【実施例1】
【0017】
図1は、実施例に係る電力系統安定化解析装置のブロック図である。また、
図2は、本実施例に係る電力系統安定化解析装置が解析の対象とする電力系統モデルの概念図である。
【0018】
図2に示すように、例えば、解析対象とする電力系統は、複数の発電機11〜13及び21〜23、負荷ノード41及び42、電圧制御装置51及び52を有する。発電機11〜13と発電機21〜23とは、複数の系統の送電線31及び32で結ばれている。また、負荷ノード41及び42、電圧制御装置51及び52と送電線31及び32とはノード34で結ばれている。送電線31及び32には、発電機11〜13及び21〜23で発電された電気が流れている。そして、発電機11〜13及び21〜23から出力された電力は、変電所において変圧などが行われ、負荷ノード41及び42に供給される。負荷ノード41及び42は、家庭や工場などの電力を使用する物の集合体である。以下では、負荷ノード41及び42などにおける電気の使用量を「負荷」と言う。電圧制御装置51及び52は、変電所などに配置される。
【0019】
また、
図3は、同期安定度及び電圧安定性による影響が発生する時間領域を表す図である。
図3の横軸は時間の経過を表している。
図3では、時点200で故障が発生した場合を表している。実際の電力系統において、時点200で故障が発生すると、その直後から同期安定度領域201で表される期間にかけて同期安定度に対する影響が生じる。ここで、同期安定度には、故障などの大じょう乱による電力動揺の安定度をあらわす過度安定度と、負荷ノードにおける負荷の変化などの微小じょう乱による電力動揺の安定度を表す定態安定度が含まれる。そして、同期安定度領域201の最後付近から電圧安定性領域202で表される期間にかけて電圧安定性に対する影響が生じる。さらに、電圧安定性に対する影響が生じている間の電圧制御装置動作領域203において、各負荷ノードの電圧の調整を行う電圧制御装置動作が動作する。このように、電力系統で故障が発生すると、同期安定度への影響が発生した後に、電圧安定性への影響が発生する。
【0020】
そこで、本実施例に係る電力系統安定化解析装置は、影響発生の順番にしたがって、同期安定度における過度安定度を維持するための検討を行い、その後、電圧安定性を維持するための検討を行う。さらに、本実施例に係る電力系統安定化解析装置は、電圧安定性の維持を確保した後の状態で、電圧制御装置が動作した場合の定態安定度を検討する。
【0021】
図1に示すように、本実施例に係る電力系統安定化解析装置は、入力部1、過度安定度解析部2、電圧安定性解析部3、電圧制御装置動作確認部4、定態安定度確認部5及び制御情報通知部6を有する。
【0022】
操作者は、入力部1を用いて、解析対象の電力系統において発生を想定する故障(以下では、「想定故障」という。)の条件の入力を行う。入力部1は、操作者により入力された想定故障の条件などを過度安定度解析部2へ送信する。ここでは、想定故障を、送電線32に落雷が発生し地絡や短絡などが起こったために事故箇所33に故障が発生したという故障とする。そして、操作者は、想定故障が発生したために事故箇所33を含む送電線32の両端の接続を開放し、送電線32に電気が流れなくなるようにした状態を想定故障の条件として入力する。
【0023】
過度安定度解析部2は、解析対象の電力系統における、発電機11〜13及び21〜23の通常時の電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態を予め記憶している。
【0024】
過度安定度解析部2は、想定故障の条件の入力を入力部1から受ける。そして、過度安定度解析部2は、想定故障が発生した場合の各発電機の内部相差角の経時変化を求める。例えば、
図2のような電力系統において、正常な状態であれば、発電機11〜13の回転数と発電機21〜23の回転数は一致している。これに対して、想定故障が発生し送電線32の両端の接続を開放した場合、発電機11〜13と発電機21〜23との回転数が異なっていく場合がある。過度安定度解析部2は、発電機11〜13と発電機21〜23との回転数のずれが大きくなり発散してしまう場合に、過度安定度が維持できなくなっていると判定する。ここでは、過度安定度が維持できなくなるような想定故障を想定しているので、過度安定度解析部2は、想定故障が発生した場合の各発電機の内部相差角が経時変化により発散することを確認する。
