特許第5986055号(P5986055)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986055
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/08 20060101AFI20160823BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
   G03G9/08
   G03G9/08 344
   G03G9/08 365
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-197163(P2013-197163)
(22)【出願日】2013年9月24日
(62)【分割の表示】特願2009-62359(P2009-62359)の分割
【原出願日】2009年3月16日
(65)【公開番号】特開2014-16641(P2014-16641A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2013年9月24日
【審判番号】不服2014-25145(P2014-25145/J1)
【審判請求日】2014年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】泉水 慶太
(72)【発明者】
【氏名】小山 文成
【合議体】
【審判長】 藤原 敬士
【審判官】 鉄 豊郎
【審判官】 清水 康司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−96993(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/146881(WO,A1)
【文献】 特開平1−252973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00 - 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、着色剤、帯電制御剤、及び離型剤を含有する着色重合体粒子、並びに当該着色重合体粒子の表面に付着した無機粒子及び/又は有機樹脂粒子からなる外添剤を含む静電荷像現像用トナーにおいて、
(1)該着色重合体粒子をソックスレー抽出して得られた抽出メチルエステル化して下記ガスクロマトグラフ質量分析測定条件で測定したときの、炭素数が8〜14且つ置換基を有しない脂肪酸の脂肪酸量Aが、該着色重合体粒子を基準として260〜509ppmであり、
(2)該着色重合体粒子をアルカリ洗浄後にソックスレー抽出して得られた抽出メチルエステル化して下記ガスクロマトグラフ質量分析測定条件で測定したときの、炭素数が8〜14且つ置換基を有しない脂肪酸の脂肪酸量Bが、検出限界以下であり、
前記脂肪酸量Aは、前記着色重合体粒子の粒子表面及び内部に存在する脂肪酸の量を示すものであり、前記脂肪酸量Bは、前記着色重合体粒子の粒子内部に存在する脂肪酸の量を示すものである、
静電荷像現像用トナー。
[ガスクロマトグラフ質量分析測定条件]
ガスクロマトグラフ :Agilent 6890N
質量分析装置 :Agilent 5973 inert
カラム :DB1701(液相:(14%−シアノプロピル−フェニル)メチルポリシロキサン) 0.25mm×30m df=1.0μm
カラム温度 :100℃→280℃(10℃/分)
インジェクション温度:320℃
スプリット比 :50:1
注入量 :1μl
ヘリウム流量 :1ml/分
検出器 :MSD
【請求項2】
該帯電制御剤が、帯電制御樹脂である請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
該離型剤が、多官能エステル化合物である請求項1又は2に記載の静電荷像現像用トナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の複写機、レーザービームプリンター、ファクシミリ等の画像形成装置において、感光体上に形成された静電潜像を可視像化するために現像剤として用いられる静電荷像現像用重合トナーに関する。さらに詳しくは、本発明は、常温常湿環境下ではもとより、高温高湿環境下でも、印字耐久性及び細線再現性が顕著に優れた静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式(静電記録方式を含む)の複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置において、感光体上に形成された静電潜像を可視像化するために現像剤が用いられている。現像剤は、着色剤や帯電制御剤、離型剤等が結着樹脂中に分散した着色粒子(トナー)を主成分としている。トナーは、その機能の面から静電荷像現像用トナーと呼ばれている。
【0003】
トナーの製造方法は、粉砕法と重合法に大別することができる。粉砕法では、結着樹脂と着色剤とその他の添加剤成分を溶融混練し、溶融物を粉砕し分級する方法によって、着色樹脂粒子からなるトナー(粉砕トナー)を製造している。重合法としては、懸濁重合法、乳化重合凝集法、分散重合法、溶解懸濁法等がある。重合法によれば、一般に、ミクロンオーダーの粒径で、シャープな粒径分布を持つトナーを製造することができる。重合法によれば、小粒径かつ球形で、シャープな分子量分布を有する重合トナーを得ることができる。小粒径かつ球形の重合トナーは、転写性とドット再現性に優れ、高精細な画像を形成することができる。
【0004】
電子写真方式の画像形成装置は、様々な環境下で用いられているため、トナーには、常温常湿環境下においてはもとより、高温高湿環境下においても、高精細な画像を形成できることと、印字耐久性に優れることが求められている。更に、連続的に多数の枚数を印字したときに、線幅や線画像濃度の変動が極めて少ないことが求められている。細線再現性に優れることは、高精細な画像を安定して形成する上で重要な指標となる。
【0005】
特開2008−9130号公報(特許文献1)には、懸濁重合法によるトナーの製造方法において、重合性単量体と着色剤を含有する重合性単量体組成物に、特定の構造を有するチタネートカップリング剤を含有させることにより、細線再現性と印字耐久性に優れた重合トナーを製造する方法が提案されている。
【0006】
特許文献1の実施例には、分散安定剤として水酸化マグネシウムコロイドを含有する水系媒体中で、該重合性単量体組成物を重合し、コア−シェル型着色重合体粒子を形成させ、重合後、着色重合体粒子を含有する水分散液に、pH6以下(pH6近傍)になるまで硫酸を加えて、水酸化マグネシウムコロイドを可溶化させて除去したことが示されている。
しかし、特許文献1の製造方法は、高価なチタネートカップリング剤を用いる必要があり、低コスト化の点で課題が残されている。
【0007】
特開2006−276293号公報(特許文献2)には、分散安定剤として水酸化マグネシウムコロイドを含有する水系媒体中で、特定の多官能エステル化合物を含有する重合性単量体組成物を懸濁重合し、次いで、生成した着色重合体粒子の存在下にシェル用重合性単量体を重合して、コア−シェル型着色重合体粒子を形成し、重合後に、そのpHを6.5以下に調整して、該難水溶性無機化合物コロイドを可溶化させて除去することが記載されている。
【0008】
特開2001−183872号公報(特許文献3)には、分散安定剤を含有する水系媒体中で、特定の帯電制御剤及び炭素数6〜40の脂肪酸を含有する重合性単量体組成物を懸濁重合し、次いで、希塩酸で分散剤を除去し、水洗浄を繰り返した後乾燥して、疎水性シリカを添加してトナーを得たことが記載されている。
【0009】
特許文献1〜3のトナーは保存性、低温定着性、細線再現性、常温常湿環境下での印字耐久性、画像濃度が高く、カブリ及び中抜けのない等に優れていることが記載されているが、本発明者らの検討したところによると、細線再現性、常温常湿環境下での印字耐久性並びに高温高湿環境下での印字耐久性の何れかが劣ることが分かった。
【0010】
電子写真方式の画像形成装置において、環境の変動にかかわらず、高精細な画像を安定的に形成できることが求められている。現像剤として用いられる静電荷像現像用トナーには、要求水準の高まりに応えるため、常温常湿環境下ではもとより、高温高湿環境下においても、より印字耐久性と細線再現性に優れた静電荷像現像用トナーが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−9130号公報
【特許文献2】特開2006−276293号公報
