特許第5986046号(P5986046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5986046表面処理された金属粉、及びその製造方法
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  • 特許5986046-表面処理された金属粉、及びその製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986046
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】表面処理された金属粉、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20160823BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20160823BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20160823BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160823BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20160823BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20160823BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   B22F1/02 F
   B22F3/10 A
   B22F1/02 B
   B22F9/00 B
   H01B13/00 501Z
   H01B1/22 A
   H01B1/00 E
   H01B5/00 E
   H01B13/00 Z
   H01B13/00 503Z
【請求項の数】12
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-168380(P2013-168380)
(22)【出願日】2013年8月13日
(65)【公開番号】特開2015-36439(P2015-36439A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2015年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】古澤 秀樹
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−348603(JP,A)
【文献】 特開2003−016832(JP,A)
【文献】 特開2012−185944(JP,A)
【文献】 特開2010−065267(JP,A)
【文献】 特開2007−197752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉を、分子鎖の末端にアミノ基を有するカップリング剤の水溶液と混合して、金属粉分散液を調製する工程、
金属粉分散液から金属粉を、残渣として回収する工程、
残渣として回収された金属粉を、水性溶媒によって洗浄する工程、
を含む、表面処理された金属粉を製造する方法であって、
製造された表面処理された金属粉が、
金属粉の表面にAl、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が設けられてなる、表面処理された金属粉であり、
STEMで得られる表面近傍のEDSの濃度profileにおいて、Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層の厚みをx(nm)、金属粉の焼結開始温度をy(℃)としたとき、次の式:
0.5≦x≦10
25x+620≦y
を満たす、表面処理された金属粉である、方法
【請求項2】
表面処理された金属粉の上記xが、0.5≦x≦8を満たす、請求項1の方法
【請求項3】
表面処理された金属粉の平均粒径D50が0.05〜1μmで、二次粒子が存在しない、請求項1〜2のいずれかに記載の方法
【請求項4】
表面処理された金属粉の平均粒径D50が0.05〜0.5μmで、最大粒子径Dmaxが1μm以下で二次粒子が存在しない、請求項1〜3のいずれかに記載の方法
【請求項5】
金属粉の金属が、Ag、Pd、Pt、Ni、及びCuからなる群から選択された1種の金属である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法
【請求項6】
Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が、アミノ基を有するカップリング剤による処理によって設けられてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法
【請求項7】
Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が、Al、Ti、及びSiからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法
【請求項8】
アミノ基を有するカップリング剤が、アミノシラン、アミノ含有チタネート、アミノ含有アルミネートからなる群から選択されたカップリング剤である、請求項7に記載の方法
【請求項9】
アミノ基を有するカップリング剤が、中心原子であるAl、Ti、又はSiに配位する分子鎖の末端にアミノ基を有する、アミノシラン、アミノ含有チタネート、又はアミノ含有アルミネートである、請求項8に記載の方法
【請求項10】
面処理された金属粉が、さらに有機化合物で表面処理されてなる、表面処理された金属粉である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法によって製造された、表面処理された金属粉を、溶媒及び/又はバインダーと配合して、導電性金属粉ペーストを製造する方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法によって製造された、表面処理された金属粉を、溶媒及び/又はバインダーと配合して、導電性金属粉ペーストを得る工程、
導電性金属粉ペーストを基材に塗布する工程、
基材に塗布された導電性金属粉ペーストを加熱焼成する工程、
を含む、電極を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ積層セラミックコンデンサー用電極の製造に好適に使用可能な、焼結遅延性に優れた、表面処理された銅粉及び金属粉、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チップ積層セラミックコンデンサーは、小型大容量という特徴のために、多くの電子機器で使用されている電子部品である。チップ積層セラミックコンデンサーは、セラミック誘電体と内部電極を層状に積み重ねて一体化した構造となっており、積層された各層がそれぞれコンデンサ素子を構成し、外部電極によってこれらの素子を電気的に並列となるように接続して、全体としてひとつの小型で大容量のコンデンサーとなっている。
【0003】
チップ積層セラミックコンデンサーの製造においては、誘電体のシートが、次のように製造される。すなわち、まず、BaTiO3等の誘電体原料粉末に分散剤や成型助剤としての有機バインダ及び溶剤を加え、粉砕、混合、脱泡工程を経て、スラリーを得る。その後、ダイコータ等の塗布工法により、スラリーをPETフィルム等のキャリアフィルム上に薄く延ばして塗布する。それを乾燥して薄い誘電体シート(グリーンシート)を得る。
【0004】
一方、チップ積層セラミックコンデンサーの内部電極の原料である金属粉末が、誘電体原料粉末の場合と同様に、分散剤や成型助剤としての有機バインダ及び溶剤との混合、脱泡工程を経て、スラリーとなる。これを主にスクリーン印刷法によりグリーンシート(誘電体シート)上に内部電極を印刷し、乾燥した後に、印刷済のグリーンシートをキャリアフィルムから剥離して、このようなグリーンシートを、多数積層させる。
【0005】
このようにして積層させたグリーンシートに数10〜数100MPaのプレス圧力を加えて一体化させた後、個々のチップに切断する。その後、焼成炉で内部電極層、誘電体層を1000℃前後の高温で焼結させる。このようにして、チップ積層セラミックコンデンサーが製造される。
【0006】
このようなチップ積層セラミックコンデンサーの内部電極には、この技術が開発された当時はPtが使用されていたが、コストの観点からPd、Pd−Ag合金、現在はNiが主に使用されている。しかし、近年は環境規制の観点からNiをCuに置き換えることが求められるようになってきた。また、NiをCuに置き換えれば、原理的には、高周波用途で低インダクタンスが実現可能となる。また、Cuは、Niよりもさらにコストが安いという利点もある。
【0007】
一方、コンデンサーの小型化に伴い、内部電極は薄層化する傾向にあり、次世代タイプでは1μm前後になると言われている。このため、内部電極用粉末の粒子サイズはさらに小さいものが望まれるようになっている。