【0025】
次に、過度安定度解析部2は、発電機11〜13と発電機21〜23との回転数のずれを小さくすることで電力動揺を収束させるように、電力系統から切り離す発電機を発電機11〜13と発電機21〜23の中から選択する。以下では、電力系統から発電機を切り離すことを「電源制限」という。また、電力系統からどの程度の発電機を切り離したかを表す量を「電源制限量」という。
【0026】
過度安定度解析部2は、電源制限を行ったことで発電機の内部相差角が経時変化により収束し、電力系統における電力動揺が収束するか否かを判定する。過度安定度解析部2は、電力動揺が収束しない場合には電源制限量を増加させていく。このようにして、過度安定度解析部2は、電源制限量を徐々に増やしながら、電力動揺が収束する電源制限量を求める。これにより、過度安定度解析部2は、電力動揺を収束させるための電源制限の対象とする発電機を決定する。以下では、電力動揺を収束させ過度安定度を維持するための制御を「過度安定度維持制御」という。
【0027】
ここでは、過度安定度解析部2が電力系統から切り離す発電機として発電機11を選択した場合で説明する。過度安定度解析部2は、発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態を求める。この場合、発電機11は電力系統から切り離されているので、発電機11の電圧及び有効出力は0になり、その結果、電力系統の有効出力、無効出力は減少する。また、発電機12、13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧及び有効出力などは、発電機11が切り離されたことにより、上昇などの変化が起きる。
【0028】
過度安定度解析部2は、発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態の値を用いて、過度安定度維持のための制限を行った状態での発電機の内部相差角の経時変化を取得する。例えば、発電機11を電力系統から切り離すことで、発電機の内部相差角ずれが小さくなっていき、電力動揺は収束する。そこで、過度安定度解析部2は、想定故障に対して過度安定度を維持するための電源制限として、電力系統から発電機11を切り離すことを過度安定度維持制御として決定する。
【0029】
過度安定度解析部2は、過度安定度維持制御を行った場合の発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態の値を求める。そして、過度安定度解析部2は、求めた発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態を含む電圧解析データを生成する。そして、過度安定度解析部2は、電圧解析データを電圧安定性解析部3へ出力する。
【0030】
内部相差角が発散している場合、過度安定度解析部2は、過度安定度が維持可能となるまで、すなわち、各発電機11〜13及び21〜23の内部相差角が収束するまで電源制限量を増加させる。そして、過度安定度解析部2は、過度安定度が維持可能となった状態(電力動揺が収束した状態)の制御情報から電圧解析データを生成する。そして、過度安定度解析部2は、電圧解析データを電圧安定性解析部3へ出力する。
【0031】
また、過度安定度解析部2は、後述する電圧安定性解析部3による電圧安定性維持のための制御(以下では、「電圧安定性維持制御」という。)を加えた電圧安定性維持制御後の制御情報を電圧安定性解析部3から取得する。電圧安定性維持制御を加えた後の制御情報には、過度安定度解析部2が電圧安定性解析部3へ出力した制御情報に加えて、電圧安定性解析部3が追加した電源制限の情報などが含まれる。負荷制限とは、電力系統から負荷を切り離すことを示す。そして、過度安定度解析部2は、受信した電圧安定性維持制御後の制御情報にしたがい電源制限及び負荷制限などを行った状態での各発電機の内部相差角の経時変化を取得する。内部相差角が発散している場合、過度安定度解析部2は、電圧安定性維持制御の変更を電圧安定性解析部3に通知する。
【0032】
これに対して、内部相差角が収束する場合、過度安定度解析部2は、過度安定度維持可能の通知を電圧安定性解析部3へ出力する。
【0033】
