熱回収熱交換器との間から分岐されていることを特徴とする請求項2に記載のブレイトンサイクル冷凍機。
【請求項4】
前記ブレイトンサイクルの冷却部は、熱交換器を介して冷却対象を循環する二次冷媒を冷却し、
前記熱負荷検出手段は、前記二次冷媒が流れるライン上に設けられた温度センサであることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のブレイトンサイクル冷凍機。
【請求項5】
前記多段式の圧縮機は、上流側から順に第1の圧縮機、第2の圧縮機及び第3の圧縮機が直列接続されて構成されており、
前記第1の圧縮機及び前記第2の圧縮機は、第1の電動モータの出力軸上に連結されており、
前記第3の圧縮機及び前記膨張機は、第2の電動モータの出力軸上に連結されていることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のブレイトンサイクル冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却対象における熱負荷変動に対して冷却能力を制御可能なブレイトンサイクル冷凍機の技術分野に関する。
尚、冷凍機に用いられるブレイトンサイクルは、熱機関として用いられるブレイトンサイクルに対して「逆ブレイトンサイクル」と呼ばれるが、本明細書は単に「ブレイトンサイクル」と称することとする(「超電導・低温工学ハンドブック」1993オーム社(社団法人低温工学協会編)を参照)。
【背景技術】
【0002】
圧縮機や膨張機のような回転機を用いる冷凍サイクルの一種として、ブレイトンサイクルを利用した冷凍機が知られている。このような冷凍サイクルでは、例えば特許文献1や特許文献2のように、冷媒が流れる循環経路上に複数段に亘って圧縮機や膨張機を直列配置することによって、冷却能力を向上させるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−148824号公報
【特許文献2】特開平9−329034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の冷凍機では、冷却対象の熱負荷が変動した場合、圧縮機や膨張機の回転数を制御することによって、冷凍能力を熱負荷に応じで調整することが行われている。しかしながら、冷凍能力を回転数制御によって制御した場合、回転数の変化に伴って、冷媒の流量、圧力比、温度などのような他の制御パラメータにも変動をきたしてしまう。そのため、冷凍能力を熱負荷に対応した所定の目標値に収束させるまでに時間を要してしまう場合があり、良好な応答性を得ることが難しいという問題点がある。
【0005】
特に上述した特許文献のように多段式の回転機を用いた場合には、個々の圧縮機の回転数を制御しようとすると、それに伴って変動する制御パラメータの数が多くなってしまい、上述の問題点はより一層顕著なものになってしまう。
【0006】
回転数制御によって冷凍能力の調整を行う場合には、膨張機の膨張比および断熱効率が低下することによって、冷凍機の成績係数(COP)が悪化してしまうという問題もある。本出願人の検証によれば、回転数を約10%変化させると、COPは約30%低減することが見出されている。
【0007】
本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり、多段式圧縮機を用いたブレイトンサイクルを利用した冷凍機において、冷却対象の熱負荷変動に対して効率の低下を伴うことなく、良好な応答性を有するブレイトンサイクル冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るブレイトンサイクル冷凍機は上記課題を解決するために、冷媒ライン上にて直列接続された多段式の圧縮機によって圧縮された冷媒を用いて冷熱を発生させるブレイトンサイクルにより冷媒を冷却するブレイトンサイクル冷凍機であって、
極低温状態で超電導体を利用した超電導機器を冷却対象として熱負荷を検出する熱負荷検出手段と、
前記圧縮機で圧縮される前の冷媒が流れる低圧ラインと前記圧縮機で圧縮された後の冷媒が流れる高圧ラインとの間に設けられたバッファタンクと、
前記バッファタンクの入口側に設けられることにより、前記バッファタンクへの冷媒流入量を制御可能な第1のバルブと、
前記バッファタンクの出口側に設けられることにより、前記バッファタンクからの冷媒流出量を制御可能な第2のバルブと、
前記第1のバルブ及び前記第2のバルブの開度を制御する制御手段と、
を備え、
