特許第5986790号(P5986790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986790
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】マイクロメータ
(51)【国際特許分類】
   G01B 3/18 20060101AFI20160823BHJP
【FI】
   G01B3/18
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-97497(P2012-97497)
(22)【出願日】2012年4月23日
(65)【公開番号】特開2013-224874(P2013-224874A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 勝三郎
【審査官】 眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−002605(JP,A)
【文献】 特開昭61−219820(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第10322357(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 3/00−3/56
G01B 5/00−5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
U字形状のフレームと、前記フレームの一端に固定されたアンビルと、前記フレームの他端に螺合され前記アンビルに対して進退するスピンドルと、前記スピンドルの変位を検出するエンコーダと、前記エンコーダで検出される検出値を処理した測定値を表示する表示部とを備えたマイクロメータにおいて、
前記フレームの変形量を検出する変形量検出部と、
前記変形量検出部で検出される単位変形量当たりの前記検出値の変化量を補正係数として記憶した記憶部と、
ゼロセット指令時に前記変形量検出部で検出されたゼロセット時変形量と測定時に前記変形量検出部で検出された測定時変形量との差、および、前記記憶部に記憶された補正係数から前記検出値を補正する補正部とを備える、
ことを特徴とするマイクロメータ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロメータにおいて、
前記スピンドルが異なる第1測定力および第2測定力で前記アンビルまたは被測定物に当接した状態において、前記エンコーダで検出される第1検出値および第2検出値と前記変形量検出部で検出される第1変形量および第2変形量とを取り込み、前記第1検出値と第2検出値との差、および、前記第1変形量と第2変形量との差から前記補正係数を算出して前記記憶部に記憶させる補正係数設定部を有する、
ことを特徴とするマイクロメータ。
【請求項3】
請求項2に記載のマイクロメータにおいて、
ゼロセット指令が与えられ毎に、前記変形量検出部で検出されるゼロセット時変形量を前記記憶部に更新記憶させるゼロセット時変形量更新部を有する、
ことを特徴とするマイクロメータ。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロメータにおいて、
前記補正部は、前記エンコーダで検出される検出値をe、補正係数をm、前記記憶部に記憶されたゼロセット時変形量をfo、測定時に前記変形量検出部で検出された測定時変形量をfnとすると、補正後の検出値e’を、
e’=e−m(fn−fo)
から算出する、
ことを特徴とするマイクロメータ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のマイクロメータにおいて、
前記フレームは、前記アンビルを支持するアンビル支持部と、これと平行に突出し前記スピンドルを支持するスピンドル支持部と、これらの基端を連結する連結部とを有する略U字形状に形成され、
前記変形量検出部は、前記アンビル支持部と前記連結部との結合部分に配置された歪みゲージによって構成されている、ことを特徴とするマイクロメータ。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のマイクロメータにおいて、
前記フレームの他端には、前記スピンドルを回転可能に螺合した内筒が設けられ、
前記変形量検出部は、前記内筒内に配置された歪みゲージによって構成されている、ことを特徴とするマイクロメータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルの軸方向の変位量から、被測定物の寸法等を測定するマイクロメータに関する。