電圧安定性解析部3は、電圧解析データの入力を過度安定度解析部2から受ける。そして、電圧安定性解析部3は、受信した電圧解析データを用いて、過度安定度解析部2によって決定された電源制限による制御が行われた場合に、各負荷ノードにおいて電圧安定性が維持できるか否かを判定する。この時、電圧安定性解析部3は、電圧制御装置が動作しないという条件を付加するため、電圧制御装置の動作をロックした上で各負荷ノードにおける電圧安定性の維持の判定を行う。
【0034】
電圧安定性解析部3は、全ての負荷ノードにおけるPVカーブの運転点が電圧高め解の領域にあり、且つPVカーブの安定限界の負荷と運転点における負荷との差が判定閾値以上となる場合に、電圧安定性の維持ができていると判定する。PVカーブとは、横軸である負荷ノードにおける負荷量を表し、縦軸でその負荷ノードにおける電圧を表したグラフである。また、PVカーブの運転点とは、負荷特性とPVカーブとの交点であり、電力系統における電圧及び負荷が平衡状態となっていることを表す点である。また、PVカーブの安定限界とは、PVカーブの頂点として表され、負荷ノードにおける負荷の上限を表している。ここで、判定閾値は、求められる安定性によって決められることが好ましい。判定閾値は、求められる安定性が低い場合には判定閾値は小さくなり、求められる安定性が高い場合には判定閾値は大きくなる。
【0035】
電圧安定性解析部3は、過度安定度解析部2によって決定された過度安定度維持制御が行われた状態で、電圧安定性が維持できていない負荷ノードが1つでもある場合、電圧安定性が維持できる状態となるように電源制限及び負荷制限を加える。そして、電圧安定性解析部3は、電圧安定性維持制御を行った場合の制御情報を過度安定度解析部2へ出力する。
【0036】
電圧安定性維持制御を行った場合の制御情報に対して、過度安定度解析部2から過度安定度維持可能の通知を受けた場合、電圧安定性解析部3は、電圧安定性維持制御を行った場合の発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態の値を求める。そして、電圧安定性解析部3は、求めた発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態を含む動作確認データを作成する。そして、電圧安定性解析部3は、作成した動作確認データを電圧制御装置動作確認部4へ出力する。
【0037】
これに対して、電圧安定性解析部3は、電圧安定性維持制御を行った場合の制御情報に対して、電圧安定性維持制御の変更通知を過度安定度解析部2から受けた場合、再度電圧安定性の検討を行う。
【0038】
電圧安定性解析部3は、過度安定度解析部2によって決定された過度安定度維持制御に電源制限や負荷制限を追加せずに全ての負荷ノードにおいて電圧安定性が維持できている場合、過度安定度解析部2から受信した電圧解析データから動作確認データを作成する。そして、電圧安定性解析部3は、作成した動作確認データを電圧制御装置動作確認部4へ出力する。この場合、動作確認データに含まれる発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態の値は電圧解析データのものと同じである。そこで、この場合は、電圧安定性解析部3は、電圧解析データを動作確認データとして使用しても良い。
【0039】
電圧制御装置動作確認部4は、動作確認データの入力を電圧安定性解析部3から受ける。そして、電圧制御装置動作確認部4は、動作データを用いて過度安定度及び電圧安定性の双方を維持した状態の電力系統における電圧変化を確認する。電圧制約違反ノードがあれば、電圧制御装置動作確認部4は、電力系統における電圧制御装置による制御を加え、電圧制約違反を解消する。ここで、電圧制約違反とは、ノードの電圧が、基準電圧から予め決められた閾値以上になっている場合を指す。例えば、
図2のノード34における基準電圧が50万Vであり、閾値が±5%の場合に、ノード34の電圧が50万V±5%の間に収まらなければ、電圧制御装置動作確認部4は、電圧制約違反ノードありと判定する。その場合、電圧制御装置動作確認部4は、電圧制約違反ノードであるノード34に対応する電圧制御装置を動作させ、その母線の電圧が50万V±5%の間に収まるように制御する。
【0040】