【特許文献3】特開2001−183872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、常温常湿環境から高温高湿環境まで印字環境が大きく変動しても、印字耐久性に優れる上、細線再現性にも優れた静電荷像現像用トナーとその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、トナーの表面及び内部における脂肪酸量を、特定の選択された範囲に制御することによって、印字耐久性と細線再現性が顕著に優れた静電荷像現像用トナーの得られることを見出した。
【0014】
より具体的に、本発明者らは、湿式法により分散安定剤を含有する着色重合体粒子の水分散液を得る工程を含む、着色重合体粒子からなる静電荷像現像用トナーの製造方法において、1)分散安定剤の除去酸洗浄を行い、2)水洗浄を繰り返し、3)水に再分散させ、次いで、脂肪酸塩の水溶液を添加後、酸によりpH調整を行うことにより、常温常湿環境下ではもとより、高温高湿環境下でも、印字耐久性と細線再現性が顕著に優れる静電荷像現像用トナーが得られることを見出した。
【0015】
本発明の静電荷像現像用トナーを構成する着色重合体粒子の表面状態を分析したところ、従来品とは異なる表面状態が観察された。具体的には、トナーをソックスレー抽出して得られた抽出液をガスクロマトグラフ質量分析装置で測定したときの脂肪酸量Aが該トナーを基準として50〜6000ppmであり、トナーをアルカリ洗浄後にソックスレー抽出して得られた抽出液をガスクロマトグラフ質量分析装置で測定したときの脂肪酸量Bが該トナーを基準として50ppm未満であることが判明した。
【0016】
本発明の静電荷像現像用トナーは、常温常湿環境から高温高湿環境まで印字環境が大きく変動しても、印字耐久性に優れる上、細線再現性にも優れた静電荷像現像用トナーとその製造方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、結着樹脂、着色剤、帯電制御剤、及び離型剤を含有する着色重合体粒子、並びに当該着色重合体粒子の表面に付着した無機粒子及び/又は有機樹脂粒子からなる外添剤含む静電荷像現像用トナーにおいて、
(1)該着色重合体粒子をソックスレー抽出して得られた抽出液をガスクロマトグラフ質量分析装置で測定したときの、炭素数が8〜14且つ置換基を有しない脂肪酸の脂肪酸量Aが、該着色重合体粒子を基準として260〜509ppmであり、
(2)該着色重合体粒子をアルカリ洗浄後にソックスレー抽出して得られた抽出液をガスクロマトグラフ質量分析装置で測定したときの、炭素数が8〜14且つ置換基を有しない脂肪酸の脂肪酸量Bが、検出限界以下であり、
前記脂肪酸量Aは、前記着色重合体粒子の粒子表面及び内部に存在する脂肪酸の量を示すものであり、前記脂肪酸量Bは、前記着色重合体粒子の粒子内部に存在する脂肪酸の量を示すものである、
静電荷像現像用トナーが提供される。
【0018】
本発明においては、該帯電制御剤が、帯電制御樹脂であることが好ましい。
また、本発明においては、該離型剤が、多官能エステル化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、常温常湿環境下ではもとより、高温高湿環境下においても、印字耐久性と細線再現性が顕著に優れる静電荷像現像用トナー及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.着色重合体粒子(重合トナー)の製造方法:
本発明の静電荷像現像用トナーを構成する着色重合体粒子(重合トナー)は、懸濁重合法、乳化重合凝集法並びに溶解懸濁法等の湿式法により製造することができる。湿式法により着色重合体粒子を製造する方法は公知の方法を採用することができる。湿式法では分散安定剤を含有する着色重合体粒子の水分散液を得ることにより製造することができるが、分散安定剤を含有する水系媒体中で、重合性単量体、着色剤、帯電制御剤、及び離型剤を含有する重合性単量体組成物を重合する工程を含む製造方法により得ることができる懸濁重合法が好ましい。懸濁重合法では、重合性単量体組成物を懸濁重合した後、生成した着色重合体粒子の存在下にシェル用重合性単量体を重合して、コア−シェル型着色重合体粒子を形成してもよい。したがって、本発明の静電荷像現像用トナーは、コア−シェル型着色重合体粒子を含有するものを含んでいる。
【0021】
本発明では、分散安定剤として酸に可溶な難水溶性金属化合物のコロイドを使用することが好ましい。帯電制御剤としては、帯電制御樹脂が好ましく、更に4級アンモニウム(塩)基を含有するスチレン−アクリレート共重合体等の正帯電制御樹脂が好ましい。該重合性単量体組成物は、該離型剤として、多価アルコールと炭素数10〜25の長鎖アルキル脂肪酸との多官能エステル化合物が好ましい。
【0022】
本発明の製造方法では、湿式法により得られた着色重合体粒子の水分散液から分散安定剤を除去する分散安定剤除去工程を配置する。好ましい製造方法である懸濁重合においては、重合後、生成した着色重合体粒子を含有する水分散液に酸を添加して、無機化合物のコロイドを溶解させる酸洗浄工程を配置する。この酸洗浄工程では、酸の添加によって、該水分散液のpHを6.5未満に調整して酸洗浄を行う。次いで、濾別した着色重合体粒子を水で洗浄する水洗浄工程を配置する。
【0023】
本発明では、印字耐久性と細線再現性をさらに向上させるために、水洗浄工程後に濾別した着色重合体粒子を更に水に再分散させ、その後炭素数8〜24の長鎖アルキル脂肪酸塩の水溶液によりリンス処理する工程を配置し、その後水に再分散させた時より更にpHを低くするために無機酸を添加するpH調整工程を配置する。着色重合体粒子を濾別後、常法に従って、湿潤状態の着色重合体粒子を乾燥させる。
以下、好ましい製造方法である懸濁重合法について詳述する。
【0024】
(1)重合性単量体:
重合性単量体の主成分としてモノビニル単量体が使用される。モノビニル単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸の誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のモノオレフィン単量体;が挙げられる。
【0025】
モノビニル単量体は、単独で用いても、複数の単量体を組み合わせて用いてもよい。これらモノビニル単量体のうち、芳香族ビニル単量体単独、芳香族ビニル単量体と(メタ)アクリル酸の誘導体との組み合わせ等が好適に用いられる。
【0026】
モノビニル単量体と共に、架橋性単量体を用いると、ホットオフセット特性を改善することができる。架橋性単量体は、2個以上のビニル基を有する単量体である。その具体例としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、及びこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート等のジエチレン性不飽和カルボン酸エステル;N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル等のビニル基を2個有する上記以外の化合物;ペンタエリスリトールトリアリルエーテルやトリメチロールプロパントリアクリレート等のビニル基を3個以上有する化合物;等を挙げることができる。
【0027】
これらの架橋性単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。その使用量は、モノビニル単量体100質量部に対して、通常10質量部以下、好ましくは0.01〜7質量部、より好ましくは0.05〜5質量部、特に好ましくは0.1〜3質量部である。
【0028】
マクロモノマーの具体例としては、スチレン、スチレン誘導体、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を単独でまたは2種以上を重合して得られる重合体;ポリシロキサン骨格を有するマクロモノマー;を挙げることができる。これらの中でも、親水性のものが好ましく、特にメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルを単独で、あるいはこれらを組み合わせて重合して得られる重合体が好ましい。
【0029】
マクロモノマーを使用する場合、その使用量は、モノビニル単量体100質量部に対して、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.03〜5質量部、より好ましくは0.05〜1質量部である。マクロモノマーの使用量が上記範囲内にあると、重合トナーの保存性を維持して、定着性が向上するので好ましい。
【0030】
(2)着色剤:
