特許第5985905号(P5985905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5985905ワイヤ研磨加工装置及びワイヤ研磨加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5985905
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】ワイヤ研磨加工装置及びワイヤ研磨加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 21/00 20060101AFI20160823BHJP
   B24B 5/04 20060101ALI20160823BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20160823BHJP
   B23H 5/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B24B21/00 Z
   B24B5/04
   B23H7/02 K
   B23H5/00 D
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-148464(P2012-148464)
(22)【出願日】2012年7月2日
(65)【公開番号】特開2014-8590(P2014-8590A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 章憲
(72)【発明者】
【氏名】土田 浩
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−231481(JP,A)
【文献】 特開平08−039404(JP,A)
【文献】 特開2008−279540(JP,A)
【文献】 特開2006−231420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 21/00
B24B 5/04
B24B 19/00
B24B 29/00
B24B 41/06
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に走行する研磨ワイヤと、
前記第1の方向と、被加工物の曲げ剛性が変化する前記第1の方向と交差する第2の方向と、に直交する第3の方向に所定の荷重が掛かるように前記被加工物を前記研磨ワイヤと接触させ、前記被加工物が前記研磨ワイヤに与える反力と前記所定の荷重とが均衡した状態で、前記第2の方向に前記被加工物を移動させる駆動機構と、を備え、
前記駆動機構は、前記被加工物を前記所定の荷重を前記被加工物の曲げ剛性で除算した値だけ前記第3の方向に移動させて、前記被加工物を前記研磨ワイヤに押し付ける、
ワイヤ研磨加工装置。
【請求項2】
前記駆動機構は、前記被加工物の曲げ剛性が小さくなるにつれて、前記被加工物を前記研磨ワイヤに押し付けるように、前記被加工物を前記第3の方向に移動させる、
請求項1に記載のワイヤ研磨加工装置。
【請求項3】
前記所定の荷重は、前記被加工物の曲げ剛性が最小になる位置において前記被加工物が折損しない値に設定される、
請求項1又は2に記載のワイヤ研磨加工装置。
【請求項4】
第1の方向に走行する研磨ワイヤと、
前記第1の方向と、被加工物の曲げ剛性が変化する前記第1の方向と交差する第2の方向と、に直交する第3の方向に所定の荷重が掛かるように前記被加工物を前記研磨ワイヤと接触させ、前記被加工物が前記研磨ワイヤに与える反力と前記所定の荷重とが均衡した状態で、前記第2の方向に前記被加工物を移動させる駆動機構と、
前記被加工物を介して前記第3の方向に前記研磨ワイヤと対向して配置された、前記所定の荷重による前記被加工物の変形を防止する支持部材と、を備え
前記支持部材は、前記第1の方向に張られた1又は複数のワイヤで構成される、
ワイヤ研磨加工装置
【請求項5】
前記駆動機構は、前記被加工物を前記第2の方向の軸を中心として回転させる、
請求項1乃至のいずれか一項に記載のワイヤ研磨加工装置。
【請求項6】
前記第1の方向に張られ、電圧が印加されて前記被加工物との間に生じる放電により、前記被加工物を加工する放電ワイヤを更に備える、
請求項1乃至のいずれか一項に記載のワイヤ研磨加工装置。
【請求項7】
第1の方向に研磨ワイヤを走行させ、
前記第1の方向と、被加工物の曲げ剛性が変化する前記第1の方向と交差する第2の方向と、に直交する第3の方向に所定の荷重が掛かるように前記被加工物を前記研磨ワイヤと接触させ、
前記被加工物が前記研磨ワイヤに与える反力と前記所定の荷重とが均衡した状態で、前記第2の方向に前記被加工物を移動させ、
前記被加工物を前記所定の荷重を前記被加工物の曲げ剛性で除算した値だけ前記第3の方向に移動させて、前記被加工物を前記研磨ワイヤに押し付ける、
ワイヤ研磨加工方法。
【請求項8】
前記被加工物の曲げ剛性が小さくなるにつれて、前記被加工物を前記第3の方向に移動させて、前記被加工物を前記研磨ワイヤに押し付ける、
請求項に記載のワイヤ研磨加工方法。
【請求項9】
前記所定の荷重は、前記被加工物の曲げ剛性が最小になる位置において前記被加工物が折損しない値に設定される、
請求項7又は8に記載のワイヤ研磨加工方法。
【請求項10】
第1の方向に研磨ワイヤを走行させ、
前記第1の方向と、被加工物の曲げ剛性が変化する前記第1の方向と交差する第2の方向と、に直交する第3の方向に所定の荷重が掛かるように前記被加工物を前記研磨ワイヤと接触させ、
前記被加工物が前記研磨ワイヤに与える反力と前記所定の荷重とが均衡した状態で、前記第2の方向に前記被加工物を移動させ、
前記被加工物を介して前記第3の方向に前記研磨ワイヤと対向して配置された支持部材で、前記所定の荷重による前記被加工物の変形を防止し、