前記冷却対象において熱負荷の変動が検出され、熱負荷が増加している場合、前記制御手段は、第1のバルブを閉じた状態で第2のバルブを開くように制御して前記冷凍機の冷却能力を増加するように調整し、
一方、前記熱負荷が減少している場合、前記制御手段は、第2のバルブを閉じた状態で第1のバルブを開くように制御して、前記冷凍機の冷却能力を低下するように調整することを特徴とする。
【0009】
このように本発明によれば、冷却対象において熱負荷の変動が検出された場合に、第1のバルブ及び第2のバルブの開度を調整することにより、ブレイトンサイクルを流れる冷媒流量の制御によって、冷凍能力を調整できる。このような冷媒の流量制御では、冷媒の体積流量を一定にしつつ質量流量を変化させるため、圧力比や温度のような他の制御パラメータの変動を伴わず、熱負荷の変動に対して良好な応答性が得られる。また冷媒の流量制御では、従来の回転数制御で懸念される膨張機の断熱効率の低下を招かないため、成績係数の悪化を回避することができる。
【0010】
また、バッファタンクは圧力差のある低圧ラインと高圧ラインとの間に設けられているため、高圧ライン上に設けられた第1のバルブを開閉することによって、バッファタンクと高圧ラインとの圧力差に基づいて、バッファタンクへの冷媒の導入を行うことができる。一方、低圧ライン上に設けられた第2のバルブを開閉することによって、バッファタンクと低圧ラインとの圧力差に基づいて、バッファタンクからの冷媒の排出を行うことができる。このように、バッファタンクを用いた流量制御は、外部からの動力供給を必要としないため、エネルギー効率的にも優れている。
【0011】
本発明の一態様では、前記高圧ラインは、最下流側に配置された前記圧縮機から冷媒が排出されるラインであり、前記低圧ラインは、最上流側に配置された前記圧縮機に冷媒を供給するラインであってもよい。
この態様によれば、高圧ラインと低圧ラインとの間の圧力差を大きく確保できるので、第1のバルブ及び第2のバルブの開閉制御によって、バッファタンクへの冷媒の導入・排出による流量制御を容易に行うことができる。
【0012】
この場合、前記圧縮機で圧縮された冷媒と冷却対象を冷却後の冷媒とを熱交換する冷熱回収熱交換器を備え、前記高圧ラインは前記圧縮機と前記冷熱回収熱交換器との間から分岐されていてもよい。
この態様によれば、冷熱回収熱交換器において冷却対象を冷却後の冷媒に残った冷熱を用いて、膨張機に供給される高温の冷媒を予冷することで冷凍能力を向上できる。バッファタンクに冷媒を導入して流量制御する場合、冷熱回収熱交換器の上流側から分岐してバッファタンクに冷媒を導入することで、冷熱回収熱交換器に供給される冷媒流量が少なくなるので、冷熱回収熱交換器による冷媒の冷却をより効果的に発揮することができる。
【0013】
また他の態様では、前記制御手段は、前記熱負荷検出手段により検出された熱負荷の変化率が予め設定された所定値より大きい場合、前記圧縮機及び膨張機の回転数を制御した後に、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブの開度を調整してもよい。
この態様によれば、冷却対象において急激な熱負荷変動が生じた場合には、上述のバルブの開度調整による冷媒の流量制御に先じて、圧縮機及び膨張機の回転数を制御することにより、大きな熱負荷変動に対しても良好な応答性が得えられる。
【0014】
また他の態様では、前記ブレイトンサイクルの冷却部は、熱交換器を介して冷却対象を循環する二次冷媒を冷却し、前記熱負荷検出手段は、前記二次冷媒が流れるライン上に設けられた温度センサであってもよい。
この態様によれば、冷却対象における熱負荷の変動を検出するための熱負荷検出手段を二次冷媒が流れるライン上に設けられた温度センサとすることで、冷却対象における熱負荷の変動を迅速に検出することができるので、応答性に優れたブレイトンサイクル冷凍機を実現できる。
【0015】
また他の態様では、前記多段式の圧縮機は、上流側から順に第1の圧縮機、第2の圧縮機及び第3の圧縮機が直列接続されて構成されており、前記第1の圧縮機及び前記第2の圧縮機は、第1の電動モータの出力軸上に連結されており、前記第3の圧縮機及び前記膨張機は、第2の電動モータの出力軸上に連結されていてもよい。