着色剤としては、カーボンブラックやチタンホワイト等のトナーの分野で用いられている各種顔料及び染料を使用することができる。黒色着色剤としては、カーボンブラック、ニグロシンベースの染顔料類;コバルト、ニッケル、四三酸化鉄、酸化鉄マンガン、酸化鉄亜鉛、酸化鉄ニッケル等の磁性粒子;等を挙げることができる。カーボンブラックを用いる場合、一次粒径が20〜40nmであるものを用いると良好な画質が得られ、トナーの環境への安全性も高まるので好ましい。カラートナー用着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、シアン着色剤等を使用することができる。
【0031】
イエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物等が用いられる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、74、83、90、93、95、96、97、109、110、111、120、128、129、138、147、155、168、180、181等がある。この他、ネフトールイエローS、ハンザイエローG、及びC.I.バットイエローが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アンスラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物等がある。具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、31、48、48:2、48:3、48:4、57、57:1、58、60、63、64、68、81、81:1、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、150、163、166、169、170、177、184、185、187、202、206、207、209、220、251、及び254等が挙げられるが、これらに限定されない。マゼンタ着色剤として、この他、C.I.ピグメントバイオレット19が挙げられる。
【0033】
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が挙げられる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー1、2、3、6、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17、60、62、及び66等があるが、これらに限定されない。シアン着色剤として、この他、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、C.I.アシッドブルー等が挙げられる。
【0034】
これらの着色剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせ使用することができる。着色剤は、重合性単量体100質量部に対して、通常0.1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部の割合で用いられる。
【0035】
(3)帯電制御剤:
重合トナーの帯電性を向上させるために、各種の正帯電性または負帯電性の帯電制御剤を重合性単量体組成物中に含有させることが好ましい。本発明では、帯電制御剤として、帯電制御樹脂を使用する。帯電制御樹脂とともに、必要に応じて、その他の帯電制御剤を併用してもよい。
【0036】
帯電制御樹脂には、負帯電制御樹脂と正帯電制御樹脂があり、本発明のトナーを負帯電性トナーとするか、正帯電性トナーとするかによって、帯電制御樹脂の帯電性を選択する。帯電制御樹脂は、必要に応じて、正帯電制御樹脂と負帯電制御樹脂を併用して、重合トナーの帯電特性を制御することができる。
【0037】
負帯電制御樹脂としては、重合体側鎖に、カルボキシル基若しくはその塩、フェノール類基若しくはその塩、チオフェノール基若しくはその塩、スルホン酸基若しくはその塩等の置換基を有する重合体が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、重合体側鎖に、スルホン酸基若しくはその塩を含有するモノビニル単量体と、該モノビニル単量体と共重合可能なその他のモノビニル単量体との共重合体が好ましい。共重合可能なその他のモノビニル単量体としては、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、芳香族ビニル単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体等が挙げられる。スルホン酸基若しくはその塩を含有するモノビニル単量体としては、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、メタクリルスルホン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0039】
スルホン酸基またはその塩等の官能基を有するモノビニル単量体の共重合割合は、通常0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%である。負帯電制御樹脂の重量平均分子量は、通常2,000〜50,000、好ましくは4,000〜40,000である。負帯電制御樹脂のガラス転移温度は、通常40〜80℃、好ましくは45〜75℃である。
【0040】
正帯電制御樹脂としては、例えば、−NH、−NHCH、−N(CH、−NHC、−N(C、−NHCOH等のアミノ基を含有する重合体、及びこれらのアミノ基がアンモニウム塩化された重合体を挙げることができる。正帯電制御樹脂は、アミノ基を含有するモノビニル単量体と、該モノビニル単量体と共重合可能なその他のモノビニル単量体を共重合し、必要に応じて、得られた共重合体をアンモニウム塩化することによって得ることができる。
【0041】
アミノ基を含有するモノビニル単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のアルキル(メタ)アクリルアミド単量体;アクリル酸3−(ジメチルアミノ)プロピル、メタクリル酸3−(ジメチルアミノ)プロピル等の(メタ)アクリル酸誘導体;アリルアミン;2−アミノスチレン、4−アミノスチレン等のスチレン誘導体;等が挙げられる。
【0042】
アミノ基またはアンモニウム塩基等の官能基を有するモノビニル単量体の共重合割合は、通常0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%である。正帯電制御樹脂の重量平均分子量は、通常2,000〜30,000、好ましくは4,000〜25,000である。正帯電制御樹脂のガラス転移温度は、通常40〜100℃、好ましくは45〜80℃である。
【0043】
帯電制御樹脂としては、4級アンモニウム(塩)基含有スチレン−アクリレート共重合体等の正帯電制御樹脂が好ましい。
【0044】
帯電制御樹脂は、重合性単量体100質量部に対して、通常0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜8質量部の割合で用いられる。帯電制御樹脂の含有量が多すぎると、帯電量が上昇しすぎて、現像時や転写時にトナーが飛散し、トナーの流動性が悪化する。帯電制御樹脂の含有量が少なすぎると、帯電量が低下し、印字汚れが起き易くなる。
【0045】
(4)離型剤:
離型剤として、多価アルコールと炭素数10〜25の長鎖アルキル脂肪酸との多官能エステル化合物を使用する。多価アルコールとしては、例えば、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。長鎖アルキル脂肪酸の炭素数は、好ましくは13〜24である。長鎖アルキルカルボン酸としては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等が挙げられる。
【0046】
多官能エステル化合物の具体例としては、例えば、トリグリセリンペンタベヘネート、テトラグリセリンヘキサベヘネート、ペンタグリセリンヘプタベヘネート、ヘキサグリセリンオクタステアレート、ヘキサグリセリンオクタベヘネート等のポリグリセリンと長鎖アルキル脂肪酸とのエステル;ペンタエリスリトールテトラミリステート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトララウレート等のペンタエリスリトールと長鎖アルキル脂肪酸とのエステル;ジペンタエリスリトールヘキサミリステート、ジペンタエリスリトールヘキサパルミテート、ジペンタエリスリトールヘキサラウレート等のジペンタエリスリトールと長鎖アルキル脂肪酸とのエステル;等が挙げられる。これらの多官能エステル化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