動作確認データを用いて確認した電圧変化において電圧制約違反ノードがなければ、電圧制御装置動作確認部4は、電圧制約違反ノードがない状態の発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態の値を求める。そして、電圧制御装置動作確認部4は、求めた発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態を含む定態安定度確認データを作成する。そして、電圧制御装置動作確認部4は、作成した定態安定度確認データを定態安定度確認部5へ出力する。また、電圧制御装置の動作がない場合は、定態安定度確認データに含まれる発電機11〜13及び21〜23、並びに、負荷ノード41及び42における電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態の値は動作確認データのものと同じである。そこで、この場合は、電圧制御装置動作確認部4は、動作確認データを定態安定度確認データとして使用しても良い。
【0041】
定態安定度確認部5は、定態安定度確認データの入力を電圧制御装置動作確認部4から受ける。そして、定態安定度確認部5は、受信した定態安定度確認データを用いて、過度安定度解析部2、電圧安定性解析部3及び電圧制御装置動作確認部4により加えられた制御が行われた場合に、各負荷ノードにおいて定態安定度が維持できるか否かを判定する。具体的には、定態安定度確認部5は、故障が発生し過度安定度及び電圧安定性の維持、並びに電圧制御装置による制御が行われてしばらく時間が経過した後の負荷の変化などの微小じょう乱による定態安定度の検討を行う。
【0042】
定態安定度確認部5は、定態安定度が維持できると判定すると、定態安定度が維持できると判定した状態での電源制限、負荷制限及び電圧制御装置の動作の情報を制御情報通知部6へ出力する。
【0043】
これに対し、定態安定度が維持できないと判定した場合、定態安定度確認部5は、電圧安定度制御の情報及び電圧安定性維持制御の情報に加え、電圧制御装置動作確認部4で動作した電圧制御装置のロック制御及び電圧制約違反ノードの発生情報を制御情報通知部6へ出力する。
【0044】
制御情報通知部6は、電源制限、負荷制限及び電圧制御装置の動作の情報の入力を定態安定度確認部5から受ける。そして、制御情報通知部6は、受信した電源制限、負荷制限及び電圧制御装置の動作の情報をモニタなどの出力装置に出力するなどして、操作者に安定化制御の情報を通知する。
【0045】
次に、
図4の電力系統モデルを例に、本実施例に係る電力系統安定化解析装置による安定化解析をさらに具体的に説明する。
図4は、実施例に係る電力系統安定化解析装置が解析の対象とする電力系統モデルの一例を表す図である。具体的には、
図4の電力系統モデルは、電気学会WEST30機系統モデルの昼間断面を一部修正したモデルである。
【0046】
図4において、Gに数字が付加された記号が割り当てられている対象が発電機を表している。また、
図4において、数字のみが割り当てられている対象が負荷及び送電線、変圧器を表している。
【0047】
過度安定度解析部2は、
図4の電力系統モデルを記憶している。そして、過度安定度解析部2は、入力された想定故障が
図4の電力系統モデルで発生した場合の各発電機の内部相差角の経時変化を求める。ここでは、想定故障として、ポイント100において落雷などによる短絡や地絡が発生した場合で説明する。
【0048】
過度安定度解析部2は、想定故障が発生した場合の各発電機の内部相差角の経時変化として、
図5のグラフ301を取得する。
図5は、過度安定度検討の発電機の内部相差角の経時変化を表す図である。
図5は、縦軸で内部相差角を表し、横軸で時間の経過を表している。グラフ301に示すように、過度安定度維持制御を行う前には、内部相差角が発散していることが分かる。すなわち、過度安定度解析部2は、想定故障が発生した場合、過度安定度が維持できなくなっていると判定する。そこで、過度安定度解析部2は、電源制限を加え過度安定度の維持を行う。例えば、過度安定度解析部2は、発電機101を電力系統から切り離す電源制限(以下では、発電機101の電源制限という。)を行う。
【0049】
さらに、過度安定度解析部2は、電源制限を行った場合の、電力系統モデルの発電機及び負荷ノードにおける電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態を求める。そして、過度安定度解析部2は、求めた他の発電機及び負荷ノードにおける電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態の値を用いて、過度安定度維持制御を行った後の発電機の内部相差角の経時変化を取得する。本実施例では、過度安定度解析部2は、発電機101を止めた後の発電機の内部相差角の経時変化として、