前記支持部材は、前記第1の方向に張られた1又は複数のワイヤで構成される、
ワイヤ研磨加工方法
【請求項11】
前記被加工物を前記第2の方向の軸を中心として回転させる、
請求項乃至10のいずれか一項に記載のワイヤ研磨加工方法。
【請求項12】
前記第1の方向に張られた放電ワイヤに電圧を印加し、
前記放電ワイヤと前記被加工物との間に生じる放電により、前記被加工物を加工する、
請求項乃至11のいずれか一項に記載のワイヤ研磨加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤ研磨加工装置及びワイヤ研磨加工方法に関し、例えば、微小寸法を有する部材の加工にかかるワイヤ研磨加工装置及びワイヤ研磨加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、立体的形状を有する製作物の加工精度などを検査するために、例えば三次元測定機などの形状測定手段が用いられる。このような三次元測定機は、プローブを立体的形状に沿って移動させることにより、形状測定を行う。プローブは、長さ2mm、断面直径が20μm程度の微小な片持ち梁部材により構成される。
【0003】
上述のような片持ち梁部材を製作するには、例えばワイヤ放電加工(特許文献1)が用いられる。この加工方法では、複数のガイドローラ間にワイヤ電極が巻き回され、ワイヤ電極(放電加工ワイヤ)が被加工体を水平面内で囲むように張られる。そして、駆動部が例えば被加工体を回転させながらワイヤ電極で囲まれた水平面内を上下に移動させる。そして、ワイヤ電極に電圧を印加すると、ワイヤ電極と被加工物との間に放電が生じる。これにより、被加工物の表面が除去され、所望の片持ち梁部材に加工される。
【0004】
しかし、作製した片持ち梁部材は、放電加工のみでは表面が粗く、十分な面品位を実現することができない。そのため、放電加工を行った後に、ワイヤにより片持ち梁部材の表面を研磨することで、所望の面品位を実現している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−190220号公報
【特許文献2】特開2006−231481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、発明者らは、上述の手法には以下に示す問題点が有ることを見出した。片持ち梁部材の曲げ剛性は、根元では大きいが、先端付近では小さくなる。そのため、片持ち梁部材をワイヤで研磨する場合、先端付近では研磨加工の加工荷重を小さくしなければならない。つまり、片持ち梁部材の軸方向に加工荷重を変化させねばならず、研磨加工による除去量も変化してしまう。その結果、研磨加工の面品位が、片持ち梁部材の軸方向で不均一になってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様であるワイヤ研磨加工装置は、第1の方向に走行する研磨ワイヤと、前記第1の方向と、被加工物の曲げ剛性が変化する前記第1の方向と交差する第2の方向と、に直交する第3の方向に所定の荷重が掛かるように前記被加工物を前記研磨ワイヤと接触させ、前記被加工物が前記研磨ワイヤに与える反力と前記所定の荷重とが均衡した状態で、前記第2の方向に前記被加工物を移動させる駆動機構と、を備えるものである。
【0008】
本発明の第2の態様であるワイヤ研磨加工装置は、上述のワイヤ研磨加工装置であって、前記駆動機構は、前記被加工物の曲げ剛性が小さくなるにつれて、前記被加工物を前記研磨ワイヤに押し付けるように、前記被加工物を前記第3の方向に移動させるものである。
【0009】
本発明の第3の態様であるワイヤ研磨加工装置は、上述のワイヤ研磨加工装置であって、前記駆動機構は、前記被加工物を前記所定の荷重を前記被加工物の曲げ剛性で除算した値だけ前記第3の方向に移動させて、前記被加工物を前記研磨ワイヤに押し付けるものである。
【0010】
本発明の第4の態様であるワイヤ研磨加工装置は、上述のワイヤ研磨加工装置であって、前記所定の荷重は、前記被加工物の曲げ剛性が最小になる位置において前記被加工物が折損しない値に設定されるものである。
【0011】
本発明の第5の態様であるワイヤ研磨加工装置は、上述のワイヤ研磨加工装置であって、前記被加工物を介して前記第3の方向に前記研磨ワイヤと対向して配置された、前記所定の荷重による前記被加工物の変形を防止する支持部材を更に備えるものである。
【0012】
本発明の第6の態様であるワイヤ研磨加工装置は、上述のワイヤ研磨加工装置であって、前記支持部材は、前記第1の方向に張られた1又は複数のワイヤで構成されるものである。
【0013】
本発明の第7の態様であるワイヤ研磨加工装置は、上述のワイヤ研磨加工装置であって、前記駆動機構は、前記被加工物を前記第2の方向の軸を中心として回転させるものである。
【0014】
本発明の第8の態様であるワイヤ研磨加工装置は、上述のワイヤ研磨加工装置であって、前記第1の方向に張られ、電圧が印加されて前記被加工物との間に生じる放電により、前記被加工物を加工する放電ワイヤを更に備えるものである。
【0015】
本発明の第9の態様であるワイヤ研磨加工方法は、第1の方向に研磨ワイヤを走行させ、前記第1の方向と、被加工物の曲げ剛性が変化する前記第1の方向と交差する第2の方向と、に直交する第3の方向に所定の荷重が掛かるように前記被加工物を前記研磨ワイヤと接触させ、前記被加工物が前記研磨ワイヤに与える反力と前記所定の荷重とが均衡した状態で、前記第2の方向に前記被加工物を移動させるものである。
【0016】
本発明の第10の態様であるワイヤ研磨加工方法は、上述のワイヤ研磨加工方法であって、前記被加工物の曲げ剛性が小さくなるにつれて、前記被加工物を前記第3の方向に移動させて、前記被加工物を前記研磨ワイヤに押し付けるものである。