【背景技術】
【0002】
変位測定器の1つとして、送りねじを用いたマイクロメータが知られている。
マイクロメータは、U字形状のフレームと、このフレームの一端に固定されたアンビルと、フレームの他端に螺合されアンビルに対して進退するスピンドルと、このスピンドルの変位量を検出するエンコーダと、このエンコーダで検出される検出値を処理した測定値を表示する表示部とから構成されている。
また、マイクロメータの中には、スピンドルによる測定力を安定させるために定圧装置を備えたものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−220787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のマイクロメータのうち、定圧装置を備えたマイクロメータにおいては、略一定の測定力で測定することができるが、実際にはある程度のばらつきが生じている。
とくに、ゼロセット(スピンドルをアンビルに当接させて表示値を0にセット)した際と測定する際のマイクロメータの姿勢が異なっている場合、例えば、ゼロセットした際はスピンドルの姿勢が水平で、測定する際はスピンドルの姿勢が垂直な場合、スピンドルの自重分が測定力に加算される。すると、フレームの変形量がばらつき、ゼロセットした際のフレームの変形量と実際に測定した際のフレームの変形量に差が生じ、繰り返し性が悪化し、測定誤差が生じる一因になっている。
【0005】
本発明の目的は、このような従来の課題を解消し、繰り返し性の向上を図り、測定誤差の低減を図ったマイクロメータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマイクロメータは、U字形状のフレームと、前記フレームの一端に固定されたアンビルと、前記フレームの他端に螺合され前記アンビルに対して進退するスピンドルと、前記スピンドルの変位を検出するエンコーダと、前記エンコーダで検出される検出値を処理した測定値を表示する表示部とを備えたマイクロメータにおいて、前記フレームの変形量を検出する変形量検出部と、前記変形量検出部で検出される単位変形量当たりの前記検出値の変化量を補正係数として記憶した記憶部と、ゼロセット指令時に前記変形量検出部で検出されたゼロセット時変形量と測定時の前記変形量検出部で検出された測定時変形量との差、および、前記記憶部に記憶された補正係数から前記検出値を補正する補正部とを備える、ことを特徴とする。
【0007】
このような構成によれば、測定にあたって、スピンドルを進出させ、アンビルとスピンドルとで被測定物を挟持すると、そのときのスピンドルの変位量がエンコーダによって検出される。
すると、補正部において、ゼロセット指令時に変形量検出部で検出されたゼロセット時変形量と測定時に変形量検出部で検出された測定時変形量との差、および、記憶部に記憶された補正係数から、エンコーダによって検出された検出値が補正される。つまり、ゼロセット指令時のフレームの変形量と測定時のフレームの変形量との差に基づくエンコーダの検出値の誤差が補正されるから、繰り返し性の向上が図れる。その結果、測定誤差を低減できる。
【0008】
本発明のマイクロメータにおいて、前記スピンドルが異なる第1測定力および第2測定力で前記アンビルまたは被測定物に当接した状態において、前記エンコーダで検出される第1検出値および第2検出値と前記変形量検出部で検出される第1変形量および第2変形量とを取り込み、前記第1検出値と第2検出値との差、および、前記第1変形量と第2変形量との差から前記補正係数を算出して前記記憶部に記憶させる補正係数設定部を有する、ことが好ましい。
【0009】
このような構成によれば、スピンドルを、異なる第1測定力および第2測定力でアンビルまたは被測定物に当接させると、補正係数設定部は、スピンドルが第1測定力で当接したときの第1検出値および第1変形量を取り込む。また、スピンドルが第2測定力で当接したときの第2検出値および第2変形量を取り込む。そして、第1検出値と第2検出値との差、および、第1変形量と第2変形量との差から補正係数を算出し、これを記憶部に記憶させる。
従って、補正係数を求めるための外部装置、例えば、専用のメンテナンス装置を用いなくても、補正係数を設定することができるので、安価にかつ誰でもが簡単に補正係数を設定することができる。
【0010】
本発明のマイクロメータにおいて、ゼロセット指令が与えられる毎に、前記変形量検出部で検出されるゼロセット時変形量を前記記憶部に更新記憶させるゼロセット時変形量更新部を有する、ことが好ましい。