図5のグラフ302を取得する。グラフ302は、内部相差角が収束していっており、電力動揺が収束していき過度安定度が維持できることが分かる。すなわち、過度安定度解析部2は、発電機101を電力系統から切り離すことで、過度安定度の維持ができると判定する。
【0050】
過度安定度解析部2は、発電機101の電力系統からの切り離しという電源制限を行った場合の、各発電機及び負荷ノードの電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態の値を求め、それらを含む電圧解析データを作成する。
【0051】
図6は、過度安定度解析部2によって作成される電圧解析データの一例について説明する。
図6は、発電機101から出力される電圧及びその有効出力を表す図である。想定故障前は、発電機101からの電圧401は1.010(pu)であり、有効出力402は0.500(pu)であった。これに対して、過度安定度を維持するために、過度安定度解析部2は、発電機101を電力系統から切り離す。そして、過度安定度解析部2は、過度安定度維持制御後の発電機101からの電圧411を0.000(pu)と求め、有効出力412を0.000(pu)と求める。さらに、過度安定度解析部2は、発電機101の切り離しにより変化する発電機101以外の発電機及び負荷ノードにおける電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態も求める。過度安定度解析部2は、このように求めた情報から電圧解析データを作成する。
【0052】
電圧安定性解析部3は、発電機101の電力系統からの切り離しが行われた場合の電圧解析データの入力を過度安定度解析部2から受ける。そして、電圧安定性解析部3は、受信した電圧解析データから発電機101が電力系統から切り離された場合における各負荷ノードでのPVカーブを求める。この場合、電圧安定性解析部3は、電圧制御装置をロックし電圧制御装置が動作しない条件でPVカーブを求める。
【0053】
図7は、PVカーブの遷移を表す図である。
図7の縦軸は、負荷ノード103における電圧を表している。また、
図7の横軸は、負荷ノード103における負荷を表している。負荷特性500は、PVカーブを求めた負荷ノードにおける負荷特性(定電流特性)を表している。
【0054】
負荷ノード103において、想定故障の発生前は、PVカーブ501で示されるPVカーブであった。これに対して、電圧安定性解析部3は、故障が発生し発電機101が電力系統から切り離された場合のPVカーブとしてPVカーブ502を取得する。負荷特性500とPVカーブ502との交点である運転点509は、PVカーブの頂点である安定限界より下側に位置している。このようにして、電圧安定性解析部3は、例えば負荷ノード103において電圧低め解の発生を確認する。同様にして、本実施例では、電圧安定性解析部3は、例えば負荷ノード104においても電圧低め解の発生を確認する。
【0055】
さらに、電圧安定性解析部3は、各負荷ノードにおける運転点と安定限界との差を求め、求めた差が閾値以下の負荷ノードを求める。例えば、電圧安定性解析部3は、0.0005(pu)を閾値として使用する。運転点と安定限界との差は広いほど電圧安定性は増加する。ただし、あまり閾値を広くすると、電力系統における全ての負荷ノードで閾値を満たすことが難しくなってしまう。そこで、閾値は、電圧安定性の許容範囲などの電力系統の運用状態によって設定することが好ましい。
【0056】
電圧低め解を有する負荷ノードや運転点と安定限界との差が閾値以下の負荷ノードがある場合、電圧安定性解析部3は、電源制限及び負荷制限を追加して、各負荷ノードが電圧高め解を有し、且つ運転点と安定限界との差が閾値以上となるようにする。ここでは、電圧安定性解析部3は、電圧安定性維持のため、
図4に示す発電機102の電源制限及び負荷ノード105の負荷制限を行う。
【0057】
電圧安定性維持制御により、負荷ノード103におけるPVカーブは、