この態様によれば、第1から第3の圧縮機をそれぞれ循環経路上に直列に設けることによって多段圧縮が可能に構成されている。特に第1の圧縮機は第2の圧縮機と共に第1の電動モータの出力軸上に連結されることにより、圧縮機毎に動力源を設ける場合に比べて構成をシンプル化できる。第3の圧縮機もまた、膨張機と共に第2の電動モータの出力軸上に連結されることにより構成をシンプル化できることに加えて膨張機で回収した動力が第3の圧縮機の圧縮動力に寄与することによって、効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷却対象において熱負荷の変動が検出された場合に、第1のバルブ及び第2のバルブの開度を調整することにより、ブレイトンサイクルを流れる冷媒流量の制御によって、冷凍能力を調整できる。このような冷媒の流量制御では、冷媒の体積流量を一定にしつつ質量流量を変化させるため、圧力比や温度のような他の制御パラメータの変動を伴わず、熱負荷の変動に対して良好な応答性が得られる。また冷媒の流量制御では、従来の回転数制御で懸念される膨張機の膨張比および断熱効率の低下を招かないため、成績係数の悪化を回避することができる。
【0017】
また、バッファタンクは圧力差のある低圧ラインと高圧ラインとの間に設けられているため、高圧ライン上に設けられた第1のバルブを開閉することによって、バッファタンクと高圧ラインとの圧力差に基づいて、バッファタンクへの冷媒の導入を行うことができる。一方、低圧ライン上に設けられた第2のバルブを開閉することによって、バッファタンクと低圧ラインとの圧力差に基づいて、バッファタンクからの冷媒の排出を行うことができる。このように、バッファタンクを用いた流量制御は、外部からの動力供給を必要としないため、エネルギー効率的にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施例に係るブレイトンサイクル冷凍機(以下、適宜「冷凍機」と称する)100の全体構成を概念的に示す模式図である。
図2】冷凍機が有するブレイトンサイクルのT−S線図である。
図3】本実施例に係る冷凍機における圧縮機の圧縮比と成績係数比との関係を示すグラフである。
図4】熱負荷の変動時におけるコントローラの制御内容を示すフローチャートである。
図5】本実施例に係る冷凍機における圧力センサの検出値と各圧縮機及び膨張機における断熱効率比との関係を示すグラフである。
図6】本実施例に係る冷凍機における圧力センサの検出値と成績係数との関係を示すグラフである。
図7】比較例に係る冷凍機における圧力センサの検出値と各圧縮機及び膨張機における断熱効率比との関係を示すグラフである。
図8】比較例に係る冷凍機における圧力センサの検出値と成績係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りはこの発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0020】
図1は本実施例に係るブレイトンサイクル冷凍機(以下、適宜「冷凍機」と称する)100の全体構成を概念的に示す模式図である。図2は冷凍機100が有するブレイトンサイクルのT−S線図であり、縦軸が温度T[K]を示し、横軸がエントロピーS[KJ/kgK]を示している。尚、図2(b)は、図2(a)の破線で囲んだ領域を拡大して示したものである。
【0021】
冷凍機100では、冷媒が流れる循環経路101上に、冷媒を圧縮する圧縮機102と、圧縮された冷媒を冷却水と熱交換することにより冷却する熱交換器103と、冷却後の冷媒を膨張する膨張機104と、冷媒と冷却対象との熱交換を行う熱交換器からなる冷却部105と、冷媒の冷熱を回収するための冷熱回収熱交換器106が順に設けられており、定常循環流れの冷凍サイクルによる向流型熱交換器方式のブレイトンサイクルが形成されている。
【0022】
尚、本実施例に係る冷凍機100では、極低温状態で超電導体を利用した超電導機器(不図示)を冷却対象としている。冷却対象である超電導機器側では、冷却部105において冷凍機100で用いられる冷媒と熱交換される二次冷媒として液体窒素が用いている(図1では、冷却対象のうち冷媒である液体窒素が循環する循環経路150のみを示している)。これにより、超電導機器の熱負荷によって昇温された循環経路150を流れる液体窒素が、冷凍機100によって冷却された循環経路101を流れる冷媒と熱交換することによって、冷却されるようになっている。
そして、二次冷媒が流れる循環経路150上には、冷却対象の熱負荷を検出する熱負荷検出手段である温度センサ160が設けられている。
【0023】
尚、冷凍機100側の循環経路101を流れる冷媒としては、冷却温度などに応じて適宜、ガスの種類を選択してよく、例えばヘリウム、ネオン、水素、窒素、空気、炭化水素などを用いるとよい。
【0024】