このような構成によれば、測定開始時にゼロセット作業を行えば、その時点の環境条件において、変形量検出部で検出されるゼロセット時変形量が記憶部に更新記憶されるから、測定時との環境条件の差を少なくできる。そのため、例えば、温度の影響を考慮しなくてもよい利点がある。
【0011】
本発明のマイクロメータにおいて、前記補正部は、前記エンコーダで検出される検出値をe、補正係数をm、前記記憶部に記憶されたゼロセット時変形量をfo、測定時に前記変形量検出部で検出された測定時変形量をfnとすると、補正後の検出値e’を、
e’=e−m(fn−fo)
から算出する、ことが好ましい。
このような構成によれば、上述した式を用いて、フレームの変形量を補正した検出値e’を算出することができる。
【0012】
本発明のマイクロメータにおいて、前記フレームは、前記アンビルを支持するアンビル支持部と、これと平行に突出し前記スピンドルを支持するスピンドル支持部と、これらの基端を連結する連結部とを有する略U字形状に形成され、前記変形量検出部は、前記アンビル支持部と前記連結部との結合部分に配置された歪みゲージによって構成されている、ことが好ましい。
このような構成によれば、変形量検出部を歪みゲージによって構成するとともに、この歪みゲージをフレームのアンビル支持部の根本部分に配置したので、比較的弱い測定力でのフレームの変形量を効果的に検出することができる。
【0013】
本発明のマイクロメータにおいて、前記フレームの他端には、前記スピンドルを回転可能に螺合した内筒が設けられ、前記変形量検出部は、前記内筒内に配置された歪みゲージによって構成されている、ことが好ましい。
このような構成によれば、変形量検出部を歪みゲージによって構成するとともに、この歪みゲージをスピンドルを回転可能に螺合した内筒内に配置したので、歪みゲージの出力値とフレームの変形量とが線形に近い形になるメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態のデジタル式マイクロメータの部分断面図。
図2】本実施形態の制御ブロック図。
図3】本実施形態において、補正係数設定モードの処理を示すフローチャート。
図4】本実施形態において、補正係数設定モードの処理を説明するための図。
図5】本実施形態において、ゼロセット処理時の流れを示すフローチャート。
図6】本実施形態において、測定処理時の流れを示すフローチャート。
図7】本実施形態のデジタル式マイクロメータにおいて、歪みゲージを異なる部分に配置した例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<デジタル式マイクロメータの構成>
図1は、本実施形態のデジタル式マイクロメータの部分断面図である。図1において、デジタル式マイクロメータ1は、略U字形状のフレーム10と、このフレーム10の一端側内面に固定されたアンビル11と、フレーム10の他端側に軸方向へ変位しながらアンビル11に対して進退するように設けられたスピンドル20と、フレーム10の内部においてスピンドル20の変位量を検出するエンコーダ40と、このエンコーダ40によって検出される検出値を処理した測定値を表示する表示部60とを備える。
【0016】
スピンドル20は、一直線上に配置されたスピンドル本体21と、ねじ軸22とを備える。スピンドル本体21の外周面軸方向に沿って、断面V形のキー溝23が形成されている。ねじ軸22には、雄ねじが形成されている。
【0017】
フレーム10は、アンビル11を固定したアンビル支持部10Aと、このアンビル支持部10Aに所定の間隔を隔てて対向配置されスピンドル20を支持したスピンドル支持部10Bと、これらアンビル支持部10Aとスピンドル支持部10Bとの基端を連結する連結部10Cとを有する略U字形状に形成されている。
アンビル支持部10Aと連結部10Cとの結合部分、つまり、アンビル支持部10Aの根本部分には、変形量検出部としての歪みゲージ50が配置されている。
【0018】
スピンドル支持部10Bの正面側には、表示部60のほかに、電源オンオフスイッチ61、ゼロセットスイッチ62、ホールドスイッチ63、補正係数設定スイッチ64などが配置されている。また、スピンドル支持部10Bの先端部内側には軸受筒12が配置されているとともに、スピンドル支持部10Bの先端部外側には、内外二重筒構造の内筒13および外筒14の一端が保持されている。
【0019】