図7に示すPVカーブ503となる。PVカーブ503は、負荷特性500と安定限界505より上側の点である運転点504で交わっており、負荷ノード103では電圧高め解となっている。さらに、運転点504と安定限界505との差Pは閾値である0.0005(pu)以上となっている。同様にして、電圧安定性解析部3は、負荷ノード104及びその他の負荷ノードにおいて、電圧高め解になっており、且つ運転点と安定限界との差が閾値以上となっていることを確認する。
【0058】
このようにして、電圧安定性解析部3は、過度安定度維持制御で加えられた発電機101の電源制限に電圧安定性維持制御として発電機102の電源制限及び負荷ノード105の負荷制限を加えることを決定する。
【0059】
過渡安定度解析部2は、電圧安定性解析部3による電源制限、負荷制限が追加された状態で各発電機の内部相差角の経時変化を求める。例えば、発電機101、102の電源制限及び負荷ノード105の負荷制限を実施した状態での各発電機の内部相差角の経時変化は
図10のグラフ303のようになる。
図10は、電圧安定性維持制御後の発電機の内部相差角の経時変化を表す図である。グラフ303は、時間が経過するにしたがい、発電機の内部相差角は収束している。そこで、過渡安定度解析部2は、電圧安定性維持制御後でも過渡安定度が維持されていることを確認する。そして、過渡安定度解析部2は、電圧安定性維持制御後でも過渡安定度が維持されていることを電圧安定度解析部3へ通知する。
【0060】
そして、過渡安定度解析部2より電圧安定性維持制御後も過渡安定度が維持される情報を受けた電圧安定性解析部3は、電圧安定性維持制御後の発電機及び負荷ノードの電圧、有効出力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の動作状態を求め、それらを含む動作確認データを作成する。
【0061】
図8Aは、発電機102から出力される電圧及びその有効出力を表す図である。過度安定度制御後は、発電機102から出力される電圧413は0.982(pu)であり、有効出力414は0.501(pu)であった。これに対して、電圧安定性を維持するために、電圧安定性解析部3は、発電機102を電力系統から切り離す。そこで、電圧安定性維持制御を行った後は、
図8Aに示すように発電機102からの電圧421は0.000(pu)となり、有効出力422は0.000(pu)となる。また、
図8Bは、負荷ノード105における有効負荷及びその無効負荷を表す図である。過度安定度維持制御後は、負荷ノード105における有効負荷415は6.549(pu)であり、無効負荷416は1.308(pu)であった。これに対して、電圧安定性を維持するために、電圧安定性解析部3は、負荷ノード105の負荷制限を行う。そこで、電圧安定性維持制御を行った後は、
図8Bに示すように負荷ノード105における有効負荷423は6.091(pu)となり、無効負荷424は1.223(pu)となる。
【0062】
電圧制御装置動作確認部4は、発電機101及び発電機102の電源制限、並びに、負荷ノード105の負荷制限をした場合の動作確認データの入力を電圧安定性解析部3から受ける。そして、電圧制御装置動作確認部4は、電圧制御装置のロックを解除し、発電機101及び発電機102の電源制限、並びに、負荷ノード105の負荷制限をした場合の電圧制御装置の動作を求める。ここでは、電圧制御装置動作確認部4は、負荷ノード103に繋がるノード、負荷ノード106に繋がるノード及び発電機101、102及び107に繋がるノードが電圧制約違反ノードとなっていることを確認する。そこで、電圧制御装置動作確認部4は、負荷ノード103に繋がる電圧制御装置、負荷ノード106に繋がる電圧制御装置及び発電機101、102及び107に繋がる電圧制御装置が動作することを確認する。この場合、各電圧制御装置は、電圧を上昇させる制御を行う。
【0063】
図9は、電圧制御装置の運転状態及び電圧の変化を表す図である。
図9では、電圧制御装置が繋がるノードの
図4に示す番号(1050、1170、2040)で各電圧制御装置を表している。具体的には、番号1050で表される電圧制御装置は、負荷ノード106に繋がっている。また、番号1170で表される電圧制御装置は、負荷ノード103に繋がっている。また、番号2040で表される電圧制御装置は、発電機101、102及び107に繋がっている。ここでは、分かり易いように各電圧制御装置の後の括弧の中にその電圧制御装置を表す
図9の番号を記載する。
【0064】