多官能エステル化合物の使用割合は、重合性単量体100質量部に対して、通常3〜15質量部、好ましくは4〜13質量部、より好ましくは5〜10質量部である。多官能エステル化合物の使用量が多すぎると、トナー表面近傍での該多官能エステル化合物の増加により、トナー表面状態が悪化し、外添剤が埋没したり、カブリが発生したりする。多官能エステル化合物の使用量が多すぎると、耐ブロッキング性(保存性)も悪くなる。
【0048】
多官能エステル化合物の使用量が少なすぎると、定着時にトナーの離型性が悪化するうえ、トナー表面状態が適度に改質されず、トナーの印字耐久性と細線再現性を向上させることができないか、低下傾向にある。
【0049】
(5)重合開始剤:
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジ−t−ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、1,1’,3,3’−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルブタノエート、等の過酸化物類;等を挙げることができる。これら重合開始剤と還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤を使用することもできる。
【0050】
これらの開始剤のなかでも、通常、重合性単量体に可溶な油溶性の重合開始剤を選択することが好ましく、必要に応じて、水溶性の重合開始剤を併用することもできる。
【0051】
重合開始剤としては、分子量が90〜205で、純度が90%以上の有機過酸化物が好ましい。重合開始剤の分子量は、より好ましくは170〜200、さらに好ましくは175〜195である。重合開始剤の純度は、主成分の重合開始剤の質量%を表し、好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0052】
有機過酸化物の1時間半減期温度は、印字耐久性の良いトナーが得られることから、70〜95℃であることが好ましく、75〜95℃であることがより好ましく、85〜95℃がさらに好ましい。半減期温度とは、重合開始剤の開裂の起こり易さを表す指標であり、重合開始剤を一定温度下に保持したとき、これが分解して一定時間後に元の開始剤量の1/2となる温度を示す。例えば、1時間半減期温度では、この一定時間が1時間の半減期温度である。
【0053】
好ましい1時間半減期温度を有する重合開始剤を用いることにより、得られる重合体粒子に残留する未反応の重合性単量体や、重合開始剤により副生するエーテル成分等の副生物の量を少なくすることができる。その結果、高温保存性に優れ、印字の際に悪臭を発生させず周囲の環境を悪化させず、また、印字耐久性に優れるトナーを得ることができる。
【0054】
重合開始剤の有機過酸化物としては、開始効率が特に高く、残留モノマー量を少なくすることができることから、パーオキシエステルが好ましく、非芳香族パーオキシエステル(すなわち、芳香族環を有しないパーオキシエステル)がより好ましい。
【0055】
重合開始剤は、重合性単量体100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.3〜15質量部、より好ましくは0.5〜10質量部の割合で用いられる。
【0056】
重合開始剤は、重合性単量体組成物中に予め添加することができるが、早期重合を抑制するために、重合性単量体組成物の液滴形成工程の終了後または重合反応の途中の懸濁液に直接添加することもできる。
【0057】
(6)分子量調整剤:
重合に際して、分子量調整剤を使用することが好ましい。分子量調整剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオール等のメルカプタン類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のチウラム類;等を挙げることができる。分子量調整剤は、通常、重合開始前の重合性単量体組成物に含有させるが、重合途中に添加することもできる。分子量調整剤は、重合性単量体100質量部に対して、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部の割合で用いられる。分子量調整剤の使用量が少なすぎると、分子量調整の効果が得られず、多すぎると、残留モノマーや残留VOCの量が増加する。
【0058】
(7)分散安定剤:
重合性単量体組成物の重合は、分散安定剤を含有する水系媒体中で行う。水系媒体としては、一般に、イオン交換水等の水を使用するが、必要に応じて、アルコール類等の水と相溶性のある有機溶剤の少量を併用してもよい。
【0059】
分散安定剤としては、難水溶性金属化合物のコロイドを使用することが好ましい。難水溶性金属化合物のコロイドは、多価金属塩と一価金属化合物とを水系媒体中で反応させる方法により、好適に調製することができる。
【0060】
多価金属塩としては、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、スズ等のハロゲン化塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。より具体的に、多価金属塩として、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等のマグネシウム塩;塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム等のアルミニウム塩;塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム等のカルシウム塩;等が挙げられる。これらの多価金属塩は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
一価金属化合物としては、リン酸イオン、リン酸水素イオン、炭酸イオン、及び水酸化物イオンから選ばれる陰イオンと、一価金属との、塩または水酸化物である。一価金属化合物の一価金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムからなる群より選ばれる1種以上の一価金属であることが好ましい。一価金属化合物は、具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等の水酸化物;リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、及びリン酸カリウム等のリン酸塩;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウム等の炭酸塩;等が挙げられ、これらの中でも、水酸化物が好ましい。一価金属化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
難水溶性金属化合物のコロイドは、その製法による制限はないが、水溶性多価金属化合物の水溶液のpHを7以上に調整することによって得られる難水溶性の金属水酸化物のコロイドが好ましく、水溶性多価金属化合物と水酸化アルカリ金属塩との水相中の反応により生成する難水溶性の金属水酸化物のコロイドがより好ましい。このような難水溶性金属化合物コロイドとしては、水酸化マグネシウムコロイドが好ましい。
【0063】
分散安定剤は、重合性単量体100質量部に対して、一般に、0.1〜20質量部の割合で使用する。分散安定剤の割合が少なすぎると、十分な重合安定性を得ることが困難であり、重合凝集物が生成しやすくなる。逆に、分散安定剤の割合が多すぎると、水溶液粘度が大きくなって重合安定性が低くなる。本発明においては、必要に応じて、その他の分散安定剤を併用してもよい。
【0064】
(8)重合工程:
重合トナーは、重合性単量体の重合により生成した結着樹脂が着色重合体粒子となり、その中に、着色剤、帯電制御樹脂、多官能エステル化合物等の添加剤成分が分散した着色重合体粒子である。この着色重合体粒子をコアとし、その上に重合体層からなるシェルを形成して、コア−シェル型着色重合体粒子とすることができる。
【0065】
懸濁重合法による重合トナーは、例えば、以下の工程により得ることができる。重合性単量体、着色剤、帯電制御樹脂、多官能エステル化合物、及びその他の添加剤等を混合機を用いて混合し、必要に応じて、メディヤ型湿式粉砕機(例えば、ビーズミル)等を用いて湿式粉砕し、重合性単量体組成物を調製する。次に、重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に分散し、撹拌して、重合性単量体組成物の均一な液滴(体積平均粒径が50〜1,000μm程度の一次液滴)を形成する。重合開始剤は、早期重合を避けるため、水系分散媒体中で液滴の大きさが均一になってから水系分散媒体に添加することが好ましい。