【0017】
本発明の第11の態様であるワイヤ研磨加工方法は、上述のワイヤ研磨加工方法であって、前記被加工物を前記所定の荷重を前記被加工物の曲げ剛性で除算した値だけ前記第3の方向に移動させて、前記被加工物を前記研磨ワイヤに押し付けるものである。
【0018】
本発明の第12の態様であるワイヤ研磨加工方法は、上述のワイヤ研磨加工方法であって、前記所定の荷重は、前記被加工物の曲げ剛性が最小になる位置において前記被加工物が折損しない値に設定されるものである。
【0019】
本発明の第13の態様であるワイヤ研磨加工方法は、上述のワイヤ研磨加工方法であって、前記被加工物を介して前記第3の方向に前記研磨ワイヤと対向して配置された支持部材で、前記所定の荷重による前記被加工物の変形を防止するものである。
【0020】
本発明の第14の態様であるワイヤ研磨加工方法は、上述のワイヤ研磨加工方法であって、前記支持部材は、前記第1の方向に張られた1又は複数のワイヤで構成されるものである。
【0021】
本発明の第15の態様であるワイヤ研磨加工方法は、上述のワイヤ研磨加工方法であって、前記被加工物を前記第2の方向の軸を中心として回転させるものである。
【0022】
本発明の第16の態様であるワイヤ研磨加工方法は、上述のワイヤ研磨加工方法であって、前記第1の方向に張られた放電ワイヤに電圧を印加し、前記放電ワイヤと前記被加工物との間に生じる放電により、前記被加工物を加工するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、被加工物を均一に加工することができるワイヤ研磨加工装置及びワイヤ研磨加工方法を提供することができる。
【0024】
本発明の上述及び他の目的、特徴、及び長所は以下の詳細な説明及び付随する図面からより完全に理解されるだろう。付随する図面は図解のためだけに示されたものであり、本発明を制限するためのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施の形態1にかかるワイヤ研磨加工装置100の構成を模式的に示す図である。
図2】ステム12とxy座標との関係を示す図である。
図3】押し込み量を初期変位−dに維持したまま研磨加工を行った場合の加工経路y(x)及び加工荷重の大きさFを示すグラフである。
図4】実施の形態1にかかる一定の加工荷重の大きさFにて研磨加工を行った場合の加工経路y(x)及び加工荷重の大きさFを示すグラフである。
図5】実施の形態2にかかるワイヤ研磨加工装置200で研磨加工されるプローブ10の加工態様を示す上面図である。
図6】実施の形態3にかかるワイヤ研磨加工装置300で研磨加工されるプローブ10を示す正面図である。
図7】実施の形態4にかかるワイヤ研磨加工装置400で放電研磨加工されるプローブ10を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面においては、同一要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略される。
【0027】
実施の形態1
まず、実施の形態1にかかるワイヤ研磨加工装置100について説明する。図1は、実施の形態1にかかるワイヤ研磨加工装置100の構成を模式的に示す図である。ワイヤ研磨加工装置100は、制御装置1、チャック駆動部2、ワイヤ駆動部3、チャック4、研磨ワイヤ5、ガイドローラ6及び7を有する。図1では、ワイヤ研磨加工装置100の説明に供するため、x軸、y軸及びz軸の方向をそれぞれ表示している。なお、x軸、y軸及びz軸が示す方向を、それぞれ第1〜第3の方向とも称する。
【0028】
制御装置1は、チャック駆動部2及びワイヤ駆動部3の動作を制御する。チャック駆動部2は、x軸を中心軸としてチャック4を回転させ、かつ、x軸方向及びy軸方向に移動させる。チャック4の先端には、研磨加工の対象物であるプローブ10が固定される。つまり、チャック駆動部2及びチャック4は、プローブ10を移動させるための駆動機構20を構成する。
【0029】
ガイドローラ6及び7は、チャック4の上下にz軸方向に並んで配置され、それぞれy軸方向の中心軸周りに回転可能に構成される。研磨ワイヤ5は、ガイドローラ6及び7で支持され、ワイヤ駆動部3が研磨ワイヤ5を駆動することにより、z軸方向に走行してチャック4の先端に固定されたプローブ10の表面を研磨する。
【0030】
プローブ10は、台座11、ステム12及び先端球13により構成される。台座11は、チャック4に固定される。ステム12は、台座11から突出したx軸を長手方向とする、円形断面(yz平面)を有する片持ち梁部材である。先端球13は、片持ち梁部材であるステム12の先端に設けられる。なお、先端球13の半径r3は、ステム12の円形断面の半径r2よりも大きい。
【0031】
以下、プローブ10の研磨加工について説明する。図2は、ステム12とxy座標との関係を示す図である。図2では、台座11とステム12との接合部の角をxy原点とする。また、研磨ワイヤ5の直径はdである。図2に示すように、研磨加工を行うには、初期位置において、y軸に沿ってステム12側に押し込む方向に初期変位−dを与える。これにより、研磨ワイヤ5の初期位置(研磨ワイヤ5の断面の中心)は、[x,y]=[d/2,d/2−d]となる。なお、以下では、研磨ワイヤ5の位置を、研磨ワイヤ5の断面の中心で表示する。研磨ワイヤ5を駆動させつつチャック4をx軸のマイナス方向に移動させることにより、ステム12から見ると研磨ワイヤ5はx軸のプラス方向に移動して、ステム12を研磨する。
【0032】
研磨ワイヤ5の直径をd、ステム12のヤング率をE、ステム12の断面2次モーメントをIとすると、ステム12の台座11側の端部における曲げ剛性kS0は、以下の式(1)で表される。