冷凍機100は、循環経路101上に複数の圧縮機102a、102b、102cと熱交換器103a、103b、103cを備える。熱交換器103a、103b、103cは、圧縮機102a、102b、102cの下流側にそれぞれ設けられ、断熱圧縮によって昇温した冷媒を、冷却水との間で熱交換することにより冷却できるようになっている。
【0025】
循環経路101を流れる冷媒は、まず最上流側にある圧縮機102aによって断熱圧縮されて温度が上昇した後(図2(b)の符号151に相当)、下流側に設けられた熱交換器103aにおいて冷却水と熱交換することにより冷却される(図2(b)の符号152に相当)。その後、冷媒は再び圧縮機102bによって断熱圧縮されて温度が上昇した後(図2(b)の符号153に相当)、下流側に設けられた熱交換器103bにおいて冷却水と熱交換することにより冷却される(図2(b)の符号154に相当)。そして更に、冷媒は再度、圧縮機102cによって断熱圧縮されて温度が上昇した後(図2bの符号155に相当)、下流側に設けられた熱交換器103cにおいて冷却水と熱交換することにより冷却される(図2(b)の符号156に相当)。
【0026】
このように冷凍機100では、複数段に亘って圧縮機102による断熱圧縮と、熱交換器103による冷却とを繰り返すことによって効率向上が図られている。すなわち、断熱圧縮と冷却との繰り返しを複数段に亘って行うことで、ブレイトンサイクルの圧縮工程を理想的な等温圧縮に近づけている。この段数は多い程、等温圧縮に近似することになるが、段数が増えることによる圧縮比の選択、装置構成の複雑化、運用の簡易性などを考慮して段数を決定するとよい。
【0027】
熱交換器103cを通った冷媒は、冷熱回収熱交換器106によって更に温度が冷却された後(図2(a)の符号157に相当)、膨張機104によって断熱膨張され、冷熱を生成する(図2(a)の符号158に相当)。
尚、図1の例では、単一の膨張機104を有する冷凍機100を示しているが、圧縮機102と同様に、循環経路101に対して直列に複数の膨張機が設けられていてもよい。
【0028】
膨張機104から排出された冷媒は、冷却部105において、冷却対象である超電導機器内の循環経路150を流れる液体窒素と熱交換され、熱負荷によって温度が上昇する(図2(a)の符号159に相当)。
【0029】
冷却部105で昇温された冷媒は、冷熱回収熱交換器106に導入され、上述の熱交換器103cを通った高温の圧縮冷媒と熱交換することにより、残った冷熱を回収する。これにより、冷却対象を冷却した後に冷媒に残っている冷熱を用いて、膨張機104に導入される冷媒の温度を低下させることができるので、冷却効率の向上が図られている。
【0030】
このように冷凍機100では、圧縮機102や膨張機104のような複数の回転機を用いてブレイトンサイクルが構成されている。
上流側の2つの圧縮機102a及び102bは、共通の動力源である電動機107aの出力軸108aの両端にそれぞれ連結されることによって、部品填数を削減し、少ない設置スペースに敷設可能に構成されている。下流側の圧縮機102c及び膨張機104もまた、共通の動力源である電動機107bの出力軸108bの両端にそれぞれ連結されることによって部品填数を削減し、少ない設置スペースに敷設可能に構成されているが、これに加えて、膨張機104で回収した動力が圧縮機102cの圧縮動力に寄与することによって、効率化が図られている。
【0031】
ここで図3は本実施例に係る冷凍機100における圧縮機102の圧縮比と成績係数比(COP比)との関係を示すグラフである。このグラフによれば、圧縮機102の圧縮比が約1.40付近の場合にCOPが最大値を取ることが解析的に示されている。本出願人らの研究によれば、圧縮比を約1.40と設定するためには、圧縮機の段数を「3」にすると共に、膨張機の段数を「1」に設定することが最適であることが見出された。
【0032】
再び図1に戻って、ブレイトンサイクルを構成する冷媒ラインである循環経路101のうち、圧縮機102で圧縮される前の冷媒が流れる低圧ライン109と前記圧縮機で圧縮された後の冷媒が流れる高圧ライン110との間には、バッファタンク111が設けられている。バッファタンク111の入口側(高圧ライン110側)には、該バッファタンク111への冷媒流入量を制御可能な第1のバルブ112が設けられてり、バッファタンク111の出口側(低圧ライン109側)には、該バッファタンク111からの冷媒流出量を制御可能な第2のバルブ113が設けられている。
【0033】