電圧安定性維持制御後は、負荷ノード106に繋がる電圧制御装置(1050)、負荷ノード103に繋がる電圧制御装置(1170)及び発電機101、102及び107に繋がる電圧制御装置(2040)はロックされており動作していない。そこで、それぞれの運転状態601、602及び603は0.000(pu)である。また、負荷ノード106に繋がる電圧制御装置(1050)における電圧701は0.994(pu)である。また、負荷ノード103に繋がる電圧制御装置(1170)における電圧702は0.994(pu)である。さらに、発電機101、102及び107に繋がる電圧制御装置(2040)における電圧703は0.993(pu)である。これに対して、電圧制御装置動作後は、負荷ノード106に繋がる電圧制御装置(1050)及び負荷ノード103に繋がる電圧制御装置(1170)のぞれぞれの運転状態604及び605は0.100(pu)となる。また、発電機101、102及び107に繋がる電圧制御装置(2040)の運転状態606は0.300となる。また、負荷ノード106に繋がる電圧制御装置(1050)における電圧704は1.001(pu)となり、負荷ノード103に繋がる電圧制御装置(1170)における電圧705は1.003(pu)となり、発電機101、102及び107に繋がる電圧制御装置(2040)における電圧706は1.002(pu)となる。これらの変化に応じて、電力系統における他の発電機及び負荷ノードの電圧、有効電力、有効負荷及び無効負荷も変化する。
【0065】
また、電圧安定性解析部3は、電圧制御装置動作確認部4による電圧制御装置の制御が追加された状態で各負荷ノードにおけるPVカーブを求め、各負荷ノードが電圧高め解を有し、運転点と安定限界との差が閾値以上となっているかを判定する。例えば、負荷ノード103及び106に繋がる電圧制御装置、並びに、発電機101、102及び107に繋がる電圧制御装置が動作した状態での負荷ノード103のPVカーブは、
図11のPVカーブ506のようになる。
図11は、電圧制御装置動作後の負荷ノード103におけるPVカーブを表す図である。
図11に示すように、PVカーブ506における運転点507は、電圧高め解となっている。また、PVカーブ506における運転点507と安定限界508との差は閾値以上となっている。ここでは、電力系統における全ての負荷ノードが電圧高め解を有し、且つ運転点と安定限界との差が閾値以上であるので、電圧安定性解析部3は、電圧制御装置動作後でも電圧安定性が維持されていることを確認する。
【0066】
そして、過度安定度及び電圧安定性の維持が確認されると、電圧制御装置動作確認部4は、電圧装置動作制御後の制御情報から各発電機及び負荷ノードの電圧、有効電力、無効出力、有効負荷、無効負荷及び電圧制御装置の運転状態を求め、定態安定度確認データを作成する。
【0067】
定態安定度確認部5は、発電機101及び102の電源制限や負荷ノード105の負荷制限を行い、負荷ノード103に繋がる電圧制御装置、負荷ノード106に繋がる電圧制御装置及び発電機101、102及び107に繋がる電圧制御装置を動作させた状態で負荷が変化しても電力系統が安定していることを確認する。
【0068】
そして、制御情報通知部6は、想定故障が発生した場合の安定化制御として、発電機101及び102の電源制限、負荷ノード105の負荷制限、負荷ノード103に繋がる電圧制御装置、負荷ノード106に繋がる電圧制御装置及び発電機101、102及び107に繋がる電圧制御装置の動作を操作者に通知する。
【0069】
次に、
図12を参照して、本実施例に係る電力系統安定化解析装置による解析処理の流れについて説明する。
図12は、実施例に係る電力系統安定化解析装置による解析処理のフローチャートである。
【0070】
操作者は、入力部1を用いて想定故障の条件を入力する(ステップS101)。
【0071】
過度安定度解析部2は、想定故障が発生した場合の過度安定度を検討し、過度安定度が維持できるように電源制限を加える過度安定度維持制御を決定する(ステップS102)。
【0072】
過度安定度解析部2は、過度安定度維持制御を行った場合の電圧解析データを作成する(ステップS103)。過度安定度解析部2は、電圧解析データを電圧安定性解析部3へ出力する。
【0073】
電圧安定性解析部3は、電圧解析データの入力を過度安定度解析部2から受ける。そして、電圧安定性解析部3は、電圧安定性の検討を行う(ステップS104)。そして、電圧安定性解析部3は、電圧安定性が維持できるように電源制限及び負荷制限を加える電圧安定性維持制御を決定する。