【0008】
ところが、そもそもCuの融点は、Pt、Pd、Niに比べて低い。さらに、上記のように望まれている粒子の小径化による表面積の増加が引き起こす融点の低下により、内部電極粉末としてCuが採用された場合には、焼成時には、より低い温度でCu粉の溶融が始まる。これは電極層自体にクラックの発生を誘発する。また、降温後に電極層が急激に収縮するので、誘電体層と電極層の剥離(デラミネーション)が起こる可能性がある。このような不具合を避けるために、内部電極用金属粉には誘電体と同等の熱収縮特性が求められており、これを表す指標として焼結開始温度がある。
【0009】
このような要望に対して、これまで、ペーストに誘電体粒子またはガラスフリットを添加して、Cu粉同士の接点を減らす、または、チップ積層セラミックコンデンサーの内部電極に適したCu粉を得るために、Cu粉に表面処理を行う方法が提案されてきた。
【0010】
ペーストに誘電体粒子、またはガラスフリットを添加する場合、Cu粉よりも小さくないと焼結後の導体層でこれらが抵抗となり、電極としての機能が低下する。このため、誘電体粒子やガラスフリットはCu粉よりも小さくなければならない。Cu粉自体が0.1μmである場合、誘電体粒子やガラスフリットは数十nmの大きさである必要がある。このため、ハンドリングが困難となる上に、ペーストの原料コストが高くなってしまう。
【0011】
特許文献1(特許第4001438号)はCu粉を液中に分散させ、これに金属元素の水溶性塩の水溶液を添加し、pHを調整して金属酸化物をCu粉表面に固着させ、さらにこれらの表面処理銅粉を相互に衝突させて表面処理層の固着を強化させる技術である。しかし、工程が銅粉への金属酸化物の吸着、及び固着強化から構成されるので、生産性の点で問題がある。また、銅粉の粒径が0.5μmよりもさらに小さくなると、吸着させる金属酸化物粒子とサイズが近くなるので、銅粉への酸化物の吸着自体が困難になると予想される。
【0012】
特許文献2(特許第4164009号)は、特定の官能基を有するシリコーンオイルで銅粉を被覆させる技術である。しかし、オイルとCu粉を混合するので、凝集しやすく、作業性の点で問題がある。また、オイルとCu粉の分離の際のろ過が、困難であり、作業性の点で問題がある。
【0013】
特許文献3(特許第3646259号)は、銅粉表面で加水分解したアルコキシシランをアンモニア触媒で縮合重合させて、SiO2ゲルコーティング膜を形成させる技術である。しかし、粒径1μm以下の銅粉に適用した際に、触媒であるNH3の凝集を防ぐように連続添加しなければならないが、反応制御が添加の具体的な操作技能の巧拙に依存していて非常に難しく、作業性及び生産性の点で、問題がある。
【0014】
特許文献4(特開2012−140661)は、Cu粉の製造の過程において、Cu2+をヒドラジン等で還元する際、水溶性ケイ酸を反応系に添加することで、ケイ酸をCu粉内部に取り込ませ、さらに表面に吸着させる技術である。このケイ酸により焼結遅延性は向上するものの、Cu粉の形状は扁平であるため、電極表面は平坦とならずに凹凸に富む可能性が高い。この凹凸は電極層の厚みが薄くなると顕著になるため、電極層を薄層化して積層数を増やして高容量化を目指すコンデンサーには、原理的に不向きである。また、ケイ酸塩が内部に存在する銅粉をペースト化し、内部電極パターンを形成して得られた銅電極はSiがCuに固溶している可能性が高い。これは内部電極の焼成が通常は還元雰囲気で行われるからである。よって、このような電極は導電率が低いものとなり、電極として求められる電気伝導の機能が劣化する可能性がある。
【0015】
特許文献5(特許第3646259号)は、フレーク状でD50が0.3〜7μmの比較的大きな扁平銅粉に有機物処理を施す技術である。この有機物処理にはシランカップリング剤が含まれるとされるが、一般的な種類を列挙しているだけで、どのような種類のカップリング剤、及びその処理方法に関する具体的な記述、および実施形態は記載されていない。また、これは比較的大きなフレーク状の銅粉を処理する技術であるために、銅粉の形状が球状、もしくはそれに近い形状であったり、高温焼結性も向上させなければならない場合には、この技術では対応できない。
【0016】
特許文献6(特許第4588688号)は、シランカップリング剤としてアミノ基を有するシランでニッケル錯イオンを介してニッケル粉を覆い、さらに熱処理をしてシリカ層を形成させる技術である。これは、ニッケル粉の製粉過程からアミノシランを反応系に存在させ、ニッケル粉の表面だけではなく、内部にも取り込まれる。このような構成のニッケル粉から形成された内部電極パターンを還元雰囲気中で焼成する場合、NiにSiが固溶するため、電極の導電性が低下する可能性がある。また、製粉の反応系にアミノシランが存在すると、ニッケル粉の形態が扁平状になる可能性がある。これは内部電極の薄層化の障害となる可能性がある。さらに、粉末を焼成してシリカ層を形成させる工程では、ニッケル粉間でシリカ層の形成が起こる可能性が大きい。この場合、シリカ層の形成により、ニッケル粉が凝集してしまうことになり、内部電極の薄層化の障害となる。また、あらかじめシリカ層を形成させておくと、ペーストの混練過程、特にせん断応力で凝集を解砕する3本ロールを使用する場合に、シリカ層で被覆されたニッケル粉同士が接触して、せっかく形成したシリカ層が破壊される可能性がある。
【0017】
特許文献7(特許第4356323号)は、ニッケル粉の凝集を防ぐために、ニッケル粉末を多価アルコール、シランカップリング剤及びアルカノールアミンから選ばれる表面処理剤で処理する表面処理工程と、このニッケル粉末を100〜300℃で加熱する加熱工程とジェットミルにて粉砕する工程とを含む、表面処理ニッケル粉の製造方法である。特許文献6と同様に、加熱処理によって粉末を焼成してシリカ層を形成させる工程においては、ニッケル粉間でシリカ層の形成が起こる可能性が大きい。この場合、シリカ層の形成により、ニッケル粉が凝集してしまうことになり、内部電極の薄層化の障害となる。
【0018】
特許文献8(特開平7−197103)は、金属粉の焼結遅延性を向上させるために、金属粉と有機レジネートと有機溶剤を混合分散メディアで混合し、有機溶剤を揮発させて表面処理金属粉を得る技術である。特許文献に記載されているように、この方法は混合時間、及び有機溶剤の揮発工程の所要時間が長く、生産性の観点から工業的な実施に向かない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特許第4001438号公報
【特許文献2】特許第4164009号公報
【特許文献3】特許第3646259号公報
【特許文献4】特開2012−140661号公報
【特許文献5】特許第3646259号公報
【特許文献6】特許第4588688号公報
【特許文献7】特許第4356323号公報
【特許文献8】特開平7−197103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
このように、チップ積層セラミックコンデンサーの内部電極の製造に好適に使用可能な、焼結遅延性、作業性、及び生産性に優れた、銅粉及び金属粉が求められている。そこで、本発明の目的は、チップ積層セラミックコンデンサー用電極の製造に好適に使用可能な、焼結遅延性に優れた、表面処理された銅粉及び金属粉、及びその製造方法を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は鋭意研究の結果、後述する特徴を有する表面処理された金属粉が、焼結遅延性、作業性、及び生産性に優れ、チップ積層セラミックコンデンサーの内部電極の製造に好適に使用可能であることを見いだして、本発明に到達した。また、この表面処理された金属粉による金属粉ペーストは、塗布して形成したペースト塗膜が非常に平坦化されたものとなっており、チップ積層セラミックコンデンサー用電極の薄層化に、特に有利なものとなっている。
【0022】
したがって、本発明は次の(1)〜にある。
(1)
金属粉の表面にAl、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が設けられてなる、表面処理された金属粉であって、
STEMで得られる表面近傍のEDSの濃度profileにおいて、Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層の厚みをx(nm)、金属粉の焼結開始温度をy(℃)としたとき、次の式:
0.5≦x≦10
25x+620≦y
を満たす、表面処理された金属粉。
(2)
上記xが、0.5≦x≦8を満たす、(1)の表面処理された金属粉。
(3)
表面処理された金属粉の平均粒径D50が0.05〜1μmで、二次粒子が存在しない、(1)〜(2)のいずれかに記載の表面処理された金属粉。
(4)
表面処理された金属粉の平均粒径D50が0.05〜0.5μmで、最大粒子径Dmaxが1μm以下で、二次粒子が存在しない、(1)〜(3)のいずれかに記載の表面処理された金属粉。
(5)
金属粉の金属が、Ag、Pd、Pt、Ni、及びCuからなる群から選択された1種の金属である、(1)〜(4)のいずれかに記載の表面処理された金属粉。