【0066】
水系分散媒体中に重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液に重合開始剤を添加混合し、さらに、高速回転剪断型撹拌機を用いて、液滴の粒径が目的とする重合トナー粒子に近い小粒径になるまで撹拌する。このようにして形成された微小粒径の液滴(体積平均粒径が1〜12μm程度の二次液滴)を含有する懸濁液を重合反応器に仕込み、通常5〜120℃、好ましくは35〜95℃の温度で懸濁重合を行う。重合温度が低すぎると、触媒活性が高い重合開始剤を用いなければならないので、重合反応の管理が困難になる。重合温度が高すぎると、低温で溶融する添加剤を含む場合、これが重合トナー表面にブリードし、保存性が悪くなることがある。
【0067】
重合性単量体組成物の微小な液滴の体積平均粒径及び粒径分布は、重合トナーの体積平均粒径や粒径分布に影響する。液滴の粒径が大きすぎると、生成する重合トナー粒子が大きくなりすぎて、画像の解像度が低下するようになる。液滴の粒径分布が広いと、定着温度のばらつきが生じ、カブリ、トナーフィルミングの発生等の不具合が生じるようになる。重合性単量体組成物の液滴は、生成する着色重合体粒子とほぼ同じ大きさになるように形成することが望ましい。
【0068】
重合性単量体組成物の液滴の体積平均粒径は、通常1〜12μm、好ましくは2〜10μm、より好ましくは3〜9μmである。高精細な画像を得るため、特に小粒径の重合トナーとする場合には、液滴の体積平均粒径を小さくすることが望ましい。重合性単量体組成物の液滴の粒径分布(体積平均粒径/個数平均粒径)は、通常1〜3、好ましくは1〜2.5、より好ましくは1〜2である。特に微細な液滴を形成する場合には、高速回転する回転子と、それを取り囲み、かつ小孔または櫛歯を有する固定子との間隙に、単量体組成物を含有する水系分散媒体を流通させる方法が好適である。
【0069】
重合性単量体として前述のモノビニル単量体の中から1種以上を選択するが、トナーの定着温度を下げるには、ガラス転移温度(Tg)が通常80℃以下、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃の重合体を形成し得る重合性単量体または重合性単量体の組み合わせを選択することが好ましい。本発明において、結着樹脂を構成する結着樹脂が共重合体の場合、そのTgは、使用する重合性単量体の種類と使用割合に応じて算出される計算値(「計算Tg」という)である。
【0070】
懸濁重合により、重合性単量体の重合体中に着色剤等の添加剤成分が分散した着色重合体粒子が生成する。重合トナーの保存性(耐ブロッキング性)、低温定着性、定着時の溶融性等を改善する目的で、懸濁重合によって得られた着色重合体粒子の上に、さらに重合体層を形成して、コア−シェル型構造を有するカプセルトナーとすることができる。
【0071】
コア−シェル型構造の形成方法としては、前記の着色重合体粒子をコア粒子とし、該コア粒子の存在下にシェル用重合性単量体をさらに重合して、コア粒子の表面に重合体層(シェル)を形成する方法が採用される。シェル用重合性単量体として、コア粒子を構成する結着樹脂のTgよりも高いTgを有する重合体を形成するものを使用すると、重合トナーの保存性(耐ブロッキング性)を改善することができる。他方、コア粒子を構成する結着樹脂のTgを低く設定することにより、トナーの定着温度を下げたり、溶融特性を改善したりすることができる。したがって、重合工程でコア−シェル型着色重合体粒子を形成することにより、印字の高速化、フルカラー化、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)透過性等に対応できる重合トナーが得られる。
【0072】
コア及びシェルを形成するための重合性単量体としては、前述のモノビニル単量体の中から好ましいものを適宜選択することができる。コア用重合性単量体とシェル用重合性単量体との質量比は、通常40/60〜99.9/0.1、好ましくは60/40〜99.7/0.3、より好ましくは80/20〜99.5/0.5である。シェル用重合性単量体の割合が過小であると、重合トナーの保存性の改善効果が小さく、過大であると、定着温度の低減効果が小さくなる。
【0073】
シェル用重合性単量体により形成される重合体のTgは、通常、50〜120℃、好ましくは60〜110℃、より好ましくは80℃〜105℃である。コア用重合性単量体から形成される重合体とシェル用重合性単量体から形成される重合体との間のTgの差は、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、特に好ましくは30℃以上である。多くの場合、定着温度と保存性のバランスの観点から、コア用重合性単量体として、Tgが通常60℃以下、好ましくは、40〜60℃の重合体を形成しうるものを選択するのが好ましい。他方、シェル用重合性単量体としては、スチレンやメチルメタクリレート等のTgが80℃を越える重合体を形成する単量体を、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することが好ましい。
【0074】
シェル用重合性単量体は、コア粒子の平均粒径よりも小さな液滴として重合反応系に添加することが好ましい。シェル用重合性単量体の液滴の粒径が大きすぎると、コア粒子の周囲に重合体層が均一に形成され難くなる。シェル用重合性単量体を小さな液滴とするには、シェル用重合性単量体と水系分散媒体との混合物を、例えば、超音波乳化機等を用いて、微分散処理を行い、得られた分散液を重合反応系に添加すればよい。
【0075】
シェル用重合性単量体が、20℃の水に対する溶解度が0.1質量%以上の比較的水溶性の単量体(例えば、メチルメタクリレート)である場合には、コア粒子の表面に比較的速やかに移行し易いので、微分散処理を行う必要はないが、均一なシェルを形成する上で、微分散処理を行うことが好ましい。シェル用重合性単量体が、20℃の水に対する溶解度が0.1質量%未満の単量体(例えば、スチレン)の場合には、微分散処理を行うか、あるいは20℃の水に対する溶解度が5質量%以上の有機溶媒(例えば、アルコール類)を反応系に加えることにより、コア粒子の表面に移行しやすくすることが好ましい。
【0076】
シェル用重合性単量体には、帯電制御剤を加えることができる。帯電制御剤としては、前述したコア粒子製造に使用するのと同様の帯電制御樹脂が好ましく、使用する場合には、シェル用重合性単量体100質量部に対して、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部の割合で用いられる。
【0077】
コア−シェル型構造の重合トナーを製造するには、コア粒子を含有する懸濁液中に、シェル用重合性単量体またはその水系分散液を一括して、あるいは連続的若しくは断続的に添加する。シェル用重合性単量体を添加する際に、水溶性の重合開始剤を添加することがシェルを効率良く形成する上で好ましい。シェル用重合性単量体の添加時に水溶性重合開始剤を添加すると、シェル用重合性単量体が移行したコア粒子の外表面近傍に水溶性重合開始剤が進入し、コア粒子表面に重合体層が形成されやすくなると考えられる。
【0078】
水溶性重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2’−アゾビス−[2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル〕プロピオンアミド]等のアゾ系開始剤等を挙げることができる。水溶性重合開始剤の使用量は、シェル用重合性単量体100質量部当り、通常0.1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部である。
【0079】
シェルの平均厚みは、通常0.001〜1.0μm、好ましくは0.003〜0.5μm、より好ましくは0.005〜0.2μmである。シェル厚みが大きすぎると、重合トナーの定着性が低下し、小さすぎると、重合トナーの保存性が低下する。重合トナーのコア粒子径、及びシェルの厚みは、電子顕微鏡により観察できる場合は、その観察写真から無作意に選択した粒子の大きさ及びシェル厚みを直接測ることにより得ることができ、電子顕微鏡でコアとシェルとを観察することが困難な場合は、コア粒子の粒径と、シェルを形成する重合性単量体の使用量から算定することができる。
【0080】