第1のバルブ112及び第2のバルブ113は、本発明に係る制御手段の一例であるコントローラ200からの制御信号に基づいて開度を調整可能な電動弁であり、ブレイトンサイクルを構成する循環経路101とバッファタンク111との間で、冷媒の流入出できるように構成されている。
【0034】
コントローラ200は冷凍機100の動作を統括的に制御するコントロールユニットであり、上述の温度センサ160の検出値に基づいて、冷凍機100の各構成要素を制御することによって、冷却対象の熱負荷の変動に応じた冷凍能力の調整を行う。
本実施例では特に、温度センサ160を二次冷媒が流れる循環経路150上に設けることによって、冷却対象における熱負荷の変動を迅速に検出することができるので、応答性に優れたブレイトンサイクル冷凍機を実現している。
【0035】
また最上流側に配置されている圧縮機102aの入口付近には、各圧縮機102にて圧縮される前の冷媒圧力を検出するための圧力センサ170が設けられている。圧力センサ170の検出値は、循環経路101を流れる冷媒流量に対応しており、上述の温度センサ160の検出値と同様に、コントローラ200に送信されて各種制御に利用されるようになっている。
【0036】
続いて図4を参照して、冷凍機100におけるコントローラ200の制御内容について説明する。図4は熱負荷の変動時におけるコントローラ200の制御内容を示すフローチャートである。
【0037】
まずコントローラ200は温度センサ160の検出値に基づいて、冷却対象における熱負荷の変動の有無を判断する(ステップS101)。熱負荷の変動が有る場合(ステップS101:YES)、コントローラ200は熱負荷の変化率を算出し、その正負を判断する(ステップS102)。尚、熱負荷の変動が無い場合は(ステップS101:NO)、ステップS101に戻して処理を繰り返して待機する。
【0038】
熱負荷の変化率が正である場合(ステップS102:YES)、すなわち熱負荷が増加している場合、コントローラ200は第1のバルブ112を閉じた状態で第2のバルブ113を開くように制御する(ステップS103)。すると、バッファタンク111には、バッファタンク111内と低圧ライン109との圧力差によって、バッファタンク111に貯留された冷媒が低圧ライン109に排出され、ブレイトンサイクルを流れる冷媒流量(圧力)が増加する。その結果、冷却対象の熱負荷の増加に応じて、冷凍機100の冷却能力を増加するように調整する。
【0039】
一方、熱負荷の変化率が負である場合(ステップS102:NO)、すなわち熱負荷が減少している場合、コントローラ200は第2バルブ113を閉じた状態で第1のバルブ112を開くように制御する(ステップS104)。すると、バッファタンク111には、高圧ライン110とバッファタンク111内との圧力差によって、高圧ライン110を流れる冷媒の一部が導入され、循環経路101を流れる冷媒流量(圧力)が減少する。その結果、冷却対象の熱負荷の減少に応じて、冷凍機100の冷却能力を低下するように調整する。
【0040】
尚、第1のバルブ112及び第2のバルブ113は、このような流量制御の際に開度調整が必要となるので、電動弁を用いることが好ましい。
【0041】
コントローラ200による第1のバルブ112及び第2のバルブ113の開度制御は、例えば循環経路101を流れる冷媒流量が温度センサ160によって検出された熱負荷の変化率に対応した目標流量になるように制御するとよい。この際の目標流量は、例えば目標流量に対応する各バルブの目標開度と温度センサ160の検出値の変化率との関係を、予めマップとしてメモリなどの記憶手段に記憶させておき、温度センサの実測値と照らし合わせて、バルブの開度制御を行うようにするとよい。
【0042】
ここで図5は本実施例に係る冷凍機100における圧力センサ170の検出値と各圧縮機102及び膨張機104における断熱効率比との関係を示すグラフであり、図6は圧力センサ170の検出値と成績係数(COP)との関係を示すグラフである。尚、図5及び図6では、圧力センサ170の検出値が170kPaを基準として断熱効率比とCOPを計算した結果を示している。
これらのグラフに示されているように、本実施例に係る冷凍機100では、各圧縮機102で圧縮される前の冷媒圧力が変化した場合であっても、断熱効率比と成績係数(COP)とは共に略一定に維持され、変化しないとの結果が得られた。
【0043】
一方、図7及び図8は、従来のように冷凍能力の調整を圧縮機102及び膨張機104の回転数制御のみによって行った場合における回転数と断熱効率比及び成績係数(COP)との関係を示すグラフである。すなわち、図7及び図8は従来の回転数制御を行った場合を示す比較例である。尚、図7及び図8では、100%の回転数を基準として断熱効率比及びCOPを計算した結果を示している。