(6)
Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が、アミノ基を有するカップリング剤による処理によって設けられてなる、(1)〜(5)のいずれかに記載の表面処理された金属粉。
(7)
Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が、Al、Ti、及びSiからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層である、(1)〜(6)のいずれかに記載の表面処理された金属粉。
(8)
アミノ基を有するカップリング剤が、アミノシラン、アミノ含有チタネート、アミノ含有アルミネートからなる群から選択されたカップリング剤である、(7)に記載の表面処理された金属粉。
(9)
アミノ基を有するカップリング剤が、中心原子であるAl、Ti、又はSiに配位する分子鎖の末端にアミノ基を有する、アミノシラン、アミノ含有チタネート、又はアミノ含有アルミネートである、(8)に記載の表面処理された金属粉。
(10)
(1)〜(9)のいずれかに記載の表面処理された金属粉が、さらに有機化合物で表面処理されてなる、表面処理された金属粉。
(11)
(1)〜(10)のいずれかに記載の金属粉を使用して製造された導電性ペースト。
(12)
(11)のペーストを使用して製造されたチップ積層セラミックコンデンサー。
(13)
内部電極断面に、直径10nm以上のSiO2、TiO2、又はAl23のいずれかが存在している、(12)に記載のチップ積層セラミックコンデンサー。
(14)
内部電極断面に、最大径0.5μm以上のSiO2、TiO2、又はAl23のいずれかが0.5個/μm2以下で存在している、(12)又は(13)に記載のチップ積層セラミックコンデンサー。
(15)
(12)〜(14)のいずれかに記載のチップ積層セラミックコンデンサーを最外層に実装した多層基板。
(16)
(12)〜(14)のいずれかに記載のチップ積層セラミックコンデンサーを内層に実装した多層基板。
(17)
(15)又は(16)に記載の多層基板を搭載した電子部品。
【0023】
さらに、本発明は次の(21)〜 にもある。
(21)
金属粉を、アミノ基を有するカップリング剤の水溶液と混合して、金属粉分散液を調製する工程、
金属粉分散液から金属粉を、残渣として回収する工程、
残渣として回収された金属粉を、水性溶媒によって洗浄する工程、
を含む、表面処理された金属粉を製造する方法。
(22)
残渣として回収された金属粉を水性溶媒によって洗浄する工程の後に、
洗浄された金属粉を乾燥して、表面処理された金属粉を得る工程、
を含む、(21)に記載の方法。
(23)
アミノ基を有するカップリング剤が、Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層を、金属粉の表面に形成するカップリング剤である、(21)〜(22)のいずれかに記載の方法。
(24)
残渣として回収された金属粉を水性溶媒によって洗浄する工程が、
洗浄後の金属粉の乾燥質量に対して5倍の質量の水性溶媒を添加した後に得たろ過液の中に、ICP分析によって検出されるSi、Ti、Al、Zr、Ce及びSnからなる群から選択された1種の元素が、50ppm以下の濃度となるまで、残渣として回収された金属粉を水性溶媒によって洗浄する工程である、(23)に記載の方法。
(25)
金属粉の金属が、Ag、Pd、Pt、Ni、及びCuからなる群から選択された1種の金属である、(21)〜(24)のいずれかに記載の方法。
(26)
金属粉分散液を調製する工程の後に、
金属粉分散液を撹拌する工程を含む、(21)〜(25)のいずれかに記載の方法。
(27)
金属粉分散液を調製する工程の後に、
金属粉分散液を超音波処理する工程を含む、(21)〜(26)のいずれかに記載の方法。
(28)
超音波処理する工程が、1〜180分間の超音波処理を行う工程である、(27)に記載の方法。
(29)
乾燥が、酸素雰囲気又は不活性雰囲気下で行われる、(22)〜(28)のいずれかに記載の方法。
(30)
金属粉分散液が、金属粉1gに対して、アミノ基を有するカップリング剤を0.005g以上含んでいる、(21)〜(29)のいずれかに記載の方法。
【0024】
(31)
アミノ基を有するカップリング剤が、アミノシラン、アミノ含有チタネート、アミノ含有アルミネートからなる群から選択された1種以上のカップリング剤である、(21)〜(30)のいずれかに記載の方法。
(32)
アミノ基を有するカップリング剤が、次の式I:
2N−R1−Si(OR22(R3) (式I)
(ただし、上記式Iにおいて、
R1は、直鎖状又は分枝を有する、飽和又は不飽和の、置換又は非置換の、環式又は非環式の、複素環を有する又は複素環を有しない、C1〜C12の炭化水素の二価基であり、
R2は、C1〜C5のアルキル基であり、
R3は、C1〜C5のアルキル基、又はC1〜C5のアルコキシ基である。)
で表されるアミノシランである、(31)に記載の方法。
(33)
R1が、 −(CH2n−、−(CH2n−(CH)m−(CH2j-1−、−(CH2n−(CC)−(CH2n-1−、−(CH2n−NH−(CH2m−、−(CH2n−NH−(CH2m−NH−(CH2j−、−(CH2n-1−(CH)NH2−(CH2m-1−、−(CH2n-1−(CH)NH2−(CH2m-1−NH−(CH2j−、−CO−NH−(CH2n−、−CO−NH−(CH2n−NH−(CH2m− からなる群から選択された基である(ただし、n、m、jは、1以上の整数である)、(32)に記載の方法。
(34)
アミノ基を有するカップリング剤が、次の式II:
(H2N−R1−O)pTi(OR2q (式II)
(ただし、上記式IIにおいて、
R1は、直鎖状又は分枝を有する、飽和又は不飽和の、置換又は非置換の、環式又は非環式の、複素環を有する又は複素環を有しない、C1〜C12の炭化水素の二価基であり、
R2は、直鎖状又は分枝を有する、C1〜C5のアルキル基であり、
p及びqは、1〜3の整数であり、p+q=4である。)
で表されるアミノ基含有チタネートである、(31)に記載の方法。
(35)
R1が、 −(CH2n−、−(CH2n−(CH)m−(CH2j-1−、−(CH2n−(CC)−(CH2n-1−、−(CH2n−NH−(CH2m−、−(CH2n−NH−(CH2m−NH−(CH2j−、−(CH2n-1−(CH)NH2−(CH2m-1−、−(CH2n-1−(CH)NH2−(CH2m-1−NH−(CH2j−、−CO−NH−(CH2n−、−CO−NH−(CH2n−NH−(CH2m− からなる群から選択された基である(ただし、n、m、jは、1以上の整数である)、(34)に記載の方法。
(36)
金属粉が、湿式法によって製造された金属粉である、(21)〜(35)のいずれかに記載の方法。
【0025】
本発明は、さらに次の(41)〜にもある。
(41)
(21)〜(36)のいずれかに記載の製造方法によって製造された、表面処理された金属粉を、溶媒及び/又はバインダーと配合して、導電性金属粉ペーストを製造する方法。
(42)
(21)〜(36)のいずれかに記載の製造方法によって製造された、表面処理された金属粉を、溶媒及び/又はバインダーと配合して、導電性金属粉ペーストを得る工程、
導電性金属粉ペーストを基材に塗布する工程、
基材に塗布された導電性金属粉ペーストを加熱焼成する工程、
を含む、電極を製造する方法。
【0026】
本発明は、さらに次の(51)〜にもある。
(51)
(21)〜(36)のいずれかに記載の製造方法によって製造された、表面処理された金属粉。
(52)
(41)に記載の製造方法によって製造された、導電性金属粉ペースト。
(53)
(42)に記載の製造方法によって製造された、電極。
(54)
(21)〜(36)のいずれかに記載の製造方法によって製造された、表面処理された金属粉であって、
金属粉の表面にAl、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が設けられ、
STEMで得られる表面近傍のEDSの濃度profileにおいて、Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層の厚みをx(nm)、金属粉の焼結開始温度をy(℃)としたとき、次の式:
0.5≦x≦10
25x+620≦y
を満たす、表面処理された金属粉。
(55)
(54)の表面処理された金属粉が、配合されてなる、導電性金属粉ペースト。
(56)
(55)の導電性金属粉ペーストが塗布されて加熱焼成されてなる、電極であって、
電極断面に最大径0.5μm以上のSiO2、TiO2又はAl23が0.5個/μm2以下で存在している、電極。
【発明の効果】
【0027】