重合体粒子の製造工程により、着色重合体粒子またはコア−シェル型着色重合体粒子を含有する水分散液が得られる。この水分散液をそのままで、あるいは着色重合体粒子の濃度を調節するためにイオン交換水等を追加して、着色重合体粒子を含有する水分散液とする。次いで、必要に応じて、この水分散液をストリッピング処理して、着色重合体粒子中に残留する未反応の重合性単量体を含む揮発性有機成分を除去することができる。
【0081】
2.後処理工程:
(1)分散安定剤除去工程(酸洗浄工程):
懸濁重合法において、重合工程を経た着色重合体粒子の表面に存在する、分散安定剤として使用する難水溶性金属化合物のコロイドを溶解して除去するために、分散安定剤除去工程として酸洗浄工程を設ける。分散安定剤として用いた難水溶性金属化合物のコロイドは、水系媒体中で重合性単量体組成物の液滴の周りを囲んで、液滴を安定化させる役割を果たす。重合後には、難水溶性金属化合物のコロイドは、着色重合体粒子の表面に付着している。トナー特性の観点から、着色重合体粒子の表面に付着した難水溶性金属化合物のコロイドを除去する必要がある。
【0082】
難水溶性金属化合物のコロイドは、着色重合体粒子を含有する水分散液に酸を加えて、pHを酸性領域に調整することによって溶解するため、酸洗浄工程を配置する。一般に、酸洗浄工程では、重合により生成した着色重合体粒子を含有する水分散液に酸を加えて、該水分散液のpHを6.5以下とすることにより行う。水分散液のpHは、好ましくは、4〜6.5、更に好ましくは4.5〜6である。
使用できる酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸等の有機酸を使用することができるが、少量の添加でpHを調整することのできる無機酸が好ましく、無機酸の中でも硫酸が特に好ましい。
【0083】
酸洗浄工程は、所望によりストリッピング工程を行った後、重合により生成した着色重合体粒子を含有する水分散液を、25℃程度に冷却してから行うことが望ましい。酸洗浄は、着色重合体粒子を含有する水分散液に酸を添加してpH調整を行った後、5〜30分間程度、攪拌することによって行うことができる。
【0084】
(2)水洗浄工程:
酸洗浄後、着色重合体粒子を含む水分散液を濾過して、着色重合体粒子を濾別する。次いで、着色重合体粒子に、新たにイオン交換水を加え、再度水に分散化(リスラリー工程)し、再度濾過脱水する等の洗浄操作を行って、着色重合体粒子を精製する。
【0085】
この濾過脱水とリスラリー工程は、必要に応じて、数回繰り返してもよいが、効率の点から2〜3回が好ましい。水による洗浄工程は、濾布を配置したベルトコンベアを用いて、着色重合体粒子のウエットケーキに水を散布する方法により、連続的に行ってもよい。
【0086】
(3)リンス処理工程:
水洗浄工程後に着色重合体粒子を濾別し、更に水に再分散させ、再分散した着色重合体粒子を含む水分散液に脂肪酸塩の水溶液を添加するリンス工程を配置することが、トナー特性をさらに改善する上で望ましい。脂肪酸塩としては、脂肪酸金属塩と脂肪酸アンモニウム塩が挙げられるが、水への溶解性の観点から脂肪酸金属塩が好ましい。脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸は、飽和であっても不飽和であってもよく、また、直鎖状と分岐状のいずれであってもよい。脂肪酸としては、飽和脂肪酸が好ましく、直鎖状飽和脂肪酸がより好ましい。脂肪酸は、その構造中に、水酸基、アルデヒド基、エポキシ基等の置換基を有していてもよい。
脂肪酸塩の水溶液濃度は、脂肪酸塩の溶解性の点から、通常、0.5〜20質量%であり、好ましくは1〜10質量%であり、更に好ましくは2〜5質量%である。脂肪酸塩が水に溶解し難い場合は、溶解する水の温度を高くしたり、溶解する水をアルカリ性にすることによって溶解性を高めることも可能である。
【0087】
脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、エポキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ヒドロキシステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。これらの中でも、炭素数が8〜24の飽和脂肪酸が好ましく、炭素数が10〜18の飽和脂肪酸がより好ましく、炭素数が12〜14が更に好ましい。これらの脂肪酸は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。脂肪酸の炭素数が大きすぎると、トナー表面がべたつき、トナーの流動性が低下する場合があり、逆に脂肪酸の炭素数が小さすぎると、トナー表面が親水的になり、帯電量が低下する場合がある。
【0088】
脂肪酸金属塩を構成する金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;チタン、亜鉛、鉄、銀、ジルコニウム、銅、アルミニウム、ニッケル等を挙げることができる。これらの金属は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、アルカリ金属が好ましい。
【0089】
(4)pH調整工程:
本発明では、上記リンス処理の後、酸処理を実施する。この酸処理によってpHを調整することで、リンス処理で使用した脂肪酸金属塩の脂肪酸が系内に析出し、着色重合体粒子の表面に付着する。通常、着色重合体粒子表面に脂肪酸等の親水性化合物が付着すると空気中の水分を吸着して耐久性が悪くなると考えられていたが、驚くべきことに常温常湿環境下のみならず、高温高湿環境下でも、印字耐久性と細線再現性に優れるトナーが得られることが本発明により明らかになった。
酸処理のpHは、水洗浄工程後に着色重合体粒子を濾別し、更に水に再分散させたときのpHより低くすれば良く、通常2〜6.5であり、好ましくは2.5〜6であり、更に好ましくは3〜5である。
【0090】
使用できる酸としては、(1)の酸処理工程で使用できるものをそのまま使用できるが、中でも無機酸が好ましく、無機酸の中でも特に硫酸が好ましい。
【0091】
(5)乾燥:
酸処理後の着色重合体粒子を濾別して、湿潤着色重合体粒子を得る。湿潤着色重合体粒子は、常法に従って乾燥させる。
【0092】
洗浄後またはリンス処理後の乾燥工程において、湿潤着色重合体粒子のウエットケーキを、撹拌槽、回転翼を有する乾燥機等を用い、熱ガスを導入して乾燥する方法を採用することが好ましい。
【0093】
3.静電荷像現像用トナー:
前記製造方法により得られた着色重合体粒子(重合トナー)は、重合性単量体の重合転化率がほぼ100%であり、シェル層の厚みも極めて薄いため、結着樹脂中の着色剤、帯電制御樹脂、多官能エステル化合物等の添加剤成分の含有割合は、重合性単量体組成物中でのそれらの含有割合と実質的に同じである。
【0094】
本発明の静電荷像現像用トナー(着色重合体粒子;コア−シェル型構造を有する着色重合体粒子を含む)の体積平均粒径は、通常5〜11μm、好ましくは7〜10μmである。トナーの体積平均粒径が大きすぎると、細線再現性が悪化したり、帯電量が低くなって付着力が低下したりする。その結果、トナーの飛散やカブリが生ずる。トナーの体積平均粒径が小さすぎると、帯電量は上昇するものの、粒径が小さいため軽く、トナーの飛散が生ずる。
【0095】
本発明のトナーの体積平均粒径(Dv)/個数平均粒径(Dp)で表される粒径分布は、通常1〜1.3、好ましくは1〜1.2である。粒径分布が大きすぎると、各トナーの帯電量が不均一となり、低帯電のトナーは飛散してしまう傾向にある。
【0096】
本発明のトナーの平均円形度は、通常0.95以上、好ましくは0.97以上である。平均円形度は、粒子の投影面積に等しい円の周囲長Lと該粒子投影像の周囲長Lとの比(L/L)によって求めることができる。平均円形度の測定はフロー式粒子像分析装置を用いて行うことができる。平均円形度が小さすぎると、現像時に電場の力が均一に伝わらず、トナーが飛散したり、カブリが生じたり、細線再現性が悪くなる。平均円形度の上限値は、1.00である。
【0097】
本発明のトナーは、トナーをソックスレー抽出して得られた抽出液をガスクロマトグラフ質量分析装置で測定したときの脂肪酸量Aが該トナーを基準として100〜5000ppm、好ましくは500〜4000ppmであり、且つ、トナーをアルカリ洗浄後にソックスレー抽出して得られた抽出液をガスクロマトグラフ質量分析装置で測定したときの脂肪酸量Bが該トナーを基準として50ppm未満、好ましくは20ppm未満、更に好ましくは5ppm未満である。脂肪酸量は、脂肪酸をそのまま測定することは困難であるため、エステル化するなど誘導体とすることで、間接的に測定することが好ましい。
【0098】
