(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985819
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20160823BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20160823BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-267864(P2011-267864)
(22)【出願日】2011年12月7日
(65)【公開番号】特開2013-120678(P2013-120678A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年11月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】保倉 章人
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 隆一
【審査官】
青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/096522(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:Li(LixNi1-x-yMy)O2+α
(前記式において、0<x≦0.1であり、0<y≦0.2であり、MはMn及びCoから選択される1種以上であり、α>0である。)
で表され、
粉末X線回折(XRD)において、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅が0.14°以下であるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
前記組成式において、α>0.05である請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
前記組成式において、α>0.1である請求項2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
粉末X線回折(XRD)において、(104)面と(003)面との回折ピーク強度比〔(104)/(003)〕が0.80以下である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項5】
粉末X線回折(XRD)において、(110)面の回折ピークの2θが、以下の式(1)及び(2)で示される2直線で挟まれた領域内の数値である請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質:
(1)2θ=−0.0072c+65.23
(2)2θ=−0.0072c+65.43
〔上記式(1)及び(2)において、cはLiを除く金属中のNiのモル比率である。〕。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極、及び、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の正極活物質には、一般にリチウム含有遷移金属酸化物が用いられている。具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)等であり、特性改善(高容量化、サイクル特性、保存特性、内部抵抗低減、レート特性)や安全性を高めるためにこれらを複合化することが進められている。車載用やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウムイオン電池には、これまでの携帯電話用やパソコン用とは異なった特性が求められている。
【0003】
電池特性の改善には、従来、種々の方法が用いられており、例えば特許文献1には、
Li
xNi
1-yM
yO
2-δ
(0.8≦x≦1.3、0<y≦0.5であり、Mは、Co、Mn、Fe、Cr、V、Ti、Cu、Al、Ga、Bi、Sn、Zn、Mg、Ge、Nb、Ta、Be、B、Ca、Sc及びZrからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を示し、δは酸素欠損又は酸素過剰量に相当し、−0.1<δ<0.1を表す。)の組成で表されるリチウムニッケル複合酸化物を分級機に通し、粒子径の大きい物と小さい物とに平衡分離粒子径Dh=1〜10μmで分離し、粒子径の大きい物と小さい物を、重量比で0:100〜100:0で配合することを特徴とするリチウム二次電池用正極材料の製造方法が開示されている。そして、これによれば、レート特性と容量のさまざまなバランスのリチウム二次電池用正極材料を容易に製造できる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4175026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のリチウムニッケル複合酸化物は、その組成式中の酸素量が過剰のものであるが、それでもなお高品質のリチウムイオン電池用正極活物質としては改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、正極活物質の酸素量と電池特性との間に密接な相関関係があることを見出した。すなわち、正極活物質の酸素量がある値以上であるとき、良好な電池特性が得られることを見出した。