本発明による表面処理された金属粉は、表面処理後にも凝集することなく、焼結遅延性に優れ、粒子の小さい金属粉であっても高い焼結開始温度を示す。そこで、本発明による表面処理された金属粉が配合されてなる導電性金属粉ペーストを使用すれば、電極剥離などの製造上の問題を回避して、チップ積層セラミックコンデンサー用電極の製造を、有利に行うことができる。さらに、本発明による表面処理された金属粉が配合されてなる導電性金属粉ペーストは、非常に平坦な塗膜を形成することができるために、薄層電極の製造に特に有利である。また、本発明による表面処理された金属粉は、金属粉に対して非常に簡単な処理を行うことで製造でき、この製造方法は、高度な技能を必要とせず、作業性及び生産性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、表面処理によるTi層又はSi層の厚みと、焼結開始温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
[表面処理された金属粉]
本発明による、表面処理された金属粉は、金属粉の表面にAl、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が設けられてなる、表面処理された金属粉であって、STEMで得られる表面近傍のEDSの濃度profileにおいて、Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層の厚みをx(nm)、金属粉の焼結開始温度をy(℃)としたとき、次の式: 0.5≦x≦10 、 25x+620≦y を満たす、表面処理された金属粉にある。
【0030】
[金属粉]
表面処理に供される金属粉の金属としては、例えば、Ag、Pd、Pt、Ni、及びCuから選択された金属を使用することができ、好ましくは、Ag、Ni、及びCuから選択された金属を使用することができる。金属粉として、銅粉、銀粉、及びニッケル粉が好ましい。
【0031】
[金属粉の製法]
このような金属粉は、公知の方法によって製造された金属粉を使用することができる。好適な実施の態様において、例えば、湿式法によって製造された金属粉、乾式法によって製造された金属粉を使用することができる。好適な実施の態様において、湿式法によって製造された銅粉、例えば、不均化法、化学還元法等によって製造された銅粉を使用することができる。湿式法によって製造された銅粉は、本発明による表面の処理まであわせて一貫して湿式プロセスになる点で好適である。
【0032】
[表面処理層]
表面処理された金属粉は、金属粉の表面にAl、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が設けられてなる。好適な実施の態様において、この表面処理層は、Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素、好ましくはAl、Si、及びTiからなる群から選択された1種の元素、さらに好ましくはSi又はTiを含むものとすることができる。
【0033】
[表面処理層の厚み]
本発明において、この表面処理層の厚みx(nm)は、STEMで得られる表面近傍のEDSの濃度profileによって求めることができる。この表面処理層の厚み、例えば、Si含有層の厚み(Si厚み)は、表面処理された銅粉の表面の断面において、EDS(エネルギー分散型X線分析)による測定を行って、全原子に対するSi原子の存在比が最大となる深さでのSi原子の存在量を100%としたときに、Si原子の存在量が10%以上である範囲であると、規定したものである。表面処理された金属粉の表面の断面は、試料切片において観察した少なくとも100個以上の金属粉粒子のなかから、5個選択して、それぞれその最も明瞭な境界を、表面処理された金属粉の表面に垂直な断面であると扱って、測定及び集計を行うことができる。表面処理層の厚みは、Ti含有層の厚み(Ti厚み)、Al含有層の厚み(Al厚み)等の場合でも、Si含有層の厚み(Si厚み)と同様に、求めることができる。
【0034】
[焼結開始温度]
表面処理された金属粉は、金属粉と同様に、これを使用した導電性金属粉ペーストを製造して、これを焼結することによって電極を製造することができる。本発明による表面処理された金属粉は、優れた焼結遅延性を有する。焼結遅延性の指標として、焼結開始温度がある。これは金属粉から成る圧粉体を還元性雰囲気中で昇温し、ある一定の体積変化(収縮)が起こったときの温度のことである。本発明では1%の体積収縮が起こるときの温度を焼結開始温度とする。具体的には、実施例の記載の通りに測定した。焼結開始温度が高いことは、焼結遅延性に優れていることを意味する。
【0035】
好適な実施の態様において、本発明に係る表面処理された金属粉の焼結開始温度は、450℃以上、好ましくは500℃以上、さらに好ましくは600℃以上、さらに好ましくは700℃以上、さらに好ましくは780℃以上、さらに好ましくは800℃以上、さらに好ましくは810℃以上、さらに好ましくは840℃以上、さらに好ましくは900℃以上、さらに好ましくは920℃以上、さらに好ましくは950℃以上とすることができる。特に、従来、高い焼結開始温度が求められる場合に使用されてきたNi超微粉(平均粒径0.2〜0.4μm)の焼結開始温度が、500〜600℃の範囲にあることと比較すると、本発明に係る表面処理された銅粉は、Niよりも安価で入手容易なCuを使用して、微細な粒子でありながら、同等以上の優れた焼結遅延性を有するものとなっている。また、ニッケル粉であっても、本発明による表面処理を行ったニッケル粉は、従来よりも優れた焼結遅延性を有するものとなっている。
【0036】
[表面処理層の厚みと焼結開始温度]
本発明に係る表面処理された金属粉は、Al、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層の厚みをx(nm)、金属粉の焼結開始温度をy(℃)としたとき、次の式:
0.5≦x≦10
25x+620≦y
を満たすものとなっている。ただし、上記式において、定数25は[℃/nm]の単位を有する。好適な実施の態様において、上記xは、次の式:
0.5≦x≦8
を満たすものとなっている。
【0037】
[平均粒径]
本発明に係る表面処理された金属粉は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した平均粒径D50が、0.05〜1μmの範囲、好ましくは0.05〜0.5μmとすることができ、最大粒子径Dmaxが1μm以下で二次粒子が存在しないものとすることができる。レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、島津製作所製SALD−2100を使用することができる。本発明において、二次粒子とは、上記方法で粒度分布を測定したときに、極大値が複数ある場合の、大きい極大値側近傍の粒子のことを指す。上記方法で粒度分布の極大値が一つのみの場合、二次粒子が存在しないという。
【0038】
[導電性ペースト]
本発明に係る表面処理された金属粉を使用して、導電性金属粉ペースト(導電性ペースト)を製造することができる。本発明に係る表面処理された金属粉は、ペーストを製造する場合においても、ペースト中で凝集することなく、容易に分散する。そして、得られた導電性ペーストは、粒子の凝集が低減されていることから、薄層電極に求められる平坦な塗膜を、容易に形成できるものとなっており、平坦な薄層電極の形成に好適なものとなっている。このように、本発明に係る表面処理された金属粉、及びこれを使用した導電性ペーストは、作業性及び生産性に優れたものとなっている。そして、本発明に係る表面処理された金属粉の焼結遅延性は、この導電性ペーストのなかで十分に発揮されることから、この導電性ペーストもまた、焼結遅延性に優れ、高い焼結開始温度を示すものとなっている。
【0039】
[塗膜の平坦性]
導電性金属粉ペーストによる塗膜の平坦性は、実施例に記載のように、塗膜の最大山高さRzを、接触式表面粗さ計(小坂研究所製、SE−3400)によりJIS−BO601に従ってn=3で測定し、平均値を求めることで評価することができる。本発明による導電性金属粉ペーストは、本発明による表面処理された金属粉の低い凝集性と高い分散性を反映して、その塗膜は、Rzが小さく、高い平坦性を発揮できるペーストとなっている。
【0040】
[電極]
好適な実施の態様において、本発明に係る表面処理された金属粉は、圧粉体を還元性雰囲気中で昇温して焼結体を形成することができる。得られた焼結体は、優れた電極として形成される。また、好適な実施の態様において、上述のように、粉体を配合した導電性金属粉ペーストを製造して、これを塗工した後に焼結して、電極を製造することができる。本発明に係る表面処理された金属粉を使用した場合に、このように焼結して製造される焼結体(電極)は、平坦な薄層電極として好適であることから、特に、チップ積層セラミックコンデンサーの内部電極として好適に使用可能である。このチップ積層セラミックコンデンサーは、小型高密度の実装が可能であることから、多層基板の内層あるいは最外層に好適に実装して使用することができ、これを搭載した電子部品において、好適に使用することができる。
【0041】
[電極の断面]