本発明でいうアルカリ処理とは、トナー粒子表面に付着した脂肪酸を溶解させて、除去することをいう。アルカリ処理に行うトナーは、ソックスレー抽出をしたものではなく、別途秤量したトナーを用いる。ここで、アルカリ処理をしないでソックスレー抽出された脂肪酸量Aは、トナーの粒子表面及び内部に存在する脂肪酸を示すものであり、アルカリ処理をしてソックスレー抽出された脂肪酸量Bは、トナーの粒子内部に存在する脂肪酸を示すものである。この脂肪酸A及び脂肪酸量Bの差から、トナー粒子表面の脂肪酸量が分かる。
【0099】
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、脂肪酸を溶解するものであれば特に限定されない。アルカリとしては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化バリウム、水酸化カリウム等のアルカリ土類金属水酸化物;アンモニア、及びアミン等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。
【0100】
アルカリの使用量は、トナー100質量部に対して、通常0.1〜10質量部であり、好ましくは0.5〜5質量部であり、より好ましくは1〜3質量部である。
アルカリ処理は、アルカリの水溶液中にトナーを分散させることにより行い、アルカリ水溶液の濃度は、通常0.05〜3質量%であり、好ましくは0.1〜2質量%である。また、このアルカリ処理は、1度でも構わないが、脂肪酸の除去効果を上げるために、2〜3度実施することが好ましい。
【0101】
脂肪酸の分析は、後述の方法によって行うことができ、分析装置としてはGCMS−QP2010(島津製作所社製)、JMS−Q1000GC MkII(日本電子社製)、7890A(アジレント社製)、6890N(アジレント社製)等を使用することができる。
【0102】
本発明のトナーは、各種現像剤のトナー成分として使用することができるが、非磁性一成分現像剤として使用することが好ましい。本発明のトナーを非磁性一成分現像剤とする場合には、必要に応じて外添剤を混合することができる。外添剤としては、流動化剤や研磨剤等として作用する無機粒子や有機樹脂粒子が挙げられる。
【0103】
無機粒子としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等が挙げられる。有機樹脂粒子としては、メタクリル酸エステル重合体粒子、アクリル酸エステル重合体粒子、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体粒子、スチレン−アクリル酸エステル共重合体粒子、コアがスチレン重合体でシェルがメタクリル酸エステル共重合体で形成されたコア−シェル型粒子等が挙げられる。
【0104】
これらの中でも、無機酸化物粒子が好ましく、二酸化ケイ素が特に好ましい。無機微粒子表面を疎水化処理することができ、疎水化処理された二酸化ケイ素粒子が特に好適である。外添剤は、2種以上を組み合わせて用いてもよく、外添剤を組み合わせて用いる場合には、平均粒子径の異なる無機粒子同士または無機粒子と有機樹脂粒子とを組み合わせる方法が好適である。外添剤の量は、特に限定されないが、重合トナー100質量部に対して、通常0.1〜6質量部である。外添剤を重合トナーに付着させるには、通常、重合トナーと外添剤とをヘンシェルミキサー等の混合機に入れて攪拌する。
【実施例】
【0105】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、「部」、「ppm」、及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。各種物性及び特性の測定方法と評価方法は、次のとおりである。
【0106】
(1)体積平均粒径と粒径分布:
着色重合体粒子の体積平均粒径(Dv)、及び個数平均粒径(Dp)に対する体積平均粒径の比(Dv/Dp)で表わされる粒径分布は、以下のようにして算出する。
測定試料(着色重合体粒子)を約0.1g秤量し、ビーカーに取り、分散剤としてアルキルベンゼンスルホン酸水溶液(富士フィルム社製、商品名:ドライウエル)0.1mlを加えた。そのビーカーへ、更にアイソトンIIを10〜30mL加え、20Wの超音波分散機で3分間分散させた後、粒径測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザー)を用いて、アパーチャー径;100μm、媒体;アイソトンII、測定粒子個数;100,000個の条件下で、着色重合体粒子の体積平均粒径(Dv)、及び個数平均粒径(Dp)を測定し、粒径分布(Dv/Dp)を算出した。
【0107】
(2)平均円形度:
着色重合体粒子の平均円形度は、シスメックス社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−2100」を用いて、水分散系で測定した値である。容器中に予めイオン交換水10mlを入れ、その中に分散剤として界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩)を加えた後、試料0.02gを加えて、均一に分散させる。分散手段として超音波分散機を用いて、出力60W、処理時間3分間の条件で分散処理を行った。測定時の着色重合体粒子の濃度は、3,000〜10,000個/μlとなるように調整した。着色重合体粒子1,000個から10,000個の円形度(粒子の投影面積に等しい円の周囲長/粒子投影像の周囲長)を計測した。このデータを用いて、平均円形度を求めた。
【0108】
(3)脂肪酸量A
着色重合体粒子を約10g精秤し、メタノールを用いソックスレー抽出を8時間行った。抽出物にメタノールを加え10mlのメスフラスコに移した。メスフラスコに塩酸を加え酸性とした後に、フェノールフタレインと、メチル化剤として水酸化テトラメチルアンモニウムを加え、10mlに秤量した。調整した液を検液とし、ガスクロマトグラフ質量分析を行い脂肪酸量を算出した。この脂肪酸量を脂肪酸量Aとした。
GC−MS測定条件
ガスクロマトグラフ :Agilent 6890N
質量分析装置 :Agilent 5973 inert
カラム :DB1701 0.25mm×30m df=1.0μm
カラム温度 :100℃→280℃(10℃/分)
インジェクション温度:320℃
スプリット比 :50:1
注入量 :1μl
ヘリウム流量 :1ml/分
検出器 :MSD
【0109】
(4)脂肪酸量B
着色重合体粒子100部を0.5%の水酸化ナトリウム水溶液500部に分散させた。濾過により脱水した後、0.5%の水酸化ナトリウム水溶液500部を加えて再スラリー化した。その後、同様に、濾過による脱水と水酸化ナトリウム水溶液を加えることによる再スラリー化を3回繰り返した。濾過した後に乾燥させ、乾燥した着色重合体粒子を得た。得られた着色重合体粒子について、(3)に示した方法で脂肪酸量を測定した。この脂肪酸量を脂肪酸量Bとした。
【0110】
(5)トナーの画質評価
(5−1)印字耐久性(N/N環境下、H/H環境下)
市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(印刷スピード:A4サイズ20枚/分)を用い、印字用紙をセットし、現像装置にトナーを入れた。温度23℃、湿度50%の常温常湿(N/N)環境下で、24時間放置した後、同環境下にて、1%印字濃度で12,000枚まで連続印刷を行なった。500枚毎に黒ベタ印字(印字濃度100%)を行ない、反射式画像濃度計(マクベス社製、商品名:RD918)を用いて黒ベタ画像の印字濃度を測定した。さらに、その後、白ベタ印字(印字濃度0%)を行ない、白ベタ印字の途中でプリンターを停止させ、現像後の感光体上における非画像部のトナーを、粘着テープ(住友スリーエム社製、商品名:スコッチメンディングテープ810−3−18)に付着させた後、剥ぎ取り、それを印字用紙に貼り付けた。次に、その粘着テープを貼り付けた印字用紙の白色度(B)を、白色度計(日本電色社製、商品名:NDW−1D)で測定し、同様にして、未使用の粘着テープだけを印字用紙に貼り付け、その白色度(A)を測定し、この白色度の差(B−A)をカブリ値とした。この値が小さい方が、カブリが少なく良好であることを示す。印字濃度が1.3以上で、且つカブリ値が3以下の画質を維持できる連続印刷枚数をカウントした。
また、同様の印字耐久性試験を、温度32℃、湿度80%の高温高湿環境下においても行った。なお、表1中、「12,000<」とあるのは、12,000枚の時点においても、印字濃度が1.3以上で、且つカブリ値が3以下の画質を維持できたことを示す。
【0111】
(5−2)細線再現性(N/N環境下)
市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(印刷スピード:A4サイズ20枚/1分)を用い、印字用紙をセットし、現像装置にトナーを入れた。温度23℃、湿度50%の常温常湿(N/N)環境下で、24時間放置した後、同環境下にて、2×2ドットライン(幅約85μm)で連続して線画像を形成し、12,000枚まで連続印刷を行った。