内筒13は、その一端部がフレーム10に保持され、他端部は内周側に雌ねじが螺刻されており、スピンドル20のねじ軸22と螺合されている。また、内筒13の他端部の外周部には、雄ねじが螺刻され、これにテーパナット15が螺合されている。内筒13の雄ねじが螺刻されている所定箇所には、三本のスリットが設けられ、三つ割部16が形成されている。従って、テーパナット15を回転させて、内筒13の軸方向に進退させると、三つ割部16の締め付け具合が変化して、内筒13の内径が変化するので、スピンドル20と内筒13との嵌合度合いを調整することができるようになっている。
【0020】
外筒14の外周には、筒状のシンブル17がスピンドル20の外端(アンビル11とは反対側端)に支軸32およびフランジ部37を介して結合されている。従って、シンブル17を回転させると、これと一体のスピンドル20も回転するので、スピンドル20は軸方向へかつアンビル11に対して進退される。
【0021】
シンブル17の外周からスピンドル20の外端にかけて、スピンドル20に対して回転可能な操作スリーブ18が設けられている。操作スリーブ18の外端とスピンドル20の外端との間には、スピンドル20に一定以上の負荷がかかったときに空転する定圧機構30が設けられている。
【0022】
定圧機構30は、一端がスピンドル20の外端に螺合されかつ他端がねじ31を介して操作スリーブ18を回転可能に支持した支軸32と、操作スリーブ18の内周に固定された第1ラチェット車33と、この第1ラチェット車33に噛合されるとともにキー34を介して支軸32に対して回転不能かつ軸方向へ変位可能に設けられた第2ラチェット車35と、この第2ラチェット車35を第1ラチェット車33へ向かって付勢する圧縮コイルばね36と、この圧縮コイルばね36の一端を支持し支軸32に固定されたフランジ部37とを備える。
【0023】
従って、操作スリーブ18を回転させると、第1ラチェット車33が一体的に回転される。第1ラチェット車33と第2ラチェット車35とが噛み合っているため、第2ラチェット車35も回転される。第2ラチェット車35が回転すると、キー34を介して支軸32が回転され、支軸32が螺合されたスピンドル20と、これと一体的に結合されたシンブル17も操作スリーブ18と一緒に回転される。
一方、スピンドル20に一定以上の負荷がかかっている状態では、操作スリーブ18を更に回転させて第1ラチェット車33を回転させると、第2ラチェット車35は回転しづらい状態にあるため、圧縮コイルばね36に抗してキー34に沿って圧縮コイルばね36側に逃げる。つまり、第1ラチェット車33の回転力が第2ラチェット車35に伝達されず、操作スリーブ18は空転し、定圧状態が維持される。
【0024】
エンコーダ40は、電磁誘導式エンコーダであって、スピンドル20の周方向に回転するロータ41と、このロータ41と所定間隔あけて対向し、フレーム10に固定されたステータ42とを有する。
ロータ41は、略ドーナツ形板状に形成され、そのステータ42側の表面に図示しないコイルの電極パターンを有する。ロータ41のステータ42と逆側の表面は、ロータ保持部材としてのロータブッシュ44に保持されている。ロータブッシュ44は、スピンドル20のキー溝23に係合可能な係合キー43を有する。ロータブッシュ44に対してステータ42と逆側の位置には、ロータブッシュ44がスピンドル20の軸方向に沿ってステータ42と反対方向へ移動するのを規制する位置調節ねじ51が設けられている。
【0025】
ステータ42は、スピンドル20の外周部に設けられ、ロータ41の電極パターンと電磁結合してロータ41の回転角を検出する送信コイルおよび受信コイルからなる電極パターンを有する略ドーナツ板形状のステータ環状部と、このステータ環状部の外周に設けられフレーム10の内部側へ伸びる板状のステータ長手部とを有している。
ステータ環状部のロータ41と逆側の面は、ステータ保持部材としてのステータブッシュ45に保持されている。ステータブッシュ45は、一端にステータ42を保持し、他端が内筒13の内端外周に嵌合されている。
ステータ長手部は、フレーム10の内部においてフレーム10に固定されている。
【0026】
図2は、本実施形態のデジタル式マイクロメータの制御ブロック図である。
エンコーダ40で検出された検出値eや歪みゲージ50で検出された変形量fが制御装置70に与えられている。制御装置70には、表示部60のほかに、記憶部71が接続されている。
記憶部71には、補正係数mが記憶されているとともに、ゼロセット指令時に歪みゲージ50で検出されるフレーム10の変形量、つまり、ゼロセット時変形量foが記憶されている。補正係数mは、歪みゲージ50で検出されるフレーム10の単位変形量当たりのエンコーダ40の検出値変化量である。
【0027】