本発明の好適な実施の態様によれば、このように焼結して製造される電極(焼結体)は、その断面において、好ましくは、直径が10nm以上の、SiO2、TiO2、又はAl23のいずれかが存在しているものとすることができる。好適な実施の態様において、この焼結体は、その断面に、最大径0.5μm以上のSiO2、TiO2、又はAl23のいずれかが0.5個/μm2以下で存在しているものとすることができ、あるいは、例えば0.0〜0.5個/μm2の範囲で、例えば0.1〜0.5個/μm2の範囲で、存在しているものとすることができる。この最大径とは、SiO2、TiO2、又はAl23の粒子の最小外接円の直径をいう。本発明の好適な実施の態様において、SiO2、TiO2、又はAl23の粒子の析出はこのように制御されており、極薄電極の形成を可能にすると同時に、電極の信頼性(品質)を低下させることがない。
【0042】
[表面処理された金属粉の製造]
本発明による表面処理された金属粉は、金属粉を、アミノ基を有するカップリング剤の水溶液と混合して、金属粉分散液を調製する工程、金属粉分散液から金属粉を残渣として回収する工程、残渣として回収された金属粉を水性溶媒によって洗浄する工程、を行って得ることができる。
【0043】
好適な実施の態様において、上記の残渣として回収された金属粉を水性溶媒によって洗浄する工程の後に、洗浄された金属粉を乾燥して、表面処理された金属粉を得る工程、を行うことができる。
【0044】
本来、金属粉に対してカップリング剤を使用して表面処理を行うのであれば、カップリング剤を十分に吸着させることが望ましいはずである。本発明者もまた、そのように信じて開発を行ってきた。ところが、金属粉を水性溶媒によって洗浄して、おそらくはカップリング剤が除去されてしまう操作を行ったところ、そのようにして得られた表面処理された金属粉は、むしろ、優れた焼結遅延性、低い凝集性、高い分散性を示し、さらに、ペーストとして塗工した塗膜が平坦化することを見いだして、上記表面処理された金属粉に係る本発明に到達したものである。
【0045】
[好適な金属粉]
表面処理に供される金属粉としては、上述した通りの金属粉を使用することができる。さらに、好適に使用できる金属粉として、次のような湿式法により製造された銅粉を挙げることができる。
【0046】
[湿式法による銅粉の製造]
好適な実施の態様において、湿式法による銅粉の製造方法として、アラビアゴムの添加剤を含む水性溶媒中に亜酸化銅を添加してスラリーを作製する工程、スラリーに希硫酸を5秒以内に一度に添加して不均化反応を行う工程、を含む方法によって製造される銅粉を使用することができる。好適な実施の態様において、上記スラリーは、室温(20〜25℃)以下に保持するとともに、同様に室温以下に保持した希硫酸を添加して、不均化反応を行うことができる。好適な実施の態様において、上記スラリーは、7℃以下に保持するとともに、同様に7℃以下に保持した希硫酸を添加して、不均化反応を行うことができる。好適な実施の態様において、希硫酸の添加は、pH2.5以下、好ましくはpH2.0以下、さらに好ましくはpH1.5以下となるように、添加することができる。好適な実施の態様において、スラリーへの希硫酸の添加は、5分以内、好ましくは1分以内、さらに好ましくは30秒以内、さらに好ましくは10秒以内、さらに好ましくは5秒以内となるように、添加することができる。好適な実施の態様において、上記不均化反応は10分間で終了するものとすることができる。好適な実施の態様において、上記スラリー中のアラビアゴムの濃度は、0.229〜1.143g/Lとすることができる。上記亜酸化銅としては、公知の方法で使用された亜酸化銅、好ましくは亜酸化銅粒子を使用することができ、この亜酸化銅粒子の粒径等は不均化反応によって生成する銅粉の粒子の粒径等とは直接に関係がないので、粗粒の亜酸化銅粒子を使用することができる。この不均化反応の原理は次のようなものである:
Cu2O+H2SO4 → Cu↓+CuSO4+H2
この不均化によって得られた銅粉は、所望により、洗浄、防錆、ろ過、乾燥、解砕、分級を行って、その後にアミノ基を有するカップリング剤の水溶液と混合することもできるが、好ましい実施の態様において、所望により、洗浄、防錆、ろ過を行った後に、乾燥を行うことなく、そのままアミノ基を有するカップリング剤の水溶液と混合することができる。
【0047】
好適な実施の態様において、上記不均化反応によって得られる銅粉は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した平均粒径が0.25μm以下である。好適な実施の態様において、上記不均化反応によって得られる銅粉は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定したD10、D90、Dmaxが、[Dmax≦D50×3、D90≦D50×2、D10≧D50×0.5]の関係式を満たし、かつ粒径の分布が単一のピークを有する。好適な実施の態様において、上記不均化反応によって得られる銅粉は、レーザー回折式粒度分布測定装置による測定で、粒度分布が一山である(単一のピークを有する)。好適な実施の態様において、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した値が、[D50≦1.5μm]であり、好ましくは[D50≦1.0μm]であり、さらに好ましくは[D50≦0.5μm、Dmax≦1.0μm]である。レーザー回折式粒度分布測定装置として、例えば、島津製作所製SALD−2100を使用することができる。
【0048】
[アミノ基を有するカップリング剤]
本発明において表面処理された金属粉は表面にAl、Si、Ti、Zr、Ce、及びSnからなる群から選択された1種の元素を含む表面処理層が設けられたものとなるが、これらの元素はアミノ基を有するカップリング剤に由来する。好適な実施の態様において、アミノ基を有するカップリング剤としては、アミノシラン、アミノ含有チタネート、アミノ含有アルミネートからなる群から選択された1種以上のカップリング剤を使用することができる。好適な実施の態様において、アミノ基を有するカップリング剤は、中心原子であるAl、Ti、又はSiに配位する分子鎖の末端にアミノ基を有する構造となっている。本発明者は、この末端にアミノ基が位置することが、好適な表面処理をもたらすものとなっていると考えている。
【0049】
[アミノシラン]
好適な実施の態様において、アミノ基を有するカップリング剤として、次の式I:
2N−R1−Si(OR22(R3) (式I)
(ただし、上記式Iにおいて、
R1は、直鎖状又は分枝を有する、飽和又は不飽和の、置換又は非置換の、環式又は非環式の、複素環を有する又は複素環を有しない、C1〜C12の炭化水素の二価基であり、
R2は、C1〜C5のアルキル基であり、
R3は、C1〜C5のアルキル基、又はC1〜C5のアルコキシ基である。)
で表されるアミノシランを使用することができる。
【0050】
好ましい実施の態様において、上記式IのR1は、直鎖状又は分枝を有する、飽和又は不飽和の、置換又は非置換の、環式又は非環式の、複素環を有する又は複素環を有しない、C1〜C12の炭化水素の二価基であり、さらに好ましくは、R1は、置換又は非置換の、C1〜C12の直鎖状飽和炭化水素の二価基、置換又は非置換の、C1〜C12の分枝状飽和炭化水素の二価基、置換又は非置換の、C1〜C12の直鎖状不飽和炭化水素の二価基、置換又は非置換の、C1〜C12の分枝状不飽和炭化水素の二価基、置換又は非置換の、C1〜C12の環式炭化水素の二価基、置換又は非置換の、C1〜C12の複素環式炭化水素の二価基、置換又は非置換の、C1〜C12の芳香族炭化水素の二価基、からなる群から選択された基とすることができる。好ましい実施の態様において、上記式IのR1は、C1〜C12の、飽和又は不飽和の鎖状炭化水素の二価基であり、さらに好ましくは、鎖状構造の両末端の原子が遊離原子価を有する二価基である。好ましい実施の態様において、二価基の炭素数は、例えばC1〜C12、好ましくはC1〜C8、好ましくはC1〜C6、好ましくはC1〜C3とすることができる。
【0051】
好ましい実施の態様において、上記式IのR1は、−(CH2n−、−(CH2n−(CH)m−(CH2j-1−、−(CH2n−(CC)−(CH2n-1−、−(CH2n−NH−(CH2m−、−(CH2n−NH−(CH2m−NH−(CH2j−、−(CH2n-1−(CH)NH2−(CH2m-1−、−(CH2n-1−(CH)NH2−(CH2m-1−NH−(CH2j−、−CO−NH−(CH2n−、−CO−NH−(CH2n−NH−(CH2m−からなる群から選択された基である(ただし、n、m、jは、1以上の整数である)とすることができる。(ただし、上記(CC)は、CとCの三重結合を表す。)好ましい実施の態様において、R1は、−(CH2n−、又は−(CH2n−NH−(CH2m−とすることができる。(ただし、上記(CC)は、CとCの三重結合を表す。)好ましい実施の態様において、上記の二価基であるR1の水素は、アミノ基で置換されていてもよく、例えば1〜3個の水素、例えば1〜2個の水素、例えば1個の水素が、アミノ基によって置換されていてもよい。
【0052】
好ましい実施の態様において、上記式Iのn、m、jは、それぞれ独立に、1以上12以下の整数、好ましくは1以上6以下の整数、さらに好ましくは1以上4以下の整数とすることができ、例えば、1、2、3、4から選択された整数とすることができ、例えば、1、2又は3とすることができる。
【0053】