また、正極活物質の粉末X線回折(XRD)において、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅と、電池特性との間に密接な相関関係があることを見出した。すなわち、正極活物質の(003)面の回折ピークの2θでの半値幅がある値以下であるとき、特に良好な電池特性が得られることを見出した。
【0008】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、
組成式:Li(Li
xNi
1-x-yM
y)O
2+α
(前記式において、0
<x≦0.1であり、0<y≦0.2であり、MはMn及びCoから選択される1種以上であり、α>0である。)
で表され、
粉末X線回折(XRD)において、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅が0.14°以下であるリチウムイオン電池用正極活物質である。
【0011】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の実施形態において、前記組成式において、α>0.05である。
【0012】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の実施形態において、前記組成式において、α>0.1である。
【0013】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の実施形態において、粉末X線回折(XRD)において、(104)面と(003)面との回折ピーク強度比〔(104)/(003)〕が0.80以下である。
【0014】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の実施形態において、粉末X線回折(XRD)において、(110)面の回折ピークの2θが、以下の式(1)及び(2)で示される2直線で挟まれた領域内の数値である:
(1)2θ=−0.0072c+65.23
(2)2θ=−0.0072c+65.43
〔上記式(1)及び(2)において、cはLiを除く金属中のNiのモル比率である。〕。
【0015】
本発明は、別の側面において、本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極である。
【0016】
本発明は、更に別の側面において、本発明に係るリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、良好な電池特性を有するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例
、参考例及び比較例の、Liを除く金属中のNiのモル比率:cと(110)面の回折ピークの2θとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質の材料としては、一般的なリチウムイオン電池用正極用の正極活物質として有用な化合物を広く用いることができるが、特に、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)等のリチウム含有遷移金属酸化物を用いるのが好ましい。このような材料を用いて作製される本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、
組成式:Li(Li
xNi
1-x-yM
y)O
2+α
(前記式において、0≦x≦0.1であり、0<y≦0.7であり、Mは金属であり、α>0である。)
で表される。
また、金属Mは、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上であってもよく、好ましくはMn及びCoから選択される1種以上である。
【0020】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、酸素が組成式において上記のようにO
2+α(α>0)と示され、過剰に含まれており、リチウムイオン電池に用いた場合、容量、レート特性及び容量保持率等の電池特性が良好となる。ここで、αについて、好ましくはα>0.05であり、より好ましくはα>0.1である。
【0021】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、粉末X線回折(XRD)において、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅が0.14°以下である。このように、XRDにおける(003)面の回折ピークの2θでの半値幅を0.14°以下に制御することで、正極活物質の結晶性が良好となり、組成ばらつきが小さくなるため、それを用いた電池の種々の特性が良好となる。(003)面の回折ピークの2θでの半値幅は、好ましくは0.135°以下であり、より好ましくは0.130°以下であり、典型的には、0.110°〜0.140°である。
【0022】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、粉末X線回折(XRD)において、(104)面と(003)面との回折ピーク強度比〔(104)/(003)〕が0.80以下であるのが好ましい。この回折ピーク強度比は、Niの2価イオンが結晶中のLiサイトを占有する(カチオンミキシング)を示す尺度であり、ピーク強度比が大きくなるとカチオンミキシングの比率が多くなり、結晶中のLiサイト内のLiの拡散が阻害されるため、種々の電池特性を低下させる。これに対し、この回折ピーク強度比が0.80以下に制御されていると、カチオンミキシングの比率が小さく、結晶中のLiサイト内のLiの拡散が阻害されず、電池特性が良好になる。(104)面と(003)面との回折ピーク強度比〔(104)/(003)〕は、好ましくは0.75以下であり、より好ましくは0.70以下であり、典型的には、0.60〜0.80である。