【数1】
【0033】
初期変位−dを与えたときの加工荷重の大きさFは、以下の式(2)で表される。

【数2】
【0034】
一方、ステム12のx軸方向の長さをLとすると、座標xにおける曲げ剛性kは以下の式(3)で表される。

【数3】
【0035】
研磨ワイヤ5が座標xに移動した場合の加工荷重の大きさFは、以下の式(4)で表される。

【数4】
【0036】
式(2)及び(4)より、y軸方向の押し込み量を初期変位−dに維持したまま研磨加工を行った場合の加工荷重の大きさFは、xの値が大きくなるほど、すなわちステム12の先端に近づくほど小さくなることが理解できる。図3は、押し込み量を初期変位−dに維持したまま研磨加工を行った場合の加工経路y(x)及び加工荷重の大きさFを示すグラフである。図3に示すように、研磨加工時に研磨ワイヤ5の中心の軌跡を示す加工経路y(x)は、xの値にかかわらず(d/2−d)のままで一定である。また、加工荷重の大きさFは、初期値であるFを最大値として、xの増加とともに減少してゆく。
【0037】
図3に示すように、ステム12の先端に近づくにつれて加工荷重の大きさFが小さくなると、研磨による除去量も減少してしまう。そのため、ステム12の表面除去量がx軸方向で変化することになり、ステム12の面品位が不均一になってしまう。
【0038】
これに対し、本実施の形態では、ステム12の研磨加工中の加工荷重の大きさFを一定に維持する。具体的には、初期の加工荷重Fを曲げ剛性kで除算した加工経路y(x)を辿ることにより、研磨加工を行う。この場合の加工経路y(x)は、以下の式(5)で表される。