好ましい実施の態様において、上記式IのR2は、C1〜C5のアルキル基、好ましくはC1〜C3のアルキル基、さらに好ましくはC1〜C2のアルキル基とすることができ、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、又はプロピル基とすることでき、好ましくは、メチル基又はエチル基とすることができる。
【0054】
好ましい実施の態様において、上記式IのR3は、アルキル基として、C1〜C5のアルキル基、好ましくはC1〜C3のアルキル基、さらに好ましくはC1〜C2のアルキル基とすることができ、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、又はプロピル基とすることでき、好ましくは、メチル基又はエチル基とすることができる。また、上記式IのR3は、アルコキシ基として、C1〜C5のアルコキシ基、好ましくはC1〜C3のアルコキシ基、さらに好ましくはC1〜C2のアルコキシ基とすることができ、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、又はプロポキシ基とすることでき、好ましくは、メトキシ基又はエトキシ基とすることができる。
【0055】
[アミノ含有チタネート]
好適な実施の態様において、アミノ基を有するカップリング剤として、次の式II:
(H2N−R1−O)pTi(OR2q (式II)
(ただし、上記式IIにおいて、
R1は、直鎖状又は分枝を有する、飽和又は不飽和の、置換又は非置換の、環式又は非環式の、複素環を有する又は複素環を有しない、C1〜C12の炭化水素の二価基であり、
R2は、直鎖状又は分枝を有する、C1〜C5のアルキル基であり、
p及びqは、1〜3の整数であり、p+q=4である。)
で表されるアミノ基含有チタネートを使用することができる。
【0056】
好適な実施の態様において、上記式IIのR1としては、上記式IのR1として挙げた基を好適に使用することができる。上記式IIのR1として、例えば、 −(CH2n−、−(CH2n−(CH)m−(CH2j-1−、−(CH2n−(CC)−(CH2n-1−、−(CH2n−NH−(CH2m−、−(CH2n−NH−(CH2m−NH−(CH2j−、−(CH2n-1−(CH)NH2−(CH2m-1−、−(CH2n-1−(CH)NH2−(CH2m-1−NH−(CH2j−、−CO−NH−(CH2n−、−CO−NH−(CH2n−NH−(CH2m− からなる群から選択された基(ただし、n、m、jは、1以上の整数である)とすることができる。特に好適なR1として、−(CH2n−NH−(CH2m−を挙げることができ(ただし、n+m=4、特に好ましくはn=m=2)を挙げることができる。
【0057】
上記式IIのR2としては、上記式IのR2として挙げた基を好適に使用することができる。好適な実施の態様において、C3のアルキル基を挙げることができ、特に好ましくは、プロピル基、及びイソプロピル基を挙げることができる。
【0058】
上記式IIのp及びqは、1〜3の整数であり、p+q=4であり、好ましくはp=q=2の組み合わせ、p=3、q=1の組み合わせを挙げることができる。このように官能基が配置されたアミノ基含有チタネートとして、プレインアクト KR44(味の素ファインテクノ社製)を挙げることができる。
【0059】
[金属粉分散液の調製]
金属粉を、アミノ基を有するカップリング剤の水溶液と混合して、金属粉分散液が調製される。好適な実施の態様において、金属粉分散液が、金属粉1gに対して、アミノ基を有するカップリング剤を0.005g以上、0.025g以上、好ましくは0.050g以上、さらに好ましくは0.075g以上、さらに好ましくは0.10g以上を含むものとすることができ、あるいは、例えば、0.005〜0.500g、0.025〜0.250g、0.025〜0.100gの範囲の量を含むものとすることができる。金属粉と、アミノ基を有するカップリング剤の水溶液とは、公知の方法によって混合することができる。この混合にあたっては、適宜、公知の方法によって撹拌を行うことができる。好適な実施の態様において、混合は、例えば、常温で行うことができ、例えば、5〜80℃、10〜40℃、20〜30℃の範囲の温度で行うことができる。
【0060】
[金属粉分散液の撹拌及び超音波処理]
好適な実施の態様において、金属粉分散液を調製する工程の後に、金属粉分散液を撹拌する工程を行うことができる。また、好適な実施の態様において、金属粉分散液を調製する工程の後に、金属粉分散液を超音波処理する工程を行うことができる。この撹拌と超音波処理は、いずれかのみを行うことができるが、両方を同時にあるいは前後して行うこともできる。超音波処理は、100mlあたり、好ましくは50〜600W、さらに好ましくは100〜600Wの出力で行うことができる。好ましい実施の態様において、超音波処理は、好ましくは10〜1MHz、さらに好ましくは20〜1MHz、さらに好ましくは50〜1MHzの周波数で行うことができる。超音波処理の処理時間は、銅粉分散液の状態に応じて選択するが、好ましくは1〜180分間、さらに好ましくは3〜150分間、さらに好ましくは10〜120分間、さらに好ましくは20〜80分間とすることができる。
【0061】
[水性溶媒による洗浄]
金属粉分散液は、混合、撹拌及び/又は超音波処理によって、金属粉分散液中の金属粉がカップリング剤と十分に接触した後に、金属粉分散液から金属粉を、残渣として回収する工程、残渣として回収された金属粉を、水性溶媒によって洗浄する工程を、行う。残渣としての回収は、公知の手段で行うことができ、例えば、ろ過、デカンテーション、遠心分離等を使用することができ、好ましくはろ過を使用することができる。水性溶媒による洗浄は、水性溶媒を用いて公知の手段で行うことができる。例えば、残渣に水性溶媒を添加して撹拌した後に、再び残渣として回収することによって行うことができ、あるいは例えば、ろ過フィルターに載置された残渣に対して水性溶媒を連続的に添加することによっても行うことができる。
【0062】
好適な実施の態様において、水性溶媒による洗浄は、洗浄後の金属粉の乾燥質量に対して5倍の質量の水性溶媒を添加した後に得たろ過液の中に、ICP分析によって検出されるSi、Ti、Al、Zr、Ce及びSnからなる群から選択された1種の元素が、50ppm以下の濃度、好ましくは30ppm以下の濃度となるまで、残渣として回収された金属粉を水性溶媒によって洗浄することによって、行うことができる。上記濃度の下限には特に制限はないが、例えば1ppm以上、例えば5ppm以上とすることができる。
【0063】
[水性溶媒]
洗浄に使用される水性溶媒としては、純水、又は水溶液を使用することができる。水溶液としては、例えば、無機酸、無機酸の塩、有機酸、有機酸の塩、水溶性のアルコール、及び水溶性のエステルから選択された1種以上の溶質又は溶媒が、溶解又は分散した水溶液を使用することができる。無機酸及びその塩としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、及び炭酸、及びそれらの塩を挙げることができる。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、及びカルシウム塩を挙げることができる。有機酸及びその塩としては、例えば、1〜3価でC1〜C7のカルボン酸及びその塩を挙げることができ、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、及びフタル酸、及びそれらの塩を挙げることができる。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、及びカルシウム塩を挙げることができる。アルコールとしては、例えば、1〜3価でC1〜C6のアルコールを挙げることができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、及びフェノールを挙げることができる。水溶性のエステルとしては、例えば、C1〜C12のエステルを挙げることができ、例えば、上述した酸とアルコールによるエステルを挙げることができる。水性溶媒のpHは、好ましくはpH7〜14、さらに好ましくはpH8〜12の範囲とすることができる。純水としては、高度に精製された高純度の水を使用することができるが、工業的に使用される純度の水であって意図的な化合物の添加が行われていない水であれば、使用することができる。水溶液に溶解又は分散させる上記溶質又は溶媒の含有量は、溶質又は溶媒が溶解又は分散可能な範囲の含有量であって、上述したICP分析によって検出される元素の濃度を上述の範囲とすることができるような含有量であれば使用することができる。このような条件を満たす範囲で、上記溶質又は溶媒を、例えば、水溶液の質量に対して、0.0001質量%〜20質量%、0.001質量%〜10質量%の範囲で含有させることができる。
【0064】
[乾燥]
洗浄された金属粉は、水性溶媒から分離して、所望により乾燥されないまま次の工程に進むこともできるが、所望により乾燥させて、表面処理された金属粉として得ることもできる。この乾燥には、公知の手段を使用することができる。好適な実施の態様において、この乾燥は、酸素雰囲気又は不活性雰囲気下で行うことができる。乾燥は、例えば、加熱による乾燥を行うことができ、例えば、50〜90℃、60〜80℃の温度で、例えば、30〜120分間、45〜90分間の加熱処理によって、行うことができる。加熱乾燥に続けて、表面処理された金属粉に対して、所望により、さらに粉砕処理を行ってもよい。