【0023】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、粉末X線回折(XRD)において、(110)面の回折ピークの2θが、以下の式(1)及び(2)で示される2直線で挟まれた領域内の数値であるのが好ましい:
(1)2θ=−0.0072c+65.23
(2)2θ=−0.0072c+65.43
〔上記式(1)及び(2)において、cはLiを除く金属中のNiのモル比率である。〕。
(110)面の回折ピークの2θが、式(1)及び(2)で示される2直線で挟まれた領域内の数値となるように制御することにより、正極活物質の酸素過剰量組成と良好な結晶性とを両立できる。そのため、電池の種々の特性が良好となる。
【0024】
リチウムイオン電池用正極活物質は、一次粒子、一次粒子が凝集して形成された二次粒子、又は、一次粒子及び二次粒子の混合物で構成されている。リチウムイオン電池用正極活物質は、その一次粒子又は二次粒子の平均粒径が2〜10μmであるのが好ましい。
平均粒径が2μm未満であると集電体への塗布が困難となる。平均粒径が10μm超であると充填時に空隙が生じやすくなり、充填性が低下する。また、平均粒径は、より好ましくは3〜9μmである。
【0025】
(リチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池の構成)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極は、例えば、上述の構成のリチウムイオン電池用正極活物質と、導電助剤と、バインダーとを混合して調製した正極合剤をアルミニウム箔等からなる集電体の片面または両面に設けた構造を有している。また、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池は、このような構成のリチウムイオン電池用正極を備えている。
【0026】
(リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質の製造方法について詳細に説明する。
まず、金属塩溶液を作製する。当該金属は、Ni、及び、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Al、Bi、Sn、Mg、Ca、B及びZrから選択される1種以上である。また、金属塩は硫酸塩、塩化物、硝酸塩、酢酸塩等であり、特に硝酸塩が好ましい。これは、焼成原料中に不純物として混入してもそのまま焼成できるため洗浄工程が省けることと、硝酸塩が酸化剤として機能し、焼成原料中の金属の酸化を促進する働きがあるためである。金属塩に含まれる各金属を所望のモル比率となるように調整しておく。これにより、正極活物質中の各金属のモル比率が決定する。
【0027】
次に、炭酸リチウムを純水に懸濁させ、その後、上記金属の金属塩溶液を投入して金属炭酸塩スラリーを作製する。このとき、スラリー中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出する。なお、金属塩として硫酸塩や塩化物等熱処理時にそのリチウム化合物が反応しない場合は飽和炭酸リチウム溶液で洗浄した後、濾別する。硝酸塩や酢酸塩のように、そのリチウム化合物が熱処理中にリチウム原料として反応する場合は洗浄せず、そのまま濾別し、乾燥することにより焼成前駆体として用いることができる。
次に、濾別したリチウム含有炭酸塩を乾燥することにより、リチウム塩の複合体(リチウムイオン電池正極材用前駆体)の粉末を得る。
【0028】
次に、所定の大きさの容量を有する焼成容器を準備し、この焼成容器にリチウムイオン電池正極材用前駆体の粉末を充填する。次に、リチウムイオン電池正極材用前駆体の粉末が充填された焼成容器を、焼成炉へ移設し、焼成を行う。焼成は、酸素雰囲気下で所定時間加熱保持することにより行う。また、101〜202KPaでの加圧下で焼成を行うと、さらに組成中の酸素量が増加するため、好ましい。
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質は、Ni含有比率に応じた焼成パターン(焼成温度及びその後の降温のパターン)を制御することで、酸素含有量過剰組成を確保しつつ、粉末X線回折(XRD)において、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅が0.14°以下として優れた結晶性が得られる。具体的には、上記焼成工程において、Ni含有比率が高くなるほど高い温度で焼成する。例えば、Ni含有比率が33.3モル%のとき
950〜1000℃、同じく80モル%のとき、
750℃で焼成する。このような焼成温度(保持温度)で一定時間保持した後、温度を下げることになるが、そのときの降温工程を適切に行う必要がある。具体的には、保持温度から300℃に至る時間を3〜10時間の範囲で行う。この降温時間が長すぎたり、保持温度が高すぎた場合は、酸素が保持しにくくなり、酸化物を構成する酸素が組成式のαで0.05未満となってしまう。一方、この降温時間が短かったり、保持温度が低すぎた場合は、酸素の過剰を示す組成式のαが0.05以上となるものの、(003)面の回折ピークの半値幅が0.14°を超え、結晶性や相の均質性が十分でなくなる。また、上記降温時間が長い場合は、さらにNiがLiサイトに入り込むカチオンミキシングが顕著になる。その結果、いずれの場合においても、レート特性や容量保持率等の結晶性や相の均質性が関わる電池特性が劣ることになる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0030】