【数5】
【0039】
図4は、実施の形態1にかかる一定の加工荷重の大きさFにて研磨加工を行った場合の加工経路y(x)及び加工荷重の大きさFを示すグラフである。図4に示すように、加工荷重の大きさFは、xの値にかかわらずFのままで一定である。また、加工経路y(x)は、xの増加とともに押し込み量が増加することで、マイナス方向に変位してゆく。つまり、本実施の形態では、加工荷重を一定にするために、xの増加とともに、式(5)に示す加工経路y(x)を辿るようにステム12を研磨ワイヤ5に押し付ける。これにより、研磨ワイヤ5からステム12に加えられる加工荷重と、ステム12から研磨ワイヤ5に加わる加工荷重に対する反力とが均衡するので、加工荷重の大きさをFに維持することができる。
【0040】
以上より、式(5)に示す加工経路y(x)を辿ってステム12を研磨ワイヤ5に押し付けて、一定の加工荷重の大きさFにて研磨加工を行えば、ステム12の位置によらず研磨による除去量が一定となる。その結果、研磨加工後のステム12の面品位を均一にすることが可能となる。
【0041】
なお、ステム12のような片持ち梁部材に上述の押し込み量にてy軸方向に加工荷重を加える場合、先端に近づくほど片持ち梁部材は折れやすくなる。従って、式(5)における加工荷重の大きさFは、加工荷重の大きさFにてステム12先端を加工した場合でも、ステム12が折れない値に設定しなければならない。以下、加工荷重の大きさFの設定方法について説明する。
【0042】
本実施の形態では、加工荷重の大きさFを、片持ち梁部材であるステム12が折損するときの応力σmaxを用いて設定する。以下、本実施の形態にかかる加工荷重の大きさFの設定方法を説明する。片持ち梁部材であるステム12が折損するときの応力σmaxは、曲げモーメントM及び断面係数Zを用いて、以下の式(6)で表される。

【数6】
曲げモーメントMは、ステム12が折損するときの加工荷重の大きさをFとして、以下の式(7)で表される。

【数7】
断面係数Zは、ステム12の断面の直径dを用いて、以下の式(8)で表される。

【数8】
【0043】
式(7)及び(8)を式(6)に代入すると、以下の式(9)が得られる。

【数9】
式(9)より、位置xにおいてステム12が折損する加工荷重の大きさFは、以下の式(10)で表される。

【数10】
【0044】
式(10)において、x=Lとすると、研磨ワイヤ5がステム12の先端(x=L)に位置しているときにステム12が折損する場合の加工荷重の大きさFは、以下の式(11)で表される。