【0065】
[表面処理された金属粉に対する後処理]
好適な実施の態様において、回収された表面処理された金属粉に対しては、さらに後処理として表面処理を行ってもよい。防錆、あるいは、ペースト中での分散性を向上させること等を目的として、有機物等をさらに表面処理された金属粉の表面に吸着させてもよい。このような表面処理として、例えば、ベンゾトリアゾール、イミダゾール等の有機防錆剤による防錆処理をあげることができ、このような通常の処理によっても、本発明による表面処理が脱離等することはない。したがって、優れた焼結遅延性を失わない限度内で、当業者はそのような公知の表面処理を、所望により行うことができる。すなわち、本発明に係る表面処理された銅粉の表面に、優れた焼結遅延性を失わない限度内で、さらに表面処理を行って得られた銅粉もまた、本発明の範囲内である。このような防錆処理等の後処理を行った場合にも、本発明による優れた焼結遅延性、分散性等は維持されるものとなっている。
【0066】
[導電性金属粉ペースト及び電極の製造]
本発明の表面処理された金属粉は、上記優れた特性を有しており、これを、溶媒及び/又はバインダーと配合して、上記優れた特性の導電性金属粉ペーストを、製造することができる。この導電性金属粉ペーストを、基材に塗布して、基材に塗布された導電性金属粉ペーストを加熱焼成することによって、上記優れた特性の電極を、製造することができる。
【実施例】
【0067】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[金属粉]
金属粉として、銅粉、ニッケル粉、銀粉を以下の手順で用意した。
(不均化法による銅粉 (実施例6以外で使用))
表面処理に供される銅粉20gを、上述した不均化法による湿式法によって製造した。これは具体的には以下の手順で行った。
(1) アラビアゴム0.05〜0.4g + 純水350mLに、亜酸化銅50gを添加した。
(2) 次に、希硫酸(25wt%)50mLを一時に添加した。
(3) これを、回転羽で攪拌後(300rpm×10分)、60分放置した。
(4) 次に、沈殿に対して、洗浄を行った。
【0069】
洗浄は、最初に、上澄み液を除去し、純水350mLを加えて攪拌(300rpm×10分)後、60分放置し、上澄み液を除去し、純水350mLを加えて攪拌(300rpm×10分)後、60分放置し、銅粉を沈降させた。この状態で粒度測定をレーザー回折式粒度分布測定(島津製作所SLAD−2100)で行い、表面処理前の粒度測定とした。
得られた銅粉の粒子サイズ(D50、Dmax)を表1〜2に、金属粉サイズ(処理前)として示す。測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製SALD−2100)を使用した。この不均化法によって得られた銅粉は、実施例6以外で使用される銅粉として使用した。
【0070】
(化学還元法による銅粉 (実施例6で使用))
特許第4164009号公報に従い、化学還元法による湿式法によって銅粉を得た。すなわち、アラビアゴム2gを2900mLの純水に添加した後、硫酸銅125gを添加し撹拌しながら、80%ヒドラジン一水和物を360mL添加した。ヒドラジン一水和物の添加後〜3時間かけて室温から60℃に昇温し、更に3時間かけて酸化銅を反応させた。この後60分放置し、銅粉を沈降させた。この状態で粒度測定をレーザー回折式粒度分布測定(島津製作所SLAD−2100)で行い、表面処理前の粒度測定とした。この化学還元法によって得られた銅粉は、実施例6で使用した。
【0071】
(ニッケル粉)
ニッケル粉は東邦チタニウム製のNF32(D50 0.3μm)を用いた。
【0072】
(銀粉)
特開2007−291513に従って製粉した。すなわち、0.8Lの純水に硝酸銀12.6gを溶解させ、25%アンモニア水を24mL、さらに硝酸アンモニウムを40g添加し、銀アンミン錯塩水溶液を調整した。これに1g/Lの割合でゼラチンを添加し、これを電解液とし、陽極、陰極ともにDSE極板を使用し、電流密度200A/m2、溶液温度20℃で電解し、電析した銀粒子を極板から掻き落としながら1時間電解した。こうして得られた銀粉をヌッチェでろ過し、純水、アルコールの順に洗浄を行い、70℃で12時間大気雰囲気下で乾燥させた。この銀粉を乾式分級し、最終的にD50 0.1μm、Dmax 0.5μmの銀粉を得た。
【0073】
[カップリング剤水溶液の調製]
次の各種のカップリング剤を使用したカップリング剤水溶液をそれぞれ50mL調製した。

シラン:
ジアミノシランA−1120(MOMENTIVE社製)
アミノシランA−1110(MOMENTIVE社製)
エポキシシランZ−6040(東レダウコーニング社製)
メチルトリメトキシシランKBM−13(信越シリコーン社製)
3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(MOMENTIVE社製)
チタネート:
アミノ基含有 プレインアクト KR44(味の素ファインテクノ社製)
アミノ基非含有 プレインアクト KR44TTS(味の素ファインテクノ社製)

濃度は0.2〜10vol%の範囲で調製した。また、アミノ系カップリング剤以外は希硫酸でpHを4に調整した。
【0074】
各種のシランの構造式は、以下である。
ジアミノシランA−1120:
2N−C24−NH−C36−Si(OCH33

アミノシランA−1110:
2N−C36−Si(OCH33

エポキシシランZ−6040:
【化1】

メチルトリメトキシシランKBM−13:
3C−Si(OCH33

3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン:
65−NH−C36−Si(OCH33
【0075】
[例A: 実施例1〜4、6〜22、比較例4〜7]
[表面処理]
上記不均化法で得られた銅粉スラリーから上澄み液を除去し、銅粉を乾燥させることなく、調製したカップリング剤と60分間、以下のいずれかの方法で混合させた。銀粉、ニッケル粉は乾燥後の状態から同様の表面処理を行った。表面処理に供した金属粉の質量はカップリング剤水溶液50mLに対して、それぞれ20gとした。
(1)回転羽(300rpm)+超音波(株式会社テックジャム製、超音波洗浄器 3周波タイプ / W−113)(出力100W、周波数100kHz)
(2)回転羽(300rpm)のみ
(3)超音波のみ
次にこれらのカップリング剤水溶液をそれぞれアスピレーターで吸引ろ過したのち、金属粉の上に純水を加え、さらにろ過した。ろ過による洗浄は、洗浄後に金属粉の乾燥質量の5倍の純水を加えてろ過して得られたろ液をICP(高周波誘導結合プラズマ)分析した場合に、カップリング剤に由来するSi、Ti、Al、Zr、Ce又はSnの元素が50ppm以下の濃度となるまで行った。上記の場合、洗浄のための純水は約350mLを要した。そこで、ICP分析は、最後の約350mLをろ過後に約100mLを更にろ過し、この約100mLの濾液に対して行った。得られた残渣を窒素雰囲気下で70℃で1時間乾燥し、乳鉢で粉砕した。この状態で再度粒度測定を行った。このようにして表面処理された金属粉を得た。金属粉に対するこれらの表面処理の一覧を、表1に示す。また、350mLの純水でろ過後の100mLのろ液中のSi又はTi(シランカップリング剤の場合にはSi、チタネートの場合にはTi)の濃度(ppm)を表3に示す。
【0076】
[XPS multiplex測定]
表面処理された金属粉の表面に付着したSi、Ti、Nを次の条件で分析した。この結果は、表3にまとめた。
表面N及び表面Si、Ti: 直径0.5mmの円筒状の容器に、表面処理された金属粉0.5gを充填して、底面が隙間なく覆われるように敷きつめた。円筒容器に敷きつめられた、表面処理された金属粉の上面をXPS multiplex測定。(表面処理された金属粉の球体の上半分の表面に付着したN及びSi、Tiの半定量分析)

装置:アルバックファイ社製5600MC
到達真空度:5.7×10-9Torr
励起源:単色化 AlKα
出力:210W
検出面積:800μmφ
入射角、取出角:45°
対象元素:C、N、Oの3種
Ag、Ni、Cuからなる群
Ti、Si、Al、Sn、Zr、Ceからなる群
【0077】
[TMA測定]
表面処理された金属粉によって、サンプルを作製して、TMA(Thermomechanichal Analyzer)を使用して、焼結開始温度を、次の条件で測定した。

サンプル作製条件
圧粉体サイズ:7mmφ×5mm高さ
成型圧力:1Ton/cm2(1000kg重/cm2
(潤滑剤として0.5wt%のステアリン酸亜鉛を添加)
測定条件
装置:島津製作所TMA−50
昇温:5℃/分
雰囲気:2vol%H2−N2(300cc/分)
荷重:98.0mN
【0078】