【0074】
過度安定度解析部2は、電圧安定性維持制御後の制御情報を受信する。そして、過度安定度解析部2は、電圧安定性維持制御を行った場合に過度安定度が維持可能か否かを判定する(ステップS105)。
【0075】
過度安定度が維持できない場合(ステップS105:否定)、過度安定度解析部2は、過度安定度が維持できていないことを電圧安定性解析部3へ通知する。過度安定度が維持できていないことを受信した電圧安定性解析部3は、電圧安定性維持制御を変更し、ステップS104に戻る。
【0076】
過度安定度が維持可能な場合(ステップS105:肯定)、過度安定度解析部2は、過度安定度維持可能であることを電圧安定性解析部3へ通知する。電圧安定性解析部3は、電圧安定性維持制御後の制御情報から動作確認データを作成する(ステップS106)。電圧安定性解析部3は、作成した動作確認データを電圧制御装置動作確認部4へ出力する。
【0077】
電圧制御装置動作確認部4は、動作確認データの入力を電圧安定性解析部3から受ける。そして、電圧制御装置動作確認部4は、電圧安定性維持制御を行った状態での電圧制御装置の動作を確認し、電圧制約違反を解消するように電圧制御装置の動作を追加する(ステップS107)。
【0078】
電圧安定性解析部3は、電圧安定装置動作後に電圧安定性が維持可能か否かを判定する(ステップS108)。
【0079】
電圧安定性が維持できない場合(ステップS108:否定)、電圧制御装置動作確認部4は、電圧安定性制御で加えられた電源制限及び負荷制限を変更し、ステップS104に戻る。
【0080】
これに対して、電圧安定性が維持可能な場合(ステップS108:肯定)、電圧制御装置動作確認部4は、電圧制御装置動作後の制御情報から定態安定度確認データを作成する(ステップS109)。電圧制御装置動作確認部4は、作成した動作確認データを定態安定度確認部5へ出力する。
【0081】
定態安定度確認部5は、定態安定度確認データの入力を電圧制御装置動作確認部4から受ける。そして、定態安定度確認部5は、電圧制御装置動作後の状態で負荷の変化などの微小じょう乱があった場合の定態安定度の検討を行う(ステップS110)。そして、定態安定度確認部5は、定態安定度の維持が可能か否かを判定する(ステップS111)。定態安定度が維持できない場合(ステップS111:否定)、定態安定度確認部5は、過渡安定度維持制御の情報及び電圧安定性維持制御の情報に電圧制御装置のロック制御及び電圧制約違反ノード発生情報を加え(ステップS112)、制御情報通知部6へ送信する。制御情報通信部6は、定態安定度確認部5から受けた制御情報などをモニタなどに出力して、想定故障が発生した場合の安定化制御を操作者に通知する(ステップS113)。
【0082】
これに対して、定態安定度が維持可能な場合(ステップS111:肯定)、定態安定度確認部5は、定態安定度の維持が可能と判定した状態の制御情報を制御情報通知部6へ送信する。制御情報通知部6は、定態安定度確認部5から受けた制御情報をモニタなどに出力して、想定故障が発生した場合の安定化制御を操作者に通知する(ステップS113)。
【0083】
以上に説明したように、本実施例に係る電力系統安定化解析装置は、過度安定度の検討を行い過度安定度を維持する制御を決定し、その後、過度安定度を維持する制御を行った状態での電圧安定性を検討し、電圧安定性を維持する制御を決定する。これにより、本実施例に係る電力系統安定化解析装置は、過度安定度及び電圧安定性の双方を維持する制御を提示することができるという効果を奏する。また、本実施例に係る電力系統安定化解析装置は、過度安定度及び電圧安定性に対する影響発生の時系列に沿ってそれぞれの検討を行うので、実際の故障発生時の状況に応じた安定化制御を求めることができる。
【0084】
また、以上の説明では、より正確な安定化制御を求めるため、電圧制御装置の動作や電圧制御装置動作後の定態安定度の確認を行ったが、安定化制御として求められるレベルがそれほど高くなければ、これらを行わなくてもよい。その場合、電圧制御装置動作確認部4及び定態安定度確認部5を除いても良い。また、電圧制御装置の動作の確認は行うが、電圧制御装置動作後の定態安定度の確認は行わないとすることも可能である。これらの場合でも、過度安定度及び電圧安定性の双方を維持する制御を提示することができるという効果を奏する。