【数11】
【0045】
よって、F≦Fとすることにより、一定の加工荷重の大きさFで加工経路y(x)を変位させながら研磨加工を行っても、ステム12が折損することなく、均一な研磨加工を行うことができる。
【0046】
実施の形態2
次に、実施の形態2にかかるワイヤ研磨加工装置200について説明する。図5は、実施の形態2にかかるワイヤ研磨加工装置200で研磨加工されるプローブ10の加工態様を示す上面図である。図5では、図1に示すz軸のプラス側からマイナス側へ向けてプローブ10を俯瞰している。
【0047】
ワイヤ研磨加工装置200では、研磨ワイヤ5の反対側からステム12を支持するステム支持部材8が追加されている。ステム支持部材8はy軸方向に移動しないように固定されている。これにより、一定の加工荷重Fで研磨加工を行っても、加工経路y(x)は、d/2−dに維持される。
【0048】
実施の形態1では、ステム12の折損を避けるため、加工荷重の大きさFには制限が存在する。ところが、研磨加工による表面除去量が多い場合には、一回の研磨加工では必要とされる表面除去量に満たない場合が有る。この場合、研磨加工を複数回行わなければならず、研磨加工時間及び研磨加工コストが増大してしまう。
【0049】
これに対し、ワイヤ研磨加工装置200では、ステム支持部材8によってステム12を支持しているので、研磨加工に伴う加工経路y(x)の変位を防止することができる。すなわち、ステム12が撓まないので、ステム12の折損を防止できる。従って、加工荷重の大きさFを、実施の形態1における制限値Fよりも大きな値に設定することができる。
【0050】
その結果、研磨加工による表面除去量が多い場合でも、一回又は少ない回数の研磨加工によって所望の表面除去量を得ることができる。よって、ワイヤ研磨加工装置200は、ワイヤ研磨加工装置100と比べて研磨加工時間及び研磨加工コストを削減することができる。
【0051】
実施の形態3
次に、実施の形態3にかかるワイヤ研磨加工装置300について説明する。図6は、実施の形態3にかかるワイヤ研磨加工装置300で研磨加工されるプローブ10を示す図である。ワイヤ研磨加工装置300は、実施の形態2にかかるワイヤ研磨加工装置200の変形例である。ワイヤ研磨加工装置300は、ワイヤ研磨加工装置200のステム支持部材8として、ステム支持ワイヤ31及び32を有する。
【0052】
ステム支持ワイヤ31及び32は、ステム12を介して研磨ワイヤ5と対向して張られている。ステム支持ワイヤ31及び32は、研磨ワイヤ5と同様に、ガイドローラ(不図示)で支持されることによりz軸方向に沿って張られている。ステム支持ワイヤ31及び32のx軸方向の位置は、ステム支持ワイヤ31及び32の一方が研磨ワイヤ5と同じでもよいし、両方が研磨ワイヤ5と異なってもよい。また、ステム支持ワイヤ31及び32のx軸方向の位置は、一定の位置に固定されてもよいし、研磨ワイヤ5と同じ速度で連動してx軸方向に移動してもよい。
【0053】
本構成によれば、ステム支持ワイヤ31及び32を設けるだけで、容易にワイヤ研磨加工装置200と同等の研磨加工を行うことができる。また、ワイヤ研磨加工装置では、容易にワイヤ本数を増やすことができるので、ワイヤ以外のステム支持部材8を設ける場合と比べて、容易かつ低コストで実現することが可能である。
【0054】
実施の形態4
次に、実施の形態4にかかるワイヤ研磨加工装置400について説明する。図7は、実施の形態4にかかるワイヤ研磨加工装置400で放電研磨加工されるプローブ10を示す図である。ワイヤ研磨加工装置400は、実施の形態3にかかるワイヤ研磨加工装置300の変形例である。ワイヤ研磨加工装置400は、ワイヤ研磨加工装置400に放電加工ワイヤ41を追加した構成を有する。
【0055】
放電加工ワイヤ41は、研磨ワイヤ5に並行してガイドローラ(不図示)で支持されることにより、z軸方向に沿って張られている。放電加工ワイヤ41のx軸方向の位置は、研磨ワイヤ5と同じ速度で連動してx軸方向に移動する。放電加工ワイヤ41は、電圧が印加されて被加工物(ステム12)との間に放電が生じることにより、被加工物(ステム12)を加工する。
【0056】
本構成によれば、放電加工により大まかな加工を行った後、放電加工機に設けられた研磨ワイヤを用いて、ステム12の表面の凹凸を研磨加工することができる。これにより、同じ装置で放電加工と研磨加工とを連続して行えるので、プローブ10の製作を高スループットで行うことができる。
【0057】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述の式(5)において、加工荷重の大きさをxの3次関数で表したが、これは例に過ぎない。すなわち、1次、2次及び4次以上の関数y(x)や直線近似などを用いることも可能である。
【0058】
上述のステム支持ワイヤ31及び32は、ステム支持ワイヤ31及び32を用いて研磨加工を行う場合に用いられない、別の研磨ワイヤ又は放電加工ワイヤで代用することが可能である。
【0059】
上述の実施の形態では、プローブ10を加工する場合について説明したが、これは例に過ぎない。チャック4に装着可能であれば、プローブ10以外の被加工物に対して上述のワイヤ研磨加工装置及びワイヤ研磨加工方法を適用できることは、勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1 制御装置
2 チャック駆動部
3 ワイヤ駆動部
4 チャック
5 研磨ワイヤ
5 研磨ワイヤ
6、7 ガイドローラ
8 ステム支持部材
10 プローブ
11 台座
12 ステム
13 先端球
20 駆動機構
31、32 ステム支持ワイヤ
41 放電加工ワイヤ
100、200、300、400 ワイヤ研磨加工装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7