500枚毎に、印字評価システム(YA−MA社製、商品名:RT2000)を用いて線画像の濃度分布データを採取した。
採取した線画像の濃度分布データより、濃度の最大値の半値における線画像の線の全幅を線幅とし、1枚目に採取した印字用紙に形成された線幅を基準として、当該線幅の差を10μm以下に維持できる連続印刷枚数を調べた。なお、表1中、「12,000<」とあるのは、12,000枚の時点においても、線幅の差を10μm以下に維持できたことを示す。
【0112】
(実施例1)
モノビニル単量体としてスチレン83部及びn−ブチルアクリレート17部、ブラック着色剤としてカーボンブラック(三菱化学社製、商品名:#25B)7部、正帯電性の帯電制御剤(スチレン/アクリル樹脂、藤倉化成社製、商品名:FCA−207P)1部、架橋性単量体としてジビニルベンゼン0.6部、分子量調整剤としてt−ドデシルメルカプタン1.9部、及びマクロモノマーとしてポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成社製、商品名:AA6)0.25部を、攪拌装置で攪拌、混合した後、さらにメディア式分散機により、均一に分散させた。ここに、離型剤としてジペンタエリスリトールヘキサミリステート5部を添加、混合、溶解して、重合性単量体組成物を得た。
【0113】
他方、室温で、イオン交換水250部に塩化マグネシウム10.2部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム6.2部を溶解した水溶液を、撹拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイドの分散液を調製した。
【0114】
上記により得られた水酸化マグネシウムコロイドの分散液に、室温下で、上記重合性単量体組成物を投入し、液滴が安定するまで撹拌し、そこに重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂社製、商品名:パーブチルO)6部を添加後、インライン型乳化分散機(荏原製作所社製、商品名:エバラマイルダーMDN303V)を用いて、15,000rpmの回転数で10分間高剪断攪拌して重合性単量体組成物の液滴形成を行なった。
【0115】
上記により得られた重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液(重合性単量体組成物分散液)を、攪拌翼を装着した反応器内に投入し、90℃に昇温し、重合反応を開始させた。重合転化率がほぼ100%に達したときに、反応器内にメチルメタクリレート(シェル用重合性単量体)1部とイオン交換水10部とを混合して得られた分散液、及びイオン交換水20部に溶解した2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(2−ハイドロキシエチル)−プロピオンアミド)(シェル用重合開始剤、和光純薬社製、商品名:VA−086)0.3部を添加した。その後、更に4時間、90℃で維持して、重合を継続した後、室温まで冷却し、着色重合体粒子の水分散液を得た。
【0116】
上記により得られた着色重合体粒子の水分散液に、硫酸を添加してpHを5.8にして酸洗浄を行なった。濾過により脱水した後、再びイオン交換水500部を加えて再スラリー化する、水洗浄を行った。その後、同様に、脱水と水洗浄を、数回繰り返した。濾過により脱水した後、再度、着色重合体粒子100部にイオン交換水500部を加え、再分散させた。このときpHを測定したところ、6.8であった。着色樹脂粒子100部に対して、2%のラウリン酸カリウム水溶液を5部(純分で0.1部)添加した。更に、硫酸を添加してpHを4.0とした。濾過により脱水した後に乾燥させ、乾燥した着色重合体粒子を得た。なお、得られた着色重合体樹脂粒子の体積平均粒径(Dv)は9.2μm、粒径分布(Dv/Dp)は1.22、平均円形度は0.977であった。
【0117】
上記により得られた着色重合体粒子100部に、環状シラザンで疎水化処理したシリカ微粒子(キャボットコーポレーション製、商品名:TG−820F)1.0部と、アミノ変性シリコーンオイルで疎水化処理したシリカ微粒子(日本アエロジル社製、商品名:「NEA50」)0.6部を添加し、高速攪拌機(三井鉱山社製、商品名:ヘンシェルミキサー)を用いて、6分間、周速30m/sで混合し、外添処理を行ない、静電荷像現像用トナーを得た。トナーの評価結果を表1に示す。
【0118】
(参考例2)
実施例1において、2%のラウリン酸カリウム水溶液を5部(純分で0.1部)添加し硫酸を加えた後のpHを6.1とした以外は、実施例1と同じ方法で静電荷像現像用トナーを得た。トナーの評価結果を表1に示す。
【0119】
(実施例3)
実施例1において、2%のラウリン酸カリウム水溶液の代わりに0.01%のミリスチン酸ナトリウム水溶液を1000部(純分で0.1部)添加したこと、及び硫酸を加えpHを4.3としたこと以外は、実施例1と同じ方法で静電荷像現像用トナーを得た。トナーの評価結果を表1に示す。
【0120】
(実施例4)
実施例1において、2%のラウリン酸カリウム水溶液を5部(純分で0.1部)添加する代わりに25部(純分で0.5部)添加したこと、硫酸を加えた後のpHを3.6とした以外は、実施例1と同じ方法で静電荷像現像用トナーを得た。トナーの評価結果を表1に示す。
【0121】
(参考例5)
実施例1において、2%のラウリン酸カリウム水溶液を5部(純分で0.1部)添加する代わりに40部(純分で0.8部)添加したこと、硫酸を加えた後のpHを3.5とした以外は、実施例1と同じ方法で静電荷像現像用トナーを得た。トナーの評価結果を表1に示す。
【0122】
(比較例1)
実施例1において、2%のラウリン酸カリウム水溶液を添加しなかったこと及び硫酸を添加してpHを4.0とする操作を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で静電荷像現像用トナーを得た。トナーの評価結果を表1に示す。
【0123】
(比較例2)
実施例1において、硫酸を添加してpHを4.0とする操作を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で静電荷像現像用トナーを得た。トナーの評価結果を表1に示す。
【0124】
(比較例3)
実施例1において、単量体組成物に2−エチルオクタデカン酸を0.05部加えたこと、2%のラウリン酸カリウム水溶液を添加しなかったこと及び硫酸を添加してpHを4.0とする操作を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で静電荷像現像用トナーを得た。トナーの評価結果を表1に示す。
【0125】
(比較例4)
比較例3において、2−エチルオクタデカン酸の量を0.05部から0.01部に変更した以外は、比較例3と同じ方法で静電荷像現像用トナーを得た。トナーの評価結果を表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1に記載されている試験結果より、以下のことが分かる。但し、表1中、N.D.と記載されているものは、検出下限以下であり検出されなかったことを示す。
比較例1及び比較例2のトナーは、脂肪酸量Aが本願発明より少ないことに起因して、常温常湿(N/N)環境下及び高温高湿(H/H)環境下での印字耐久性、並びに常温常湿(N/N)環境下での細線再現性に劣るトナーであった。
比較例3及び比較例4のトナーは、脂肪酸量Bが本願発明より多いことに起因して、常温常湿(N/N)環境下及び高温高湿(H/H)環境下での印字耐久性、並びに常温常湿(N/N)環境下での細線再現性に劣るトナーであった。
【0128】
これに対して、実施例1、参考例2、実施例3〜4、及び参考例5のトナーは、脂肪酸量A及び脂肪酸量Bを特定範囲にしたことにより、常温常湿(N/N)環境下及び高温高湿(H/H)環境下での印字耐久性、並びに常温常湿(N/N)環境下での細線再現性に優れるトナーであった。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の静電荷像現像用トナーは、常温常湿環境下のみならず、高温高湿環境下でも、印字耐久性と細線再現性に優れているので、電子写真方式(静電記録方式を含む)の複写機、レーザービームプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置において、感光体上に形成された静電潜像を可視像化するために現像剤として利用することができる。