(実施例
8、参考例1〜7、9〜13)
まず、表1に記載の投入量の炭酸リチウムを純水3.2リットルに懸濁させた後、金属塩溶液を4.8リットル投入した。ここで、金属塩溶液は、各金属の硝酸塩の水和物を、各金属が表1に記載の組成比になるように調整し、また全金属モル数が14モルになるように調整した。
なお、炭酸リチウムの懸濁量は、製品(リチウムイオン二次電池正極材料、すなわち正極活物質)をLi(Li
xNi
1-x-yM
y)O
2+αでxが表
2の値となる量であって、それぞれ次式で算出されたものである。
W(g)=73.9×14×(1+0.5{(1+X)/(1−X)})×A
上記式において、「A」は、析出反応として必要な量の他に、ろ過後の原料に残留する炭酸リチウム以外のリチウム化合物によるリチウムの量をあらかじめ懸濁量から引いておくために掛ける数値である。「A」は、硝酸塩や酢酸塩のように、リチウム塩が焼成原料として反応する場合は0.9であり、硫酸塩や塩化物のように、リチウム塩が焼成原料として反応しない場合は1.0である。
この処理により溶液中に微小粒のリチウム含有炭酸塩が析出したが、この析出物を、フィルタープレスを使用して濾別した。
続いて、析出物を乾燥してリチウム含有炭酸塩(リチウムイオン電池正極材用前駆体)を得た。
次に、焼成容器を準備し、この焼成容器内にリチウム含有炭酸塩を充填した。次に、焼成容器を、大気圧下、酸素雰囲気炉に入れて、表1に記載の焼成温度で10時間加熱保持した後、300℃までは表1に記載の時間をかけて冷却した。続いて室温まで冷却した後、解砕してリチウムイオン二次電池正極材の粉末を得た。
【0031】
(
参考例14)
参考例14として、原料の各金属を表1に示すような組成とし、金属塩を塩化物とし、リチウム含有炭酸塩を析出させた後、飽和炭酸リチウム溶液で洗浄し、濾過する以外は、実施例
8、参考例1〜7、9〜13と同様の処理を行った。
【0032】
(
参考例15)
参考例15として、原料の各金属を表1に示すような組成とし、金属塩を硫酸塩とし、リチウム含有炭酸塩を析出させた後、飽和炭酸リチウム溶液で洗浄し、濾過する以外は、実施例
8、参考例1〜7、9〜13と同様の処理を行った。
【0033】
(
参考例16)
参考例16として、原料の各金属を表1に示すような組成とし、焼成を大気圧下ではなく120KPaの加圧下で行った以外は、実施例
8、参考例1〜7、9〜13と同様の処理を行った。
【0034】
(比較例1〜11)
比較例1〜11として、原料の各金属を表1に示すような組成とし、焼成工程の保持温度及び降温時間を表1に示す値として、実施例
8、参考例1〜7、9〜13と同様の処理を行った。
【0035】
(評価)
−正極材組成の評価−
各正極材中の金属含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)で測定し、各金属の組成比(モル比)を算出した。各金属の組成比は、表1に記載の通りであることを確認した。また、酸素含有量はLECO法で測定しαを算出した。
【0036】
粉末X線回折(XRD)により、(003)面の回折ピークの2θでの半値幅、(110)面の回折ピークの2θ、(104)面と(003)面との回折ピーク強度比〔(104)/(003)〕をそれぞれ測定した。
【0037】
−電池特性の評価−
各正極材と、導電材と、バインダーとを85:8:7の割合で秤量し、バインダーを有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、正極材料と導電材とを混合してスラリー化し、Al箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。続いて、対極をLiとした評価用の2032型コインセルを作製し、電解液に1M−LiPF
6をEC−DMC(1:1)に溶解したものを用いて、電流密度0.2Cの際の放電容量を測定した。また電流密度0.2Cのときの電池容量に対する電流密度2Cのときの、放電容量の比を算出してレート特性を得た。さらに、容量保持率は、室温で1Cの放電電流で得られた初期放電容量と100サイクル後の放電容量を比較することによって測定した。
これらの結果を表1及び2に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
実施例
8、参考例1〜7、9〜13はいずれも電池特性が良好であった。
参考例14及び15はいずれも電池特性が良好であったが、原料として実施例
8、参考例1〜7、9〜13のように各金属の硝酸塩の水和物ではなく、塩化物又は硫酸塩の水和物を用いたため、実施例
8、参考例1〜7、9〜13と比較すると電池特性が劣るものもあった。
参考例16は原料として実施例
8、参考例1〜7、9〜13のように各金属の硝酸塩の水和物を用い、さらに焼成を加圧下で行っており、電池特性が最も良好であった。
比較例1〜4は焼成工程において300℃までの降温時間が短いため、電池特性が不良となった。
比較例5〜8は組成において酸素過剰組成を確保できなかったため、電池特性が不良となった。
比較例9〜11は焼成温度が低く、電池特性が不良となった。
また、上記実施例
、参考例及び比較例について、Liを除く金属中のNiのモル比率:cと、(110)面の回折ピークの2θとをx軸及びy軸にとり、
図1のグラフを描いた。
図1によれば、実施例
及び参考例は全て以下の式(1)及び(2)で示される2直線で挟まれた領域内であり、比較例は一部以外は全てこの領域から外れていた。
(1)2θ=−0.0072c+65.23
(2)2θ=−0.0072c+65.43