制御装置70は、CPUなどを有し、エンコーダ40で検出される検出値eを処理して測定値として表示部60に表示させる機能のほかに、補正係数設定部70A、ゼロセット時変形量更新部70Bおよび補正部70Cを有する。
補正係数設定部70A、スピンドル20が異なる第1測定力および第2測定力でアンビル11または被測定物に当接した状態において、エンコーダ40で検出される第1検出値および第2検出値と歪みゲージ50で検出される第1変形量および第2変形量とを取り込み、第1測定値と第2測定値との差、および、第1変形量と第2変形量との差から補正係数mを算出して記憶部71に記憶させる。なお、詳細については後述する。
【0028】
ゼロセット時変形量更新部70Bは、ゼロセット指令が与えられ毎に、つまり、ゼロセットスイッチ62が押される毎に、表示部60の表示値を「000」にセットするとともに、歪みゲージ50で検出される変形量、つまり、ゼロセット時変形量foを記憶部71に更新記憶させる。
補正部70Cは、ゼロセット時変形量foと測定時に歪みゲージ50で検出されるフレーム10の変形量(測定時変形量fn)との差、および、記憶部71に記憶された補正係数mからエンコーダ40の検出値eを補正する。具体的には、補正後の検出値e’を、
e’=e−m(fn−fo)
から算出する。
【0029】
<工場出荷時での補正係数設定作業>
工場出荷時での補正係数設定作業では、測定者が次の作業を行う。
まず、補正係数設定スイッチ64を押して、補正係数設定モードに切り換える。
次に、シンブル17の回転操作によってスピンドル20をアンビル11に向かって進出させ、スピンドル20をアンビル11に対して比較的弱い測定力で当接させたのち、補正係数設定スイッチ64を押す。
次に、シンブル17を更に回転操作して、スピンドル20をアンビル11に比較的強い測定力で当接させたのち、補正係数設定スイッチ64を押す。
【0030】
すると、補正係数設定部70Aは、最初(1回目)に補正係数設定スイッチ64が押されたことを認識すると、補正係数設定モードに入り、図3に示すフローチャートの処理を実行する。
まず、ST1において、補正係数設定スイッチ64が押されたことを認識すると(2回目に補正係数設定スイッチ64が押されたことを認識すると)、ST2へ進み、スピンドル20がアンビル11に比較的弱い測定力で当接されたときの検出値e(1)と歪みゲージ50の値(フレーム10の変形量f(1))を取り込み、記憶部71に格納する(図4参照)。
次に、ST3において、補正係数設定スイッチ64が押されたことを認識すると(3回目に補正係数設定スイッチ64が押されたことを認識すると)、ST4へ進み、スピンドル20がアンビル11に比較的強い測定力で当接されたときの検出値e(2)と歪みゲージ50の値(フレーム10の変形量f(2))を取り込み、記憶部71に格納する(図4参照)。
【0031】
最後に、ST5において、記憶部71に格納された検出値e(1),e(2)および変形量f(1),f(2)から、検出値の変化量Δe、および、歪みゲージ50の変化量Δfを、
Δe=e(2)−e(1)
Δf=f(2)−f(1)
から求める。続いて、歪みゲージ50の単位変形量当たりの検出値変化量である補正係数mを
m=Δe/Δf
から求める。
そして、ST6において、求めた補正係数mを記憶部71に更新記憶させる。
【0032】
<測定作業>
測定にあたって、最初に、ゼロセット作業を行う。これには、操作スリーブ18またはシンブル17の回転操作によってスピンドル20をアンビル11に向かって進出させ、スピンドル20をアンビル11に当接させたのち、ゼロセットスイッチ62を押す。
すると、ゼロセット時変形量更新部70Bは、図5に示すフローチャートに従って、処理を行う。
まず、ST11において、表示部60の表示値を「000」にセットしたのち、ST12において、歪みゲージ50の値、つまり、ゼロセット時変形量foを取り込み、記憶部71に更新記憶させる。
こののち、測定作業を行う。
【0033】
測定作業においては、シンブル17の回転操作によってスピンドル20をアンビル11に対して進退させ、スピンドル20の端面とアンビル11とを被測定物の被測定部位間に当接させる。
このとき、補正部70Cは、図6に示すフローチャードに従って処理を行う。
ST21において、スピンドル20が一定間隔移動する毎に、エンコーダ40によって検出される検出値eと、歪みゲージ50の値、つまり、測定時変形量fnとを取り込む。
ST22において、補正後の検出値e’を次式から算出する。
e’=e−m(fn−fo)
ST23において、補正後の検出値e’を処理して測定値として表示部60に表示する。
【0034】
<実施形態の効果>