このように、測定対象の表面処理された金属粉に0.5wt%のステアリン酸亜鉛を添加して混合し、この混合物を直径7mmの筒体に装填し、上部からポンチを押し込んで1Ton/cm2で3秒保持する加圧を付与し、高さ約5mm相当の円柱状に成形した。この成形体を、軸を鉛直方向にして且つ軸方向に98.0mNの荷重を付与した条件で、昇温炉に装填し、2vol%H2−N2(300cc/分)流量中で昇温速度5℃/分、測定範囲:50〜1000℃に連続的に昇温していき、成形体の高さ変化(膨張・収縮の変化)を自動記録した。成形体の高さ変化(収縮)が始まり、その収縮率が1%に達したところの温度を「焼結開始温度」とした。
また、このTMAによる昇温によって形成された各焼結体をFIB加工して、断面のSIM像を撮影した。これを用いて最大径0.5μm以上のSiO2またはTiO2の個数を計数した。
これらの結果は表3にまとめた。
【0079】
[EDS分析]
表面処理された銅粉の表面のSiO2及びTiO2厚みを、EDS(エネルギー分散型X線分析)によって、次の条件で分析した。この結果は、表3にまとめた。

SiO2厚み (TiO2厚みについても同様)
装置:STEM
断面TEM像倍率:2000000倍(200万倍)
特性X線
照射電子のビーム径:1nm
走査距離:500nm(銅粉の断面を走査)の5点平均
SiO2層定義:特性X線の深さ方向濃度プロファイルの最大値の10%となる領域。
【0080】
[導電性金属粉ペーストによる塗膜]
上述の手順で得られた表面処理された金属粉を、エチルセルロースとテルピネオール(以下、TPO)からなるビークルと、テルピネオールとをミキサーで混練し、3本ロールに通して、表面処理された金属粉による金属粉ペーストを得た。重量組成は
表面処理された金属粉:TPO:エチルセルロース=51.5:46:2.5
とした。これをアプリケーターでPET上に塗工し、120℃で10分大気雰囲気下で乾燥させた。乾燥後の塗膜厚みが10μmとなるように塗工した。
得られた塗膜の最大山高さRzを、接触式表面粗さ計(小坂研究所製、SE−3400)によりJIS−BO601に従ってn=3で測定し、平均値を求めた。
これらの結果は、表2にまとめた。
【0081】
[例B: 実施例5]
上記実施例2で得られた表面処理された銅粉に対して、さらに防錆処理を行っても、本発明の焼結遅延性が維持されることを確認するために、以下の実験を行った(実施例5)。
実施例2で表面処理された銅粉を得た後、有機化合物による防錆処理を行うため、ベンゾトリアゾール水溶液(0.1g/L)100mL中に分散させ、回転羽で500rpmで10分間攪拌し、ろ過、乾燥(窒素雰囲気下で70℃×1h)させ、さらに、防錆処理された銅粉を得た(実施例5)。この防錆処理された銅粉を実施例2の手順で評価した。なお、防錆処理された金属粉について、評価を行ってその結果を表1〜3にまとめたが、表2における「処理後」の金属粉のサイズは、防錆処理後の金属粉のサイズであり、表3の各評価も、防錆処理後の金属粉についての結果である。
【0082】
[例C: 比較例1〜3]
比較例1、2では、上記で得られた不均化法による銅粉、銀粉をそれぞれベンゾトリアゾール水溶液(0.1g/L)100mL中に分散させ、回転羽で500rpmで10分間攪拌し、ろ過、乾燥(窒素雰囲気下で70℃×1h)させ、さらに、防錆処理された銅粉、銀粉を得た。これを例Aの手順で評価した。
比較例3では東邦チタニウム製のニッケル粉NF32(D50 0.3μm)を使用して例Aの手順で評価した。
【0083】
[例D: 比較例8]
特開2012−140661にしたがって、扁平銅粉を作製した。すなわち、50℃の純水2Lに、硫酸銅3モルを添加して撹拌を行い、銅含有水溶液を得た。次に、この水溶液を撹拌した状態で、該水溶液にアンモニア水(アンモニアに換算して、銅1モルに対して1.77モル)を添加して、液中に酸化第二銅を生成させた。この時にケイ酸ナトリウムを銅1モルに対して0.016添加した。引き続き30分撹拌した後、ヒドラジンを銅1モルに対して0.53モル添加した。また、アンモニア水(アンモニアに換算して、銅1モルに対して0.81モル)を添加した。これによって、第一の還元反応を行い、酸化第二銅を酸化第一銅に還元させた。引き続き30分撹拌した後、液を撹拌した状態でヒドラジンを銅1モルに対して2.29モル一括添加して第二の還元反応を行い、酸化第二銅を銅に還元させた。引き続き1時間撹拌を行って反応を終了させた。反応終了後、得られたスラリーをヌッチェを用いてろ過し、次いで純水及びメタノールで洗浄し、更に乾燥させて扁平銅粉を得た。この特性を例Aの手順で評価した。
【0084】
[例E]
上記の比較例1〜8の他に、テトラエトキシシラン(TEOS)を用い、アンモニアを触媒として用いて銅粉に表面処理をして、比較実験を行ったが、テトラエトキシシランを用いた場合には、得られた表面処理銅粉が凝集してしまい、肉眼による観察によって、均一な表面処理と粒径が得られていないと思われる状態となっていた。この場合、表面処理前にD50=0.13μm、Dmax=0.44μmであったが、表面処理後にはD50=0.87μm、Dmax=3.1μmといずれも7倍程度大きくなっていた。また、粒度分布は表面処理前に1山であったものが2山となっていた。
【0085】
[例F: 参考例1〜4]
上記で得られた不均化法による銅粉を例Aの手順でジアミノシランA−1120(MOMENTIVE社製)の4水準の濃度(すなわち、2%、4%、6%、10%の濃度)の水溶液で、例Aの(1)の手順で60分間撹拌混合した。次にこれらのカップリング剤水溶液をそれぞれアスピレーターで吸引ろ過した。そして、純水による洗浄等を行うことなく、吸引ろ過後の残渣を窒素雰囲気下で70℃で1時間乾燥し、乳鉢で粉砕した。これを例Aの手順で評価した。
【0086】
[結果]
(シランカップリング剤)
以上の結果は、表1〜3にまとめた。当該実施例の焼結開始温度は防錆処理のみ、あるいはカップリング剤処理をしていない比較例1〜3、分子末端にアミノ基がないシランカップリング剤水溶液で処理した比較例4、5と比べると、340℃前後から大きく上昇し、650℃以上であった。表面処理された銅粉は、表面処理後も原料粉と同じ大きさを維持したままであったことから、凝集することで表面積が減って焼結遅延性が向上したわけではなく、表面処理による何らかの変化によって、焼結遅延性が劇的に向上したと思われる。分子末端にアミノ基がないシランカップリング剤水溶液で処理した比較例6は、焼結開始温度が337℃と比較例1からの向上は認められなかった。この理由は不明であるが、本発明者は、比較例4においては、アミノシランカップリング剤が末端にアミノ基を有する構造とはなっておらず、加えて、ベンゼン環がアミノ基よりも末端に位置するために、表面構造に対する何らかの影響が生じたと推測している。このことから、分子末端にアミノ基があるシランカップリング剤であることが銅粉の焼結遅延性が向上する条件と考えられる。
アミノシランカップリング剤処理の上にさらに防錆処理を施した実施例5も、表面処理後で凝集することなく、焼結遅延性が飛躍的に向上することが確認された。
化学還元法により得られた銅粉をアミノシランカップリング剤処理した実施例6も、不均化法により得られた銅粉と同じように、アミノシランカップリング剤処理で、表面処理後の凝集が起こることなく、焼結遅延性が大きく向上することが確認された。
さらに、分子末端にアミノ基を有するカップリング剤として、ウレイドシラン(H2N−CO−NH−(CH23−Si(OCH2CH33)を用いた実験においても、本発明の優れた効果が確認された(実施例には示されていない)。
【0087】
(チタネートカップリング剤)
アミノ基を有するチタネートカップリング剤処理をした実施例8〜10、14〜16、20〜22は、焼結開始温度が防錆処理のみの比較例1と比較すると大きく向上したと言える。
【0088】
(焼結遅延性、ペースト分散性に対する水洗効果)
図1から示されるように、同じ焼結開始温度を得るのに必要なSi量、Ti量は、カップリング剤処理後に水洗をした方が少ない。常識的にはSi、Tiが多く付着していた方が金属粉の表面をより完全に覆う可能性が高くなるので有利だと考えられる。にもかかわらず、むしろSi、Tiを少なくした方が焼結遅延性向上に有利であることを、上記の実験結果は示している。
また、カップリング剤処理後に水洗を行った場合は、ペースト塗膜のRzが減少し、すなわちペースト塗膜が平坦になった。ペースト塗膜の平坦化は薄い塗膜を形成したい場合に重要となり、MLCCの内部電極の薄層化(1μm前後の厚み)に大きく貢献する。
【0089】
(焼結体中のSiO2、TiO2粒子の個数)
TMA試験後の焼結体断面を観察したところ、上記表面処理された金属粉を使用したにもかかわらず、焼結体の断面において、大きな直径(粒子の最小外接円の直径)のSiO2、TiO2粒子の個数(個数/μm2)が少ないものとなっていることがわかった。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、焼結遅延性、分散性に優れた、表面処理された金属粉を得ることができる。本発明による表面処理された金属粉は、高温焼結性が求められる用途、例えば、チップ積層セラミックコンデンサー用電極、結晶系シリコン太陽電池の裏面のAl電極上の電極の製造に好適に使用できる。本発明は産業上有用な発明である。
図1