この場合、図7に示すように、回転数の変動に伴って回転機における断熱効率比も低下しており、特に膨張機104においてその傾向が顕著に現れている。また、回転数の変動に伴い、膨張比も低下する。その結果、図8に示すようにCOPが低下しており、冷凍機の冷凍性能が低下してしまっている。
【0044】
このように本実施例に係る冷凍機100では、冷却対象において熱負荷の変動が検出された場合に、第1のバルブ112及び第2のバルブ113の開度を調整することにより、循環経路101を流れる冷媒流量を変化させて冷凍能力の制御を行う。このような冷媒の流量制御では冷媒の体積流量を一定にしつつ質量流量を変化させるため、圧力比や温度のような他の制御パラメータの変動を伴わないため、熱負荷の変動に対して迅速な応答性を得ることができる。また冷媒の流量制御では、従来の回転数制御で懸念される膨張機の断熱効率の低下を招かないため、冷凍能力を一定に確保できる。
【0045】
また、バッファタンク111は、圧力差のある低圧ライン109と高圧ライン110との間に設けられている。そのため、高圧ライン110上に設けられた第1のバルブ112を開閉することによって、バッファタンク111と高圧ライン110との圧力差に基づいて、バッファタンク111への冷媒の導入を行うことができる。一方、低圧ライン109上に設けられた第2のバルブ113を開閉することによって、バッファタンク111と低圧ライン109との圧力差に基づいて、バッファタンク111からの冷媒の排出を行うことができる。このように、バッファタンク111による流量制御は外部からの動力供給を必要としないため、エネルギー効率にも優れている。
【0046】
特にバッファタンク111は最下流側に配置された圧縮機102cから冷媒が排出される高圧ライン110と、最上流側に配置された圧縮機102aに冷媒を供給する低圧ライン109との間に設けられることによって圧力差を大きく確保できるようにしているため、第1のバルブ112及び第2のバルブ113の開閉制御によって、バッファタンク111への冷媒の導入・排出を容易に行うことができる。
【0047】
更に、バッファタンク111が接続されている高圧ライン110は圧縮機102cと冷熱回収熱交換器106との間から分岐されている。これにより、冷却部105において冷却対象を冷却後の冷媒に残った冷熱を用いて、膨張機104に供給される高温の冷媒を予冷することで冷凍能力を向上できる。バッファタンク111に冷媒を導入して流量制御する場合、冷熱回収熱交換器106の上流側から分岐してバッファタンク111に冷媒を導入することで、冷却部105への冷媒流量が少なくなるので、冷熱回収熱交換器106による冷媒の冷却をより効果的に得られる。
【0048】
再び図1に戻って、本実施例に係る冷凍機100では、高圧ライン110からバッファタンク111をバイパスして低圧ライン109に接続するバイパスライン114が設けられており、該バイパスライン114上には第3のバルブ115が設けられている。第3のバルブ115は、コントローラ200からの制御信号に基づいて冷凍機100の始動時に開状態に切り替えられることによって、圧縮機102や膨張機104を高回転で運転して予冷を行い、スムーズな冷却を可能にする。
尚、このような始動時の高回転運転は、冷凍機100に用いられる熱交換器等の冷却速度の許容範囲内で行うとよい。
【0049】
循環経路101では、定格運転条件で最も密度が高くなる膨張機104の入口付近の流路に最小断面が存在するため、予冷時には膨張機104の吸入温度が高くなりやすい(冷媒密度が低くなりやすい)。すると、当該箇所における冷媒流量が少なくなるため、この状態で回転数を上げると、サージング現象を生じることがある。
【0050】
そこで、本実施例の冷凍機では、サージングが発生する可能性が高まった状態が検出された場合には、第3のバルブ115を開くように制御することによって、高圧ライン110から低圧ライン109に冷媒を逃がして(バッファタンク111をバイパスして)冷媒の流量を確保することによって、予冷時における圧縮機102のサージングを防止できる。このようなバルブ制御は、例えば、膨張機104の入口付近に第2の温度センサ180を設け、コントローラ200にて当該温度センサ180の検出値に基づいてサージングの発生可能性が高いと判断された場合に、第3のバルブ115を自動的に開制御するとよい。
【0051】
尚、このように第3のバルブ115もまた、コントローラ200による開度調整が必要となるので、電動弁を用いることが好ましい。