補正部70Cにおいて、フレーム10のゼロセット時変形量foと測定時変形量fnとの差(つまり、変化量Δf)、および、記憶部71に記憶された補正係数mから、エンコータ40の検出値eを補正するようにしたので、つまり、ゼロセット指令時のフレーム10の変形量と測定時のフレーム10の変形量との差に基づく検出値eの誤差が補正されるから、繰り返し性の向上が図れる。その結果、測定誤差を低減できる。
【0035】
また、補正係数設定モードにおいて、スピンドル20を、異なる第1測定力および第2測定力でアンビル11または被測定物に当接させると、補正係数設定部70Aは、スピンドル20が第1測定力で当接したときのエンコーダ40の第1検出値e(1)および歪みゲージ50の第1変形量f(1)を取り込む。また、スピンドル20が第2測定力で当接したときのエンコーダ40の第2検出値e(2)および歪みゲージ50の第2変形量f(2)を取り込む。そして、第1検出値e(1)と第2検出値e(2)との差、および、第1変形量f(1)と第2変形量f(2)との差から補正係数mを算出し、これを記憶部71に記憶させるようにしたので、補正係数を求めるための外部装置、例えば、専用のメンテナンス装置を用いなくても、補正係数を設定することができる。従って、安価にかつ誰でもが簡単に補正係数を設定することができる。
【0036】
また、測定開始時にゼロセット作業を行えば、その時点の環境条件において、歪みゲージ50で検出されるゼロセット時変形量foが記憶部71に更新記憶されるから、測定時との環境条件の差を少なくできる。そのため、例えば、温度の影響を考慮しなくてもよい利点がある。
【0037】
また、歪みゲージ50をフレーム10のアンビル支持部10Aと連結部10Cの結合部分、つまり、アンビル支持部10Aの根本部分に配置したので、比較的弱い測定力でのフレーム10の変形量を効果的に検出することができる。
【0038】
<変形例>
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は、本発明に含まれる。
前記実施形態では、歪みゲージ50を、フレーム10のアンビル支持部10Aと連結部10Cとの結合部分に配置したが、この場所に限られない。
例えば、図7に示すように、歪みゲージ50を内筒13内に配置してもよい。このようにすれば、歪みゲージ50の出力値とフレーム10の変形量とが線形に近い形になるメリットがある。
【0039】
また、前記実施形態では、補正係数設定作業において、最初に弱い測定力で測定したときのエンコーダ40の検出値e(1)と歪みゲージ50の変形量f(1)とを取り込み、次に、強い測定力で測定したときのエンコーダ40の検出値e(2)と歪みゲージ50の変形量f(2)とを取り込み、これらの値から補正係数mを求めるようにしたが、これとは逆でもよい。つまり、最初に、強い測定力で測定したときのエンコーダ40の検出値e(2)と歪みゲージ50の変形量f(2)とを取り込み、次に、弱い測定力で測定したときのエンコーダ40の検出値e(1)と歪みゲージ50の変形量f(1)とを取り込み、これらの値から補正係数mを求めるようにしてもよい。
また、補正係数設定作業を工場出荷時に行うようにしたが、測定現場において、測定開始前に行うようにしてもよい。
【0040】
また、前記実施形態では、測定開始時にゼロセット作業を行い、このときの歪みゲージ50の値、つまり、ゼロセット時変形量foを記憶部71に更新記憶させるようにしたが、必ずしも、測定開始の都度に行わなくてもよい。例えば、1ヶ月など定期的に行うようにしてもよく、あるいは、ゼロセット時変形量foを固定値として記憶部71に記憶させるようにしてもよい。
【0041】
また、エンコーダ40は、本実施形態で例示した電磁誘導式エンコーダに限定されない。エンコーダ40は、ステータ42とロータ41の相対的な回転量を検出するものであればよく、例えば、光学式や静電容量式等でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、スピンドルの軸方向の変位量から、被測定物の寸法等を測定するデジタル式変位測定器として利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1…デジタル式マイクロメータ、
10…フレーム、
10A…アンビル支持部、
10B…スピンドル支持部、
10C…連結部、
20…スピンドル、
40…エンコーダ、
50…歪みゲージ(変形量検出部)、
60…表示部、
70…制御装置、
70A…補正係数設定部、
70B…ゼロセット時変形量更新部、
70C…補正部、
71…記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7