【0052】
また循環経路101のうち圧縮機102bと圧縮機102cとの間からバッファタンク111に分岐する第2のバイパスライン116が設けられており、当該第2のバイパスライン116上には第4のバルブ117が設けられている。圧縮機102や膨張機104といった回転機や、当該回転機への動力供給のためのインバータ(不図示)のような制御系に不具合が生じることによっていずれかの圧縮機102が停止した場合、ブレイトンサイクルを流れる冷媒流量が減少し、他の圧縮機102においてもサージングを招いてしまう可能性がある。このような場合、コントローラ200によって第4のバルブ117を開放制御することで、バッファタンク111に冷媒を放出することでサージングを防ぐことができる。このような第4のバルブ117の開閉制御は、例えば、コントローラ200において不図示のセンサによって圧縮機102及び膨張機104の回転数や、インバータ等の各種制御系の出力をモニタリングすることでサージングの検出を行い、回転数の低下やエラー信号を検知した場合にサージングが生じたと判断して、第4のバルブ117を開放するように制御するとよい。
【0053】
尚、第4のバルブ117は、コントローラ200からの開放指令に対して素早い応答が必要なため電磁弁を用いることが好ましい。また更に、高圧ライン110からバッファタンク111に電磁弁118を設け、コントローラ200からの制御信号に基づいて開閉することで、何らかの異常が生じた場合に、高圧ライン110を流れる冷媒をバッファタンク111に逃がせるように構成してもよい。
【0054】
上述した第1乃至第4のバルブは、例えば冷凍機100において何らかの異常が発生するなどの緊急事態が生じた場合には、開閉制御することにより循環経路101を流れる冷媒をバッファタンク111に逃がすようにしてもよい。これにより、循環経路101における冷媒圧力の意図しない上昇や、圧縮機102におけるサージングを事前に回避できるので、安全性に優れた冷凍機100を実現できる。この場合、例えば、冷媒の流量や圧力比をセンサによってモニタリングし、各種バルブの開度を制御するとよい。
【0055】
このようなサージングの回避を回転数制御のみによって行おうとすると、回転数の無段階制御が好ましいとされる。しかしながら、回転数の無段階制御を実施するためには装置構成が複雑になるという問題がある。本実施例の冷凍機100では、冷媒の流量制御によってサージング回避を達成できるので、装置構成の簡略化を図りつつ、安全性を向上することができる。
【0056】
尚、バッファタンク111は、冷凍機100を停止した際に、サイクル中の冷媒の体積変化を吸収する用途にも併せて用いてもよい。公知の冷凍機においてもこのような用途のタンクが用いられたものが存在するが、逆に言えば、本発明におけるバッファタンク11を用いた冷媒流量制御は、このような従来から用いられていたタンクを併用して実現することもできるので、コスト面でも有利である。
【0057】
また本実施例に係る冷凍機100では各種バルブの開閉制御で機能できるので、擦動などによる部品劣化が生じにくい。そのため、装置寿命が長く、長期間にわたって耐久性、信頼性、健全性を確保することができる。またバルブの開閉操作は極低温状態においても実施が容易であるため、例えば超電導体機器のように厳しい温度環境下で用いられるシステムにも導入が可能である。
【0058】
尚、ブレイトンサイクルにおける圧縮工程では断熱圧縮が行われるが、断熱圧縮を等温圧縮に置換した、いわゆるエリクソンサイクルにおいても、本発明を適用してもよい。本実施例では、多段階に亘って圧縮機102による圧縮加熱と熱交換器103による冷却を繰り返し行っているが、この繰り返し回数を増やすことによって、実質的に等温圧縮を実現できる。そのため、本実施例に係るブレイトンサイクル冷凍機の圧縮段数を増やすことによって実質的にエリクソンサイクル冷凍機とみなせる場合もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0059】
また本実施例ではブレイトンサイクルを利用した冷凍機について説明を行ったが、ブレイトンサイクルを利用したヒートポンプ装置についても、同様に本発明を適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、冷却対象における熱負荷変動に対して冷却能力を制御可能なブレイトンサイクル冷凍機に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8